スパイダーマン Stay Night   作:紅乃 晴@小説アカ

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第10話 友と盟友と襲撃と

 

 

「はぁ!?じゃあ何!?あのあとヴィランズの相手をして、バーサーカーに遭遇した上にヴェノムと戦ったっていうの!?」

 

「声が大きいぞ、慎二…。まぁたしかにその通りなんだけどさ」

 

私立穂群原学園の屋上。今日の授業を終えた士郎の話を聞いた慎二は、昨夜ふて寝した後に起こった出来事を聞いて驚愕していた。遠坂と遭遇して無事では済むまいとは思ってはいたが、まさか教会に案内された上に、冬木のヴィラン達と遭遇。挙げ句の果てにアインツベルンという魔術師関連ではド級の名を持つ名家と、それが召喚したバーサーカーとの戦い。

 

朝から体が痛そうな様子ではあったが、そんな死線を掻い潜っても普段通りに学校に来れるあたり、やはり士郎の身体や精神力は尋常ではないのだろう。そう考えたが、「まぁ衛宮だしな」と慎二は考えを開き直して解決した。

 

「衛宮…よく生きてたよな。まぁ死なないだろうけどさ」

 

「親愛なる隣人は何があっても立ち上がる。だからスパイダーマンなのさ」

 

「そのうち魂だけ抜け出してでも立ち上がることになるぞ。なぁ衛宮…やっぱり聖杯戦争は辞退しろ。魔術師同士の潰し合いなんてやらせておけばいいじゃないか。お前はもう…」

 

スパイダーマンとして活躍してる以上、それ以上の負担を背負う士郎を慎二は見ていられなかった。魔術師としての素養がない自分。スパイダーマンの能力に加えて、マスターという称号すら持つ士郎に羨ましいという気持ちがないかと言われたら嘘になる。だが、それ以前に慎二は知っているのだ。士郎が背負う過酷な運命の一端を。

 

「慎二、ダメだ。たとえ魔術師同士の戦いだと言っても冬木の人々に被害が出る以上、俺が止めるしかない。グリーンゴブリンを止めた時と同じように」

 

「衛宮…」

 

慎二が士郎の手伝いをするきっかけになった「グリーンゴブリン事件」。慎二にとって忘れ難い出来事であり、魔術師を妬み、妹すら苛立ちの捌け口にしようとしていた自分と決別したきっかけをくれた事件だ。同時に、慎二が今まで目を背けていた〝現実〟を痛いほど思い知らされた出来事でもある。

 

あんな悲劇をもう繰り返させはしない。士郎の目にはそんな決意があった。あの時に改めて認識したのだ。士郎が授かった力をどう使うべきか。

 

「悪いな、慎二。心配してくれて。けどこれは俺の使命なんだ。大いなる力には———」

 

「大いなる責任が伴う、だろ?」

 

士郎が言い終わる前に、慎二が手摺りから外の景色を眺めたまま言葉を繋げる。小さくお互いに笑うと、拳を突き合わせた。

 

「じゃあ僕は弓道部に顔出してくるから、お前はとっとと帰って休めよ」

 

そう言い残して慎二は部長会議に出席するというサボりを行いに向かった。会議に少し顔を出しては副部長の美綴に仕事を押し付けてさっさと帰宅するだろう。士郎も帰路に着こうと屋上の出口へと振り返る。

 

「仲が良いのね、衛宮君」

 

そこには独特なツインテールの髪をした遠坂が立っていた。

 

「遠坂…!?盗み見なんて趣味が悪いぞ」

 

「盗み見なんてしてないわ。たまたま屋上に用があって、たまたま二人の話が聞こえただけ」

 

「慎二は関係ない。俺の〝活動〟に手を貸してくれてるだけだ」

 

わかってるわよ、と遠坂は言う。そのまま士郎の隣へと歩み寄って彼女もまた屋上から冬木の街並みを眺めた。

 

「貴方、あんな怪物たちと何年も戦ってきたのでしょう?当主である遠坂家にも話がこないのだもの。昨日なんて驚いちゃったわ」

 

オクトパスにエレクトロ。ヴァルチャーにクレイヴン、そしてグライダーに乗ったボブゴブリンにゴールデンストライカー。

 

自分の知らないうちに冬木の街も無茶苦茶になったものだと思う。そして、そんな無茶苦茶な相手を誰にも気づかせずに人目につかない場所で戦っていたのは隣にいる士郎自身だと改めて痛感させられた。

 

そして疑問も残る。彼女は、それを聞かずに我慢できるほど我慢強い性格ではなかった。

 

