TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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10話『特訓初日』

「それじゃ、第一回目の特訓を始めたいと思うわ」

 

「よろしくお願いします!!」

 

 試合が終わった翌日、ヤヤと二人で近所の樹海の少し深くまでやって来た。名前は不明。人よりも遥かに太い木や植物で森が形成されており、一瞬自分が小さくなったのかと錯覚してしまう。

 

 ここまで来る間にウォームアップは済ませたので、早速始める事にした。

 

「まずは能力を教えて貰うわ」

 

「能力? 練とか見せなくていいの?」

 

 当然の疑問ではあるわね。

 

 ただ、私の方針だと基礎はとりあえず置いておく。

 

「そんなもの見なくても問題ないわ。大事なのは必殺技、能力よ」

 

 基礎が大切なのは分かるけど、私は重要だとは思っていない。

 

 念の移動速度が戦闘での奥義で、その念を増やす事が強さにつながるのはわかる。

 

 それでも、いくら念総量が上だろうと能力次第じゃ倒せる。むしろ能力があるから相手を倒せる訳で、念の総量が勝負を決める訳じゃない。

 

 だからこそ重要なのは自身の能力を、真から理解する事。

 

 自分で作っているのだから知っていて当たり前ではあるけど、もっと使い方がないか詮索する事によって戦術が広がる。

 

 もっとも、カストロの様にメモリ不足になってしまったら、そこで終了なのだけれど。

 

「分かった。一から説明するね」

 

 それに、槍を"周"を使いながらしっかり戦えていたので、ヤヤの基礎能力はかなり高い。見るまでもなく優秀な部類。

 

「能力名は超突猛進(スーパーチャージ)。試合中に読まれたけど、突進力の強化だよ」

 

 ……いえ、突っ込まないわ。名前なんて飾りだもの。

 

「用途は試合で見せた通り。分かってると思うけど、どの方向にも使えるよ」

 

「試しに一人で動いて貰っていいかしら?」

 

「うん、了解」

 

 ヤヤから少し離れて、動きを観察する。

 

 私の思った通り、本来はかなり優秀な能力だった。相手が私じゃなければ、瞬殺できたはず。

 

 全方位にショートダッシュ。空中に跳ぶ事はもちろん、降りる事も可能。動作には緩急があり突進という性質上、進む方向は丸分かりでも急転回は出来るのでリスクにならない。

 

 槍を掴んでも、槍だけを後ろに動かす事により返し刃にやられるか、そのままヤヤの直打のコンボ。

 

 ちなみに、あの槍は親父さんの念能力によって作られた物らしい。職人気質っぽいと思っていたけど、まさか鍛冶が念能力だと思わなかった。

 

 親父さんの名前は正宗。作った武器などはすべて小さく収納できる、ちょっとしたミステリーアイテムになるらしい。

 

 一瞬、念の範疇を越えていると思ったけど、特質系らしく本来は鍛冶職人と聞いてなんか納得した。

 

 私が試合中に弱点を教えたからか、横払いを動きから除外している。

 

「うん、大体わかったわ」

 

 手を二回叩いて、終了の合図を出す。

 

「どう?」

 

「その能力自体には問題ないし、動きも悪くない。私が教えた欠点も克服出来ている様ね」

 

「良かった」

 

 ヤヤはほっと胸を撫で下ろした。

 

 まあ、良い事なのは間違いないけど、実際にはまだまだ。私からすれば動きに無駄があるし、全体的に甘い。

 

「それじゃ、次の能力を見せて貰うわ」

 

「あー、えーっと」 

 

 次の能力を見せてと言っただけなのに、何故か歯切れが悪かった。

 

 視線も空に向いているし、そんなに使えない能力なのかしら。

 

「どうしたの?」

 

「まだ、考えてないんです」

 

 苦笑いでそう言ってくる。

 

「なるほどね」

 

