TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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ヨークシン始まりました。遅くなってごめんなさい。これから頑張ります。


ヨークシン編
11話『いざ、新天地』


 

『さあ、始まりました!! 250階のフロアマスター、バーバリア……は?』

 

「ふぅ」

 

 試合のゴングが鳴り、何よりも早く。私は蹴りの一撃で対戦者の男を殺し、試合に蹴りを付けた。

 

 あ、蹴りに蹴りが掛っちゃったわね。恥ずかしい。

 

 誰かが聞いてる訳じゃなかったけど、顔が熱くなる。

 

 そして、リングに赤い花を咲かせた男の死体に背を向けて、私は会場から立ち去った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「結局、あの程度のレベルだったのよ」

 

 ヤヤの特訓を始めてから数か月。一週間後にヨークシンのオークション当日になる日に、ここでの最後の特訓を行っていた。

 

 私の見込み通り、ヤヤには恐ろしいほどの才能があり、飲み込みもかなり速かった。おかげで私の苦労は少なくて済んだ。

 

 むしろ、拷問の特訓と称して色々ヤれた事が、私にとってご褒美だったわね。

 

「いやいや、リナが強すぎただけだって。私ならもっと苦労したよ」

 

「大丈夫。ヤヤでも楽勝だったわよ」

 

 今回で、戦闘において大事なのは、改めて初動だと理解した。

 

 能力? もちろん大事よ。

 

 "凝"? 怠ってはいけないわ。

 

 だけど、相手が能力を発動する前に倒してしまえば、どちらも不要になる。

 

 いや、私は能力を使った身体能力で戦ったから、結局は能力に頼っている事になるけど……まあ、"凝"は不要だったわね。

 

「これだからチート人間は……」

 

 で、ヤヤは特訓と拷問の成果か、色々と強くなった。

 

 今の様に溜息を付きながら、私に文句? を言うのが増えたし、出会った当初より間違いなくメンタルは強固になったはず。

 

「チート人間じゃないわ……美少女よ!!」

 

 とりあえず、チート人間とか言う不名誉な種類分けは嫌だったので反論した。

 

「リナってナルシストだよね」

 

「否定はしないわ……だって、女の子だもん」

 

 いや、待て、私。反射的にポーズまで取って伝えたけど、別にナルシストじゃなかったわ。

 

 それに、最後の言葉。自分で言ってて気持ち悪い。

 

「あ、あ、そう」

 

 ヤヤの表情がとても愉快な事になっていた。

 

「うん、忘れて。ほとんど冗談よ」

 

「だ、だよね。良かった……本当にイカレタのかと思った」

 

「本当にって何よ。いつも私は普通でしょ?」

 

 ヤヤの言葉にすかさずツッコミを入れ、自分の意見を伝える。

 

「……え? ごめん、もう一度言って」

 

 すると、ヤヤは口を大きく開けてから、言葉を催促してきた。

 

 ヤヤの次の反応は、何となく予想出来るけど、もう一度伝える。

 

「……私は普通でしょ?」

 

「いやいやいや。どこをどう見ても──」

 

「ていっ」

 

「んぶっ!?」

 

 私は、ヤヤの口に魚肉ソーセージ二本を突っ込んで黙らせる。

 

 あと、一週間ね……。

 

 空を見て、これから会える原作キャラクターたちに思いを馳せた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 そして、9月1日の早朝。私とヤヤは、全身が隠れるローブを羽織ってヨークシンの地に降り立っていた。

 

「話した通り、仲間と合流するんだけど……とりあえず携帯ショップね」

 

「え、なんで?」

 

「ヤヤ、携帯持ってないでしょ」

 

「あ、そうだった」

 

 というのは一つの理由で、本当は三人と合流するのが楽だから。

 

 時間が不明なので、とりあえず早めに来たけど……大丈夫よね。

 

「でも、現金は持ってないし、カードも無いよ? 私はハンターじゃないし」

 

「……そこそこ一緒に生活してたのに、私が買ってあげる選択肢は浮かんでこないの?」

 

「いいの?」

 

 一発ぐらい、ヤッた方がいいのかもしれないわね。

 

 ヤヤとは本当に長い付き合いになりそうなので、しっかりと手順を踏んで好感度を上げているつもりだけど……遅いペースなのかしら。

 

「また、いつものオーラ出てるよ」

 

「出してるのよ!!」

 

 少し怒気を混ぜて返す。

 

