スパイダーマン Stay Night   作:紅乃 晴@小説アカ

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本編
第1話 衛宮士郎とその周り


 

衛宮士郎の1日は短い。

 

昼間は学生、夜はスパイダーマン、そしてスパイダーマンの日々を終えると魔術の鍛錬。睡眠時間は一日二時間を切ることも珍しくはない。

 

そんな生活をしていたら身がもたないって?それは大丈夫、なにせ彼が目指すものはーーー365日24時間、悪を決して見逃さない正義の味方なのだから。

 

「悪いな、桜。朝ごはん用意してもらって」

 

顔を洗ってリビングにやってきた士郎は、ご飯の配膳をする桜に謝ると、桜は満開の花のような笑顔で大丈夫と言ってくれた。

 

1年半前の夏、スパイダーマンの活動で多忙な士郎が、弓道部から追い出された事を切っ掛けに手伝いとして通い出した。通い始めた当初は他人に物を食べさせる事に引け目があったが、今ではすっかり克服している。

 

桜には迷惑をかけるなと、士郎は屈託のない笑顔で接してくれる桜に心から感謝していた。スパイダーマン活動で傷つきながらも、帰って来れば清々しい朝日のように笑顔を見せてくれる桜に何度救われたことだろう。

 

桜と共にご飯の配膳を手伝っていると、廊下から行儀の悪い大きな足音が聞こえてくる。いや、これは走ってるなと士郎は小さくため息を漏らした。

 

「おっはよぉーー!!士郎!!見て見て!!今日の冬木新聞!!」

 

「藤ねぇ、もう少し静かに入ってこれないのか?」

 

藤村大河。親なしの士郎の保護者で、衛宮邸には時折様子を見に来る……とのことだが、事実ほぼ入り浸りである。士郎の担任教師であるが、衛宮邸では自堕落、わがまま、暴君姉としてとにかく他の住人を困らせているーー主に士郎を。

 

そんな大河が突き出した新聞にざっくり目を通すと、大河が書いたであろう赤線の枠の中の記事があった。

 

親愛なる隣人スパイダーマン。

新都に蔓延る悪漢を倒す。

 

記事から目を離して大河を見ると、ドヤァーと言葉で言いそうな顔で士郎を見てた。

 

「藤村先生は、ほんとにスパイダーマンが好きなんですね」

 

「当然!スパイダーマンのことならなんでも知ってるかんね!ねぇー士郎ー?」

 

そう言ってくる大河に士郎は、乾いた笑いしか出せなかった。

 

大河は、士郎がスパイダーマンであることを知っている。というか、蜘蛛に噛まれた瞬間を大河は見てるし、士郎のスパイダーパワーに気が付いたのも大河だったのだ。

 

切嗣が死んでから塞ぎ込みそうになっていた士郎を支えたのは、他でもない大河だった。彼女の支えがなかったら、士郎は今のようなスパイダーマンにはなれなかっただろう。

 

「と、とにかく!朝ごはん食べるぞ」

 

そういう時大河は「はーい!」と言って、持ってきた新聞を大事にカバンにしまってから居間にある机の前に座った。

 

ちょうど準備を終えた桜とともに、士郎も食卓の前に座る。

 

「それではいただきます」

 

三人の声が重なる。これがいつもの衛宮家の日時だった。

 

 

 

////

 

 

 

「すまないな、衛宮。昼飯時にまで作業をさせてしまって」

 

昼休み。穂群原学園の生徒会室で、士郎は遅れた昼色を食べる柳洞一成に背を向けながら、ガラクタいじりに精を出していた。

 

「気にするなよ、一成。好きでやってることだ」

 

ガラクタいじりーーというが、強化の魔術を扱う士郎にとっては良い魔術の訓練となっているように思えた。壊れて使い物にならなくなった備品を解析し、原因を突き止め、修理する。

 

備品は治り、出費も減り、士郎にとってもいい経験となるので、一石三鳥といったところだ。

 

「ふむ、その奉仕精神…衛宮は神仏の道には興味は?」

 

「あいにく、信仰する神様が居ないもので」

 

寺生まれの一成からは、幾度となく仏門に入らないかと誘われてはいるが、そうなれば本格的にスパイダーマン活動はできなくなる上に、士郎自身も神を信仰するような心得は持ち合わせていなかった。

 

「もったいないものだ…その奉仕精神があれば立派な説法を言えたものを」

 

「衛宮が説法?むりむり」

 

残念がる一成の言葉を、生徒会室の扉を雑に開けながらあざ笑う人間が一人。一成が険しい顔を向けるが、それはいつものことだった。

 

「慎二?部長会議は終わったのか?」

 

間桐慎二。自分の家に世話を焼く間桐桜の兄であり、士郎の数少ない友人の一人だ。士郎の言葉に慎二はめんどくさそうに肩を竦めた。

 

「あんな馴れ合いの場、僕には関係ないね」

 

「また美綴に怒られるぞ?」

 

「いいのいいの。それにお前に渡すものがあったしな」

 

そう言うと慎二は片手に持ったスーパーの袋を士郎に放り投げた。すかさず中身を確認して士郎は慎二に頭を下げた。

 

「いつも悪いな慎二」

 

慎二が投げたものーーそれは、スパイダーマン活動には無くてはならないものだった。

 

間桐慎二も、藤村大河と同じく、士郎がスパイダーマンであることを知っているのだ。

 

話せば長くなるのだが、中学最後の卒業式をすっぽかした士郎に文句を言うために衛宮邸を訪れた際、蔵でスパイダーマンスーツを脱いでいた士郎を見つけたのがーー思いのほか長くはなかった。

 

それ以来、慎二は士郎のスパイダーマン活動になんだかんだと協力しているのだ。

 

魔術師としての才がなく、今まで同情していた桜が魔術師と言うことを知ってから、やけになりつつあった慎二が唯一打ち込めたのも、スパイダーマン活動に限界を感じていて慎二に助けを求めた士郎のおかげもある。

 

なまじ優秀なおかげか、士郎のスパイダーマン活動に対するダメ出しや、解析はできる癖にメカ作りにはてんで不器用な士郎に変わって、蜘蛛の特性を生かしたガジェットの開発などもしており、士郎が愛用しているウェブシューターも、慎二のお手製なのだ。

 

慎二が渡したのも、間桐家の豊富な資金で作ったウェブシューターのカートリッジだ。

 

「今日の弓道場の掃除でチャラにしてやるよ、衛宮」

 

慎二はそれだけ言うと、生徒会室をあとにした。弓道部をやめろといったのも、美綴や顧問の先生になし崩し的に弓道部に入らされた士郎を救済する処置でもあった。

 

慎二も慎二で、夜のスパイダーマン活動に警察の無線傍受などの情報監視の部分で大いに士郎を手助けしているのだった。

 

 

 

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