スパイダーマン Stay Night   作:紅乃 晴@小説アカ

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第14話 人としての原点回帰

 

 

聖杯戦争が始まって一週間が経った。

 

もちろん、参加者や遠坂たちも何もしていない訳でもなく、情報戦を繰り広げたり、夜更けに冬木の街でサーヴァント同士の戦いなんてものもあったが、この世界の夜更けの冬木の街ほどデンジャーな場所はなく。

 

ライダーのサーヴァントと冬木の大橋で戦いを繰り広げたときには、冬木のヴィランたちによる「冬木大橋反重力破壊作戦」が決行され、冬木のシンボルでもある大橋がもう一歩のところで無くなるところだったり、

 

ゴールデンストライカー率いるシニスターシックスとの乱戦になったり、ランサーがライノに轢かれたり、ホブゴブリンによる銀行強盗が戦闘の最中に起こったり、エレクトロによって発電所が大爆発寸前になったり、オクトパスの科学薬のせいで市民が海魔に変身させられそうになったり、リザードが脱獄したりなどなど。

 

この一週間は夜の戦いを知らなかった遠坂にとっては刺激が強すぎたようで、新型バトルウイングを引き下げたヴァルチャーにリベンジマッチを挑まれた時なんて学校を休んで寝込むほどだった。

 

バーサーカー陣営こと、アインツべルンもまた情報戦や魔術による催眠誘導なども仕掛けてきたが、魔術の素人ではあっても危機察知能力に関してはサーヴァントとタメを張れる士郎にとって、催眠など全て不発。

 

ヴィラン騒動も相まって聖杯戦争の戦いは、はっきり言って行き詰まっていた。

 

「由々しき事態だ」

 

この事態に警鐘を鳴らしたのは、魔術教会から派遣されており聖杯戦争の監視者でもある言峰神父だった。

 

初手からセイバー、アーチャー、キャスター陣営が手を組み、ランサーとライダー、バーサーカー陣営は個人主義者たち。アサシンのサーヴァントは行方不明という有り様だ。

 

聖杯戦争の記録としては前代未聞の展開についに魔術教会は重い腰を上げ、事態の早期収拾に動き出しているのだが…。

 

「ま、まさかワタクシがここまで手こずらされるなんて…」

 

行方不明となった派遣員に追加する形で派遣されたエーデルフェルト家は、到着早々情報にないヴィランとの戦いに巻き込まれる始末。

 

彼女曰く、ショッカーと名乗る敵と、ホブゴブリンはかなり手こずったとのこと。

 

そんな激動の一週間を、スパイダーマンとして駆け抜ける士郎。スパイディのサイドバックとして収まりつつあるアーチャーことサンタム。そして士郎のサーヴァントであるセイバーと、アーチャーのマスターである遠坂は忙しない日々を過ごしていた。

 

 

////

 

 

「セイバーの願いって何なんだ?」

 

昼間は学生。夜はスパイダーマンと聖杯戦争という多忙な日々。訪れた休日でもその多忙さは変わらず、冬木の戦いを乗り越えた一行は少しの仮眠時間を置いてから衛宮邸での朝食をとっていた。

 

衛宮邸のエンゲル係数を徐々に押し上げているセイバーのお代わり要求に応えて士郎がご飯をお椀に入れながら、ふと気になっていたことを口に出した。

 

そんな疑問をぶつけると同時、アーチャーが焼いた鯖の塩焼きを切り分けていた遠坂が呆れた様子で俺を見つめている。

 

「衛宮君、それを知らないで聖杯戦争に参加してたの?」

 

「しょうがないだろう?この一週間、腰を据えて話す時間なんてあったか?」

 

そう言い返されて、遠坂はぐぅの音も出ないと言った様子だった。当初はアーチャーと急に仲良くなった士郎…こと、スパイダーマンとサンタムを怪訝な目で見つめていたが、二人のコンビネーションがなければヴィランの企みを止めることはできなかったし、遠坂自身も士郎達の戦いを間近で見た当事者だ。この一週間で価値観がひっくり返されたまで思える。

 

深くため息をついて、切り分けた鯖の身を頬張る。

 

「やめましょう、思い出すだけで頭痛がしてきたわ」

 

