「誰だ?お前」
目の前にいる少女の暗殺者を前にして腰巻状態のレイヴンは脱衣所のロッカーから服装を取り出す仕草をして中の拳銃を抜きはなった。
「誰だよ、おい」
「用意ーー抜刀」
放たれた銃弾は少女に命中する直前で半分に別たれ、床に音を鳴らす。
「ほー、銃弾を空中で両断するなんて、中々やるなぁ」
感心した顔つきでパンパンパン、と乾いた音が連続する。
殺し屋ーー心宿三はレイヴンに向かいながら次々と銃弾を切り弾く。
ーーカチカチ
「チッ」
弾が切れたーーレイヴンはガラクタに変わり果てたソレを勢いよく心宿三に投げつけるとロッカーからジーパンとパーカーを取って早着替えを披露し、脱衣所から逃走する。
「逃がさないよ」
その背後から迫り来る刃を横目で流すと紙一重で避ける。
「んん?」
たしかに避けたはずの斬撃だったが、レイヴンの服は切れ、血が滲んでいた。
(何か細工でもあんのか?)
迫る双剣の剣戟を先ほどよりも距離を離して避けつつ、ロッカーに隠れているだろう仲間(?)へ大声を上げる。
「そら飛び出せAMIDA!お嬢ちゃんが遊んでくれるらしいぞ!」
「アミィィィイアイ!!」
「?ーーーッ!?」
怪訝な顔持ちの三の背中に何か異質な存在がしがみつくと同時に三の身体中を凍てつくような鳥肌が走る。
「くっ」
「アミアミ?」
その正体は緑色のグロテスクな姿をしたスイカ大の大きさの蟲だ。
それが赤い複眼をいくつも光らせ、三にしがみついている。
さしもの感情を制御することができる彼女もその悍ましさに恐怖というものを覚えた。
「行け!AMIDA!白濁液をした液体攻撃だ!」
「アッヒィィーーー!!」
蟲の口から白濁とした液体が迸り、三の身体中を満遍なく汚す。
これは流石に不味いとAMIDAを直ぐに振り落として距離を取る三だが、ジュウジュウと溶け落ちる音に自身の体を見下ろすと、自分の着ていた戦闘服が瞬く間に溶けていくではないか。
驚愕する三を他所に彼女の白い肌はその大部分を露出していき、彼女の肌を守るのは辛うじて両腕でそれぞれ隠した秘所だけになる。
「ふっふっふ。AMIDAが吐くこの酸攻撃は通常の酸が余りにも強すぎるために生み出した技ーーーその名も創作物でよく見かける都合よく服装だけを溶かす御都合主義白濁液だぁーー!!はっはっは!俺が丸腰と見て抜かったなぁ!この間抜けェ!!」
三に叩き落とされて渋々と羽ばたくAMIDAをキャッチし高笑いを上げるレイヴン。
因みに手元のAMIDAも聞くだけでSAN値が狂気に陥りそうな断末魔で鳴いている。
「さてさて丸裸になったメスガキめ!どっから雇われたか吐いてもらおうかねぇ?吐かなければひっどいことするよぉ〜?エッロいことするよぉ〜?見た奴全員「エッッッッ!」って白目剥くレベルでやっちゃうよぉ〜?」
既に絵面は強姦魔と可哀想な少女である。
「くっ、しくじったか。…これではお姉様方に笑われるな」
「おおっとぉ!?くっころ!?くっころなの!?ねぇそれくっころで合ってる!?」
煽りに煽るレイヴンをキッと睨みつけ、双剣を手繰り寄せると、少女はそのまま闇へと消える。
「あ……」
しまった、と彼が声を漏らす頃には彼女の姿は何処にもなく、AMIDAの羽が擦れる音だけが虚しく響くのみだ。
「あーあ。面白い奴だと思ったのに」
天然鬼畜野郎はぶつくさ呟くと脱衣所から上がり、コーヒー牛乳を一気飲みし、雲雀が湯から上がるのを待つ。
既に彼女は拐われた後なのだが、彼はそれに気付くそぶりも見せず、その日の営業が終了するまでずっと待ち続けるのであった。
「えっ!?雲雀さん拐われたんですか!?」
「ああ。だからちょっとこっちから出向こうと思うんだけど、今日は中止で良い?つーかなんか此処焦げ臭くね?」
翌日、有澤重工に出向いたレイヴンは妙に黒焦げになった有澤社のアリーナで斑鳩と話をしていた。
「あー、なんか昨日社員が火遊びしてたみたいで!いやー私は火炎放射器なんて玩具は辞めてグレネードにしろって言ったんですけどね」
「んーさらりと火炎放射器を玩具扱いするのを辞めろと俺は思うんだけどねぇ。やっぱアレだよな。国が違うと文化も違うっていうかさ、ホラ頭がおかしいかナニカサレテル奴とまともな奴は分かり合えないっていうかさ」
言外に「キチガイ」だと発言しつつも照れたように頬を染める斑鳩、これでも軍事企業の令嬢である。
「んで、話を戻すけど。何があった?俺は無防備なところを襲われて有澤重工じゃ爆発事件とかただ事じゃねえだろ」
相棒も姿を消したとあってレイヴンの目付きは鋭さを増すが、反対に斑鳩はおちゃらけた態度で回想に入る。
「アレはレイヴンさん達がオススメした銭湯に向かった後の事でした。私たちがアリーナでグレネード兵器の良さについて語っていると………」
「んー。ナチュラルにグレネード兵器を語ってるっていうのがこの会社がどれだけ頭ファニーマシンかを物語ってるよね」