 それならそれを考える必要が出て来るけど……強化系のヤヤなら一個だけ直ぐに浮かぶわね。

 

「それじゃ、一つ提案してもいいかしら? もちろん、自身のフィーリングは大切だから、聞いてしまうと影響されるかも知れないし、アイデアがあるなら聞くわ」

 

「それが、スーパーチャージは直ぐ決まったけど、他は全然ダメなの」

 

 ゴンみたいな感じね。強化系はこういう所が難しいのかしら。

 

 ……と思ったけど、私もかなり迷ったし誰だって普通ね。

 

「分かったわ。これはあくまで参考だから鵜呑みにしないで欲しいんだけど……槍の矛先を変化させるってのはどうかしら?」

 

「矛先……?」

 

 あ、これじゃ伝わらないわね。

 

「つまりは、"周"で槍を強化してるでしょ? そして、刺す時の槍頭のオーラの方向を変化させるのよ」

 

「ああ、なるほど!!」

 

 どうやら理解してくれたらしい。

 

「実用にするのは難しいけど、戦闘で使えればかなり厄介な能力になると思うわ」

 

 この能力があれば、まず近づく事が難しくなり、懐に入られたとしても方向を変えて刺せばいい。

 

 攻撃を読んでかわしても命中し、一発の致命傷が勝負となるこの世界なら、勝利を掴むのが簡単になる。

 

 もちろん念の力強さや能力発動の速さ、ヤヤ本人が強い必要がある。

 

 それを踏まえても、完成した時にはまさに一撃必殺の能力。

 

 王様を倒すとかになると別問題になるけど……大概の相手は楽々と倒せるはず。

 

「うん、なんかしっくりきたかな」

 

「それは何より」

 

 ヤヤの笑顔に、思わず抱き締めそうになったけど自重した。

 

 これから特訓を始めるのに、こんな序盤で私が暴走して流れを断つのも悪い。

 

 ……本当は今すぐにでもベッドにレッツゴーしたいのだけれど。

 

「えーと、変化系の特訓でいいのかな?」

 

「そうね。まずはオーラの形状を変える所から……あ、無理だわ」

 

 ビスケの様に、オーラを数字に変えようとして思い出した。

 

 私は、変化系を使った事がない。

 

「えぇ!?」

 

 意外だったのか、教えるのが無理だと捉えたのか分からないけどヤヤに驚かれてしまった。

 

 ただ、無理なものは無理なのよね。

 

 今日一日で変化系を鍛えようにも難しいし、教えるとなれば持っての他。一瞬、ヒソカに頼もうと思ったけどそれは嫌だし。

 

 となれば、出来る事は口での説明になる。

 

「ごめんごめん。私は変化系使えないのよ」

 

「それはちょっと困ったね。リナは何系統なの?」

 

 あれ? それも伝えて……なかったわね。

 

「特質系よ」

 

「特質!? 強化系じゃなかったの?」

 

 またヤヤに驚かれる。

 

 強化系だと思われたのは、恐らく試合中の動きから。ヤヤの突進力を強化した速度に、私が何の能力も見せずに追いついていたし、身体能力の向上と見たんでしょう。

 

 実際は特質系だけど、あながち間違いじゃないから、ヤヤの観察眼は良い方ね。

 

「それじゃ、順番に説明しましょうか」

 

 他人にばれるとリスクが増すんだけど……まあ、いいわ。明確な弱点がある訳じゃないし、ヤヤの敵は私の敵でもあるしね。

 

「ん? どうしたの?」

 

 そして、見せようとした所で戸惑った。

 

 確かに、能力を教える事に問題はない。その説明に見せるのも問題ない。

 

 ただ、能力の半数が目に見えない。

 

 一応はオーラが増幅するから分かるだろうけど……うん、何となく理解してもらいましょう。

 

「何でもないわ。それじゃまず、特質の能力からね」

 

 試合ぶりに能力を発動する。

 

