ネギマシニカル   作:敗色

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第三話

そしていつしか中学一年生。時が経つのは速いもので、この分では次に振り替えるときにはもうネギ先生と会っているかもしれない。

 

というからには、もちろんまほチュー生である。僕は男子で木乃香と刹那は女子。寮が違うから今までのようには会えなくなるのかと思うととても寂しい。まほチューも共学にしたらいいのにと思う。そうなれば僕も今まで通り木乃香や刹那と学校に通えるのに。

 

そんなことを言っても始まらない。始まらなくても終わってしまうのだから、せめて始めてから終わろう。

 

「入学おめでとう。制服、よく似合ってるよ」

僕の笑顔と拍手の先にいるのは言わずもがな、木乃香と刹那の二人だ。世辞でもなんでもなく、本当に制服がよく似合っている。まあ二人とも美人の卵だから? どんな服でも大抵似合うんだけどね?

 

「ありがとうな、さぎくん」

 

「ありがとございます、さぎくん」

 

はにかむ笑顔がとても可愛い。なんとも愛らしい。実に愛しい。

 

入学式後の一幕。先生方の訓辞を受け小学生から中学生へと変貌を遂げた、初々しいながらも達成感のあるようなないような子供たちの、その爪先は一様に各々の教室へ向いている。

 

皆ワイワイと楽しそうだ。中には保護者と笑顔を交わし合っている親子も見える。木乃香の実父で僕の養父で刹那の身元引き受け人である詠春さんは、残念ながらここにはこれていないが。講堂の内外で白い虫やら鳥やらが飛び交っていたから、式神越しに映像をご覧になっていたのだろう。

 

僕と刹那はその事に気付いているが、生憎木乃香は気付いていない。本当に見てもらえていなかったと思っているだろう。

 

そのために僕がカメラを回していたから、言い訳は立つと思うけど。

 

「まほチューは男女別だし、僕たちみんな寮に入るから、これからは会えるのは放課後か休日だけだね。その休日だって、友達と出掛けたら僕とはいられないしね」

 

「そうやね、少し寂しなるかもなー」

 

「そんなことありませんよ。別に会えなくなるわけでもありません。確かに会う機会は減るかもしれませんが、だからと言って皆無というわけでもないでしょう」

 

「そやね、会えた時にいっぱい遊んだらええんやし!」

 

「そうそう」

 

「ほな、その時はさぎくんは荷物持ちやな」

 

「あれ、僕とは遊んでくれないの?」

 

ころころと笑う木乃香と、口元を押さえる刹那。おしゃべりも楽しいけど、そろそろ移動しないと中学校生活最初のホームルームに遅れてしまう。それはよくない。

 

「木乃香~、置いてくわよ~」

 

「今行くえ~」

 

離れた位置から茶髪ツインテールの元気な少女が手を振っている。木乃香も大きく手を振って応じた。名残惜しいが、今日のところはここまでか。

 

「じゃあここで。僕も教室に行くよ。二人も早く行っておいで」

 

「そうやね、いこか、せっちゃん」

 

「はい、お嬢様。ではさぎくん、また」

 

「うん、また」

 

 

 

 

 

まほチューの男子校舎にて、僕はホームルームを受けてホームルームが終わって今は男子寮に居る。誰が居るのかと言うと言うまでもなく僕だ。

 

男子寮の二階。階段から廊下を右に5部屋左に6部屋行って回れ右、反対側廊下の端まで歩くと僕の部屋がある。

 

室内はまあ、いたって普通のはずだ。前世と比べると豪邸、今の近衛の本家と比べると物置、くらいのクオリティかな。こう考えると僕も波瀾万丈な人生を送っている。当たり前の二週目とも違って魔法のある漫画の世界だけあって大分波瀾まみれだ。

 

「おおい罪口、荷ほどき終わったか?」

 

「僕は終わったよ。谷愚痴は?」

 

「俺はもう少しだな。お前の手品に驚いてたら手が進まなかった」

 

