スパイダーマン Stay Night 作:紅乃 晴@小説アカ
「WAFOOOOOOO!!!!!!!」
夜にふける冬木の街。やや肌寒い中を、衛宮士郎は赤と青を基調としたスパイダーマンスーツを身にまとって、摩天楼の中を自慢の蜘蛛糸で飛び回っていた。
スイングはいい。上から下へと飛ぶ感覚がなんとも気分がいいものだ。強靭なウェブと、それを放つシューターを作った慎二には頭が上がらない。一度、実証実験で慎二を抱えながらスイングをしたことがあったが、終始慎二は叫び声を上げ続け、終いには片言で「シンジ、おウチ、カエル」とうわ言のようにつぶやく始末だった。
耳に取り付けた薄型のインカムからは、警察の無線傍受でかき集めた情報が流れてきていて、今日だけでも女性に暴力を振るおうとする悪漢と、骨の怪物を二体ぶちのめしている。
幼少の頃、まだ切嗣を守ることができなかった士郎は、それから藤村大河に頼み込んで、徹底的に己を鍛えた。
彼女の実家であるこの地を取りまとめるヤクザの本拠地で、歴戦の強者たちとストリートファイト形式の特訓や、剣道に、柔道、空手と弓道と手を出せる武道はひたすら手を出して己の鍛錬に励んできた。
そのおかげもあって、士郎の格闘能力は計り知れないほど高まっていて、そこらにいる悪漢程度なら数秒でノックアウトでき、最近では藤村組の組員総出で戦っても息切れをしなくなっているほどだ。
そして、手に入れた士郎の能力の中でも、もっともスパイダーマンたる能力があった。
新都と冬木の市街地を繋ぐ大橋に差し掛かったところで、士郎は背中からぞわぞわした感覚が這い上がってきた。全身の毛が逆立つような嫌悪感は、自分の身の回りに危険が潜んでいることを士郎に伝える。
第六感ーー大河は「スパイダーセンス」と言うものが、士郎を強烈にその場に呼び止める。
「ちょっと待って慎二!問題発生…!」
無線越しに「はぁ?」と、慎二の声が聞こえるが、そんなこと御構い無しに士郎は河川を遡っていく。すると、大きな川から生活用水路に分岐するところで、怪しげに川に手を入れる人影を捉えた。
士郎は振り子の要領でスイングし、川で何かをする人影の背後の壁に張り付いた。
「やぁ!こんな夜更けに何をやってるんだ?」
話しかけた相手。士郎はその相手をよく知っていた。黒コート姿の相手は、ゆっくりと立ち上がると壁に張り付く士郎を、異様な目つきで睨みつけ、狂ったように微笑んだ。
「これはスパイダーマン。なに、ちょっとした実験だよ」
怪しく光る液体が入った試験管を傾けて、液体を川に流し込むと、穏やかに流れていた川は泡立ち、どす黒い血の色に染まっていく。
「川の生態系を変えて海魔を作るつもりだな、そうはさせないぞ。ドクターオクトパス!!」
ドクターオクトパス。
冬木の街に5年ほど前に現れた人物。
士郎がマスクを被り、冬木の街を飛び回るきっかけになった相手だ。
彼は怪しげな薬と魔術を使って、何かを蘇らせようとしている。オクトパスが液体を落とした川からは、ウゾウゾとこの世の物とは思えない奇怪な色を模した軟体生物が現れ、岸へと上がり始めていく。
「私の崇高な実験の邪魔はさせんぞ、スパイダーマン!!」
「そんな不気味なタコを蘇らせて何をしたいのかわからないけど!一つわかってることはそのタコはたこ焼きには向いてないってことだけ!!」
「ほざけ!今日こそその四肢を食いちぎってやるぞ!スパイダーマン!」
オクトパスはコートを脱ぐと、背中からむき出しになった海魔の触手で壁から飛び降りたスパイダーマンと相対した。粘っこい粘液を纏った触手を鮮やかに避けては、士郎はオクトパスの顔面や体に拳を叩き込んでいく。
たまらずにオクトパスは飛び上がると、川から生まれた海魔を士郎の背後から奇襲するように差し向け向ける。
スパイダーセンスでしっかりと奇襲予測していた士郎は、宙返りを打つと同時にウェブシューターで海魔の触手を絡めとり、スイングして壁に叩きつけた。海魔は紫色の液体を壁に走らせてピクピクと痙攣し、やがて動かなくなる。
「いっちょあがり!とりあえず大人しくしてろよ、ドクター」
振り返ると、すでにオクトパスの姿はなく、川から生成され切った海魔がウゾウゾと士郎の周りを取り囲んでいた。
「あーもうほんと疲れる」
「まぁこの結果には満足だ。今日はこの辺にしといてやるよ、スパイダーマン」
頭上から降り注いだ言葉に、上を見上げると電柱に触手で捕まったオクトパスが、士郎を見下ろしながら狂気じみた声で笑っていた。
「待て!オクトパス!!」
迫り来る海魔を蹴散らしつつ、闇夜に消えていこうとするオクトパスを追おうと士郎も飛び上がったが、その横っ腹を電撃が貫き、士郎はそのまま壁に叩きつけられた。
「いてて…エレクトロ…今ちょっと忙しいんだけど!?」
「電気魔術を研究してる私からしては、彼の研究は実に興味深いものだからね、邪魔をするなら容赦はしないよ?スパイダー」
