TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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ハンター試験編   
1話『試験スタート』


  

 そして、見送りに来た母から励ましの言葉を受けた私は、船に乗って試験場を目指す。

 

 一年も経っていないけど、本当にこの一年は早かった。

 

「おいおい、女がハンターになるんだってよ。甘く見られたもんだな」

 

「黙れ下等種。殺すわよ」

 

 口から、咄嗟にそう出た。条件反射の様なもの。

 

 この身体になったのと、母の矯正のお陰か副作用か男に嫌悪感に似た何かを感じる様になった。

 

 昔の記憶も少なからず影響していると思われるけど、とにかく男が嫌い。念の制約にもある意味役立っているし、女の子が好きな私としては問題はない。

 

 嫌悪感を抱く、嫌だと感じる条件は、ぶっちゃけ勘。それ以外だと視線かしら。

 

「っは、出来るもんなら──」

 

 男が近づいて来ようとしたので、念を飛ばして気絶させた。

 

 力加減を間違えなくて良かったけど、あれで静孔が開いたのでどの道死ぬ事になりそう。

 

「さてと、しばらく暇になるわね」

 

 船の中をざっと見ても、まだレオリオやクラピカが見当たらなかったので恐らく私が一番早い。

 

 三人が来るまで、特にする事もないし……精神統一でもしましょうか。

 

 そう思いマストに登り、座禅を組める横木で止まる。

 

「お、おい嬢ちゃん!! そんなとこに居たら危ないぞ」

 

「私なら大丈夫」

 

 船員の人が注意してくれるけど、流石にこの程度でどうにかなるほどやわに訓練してない。

 

 ちらっとだけ船長からの視線を感じ、そちらに向いてサムズアップ。すると船長は不敵な笑みを浮かべた。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 そこから一度目の嵐が終わるまでそこで待機していた。そろそろ船長に呼ばれるはず。

 

 例の三人が船に乗っているのはもう知っているけど、挨拶はしなかった。まだ知らない人だし。

 

『これからさっきの倍近い嵐の中を航行する。命が惜しい奴は今すぐ救命ボードで近くの島まで引き返すこった』 

 

 その船長の放送から、ばたばたと慌ただしく乗客が救命ボートで逃げていく。

 

 人が減った所で、私はマストから飛び降りて船長室に向かう。

 

「結局、客で残ったのは四人か。名を聞こう」

 

「オレはレオリオという者だ」

 

「オレはゴン!」

 

「私の名はクラピカ」

 

 なるほど、近くでみると漫画と全く同じね。現実的に見る視点だと少しは違うかなと思ったけど、まんまその通り。

 

「で、嬢ちゃんは?」

 

「私はリナ」

 

 うーん、レオリオからの視線が強いわね。そういうキャラって知ってたけど、気にするレベルじゃないわね。嫌な感じはしないし。

 

 けど、無駄にスタイルがいいのも考え物よね……自分で触って楽しむくらいしか出来ないし。

 

 とにかく、後は流れに身を任せるだけなので、先に言っておきましょう。

 

「ちなみに、私がハンターになりたい理由は恩返し。お金を稼いで両親に恩返しをしたいわ」

 

「なるほどな。ほかの三人はどうだ?」

 

 これで、もう大丈夫よね? またマストに戻……いや、壊れるのよね。ならしょうがない、ここで待ちましょうか。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 ……そこからややあって、ドーレ港に到着しバス停まで来た。

 

「っけ、意外に主体性のねー奴だな……リナちゃんはどうするんだ?」

 

 ゴン、クラピカが話通りに離れて行ったので、私は別行動を取ることにした。

 

「私は別ルートで行くわ。じゃあね」

 

 レオリオの返事を待つのも面倒だったので、直ぐにその場を離れた。

 

 恐らく、姿が消えたように見えるのかしら。

 

 なんて考えながら走ってザバン市の定食屋を目指す。

 

「あーなるほど。バスはこの辺りでこうなってたのね」

 

 その道中、気になるものがあったので足を止めた。山道に入ってしばらくした辺りで、バスが破壊されていた。

 

 少し中を覗いてみると、人が死んでいる。当然と言えば当然だけど、逃げれない人はハンターになるなって証拠ね。

 

「私には関係ないけど……さ、次々」

 

 そして、再び走りだした。

 

 そこから、1時間後にザバン市に到着。能力を使えばもっと早く付いていたけど、何かあるかわからないし温存も大切と考えたので使わなかった。

 

「さてと、日が暮れる前に定食屋に入りましょうか」

 

 と、そこでふと思い出した。

 

 試験が始まるのは明日だったはず。それならどこか近くのホテルで休憩するのが得策ね。

 

 そう思いホテルで一晩を過ごし、翌日。朝ごはんを定食屋のステーキ定食にすればいいと考えたので、シャワーを浴びてから定食屋に向かった。

 

