スパイダーマン Stay Night   作:紅乃 晴@小説アカ

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第12話 同盟議題

 

 

 

「ただいま、セイバー」

 

冬になると日が暮れるのも早いもので。

 

商店街で買い込んできた食材を両手にぶら下げた士郎は、玄関を抜けてリビングへと直行。カウンターテーブルに食材の入った袋を置き、一息ついてから振り返って正座で固まっているセイバーを見た。

 

明らかに怒っている様子だ。セイバーは不満そうな目をして、手を洗ってからエプロンを装着する士郎を睨みつけている。

 

「マスター、貴方は危機感というものがまるで足りていない」

 

「なんだよ、いきなりむすっとした顔で」

 

「いい加減にしていただきたい!今は聖杯戦争の最中なのですよ!?護衛であり、マスターの剣でもあるサーヴァントを置いて悠長に学校など!!」

 

だって必要ないからな、なんて声に出したらなんて言われるか。士郎はぐっと口をつぐむ。スパイダーマンである士郎にとってトラブルなど日常茶判事だ。昨夜あった筋肉モリモリのバーサーカーと遭遇したら危険であるが、魔術師としての秘匿を厳守する聖杯戦争参加者たちが、そんな愚行を起こすこともあるまい。

 

「学生の本分は勉学だよ、セイバーちゃん」

 

「ちゃん付けはやめてください!?」

 

そう抗議するセイバーの傍から、コートを脱いで袖をまくった遠坂が顔を出した。

 

「衛宮君、お手洗いはどこかしら?」

 

突然のことに停止したセイバーだが、すぐに再起動して遠坂から距離を空ける。ということは霊体化したアーチャーもすぐ近くにいるということだ。〝霊体化できない〟セイバーにとっては不利な状況。しかし叫ばずにはいられなかった。

 

「な、なぜアーチャーのマスターが!?」

 

「私と衛宮君は同盟を結んだのよ。アーチャーも納得済みよ?」

 

「マスター!!」

 

獅子の如く警戒色を示すセイバーに、士郎は立派な大根をエコバックから取り出しながらため息をついた。

 

「あーもう、話はあとでしてやるから飯の用意をだな…」

 

と、セイバーを宥めようとしたところで衛宮家の呼び鈴が鳴り響いた。

 

「桜か?」

 

ダイニングに警戒するセイバーと、どこ吹く風で出されたお茶を飲みながらくつろぐ遠坂を置いて士郎は玄関先へと向かう。横開きでガラス張りの扉には女性を思わせるシルエットが浮かび上がっていた。

 

何も考えずに扉を開けると、そこには見知った淡い青色の髪をした女性がにっこりと士郎に微笑む。

 

「ごきげんよう、坊や」

 

エルフ種を思わせるような特徴的な耳、認識阻害をされているから一般人は違和感を覚えないだろうが、その事実を〝知っている〟士郎にとっては関係がないものだ。ジンズ生地のジャケットの上に暖かそうなダウンを羽織る夫人の笑みに、士郎は少し眉間を揉んだ。

 

「げ、葛木さん…」

 

その瞬間、ダイニングから凄まじい足音と共にセイバーがやってきた。釣られるように遠坂もやってくる。

 

「マスター!何者ですか!?こちらにサーヴァントの気配が!!」

 

士郎の前に躍り出たセイバー。その後ろで不思議そうにやりとりを見ている遠坂の御令嬢。そんな二人と士郎を見比べながら、聖杯戦争の当事者であり、ある意味すでに夢を叶えている〝魔女〟はいたずらっぽく士郎へ微笑む。

 

「あら、やっぱり坊やも聖杯戦争に?」

 

「は?」

 

彼女が魔術関係の人間だとは知っていたが、まさか〝サーヴァント〟だったとは、士郎が知る由もなかった。

 

 

////

 

 

「紹介するよ、この人は葛木メディアさん。俺が…まあスパイダーマン活動をしているときに知り合った人だ」

 

「はじめまして、葛木メディア。〝葛木〟メディアと言います。貴方はセイバーで、そっちの貴方はアーチャーのマスターさんね?」

 

とりあえず温かなお茶を出してダイニングに通した葛木メディアの簡単な自己紹介。セイバーに続いて、今度は遠坂も警戒色に染まっていた。

 

「そういう貴女は…」

 

「キャスターのサーヴァントよ。真名は見ての通りね」

 

まったく隠す様子もなくキャスターは士郎が出した粗茶に口をつけた。隣にいる士郎は納得したような、どこか気が抜けたような表情で頭を抱えていた。

 

「まさか、アンタがサーヴァントだったとは…」

 

「あら、私は嘘をついていなくてよ?貴方が聞いてこなかったから」

 

「ちょっと、衛宮くん!!アンタ何しでかしてんのよ!?」

 

