TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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8話『変態と変態』

「それじゃ、改めてまして。リナ・ノザト。200階の闘士よ」

 

 何が改めましてかは、全く分からないけど。

 

「…………」

 

 なんか、怯えられてる。

 

 その表情がかなりぐっと来るのだけど、今は耐えましょう。

 

「こら。自己紹介ぐらいしねえか」

 

「……ヤヤ・サクラヅキです。今日で200階に上がりました」

 

 渋々といった様子で名前とクラスと教えてくれる。

 

「それはおめでとう。ヤヤは念使いよね?」

 

「まあ……」

 

 緊張? を解そうと優しく声を掛けてるのに全く効果がない。

 

 むしろ、ちょっとずつ距離が開いている気がする。物理的にも、心情的にも。 

 

「すまねえな。いつもは黙れと言ってもうるさいんだがな」

 

「お、お父さんは少し黙ってて!!」

 

 な、なんか恐ろしく気まずいわね。原因はもちろん私だけど。

 

 とはいえ、現状を打破するアイデアはない。

 

 いつもの様に? セクハラで切り込んでもいいのだけれど、今は間違いなく逆効果。店長さんも見ている、いる状況なのも悪評価に繋がる。

 

 メンチの様に別の場所に連れ込むのも手だけど、セクハラが駄目な状況。さらに、初対面で無理やりという事になるのであんまり乗り気でもない。

 

 まあ、セクハラをする事は確定だから、いずれこっちの道に引きずる機会はあるわよね……。

 

「ひっ!?」

 

 そして、距離がまた開く。

 

 どうやら、ヤヤは感性が強いらしい。自分でも僅かにしか出してないと思ったオーラに気づかれた。私のオーラが思ってたより出てた可能性の方が大きいけど。

 

 って、それよりも解決策……は、浮かびそうにないわね。今は何をやっても言っても逆効果……無限ループね。

 

 ここは一度出直して、時間が解決してくれるのを待ちましょうか。店長さんからの援護も期待して。

 

「ま、同じ階の闘士なら会う機会があると思うわ。少し先輩だし、聞きたい事があったら2222号室を訪ねて頂戴」

 

「……ありがとうございます」

 

 会計を済ませて、店長に一回アイコンタクト。

 

「……ん」

 

 無事に伝わったと思いたい。

 

 そして、二人の視線を感じながら店を出た。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「……やあ」

 

 200階に帰ってきたら、語尾にトランプのマークが付いてそうなマジシャンと遭遇した。

 

 私と目が合い、手を軽く挙げて気軽に挨拶してくる。 

 

「……ん」

 

 相手がいくら狂人でも、無視するのはアレなので同じ様に挨拶を返す。

 

「まさか君がここにいたなんてね……あ、そうだ。さっき人から聞いたよ。カス……何とかを倒したんだって?」

 

 ヒソカも名前を覚えて無かったのね。ここまで来ると、なんか不憫に思えて来る。

 

「対して強くなかっただけよ。ヒソカはリベンジマッチがあるのよね?」

 

「ああ。でも、今はそれよりも君に興味があるかな」

 

 その笑顔とぶつけられる禍々しいオーラに、不思議と悪寒等が感じなかった。

 

 普通の念使いなら、この時点で逃げ腰になってそうだけど、私が無関心なだけかしら。

 

「冗談は顔のペイントだけにしなさい」

 

「意味が分からないよ」

 

 苦笑いのヒソカだった。

 

「それが狙いよ」

 

 うん、軽口を言い合う位なら楽しいわね。原作キャラの中でも一位二位を争うキャラの濃さだし……以外と話してみれば普通よね。

 

 ただ、一部のネジが存在しないのは間違いない。

 

 ……私も無いわね。ゴンもないし。誰かしらネジは飛んでるわね。

 

「君ってそんなに変な人だったのか」

 

 苦笑いから、今度は真顔でそう言われる。

 