 このヤヤの天然、どうにかなって欲しいわ。普通はボケ担当の私が、ヤヤのせいでツッコミにされるのよね。

 

 まあ、そこか可愛いのは間違いけど。

 

「な、なんかごめんね」

 

「いいわよ、別に。で、携帯ショップに着いたわけだけど……」

 

 ゴンたちの姿はなく、店内には店主が一人いるだけだった。

 

 なるほど。いくらヨークシンに活気があり、早朝から人が大勢いるとしても、何かないと携帯ショップには入らないから人がいないのね。

 

「いらっしゃい!! オススメは──」

 

「それよりも、黒髪と銀髪の、二人組の少年たちは来たかしら?」

 

 店主がカードサイズの携帯を手に近寄ってきたのを言葉で遮り、ゴンとキルアが来たか確かめる。

 

「いや、来てないね」

 

「そう」

 

 どうやら、ここで待っていれば合流できるらしいわね。

 

「それじゃ……この店にユートピアシリーズの4番以降があれば買うわ」

 

 品揃えは決して良くないけど、ちらほら高性能な携帯が見えるので、もしあればと思って訊ねてみる。

 

 もっとも、ユートピアシリーズがあるなら、店の奥から出てくるでしょうけど。

 

「……お客さん、冷やかしじゃないでしょうね?」

 

「ええ、もちろん」

 

 そう伝えると、店主が店の奥に消えた。

 

 どうやら、あるらしい。

 

「ねえ、ユートピアシリーズって何? 携帯に詳しいわけじゃないけど、テレビで宣伝してる奴?」

 

「簡単に言えば、ここに並んでいる携帯と、性能が天と地の差があるわ」

 

 値段も、その性能差の分だけ高いことは黙っておく。

 

 どうせ、値段を伝えたら断ってくるだろうし、買った後に伝えるほうが何倍も反応が楽しみだから。

 

「へえ~、凄そうだね。どんな感じなの?」

 

「全世界あらゆる所で繋がって、発見されている種族の言語翻訳がほぼ誤差なしで行われるわ。画面は小さくてもテレビを見れて録画も可能。もちろんネットも可能で、回線速度はほぼ一瞬……まあ、つまりは凄いのよ」

 

 説明が長くなりそうだったので、とりあえず辞めておいた。

 

 国のお偉いさんが使う回線を使えるとか、大体の所はその携帯を見せれば顔パスになるとか、ハンターライセンスとは別の領域をカバーしてくれるとか、まだまだ色々あるけどヤヤにはこの程度で丁度いいでしょうね。

 

「なるほどね。リナが持ってる黒いのも一緒の奴?」

 

「私は7番で、最新は8番よ。特に性能の違いはないわ」

 

 ヤヤにそう伝えた所で、店主がアタッシュケースを一つ持って出てくる。

 

「8番です」

 

 そして、私の目の前でケースを開けて型番を教えてくれた。

 

「買った。支払いはカードで」

 

 値段など野暮な物は聞かずにレジに向かってカードを渡し、それを店主がスキャンして何事もなく会計が終わる。

 

「最初の名義は支払った本人だから、今のうちにちゃちゃっと変更しておくわ」

 

「あ、うん。お願い」

 

 携帯会社に電話をコールし、ワンコール。

 

《リナ様、何かございましたか?》

 

「ジャポン出身のサクラヅキヤヤを、この携帯の所持者に変更をお願い」

 

《かしこまりました。少々お待ちください…………はい、確認が完了致しました。ご本人様はお近くにいらっしゃいますか?》

 

「ええ、代わるわ。ヤヤ、適当に確認があるから答えて」

 

「わ、わかった」

 

 携帯をヤヤに渡して、私は店主の元に向かう。

 

「良くあったわね」

 

「抽選で当たりましてね、借金をしてでも購入したんですよ。お陰で売れて万々歳です」

 

 そういえば抽選していたわ。

 

 ……でも、これなら上手く話が通りそうね。

 

「じゃあ、もう少ししたら少年二人組が携帯を買いに来ると思うから、無料にしてあげて。恐らくビートルの7型よ」

 

「了解です」

 

 これがユートピアシリーズが持つ影響力だけど、ヤヤには必要なさそうな、この無駄さがたまらないわ。

 

「終わったよ」

 

 電話が終わったようで、ヤヤが携帯を突き出してくる。

 

「ん、もうそれはヤヤの携帯よ。大事に使いなさい」

 

 手で押し返しながら言葉を伝えて、ヤヤに携帯を返す。

 