「手品なんて披露した覚えはないけど」

 

「服の中からあんだけ物が出てきたら手品だっての」

 

うろんげな眼差しの谷愚痴。僕と相部屋の同級生で、能天気なバカ。こいつとルームメイトになれたおかげで、谷愚痴の親友(本人曰く腐れ縁)だという國喜田とジョン(ニックネーム)とも話をした。入学初日から友達A友達B友達Cが仲間になりたそうにこちらを見てるなんて、快挙だと言えよう。

 

ぼっちにならずにすんだ。

 

寮の部屋の編成がどれくらいのスパンで変わるのか、あるいは変わらないのかはわからないけれど、少なくともしばらくは同じ部屋で寝るわけだから、何はともあれこれと仲良くしておかなくてはいけないわけだ。

 

「どうした罪口、顔が暗いぞ」

 

「なんでもないよ谷愚痴。名前が少し被っていてこれから先口々コンビなんてセンスの欠片もないあだ名でひとくくりにされないかが少し心配なだけ」

 

「なんだそりゃ」

 

男と華々しい話なんてできるはずもなく、僕の興味はすでに今夜のイベントに向かっていた。

 

昼食に食べたパンの中に入っていた紙片を思い出す。魔法関係者に配付された秘密文書だ。そこに短い文言であったのは、ようするに新入生の実力が見たいと、そういうことだ。

 

学力は小学校の成績やらでわかるが魔法の習熟度や得意傾向はわからない。だからそれを見たいということらしい。魔法使いとして目指す方針によっては、夜の警備の経験も積ませてくれるらしい。ふむ、流石は学術機関。そのあたりは充実している。

 

ちなみに紙は和紙だったので飲み込んだ。バーベキュー味だった。

 

 

 

 

 

夜。世界樹前広場。

 

まさしく世界を睥睨するような威容を前にして、若い魔法使い見習いは緊張も露に、魔法使いとして立つ教師は悠然と、各々学園長の言葉を待っていた。

 

視線の先の老人、近衛近右衛門。

 

入学式の穏和な印象は臥され、今は静かな威圧感を放っている。

 

まるで偉大で尊大な、大魔法使いの風格が滲み出ている。

 

あれ、僕のお爺さんなんすよ。

 

あれ、孫娘を溺愛する狸なんすよ。

 

今は多分キャラを作ってる。新入生に、自分が見せたい第一印象を作ってる。

 

そのシワだらけの狸が、シワに紛れそうな口を開いた。

 

「新入生の諸君、こんばんは」

 

拡声器の類いを使っていないのに声が響くのは、そういう魔法でも使っているからだろうか。

 

「今朝も挨拶をしたが、今朝とは別の人物として改めて挨拶させて欲しい。関東魔法協会の長、近衛近右衛門じゃ」

 

実際に「~じゃ」って言う人を始めてみた。小説にせよドラマにせよアニメにせよ、ああいう話し方をする、いかにもでございって老人が出てくると、冷めるよね。わざとらしくて。

 

そもそもなんであんな話し方が老人の話し方の定番として定着したのかがわからない。昔はみんなああやって話していて、時代とともに一般の話し言葉は変わっていったけど老人にはその変化が及ばず、結果として老人は自分がいきていた時代に有った話し言葉を話続けていたら、あの話し方が老人のそれとして定着してしまったとか、そういう話だろうか。

 

「さて、今夜みなに集まってもらったのは他でもない、同胞となる諸君らの、魔法使いとしての実力を知りたいのじゃ」

 

話が長い。要するに、新入生たちが各々の魔法を、もっとも得意なパフォーマンスとして披露しろと、そういうことだろうが。

 

「無論、諸君らは全てが魔法使いではないだろう。ここに集めた基準は魔法の知識があるかないか。魔法に接した事があるかないか、じゃ。中には、魔法に関わっているが自分では使わず、気の運用に絞った者もおるじゃろう」

