TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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3話『トリックタワー前篇』 

 飛行船での夜。時計を見ると4時20分を指していた。

 

「あ、やっぱりゴンはいい顔して寝るのね」

 

「400番のリナちゃんじゃったな。ワシに何か用かの?」

 

 私は、会長の元へと足を運んでいた。

 

「ボールを奪ったらハンター資格を貰えるのよね?」

 

「おや、聞いていたのじゃな」

 

「ええ。それで、貰えるのかしら?」

 

 そう質問はしてみるけど、ここでボールを奪ったとしてもまず貰えないはず。ゲームを受けてくれるとも思わない。

 

「うーむ、そうじゃの……」

 

 ボール取りゲームは、ゴンとキルアだったから。

 

 会長には勝てる自信。つまり、はなから合格させるつもりは無かった。いや、あったにはあっただろうけど、負ける事は無いと考えていたはず。

 

 それが私になると、難しい。暇つぶしのレベルにはならないから。同条件で、ヒソカ等にも声はかからない。

 

 まあ、それでも私が訊きに来たのには二つ理由がある。もし受けてくれれば儲けもの。次に暇だったから。

 

 だからとりあえず訊いただけで、あんまり意味はないのよね。

 

「うむ、駄目じゃな」

 

「あ、やっぱり」

 

 予想通りだったわね。

 

「何事も形式じゃからの……リナちゃんを含め、44番や他の数人は正直このハンター試験をするまでもなく、ハンター資格を貰っても問題ない実力がある。ただ、そのままあげるとそれはそれで問題じゃ」

 

「それもそうよね。大丈夫、一応だから。それじゃ、三次試験まで寝る事にするわ。おやすみなさい」

 

「うむ」

 

 私は手をひらひらと振りながら、部屋を後にし、適当なベンチに座って寝る事にした。

 

 

◆ ◆ ◆ 

 

 

『皆様、大変お待たせいたしました。目的地に到着です』

 

 時刻は9時30分、丁度。

 

 かなりの音量で機内にそう放送が流れ、私を含め皆が窓の外を見た。

 

 窓から見えるのは、雲に届く長い塔。あれが、トリックタワー……。

 

 そして、飛行船が頂上に到達しそれぞれが外に降り立つ。

 

「何もねーし、誰もいねーな」

 

「一体、ここで何をさせる気だ?」

 

 受験者がそれぞれ疑問をぶつけたり、何をするかを思考している様子だった。

 

「でも、とりあえず何かあるんだよね?」

 

「そうだな。いきなり戦闘になる可能性もあるから、警戒は怠らない方がいいかも知れない」

 

 普通だと、クラピカの考えになるわね。

 

 何が始まるか知らなかったら、私もここまで落ち着いてられないだろうし。

 

「えー、それでは只今より説明を行います」

 

 そして、会長の隣に居た……名前なんだったかしら? 忘れたわね。その男が説明を始めた。

 

「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点になります。さて、試験内容ですが、試験官の伝言です……生きて、下まで降りて来ること。制限時間は72時間!!」

 

 その言葉に、受験者たちがまた騒がしくなる。

 

 ただ、説明はそれだけだった。

 

 男はそのまま飛行船に消え、飛行船は空へと飛び立った。

 

『それではスタート!! 頑張って下さいね』

 

 三次試験が、スタートした。

 

「さて、何か方法を探しましょうか」

 

 知ってるとは言っても、流石にどこに扉があるかは知らない。ゴンとキルアが見つけるまで待たないといけないし、適当に時間を過ごさないと。

 

「うむ。リナさんはどう考える?」

 

「そうね……」

 

 現在、ゴンとキルアとは少し離れて、クラピカとレオリオの近くにいる。

 

 そして、考えるフリをしながら時間が経つのを待つ。

 

「うわ、すげー」

 

「もう、あんなに降りてる……あ」

 

「ん?」

 

 少し大きめなゴンとキルアの会話が聞こえ、ゴンが指で示している先を見た。

 

 大きめの何かが、こちらに向かって飛んできていた。数は5体。目標は当然、外壁を使って下に向かったガタイのいい男のはず。

 

 男がそれに気が付いた時には、もう手遅れだった。

 

「外壁をつたうのは無理みてーだな。怪鳥に狙いうち……」

 