「五月蝿いですよ。それで私たちが話をしてる最中に一台の輸送車が来たんですね。あれー?おかしいなぁって思ったんですけど、ちゃんと本社からの輸送車でしたし、載せてるものもグレネード兵器だったんで、取り敢えず何を持ってきたか見てみようかって話になったんですけど」
それがアリーナの爆破とどう関連するのだろうか、レイヴンはとても興味深げに話を聞いている。
「徐に運転手が火炎放射器をブッパしちゃったんですねー。やっぱりアレですかね?持ってきたグレネード兵器の爆発で火薬の量とかを確かめたかったんじゃないかってみんな推測してるんですよー。ああ、あの子はとても仕事が真面目なんだなー、と」
「んー、うん。やっぱこの会社いっぺん潰れた方がいいんじゃね?」
おもっくそ暗殺要件じゃねえかソレ、つーか殺されそうになったのに仕事に真面目?頭沸いてんのか?とレイヴンは有澤重工のキチガイっぷりに頬が引きつる。
「あ?そういえば輸送車に積んでたグレネードの火薬が爆発してなんで生きてんのお前ら?」
「むっふふー!いいことを聞いてくれました!我が社では対爆性能の高い作業着を着ることが義務付けられてまして、有澤にとっては火薬量を間違えて誤爆なんてしょっちゅうですから!至近距離の爆発なんてサウナみたいなものですよ!」
「お前ら人間辞めてますか?」
普通人間は至近距離で爆発を受けたら死ぬと思いますーーー死なねえ奴は人間じゃねえか有澤の人間だけだな!とレイヴンはまた一つ賢くなったのであった。
「それで!火炎放射器で火遊びなんて有澤の人間としてはまだまだですよ!先ずは手榴弾でお手玉とかグレネードランチャーで射的でもしますか?って聞いたら青い顔してどっかに行っちゃったんですよねぇ……うーん。あの子新入社員だったのかなぁ。若い子って貴重なのになぁ」
「そりゃあ暗殺者も爆発に巻き込まれといてケロっとしてる上に火炎放射器じゃなくてグレネードで遊ぶぞなんて言われたら恐怖を覚えるわなぁ。ーーイかれてるよ、お前ら」
それどころか老害という名のベテラン達は至近距離で爆風を喰らったことで腰痛が治っただの10歳くらい若返っただのとほざくレベルである。
しかもそれが嘘でもなくマジでおっさんの顔が青年風に若返ってたり昨日まで腰の曲がってた爺が空中大回転を何発も繰り広げているので有澤重工の連中は確実に人間ではねえ、とレイヴンは確信している。
「それで雲雀さんが拐われたって、当てはあるんですか?」
「まあ、お前らとは規模もレベルも違うけど俺も昨日襲われたんだけどね。その時の暗殺者の匂いをうちのペットが覚えてるから、それを辿っていく予定だな」
そのAMIDAは今朝から白濁液の酸を飛び散らかしてやる気十分だ。
「ほぁー。便利なペットさんですね。まっ、そういうことなら今日のテストは気にしなくて結構ですよ!私たちでやりますから」
「サンキュ。あいつ連れて、直ぐ帰ってくるわ」
話が終わり、ひらひらと手を振るレイヴンの背中はいつの戦場と同じ、あっけらかんとしたものだった。
高橋家
心宿三姉妹の長女、一は昨夜帰ってきた2人の妹、二と三の様相を見て早くも頭痛がしてきた頭を片手で抑えている。
「何があった?報告を」
まず報告に応じたのは次女の二、彼女はいつもの勝気な笑顔を崩し、真っ青を通り越して土気色の表情で爆発に見せかけた暗殺結果を報告する。
「私は、作戦の通り事故を装って社員を巻き込むように爆発させたわよ。でも……でも、あいつら人間じゃない!至近距離で爆風に呑まれてケロっとしてるばかりか私に火炎放射器なんて玩具よりグレネード兵器の方がイイですよ!って安全装置の抜けた擲弾発射機渡してくんのよ!?死にかけたのにたーまやー♪とか「打ち上げ花火、遠くで見るか?近くで見るか?」とか言うのよ!?正気じゃない!アイツら正気じゃないわ!!」
「そ、そうか。ご苦労だった、お前は少し休め」
飄々と人を喰ったような次女がこんなに取り乱すとは思わなかった一は彼女を休ませることにし、次は三に結果を聞く。
「吾は目標の確保には成功したが、もう一つの目標の殺害には失敗した。そればかりか心宿特注の戦闘服まで失ってしまう始末。……ごめんなさい、お姉様達。吾が不甲斐ないばかりに」
「いや、どう失敗すれば双剣とブーツ以外全裸になるんだ???私もあの時ばかりはびっくりしたぞ」
「男に、白濁液を掛けられて……」
「は??????」
謎の白濁液男レイヴンと至近距離の爆発を花火と笑うキチガイ集団。
高橋家当主から、命令の際に、「アイツら、揃いも揃ってキチガイだからくれぐらも気を付けろよ」と言われていたのにも関わらず、有澤のキチガイっぷりを過小評価していた心宿一の受難は、始まったばかりだ。
斑鳩「やっぱりグレネード弾の爆発は間近で見るに限りますよねー(恍惚)」
レイヴン「アッハイ」