机を叩いて腰を上げながら凄む遠坂に、士郎はたじろぎながら制止をかける。

 

「誤解だ遠坂!!話は長くなるが、俺はただスパイダーマンとして!!」

 

「まぁ、私の前マスターの術式が、生贄を要求する代物でしてね。無謀にも冬木の人を拉致して生贄にしようとしたら、スパイダーマンがやってきてあっという間に鎮圧。サーヴァントだった私は隙を見てぶっ飛ばされたマスターとの契約を破棄して、坊やに被害者として保護してもらった。そして今に至るわけよ」

 

「案外短かったな」

 

簡潔すぎる理由に遠坂も自慢のツインテールの髪をわちゃわちゃとかき乱しながら腰を落とし、机に突っ伏した。

 

「迂闊だったわ…。聖杯戦争をする以上、魔術師が冬木にくるのは当然…。それに気がつく前に対処されてたなんて…」

 

「まぁ諦めなさいな。坊やに備わる力は現代の魔術師では計り知れないもの。私でも解析できないんだから、当然でしょう?」

 

そう言われると遠坂もアーチャーもぐぅの音も出なかった。たしかに士郎の中にいる存在は〝計り知れない〟。メディアは神代の時代に生きていた自分達とは体系が違う一流の魔術師。そんな彼女が解析できない相手を常識に当て嵌めることなんて出来るはずがない。

 

「それで、今夜はどう言った要件で…」

 

仕切り直すように士郎がキャスターに問いかける。すると彼女は真剣な眼差しで言葉を切り出した。

 

「手を組んで欲しいの、私の願いのために」

 

その言葉と同時に、黙っていたセイバーが立ち上がって身構える。その手には確実に何かが握られている。

 

「マスター!それ以上は許せません!!ここで叩き切ります!!」

 

「セイバー、落ち着け」

 

今にも飛びかかりそうなセイバーだが、士郎のまっすぐな眼差しと声を聞き、渋々と言った様子で剣を納める。とりあえず話は最後まで聞かなければならない。

 

「知っているでしょう?坊や。私のたった一つの願い」

 

「ああ、知っているとも。けど、叶ってるだろ?」

 

「ええ…〝貴方〟のおかげで、今私はとても幸せ。感謝してもしきれない。けれど、まだダメなのよ。わかっているでしょう?私はサーヴァント。この世にある体は借り物なの」

 

それは遠坂も士郎も、そしてセイバーや霊体化しているアーチャーも知っている。サーヴァントは聖杯戦争で行使される〝使い魔〟。チェスで言う駒にすぎない。意思や感情、人格は持っていても、その肉体はあくまで仮初のものでしかないのだ。

 

キャスターの本当の願いは、そんな仮初の体では実現できないことを士郎は知っているし、なによりも彼女自身が一番理解していた。

 

「キャスター。貴女の願いは…」

 

「受肉よ。この世にもう一度生を受けるための。私の幸せのために」

 

それが今のキャスターにとっての、心からの願いだ。マスターも同じく。神代の時代とは異なる現代に命を持って、生きて行きたいと言う純粋な願い。その言葉を聞いて、セイバーの脳裏には豪傑に笑う征服王の姿がよぎった。

 

「その願いのためにこっちと同盟を結ぼうってわけ?そんなこと、認められるわけないじゃない」

 

「待ってくれ、遠坂。葛木さん、貴女のことだから納得できる説明はしてくれるんだよな?薄々はわかっていたけど、俺が毎晩倒していた骨の怪物。貴女の差金ですよね?」

 

「あら、見破られていたのね」

 

冬木で出没していた骨の怪物。どのヴィランたちのやり口とも異なる異変に対処していた士郎にとって、心当たりのある人物は一人しか考えられなかった。柳洞寺で薬師として腕を振るい、魔術の腕はピカイチであるキャスターに違いないだろうと。

 

「そりゃあ、不自然だったからな。俺が進む先にしか現れない上に人を襲うというより脅かしている真似しかしなかったから」

 

証拠が掴めなかったからとりあえず殴って倒すことしかできなかったけどな、と言う士郎に、遠坂は遠い目をしていた。神代の時代の魔術師が作り上げた怪物を物理だけで倒すとは…つくづくスパイダーマンというのは常識の範囲外に位置する存在なのだと認識する。

 

「貴方の動向を監視する目的もあったのだけど、それ以上にこの地の霊脈を調査する目的があったのよ。その調査から目を逸らさせるのも目的ではあったのだけど」

 

「霊脈の調査?」

 

魔術師としては素人同然の士郎の問いに、キャスターは小馬鹿にすることなく頷く。その様子だけでも、二人はかなりの信頼関係があるようだ。

 

「冬木の聖杯戦争。聖杯を体現させるためにはサーヴァントを殺し合わせて最後の一人になったらなんて言うけれど、魔術的には非効率すぎるとは思えないかしら?だから、私は独自に調査を始めたのよ」