「きっとどこかに……下に通じる扉があるはずだ」

 

「私も同じ考えよ。それに、人数が減っているわ」

 

 人数を数えると、38人。少しタイミングを早めて教えたので、原作より数が多い。元だと、確か半分くらいって言ってたはずだし。

 

「このまま観察を続けて、人が消えるのを待ってもいいが……恐らく、同じ隠し扉は使えないはず」

 

「何で……あ、そうか。同じルートにさせないのと、偶然見たとしてそこから通られると簡単になっちまうからか」

 

 レオリオって根本的に馬鹿だけど、こういう事は少し賢いのね。

 

「ああ。だから、きっといくつも隠し扉があるはず……そうなると、一人一人別の──」

 

「レオリオ!! クラピカ!! リナさん!!」

 

 そのタイミングで名前を呼ばれ、ゴンに近づく。

 

「そこで、隠し扉を見つけたよ。でも、今迷ってるんだ」

 

「は? 何を迷う事なんかあるってんだ?」

 

 扉が複数あれば、そりゃ迷うわね。近くに密集してるって事は、罠だって考えちゃうんだろうし……。

 

「どれにしようかと思って。扉がいっぱいで……ここと、ここ。後こっちにも3つ」

 

 ゴンがそれぞれの扉の位置を教えてくれる。

 

 良かった、見つけてくれて。

 

「そうなると、この5人でちょうどね。中には罠があるかも知れないけど……行くわよね?」

 

 微笑みながら、4人に問いかける。少し挑発の意味を込めて、やる気にさせる。

 

「俺はもちろん!!」

 

「俺も行くよ」

 

「愚問だな。どうせ通らなきゃいけないのなら、行くに決まっている」

 

「俺も同じだ。運も実力のうちってな」

 

 これで、5人で挑戦できるのが決まったわね。

 

 トンパの代わりに私が入るから……そろそろ何かしらの影響が起きそうだけど、もう後には引けないし。

 

 いいわ、ここからが私のストーリーよ。

 

「それじゃ、恨みっこなしのジャンケンにしようよ」

 

 ゴンのその言葉で、ジャンケンが始まる。

 

 勝者は順に、キルア、クラピカ、ゴン、レオリオ、私だった。

 

 ゴンが裏技を使っていなかったんだ……とか思ったけど、それよりも私って、じゃんけん弱くない?

 

 一戦目から、皆パーで私だけグーで負けたし。

 

 そして、それぞれの扉につく。

 

「1・2の3で全員行こうぜ。ここで一旦お別れだ」

 

 キルアの言葉に、私も含めて全員頷く。

 

「地上で、また会おうぜ」

 

「ああ」

 

「死なないでよ?」

 

「1」

 

「2の」

 

『3!!』

 

 ガコンと扉が回り、すとっと身体が落ちていく。

 

「てっ!!」

 

 そして、レオリオだけが無様に頭で着地していた。

 

「……」

 

「ま、短い別れだったわね」

 

「くそぉぉぉ。5つの扉の何処を選んでも同じ部屋に降りる様になってやがったのかよ」

 

 レオリオがそう思うのも無理ない。可能性としてはあり得るけど、普通は低い確率のはずだろうし。

 

「この部屋……出口がない……」

 

「多分、あれじゃない?」

 

 指で示したのは、ボードとその直ぐ下にある台。その上には、5つのタイマーが用意されている。

 

「なるほど、だから5人。5つの扉が密集していた訳だ」

 

 それぞれがタイマーをはめる。すると、壁から扉が現れた。

 

 扉には、このドアを開けるかが書いてある。

 

「もうここから多数決か。こんなもん答えは決まってんのにな」

 

 原作だと、ここでトンパが邪魔してグダグダ進むのだけど……私だとどれぐらいスムーズに行くのかしら。

 

「まっ、当然丸になるわな。サクサク行こうぜ」

 

 部屋から出ると、また直ぐにボードがあった。右か左の多数決。私は右を押して集計を待つ。

 

 開いたのは、右の檻だった。

 

「なんで右なんだよ!! 普通は左だろ?」

 

 トンパでのイライラがないからか、少し抑え気味だけど少しイラついている様に見える。

 

 でも、ここでうんちくが始まってイライラを増やすのもアレね。

 

「ごめんなさい。間違って右にしてしまったわ。左を押そうと思ったのだけど……」

 