「以上よ」

 

 発動はしたので、ヤヤをからかう為に説明を端折ってみた。

 

「ごめん、全然わかんない」

 

 すると困った顔をされ、また抱き締めそうになる。

 

 どうして美少女の表情というものは、私を動かそうとするのかしら。

 

 我慢は身体に毒だから、本当に惜しい。今すぐベッドに行けないのが惜しい。

 

 まあ、最終どこでもデキるけど……やっぱりベッドが一番ね。

 

「ま、またいつものオーラ出てるよ」

 

「これは失敬したわ」

 

 ヤヤに指摘されたので思考を元に戻す。

 

 もうヤヤには私の性癖については試合が終わった後に説明してある。そして、その上で特訓をして欲しいとの事。

 

 だからといって、ヤヤ自身はノーマルだと言っていたし襲って欲しい訳じゃないはず。

 

 もちろん、そんな事は私に関係ないので、その時は残念と伝えた。

 

 ちなみに、この指摘で本日15回目。

 

 これだけ我慢している私を褒めて欲しい。

 

「で、説明に戻ると……今の状態の私は、具現化・操作を"200%"。強化を"140%"で使えるわ」

 

「えぇぇぇ!?」

 

 今度は驚かれてもしょうがない。

 

 本来、念とは六系統に分かれ、自身の適性によって使えるレベルが違う。

 

 元にするのは六性図。強化・放出・操作・特質・具現化・変化と時計周りになっており、その中の一つが本人の適性になる。

 

 そして、適性系統を最後まで極めれる数値は100%。そこから特質を除いて、1つ離れて行く毎に20%下がる。

 

 例えば、特質系の私は特質が100%。操作・具現化が80%。変化・放出が60%。反対側の強化が40%。

 

 これは念能力の基本中の基本で、誰もが知っている事。だからこそ、ヤヤが驚愕したのは何もおかしくない。

 

「ミステリーポイント。制約と誓約は知っているかしら?」

 

「う、うん。自分が決めたルールに従う事によって、念能力が強くなるって奴だよね」

 

 しっかり教えたのね、親父さん。

 

「私はそれを使って、念能力全体を強化しているわ」

 

「……でも、どういう能力なの?」

 

 少し長い説明が必要ね。

 

「適性系統を削って、その値を四倍にして他の系統に割り振る事が出来る。能力名は、私が定めた変価交換(これが私の現実)。これを使って、私の変化系の60%と放出系の25%を三つに振り分けているわ……つまり、340%を強化に100%。操作・具現化に120%づつね。上がるのはキャパシティであって、それに伴って能力レベルも上昇しているわ」

 

「……ほえー」

 

 驚きを通り越して唖然。ヤヤの表情からそれが伝わった。

 

 理解はしてくれた様で良かったけど、そこまで驚く能力……うん、原作知識がなかったらこの発想は浮かばなかったわね。

 

「で、ここからが本命なのだけれど……説明いるかしら?」

 

「いるよ!? なんでそんな質問したの」

 

「ぶっちゃけ、面倒」

 

「うわぁ……ぶっちゃけだね」

 

 本当に面倒なのよね。

 

 大前提の能力は説明したけど、ここからまだまだ説明が必要。

 

 これからヤヤとチームを組んで戦う事になるとはいえ、私は一人の方が楽。目的の為なら人を殺したりもするし、やりたい事が多いから自然と振り回す事になるはず。

 

 その時にヤヤが足手まといになると思わないけど、役に立つとも思わない。自分の性格を理解し、強さを自負しているからこそ、そう思う。

 

 こんな私は本来、仲間を持つべきじゃない人間だわ。

 

 それなのに今回、ヤヤを加えるのはとんだ笑い話にしかならないわね。

 

「一部だけでいいかしら?」

 

 結論、強化系の能力だけ説明しましょう。

 

「うん、それでいいよ」

 

 あっさりと了承された。

 

