TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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2話『トレード』

「そんなわけで、二次試験は料理よ!!」

 

 そのメンチの言葉に、会場にいる私を除く全員が声を上げたり、無言になったりとそれぞれ驚いていた。

 

 そして、説明が進む中で私は違う所に注目を置いていた。

 

「んー、良いわね……触りたい」

 

「な、なんかリナさんから、一瞬ヒソカに似たオーラを感じたんだけど」

 

「……そ、そうかしら。気のせいよゴン」

 

 どうやら無意識の内に危ない物を発していたらしい。ゴンだけが反応してくれたけど、正直周りにいる出来る人間には気づかれたはず……うん、気を付けよう。

 

 なにより、メンチがこちらを睨んでいたし。

 

「それじゃ、二次試験スタート!!」

 

 なんて考えていると、二次試験が開始しそれぞれが森の中に消えていった。

 

 ブハラのお題は、もちろん豚の丸焼きだ。

 

 ちなみに、私は少し出遅れた。

 

「……この程度の遅れなら、どうにでもなるわね」

 

 と言うわけで、森に入ってグレイトスタンプたちを見つけた。

 

 他の受験者たちがやられているので、どうやらこの場所では誰も討伐に成功しなかったみたいだった。

 

「結構いるのね……」

 

 その呟きが聞こえたのか、一匹が振り向いて私と目が合った。

 

 猛スピードでこちらに突進してくるが、私にはお話にならないレベルだ。

 

 衝撃を受ける事もなく私は右手で受け止めた。予想していたよりも、遥かに軽い攻撃だ。

 

「こんなものよね……」

 

 突進してきた豚は、私のその言葉に恐れをなしたか、平然と受け止めた事に恐れをなしたのかはわからなかったが慌てて逃げ出そうとする。

 

「でこぴん」

 

 もちろん、逃がす事なく制裁。逃げるとは何事か。

 

「あ、でもそのまま持ってくのも気が引けるわね……ううん、気にしても無駄かしら」

 

 私は枯草等を集め、火種を用意し手荷物からライターを取り出して着火。火を大きくしていき、豚を放り込む。

 

 しばらくして良い感じに豚が焼き上がったので、火を消して熱々のままブハラの元へ。

 

「これでいいのよね?」

 

 どうやら一番乗りは私の様だ。

 

 てっきり、最後だと……あ、冷ましてないからね。結果オーライ。

 

「うん、美味しそうだよぉ」

 

「……これ、全然冷めてないわね。ううん、むしろ焼き上がって直ぐの状態。熱く無かったの?」

 

「その方が、美味しいでしょ?」

 

「そりゃまあ……」

 

 なら無問題。ブハラも食べきったみたいだし。

 

「とりあえず、合格かしら?」

 

「えぇ、二次試験第一部合格よ。次のお題まで待っててね」

 

 それなら次の為に魚を捕りに行こう。お題の説明は受けなくても、もう知っているし。

 

 そんな訳で川に到着。

 

「狙うのはコウカクルイね」

 

 ちなみに、コウカクルイとは甲殻類では無くて、この辺りで滅多に捕れない魚として有名らしい。捕れる頻度は、毎日この公園の一つの川に絞って狙っても、一年に一回程度。なので、その分とても美味しいとの事。

 

 メンチは食べた事があるかもしれないけど、それでもいい。必ず美味しいと言わせてみせるわ。

 

「でも本当に便利ね……この美食マップ、ビスカ森林公園編」

 

 さっきの豚の一番近い出現場所もこれに書いてあったし。コウカクルイの事も書いてあった。定価1200円でザバン市のホテルにて購入した。

 

 恐らくだけど、ハンター試験の伏線として用意してあったヒント。誰も気づいて無いと思うけど。

 

「で、一年に一回の魚ね……時間はあまりないから、さっさと探しましょうか」

 

 私は一度深呼吸をし"絶"を解く。

 

「それじゃ、行くわよ……円!!」

 

 魚の形は本で知っているので、それに似た形の生物を円を使い探す。

 

 私の円の半径は、全力で約700m。幼い頃からの訓練のお陰だけど……流石に王様には負ける。

 

 実際には王様の、あの円が使いたかったんだけど人間じゃ無理そう。

 