 少し落ち込むフリをする。

 

「あ、いやいいんだ。こんなの、この5人ならどっちだっていいしな!! わははははは!!」

 

 よし、誘導完了ね。めんどくさいグダグダは、出来るだけ撤去しないと。じゃないと楽しめないし。

 

 レオリオを除く他の3人が、小声でレオリオの事を呟いたのはきっと気のせいじゃない。

 

「む!!」

 

 角を曲がり進んだ先に見えたのは、あの空間。

 

 足場が目先で無くなっており、その先に見えるのは正方形のフィールド。更に奥に次の試練へと進む足場が見える。

 

 今からくだらない5試合が始まる訳だけど……トンパいないしサクッと勝利ね。

 

「見ろよ」

 

 奥の足場でフードを被った一人の人間が、フードを取った。そう、傷だらけのハゲだ。

 

 そこからそのハゲの少し長い説明が入り、無駄な多数決が終わる。

 

「よかろう。こちらの一番手は俺だ!! さぁ、そちらも選ばれよ」

 

 本当なら、ここでトンパが戦って……ん、戦ってないけどトンパが出るのよね。

 

 そこの枠に私がいる訳だけど、残念ながら私の目的はまだフードを被っているあの子、レルートだ。

 

「3勝すりゃ勝ちだから、出来るだけ早く終わらせたいよな」

 

「そうは言っても、勝負の内容が分からなければ確実に勝つことは難しいと私は考えるのだが」

 

「まあ、それもそうだよな……」

 

 2人の考えも最もだ。トンパがある意味いい仕事をしたから、ここからの予想付けが上手く行くだけで、この初戦は情報が皆無。

 

 現状、普通に理解出来るのは相手が体格が良くて好戦的な目をしている事。

 

 キルアは相手が元軍人か傭兵だと気づいているはずだけど……今、この段階だとほぼ確信ぐらいのはず。刑期短縮を餌に動いてると分かって、そこで確信を得るはず。

 

 私も、ちょっと色々な修羅場を潜って……まあ、事前情報が一番大きいのだけれど一応は軍人系だと気づける。

 

 ……とりあえず、皆を誘導しましょうか。

 

「うーん、あの人は多分だけど元軍人か傭兵だから、かなり腕に自信がありそうね。対決方法もデスマッチとかになるんじゃないかしら」

 

「あ、リナも気づいてたんだ。俺もその意見に賛成かな」

 

 これで場の空気は誘導成功。ここから誰が行くかを決めるんだけど……そこが問題ね。

 

「でもさ、そうなると誰が行けばいいの? どれだけ強いか分からないよね」

 

「そうね……」

 

 そう、これが問題。

 

 クラピカ、キルア、私は負ける事はないだろうけど、レオリオとゴンは怪しい所。2人とも今の段階は決して戦闘に長けている訳じゃない。

 

 勝てない、とは言わないけど、勝てるとも言いづらい。

 

 なら、勝てる3人の内誰かから行くべきなんだけど、ここで新たな問題が出る。

 

 ろうそくの男だけどゴンに任せる。2勝。そして次の相手は詐欺師の男。間違いなく、誰でもいいから戦えば勝利する。これで3勝。

 

 すると結果として、4戦目が行われなくなる。

 

 4戦目の条件としては、誰かが一度だけ負ける必要がある訳だけど……どうしたものかしら。

 

 やっぱり、少し情けないけど私が行って、わざと負けるのが一番手っ取り早い。けど、そうなるとレルートと戦う権利が無くなる。

 

 そしたら、必然的にレオリオがレルートと戦って、美味しい思いが出来る訳だけど……許さん。そんな羨ましい事は絶対に許さないわ。

 

「……さん。リナさん」

 

 だからと言って初戦にレオリオを行かせて、時間が来るまで拷問とかになってゲームオーバーになるのも駄目。負けると決まってはないけど……って、このままじゃ無限ループよね。

 

「リナさん!!」

 

「ふぇ? ど、どうしたの、ゴン?」

 

 いきなり耳元で大声で名前を呼ばれて、思わず生返事になってしまった。

 

「対戦相手の人が、リナさんを呼んでるんだよ。女がいるなら、女に確かめて貰うのが一番だからって」

 

 どういう意味か理解出来ず、思わず周りを見渡した。

 

