TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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4話『トリックタワー後篇』

4話『トリックタワー後篇』

 

 

「き、汚い……乙女の私にはこの空間は辛いわ」

 

「さらっと、嘘付くなよ。リナなら楽勝だろ」

 

「……うん、まあね」

 

 ペナルティの50時間、待機するのに用意されていた部屋はとても汚かった。例えるなら……そう、昔の私の部屋。

 

 知ってはいたけど……まさかここまで汚いとは思っていなかったわね。

 

 確か、トリックタワーって監獄って訳じゃないはずなんだけど……監獄だったのかしら。

 

「しかし、風呂に入れないのは辛いのでは?」

 

「そうね……辛いと言えば辛いけど、我慢するわ」

 

 ぶっちゃけ、今の今まで風呂に入れない事に気が付いて無かった。

 

 だけど、これも試練だと考えれば少しは気も楽になるし問題はない。

 

「うーん、それにしても50時間。暇になるなあ」

 

「違うよレオリオ。暇なんだよ」

 

「……それもそうだな」

 

「ぷっ」

 

 レオリオの呟きにゴンが反応し、その言葉の的確さに思わず吹き出してしまった。

 

「ちょ!?」

 

 うん、これなら退屈せずに済みそうね。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「残りは11時間。急いで進もう」

 

 クラピカの言葉を合図に、走りながら道を進む。

 

 50時間のペナルティは確かに痛かったけど、身体を休めるには丁度いいタイミングだったみたいで、私を除く4人はかなり休息に時間を割いていたし。

 

 もちろん、私も休んだけれど、テントの回収や部屋の片づけをしていたので4人よりは休んでいない。

 

 まあ、暇で動かないって方がしんどかったから動いていたのだけれど。

 

「登るか降りるか……」

 

 角を曲がった所で出て来たのは階段。登るか降りるかのマルバツだ。

 

「裏を考えると、登るのが妥当だろうけど……」

 

「降りましょう。所詮は半々の確率だし、先に降りて正解なら楽でしょ?」

 

 ここは答えが分かっているので直ぐに誘導に移る。

 

「そうだな……よし、降りよう!!」

 

 皆でバツを選択し、階段を降りる。

 

 しばらくすると階段が終わり道に出たので、更に先へと進む。

 

「これは……」

 

 一本道を進んだ先に現れたのは、一つの空間。

 

 部屋の奥に扉らしき物が見え、その上に電子パネル。部屋の中央には地面から出ている謎のコードが繋がっている椅子が5つある。

 

 恐らく、これが原作未登場の電流クイズね。

 

 ここからは完全に自己判断だし、中々茨の道になりそうね。

 

『ここは、電流クイズの間です。今から問題を出します。5つ正解すればクリアです。なお、解答者は誰でも構いませんが、外れた場合は椅子から電流が流れ、小一時間は気絶するものと思ってください』

 

「なるほど……間違えるとかなりのタイムロスを喰らう事になる訳か」

 

「ここに来てかよ。くそう」

 

「文句を言ってる暇はないぜ。さっさと始めよう」

 

「うん」

 

 全員が椅子に座ると、電子音と共に問題がパネルに出てきた。

 

『第一問。興奮すると、目の色が緋色に染まる地方の部族の名前は?』

 

「クルタ族!!」

 

 クラピカが即答した。

 

 うん、クルタ族だしね。

 

『第二問。パドキア共和国にある、ククルーマウンテンに住んでいるとされている暗殺一家の名前は?』

 

「ゾルディック家!!」

 

 今度はキルアが即答した。

 

 うん、ゾルディック家だもんね。

 

『第三問。香水で有名なブランド、シャルルサーチの限定商品の特徴は?』

 

「季節限定!!」

 

 これはレオリオが即答した。

 

 うん、レオリオ愛用のブランドだったしね。

 

『第四問。クジラ島に生息する人に懐かず、他の動物も怖がって近寄らない熊の種類は?』

 

