目の前に巨大なBMが立っている。
ーーー否、それは「立っている」と言えるのか。
なぜならば標準的なBMが二脚型であるのに対しそのBMの下半身は二脚の様相を外れ、大凡戦車などで見かけるキャタピラ、もとい無限軌道が格納庫の床を重厚に踏みしめていたのだ。
「これが〝山城〟」
「はい。6.7×8.5サイズ、重量……実に200越えの怪物級BM!!山城です!」
安定感、重厚感、そして驚異の装甲値を誇り、武装にあえてグレネード兵装のみを積み込むことで圧倒的な火力を得る事に成功したと豪語する山城。
確かに実弾火器を寄せ付けない装甲とC〜BランクのBMなら一発で粉微塵にできるグレネード兵装は対BMという点では比類ない強さを誇るだろう。
しかしその裏で実弾以外の属性……例えばビームや氷、例えばビームやビーム、というかビームに対しての耐性値が劣悪な上にただでさえ重い機体重量216に加えて全身至る所にグレネード兵器を積み込んだからさあ大変、重量は実に421の大台となり、ただでさえ遅い機体速度は更に亀さんのような鈍重さに磨きをかけたことで実弾耐性なんぞ知ったこっちゃねービームに糞遅い脚を更に遅く出来る氷属性は正に天敵と言っていいだろう。
「設計者の頭はファニーマシンだわ」
「頭ファ二ってるよね」
当然ながら山城は重量過多である。
「じゃあ今から乗るんで」
「はい!練習用のダミーは外に用意してますのでどうぞお試しくださいね!」
今回のクライアントである有澤重工の令嬢兼企画主任の有澤斑鳩は満面の笑みを浮かべて格納庫の外にある特別な観客席に向かった。
その後ろ姿を見送りながら、俺はこの機体のコックピットの中を呆れつつも確認していく。
「なんてコックピットだ。いろんなBMに乗ったが、こんなに広い奴は初めてだ。日の丸の戦艦大和はホテルのようだと聞くが、日の丸の奴らは機体性能よりも居住性を求める性格なのか?」
山城のコックピットはとても広かった。
一般的なBMの1.8倍広いと言われる軍曹メカの更に2倍ほど広いだろう。
その、広いと思えるコックピットまわりも俺が愛用しているシートよりも座り心地の良さそうなクッションシート、機体を移動させるペダルの他にも何故か足つぼマッサージなんてものもありやがる。
「戦場にこんなものを持ち込む奴はバカだ。戦場を寝床にする日の丸のブシドー精神は理解できないね」
戦場で寛げても、それで死んだんじゃ座り心地が良くても意味が無いだろうに。
「さて、雲雀。今からテストを始める。記録の準備は?」
『出来てる』
「OK……そんじゃあ山城、出るぞ!」
操縦桿を握り、足元のペダルを思い切り踏み込めば山城は獣のような咆哮を上げて始動する。
キュラキュラと動き始める脚と重い挙動で唸り上げるマニュピレーター、やはりコイツは……重い!
「的を出せ!」
『ダミーBM射出』
上空、あるいは隔壁の向こう、あるいは背後、至る所から出現するBMを照準に入れ、全身のグレネード兵器の発射ボタンを指の腹でなぞりながら舌なめずりを一つ、更に頭の中で武器切り替えや行動の手順をシュミレーションしながら背中に背負ったグレネードキャノンを前方のダミーBMーーー軍曹メカに叩き込んだ。
『ーー命中。軍曹メカは一撃で大破。照準に−16の誤差を確認。修正して』
「ハッハァァァァァーーーー!!」
次弾装填、発射。
放たれた弾頭は頭の中で思い描いた放物線を描き、別の場所で回避行動を起こしていた軍曹メカを先回りしてそのコックピットを全身ごと「持っていった」。
ドガン!!