「っと、見つけた。川の中なんてだるいわね」

 

 そして、円を使いながら川を回ること数分。コウカクルイと思われる、とても小さな魚を川の奥底で発見した。大体200mは下。

 

「潜るしかないのね……服濡れるの嫌だけど」

 

 溜息一つ付いて、飛び込もうとする……が、いい方法を思いついたので動きを止めた。

 

 そうよ、誰も見てないし脱げば濡れないわ。円で警戒していれば、誰か近づいてきても気づくし。

 

 ヒソカとか、イルミとかが走りながら近づいてきたら、着替えるのは流石に間に合わないけど……多分、今は説明を受けてるだろうし、大丈夫。

 

「……よし、脱ごう」

 

 脱ぐと決まれば話は早いので、着ていた白のミニ丈ワンピースを脱いで、腕時計を外す。

 

 機能性がほぼゼロなこんな恰好をしているのは、母の趣味。こういった服しか買ってもらえなかった。確かに、カジュアル、動きやすい服装もない事もないんだけど、持ってきていない。

 

 それに、機能性はゼロでもハンデにも満たない程度だから問題ない。

 

 なんて考えながら、下着姿になり、思考停止。

 

 ……これも、脱ぐのかしら。

 

 自分に質問だった。

 

 確かに、下着……ちなみに黒よ。その下着を脱げば濡らさずに済むし捨てなくていい。ただ、そうなると全裸で外の空間を数秒間を過ごす事になる。これは私にとって問題じゃないかしら。

 

 見られる事もないだろうし、仮に見られてもそいつを抹消すれば済む話。下着もトップブランドの下着なので、上下で数十万はしたので捨てるのも忍びない。

 

 ……うん、脱ぐか。

 

 最終結論も出たので、ぱぱっと脱いで川にダイブ。あっという間に200mに到達し、コウカクルイを発見。すぐさま捕獲、浮上。

 

 川にしてはかなり綺麗な水だったようで、全然ぬめぬめしなかった。むしろ、つやつやなっていた。

 

 少し得したわね……って、それよりもさっさと着替えましょう。このままだと完全に変態よ。

 

 鞄からタオルを取り出して、身体を素早く拭く。拭き終わったら、タオルはいらないのでその場に捨て、下着を装着しワンピースを着る。

 

 そういえば、始めて下着を付けた時は苦労したわね……精神的な意味で。あの頃は男の自我の方が強かったし。

 

 なんて考えていたら、その辺に転がしていたコウカクルイが逃げようとしていたので再度捕獲。それを片手に持ったままトランクキャリーバックを閉じて試験会場に戻った。

 

「あれ、あんた説明受けてないのに……」

 

「まあ、それぐらい予想できて一流のハンターになる資格があるんじゃない?」

 

 なんて言ってみても、ただの卑怯な手なんだけど。

 

「なるほど。それにその魚は……確かコウカクルイね」

 

 流石に知っていたよう。ただ、その反応を見る限り食べた事はない模様。これはラッキーね。

 

「それじゃ、早速作ってあげるわ」

 

 ちなみに現在、試験会場に人は誰一人としていない。円を使い、みんながいなくなるタイミング。要するに、魚を捕りに向かった所を確認し戻って来たから。

 

 そして私はキッチンに立ち、魚を慣れた手つきで捌く。この分量だと、6カンが精一杯かしら。私が食べる分も含めると……メンチと半分ね。

 

 とりあえず、握ってしまおう。今日のこの日の為に、寿司屋に弟子入りした三日間。やっと役に立つんだから。

 

 ……そう言えば、大将元気だろうか。跡を継いでくれって言われて断ったけど、かなりショック受けてたしなぁ。

 

「と、集中ね……ふっ!!」

 

 私は、素早く正確な手つきで6カンを握りきる。久々だったけど、何とかなった。完成度は80%は越えているかしら。

 

「はい、どうぞ」

 

「いきなりまともな寿司が出て来たわね……じゃ、早速」

 

 握った寿司を口に入れ、目を閉じながら味わって食べる事数秒。メンチが目を開いた。

 

「……合格ね」

 

「どうも」

 

 どうやら、よほど美味しかったらしい。感想を聞く前に合格と出てしまった。そのまま二カン目を食べてたし。

 