 まず、全員がこちらを見ていた。そして、フィールドには男が倒れており、レオリオとレルートが立っている。

 

 よく見ると、フィールドのモニターには80と20の数字。

 

 ……あれ、つまりどういう事かしら。

 

「私が簡単に説明しよう。リナさんはずっとぶつぶつと何かを呟いていて、こちらの話が聞こえてなかった為に、一戦目はキルアが戦って圧勝。倒れているのは、その男の死体だ。そして、次にゴンが戦って、作戦自体は良かったが勢い余って自滅。三戦目は私が戦って勝利。で、今が四戦目。対戦相手とレオリオの賭けバトルなのだが、その相手の男か女を当てる段階でレオリオが男を選択。相手は女だと言うので、それを直接確かめる為にリナさんが呼ばれている」

 

 …………うん、意味は分かったけど長い。

 

「えーと、簡単に説明すると……2勝1敗で、リナさんが呼ばれている。って事になるだろうか」

 

 そう、それでいいのよクラピカ。物凄く分かりやすいわ。

 

「ありがとう、理解したわ」

 

 私の考えていた事が全て無駄になったけど、結果オーライね。

 

 少し急ぎ気味でレルートの元に向かう。

 

「で、私でいいのね?」

 

「当然よ。その為にわざわざ気が済むまで調べていいなんて伝えたのよ。思考力を鈍らせて、誘導して最終的に女に確かめて貰えれば、あたしの損はなくなるってわけ」

 

 ふふふ、本当に損じゃ無ければいいけどね……ふふふ、ふふふ。

 

「ごめんリナちゃん……俺が揺らいだばかりに、負けそうになっちまってる」

 

「いいのよレオリオ!! むしろ良くやったわ!! これで、これで思う存分楽しめるわ!!」

 

「お、おう」

 

 あれ、なんか引かれてる? いやいや、こんな美少女に微笑んで貰って引く男がどこにいるんだって話よね。

 

「さてと……本当に確かめていいのね?」

 

「え、えぇ……いいけど。あなたから、とても不気味なオーラ的なものが伝わってくるのは、き、気のせいかしら?」

 

「…………気のせいよ」

 

 即答するのは、上がっているテンションのせいで難しかった。

 

「そ、そう」

 

 そして、レルートのその何とも言えない不安な顔が私のテンションを更に高める。

 

 私はどうやって堕とそうか考えながら、キャリーバックを取りに戻り、フィールドに戻る。

 

「な、何をする気?」

 

「大丈夫。大丈夫……そう、大丈夫よ。私に任せなさい」

 

 邪魔にならない様に、角に向かう。

 

 バックの中から、防音完備、高性能テント組立セットを取り出し数秒で完成させ、中の空間に布団を準備。

 

「いや、軽く確かめるだけでいい、のよ? 女同士なんだし、直ぐ──」 

 

 そして私は、話の途中のレルートを無言でテントに引きずった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 リナとレルートがテントに消え、この空間に残された男たちは2人が出て来るのをそっと見守っていた。

 

「中で、一体何が行われているんだろうか」

 

 クラピカが、そっと呟いた。

 

「クラピカ、興味あんの?」

 

「何と言うかだな、あのリナさんの顔が頭から離れ無くてな……」

 

 テントを見ながら、どこか遠い所を見るような目でそう言った。

 

「それは俺も一緒だけど……ゴンは興味あるか?」

 

「ううん、ないかな。というか、何であんなに楽しそうな顔してたんだろうね。リナさん」

 

 あの中で、何が行われているか理解できていないのは、恐らくゴンだけだった。

 

 正確には、何が行われているかは誰も知らない。ただ、どの系統の事が行われているかはみんな理解出来でいた。

 

「リナだからかな……レオリオ!! ちょっと覗いてみろよ」

 

「そう思ったんだけどな。入り口に、覗くな危険って張り紙があってだな……」

 

「声とか聞こえねーの?」

 

「恐ろしい事に、全く。組立テントのくせに、防音機能あるみたいだ」

 

「だってよ」

 

 クラピカに向かって、キルアは言った。

  

「いや、別に中での事が気になる訳では……完全は否定はしないが、世の中には知らない方がいい事もあると強く思ったよ」

 

「それには、俺も同感だけどさ」

 