「いらっしぇーい!! ご注文は?」

 

「ステーキ定食、弱火でじっくり」

 

「……あいよ、奥の部屋にどうぞ」

 

 本当にこれでいけるのね。何も変わってなくて良かったわ。

 

 そしてステーキ定食を食べながら待つ事数分。どうやら到着した。

 

 扉が開き、外に出ると凄い数の人間かこっちを見た。そして、一部を除いて視線は外れてくれない。

 

 理由を挙げるとしたら、昔の私みたいな顔をしているからで、この身体のせい。

 

 嫌な感じがビンビンするわね。

 

「だ、大丈夫かい? 良ければこの俺が」

 

「いやいや、ここはこの私が」

 

 やっぱり、逆ハーレムならすぐに目指せるわね。

 

 改めて思った。

 

 まあ、どうせこの人たちは死ぬんだろうし関わらない方がいいというか、そもそも関わる気はないけど。

 

 そう思い、番号を配ってる人の元へ向かう。

 

「あ、あれ? 今の子はどこに?」

 

「げ、幻想? いやいや、そんなはずは……」

 

 やはり、有象無象はこのレベルの実力。全力の十分の一も出していないにも関わらず反応不可能。当然だけど、大体の戦闘力は確認できたかしら。

 

 人が多かったから、ヒソカやイルミには気づかれてないのが幸いね。

 

「君は400番だよー」

 

「ありがとう」

 

 そして番号札を貰い、胸の辺りにつける。

 

 つけ終わると同時に、数ある視線の中から一人だけ、後ろから近づいて来る。恐らくトンパかな。

 

「お、珍しいね。ここに女の子が来るなんて。そしてルーキーだね」

 

 肩を叩かれる前に振り向いて、一歩下がる。

 

「新顔なのは間違いないけど、女なんて関係ない。プロのハンターでもいっぱいいるでしょ?」

 

「そ、それもそうだね。俺はトンパ、よろしく」

 

 トンパは手を差し出してくるが、悪寒がしたので手を振って断った。

 

「そ、そうか。ならお近づきにジュースでもどう?」

 

「あ、貰うわ」

 

 これがあのジュースね……。

 

 迷わず飲んでみると、確かに味がおかしい。ただ、味による満足はなくても、違う意味での満足感は手に入れた。

 

「それじゃあ俺は他にも挨拶する奴がいるから、また後で」

 

 そして、新顔の女。私にしっかりと下剤入りのジュースを渡したトンパは人ごみに消えた。

 

 残念ながら効かないのよね。

 

 この世界では大体の事に対応できた方がいいと考えたから、キルア。というよりゾルディック家と同じでこの身体には毒、電気、熱、痛みに耐性を付けている。

 

 自分自身に拷問に近い事をするのには中々に覚悟が必要だったけど、未来に向けて妥協はしたくなかったので頑張った。

 

 流石に幼かった時に毒を手に入れるのは苦労したけど……母のお陰で手に入ったし。本当に何者なんだろう。

 

 そう言えば、拷問に協力してくれてた様な気がしたけど、記憶が曖昧なので気のせいかしら。

 

「訓練の日々は、辛かったわね」

 

 しみじみ、そう思う。

 

 本当に神様にお願いしておいてよかった。ちゃんと適応できるし、傷の治りもかなり早いし、それなのに傷は残らない。

 

 骨折なんて安静にしていれば2週間も掛らなかったし。

 

「っと、そろそろゴンたちが来るわね……とりあえず、先頭にいようかしら」

 

 サトツさんの横が一番人が少ないだろうし……サトツさんなら、嫌悪感レーダー、今命名が鳴らないみたいだし。

 

 なので、壁のでっぱりみたいな所を使い先頭に出る。

 

 ……そしてまたそこから暫くして。

 

『ジリリリリリリリリリリリリ』

 

 サトツさんが隠し壁から出て来て、不気味な鐘の音を鳴り響かせた。

 

「では、これよりハンター試験を開始いたします」

 

 サトツさんはでっぱりから降りると先頭に出た。

 

「こちらへどうぞ」

 

 サトツさんが示したと同時に歩きだしたので、それに合わせてサトツさんの横を歩く。

 

 すると、一度だけこちらを見て、視線を前に戻した。

 

「承知しました。第一次試験、404名全員参加ですね」

 

 今から始まるのね、ハンター試験が。

 

 まずは持久走だけど……先に行くのはありなのかしら? 後で質問してみましょうか。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 なんて考えながら隙を伺っていると、いつの間にか、地上への階段の中間地点まで来ていた。

 

「あれ、いつの間に……」

 

 どうやら、呼吸をするのと同じくらいどうでも良かったらしい。

 

 記憶が飛んだ様な感覚があるけど……うん、一応あるわ。

 

「やっとリナさん見つけたよ。先頭に居たんだね」

 