 私も味が気になったので食べてみる……なるほど、これは美味しい。

 

「本当に美味しい物には、飾った感想なんて不要で美味しい以外の言葉が出ないのね」

 

「うん。この握り寿司は今まで食べた中で一番だわ。よく捕って来たわね」

 

「まあ、運が良かったのよ」

 

 円で探しても、あの一匹しかいなかったし、実際、運が良かったのは確か。

 

 そこを踏まえると、何故一匹だけしかいなかったのかを考えるのも面白そうだけど……まあ、もう二度と必要にはならないわね。

 

「一年に一回会えればいいって話だから、私も探すに探せなかったのよね……今回の試験も、そこの部分に期待してたし」

 

 だから美食マップなんてあったのね。

 

「なるほど、それは良かったわ……ああ、後それと私が合格ってのは内緒で」

 

「どうして……いや、特に言う必要もないし試験に集中するから気にしなくてもいいけど」

 

 これで面倒な事が一つ減るわね……それじゃ、早速。

 

「一つ、メンチにお願いがあるのだけれど、いいかしら?」

 

「ん、どうしたの」

 

「もし、この試験で私以外に合格者がいなければ、私も不合格にしてほしいの」

 

「……それはまたどうして?」

 

 当然なメンチの疑問。その答えは至って単純だ。

 

 ただし、そのまま伝えると警戒度が増してしまう恐れがあるので、ここは慎重に──

 

「その代わり、メンチの胸を揉ませて欲しいから」

 

「……」

 

「……」

 

 あ、間違えた。

 

 思わず口に出てしまい、ブハラを含めこの場に静寂が訪れた。

 

「えと、その……本気よ。抵抗するならそのまま揉みしだく!!」

 

 とりあえず、更に押しておきましょう。言い直しても、手遅れ感があるし。

 

「あんたさっきまでそんなキャラじゃなかっ……さっきの殺気に似たのはそれね」

 

「て、てへぺろ」

 

「……」

 

 そしてまた、静寂になった。どうしよう、どうやってこの場を乗り越えよう。

 

 ……でも、後悔はしてないわ、うん。

 

「はあ……世の中には色々な変人がいるのは知ってるけど……分かったわ、もし他に誰も合格者が居なければ好きなだけ胸を触るといいわ」

 

「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 思わず、軽く飛び上がってしまった。5mは飛んだ。

 

「いや、喜びすぎよ!?」

 

「当然じゃない。可愛い子の胸よ!! それを触れるのよ!!」

 

 これで目標の一つを達成出来るわね……ふふふ、もし合格者が出……ないと信じるわ。

 

「そ、そう……でも、あたしが嘘を言った可能性──」

 

 カチッ──と、腕時計のあるボタンを押す。

 

『分かったわ、もし他に誰も合格者が居なければ好きなだけ胸を触るといいわ』

 

「大丈夫。ボイスレコーダーで録音済みだから!!」

 

 証拠が無くなってしまうと困るので、ばっちり録音はしておいた。

 

 いつかこういう時が来ると信じて、かなり性能の良いボイスレコーダー付き腕時計を買っておいて正解だったわ。

 

「……恐ろしいわね。その執念」

 

「褒め言葉ね」

 

「そんな鼻血出して言われても……」

 

 薄々、気づいてはいたけど興奮し過ぎね。絵面的に美しくも可愛くも……いや可愛いかも知れないけど、どちらかと言えばアウトね。

 

 トランクから拭くものを取り出して、鼻血拭き取る。

 

「失礼したわ……じゃ、そう言う事で試験終わったらよろしく」

 

 触れる事はほぼ確信したので、とりあえず使った包丁等の片づけをする事にした。もうそろそろ、他の人が帰って来る事だろうし。

 

 あ、どうせならゴンたちが捕ってくる魚貰って、新しいのでも握ろうかな……なんて考えながらも、片付けを済ませていく。

 

 そして、片付けが終わり大人数の足音が聞こえて来た。どうやら、ゴンたちもいるようね。

 

「あ、キルアだけ場所が離れてるのね」

 

 そっか、番号順よね。

 

「うん。で、リナさんはさっき──」

 

「居なかったけど大丈夫。さっき聞いたから……それに、魚はみんな捕ってくると思ったから、少し貰おうかなって」

 