 そこから、二時間以上経って、リナがテントから出て来た。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「楽しかった。本当に楽しかった……久し振りだったから、年甲斐も無くはしゃいじゃったし、やっぱり生の女の子はいいわ……メンチも残ってるし、いつ味わおうかしら」

 

 どうやら、男だった頃の溢れんばかりのリビドーは無くなってはいなかった。むしろ、女になった事により露骨じゃなくて、内に秘めてある分だけ爆発力が大きい。

 

 なんて、冷静に自分を分析出来る程には成長してるわね。昔の出来事も、思い返せば容赦はなかったわね。手当たり次第じゃないだけましかしら。

 

 あ、でもメンチは胸を触るだけなのよね……まあ、その気にさせればいいかしら。

 

「お、おかえり。で、でだな……女だったのか?」

 

「もちろん。じゃないと、二時間以上も遊ぶ訳ないわ……って、そうだった。レルートは色々あってあんまり動けないから、私が代理で賭けの続きをやるわ。指示は全部レルートから聞いて動くから問題は無いわね? 試験官」

 

 カメラがある方向に向かって、そう尋ねる。

 

『……特別に許可しよう。このままだと対戦を離脱したとみなされ、君たちが簡単に通ってしまうからね』

 

 なるほど、一理あるわね。実力等以外で、ある意味ずるをして通るって事になるし。

 

 私たちはそれで問題ないのだけれど……まあ、試験官の立場を考えましょうか。

 

「それじゃ、次はレオリオの番よ。お題を決めて」

 

「ほ、本当にやるのか……分かった。けど、点差がこれだとここからの逆転も難しいなあ」

 

 スコアボードには、90と10の数字。元々レオリオはここで負けるから逆転なんて夢のまた夢なんでしょうけど。

 

 さて、変わるとしたらそろそろかしら。

 

 原作だと、ここでジャンケンで勝負してレルートの心理勝ち。ただ、今回は私が代理として戦う。

 

 原理は覚えているし、負けるとも思わないけど……所詮は運の問題。レオリオがなんかの気まぐれで違う手を出してしまえばそれまでになってしまう。

 

 そもそも、ジャンケンじゃなくなる可能性もある。まあ、そうなってしまえば運が絡まない限りほぼ勝てるから逆にありがたい。

 

 そうなると、ここはどうなるのかしら。

 

「よし、ここはジャンケンでどうだ!!」

 

 ……あーうん、やっぱりレオリオはレオリオね。

 

「分かったわ、ちょっと待って」

 

 一応代理の立場なので、テントに戻りレルートに話を伺う……ふりをする。

 

「…………いや……そんなの、うぅ」

 

 五体満足で、尚且つ服も来ているけど疲れ果てて寝ているからだった。

 

 レルートを起こすのは忍びないと思ったので、とりあえず話を進める為に代理を行おうと考えた。

 

 作戦は見事上手く行って、代理の権利は頂いたのでここで勝てば問題無し。

 

「あっ、そっち……には……もうダメぇ」

 

 うーん、これは危険だわ。早く外に出ましょう。

 

 うなされている……いえ、寝言を言ってるその姿が可愛すぎてまた遊ぶも忍びない。

 

「分かったわ、その条件でいいわ。こっちが賭けるのは80ポイント。負けても、ペナルティの時間は50時間だから安心して。そうよね、試験官?」

 

『その通りだ』

 

 変わっていなくって良かったわ。

 

「っく、いくら仲間だと言ってもここは本気で来るんだな、リナちゃん」

 

「当たり前よ。勝負は常にフェア……じゃなくてもいいけど、レルートの顔を立てないといけないし」

 

 顔を立てるというよりは、責任かしら。なんて考えながら、テントの方を一度見た。

 

 あれを回収しなくちゃいけないんだけど……レルート、出て来れるかしら。いや、出しても大丈夫かしら。

 

 まあ、その辺りは後で考えるべきね。

 

「分かった。掛け声はジャンケンだよな?」

 

「それで構わないわ。じゃ、いざ尋常に……」

 

 静寂の中、突き出したのは拳。レオリオも、拳を前に出した。

 

『ジャンケン!! ポン!!』

 

 声を合わせ、お馴染みの掛け声と共に出した手はパー。

 

 レオリオは、グーだった。

 