「ああ、ゴン。それに……」

 

 ゴンの隣に居たのはもちろんキルアだけど、初対面なので名前を言うのはまずいので飲み込む。

 

「あ、オレはキルア。よろしく」

 

「私はリナ。よろしく」

 

 そこから、ゴンたちと話していると出口が見え、階段を上り切った。

 

 暗い所から明るい所に出た時の独特の眩しさから、目に入ってきたのは、原作と変わりない風景。

 

「ヌメーレ湿原。通称、詐欺師の塒。二次試験会場へはここを通って行かなければなりません」

 

 色々と感慨深いけど、じめじめするし早く抜けたいわね。

 

 それが私の一番の感想だった。

 

 確かに、ここまで来たのね。これがあの……とかはあるけど、一番はそれ。

 

 なんて考えていると、いつの間にかサトツさんの割と長々しい説明が終わりを迎えていた。

 

「騙されることのないよう注意深く、しっかりと私の後をついて来て下さい」

 

「嘘だ!! そいつは嘘をついている!!」

 

 サトツさんの説明が終わると同時に、一人の男が乱入して来た。

 

 見るからに怪我人で、立ってはいるものの全身傷だらけ……例の男だ。

 

「そいつは偽物だ!! オレが本当の試験官だ!!」

 

 そうサトツさんに指をさしながら言うが、真実を知っている者からすれば早く死なないかしらと思うばかり。もちろん、早くここを抜けたいから。

 

 しかし、現実はそう甘くなく、ヒソカが二人に攻撃するのはもう少し後。

 

 ……そう言えば、なんでコイツはこんな嘘をついてまで出てきたのかしら。

 

 まあ、そんな事は作者しか知らないだろうけど……正直この世界は世界観を借りたに過ぎないからつい考えてしまった。

 

 ここはあくまでも私の世界。原作とはいえ、ずれてしまう事がそろそろ出る頃はず。

 

「その時は楽しむだけだけど……」

 

「ん? どうかしたのリナさん?」

 

 かなり小声で呟いてみたけど、このぐらいならゴンにも聞こえないのね。

 

 ……いや、正確にはなんて言ったかわからない程度だから、聞き取れないだけで聞こえてはいるのね。

 

「ううん。なんでもないわ」 

 

 少し確認しておきたかったので試してみたけど、やっぱり耳がいいのね。

 

「それでは参りましょうか。二次試験会場へ」

 

 そう言ってサトツさんがまた走り出す。

 

 あの男については興味が無かったのでスルーしたけど、やっぱり少しは見るべき……まあいいわ。

 

 そして走り出して少ししてから、かなり深い霧のゾーンに入った。

 

「ゴン、リナ。もっと前に行こう」

 

 よ、呼び捨て……そう言えば、キルアって誰に対してもこんな感じだったわね。

 

「うん、試験官を見失うといけないもんね」

 

「それよりも……ね」

 

「ああ、ヒソカから離れた方がいい。あいつ、殺しをしたくてウズウズしてるから」

 

 一応はキルアに合わせてみたけども、ヒソカの殺気はそれ以前から気になっていた。

 

 なんて、凄まじい殺気なのかしらと思ったのと──

 

「霧に乗じてかなり殺るぜ」

 

 早く戦ってみたいと思った。

 

 流石にこちらから殺気を向けると、こんな不本意な所で戦闘になるから向けないけど。それでも、早く戦ってみたいと思うのは、この世界に対応した結果なんだろうなと思う。

 

 けど、思うだけで絶対に実行はしないし、命の削り合いの意味で本気で戦いたい訳じゃない。 

 

「ゴン!!」

 

 レオリオの悲鳴を聞き、ゴンがクラピカたちを助けに向かった。

 

 キルアは少し悩んだようだけど、走る事を決めたらしい。

 

 私は元々知っているとはいえ、裏を知るのは中々に面白いわね。

 

「大丈夫よ、ゴンなら」

 

「なんでわかんの? 正直、無謀だと思ったんだけど」

 

「勘かしら」

 

「勘ね……リナも大概、面白い人だよね」

 

 知ってると言えないのは中々辛いかもしれない……いっそ、予備知識が無い方がいいかもしれないわね。

 

 いまさら変更なんて出来ない事は分かっているけど、どこか腑に落ちない。

 

「そうかしら?」

 

「俺が知ってる中でもかなり面白いよ。まあゴンには劣るけどさ」

 

「ゴンが面白いのは同意。さて、このまま向こうでゴンたちを待ちましょう」

 

 こうして、私とキルアは無事に二次試験場に到着。

 

 その後、ヒソカがレオリオを背負って到着。それに続く形でゴンとクラピカも到着したので、まだ大きな変更点はない事を確認して安心した。

 

 そして、ブハラの腹の虫が鳴り響く中、二次試験が始まる12時を迎えたのであった。

 

 


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