劇場版SSSS.GRIDMAN ~Re:UNION あの頃のように同盟を結ぼうか~ 作:藤乃さん
キンググールギラスとの戦いが終わったあと――
裕太は変身を解き、グリッドマンから人間に戻った。
すくそばにはアンチの姿もあったが、変身前と同じく、その身体はボロボロだ。
「響裕太、よくやった。借りは返してもらった、ぞ……」
アンチはそう告げるなり、フラリ、と地面に向かって倒れこむ。
「アンチ!?」
裕太は慌ててアンチのもとに駆け寄り、その身体を受け止めた。
「だ、だいじょうぶ?」
「少し、休む……。もし怪獣が出たら、すぐに起こせ……」
アンチは眼を閉じると、気を失うように眠ってしまう。
「どうしよう……。とりあえず、六花の家まで運べばいいかな……?」
裕太がそう呟いた時だった。
――ヒュウウウウウウウウウウ!
風が強く吹き、あたりが白い霧に包まれた。
「うわっ! な、なんだ、これ!?」
霧はあまりにも濃く、自分の手足すらよく見えない。
いったい何が起こっているのだろう?
裕太はアンチを抱えながら、何が起こってもいいように身構える。
幸い、敵に襲われるようなことはなかった。
しばらくすると、二度目の強風が訪れ……霧が、サァッと晴れていく。
「な、なんだよ、これ……」
裕太は驚きのあまり、言葉を失っていた。
キンググールギラスとの戦いによって破壊されたはずの街が、すっかり元通りになっていたからだ。
道路には車やトラックが行き交い、歩道をたくさんの人が歩いている。
さっきまでの怪獣騒ぎが、まるで嘘のようだ。
「霧のせい、なのか……?」
裕太が思い出すのは、去年のことだ。
かつては管理怪獣が特殊な霧を放出することにより、戦いの痕跡を消し去っていた。
街にリセットをかけていた、と言ってもいい。
ただ、今回はどこにも管理怪獣が見当たらない。
裕太はそれを不自然に感じつつ、とりあえずアンチを背負って歩き始めた。
「まずは六花の家に運ぶか……」
* *
六花の家までは、裏通りを選んで歩くことにした。
アンチは全身傷だらけだったし、誰かに警察を呼ばれでもしたら大変だ。
幸い、トラブルに出くわすことなく六花の家……『JUNK SHOP 絢』に辿り着いた。
「お邪魔します……。六花ー、内海ー、いるー?」
裕太が店に足を踏み入れると、ちょうどカウンターのところに六花と内海の姿があった。
「あっ、響くん!」
「おおっ、裕太! 無事だったんだな! いやあ、よかったよかった……!」
「俺は大丈夫、それより、2人はさっき怪獣が出たこと、ちゃんと覚えてる?」
「覚えてるに決まってるだろ」
と、内海が答える。
六花も、裕太のほうを見て頷いた。
「響くん、さっきの霧って……」
「去年、戦いのあとに出ていたものと同じだと思う。けど、風景みたいな怪獣はどこにもいないし、ちょっと不自然な気が……って、それより六花、ちょっとソファを貸りていい? アンチを連れてきたんだ」
「アンチくんを? ――わっ、ボロボロじゃん! ちょっとソファにシート敷くから待って! ええと、救急箱どこだっけ……!」
六花は最初こそ頭を抱えていたが、すぐにテキパキと動き始めた。
レジャーシートを広げてソファに被せ、店の奥から救急箱を持ってくる。
「響くん、内海くん、ちょっと手伝って!」
「わかった、何をしたらいい?」
「これだったら保体の応急処置のところ、マジメに受けときゃよかったなぁ……!」
「まずはアンチくんの服を脱がせて。傷、手当てするから」
裕太はすぐにアンチの服のボタンをはずした。
その素肌にはいくつも傷が刻まれていたが、見た目ほどの深手ではなかった。
というか、変身を解除した直後に比べると、明らかに傷が塞がっている。