 

「結果は?」

 

「冬木の霊脈は強い。けれど、サーヴァントを維持できるほどの魔力はないわ。どこかに霊脈の増幅装置、もしくはそれに準ずる何かがあるはず」

 

潤沢な霊脈があるとは言え、もっといい条件の地も他にはある。霊山や、恐山とか。魔術に所縁のある地なら、この地の環境よりもいいところがあるというのに、なぜ冬木なのか。

 

キャスターのたどり着いた推測は至極当然だった。故に目的もはっきりとしている。

 

「私の目的はその増幅器からある程度の魔力を貰って受肉することよ。聖杯なんて大層なものがなくても、私なら魔力さえ確保できれば可能ですもの」

 

そうなれば、キャスターのサーヴァントは脱落も同然。あとの残った面子で聖杯を奪い合うなり好きにすればいいというのがキャスターの意見だった。

 

「遠坂、どう思う?」

 

「たしかに冬木の霊脈について、キャスターの言ってることは間違ってはいないと思う。けれど信用できるの?」

 

「信用はできるさ、俺が保証する」

 

「話はまとまったかしら?」

 

そう言って結論を出そうとする全員に、一人だけが待ったをかけた。

 

「待ってください、キャスター。貴方のサーヴァントとしての格が欠落した聖杯では願望機としての機能が果たせないのではないのですか?」

 

セイバーの言葉も、ある意味筋が通っていた。聖杯戦争は最後に勝ち残ったマスターとサーヴァントに願いを叶える権利が与えられると聞く。そうであれば、他のサーヴァントの魔力は聖杯へと還元されるはずだ。七機のサーヴァントのうち、魔力が十全にあるキャスターの魔力が注がれなければ聖杯は機能しないのではないだろうか?

 

そう訴えるセイバーに、士郎はそれ以前の疑問を口にした。

 

「そもそも、その願望機がどれだけの信憑性があるのかも疑問だな」

 

「信憑性?」

 

「その聖杯ってのが、本当にどんな願いでも叶えるって代物だと言うなら、それは凄いものだけどさ。その叶え方って〝どうする〟んだ?」

 

たとえば遠坂がこの国の支配者になるとする。誰が支配者よ!!と文句を言う彼女は置いておいて、その支配者になる手段は?願った途端に支配者になってるのか?それとも段階を踏んで支配者になるのか?

 

「もっと言えば、アニメの世界にしたいだとか、指パッチンで人々を消し去る力が欲しいとか。そういう願いも叶うわけだろうけど、そんな願いも全部叶えられてしまう代物なのか…」

 

ある程度の〝手段〟が確立されている望みだけが叶えられるのか。それとも〝手段〟が確立されていなくても機能する願望機なのか。そのどちらかでも意味合いは大きく違ってくる。一歩間違えれば世界が崩壊しかねない結果になる。

 

「そんなもの、どうだっていいのです」

 

その懸念を、セイバーは不要だと切り捨てた。

 

「私には叶えたい願いがある。それに聖杯が応じてくれるなら方法も手段も問いません。そのために私は…!!」

 

まるで身を裂くような痛烈な表情をするセイバー。彼女が願う願いもまた、その身を賭してでも叶えたいものなのだ。

 

「そのためにも、聖杯戦争を勝ち抜かなければならない。だったら、私と手を組むのも妥当な方法だと思うのだけれど?」

 

とにもかくにも、勝ち残らなければ意味はない。地盤を固めるには打って付けなキャスターとの同盟は、聖杯戦争を勝ち残る上には絶対不可欠なものだ。

 

「俺は賛成だ」

 

キャスターの隣に士郎は簡潔に言う。

 

「葛木さんは信頼できる人だ。それに願いも誰にも迷惑をかけない。彼女の幸せは俺も望むところだ。だったら手を組むことに異論はない」

 

ただし、今後はあの骨の化け物は絶対出さないということだけ約束してくれ。そう釘を刺すと、キャスターは小さく笑った。

 

「わかったわ、坊や」

 

「私は一度、アーチャーと相談してから決めるわ。いいわね?衛宮君」

 

「マスター。ただし、彼女が聖杯で受肉するというなら、容赦はしません」

 

ひとまず、遠坂もセイバーも、キャスターとの同盟には前向きだ。となると、遠坂はキャスターのマスターが誰だと言うことを知ることになるのだが…。

 

そう考えていた矢先、職場から大河と一緒に来た葛木宗一郎先生が衛宮邸にやってくる。キャスターとの仲睦まじさをたっぷり見せてくれてから、キャスターのマスターが彼であることを知った遠坂は卒倒していた。

 

とりあえずご飯の準備だな。卒倒する遠坂を大河に預けて、士郎は新妻であるキャスターに料理を教えながら台所に立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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