ハツコイ   作:クロロ

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プロローグ

「優。早くしないと入学式遅れるわよ。」

「へいへい。」

姉貴の声に俺は部屋からでる。今日から高校に通うと思うとうんざりしてしまう

「んじゃ行ってくるから戸締りよろしくな。姉貴。」

「えぇ、今日は遅いから。」

「全く。んじゃ飯は冷蔵庫に入れとくからな。」

姉貴は実家の家業を継いでいるので、仕込みがあるんだろう

「はいは〜い。そっちも中学校みたいに入学式で寝るのやめなよ。」

「まぁ善処する。」

「それ絶対にしない奴だよね。」

だってつまらない話をする偉い人が悪いだろ。

「はぁ、お母さんとお父さんが海外の職人さんに指導に行っているからってサボらないでよ。私が怒られるのだから。」

「へいへい。仕込みはどうしたらいい?」

「いいわよ。それよりもあんたは、高校生にもなって和菓子のことばっかり。せめて友達の一人でも連れてこれば?」

「……うっせ。行ってくる。」

そして家を出るとお店の方の入り口に多くの渋滞が見られる

和菓子屋 さくら

凡矢理市の和菓子屋でお菓子の世界大会に出るほどの実力者で平日にも関わらず多くの賑わいが見られる。

季節をモチーフにした生菓子と、和洋にとらわれない外国人向けのジャムを使った焼き菓子の生成。さらに和菓子のケーキを作るなど、普通に美味しい和菓子と和菓子の概念を崩した和菓子の両方を味わえることで有名だ

味も確かで、世界一のお菓子を決める大会に出場し、去年初優勝したこと、またスィーツガイドでミチュラン2つ星を獲得したことにより、世界一の和菓子と言うことで一躍有名店になっている

レシピを考えるのは俺で作るのは姉貴

俺も多少は作れるのだが、仕上げが苦手で形が悪いことが多いので仕込みや生地、味見、売り子などを行なっている。

俺の家は和菓子屋でありながら、生クリームやフルーツ、チョコレートクリームを使った和菓子を提案したり和菓子のケーキを作ったりしていた。

最初は邪険に見られていたのだが、一度取材に入ったことと世界大会に姉貴と俺が出場しその年の最優秀賞に選ばれたこともあり、開業して5年で世界有数のスウィーツ店へと変貌した

実際俺のアイディアで姉貴は世界一に輝いたしなぁ

俺に任されているのはどら焼きくらいだしなぁ。

洋菓子や普通の料理においては俺の方が腕はあるんだけどなぁ

和菓子作りは好きなんだけど、やはり才能が違うのか姉貴の方が美味しいしなぁ

「……はぁ。」

ため息を吐いてしまう

そして街の中を歩いていく。すると

「ねぇ、学校なんかいいから。遊ぼうぜ。」

多くの男性に怯えている女子が見える

うちと同じ学校の多分同級生であろう

涙目になりながら震えている

……仕方ないか

「おい。待ったか。」

すると怯えている女の子は俺の方を見る

俺は近くに行き小声で

「話合わせろ。」

とだけ言う

「すいません。いとこなんですけど、ちょっと男の人が苦手らしくて。ちょっと勘弁してくれませんかね?」

適当にはったりをかます。なるべく愛想よく、そして笑顔で対応するのが基本だ。

顧客のクレームだと思えばいい。こういった場面には俺慣れている。

ここら辺最近物騒でギャングとヤクザの小競り合いが起こるしなぁ

「ほら行くぞ。」

「えっうん。」

俺は女の子の手を引き少し急ぎ足で歩き出す。

そして学校の方向に歩く。そしてしばらくしてから後ろを見ると誰もいないことを確認する

「これくらい行けばもう大丈夫だろうな。」

俺は手を離すときょとんとする女子

「大丈夫か?」

俺は女の子の方を見る。すると何か呟く

「えっと。聞こえるか?」

「あっ。うん。聞こえてるよ。」

「なら良かった。大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ。えっと凡高だよね。」

「あぁ。多分同じ学年だと思うぞ。」

緑色のネクタイなので今年からの入学生のはずだ

「一応大丈夫らしいけど気をつけろよ。去年あたりからヤクザとギャングの小競り合いが頻発してここら辺の治安が悪いんだよ。まぁ、さっきのやつはそのどちらでもないけど、気をつけろよ。」

「そうなの?」

「あぁ。てか、もしかして余所者?」

「ううん。私尾鳥女子中出身だから。」

尾鳥女子中出身って珍しいな

元々エスカレーター式の学校だから高校も尾鳥女子高に行くことが多いんだが

「まぁ、結構本当に気をつけたほうがいいぞ。一回うちの店で拳銃ぶっぱした奴を警察に引き渡すことになったし。」

あの時本当に迷惑だったんだよなぁ、被害も少なからずでたし、最近じゃ出禁にしている。

「ふ〜ん。私との約束を破って春は男の人と学校に行ってるんだ。」

「へ?」

「あっ、ふうちゃんごめ〜ん。」

すると後ろの女子生徒に助けた女の子が話しかけてくる

「悪い。こいつナンパに巻き込まれていたから助けてたんだよ。んで少し震えてたから落ち着かせてたってわけ。」

「えっ?」

「あっ、そうなんだ。えっと。」

「あぁ、秋葉優。一応凡矢理中出身。」

「私は彩風涼。みんなからは風ちゃんって言われてます。」

「あっ。私は小野寺春。」

「そう秋葉くん。春のこと助けてくれてありがとう。」

「別に。と言うか行こうぜ。初日から遅刻とかまじで笑えないし。」

「そうだね。んじゃ行こうか。」

と俺たちは歩き出す。しかしこの時は気づかなかった

……この二人が俺の人生を変えることになるなんて。


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