『軍曹撃破』
右手に持ったグレネードライフルを無造作に撃てば地面にクレーターを起こして軽い地揺れを発生させ、その爆風で持って目眩しと爆風ダメージを与える。
その爆煙を突っ切りながら山城の全体を持って目の前の武士に強烈な体当たりをかます。
たとえ遅くても十分にスピードに乗った山城の体当たりは凶悪な武器だ。
『武士の戦闘不能を確認。実戦だったら中のパイロットは圧死してる』
「ハッ!もしかしたら衝撃だけでミンチになったかもな!」
銃を構えた重装型の軍曹をグレネードライフルで小突き、そのままコックピットと頭部をセットで吹き飛ばす。
「うおっ」
軍曹メカと山城を爆炎が飲み込む。
正確に頭と胴体のみを狙ったつもりだったが、グレネードライフルの爆発範囲が予想より広かったようで、爆風によって軍曹メカのミサイルや弾薬までも誘爆したようだ。
『わかってると思うけど、グレネードの扱いには気を付けて』
そうは言うが、山城はやはり丈夫な上に、有澤の連中もグレネードを主武器とするからには爆発属性についての知識も耐性のある装甲を作るノウハウもある。
そういえば対爆射装甲の製造元は有澤重工だと雲雀が言っていたが、グレネードを熟知した故に山城は火力と装甲値を併せ持っているのだろう。
「他の武装も試そう。肩部グレネードミサイルーー発射」
右肩に内蔵されたグレネード弾頭のミサイルが3基発射される。
それらは弾速こそ遅いものの、その火力と爆数範囲で前方にいた軍曹を全て蹂躙した。
「………オーバーキルだろ」
『一個中隊の殲滅を確認。次が来る』
喧しく囀る警報音に眉を寄せ、周囲を索敵すれば一個大隊規模のBMが山城を包囲している。
残りの武装はグレネードガトリングガン、ロケットグレネード、グレネードレールキャノンの三つ、先ずは包囲網を噛みちぎるためのガトリングだ。
「抉れ!」
連なりあった砲身がグルグルと高速回転し、爆薬の詰まった弾頭を滝のように吐き出していけば目の前が衝撃と轟音と爆風で遮られた。
『これ……一つ幾らくらい?』
『そうですねー。軍曹が一つか二つ買えますね!弾薬込みで武士もイケますよ!』
『買う。二つともカードで』
『ありがとうございます。って、凄い入ってますね。傭兵ってそんなに儲かるんですか?』
『レイヴンくらいになるとロクでもない依頼の代わりに報酬が高いものばかりだから』
『へぇ〜』
グレガトが弾幕を吐き出す合間合間に聞こえる女二人の会話に避けないことは喋んなよ?と心の中で祈りつつ、上空の毒鳥、ハチクイ、夜雀、赤黒青羽戦闘機部隊を左肩のロケットグレネードで撃ち落としていく。
爆風に煽られて制御も効かず、パタパタと墜落していく様は殺虫剤を吹き付けられた虫のようだ。
「おら、こいつで最後だ」
グレネードキャノンとは別に背負っていたもう一つの砲身がその全容を露わにした。
弾速の遅いグレネードの欠点をレール砲を使って超高速弾頭にした、ドン引きの一品だ。
コイツはチャージに時間が掛かるもののその威力と速度はどんな敵も粉砕すること間違いなしだ。
「チャージ完了。グレネードレールキャノン発射」
丁度目の前に現れた巨大戦艦に向けて発射ボタンを押すと、超高速すぎて目では捉えられなかった弾頭がゼロコンマ数秒で巨大戦艦のブリッジに着弾、巨大戦艦は登場して間も無く退場となった。
「テストはこんなものか。このBM凄いよ。さすが変態企業の実験機!大隊規模を単機で殲滅可能とか頭ファニファニですよ雲雀さんや」
『私もそう思う。機体速度さえクリア出来れば単機で国とも戦えるんじゃない?』
「恐ろしく護衛任務には向いてねえがな。取り敢えずコンペまでにはグレネード系は全部下ろしとけよ。これじゃあ評価も何もマイナス方向に振り切れるわ」
コイツが護衛予定の神皇が何者なのかは知らんがこんな奴に護衛されるとあっちゃ生きた心地がしないだろうな、俺だったら拒否る。
『ん、取り敢えず最初のテストはこれで終了。お疲れ様』
轟々と燃え盛る模擬戦場に軽く罪悪感を感じつつも、小鳥がさえずるような雲雀の声に「了解」と返した。
山城 有澤重工
サイズ6.7×8.5 重量421
武装
グレネードライフル
グレネードガトリングガン
グレネードキャノン
グレネードレールキャノン
グレネードミサイル
ロケットグレネード
機体行動
全速前進
全弾発射
ブーストチャージ