「うん……でもこれ、いくらするの?」

 

 ついに、来たわね。値段を教えるこの時が。

 

 私は右手の人差し指を一本だけ立てて、ヤヤに見せた。

 

「10万?」

 

 声は出さず、首を横に振って答える。

 

「え、100万?」

 

 もう一度、首を振る。

 

「……1000万?」

 

 また、首を振った。

 

「1億……?」  

 

 段々とヤヤの表情が曇り始め、私はここで声を発する。

 

「100億ね」

 

「タッカ」

 

 ユートピアシリーズは別名、宝石携帯。希少鉱石を数種類、余すことなく使い作られた携帯で、電導率が最高に良い。

  

 開発コンセプトは──『とことん豪華に性能良く』。開発コストを無視して作られた為に、値段が面白い事になった。

 

 一年毎に番号が進み、今年で8番目。1番目の値段が20億だったので、年に10億づつ上がっている計算になっている。

 

 しかし、いくら希少鉱石を使っているとはいえ、10億づつ上がるほど価値の高い鉱石が見つかっているわけじゃない。

 

 そこで会社は──『ガンガン行こうぜ』の命令を発動。

 

 携帯は様々なパーツから出来上がり、一つ一つが希少鉱石によってできるので、加工の作業が当然必要になる。会社はここに目を付けた。

 

 パーツは決して素人が作れる物じゃない。だけど、作れない事もない。

 

 そう、一つ一つのパーツが、何らかの有名人によって手作りされている。しかも、最高のクオリティでないと、もれなくダメ出し。

 

 つまりこの携帯の製作者は、なんだか凄い数の有名人で、その集合体の合作。だから必然とプレミア価値が付き、とことん豪華……というわけ。

 

 今回、どうせヤヤに持たせるならユートピアシリーズと決めていたので、現金一括即決買い。100億という数字は、あくまでも一般人にとって大きな数字であって、金持ちにはなんら少ない数字になる。

 

 それに、少しばかり割引が効いているはずだし。

 

「大丈夫よ、貯金の一角にすぎないから」

 

「いやいやいや。ハンターになったのは今年だよね。なんでお金あるの!? 闘技場でも8億くらいしか稼げないんだよ!?」 

 

「答えは至って簡単。暇な時に携帯で、スターラッキーと調べなさい……仲間が来たわ」

 

 ヤヤの後ろを指で示してから、私はローブの顔部分を取って、軽く手を上げた。

 

「あ、リナさん!!」

 

「え? うおっ、マジだ」

 

 二人の少しばかり大きい声に周りにいた人、主に男がこちらに気づくけどスルーに限る。

 

「人目に付かない場所に移動するまで、絶対にフードは取らないで」

 

「う、うん」

 

 私は、ヤヤのフードを深く被して、二人に近づいた。

 

「ちょっと久しぶりね。あと、キルア……こんな美少女に向かって、うおっ、は失礼じゃない」

 

 目を細めて、軽くキルアを睨む。

 

「どこにいんだよ、美少女なんて」

 

「え? 目、腐ってる?」

 

 今度は、苦虫を噛み潰した表情でキルアを見る。

 

「なんでそうなるんだよっ!?」

 

 すると、キルアが吠えてしまった。

   

「キルアがつまらない冗談を言うからよ」

 

「そうだよキルア。リナさん、物凄く美人だよ?」

 

「ゴン、てめぇもか!?」

 

 ゴンはしっかり分かっているじゃない。

 

 確か、くじら島に来た女の人とデートした事もあるらしいし、キルアより経験豊富なのよね。

 

 まあ、キルアも分かっているでしょうけど。きっと、ムッツリだわ。

 

「はいはい。とりあえず、レオリオとの集合までに携帯を買うんでしょう?」

 

 言い合いになっている二人の横で、手を二回叩いて目的に誘導する。 

 

「あ、そうだった」

 

「……だな。で、その隣の人は仲間か?」

 

「ええ。どこか落ち着ける場所になったら紹介するわ」

 

 こんな所でヤヤの姿が露わになったら、間違いなくパニックが起こるはず。現状、私だけでも大変なのに。

 

「じゃあ次。なんで俺達がここに来るって?」

 

「この子の携帯を買いに来たのよ。だから偶然ね」

 

「わわっ」

 

 ヤヤを抱きしめてキルアに言葉を返す。

 

「オッケー。天空闘技場、どこまで行ったんだ?」

 