士郎の前に現れたのは、電気のエネルギーで空に浮かぶ男だ。
エレクトロ。士郎が勝手にそう呼んでいるが、彼は電気の力を魔術として扱うれっきとした魔術師だ。過去に起こった事件の調査や研究を行っていたらしいが、冬木の特異な霊脈を使って新たなる研究をはじめた。それが電気を用いた魔術だ。
「あー、麻痺特性を持ってる海魔がいたのはアンタが協力してたからか。まったく嬉しくない情報だけどね」
このエレクトロは何かとオクトパスと絡んで研究を進めてることが多い。見渡す海魔の中に黄色のラインが入った物があるが、それはエレクトロがオクトパスに協力して完成させた海魔の亜種だ。
「あぁ、偉大なるエジソンに、ニコラ・テスラ!直流も交流も実に素晴らしい!電気のチカラは偉大であることを教えてやろう!!」
酔いしれるようにそう叫んでから、ガシャガシャと帯電質な手袋を振りかざし、エレクトロは指先からイナズマを放っていく。
「ところで、海魔が持ってる神経毒ってテトロドトキシンとバトラコトキシンなんだけど!!」
士郎はその電撃を避けながらも、迫る海魔を蹴散らして、狭い用水路の中をウェブを使って縦横無尽に飛び回りながら、電撃を放つエレクトロに軽口を叩いた。
「それって人体のナトリウムチャネルに影響を与えて、より強力な神経毒は興奮性細胞膜のナトリウムイオン透過性の増大による神経や筋繊維の脱分極を引き起こすことによって、神経系に影響を与えるんだけど、これって毒の成分であって電気的な麻痺とは違うと思うんだけど、そこんことエレクトロはどう思ってるわけ!?」
「電気を与えてそれと同じく症状を与える電位を人体に伝えられればそれで解決さ!」
「電気力任せな回答どうも!!」
実は一度、士郎は海魔に毒針を刺されて生死の境を彷徨ったことがある。
魔術師が作り出した特殊な毒の血清が無かった為、症状が重篤化したのだが、慎二が間桐の書庫をひっくり返す勢いで調べ上げ、なんとかギリギリで血清を作り出すことに成功している。
このおかげで、桜からもよく心配されるようになったのだが、それはまた別の話だ。
このとき、回復してから慎二から耳に文字通りタコができるまで神経毒の成分やそれが人体に与える影響などを聞かされまくったのだ。
士郎はその雪辱を晴らすべくのように、スイングで撹乱してから、イナズマを纏うエレクトロの顔面にパンチを繰り出した。
「がっ!!こいつ!」
「すまないな!このスーツ、絶縁タイプに変えたの言ってなかったか?」
そう言ってから今度はウェブの弾性力を用いた蹴りで、エレクトロを大きく後ろへ吹き飛ばす。用水路の地面に転がったエレクトロは、口から溢れ血を拭って士郎を睨みつける。
「ウグッ!!このスパイダーめっ」
「それ褒め言葉で受け取ってもいい?ところで、最近街で暴れてる理科室の骨格標本のこと知らない?飼い主に見当がつかなくて」
天井に張り付いた士郎を見上げながら、エレクトロは心から呆れたような目つきで彼を見つめた。
「ふん、ほんとに貴様はコチラ側の人間ではないようだな、スパイダー」
コチラ側というのは、オクトパスやエレクトロがよく言う「魔術師」の世界の側のことだろう。そういうたびに、彼らは士郎を侮蔑するような目つきで睨んでくる。だが、今回は違った。
「機は満ちた。7騎のサーヴァントが揃い、もっとも高貴な戦いが始まるぞ?私はただ、外から見てるだけだがな」
「7騎の…サーヴァント?」
歓喜に満ちるエレクトロの言葉に、士郎は首を傾げた。奇々怪界なことが多い魔術師世界だが、そんなこと士郎は聞いたことはなかった。ただ、その会話を聞いていた慎二だけは無線機の前で目を見開く。
「その時、貴様はどうするかな?親愛なる偽善者よ…」
エレクトロはそういうとイナズマを水に流した。沸騰した水分は霧となり、エレクトロの姿を絡ませる水のカーテンとなる。
「待て!エレクトロ!!」
遠くで迸るイナズマを追いながら、士郎も用水路から飛び出した。彼が向かってる先はーーー自分たちが通う学園の方角だ。
ドクター・オクトパス
第四次聖杯戦争で、キャスター陣営に誘拐された少年の生き残りであり、日本でも珍しい魔術回路があったがために、キャスターにより激痛と苦痛が伴う魔術手術が施され、その影響で精神が崩壊してる。
背中には移植された海魔の触手があり、オクトパスの魔力回路に結合されているため、オクトパスの魔力を食って現界している。
キャスター陣営の敗退後、工房から抜け出した彼はキャスターが使役していた海魔を家族と称して、最後に召喚した巨大海魔を復活させてるために暗躍している。
自身の肉体の一部である海魔の肉片や血液を用いて魔術行使を行い、強靭な触手での接近戦も行う。
エレクトロ
電気オタクな魔術師。
第四次聖杯戦争の調査で冬木の街を訪れていたが、電気に魅せられて今に至る。直流も交流も大好きな変態。