『ジャンケン勝負決着!! チップ切れにより、レオリオの負け!!』

 

 試験官が賭け勝負の終わりを告げた。

 

「これでまあ、レルートの顔は立ったかしら」

 

「ちくちょう……チョキを出していればジャンケンには勝てたのによぉ!!」

 

 ……残念ながら、面倒だったのでズルを行った為、レオリオの勝利は絶対にありえなかった。

 

 心理戦を使っても良かったのだけど、ワザと負けるのもどうかと思ったのもある。

 

 使ったのは、もちろんゴンの裏技。あそこで拳を出して来なかったら出来なかった。

 

「これで、2勝2敗……って、次はリナちゃんじゃねえか!!」

 

 陣地に戻っている途中、レオリオが声をあげた。

 

「そーだよ、レオリオの馬鹿野郎。リナなら……まあ、戦闘で負ける事もないだろうけどさ、男ならしっかり決めて来いよ」

 

「それに、負けた事により50時間を失った。今は61時間、残りが11時間。どうするんだレオリオ」

 

「ごめんレオリオ。庇いきれないや……」

 

 陣地に戻った途端、レオリオに集中砲火だった。

 

「いやいや、そりゃそうだが……自信と実力は比例しないって奴というか……正直、すまんかった!!」

 

 レオリオが、すかさず土下座した。

 

 空気自体は穏やかなので、あくまでみんな本気じゃない。トンパがいたらもっと邪険になってるんだろうけど……。

 

「それじゃあ、私が最後ね」

 

 時間を50時間も失っているので、さっさと話を切り上げて先に進む方がいい。そう考えて一歩前に出る。

 

 相手側も、私に合わせて最後の人が前に出て来た。

 

 そして、手枷が取れて、フードを取った。

 

「!! あ、あいつは!!」

 

「知ってるの?」

 

 レオリオが驚く中、私は特に何も感じてなかった。

 

 というかそもそも、近づかなければいいだけだし、足腰が強いとも思っていない。純粋なフットワークだけでどうにかなりそうよね。

 

「解体屋ジョネス。ザバン市最悪の異常殺人鬼だ……」

 

 ジョネスが壁を掴み、素手で砕いて砂に変えた。

 

「ふーん」

 

「あ、そうなんだ」

 

「リナさんならなんの問題もないだろう」

 

「それもそうだな」

 

 ……散々な扱いだった。

 

 敵側が、こちらの反応を見て驚いている。

 

 それもそうよね。殺人鬼が出て来て、相手がその殺人鬼に大したことがない、むしろ楽勝だ。なんて評価だったら、私が敵側でも驚く。

 

 フィールドに向かう途中、そう考えていた。

 

「で、勝負の方法は?」

 

「勝負? 勘違いするな。これから行われるのは惨殺さ。試験も恩赦も俺には興味がない。肉を掴みたい……ただそれだけだ」

 

 よ、良く喋るわね。キルアはここでアマチュアだって思ったのかしら。私はここで思ったけど。

 

 本物なら、ぐだぐだ喋ってないで試合を始めるだろうし、そもそも捕まってこんな所にいないわよね。

 

「女だからって、容赦はしないぞ。泣き叫んでいればいいだけだ」

 

「分かったわ。それじゃあ死んだら負けね……武器は使ってもいいかしら?」

 

「せめてもの抵抗か。いいだろう、さっさと準備するといい」

 

 あ、いいんだ。意外と腕には自信があるのかしら。

 

 私は、バッグから剣を取り出した様に見せた。

 

 手元がデザイン性のある形状で、長さは60㎝ほど。剣より短刀と呼ぶ長さになる。

 

 ただし、取り出せる様に見せる限界が60㎝だったにすぎないけど。

 

「剣か……長さが60㎝程しかない剣で、俺の攻撃を捌けるとでも? 俺は拳銃を持った警官が相手でも──あ?」

 

「うるさいわね……男の耳触りの声を長く聞く理由はないわ」

 

 長々と喋るジョネスがそろそろウザかったので、通り抜けると同時に、ジョネスの身体を胴と腰で真っ二つに切り裂いた。

 

 そして、剣を地面の方向に向けて振るって、血を落す。

 

『ここの先の部屋で50時間過ごすといい。君たちの勝ちだ』

 

 私たちの勝利が決まり、無事にここの試練をクリアした。

  


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