 その対応に、逆に全部話そうか悩み、意見を曲げずに進める事にする。

 

「ヤヤを倒した強化系の能力。名前は『星帝(セイクリッド・エンペラー)』。身体能力、念総量、顕在オーラ量が全て向上。140%もあるから、どのぐらい強くなるかは……ちょっと見せましょうか」

 

 まずは適当な近い巨木に能力なしで、攻防力50でパンチ。木を砕いた音が辺りにこだまし、動物たちの鳴き声が聞こえる。

 

 殴った衝撃で細かい木片が私に飛んできて、決して当たってもダメージにならないけど、木が倒れて来そうだったので、ついでにひょいっと身体を横に移動して回避した。

 

 木は結局、他の木に引っ掛かって倒れて来なかった。

 

「まあ、これが能力なしね」

 

「いやいや、どんな威力なの!? 気になって殴ってみたけど、多少砕けただけだったよ!?」

 

 なるほど、同じ様な音が聞こえたのは、やっぱりヤヤが木を殴った音だったのね。

 

 ヤヤが殴った木を見ると、五分の一は砕けていた。木の直径が10m位なので、かなりの威力だと思う。

 

 私は五分の三を砕いたので、ヤヤの三倍くらい威力がある事が分かった。

 

「気にしないで良いわ。次は能力ありだけど……」

  

 攻防力25って所かしら。これで同じだけ砕いたら能力での強化は大体二倍って分かるし。

 

 威力を決めたので早速パンチ。そして、先程と同じように移動した。

 

「このように、能力ありとなしだと二倍の差があるわ」

 

「凄いのは伝わったけど、まだ能力あるって事が怖いくらいだよ」

 

 むしろそうでないと困るのよね。一般人守りながらでも、戦って相手を倒せるぐらいじゃないといけないし。

 

 まあ、大抵の相手は星帝と体術だけで倒せるはずだから、使用するのはいつになるやら。

 

「そんなものよ。強化系の能力は以上……あ、完全に忘れていたわ」

 

「ん?」

 

 そう言えば、この能力にちょっとしたおまけが付いていたわね。

 

「見せる事は難しいから言葉だけになるけど、この能力を発動してから身体の部分が無くなれば、大体再生するわ。もちろん即死なら無理だし、発動した時の身体の情報通りにしか再生しないけど」

 

「緑の宇宙人?」

 

「やめなさい、その例え」

 

 ピッ○ロは嫌よ、ピ○コロは。確かに腕は再生してたけど。

 

 というか、この世界にあるのね。ジャ○プ繋がりかしら。

 

「ご、ごめんね。けど、それが本来の能力だよね?」

 

「多分そうだけど、再生させる場面なんて一生に一度あるかないか」

 

 確かこの能力を考えたのも、女の子の前で戦って、腕無くなった後に勝って──『お前がいてくれたから』とかほざいて、俺格好良いをしたかったとかだったわね。

 

 ああ、今考えると阿保だわ。本当に阿保。

 

 普通に圧勝する方が間違いなく格好良い。

 

「なんかもう、規格外だね。リナに勝てる人いるのかな……」

 

「きっといないわよ。むしろいたら困るわ」

 

 一応、能力相性として操作系に倒される可能性はあるけど、操作系なら倒される前に倒すのは余裕。王様の肉体レベルで操作系ならやっといい勝負。

 

 前提条件として、私が星帝だけを使っている場合のみだけど。

 

「あっさり言っちゃうんだね」

 

「ええ。で、そろそろ特訓始めましょうか」

 

 ずっと脱線していたので、通常軌道に戻す。危うく本来の目的を忘れる所だった。

 

「あ、そうだね。まず……変化系の特訓かな?」

 

「そう思ったけど、ちょっと待って欲しいわ。別の能力でヤヤを見るわ」

 

 間違いなく、実戦感が無くなっているわね。

 