 

刹那はここに分類される。

 

その刹那は今新入生の女子と仲良さそうに話している。長身で色黒、長い黒髪の女子生徒だ。僕の原作知識が確かなら、彼女は龍宮真名だと思う。

 

「そういった者たちは、そうさな、教師と模擬戦を演じてもらおうかの。幸いうちには戦闘に関してプロフェッショナルと言える教職者が数多くいる」

 

横に控えている教師たちが軽く一礼した。クールな美人女史、礼服を着たシスター、その他男性教師。

 

早速新入生の実技披露が始まった。程なく刹那の番も来るだろう。僕は集まっている面々をゆっくり見回した。

 

今となっては十年以上昔の記憶だが、微かにそれに引っ掛かる顔が複数見られる。あの長身で糸目の女子は、確か楓だとかいうくの一だったかな。彼女も呼ばれたのか。

 

あ、あのおっぱいが大きな美少女は、かの有名な脱げ女、高音・D・グッドマンじゃないか? そうか、先輩たちも見学に来てるんだ。僕の戦闘見せるときは彼女を指命しようかな。是非間近で見たい。

 

もちろん声には出さない。多くの男性が思うことだとしても、声にしてしまえばたちまち変態扱いを受けてしまうだろう。僕は断じて変態ではないので、不名誉かつ不内実な変態の名を被るのは本意じゃない。

 

翻意して変態扱いを望むことはあるかもしれないけど。いややっぱないか。

 

「さぎくん」

 

「うん?」

 

「先に行きます。見ていてください」

 

刹那が愛刀の夕凪を携えて広場中央に歩いていく。行く先にいるのは眼鏡をかけた綺麗な女教師、刀子さんだった。

 

葛葉刀子さん。神鳴流の剣士で、僕や刹那に神鳴流の剣を教えてくれた師匠の一人だ。そして今生の僕に生命の危機を感じさせてくれた人物でもある。

 

刀子さんが結婚して西を出る前、僕が詠春さんの養子になったばかりの頃、やはりいい顔をしなかった多勢の大人たちの中、刀子さんは僕を可愛がってくれた。年も年だし、あの頃には付き合っていた彼氏もいたみたいだし、子供というものに一種の憧れでもあったのかもしれない。

 

例えば「ぼくおおきくなったらおかあさんとけっこんする」的な出来事を夢見ていてもおかしくはなかった。事実刀子さんは「大きくなったら私をお嫁さんにしてくれる?」的なニュアンスのことを言っていた。しかし僕は言ってしまったのだ。

 

そう、「え、行き遅れるんですか?」と。

 

僕が見取った神鳴流の技は、あのとき刀子さんから見取ったものが大半、いやほぼ全てだったろう。ちなみにだが、僕に向けて打たれたのではなく八つ当たりで他の剣士に放たれたものだった。鬼気迫る様子に、あれを読んだのが自分だと思うと戦慄した。

 

余談だった。閑話休題と銘打って話題転換を謀りたくなるレベル。

 

「お久しぶりです、刀子さん」

 

「ええ、久しぶり刹那」

 

二人の女剣士が挨拶を交わす。立ち位置はもう刹那の間合いに入っている。当然、刀子さんの間合いの内でもある。しかし二人はすぐに斬り結ぶことはせず、言葉を重ねていく。

 

「久しぶりなんて言っても、結婚と離婚の報告のときに戻って会っているけどね」

 

「刀子さんと離婚するなんて、きっと相手の方は特別な嗜好を持っていたんですよ。刀子さんほどの美人を袖にするなんて、それ以外は考えられません」

 

「あら、刹那もお世辞を言えるようになったのね。そういう人としての成長も嬉しいわ」

 

刀子さんは言葉を切って僕にチラと視線を送った。そしてため息ひとつ。

 

「鷺志がああなる前だったなら、そのお世辞も多少は喜べたんだけどね」

 

それはいったいどういう意味なのか。

 