「キツネグマ!!」

 

 ゴンが元気よく即答した。

 

 うん、ゴンに至っては懐かれてるけどね。

 

『第五問。これ、何問目?』

 

「五問目に決まってるでしょ!! てかなに!? 馬鹿なの!? 問題の選択おかしいでしょ!! というか、このメンバーにそんな問題意味あると思ってんのか!!」 

 

 流石に、吠えずにはいられなかった。思わず、最後の方は男口調になってしまった。

 

 危ない危ない。基本的に突っ込み慣れしてないから、古い記憶が蘇ったわ。

 

「大丈夫だ、私もそう思っている……ただ、ラッキーだった事には違いない」

 

「……ええ、そうね。先に進みましょう」

 

 そこから次の試練まで、誰一人口を開かず、ただ走った。

 

 そして到着したのは、マルバツ迷路と書かれた場所。どうやら、マルかバツを選択していき、進む道を決める様だった。

 

 その証拠に、左右に道が分かれている。

 

 ただ、思った……一体、何の意味があるのかしらと。

 

「何の意味があるのだろう。迷路なのにマルバツ……迷路の意味はあったのだろうか? いや、タイムロスを狙った構造なのだろうか」

 

 ほら、クラピカが真面目に考えちゃってるし。

 

 それはそうよね……迷路にマルバツつけてどうなるのよって話。

 

 きっと作者は、軽い気持ちで考えたのよね。どうせ書かないし。

 

「多分そうだと思うよ。でも、いつかはゴールに着くだろうし、ささっと決めて進んじゃおうよ」

 

「賛成だ」

 

「俺も」

 

 …………よし、アレを使いましょう。

 

 目を閉じて一回深呼吸。絶を解いて、円を発動する。

 

 そして、この建物および迷路の構造を理解し、再び絶を使っておく。

 

「なんか今、ぬるい空気が流れて来なかったか?」

 

「私も感じたが……風が吹いている感じでもないな」

 

「うーん、勘違い?」

 

「俺もそう思うけど……リナは何か感じたか?」

 

「……気にするのもいいけど、時間を先に考えましょう」

 

 私の一言で、それぞれが頷いた。

 

 やっぱり、才能があるって事ね……一瞬の円を理解は出来なくても感じる事が出来るなんて。

 

「で、どっちにするよ?」

 

「マルマルバツバツマルバツマルマルバツバツバツよ」

 

『…………』

 

 今度は、私の一言で皆がこちらを向いて無言になった。

 

 そりゃそうよね、思わず答えてしまっただけで、なんで分かったか、そう思うか分からないんだし。

 

 ……まあ、こういう時の為に言い訳は用意してあるんだけど。

 

「私の出身はジャポンって島国の近隣島になるんだけど、その島の巫女でね……つまり、予知の特殊能力や勘がかなりいいのよね」

 

 ちなみに、条件はしっかりと存在するけど、半分本当だ。

 

 予知って部分は、転生者としての原作知識から来ている嘘っぱちだけど、島の巫女って所と勘がかなりいいのは本当の能力。

 

 転生の特典でついた能力かと初めは思ったけど、どうやらそういう血筋の家に生まれたらしい。

 

 特別、巫女としての訓練等受けてはいない。正確には現代に移行していく中で必要がなくなったらしく、秘伝書等も存在するらしいけど、倉庫に眠っているらしい。

 

 母は巫女としてかなり凄腕の能力者らしく、10択の問題だろうと必ず正解できると言っていた。恐らく、念能力者でもあるのだろうけど……まあ、その辺りは全く聞いていない。

 

 と、そう言う訳で私には優れた直感が備わっている。

 

 能力の強さとしては、母と同じレベル。10択でも必ず正解できる……けど、たいして試した事がないので正確には分からない。

 

 ただし、先程あげたように条件があるのであんまり使ってない。

 

「なるほど……便利な能力だ」

 

「わりとってレベルだけど、それなりに便利ね。で、信じるかしら?」

 