アンチはもともと怪獣として生み出された存在だが、そのおかげで自己再生能力が高いのかもしれない。
ともあれ、これなら医者に連れて行く必要はなさそうだ。
裕太の見ている前で、六花はアンチの傷にガーゼを当て、包帯を巻いていく。
さすが看護師志望……というわけではないだろうが、かなりスムーズな手際だった。
「六花、もしかして慣れてる?」
「そういうわけじゃないけど、応急処置の番組みたいなやつ、ネットでときどき見てるから。……誰かが怪我したとき、何もできないのって、やっぱり辛いし」
そう言って、六花は裕太のほうを向いた。
裕太の顔を見たあと、そのまま、胸の中心あたりに視線を降ろす。
そこは、昨年、裕太がアカネに刺された場所だ。
もしかすると六花が看護師になろうと思ったきっかけのひとつは、あの事件なのかもしれない。
手当てを終えてしばらくすると、アンチが眼を覚ました。
「ここは、どこだ……?」
アンチはソファから身を起こすと、キョロキョロと周囲を見回す。
それから、自分の身体のあちこちに包帯が巻かれていることに気付いた。
「おまえたちが手当てしたのか? ……借りができたな」
「貸しとか借りとか別にいいって。キャリバーさんの影響だろうけど、こだわりすぎ」
六花が小さくため息をつく。
借りは必ず返す。
この『礼儀』をアンチに教えたのは、新世紀中学生のひとり、サムライ・キャリバーだ。
裕太の個人的な印象だが、アンチとキャリバーは雰囲気がよく似ている。
どちらも捨て犬属性というか、野良犬属性というか……。
年の離れた兄弟と言われたら納得してしまいそうだ。
「それよりアンチくん、身体は大丈夫?」
「問題ない。もし怪獣が出ても戦える」
「そうだよ、怪獣だよ! 怪獣!」
内海が大声をあげた。
「新城アカネはもういないのに、なんで怪獣が出てくるんだよ。おまえ、何か知ってるのか?」
「おまえじゃない。アンチだ。ちゃんと名前で呼べ、内海将」
「どうしてオレの名前を……」
「去年、最後の戦いでおれはグリッドマンとひとつになっていた。そのときに知った」
「個人情報筒抜けかよ! ハイパーエージェントに守秘義務はないってか……」
「なぜ落ち込む」
アンチは不思議そうに首を傾げた。
「おまえたち人間の感覚はよく分からん。……まあいい。怪獣のことなら少しは知っている。響裕太、おまえにも関わりのあることだ。聞け」
「……俺?」
いきなり名指しで呼ばれて、裕太は戸惑う。
「まさか俺のせいで怪獣が出てきた、とか?」
「違う、そうじゃない。さっきの怪獣を生み出したのは――」
と、アンチが言いかけたときだった。
「あの怪獣……キンググールギラスを作ったのは、私だよ」
店の正面入口から、誰かがヌッと入ってきた。
そいつは背が高く大柄で、大きな仮面とマントを身に着けていた。
頭の後ろでは、真紅の炎がゆらめいている。
まるで宇宙人のような、不思議な格好だ。
裕太は、その姿に見覚えがあった。
「まさか、アレクシス・ケリヴ……? でも、色が違う……?」
アレクシス・ケリヴは、去年の戦いにおけるすべての黒幕だ。
新城アカネをそそのかし、心の闇を増幅させることにより、たくさんの事件を引き起こした。
裕太の記憶によれば、アレクシス・ケリヴは全身黒づくめのはずだ。
しかし、目の前の存在は、頭のてっぺんから足の先まで、真紅に染まっている。
「あんな不出来な兄とは一緒にしないでほしいねぇ。私はネオ・アレクシス。新城アカネくんに代わり、この世界を管理する存在だ。分かりやすく言うなら、神様ということになるね。どうもよろしく」
ネオ・アレクシスが赤いのは『魔王の逆襲』のネオカーンデジファーに倣っています。