「鷺志も、有名になったわね」

 

優しげな笑みを僕に向けてくれた。優しげだが気遣わしげで、不安そうで困惑そうで困り果てているようでさ迷っているような笑みだった。

 

「僕のことはいいですから、早く刹那の実力を見てあげてくださいよ。飛躍的に進歩してますから」

 

「そうね。あなたの影響を受けている誰かと向かい合って話をしているなんて状況は落ち着かないわ。いっそ背中を向けていた方が安心できそう」

 

「ありがとうございます。安心して背中を任せてください」

 

「そういうことじゃない……」

 

刀子さんは疲れたような表情でため息を吐いた。そういうことではないというのならどういうことなのか、聞いてはみたいが話がそれそうだから止めておこう。

 

「では、行きます」

 

「どうぞ。正直今の会話の最中に斬りかかられると思ってたわ」

 

「そんなことはしませんよ」

 

それを最後の言葉として、刹那は夕凪を抜き放った。光を反射し濡れたように輝く刀身は美しく、見慣れている僕も思わず見とれてしまう。

 

対する刀子さんは二刀を構える。野太刀・夕凪と比べるとその刃渡りはまるでオモチャのようだが、油断なく上下に配された二刀に隙はなく、たった二本の刃物から空気に滲む迫力は、見ている者の首筋にそれが押し当てられているかのようだ。

 

刀子さんは、本気で刹那に向かい合っている。その価値ありと、それだけの実力ありと見ているのだろう。はじめから両手に武器を持っている。しかも鞘ではなく二刀をだ。

 

夕凪の間合いを潰すつもりまんまんである。大人気ない。

 

「桜咲刹那。参ります!」

 

「葛葉刀子。来ませい」

 

駆ける刹那。迎える刀子さん。他の凡百の剣士とは一線を画する剣閃が交錯する。

 

 

 

 

「参りました……」

 

脇の下と首筋に刃を押し付けられ、刹那は悔しそうに目を伏せた。

 

「ま、順当な結果かなぁ」

 

いかに刹那が天才で可愛くて努力家で美人で飲み込みがよくて刀子さんよりも早く結婚しそうだとしても、やはり十年以上にも渡る経験の差は埋めがたかったらしい。

 

刹那も大変な健闘をしたのだが、辛くも刀子さんには及ばなかった。刀子さんが神鳴流の本道、一刀で戦っていたなら、決着はもっと早かったかもしれない。

 

「すみません、勝てませんでした」

 

「いや、いいんだよ刹那。僕たちは護衛、その役は脅威の排除。必ずしも倒さなくていいんだ。僕たちの持ち主が逃げるための時間をかせければ、それで重畳さ」

 

「はい……」

 

「とはいえ護衛には直接的な強さが必要なのも事実だし、鍛練はこれからも頑張ろうね」

 

「はいっ!」

 

僕たちがそんな話をしている間にも、新入生の実力テストは続いている。龍宮とグラサンの先生が激しい撃ち合いを演じている。グラサン先生は手に何も持っていないことから、恐らくは魔法を使っているのだろう。何て言ったかなあの先生、確か学園祭で活躍していた先生だと思うんだけど、思い出せない。

 

眺めること数試合。順調に新入生たちが敗北していく。

 

これはもしかしたら、新入生たちに教師の力を誇示するための、一種の示威行為なのかもしれない。新入生の実力を計り、教師の実力を示し、その差を示して教師の絶対性を高めると共に、生徒の奮起を促す。

 

新入生全員が戦闘でのパフォーマンスをしているわけではないが、それでも見学していれば教師の強さは示すことができる。いやもちろん、断言なんかできないが。

 

とうとう新入生の全員がパフォーマンスを終えた。残るのは僕のみ。学園長の視線が僕に向けられ、他の教師や新入生も僕に注視した。

 

「では最後には、罪口鷺志。君を見ようかの」

 

豊かな髭を撫で付けながら、学園長はそう言った。

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