「あ、それなら俺のをあげるよ……気持ち悪いのしかないんだけど」

 

「それでいいわ。ありがとう」

 

 と、そこから試行錯誤してる素振りを見せつつ、試験終了までの時間を適当に潰した。

 

 もちろん、第二次試験の合格者は誰も出なかった。いや、私を除いてだけど。

 

 私はこれで目標達成したので、とりあえずゴンの傍でしかるべき時まで待機する。

 

「ど、どうなるんだろう……」

 

「大丈夫よ、きっと」

 

 そこでメンチの電話が終了し、改めて合格者が誰も居ない事を伝えてきた。

 

 その結果に落胆する者が多いのは当然なので、とりあえずそれに合わせるが……内心では笑いが止まらない。

 

 今すぐにでもメンチの元へと駆けたいが、何とか抑える。楽しみはハンター試験終了まで取って置く、もとい焦らす予定だし。

 

 と、そのタイミングで誰か忘れたが、太ってる男がキッチンを壊した。そこそこの怪力ね。

 

「納得いかねぇな。とても、はいそうですかと帰る気にはならねぇ」

 

 その言葉に、何人かが頷いている。当然よね。

 

 ただ、仮に今回で通ってたとして……次の試験をクリアできるとも思わないけど。

 

「また来年がんばればー?」

 

 よし、このタイミング!!

 

「こ……ふざけんじゃねぇぇぇ!!」

 

 この場面は、何となくメンチに格好良い所を見せたかったのよね……って、今は女だった。格好良い所を見せても、メンチにその気がなきゃ意味ないじゃない。

 

 しかし、動いてしまったものはしょうがないわね。殴り飛ばそう。

 

「私の獲物に手を出すなぁぁぁ!!」

 

 メンチが構えるよりも、ブハラが動き始めるよりも早く。いや、その男が動き始めたと同時に目の前に駆けて、渾身の右ストレートを顔面に炸裂させた。

 

 自然と、口は動いてくれた。

 

 男はそのまま原作と同じ通りに窓を突き破って外に飛び出た。手加減はしたので、死んではいないはず。

 

 それと、今の私に行動に、私以外の全員が驚いていた。

 

 当然よね……部外者がいきなり乱入。意味が分からない言葉と共に男を殴り飛ばしたのだから。

 

 でも、やってしまったら仕方がないわ。この場を沈めましょう。

 

「女に手を上げる者は、例え神でも私が許さないわ」

 

 え、なに。なんでこんなセリフが浮かんだし。恐ろしいほどダサいんだけど。

 

「す、凄いやリナさん!! 今の早くて全然見えなかった」

 

「あ、あらそう。ありがとう」

 

 確かに全力では無かったといえ、かなりの速度出したし見えなくてもしょうがないわね。でもこれが今のゴンのレベルだとすると、見えていたのは数人かしら。

 

「余計な事をしたのは確かだけど、助かったわ……あたしが殺らずに済んだって意味でね」

 

 それなら、良かったわ。これでもし嫌われたら、嫌がるメンチを無理やり……はっ!! そっちの方が美味しかったかしら!!

 

「今のがなけりゃ、今頃あいつは死んでいたわよ。美食ハンターだけど、武芸なんて嫌でも身に付くのよ。これでもあんたちよりも先輩よ。ハンターについては、あんたたちよりも一日の長があるのよ」

 

『それにしても、合格者ゼロはちと厳しすぎやせんか?』

 

「!!」

 

 そう、館の外。その上空から聞こえてた声に、揃って皆が外に出た。

 

 上を見上げるとそこには、ハンター協会の飛行船。どうやら、会長のお出ましね。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「そりゃぁぁぁぁ!!」

 

 と、気が付けばゴンたちが谷に消えていた。どうやら、マフタツ山に到着していた様だ。

 

 私もゆで卵が欲しいので追いかけようとするが、そこでふとある事に気が付いた。

 

「……合格者出るじゃない」

 

「どうしたのよ?」

 

 あと一歩で飛び降りれるが、そこで立ち止まった事でメンチに声をかけられた。

 

「このままだと、合格者が出るのよ!!」

 

「え、いやそりゃそうでしょ……」

 