『もちろん!!』

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 それから、私たちは幾度となく試練に直面した。

 

 迷路の次は地雷つき双六、これは私が神の采配の如く完璧に安全なマスに駒を進め無事にクリア。サイコロが怖いくらい思い通りの出目になったのが理由だけど……きっと、偶然に違いない。

 

 その次は岩から全力で逃げる一本道……だったのだけど、岩をグーパンしてみたらあっけなく破壊。安全に進む事が出来た。

 

 6つ目の試練は、床がいきなり抜ける一本道……これは私の円で何事も無くクリア。

 

 次は壁から槍が飛び出してくる一本道……この辺りで、一本道多くない? と皆で首を傾げたけど気にせず突破。

 

 8つ目は最後の試練の一個前、今度は一本道じゃなく大きな広場。四方八方から矢が飛んで来る部屋で、恐らく一時間は部屋にいた……けど、5人もいれば狙いも拙くなってしまった様で余裕で回避が出来た。

 

 確かにそれなりに疲れはしたものの、命の危険までは怪しかった。そもそも、私は全く疲れて無かったけど。

 

 そして、今の最後の試練。ゴンの機転により、壁を破壊しているんだけど……。

 

「暇だわ……」

 

 参加させて貰ってない。

 

 理由は、レオリオの一言なんだけど──「ここまで全然活躍出来てないんだ。リナちゃんの分まで働かせてくれ!!」との事。

 

 確かに活躍はしてないんだけど……ぶっちゃけそんな事どうでもよくて、クリアさえすればいいので現状、暇なこの状況の方が問題だった。

 

 時間的な余裕はあるので問題ないかな? と思って私も快く受けた訳だけど、結局時間ギリギリになっている。トンパの分が純粋に消えているので、その分のタイムロスが今まで稼いだ余裕の分を消してしまっているって訳。

 

 正直、私なら一撃で壁を破壊出来るのだけれど……全くいらぬ気配りだったわ。

 

 それに気づいているからか、キルアがちょくちょくこちらに視線を向けて来るので、申し訳ない顔で返すしかなかったし。

 

 ……まあ、そろそろ貫通するはずだから、今更どうこう言っても同じなんだけど。

 

「あとちょっとだ!! 頑張って行こうぜ!!」

 

「うん!!」

 

「ああ」

 

「……リナが手伝えばもっと早いんだけどな」 

 

 本当にごめん、キルア。

 

 …………あれ、そう言えば、あんまり多数決してなかったわね。

 

 一致団結していたから、絶対に5の数字になっていたとはいえ……あれかしら、試験官が試練を変えていたのかも知れないわね。

 

 原作とちょくちょく物語が変わっている。そう考えるのが一番なんだけど、果たして私にとって幸運か不幸か……。

 

 このハンター試験が終わってからは、完全に私の物語。原作知識なんて役に立たなくなってくるはず。

 

 それを不幸。不安だと捉えるなら確かに幸運じゃない。

 

 だけど、これが本来の人生。そうなると、幸運なのかしらね。

 

「まあ、いいわ。どっちにしたって、私が楽しい事には変わりないでしょうし」

 

 その呟きと時を同じくして、壁が完全に破壊された様だった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ぼけー」

 

 幸運だったと思う。残り物には福があった。確かにあった。

 

 それが私の幸運じゃなかっただけで。

 

「あと、5日……」

 

 壁を破壊し、滑り台にてゴールし、無事に三次試験をクリア。お尻が痛くなりそうだから、最後に順番を貰い滑らず走って進んだ。

 

 すると、私がゴールしたのは最後になるわけで、次の四次試験に誰を狩るかを決めるくじ引きで、私が最後に引くことになった。

 

 私が引いたくじには──『当たりじゃ!!』の文字。一瞬、現実を理解出来ずに試験官に詰め寄った。

 

 ただ、その行為は無駄に終わり、私は四次試験を運によって突破した。

 