「ねぇ、なんで衛宮君は戦ってるの?」

 

直球で聞いた質問に、士郎は少しだけ息を飲む。冷たい冬木の風が屋上に吹いて、風が止むと士郎は口を開いた。

 

「俺を助けてくれた爺さん…養父との約束なんだ」

 

10年前の冬木の厄災。大規模な火災で大勢の人が命を落とした。その中、たった一人の生存者だったのが自分だ。養父、衛宮切嗣は天涯孤独となった士郎を引き取り育ててくれた人物だった。

 

「あの蜘蛛をたまたま持ち帰ってきたのは爺さんだったんだ。たまに海外に行っては帰ってくる仕事をしてたんだけど、他は何も知らなくて」

 

そして、あの蜘蛛を取り戻しにきた敵に撃たれて死んだ。士郎の目の前で。凶弾に倒れた養父を前に、スパイダーマンの力を持っていても、士郎は何もできなかったのだ。

 

「そうだったの…」

 

「その時、爺さんに言われたんだ。大いなる力には大いなる責任が伴うって。蜘蛛に噛まれてから俺はその言葉の、本当の意味を理解してなかったと思う。けど、今なら少しはわかった気がするんだ。大いなる責任ってやつを」

 

それは士郎にとって〝呪い〟ではなかった。

 

単純な言葉であり、ありきたりな言葉。士郎が手にしたのは計り知れない大いなる力だ。そして、その力は使い方によっては危険を伴う。故に養父はその力の使い方をしっかりと考え、力あるが故の責任を果たせと伝えてくれたのだと思う。

 

それに、この仕事を続けていると分かることがあった。それは〝全員を助けることはできない〟という事実。

 

誰かを助けると言うことは、誰かを助けないと言うこと。その矛盾を抱え続けると言うことを。

 

それでも士郎は戦うことを選んだ。助けられる誰かを助けるために。大いなる責任を果たすために。

 

「うん。やっぱり思った通りだったわ。衛宮君、私と組まない?」

 

唐突に、遠坂は士郎に提案した。豆鉄砲を喰らったように驚く士郎に、遠坂は返事を待たずに言葉を繋げた。

 

「私は遠坂家の誇りと名誉のため。貴方は聖杯戦争で無用な被害を出さずに止めるため。利害関係の一致…とは言わないけど、合理的ではあるでしょう?」

 

「その…誘ってくれて嬉しいけど、遠坂はいいのか?」

 

「あんな敵を昨晩見せられたのだから。アーチャーとも相談して決めたことよ」

 

士郎を目にしてから怪訝な顔をしていたアーチャーだが、サーヴァントにも匹敵しうるヴィランたちを目にし、さらに士郎の戦い振りを見て遠坂の提案に賛成したらしい。スパイディ軽口にも劣らない皮肉口調ではあるが、認めてくれたと言うなら是非もなかった。

 

「そうか…。なら、交渉成立というやつだな」

 

「これからはパートナーとして、よろしくね。スパイダーマン」

 

差し出された手を握ってお互いに握手をする。その時、士郎の全身が鳥肌が立ったかのような反応を示した。スパイダーセンスが反応している?危険?

 

その瞬間、士郎は遠坂に抱きつくように飛び出した。

 

「なに!?なんなの!?」

 

唖然とする彼女を置いて、士郎はすぐさま臨戦態勢に入る。威嚇するクモのように身構える士郎は、手すりを掠めた何かを感じ取っていた。

 

「敵だ!遠坂!見えないけど、どこかに敵がいる!!」

 

言葉を終える前に再び感覚が呼びかける。

 

「下がって!」

 

「衛宮君!?」

 

声をかけた瞬間、後ろに数歩下がった遠坂の足元が爆ぜた。

明らかに何かが投擲されている。目には見えないが、かなり鋭利なものであると同時に、速度と重量も相当なものだ。

 

「遠坂は校舎の中に!あの敵は俺が追いかける!」

 

危機感覚が遠ざかったと同時に、士郎は屋上を駆け出してそのまま飛び降りた。制服を脱ぎ去り、シャツのボタンを引きちぎるように開くと、服の下にはスパイダーマンスーツがあった。

 

セイバーを家に留守番させると引き換えに、スパイダーマンスーツを常着しておくことを条件に出したのだ。昨夜の戦いで士郎の戦闘力とタフネスさを見ているセイバーは、窮地に立ったら令呪で呼び出すことを条件に、不服であるが引き下がったのだ。

 

