スパイダーマン Stay Night   作:紅乃 晴@小説アカ

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第16話 静かなる異変へ

 

 

 

「本部へ!!新都、本線沿いに怪物出現!!至急応援を!!」

 

パトカーに備わる無線機に向かって大声で呼びかける警官の真上を、同じカラーリングが施されたパトカーが通り過ぎた。大きくひしゃげた車体からは煙が出ており、赤いサイレンは割れ、そのボロボロになった姿からは警察という威光を垣間見ることはできない。

 

「がっはっはっ!!所詮は片田舎の警察どもだな!!夜にこそこそしなくても十全にぶち壊すことができるじゃあないか!!」

 

とある魔術師が生み出した強固な外骨格。それが永久的に外すことができなくなった事と引き換えに、人外的な胆力と筋力を手に入れたヴィラン「ライノ」は、アスファルトをたやすくひび割れさせる地響きを奏でながら地面を蹴った。

 

まったくもって最悪だ。今日、冬木の街に配属されたばかりの新人は目の前で起こる超常現象に目を見張りながら現実逃避していた。本庁にある警察学校では、犯人が電柱を引っこ抜いて振り回す事例など教わっていない!!

 

先輩警官らが発砲して応戦するが、その強固な外骨格には傷一つ付くことはない。振り抜かれた電柱は砕け、先輩警官らが盾にしていたパトカーごと彼らを吹き飛ばす。高笑いするライノは過呼吸気味になりつつあった新人警官が隠れるパトカーを持ち上げた。

 

目があった。見たこともない化け物はニヤリと笑みを浮かべて、恐怖に震える警官めがけてパトカーを構えた。

 

「ほぉら、サービスだ!!」

 

同時に、爆音と衝撃が響く。身構えていた警官は簡単に吹き飛ばされ、道路沿いにあるガードレールに頭を打って静かに気を失った。ライノが持ち上げていたパトカーは〝爆発〟しており、爆風でたじろぐライノの前に、パトカーを〝爆破〟した張本人が二刀の剣を携えて降り立った。

 

「まったくもって品性のかけらもない造形だな」

 

「貴様ぁ…サンタム!!」

 

真っ赤な外套と、顔を隠すマスク。中国風の二刀剣を持つ相手をライノは忘れていなかった。巨木のように太い腕を奮ってサンタムこと、アーチャーが着地した場所を殴りつけるが、彼は腕に備わるワイヤーアンカーを駆使してビルの壁へと飛び上がった。

 

「どうした!相棒のクモ野郎がいなくて戦えるかぁ!?」

 

「相棒?たしかに彼とは共に場数を踏むが、私はスパイダーマン無しで戦えないほど非力ではないさ」

 

そう言ってアーチャーは外骨格を貫くことが叶わない剣から、弓へと瞬時に獲物を持ち替えてニヤリと笑った。

 

「今の私はサンタムだ。故に貴様を止める!!」

 

「やってみろ!!あの青タイツと同じように、その非力な武器ごと踏み潰してくれる!!」

 

地響きをかき鳴らしてアーチャーがいるビルへと突撃するライノ。短絡的なヴィランは頭に備わる「サイの角」を前に出してビルへと突撃。柱ごと壁を破壊すると、アーチャーが捕まっている壁がみるみる崩れてゆく。

 

ワイヤーアンカーを外して飛び上がったアーチャーは、その姿勢のまま素早く弓を弾き、数弾の矢をライノの背中に放った。だが、矢は突き刺さることなく全て弾かれてしまう。

 

「あの外皮だ。厄介この上ない…一体何で構成されているのだ?」

 

アーチャーの放った矢は曲がりなりにも〝投影〟された武器だ。宝具ランクで言えば中の上。並みの相手なら簡単に射抜くことができる代物だというのに、ライノの外骨格には傷一つ見られない。

 

「どうした!!その程度の武器では俺の体には傷一つ付かんぞ!」

 

「たしかにそうだな。なら、こちらもレベルを上げるとしよう」

 

そう告げると、アーチャーは弓を改めて構えて、弦をしならせながら〝詠唱〟した。

 

「トレース・オン。…絶世の名剣〝デュランダル〟!!」

 

数ランク上げた宝具の投影。かの名剣を象った一撃は目標を過たずに直撃。びくともしなかったライノの体は後ろへと吹っ飛ばされ、背中からビルへとぶつかっていった。

 

これなら相当量のダメージを負わせられただろう。そう確信している中、土煙からライノが悠々とした足取りで姿を表した。直撃したはずの肩には小さな焦げ跡が見つかる。

 

だが、その程度。まったく、つくづく冬木にいる化け物は規格外といったところだろうか。

 

「…どうしたぁ?その程度か!!」

 

「こいつはかなり骨が折れそうだ」

 

雄叫びを上げて地面を叩き壊すライノを前に、アーチャーは再び二刀を構えて向き合うのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

目の前にいる銀髪の少女。深紅の眼差しは見るものを硬直させるほど美しかったが、士郎と遠坂は別の意味で固まっていた。

 

