スパイダーマン Stay Night   作:紅乃 晴@小説アカ

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第5話 スパイディ流、戦いの止め方

 

 

「これより我が剣はあなたと共にあり、あなたの運命は私と共にある。ここに契約は完了した」

 

月下の中現れた少女は呆然と見上げる士郎に向かって、手短にそう伝えると蔵から颯爽と飛び出していった。

 

いったいどこから現れたんだ、あの子は…。

 

そんなことを思いながら体に乗る蔵のガラクタを押しのけて立ち上がると、蔵の外からは鉄を撃ち合うような打撃音の応酬が繰り広げられていた。

 

「貴様…姿を見せぬ武器を使うとは!!」

 

「どうした、ランサー。止まっていては槍兵の名が泣こう。そちらがこないなら、私が行く!」

 

のっそりと蔵から顔を出してみると眼前の庭先では土煙を上げながら疾走する青いドレスの騎士と、青タイツがそれぞれの武器を使って戦いを繰り広げていた。騎士の剣は透明。どんな剣かは想像が付かないが…そこまで思って士郎はふと疑問を持った。

 

なぜ不可視の武器が剣だと自分は見抜けたのだろうか、と。

 

「あーあー全く…なんだってんだ…。慎二、俺なにかしたのか?」

 

とにかく状況が飲み込めない士郎は、こういった奇天烈な事象に強い相棒である慎二に助けを求めた。こう言ったことは昔、オクトパスのアジトに乗り込んだ時に罠で発動した海魔の軍勢を相手にしたとき以来だ。

 

《衛宮…お前ってやつは…》

 

通信機越しでもわかる地につきそうなため息と共に頭を抱えている慎二は、自分が何をやったのかわかっていない士郎に苛立った声で唸り声をあげている。

 

「慎二?」

 

《お前は、聖杯戦争に参加したんだよ!!》

 

「戦争…?またまた、なんの冗談だ?」

 

《おい!今は真面目なシーンだぞ!僕は真面目に言ってるんだ!!》

 

いつにもなく真剣で怒り爆発な慎二の言葉を聞き、士郎はハッと記憶を呼び起こす。それは学校に着く前に遭遇したエレクトロの言葉だった。

 

〝機は満ちた。7騎のサーヴァントが揃い、もっとも高貴な戦いが始まるぞ?私はただ、外から見てるだけだがな〟

 

その不穏な言葉を告げたエレクトロはヴィランであると同時に高明な魔術師でもある。電気魔術を使わせれば右に出る者は居ないと言わしめられてるほどに。そんな彼の言葉が士郎の耳にやけに引っかかった。

 

「もしかして、魔術師が関係してるのか?エレクトロが言っていた〝サーヴァント〟とか」

 

《大当たりだよバカ!!とにかく、お前は〝マスター〟になったんだ!!さっさと戦ってるサーヴァントを止めろよ!!街を廃墟にするつもりか!!》

 

「わかった!やってみる!!」

 

ちなみに止める方法は、とサーヴァントを使役するマスターが持つはずの力である〝令呪〟について説明をしようとした慎二。だが、その言葉を待たずに士郎は飛び上がった。

 

「おおーい!」

 

そして睨み合う騎士と青タイツの間に降り立った。

慎二は通信機越しで頭を抱えた。

 

「マスター!危険です!下がっていてください。この槍兵は私が下します」

 

「坊主、テメェが七人目のマスターだったとはな!とんだ計算違いだったが、せっかくの死合いだ。そこのセイバーを殺したら、お前を殺してやる」

 

戦意旺盛と言った様子の二人を前にして、士郎はやれやれと言った感じで肩をすくめる。

 

「アンタら中世騎士甲冑愛好家?それともガチンコ騎士甲冑ファイトクラブの人?どちらにしろ、人の家の庭でそんな武器を取って戦うのはマナー違反だと思うんですけど?」

 

騎士と青タイツは顔を見合わせてから士郎のマスクを見た。不思議そうな顔をしている。いや、そんな不思議そうな顔をされてもここは人の敷地内、しかも庭先なのだから、そんなところで暴れようとするのがおかしいのでは無いかと士郎は考える。

 

「とりあえず状況もわからないし、一旦やめない?カルシウムいるなら我が家にはココアも牛乳も揃ってますよ?」

 

「セイバー、あのクモ野郎は本当に貴様のマスターなのか?」

 

「ええ、残念ながら」

 

青タイツの問いに騎士は残念そうな顔ぶりでそう答える。士郎はどこか馬鹿にされたような気分で不満だったが、通信機越しに二人の会話を聞いていた慎二からすれば頷けるものだった。サーヴァントとして現界したかと思えば目の前にはピッタリスーツとマスクを被ったクモ男がいるのだ。それがマスターだと言われたら頭を抱えること間違いなしだ。

 

まぁ、空気抵抗を極力減らせる上に防弾、耐寒、耐熱、さらに絶縁などの万能機能が備わったスーツや、数々のスパイディガジェットを考案し、開発したのは他ならぬ慎二なのだが。

 

士郎からの休戦協定の提案を容赦なく切り捨て、セイバーは青いドレスを翻すと士郎との距離を一気に詰めた。

 

「はっや…!?」

 