「250階のフロアマスターになったわ」

 

「しれっと言いやがって……結局、リナの実力ってどのぐらいなんだよ?」

 

 答えようとして、言葉の選択を考える。

 

 実力は多分王様を倒せるレベルだけど、王様の存在をキルアは知らない。この時点で迂闊な言葉を選んでしまえば、未来への影響が少なからずあるはず。

 

 ぱっと出てしまって言葉を濁しても、キルアの観察眼と思考力を持ってすれば、必ずそこを突かれる。

 

「そうね……」

 

 ただ、未来の情報を伝えた所で、私への影響は特にないのが結論。

 

 仮に──「ゲーム内でビスケと出会うわ」と伝えても、だからどうなるって話なのよね。選択はその情報を得た人間の自由だし。

 

「ヒソカといい勝負じゃない?」

 

 とりあえず、適当に定めた。今の二人からすれば、ヒソカレベルはかなり遠い存在……と自覚しているはずだわ。

 

「ダウト」

 

 まさかの即答だった。

 

「いやいや、そのぐらいよ?」

 

「何回か、リナの戦闘ビデオを見たからな」

 

 ……なるほど。実力を推測するのが根に染み付いているほど、キルアは得意だったわね。

 

「分かったわ。これも、落ち着いたらね。丁度、レオリオも来たみたいだし」

 

「「レオリオ?」」

 

 そろそろ来ると思って、"円"を使っていて正解だったわ。説明は一切合切、皆がいる時の方が楽だし。

 

「あれ、俺の予測はあってたのに……読まれてたか?」

 

 全員が入り口を見る中、レオリオが店に顔を出した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

『いただきます / いただきまーす』

 

 それから、二人が携帯を買った後、私たちはヨークシン内で最高級のファミレスに移動。

 

 ──「個室を取れて、料理も美味い。サービスもいいわよ~」と、メンチからの情報が入ったので、有無を言わさずここに決定した。

 

「さてと、まずはヤヤの紹介からね」

 

 テーブルに並んでいる沢山の料理に手を付けながら、話を切り出す。

 

「待ってました!!」

 

「手を出したら殺すわよ」

 

「お、おう。すまん」

 

 ちょっとでもチャンスがあると思わせるのは悪いので、レオリオをメインに威嚇しておいた。

 

「冗談よ。続けて」

 

「今の殺気、紛れも無く本物だったな」

 

「うん。思わず身構えそうになった」

 

 面倒なので、二人のヒソヒソ声は聞かなかった事にする。

 

「えーと、ヤヤ・サクラヅキです。リナと同い年で、ゴン君とキルア君は知ってると思うけど、200階の闘士やってます。今はリナの元で修行中で、実力はまだまだかな」

 

「とか言って、貴方たちが一斉に掛かったとしても瞬殺されるレベルだから気を付けなさい」

 

「ちょっ、リナ!?」

 

「はいはい、どうどう」

 

「んぷっ」

 

 ちょっとお茶目を発揮してみたらヤヤが騒ぎそうだったので、頭を掴んで私の胸に顔を沈めておく。

 

「ま、ヤヤの紹介はこんな物でいいでしょう。次に、今後の目標ね」

 

「ヤヤちゃんに質問タイム……今後の目標決めるぞ、お前ら」  

 

「「レオリオよっわ」」 

 

「当たり前だろっ!? あれが怖くねえのか!?」

 

 ちょっと睨んだだけでこの扱いは失礼ね。別に、そこまで本気じゃないのに。

   

「完全に自業自得だろ」

 

「うぐっ……だけどな、ここは男として……今日からリナちゃんの前で男を辞めるか」

 

 ちょろい、ちょろいわよ、レオリオ。軽く殺気を当てただけで意見を変えるなんて。

 

「そんな事より、今度の目標とか予定を決めようよ」

 

「そうね。いい加減、話を進めましょうか。レオリオがボケにボケまくるから遅れちゃったし」

 

「いやいや、それは──ぐほっ」

 

 秘技、魚肉アタック。原作キャラとは言えど男なので、容赦なく八本突っ込んだ。

 

「さて、どこから話しましょうか」

 

「うーん、まずは──」

 

 それから、ゆっくりと昼食を終える頃には、今後の目標が決定した。

 

 とはいえ、相談する意味は殆どなく、決まっていた様なものだったけど。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「さてと……それじゃ、出かけてくるわ」

 

 最高級ホテルにチェックインし、部屋でくつろいでいた私は、時間を確認して立ち上がる。

 