 しっかりと戦闘能力以外の能力を作っていたのに、なんで使ってなかったのかしら。

 

 確かに使う意味すらない場面と相手だったのはある。今日まで"凝"も"円"も覚えている回数しか使ってなかったし。

 

 ……まあ、面倒だったのが一番かしら。もちろん二番目は意味ないから。

 

「別?」

 

 ヤヤの疑問に答えずに、操作系の能力を発動し"円"を使用した。

 

「"堅"の持続が一時間ほど。"円"も簡単には出来るのね……前方向のみってなんか面白いわね。能力と性格の影響かしら」

 

「え、私の情報?」

 

「これがもう一つの能力。 能力名は『星帝の世界(セイクリッド・ワールド)』。私が"円"で触れた万物の性質等を、欲しい情報だけ選択して把握出来るわ」   

 

 ビ……ビー? なんとかの能力を参考にして作った能力で、人を選択するとその本人が知らない事はもちろん、才能も把握可能。簡単に言えば、ゲームのステータス画面の様な物を頭の中で見る事が出来る。

 

 ただし、ステータス画面といっても体力や念の総量を正確な数値として見る事は出来ない。それに加えて過去、性格、所持金等。本人とは現状関係なく性質でない部分、事柄も無理。

 

 つまり、理解しているけど説明は出来ない事がある。

 

 本来は戦闘の前準備で使う能力で、相手の能力、必殺技、顕在オーラ、念の総量、癖、好む戦闘スタイル、テンプレになっている動きを大雑把に確認し、戦闘に挑む。

 

 結果として、相手は私に弱点と能力を知られている上で戦闘をしなくてはならない。念使いとして、最も隠匿すべき個所がばれている状態で戦うのは、軽く死を意味する。

 

 今回はヤヤを対象にしているけど、私自身に使う事も可能。適当にコンディションを測ったりして、病気になってないか判別できる。

 

 もっとも、そんなヤワな身体じゃないので病気にはならないけど。

 

 ちなみに、この能力は特質との複合で、"円"の性質を操作している……解釈なんだけど、本来この解釈が出来るとは思っていない。たぶん女神のお陰。

 

「あのさ……人間なの?」

 

「人間じゃなくても、ピッコ○大魔王じゃないわよ」

 

「それじゃ完全体の方?」

 

「セ○でもないわよ……って、そんなつまらない冗談を言うのはこの口かしら?」

 

 ヤヤの正面に移動し、両指三本を口内に突っ込んでから左右に引っ張る。

 

「いはははは、いあいほ!!」

 

 あ、なんかエロイ……これは続行ね。

 

 ちょっと感じた怒りはどこかに消え去ったけど、ぐいぐいと引っ張る。強くしたり、弱くしたり。

 

「ひなぁ、いはいって……ほんなにふうひはれはら、ふるひいほぉ」

 

 …………涙目で口から涎を垂らされたら、続行せざるを得ないわね!!

 

「ほひはひへ、はのひんえる!?」

 

「ばれちゃったわね……でもやめない!!」

 

 ヤヤががしっと私の手を掴んで来るが、能力を発動して抵抗。これでビクともしない。

 

「ちょっほ、なんへほんなほきだけぇ!?」

 

「こんな時に使う能力なのよ、きっと」

 

「へったいひがうよ!?」

 

 あ、そう言えば……。

 

 足を使ってリュックサックから魚肉ソーセージを取り出し、スカート部分が翻るのを無視して私の口元に持ってくる。

 

「はひっ!?」

 

 日頃から柔軟を欠かさない努力の賜物だ。

 

 そして、外のビニール部分を噛み切って開封。出てきた中身をそのままヤヤの口に突っ込んだ。

 

「んぐぅ!?」

 

「あぁぁぁ、いいわ。ヤヤのその表情、本当に最高よ!!」

 