「イリヤスフィール」

 

彼女はアインツベルンの魔術師であり、現聖杯戦争で最強クラスのバーサーカーを従えさせる危険人物だからだ。

 

「こんにちは、アーチャーのマスターさん。それと…切嗣の息子ね?」

 

「爺さんのこと、知ってるのか?」

 

突然、養父のことを言われた士郎は戸惑いながらそう返すと、イリヤは得意げな顔をしてから答えた。

 

「知っている以上の関係よ。私が殺してやろうと思っていたのだけれど、もうすでに死んでいるもの…だから、私はあなたを殺すの」

 

その目は明らかに殺気に満ちていた。切嗣と彼女の間にどう言ったことがあったのかは分からないが、スパイダーマンの直感的には良い関係とは言えない間柄だったのだろう。イリヤの放った殺気に、遠坂も臨戦態勢をとる。後ろにあるポーチには防衛用と迎撃用の魔術宝石がある。

 

「ここでやろうって気?魔術の秘匿はどうするのよ?」

 

「ふふふ、そこまで愚かではないわ。けど、予想外なことが多すぎたの。お兄ちゃんは催眠に引っかからないし、セラやリズに捕まえてもらおうと思っても逃げられちゃうし、あのハンターも狙って来るのだし」

 

そう言ってイリヤは肩をすくめた。たしかに、遠くから催眠をかけられてアインツベルンに向かうよう示唆されそうになってはいたが、士郎の持つスパイダーセンスのおかげで催眠の隙を回避。夜のスパイダーマン活動中に二人のアインツベルンメイドに襲われたこともあったが、士郎は見事に追跡を巻いたり、武器を取り上げたりしたが、そのたびにクレイヴンの邪魔が入ったりしていたのだ。

 

「まぁいいの。そのたびにスパイダーマンが助けてくれるのだからね」

 

「士郎…」

 

「こっちを見るな、遠坂」

 

スパイダーマン活動中によくあることだと小声で言うが、遠坂はまったく納得していない様子だった。そんな二人など知らずに、イリヤはクレイヴンに襲われている最中に救ってくれたスパイダーマンのことを思い返す。

 

「ここに来るまで、この土地には嫌な印象しかなかったけれど、スパイダーマンなんていうヒーローがいるのだから、捨てたものじゃないのね?あの姿が…本当に…」

 

そう。本当に、まるで〝正義のヒーロー〟だった。いつか愛していた切嗣が語った理想のヒーロー。

 

しかし、現実は甘くない。

 

切嗣は母を奪い、自分をたった一人残して去ってしまった相手だ。昔のことに感傷的になるなんてらしくない。そう言い聞かせて、イリヤは士郎を見据えた。

 

「けれど聖杯戦争は続いているのよ、お兄ちゃん。だから戦わなきゃ…最後のマスターとサーヴァントが残って、聖杯が体現するまで」

 

それがアインツベルンの悲願、そう続けようとした最中、遠坂や士郎がいる場所を激しい揺れが襲った。立ってられないなどの大揺れ。バランスを崩した遠坂やイリヤを支えながら士郎は辺りを注意深く観察する。

 

「なに?地震!?」

 

「いや、違う…これは地震じゃない」

 

「だったらなんだって言うの!?」

 

「地下からだ。これは大きい…かなり嫌な予感がする」

 

スパイダーセンスが激しく反応していた。発生源は地下。地震なのだから地下で当然なのだが、その震源地があまりにも浅いように思えたのだ。それに、感じ取った先にあるものは過去に士郎がスパイダーマンとして、ゴールデンストライカーと対決した地下施設がある場所だ。

 

揺れが落ち着いたところで遠坂を離し、士郎は一人でに震源地である方角へと歩みを進めようとした。そんな士郎のコートの裾をイリヤが掴み上げる。

 

「待ちなさい!どこに行くと言うの!?」

 

「行かないとダメなんだ。離してくれ、イリヤ」

 

「何よ?離すわけないじゃない。お兄ちゃんは…」

 

「イリヤスフィール!!」

 

突然、士郎が大声でイリヤを呼びつけた。反射的にイリヤの肩が揺れる。すると、士郎は静かに振り向いてイリヤと同じ視線へと腰を下ろした。

 

「頼む。俺を待っている人がいるかもしれないんだ。だから…離してくれ」

 

とても静かで、とても熱のこもった言葉に、イリヤは何も答えることができずに。掴み上げていた手をゆっくりと離す。「ありがとう」と言って、士郎はイリヤの頭を優しく撫でてから立ち上がった。

 

「二人はとにかく安全な場所に!!」

 

「まったく人任せなんだから!イリヤスフィール?行くわよ!!」

 

簡単に言葉を交わす二人。遠坂はすぐに安全な場所へ進もうと行動を開始する。ビルの合間に消えてゆく士郎の背を見つめながら、イリヤは心の中に生まれた疑問を小さな声で口にした。

 

 

 

「………スパイダーマン?」

 

 

 

 

 

 

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