で、どうなんだと士郎はセイバーの方を見る。すでに空になった茶碗を置いて、セイバーは不満げに士郎を見つめていた。

 

「それを言う必要が私には見出せません」

 

「セイバー」

 

「私は勝たなければならないのです!たとえそれが…たとえ…」

 

まるで己に言い聞かせるような様だ。セイバー自身も、この異質な聖杯戦争の在り方を目にして、サーヴァント以外にも特殊な存在がいて、それが今の世界に影響を及ぼしているという事実は飲み込んでいる。

 

それでも、聖杯戦争よりもとは考えられなかった。自分の抱く願望。叶えなければならない夢があるから。

 

「俺は夢を見たんだ。セイバー」

 

静かに、士郎はセイバーを見据えてそう言った。その夢は麗しき王の記憶。高貴で犯し難い理想に殉じた騎士王と、円卓の騎士達の断片。その殉教の道の末に行き着いた末路。士郎は断片的に垣間見た夢を見つめた。

 

「凄惨たるその戦いと屍の上に立つ疲弊した王の姿が……セイバーだったんだ」

 

幾千、幾億の死に体が横たわる丘の上。槍と聖剣を手にしたセイバーの顔は酷く焦燥していて、まるで全てを諦めていながら、それを認めることができない…垣間見た理想の王とは遥かにかけ離れた姿をしていたように思えた。

 

食卓を片付け、セイバーは沈黙し続けていた。だが、それを見られた以上、語らないわけにはいかなかった。

 

「私の願いは、故郷の救済。聖杯の願望機を持ってブリテンの滅びの運命を変える」

 

「ちょっと待って…セイバー、貴女は…」

 

遠坂の言わんとしていることを、隣にいるアーチャーが手で制した。今はセイバーの話を黙って聞くしかない。セイバーの前にいる士郎は黙って彼女の顔を見つめていた。

 

「すでに滅んだ歴史の在り方を変える。それが、私の望みです」

 

「そんな…歴史の改変…世界の在り方の改変なんて」

 

「だからこそ、私は聖杯戦争に参加した!人智を超えた聖杯の願望機なら、その願いを叶えてくれると信じて」

 

「セイバー。それは君が望むことなのか?君が王だったことが間違いだったと思うからこそ?」

 

「ええ、その通りです。アーチャー。私は王になどなるべきではなかった。故に故郷の滅びを悼み、その運命を変えたいと願うのは愚かな暗君だと言いたいのですか!?」

 

いつかの征服王は言った。セイバーの在り方は王としてのあり方ではない。その理想を胸に、家臣達を顧みずに、自分の追い求めた救済という偶像に縛られた哀れな小娘だと。

 

その言葉に動じなかったかと言われれば嘘になる。現に、ランスロットのあの有様が、自分の無能たる王の烙印そのものだったからだ。

 

だが、その言葉を認めて在り方を否定すれば、それは自分の積み重ねてきたものへの否定になるように思えた。その理想は間違っていないはずだと信じていた自分自身への裏切りだと思えてならなかった。

 

では、どうすればよかった?何が間違えていた?全てが間違えていたというなら、なぜ自分はアーサー王などという存在になったのか。

 

今のセイバーの苛立ちと焦りと怒りの根源は、前が見えなくなってしまった自分の有り様だったのかもしれない。

 

「セイバー」

 

セイバーの吐き出した言葉を静かに聞いていた士郎は、真っ直ぐに彼女を見つめる。

 

彼は単なる高校生ではない。ましてや普通の人間でもない。たった一人で、遠坂やアーチャー、セイバーですら苦戦するヴィランたちの相手をし、冬木の町を守り続けてきた親愛なる隣人だった。

 

故に、その願いの見方も変わる。暴君でもなく、暗君でもなく、ただの人間でもない。紛れ間なく、正義の味方として。

 

「お前の願いはわかった。故郷を思う気持ちも。お前が生きた時代から遥かに未来にいる俺たちだ。聖杯で叶えたい願いのために足踏みする気持ちもある」

 

そう短く告げて士郎は立ち上がると、自室に行き外出用のコートを自分の分とセイバーの分を取って戻ってきた。

 

「遠坂、少し出てくる」

 

「衛宮君、どこに行くの?」

 

大河のお古のコートをよく分かっていない様子のセイバーに渡しながら、士郎は答えた。

 