「ヒソカには負けてると思ってるわよ」

 

 なので私も真顔で返しておく。

 

「……なんか、気が削がれたよ。君とここで戦う事はなさそうだ」

 

 言葉の通り、オーラ当たりが弱くなった。

 

「それは残念ね。無様に負ける姿を見たかったのだけれど」

 

「せめて、もっと挑発の気を込めてくれないか……本気じゃないのは分かるけどさ」

 

 やっぱり、意外と普通ね。

 

 よく考えてみれば、好きで人を殺している訳じゃなくて、戦いが好きで結果的に人が死んでるだけなのかしら。

 

「話は変わるけど、人殺しが好きなの?」

 

 気になったので聞いてみる。

 

「ん……難しい質問だけど、答えはノーかな」

 

 ヒソカからそう聞かされるとそれはそれで違和感があるわね。

 

「もちろん、嫌いじゃないよ。ただ、人殺しが好きならそもそも時と場所を選ばずに殺るよ」

 

「それもそうね」

 

 全くもってその通りだった。

 

 予想は出来ていた答えでも、本当にヒソカの言う通り。

 

 私も女の子が好きだからって誰でも良い訳じゃないし、時と場所を選ぶ。つまりはそれと同じ事。

 

 ヒソカが好きなのは、命の削り合いなんでしょう。

 

「で、質問の意図はなんだい?」

 

「好奇心ね」

 

 転生者として、という言葉は飲み込んでそう返す。

 

 もっとも、世界を借りた私の世界であって、本来のヒソカとは違う生き物のはず。

 

 まあ、特に関わってはいないから、私が影響させた部分は少ないし、ほぼ一緒なんでしょうけど。

 

「それは僕に興味が湧いたって事かい?」

 

 オーラをズズッ──っと私に向けて来る。

 

「寝言は寝ている時に言うから寝言なのよ」

 

 なので、ヒソカの戦意を無に返す。

 

「……はあ。君は本当にツレナイねえ」

 

 もっとも、戦意なんてほとんど感じ無かったし、ヒソカの今の言葉も本音じゃない。

 

 本音というより、そもそも本気で戦意を私を向けてない。

 

「生憎、女にしか興味ないから」

 

「それ、実は関係ないよね」

 

 言われてみればそうね。適当に口から出した言葉だったから、特に考えてなかったわ。

 

「仕様ね」

 

「仕様か……それはしょうがない」

 

 伝わるんだ、この言い訳。

 

「ああ!?」

 

 何故かこのタイミングで大切な事を断片的に思い出した。

 

「っ!?」

 

 ……そう言えばヒソカって旅団よね。なんで今の今までそんな大事な事に気が付かなかったのよ。旅団って事はマチ、シズク、パクノダがいるじゃない。

 

 というか、ヨークシン編に入るんだしノエルにも用事があったのを忘れて……忘れて? この私が?

 

「いきなりどうしたんだい? 流石に僕でも驚いたよ」

 

「ちょっと待って、大事な事を思い出したの」

 

 一体、いつから? というか、誰を忘れている?

 

 自分の記憶に問いただしてみる。が、天空闘技場から先の内容を思い出せない。

 

 ヨークシンについてはキャラクター等は問題なくすっと出て来るけど、ストーリー内容が少し靄が掛っている様な感じ。

 

 キャラクターを繋いで頑張って思い出してみれば、それが少しましになるけど、完全には思い出せない。

 

 純粋に時間が経っていて思い出せない。忘れているなら仕方がない。

 

 ただ、これは何か違う……。

 

「ねえ。自分のオモチャ対象を忘れた事ある?」

 

 トランプタワーを作って遊んでるヒソカに尋ねる。

 

「ん、ないね」

 

 即答だった。

 

「そうよね……」

 

 好きな者を忘れる方がおかしいのよね。

 

 とすれば、私の消えた記憶? について関わっている人間は一人。

 

「用事を思い出したから、ちょっと電話」

 