 メンチは、この重要さに気づいていないようだった。なら私が伝えるしかない。

 

「だから、このままだと……メンチの胸が触れないのよ!!」

 

「……あ、そう言えばそうね」

 

「ほほう。何の話じゃ」

 

 その少し不思議な会話に、会長が参加して来た。

 

「え……えーと。実は、かくかくしかじかでして」

 

「なんと!! 羨ま……ゴホン。けしか……ゴホン」

 

 してこの会長。中々に助平だったわね、うん。私と通ずる気配を感じる。

 

「まあ……しょうがないし、次の機会を狙う事にするわ……卵は取らなくても合格になるし……ぐす」

 

 上を向いて歩こう。涙がこぼれない様に。

 

「いやいや、泣くほどの事じゃないでしょ!?」

 

「例えるなら、食べた事のない珍味を目の前にして、別の人間に食べられた感じよ」

 

 メンチで例えるとそれぐらい悲しい。

 

「……はあ、分かったわよ。美味しい寿司も食べさせてくれた事だし、特別に!! 触らせてあげるわよ」

 

「……嘘言ってたら、一生拘束して玩具にするけどいい? あ、ごめん嘘よ」

 

 危ない危ない。また思わずポロリと出てしまったわ。

 

「……一瞬、本当にされそうでどうしようかと考えたわ」

 

「安心して。おおよそ冗談だから」

 

 主に、嘘よの部分がとは付け足さない。

 

 こうして、メンチとのイベントを獲得した私は大いに満足したのであった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ねぇ、今年は何人くらい残るかな?」

 

「合格者って事?」

 

 時は進み、夜。飛行船の中では試験官の三人がディナーを楽しんでいた。

 

「そ。一度全員落としといてこう言うのもなんだけどさ。なかなかのツブ揃いだと思うのよね」

 

「でも、それはこれからの試験内容次第じゃない?」

 

「そりゃま、そーだけどさー。試験してて気づかなかった? 結構良いオーラ出してた奴いたじゃない。サトツさんどぉ?」

 

「ふむ、そうですね……新人がいいですね、今年は」

 

「あ、やっぱりー!? あたしは294番がいいと思うのよねー、ハゲだけど」

 

「私は断然99番ですな。彼はいい」

 

「あいつきっと我儘で生意気よ。絶対B型!! 一緒に住めないわ!! ブラハは?」

 

「そうだね……新人じゃないけど気になったのが、やっぱ44番……かな」

 

 試験官三人。ここまで言っておいて、あえてスルーした番号があった。

 

 それはもちろん400番。リナの番号だ。

 

 ハンゾー、キルア、ヒソカと番号が挙がれども、それでもやはりあの特異な存在がリナだった。

 

 誰も触れようと思ってない。しかし、触れないでおくのも嫌だったのだろう。

 

 サトツが、ヒソカについて意見したそのまま勢いで、リナの話題に触れた。

 

「で、メンチさんが一番気になっているのは400番ですね。ある意味、私もですが」

 

「うぐ……サトツさん。分かってて触れるのはちょっとヒドイですよ」

 

「そう思うのはメンチだけだと思うよ……まあ、確かにアレだけどさ」

 

 アレとはもちろん、変態と言う意味合いが籠っていた。

 

「ある意味で、あたしにとっては危険人物……っていうか、危険そのものだわ」

 

「メンチをここまでびびらせるのも珍しいよね」

 

「だって、今までにいなかったタイプよ? そりゃあたしだってびびるわよ……従わないと、今頃五体満足じゃ済まない気がしたし」

 

「しかし、戦闘力の面で見れば確実に並のハンターでは敵わないでしょうな」

 

「能力は未知数と言っても、多分体術だけでも恐ろしく強いわね」

 

「あの時のスピードから?」

 

「うん。いくらあの男から殺気が出てて、こちらに来るって分かってても、あの速度は出せない。恐らく44番ぐらいじゃないかしら」

 

「躊躇わずに殴った所とか見ると、ある意味では44番より危険だよね」

 

「理由が恐ろしくくだらないのもね……」

 

「彼女は彼女なりの信念があるという事ですよ。おめでとうございます、メンチさん」

 

「やめてくださいよ!?」

 

 こうして、試験官たちの夜のディナーは過ぎていった。

 

 


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