 食べられると困るので指を四本づつに変えて、中から顎を固定。空いている両親指を使ってソーセージを前後に動かす。

 

「んぷっ、んむぅ!!」

 

 間違いないわ、このまま何時間でも遊べる。舐めて溶けてなるまで余裕ね。

 

 溶けるかどうか分からないけど……。

 

「もっといくわよ!!」

 

「ひはぁぁぁ!?」

 

 樹海の深い所に来ていて正解だったわね。

 

 なんて、呑気な事を私は思った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 リナがヤヤを玩具にして遊んでいる頃、遥か上空の部屋にてその遊戯に気づいた者がいた。

 

「んん? このオーラは彼女かな……物凄く邪悪だけど、どんな獲物を捕まえたのかな」

 

 似非マジシャン、ヒソカである。

 

「あ、この前の娘かな。彼女も中々に美味しそうだったけど……」

 

 ヒソカはトランプタワーを作っていた手を止め、ヤヤを狙った場合のリスクとリターンを考え始めた。

 

 だが、いくら考えても自身の天秤が釣り合わなかったので、考えるのを止めタワー制作に戻る。

 

「自分の命は大事にしないとね……死ぬのは最悪の結果だ」

 

 自身が最強だと思っていたヒソカは、リナに出会って価値観を変えた。いや、正確には最強になるにはどうしたらいいかを考えるようになった。

 

 今、トランプタワーを作っていたのも、思考だけでは手持無沙汰になるからである。

 

 ヒソカは自分より明確に強い人間。勝てる見込みすらない相手を見つけて、少なからず喜んでいた。それと同時に無謀だと感じていた。

 

 弱気になっているじゃなく、ただの事実。現状、リナに勝つ手段は全く浮かんでいない。

 

 能力も不明、本気の体術も不明。知っているのは、女性に対して変態で試合中は手加減している事だけ。

 

「悩むねえ……」 

 

 ヒソカはトン──と、一番下の段を指で叩き、未完成なタワーを崩す。

 

 やっぱり、勝利の方程式を見つけられないのだ。

 

 底知れぬ怪物。ヒソカはリナをそう捉えている。

 

 ただ、そんなリナにヒソカが付けた点数は0点。根本的に、ジャンルが違うと考えているからこその点数だった。

 

「彼女、どうやったらあんな化け物に育ったんだろうか」

 

 今度会った時にでも聞こうと思い、ヒソカは別の事を考え始めるのであった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「あ、顎が疲れた……」

 

「いい筋トレだったわね」

 

 ヤヤの口に魚肉ソーセージを突っ込んでから数時間が経過して、その行為が終了。無理やり突っ込んでいたので、歯に当たってちょっとずつ削れて最終的にヤヤの腹に納まった。

 

「けど、一体何の意味があったの?」

 

「ん?」

 

 もしかして、知らないのかしら。

 

「ソーセージを口に突っ込んで、そこまで意味あったかなぁって」

 

「……拷問の訓練?」

 

「あ、なるほど。そういう意味があったんだね。確かに苦しかった」

 

 これは、本当に知らなかった様ね。深くは突っ込まないけど……これは便利ね。

 

 今度から何かあったら、これを利用させて貰いましょう。

 

「でしょ? これからは時々メニューに加えるわ。それじゃ、特訓の続きやるわよ!!」

 

「うん!!」

 

 どうやら私の仲間兼玩具は、最高レベルで扱いやすい様だった。

 

 これから、どんな事をしようかしら。

 

 恐らく数か月続く特訓が、今日一日で楽しみの要素に全変わり。特訓メニューと称して、ヤヤに色んな事を強要できるなんて、私にはご褒美でしかないわね。

 

 特訓を続けるヤヤを横目に、私は別メニューを考え始めた。




更新遅れました。

そして、リナの能力の片鱗が出ました。


この物語は独自解釈が含んでいますので、能力について違和感を感じても、多少目を瞑って頂けるとありがたい。

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