「それは僕にここにいろって──」

 

 ヒソカの言葉を聞くより早く、その場を後にして携帯を部屋に取りに行く。

 

 携帯を手にし、電話帳から母へと連絡。

 

 そして、待つ事3コール。

 

「そろそろ、掛って来る頃だと思っていたわ」

 

「それじゃ、早速聞くわ。私の記憶について教えて」

 

「ん、最初から話しましょう──」

 

 聞かされた内容は、かなり衝撃的だった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「だから、旅団を紹介してくれないかしら?」

 

「僕を待たせた挙句、話の脈絡も無しに何の話だい」

 

 母から聞かされた内容は簡単で衝撃。

 

 どうやら、パクノダと同じ系の念能力で、私の記憶を読んだ。その後、転生者の私を女の子として調教中についでに記憶を操作していたとか。

 

 完全に忘れていなかったのは、そこで母が上手く調整していたらしい。

 

 だから試験になればメンチの事を思い出したり、試験が終われば天空闘技場を思い出した。自然と身体がその方向に進んでいたのはこれが理由だった。

 

 自分でも、今思い返せば流れに違和感を感じる。会長との面談で答えが出て来なかったし。

 

「4番」

 

「……ふむ」

 

 そして、電話の結果。私の忘れていた記憶が戻って来たので、フラグを建築する為に動く事に決めた。

 

「君にはそれを伝えていないし、彼も喋る性格じゃないと思うんだけどね。知っているという事は、それが君の能力かい?」

 

「ある意味ね」

 

 記憶を基にした未来予知。ある意味で能力と言っても差支えない。

 

 今まで必要以上に未来の変化を怖がっていた自分が面白い。私が関わっている時点で、そもそも未来は変わるというのに。

 

「ただ、紹介は難しいかな。あれは僕のオモチャだ」

 

 ゆらりと立ち上がり、トランプを構える。先程よりもオーラが強い。

 

「なら、共闘しましょう」

 

 利害は一致している。

 

 ヒソカは強い相手を求め、私は女の子を求める。

 

 なら、女の子を貰う代わりに、私は強い相手を提供する。

 

「……女の子かい?」

 

「ええ。良い女の子がいたら紹介して欲しい。その代わり、ヒソカが戦いたい相手がいるならそれに協力するわ」

 

 もっとも、旅団の三人以外にヒソカに手伝って貰う相手はいないのだけれど。

 

 それに、手伝いと言っても最初の切っ掛けを楽に作る為。協力が必要ないと言えば必要ない。

 

「オモチャを譲るのはもったいないけど……君が殺す訳でもないし、残るね」

 

「狙うなら全力で死守するわよ」

 

「なるほど、これで君と戦える可能性も生まれる訳だ」

 

 ヒソカはにやっと笑い、トランプを仕舞った。

 

「交渉成立かしら?」

 

「ああ」

 

 これで、三人はクリアね。

 

「それじゃ、する事がいっぱいあるからまた今度ね。これが私の連絡先よ」

 

 携帯を出して赤外線を準備する。

 

「了解」

 

 そして、ヒソカと連絡先を交換して部屋に戻った。

 

 早速パソコンを付けて、メモ帳を起動する。

 

「今日が26日だから……」

 

 カレンダーを見ながら、予定の日にちを大体で入力していく。

 

 これから、忙しくも楽しくなるわね。

 

 未来に期待をしながら、日を跨いでもパソコンと向き合った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ん?」

 

 予定を書き終え、時計が昼を示した頃にチャイムが鳴る。

 

 "円"で来客者を確認すると、ヤヤだった。

 

「私に用事かしら? あ、好きな所座って」

 

「お、お邪魔します」

 

 扉を開けて部屋に入れ、お茶の用意に移る。

 

 まさか、本当に来るなんて思っていなかったわ。昨日の今日だし。

 

 昨日よりは怯えも減って……というか、怯えと言うより緊張かしら。

 