「図書館さ。セイバーと一緒に」

 

 

////

 

冬木の街にある県立図書館。国が運営する図書館で、その蔵書の数は冬木の中でもダントツだ。受験生の学習ゾーンもある中、セイバーを案内する士郎。

 

見渡す限り、本、本、本だ。棚に所狭しと並ぶ数にセイバーは知識では知っていたものの、その壮観さにただ圧倒されるばかりだった。

 

「これほどの蔵書があるとは…知識では知ってはいましたが…それよりマスター、こんな場所に来る意味など…」

 

「あるさ、セイバー。なによりも君に必要な場所だ」

 

空いている学習ゾーンにセイバーを案内してから、探し物を見つけに消えた士郎を待つこと数分。ドン、とセイバーの前に分厚い本が何冊も置かれていた。

 

「こ、れ…は…」

 

その表紙を見て、セイバーは目を見開く。その本のどれもが、自分がよく知る〝世界〟の書物だったからだ。

 

「ブリテンの書物からヨーロッパ関連の歴史の資料だ。ここの蔵書のほとんどをかき集めてきた。英語に日本語、なんでも揃ってる」

 

とりあえず、ここに所蔵されているすべての本を引っ張り出してきたという士郎と、本を交互に視線を彷徨わせるセイバーを見て、士郎は釘を刺すように言った。

 

「聖杯の願望機が〝どうやって〟願いを叶えるのか。それがわかっていない以上、セイバーの中でどうやって故郷を救うかを考えなきゃならない」

 

「それを叶えるのが、聖杯のはずです」

 

「盲目的に信じてはダメだって話さ。何事にも筋道はあるし、道理もある。だから聖杯聖杯っていう前に、セイバーのいた時代からどうやって今まで続いてきたのかを、一度自分の目で見るべきだと俺は思う。知識は力ってね」

 

セイバーの言葉を聞いて、士郎が真っ先に思ったのは〝見識の狭さ〟だった。知識と価値観が違うのは仕方のないことであるが、それで視野が狭まってしまえばどうしようもない。

 

まずは彼女自身の価値観や、世界観を考えさせる必要があると思った。セイバーが抱く願望をどうするかを話すには、まずはそこからだ。王の考えや、王の在り方を考えるよりも前に、まずは歩んできた歴史と、その先にある未来、そして今に続く事柄を自分の目で見つめるしかない。

 

結局なところ、そこに行き着く。故にセイバーをここに連れてきたのだ。しばらく一人で見てくれ、と士郎はお昼ご飯を賄うお金をセイバーに渡して図書館を後にした。

 

自動ドアから出ると、そこには赤いコートを着た遠坂が立っているのが見えた。

 

「よかったのかしら?衛宮君」

 

すべてはお察し、と言った様子で話しかけてきた遠坂に、士郎は図書館へ振り向きながら答える。

 

「セイバーにとっては、残酷なことかもしれないな」

 

叶うなら、やり直したいことなんて沢山ある。けど、それじゃあダメなんだ。それを士郎はずっと痛感してきた。あの瞬間に行動していれば、そんな「IF(もし)」があったらどれだけ良かったのか…そして、それが叶わないということも。覆してはならないということもだ。

 

「それは衛宮君の独りよがりな考えじゃないかしら?」

 

「だから、向き合わなきゃならないんだよ。遠坂。世界はこんなはずじゃなかったということばかりさ」

 

士郎がスパイダーマンになるはずがない世界。セイバーが王としての責務を果たした世界。アーチャーが後悔しない未来を手に入れた世界。さまざまな可能性が、この世界に溢れている。だが、それは可能性であって必ず「至れる」世界ではない。

 

「けど、その積み上げてきた時間の上に俺たちは立っている。たしかに願いが叶えばセイバーの故郷は救われるかもしれない。けれど、その先に俺たちがいる世界があると考えると、どうしてもな」

 

そう答えると、遠坂は小さく微笑んでベンチに座った。

 

「気長に待つしかないわね?」

 

「待つしかないな」

 

そう言って待ちの体制に入った時。ふと、二人の横に人影が現れる。真っ白な銀髪の髪を揺らす、赤い目をした少女。

 

「こんにちは、お兄ちゃん」

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、そこに静かに佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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