「え? 今からどこに行くの?」

 

 時刻は21時だし、何の予定も伝えてないのは不自然だったかしら。 

 

「野暮用よ」

 

「ふーん、そっか。帰りは遅いの?」

 

 どうやら、あんまり興味はないらしい。これは好都合だけど、ちょっと寂しいわね。

 

「多分遅いわ」

 

「了解。行ってらっしゃい」 

 

 うん、なんか寂しいから、一回抱きついておこう。

 

「ん、どうしたの?」

 

「エネルギー補給」

 

「なるほど」

 

 あー、柔らかい。

 

 具体的にどこがどうとかじゃなくて、触れている箇所全てが柔らかい。

 

 幸せだわ。ぶっちゃけ、外に出たくないわね。

 

「よし、行ってくるわ」

 

 ただ、そうも言ってられないので身体を離した。

 

「うん、気をつけてー」

 

「ええ」

 

 そしてヤヤに見送って貰い、条件競売をしているはずのゴンたちの元に足を運ぶ。

 

 知ってたけど、物凄い人の数ね。まだ来てないと……ビンゴ。

 

 人混みの中で並んでいるシズクと、遠巻きに見ているフェイタンとフランクリンを発見した。

 

 ちょうど良い時間だったようね。私の勘は相変わらず優秀だわ。

 

 それにしても、何も変わっていなくて良かった……って所かしら。私がいる世界でも、蜘蛛は蜘蛛か。

 

「ちょっと、いいかしら?」

 

 私は二人を警戒をさせない為に、不完全な"絶"にして、立ち姿に隙を増やしてから声を掛ける。

 

 これで、オーラの質が一般人と同じになるはず。

 

「……なんだ」

 

 フランクリンが口を開いた。

 

 身構えられなかった所を見ると、どうやら一般人と思われたらしい。

 

「セメタリービルってどこにあるか分かる? 道に迷っちゃって」

 

 もちろん、嘘ぱっちだけど。

 

「……ああ」

 

「できればそこまで案内して欲しいけど……無理、かしら?」

 

 色仕掛けが効くか分からないけど、涙目上目遣い谷間チラ見せ(女の武器)で訊いてみる。

 

「お嬢ちゃんの目的は地下競売か?」

 

「…………あ、はい」

 

 一瞬、お嬢ちゃんが誰の事か分からず、返答が遅れてしまった。

 

 そういえば私って、まだ17歳だったわね。身長は160cmしかないし、歳相応の顔立ちだし……フランクリンが何歳か分からないけど、確かにお嬢ちゃんで正解ね。

 

「今日は、中止になったはずだ。家に帰ると良い」

 

 どうやら、色仕掛けは違う方向で作用したみたいだった。

 

 フランクリンは、私を殺したくないらしい。

 

「ん、そんな連絡来て無かったわよ」

 

「俺とこいつは警備員だからな。さっき帰れって言われたし、間違いない」

 

 フランクリンがフェイタンを指さし、フェイタンはそれを受けて無言で頷いた。

 

「それは困ったわね」

 

 本当に困った。まさかこっちの方向に話が進むなんて。

 

 旅団と言えど、無益な殺人はしたくないって事なのかしら……ああ、盗賊だから、本当に欲しいならこの後でさらいに来るのね。

 

 もっとも、色仕掛けが効いた訳じゃなさそうだけど。

 

「でも、どうしようもないだろう。大人しく帰ったらどうだ」

 

 うーん。面倒臭いし、そろそろ暴露しましょうか。

 

「じゃあ、あそこで腕相撲してる、黒髪でメガネ掛けた女の子を紹介してくれない? 二人の仲間でしょ? 幻影旅団さん……て、危ないわよ。焦りは禁物」

 

 フェイタンの攻撃をかわし、二人の背後に回る。

 

 本気でないにしろ、今の攻撃速度は中々ね。実力はそこそこかしら。

 

「お前、何者だ」

 

「そうねえ……」

 

 名乗ろうとして、メンチの言葉を思い出した。

 

 決して、名誉な称号じゃないのだけれど……私にぴったりなのが面白いのよね。発案者はブハラらしいし、何かお礼をしましょうか。

 

「通りすがりの、"ガールズハンター"よ」

 

 最高の笑顔で、私は言い放った。




面白かったら、作者冥利に尽きます。

なお、この作品は、作者のモチベーション次第で執筆速度が変わります。あしからず。

……いや、当然だー。

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