「マスター、いくら主従関係があろうとこれ以上戦いの邪魔立てをするなら…!!」

 

そして不可視の剣の石突で士郎を殴り飛ばしたのだ。まさかの峰打ち攻撃で吹き飛ばされた士郎は、そのまま敷地外を隔てる壁にぶつかった。

 

「そこで大人しくしておいてください。さぁ、続きを始めよう、ランサー」

 

ふん、と鼻を鳴らして剣を構えた騎士は踵を返すと再び青タイツとの戦いを再開する。剣戟が交わされる音を数度聞いてから、士郎はめり込んだ身体を壁から外してゆらりと立ち上がった。

 

「あーもう、ほんとに怒ったぞ」

 

そこから一気に駆け出す。屋根先にウェブを放って飛び上がり、士郎の体は弧を描きながら騎士と青タイツの真上へと舞い上がり、そして素早くその両者の手へ単発のウェブを放った。

 

「何をするのです!マスター!」

 

「決まってるだろ!戦うことをやめさせるんだ!!」

 

いきなり両手をウェブで塞がれた騎士は怒り顔で士郎に抗議するが、士郎は知ったことないと言わんばかりに拘束用のウェブを放って騎士をさっさと拘束していく。

 

引きちぎろうと身じろぐが、このウェブは慎二のお手製魔術ウェブだ。鋼鉄ワイヤーの30倍の強度を誇り、粘り強く切れにくい。熱に弱い特性はあるが人肌の温度、それに冬である今の季節にワイヤーを溶解させる熱を出すには時間がかかりすぎる。その前にセイバーはあっという間に拘束されてしまった。

 

「はっはっはっ!!サーヴァント同士の戦いをマスターが割り込んで止めるたぁ前代未聞だ!!」

 

青タイツも槍と手をがっちり固定されながらも蓑虫にされようとしている騎士を見て楽しげに大笑いしていたが、士郎からしたらどっちも同罪である。

 

「マスター!あなたは正気なのですか!?」

 

「ああもう絶好調に正気だね!!ただでさえ冬木にはヴィランが多いってのに訳もわからないうちに青タイツや赤タイツの戦いに巻き込まれるわ、同級生の女の子には蹴られて肋骨を痛めるわ、家に帰っても青タイツの変質者に襲われるわ、挙げ句の果てに戦争に巻き込まれたんだってさ!!もう最高の1日だね!!夢なら覚めて欲しいほどに!!けど君の一撃じゃ覚めなかったからこれはきっと現実なんだな!!」

 

騎士を縛り上げて手を軽く払う。これにて一丁上がりだと自信満々に通信機越しの慎二に伝えたが「うん…まぁそれでいいよ…」と抑揚のない声で言われてしまった。何かまずいことをやったのだろうか。

 

「全く面白いものを見せてもらったよ、セイバー。ここらで手打ちにしようじゃねぇか。俺もマスターの要望で本気を出すことはできねぇしな」

 

すると、もう一人の厄介者であった青タイツがいつのまにか屋根の上へと跳躍してそんなことを言った。

 

「逃がすとでも思ってるのですか、ランサ…」

 

咄嗟にセイバーと呼ばれた騎士が走り出そうとしたが、士郎がウェブをピンと引っ張ると足に絡み、セイバーは顔から地面へと転けた。

 

「へぶっ!!」

 

「あーもう!少しは話をするという知恵を見せてくれない!?猛進の猪じゃあるまいし!」

 

「だ、誰が猪ですか!!」

 

離してくださいと暴れるから、更にウェブを見舞って、士郎は屋根から見下ろす青タイツこと、ランサーを見上げた。

 

「ランサーとか言ったよね、俺は冬木で戦う親愛なる隣人、スパイダーマン。アンタが悪さをするなら俺が全力でアンタを倒す」

 

「はっ、スパイダーマンね。…覚えておこう、次にあいまみえる時、その心臓、この槍が必ず獲る」

 

赤い目と同じ槍に殺気をみなぎらせてそう告げたランサーは、音もなく飛び上がると冬木の住宅街の中へと消えていった。

 

「待て!ランサー!邪魔をしないで下さい!マスター!」

 

「とにかく落ち着いてってば。こっちはわからないことだらけなんだから」

 

蓑虫の上に地面へとへばり付けられたセイバーを前に士郎は屈みながら困った顔をした。聖杯戦争やらサーヴァントやら、魔術については三流、四流もいいところの士郎にとってはわからないことだらけだ。その様子に、顔を見上げるセイバーは不満そうに睨みを強めた。

 

「だったら、その奇怪な覆面を脱いで話をしたらどうです!!」

 

「奇怪な…割と気に入ってるんだけどな。これ」

 

これ以上話をややこしくするのは得策ではないし、セイバーの抗議を聞き入れるわけにもいくまい。士郎は疲れたようにため息をついてから、顔を隠していたマスクをズルリと外した。

 

「これでいいか?」

 

そして自分の前。ちょうど玄関先が見える場所で立ち止まっている人影を見つけた。

 

「うそ…衛宮くん…?」

 

そこに立っていたのは、さきほど学校で強烈な蹴りを自分に浴びせてきた張本人、遠坂凛だった。

 

「…なんでさ」

 

通信機越しに再び慎二は顔を手で覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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