「備え付けの紅茶で悪いけど、茶菓子は手作りよ」

 

 何となくでクッキーを作って正解だった。本来は自分で食べる為に用意したんだけど。

 

「あっ、お構いなく」

 

 まあ、言うと思ったけど。

 

「ヤヤが良くても、私の気が済まないのよ。素直に頂きなさい」

 

 こういうタイプにはこの攻め方が一番効く。

 

「……はい」

 

 と、ギャルゲーで学んだのだけれど、本当に効くのね。そんな馬鹿な、と思ったけど。

 

 何かあったら試してみましょうか。

 

 昔の自分も、ギャルゲー知識を試していたら彼女ぐらい出来ていたのかも知れない。

 

「あ、美味しい」

 

 そして、ヤヤは素直にクッキーを食べた。

 

 いや、別に媚薬とか睡眠薬とか入ってないけど……昨日の今日のはずよね? 

 

 ヤヤが深く気にしていないなら私も気にしないけど。

 

「それは何より。で、本題は何かしら?」

 

「ああっ、そうでした」

 

 この子、本気で忘れてたわね。それほど美味しかったなら別にいいんだけど……。

 

「私と、戦ってくれませんか?」

 

 よりにもよってそんな本題なのね。薄々気づいていたとはいえ、困ったわ。

 

 どれだけ実力があるか分からないし、能力も不明。

 

 私が負ける事は恐らくないけど、女の子が相手だと少し面倒なのよね。

 

 もっとも、能力を使わなかったら問題ないのだけど。

 

「いいわよ」

 

 なので、普通に受ける。

 

 本気で命の削り合いをする訳じゃないし、万が一でも死ぬ事はない。

 

 ……はずよね。

 

「良かった……それじゃ、いつにしましょうか?」

 

 念での戦いだし、万が一が起こる可能性があるのが困る。全てはヤヤの能力次第だけど。

 

「早い内がいいわね」

 

 ヨークシンやグリードアイランドまで時間はかなりあるけど、それでも時間があった方が良い。

 

 予定への準備や、お金を溜めてもいいし。

 

「それなら、明日とかどうでしょう?」

 

「ん、ならそれでいいわ」

 

 かなり話がスムーズに進んだけど、本当に戦っていいのかしら。

 

 私には何の得も無いのよね。

 

「それじゃ、それで申請しておきますね」

 

 まあ、いっか。

 

 今の笑顔だけでお釣りが出るし、揺れる胸を間近で見れる権利を貰えると考えれば問題なんて些細な事。

 

 というか、よく今まで真面目だったわね。

 

 普通ならこのままベッドに押し倒すレベルなんだけど……。

 

「やっぱり美味しい……後でレシピとか聞いてもいいのかな? いや、駄目かな」

 

 なるほど、そっちが素なのね。独り言がかなり可愛い。

 

 そう言えば、この子はオリジナルキャラなのよね。

 

 私がこの世に生まれた? から現れた存在なら、恐らくこの子は私にとっての重要キャラ。

 

 いや、キャラって言うよりかは人ね。私はもうこの世界の人物だし。

 

「戦いが終わったらスカウトしてみましょうか」

 

「うーん、何故か女の子としての敗北感がするのは気のせいかな……ううん、私も負けてないはず」

 

 やっぱり、聞こえてないのね。

 

 ヤヤは、独り言のゾーンに入ると周りの音が聞こえなくなるっぽい。とりわけ、今の興味は私のクッキーの様ね。 

 

 それじゃ、ゾーンから抜けるまでゆっくり待ちましょうか。

 

 ふむ、下着はピンクと白の縞々……これはこれでいいわね。私は一枚も持ってないけど。

 

 そこから、ヤヤが気づくまでに数分を要した。

 

 




文字数減らして、更新速度上げる事にしました。

読んでて、文章長いなと感じた為です。


ヒソカの口調が難しい。

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