手首に備わるウェブシューターで学校近くの雑木林の中を飛び回る。危機感覚に従って飛来する投擲物を躱すが、相変わらずその姿は見えない。だが、確実に発生源には近づきつつあった。

 

発生源めがけて、ウェブの張力で木々の隙間を掻い潜って大きな幹に着地する。

 

「よく避けましたね。それに私の居場所も」

 

士郎の視線の先には、鮮やかな薄紫色の髪を揺らしながら木の枝に腰を下ろす女性が居た。

 

「ああ、よく似た服を着てるからかな?そっちの服が楽そうで良いや。俺の服はピチピチでちょっとチクチクする。股にも食い込むからね」

 

「貴方を見ていましたが、やはりどこか特殊な存在のようです。ここで貴方の力を試させてもらいます」

 

「テストってことかな?実技試験?筆記試験もあるの?じゃあメモとペン貸してくれる?」

 

ジャラリ、と彼女が手をゆする。

 

すると軽口を叩いていた士郎の体は真横へと吹き飛ばされた。自分の立っていた場所に仕込んでいたのか、木に叩きつけられながらもウェブで体勢を整えた士郎は、そこでようやく投擲されていた武器を目にした。

 

「かっこいい鎖だね!先端の刃物がなければお洒落なシルバーになるのに!!」

 

「今のを避けますか…」

 

さっきの攻撃。身を捻るように避けなければ鎖の先端に付いている尖鋭な刃に身を貫かれていた。鎖にぶつかって吹き飛ばされたが、威力としては昨夜のバーサーカーよりは全然マシだ。

 

「ねぇ、ロン毛のお姉さんもかなり鎖使い上手いけどウェブ使いなら俺の方が上みたいだからさ。ちょっと落ち着いて話し合わない?」

 

何度か繰り返される鎖と刃物の波状攻撃を身を翻して避ける士郎を眺めてから、長髪で眼帯をした女性は振るっていた鎖を下ろした。

 

「正直にいうと、私は貴方を危険視しています。ですが、私のマスターは貴方との戦いを望んでいません」

 

「君も、聖杯戦争のサーヴァントなのか?」

 

その言葉に頷く彼女。クラスはわからないが、その戦う姿は冬木のヴィランたちをも凌ぐ鮮やかさがあった。警戒心を解かないまま着地する士郎を眺めて、彼女は言葉を放った。

 

「速やかに聖杯戦争から離脱することをお勧めします。貴方は魔術師でもない、超人的な力をもった人です。単に冬木の街を守っている守護者だというのに、なぜ魔術師同士の戦いに手を出すのですか?」

 

「それが正しい行いだからだ」

 

簡潔に、士郎は断言する。

 

「たしかに君たちの戦いは君たち個人の戦いだ。けどな、君たちが如何に魔術師であろうとも、戦いの場に何の関係もない人々が住んでいるというなら俺はその争いを止める。人々に危害を加えるというなら容赦はしない。必ず止める!それが正しい行いだと思えるからだ」

 

それこそが士郎の果たすべき使命だと思えるから。なんの罪もない人々を理不尽な出来事や事件、暴力、または災厄から守る。守れる手は限られていて、助けられない命もあるだろう。それでも、守ると誓った。

 

なぜなら、自分はスパイダーマンだから。

 

「やはり、貴方は優しすぎる…」

 

彼女の言葉は、放たれたガンドの嵐によってかき消された。

 

「スパイダーマン!!」

 

校舎から追ってきた遠坂が合流する。人差し指を銃を構えるように出して、指先から高密度の魔力を込めたルーン魔術の一種であるガンドは、長髪の女性が乗る木々を容易く打ち抜くが、肝心の相手を捉えることはできなかった。

 

長い髪を靡かせて飛び上がった女性はすぐに霊体化し、その場から気配を消した。

 

「今の相手は…」

 

「サーヴァントだ。クラスはわからなかったけど」

 

「そう…」

 

脱ぎ捨てた制服をまとめたウェブを取り寄せて、士郎はマスク越しに遠坂を見つめる。

 

「遠坂、俺は聖杯戦争を止める。冬木の人々を守るために」

 

新たな決意を固める士郎。その二人を、校舎の屋上から霊体化したアーチャーが見つめていた。マスターに危害が及ぶようなら出るつもりであったが、スパイダーマンこと士郎の活躍により徒労に終わった。

 

しばらく二人の様子を眺めながら、〝理想に殉死〟した弓兵は過去の自分とは異なる道を歩む〝自分自身〟を睨みつける。

 

「正義のヒーロー、か」

 

その小さな言葉は誰にも聞かれることなく、冬木の冬の空へと消えてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

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