 現在は、ハンター協会の運営するホテルにて待機命令を守っていた。一応はホテル内移動が許可されてるので、朝食にと食堂にいる。

 

「浮かない顔してるわね」

 

「ああ、メンチ……ん? メンチっ!!」

 

 とりあえず、抱きしめた。胸にあたる胸の感触が柔らかくて気持ちいい。出来れば私の手とテクニックを持ってして、メンチのこの胸を……まあそれは試験が終わるまで取って置くとしても、この胸は永遠に私の物にしておきたい。いえ、永遠なんてものじゃなくて、本当は死後の世界でも私の物であって欲しいわね。ここまでの胸なんて相当出会うのが難しい。そもそも、メンチは胸だけじゃなくてその全身、どこを見ても魅力的。これならいっそ、私の念能力はそういう能力、操作系とかだったら良かったわね。本当にそこの部分だけは悔やんでも悔やみきれない。

 

「ちょっ!?」

 

 ちょっと感情が高ぶったので、ついでにお尻も触って……揉んでおく。

 

「こら」

 

「ごめんなさい」

 

 ぽこっと頭を殴られたので直ぐに謝った。

 

「謝れたのね」

 

「酷いわ。私を何だと思って……変態ね」

 

 むしろ、メンチからすれば今の所はそれ以上も以下もない、しいていうなら受験生。

 

 自分で言ってて何だけど、それって駄目じゃないかしら。試験全部が終わる前に、知り合い以上にはならないと今後の繋がりが消えてしまいそうね。

 

「自己評価しっかりしてるじゃない……で、調子はどう?」

 

「暇」

 

 簡潔に即答した。

 

 この暇で人が殺せそうな気がするくらい暇だ。つまり、割とイライラしてるんだと思う。

 

「そりゃそっか……あんたが浮かない顔してたから、つい声を掛けちゃったけど。少しは話相手になるかなって」

 

「ん、ありがとう」

 

 言葉と共にメンチを再び抱きしめ、色々な感触を楽しむ。

 

「あんたも、こりないわね」

 

 また、ぽこっと頭を殴られた。

 

「それが生きがいだから」

 

 渋々身体から離れ、椅子に座る。

 

「まあ、あんたは暇でしょうけど、試験をスルー出来たって良い方向に考えなさいよ」

 

「そうね……メンチのお陰で、前より気が楽だわ。本当にありがとう」

 

 感謝の大きさは笑顔で表しておく。

 

「……ま、それなら良かったわ。それじゃあね」

 

 手を振りながら、そそくさと部屋を出て行った。そのメンチの頬が少し赤かったのは恐らく気のせいじゃない。

 

 この私の可愛さを持って最高級の笑顔を見せたなら、男は一コロ、女でも意識はしてしまうレベルのはず。

 

 言動や落ち着きからはクールなキャラに見えても、属性的に言うと私の容姿はキュート属性。そんな見た目キュート、中身クール。

 

 顔の造形は正直言って他を寄せ付けないレベル。童顔で、リアルロリっ娘だと思われてもおかしくない。

 

 だけど、実際にはロリ顔だけでなく、超アンバランスなこの胸があり。くびれ、足、腕の細さは、細すぎず健康的に少しふっくら。肌質はもちろん赤ちゃんのそれに匹敵。

 

 それなのに手入れは一切なし……とも言えないけど、あんまりしていない。

 

 両親から貰った物であっても、これほど完璧な美少女は他にいないと断言出来る。間違いなく、元の私なら出会った瞬間にどこかしらの暗い部屋に連れ込む自身がある!!

 

 そして!! そんな私が見せる飛び切りのパーフェクトスマイルはもはや必殺技にも匹敵する!!

 

「…………ばーか」

 

 なんか、思考が乗っ取られていた気がするので自分を戒めておく。

 

 試験、早く終わらないかないかしら。

 

 なんて、窓から空を見上げてもその答えは返って来ないのであった。 

  


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