――あの頃は毎日が幸せだった、父も母も穏やかで、村の雰囲気はいつも良かった。何よりも私の隣にはあの人がいて腕の中にはいつもあの子がいた――
ルブルシア王国、王都リアリスから遠く南西へ離れたプルムス地方――
「パパ、ママこっち!こっち!」
緩やかな丘の頂上に向かって走る少女がいた。彼女は途中で振り返ると大な声を出しながら手を振る。その先では少女の両親であろう、一組の男女がゆっくりと丘を登っていた
「あんまりはしゃぐと転ぶわよー!リーシャ」
「ははは」
短く刈られた黒い髪に、しっかりとした体つきの男性は困った様なでもどこか温厚な笑みを浮かべている。彼はトリー・シャロン。少女の父親であり、ややのんびりとした性格だが力は村の中で一番強く皆に頼られる存在だ
その隣で少女を注意する、バスケットを持った金髪の女性はカリーナ・シャロン。トリーの妻であり少女の母親である
髪を後ろでまとめているカリーナは色素が薄いのか色白で村の女衆の中でも華奢な印象を受けるが、その実、働き者で活発なほうだった
彼女は気が気でないように彼女に声を掛ける
しかし、リーシャと呼ばれた少女は聞こえていないのか、踵を返すと再び駆け上がり始めた
「もう!」と憤慨の声を上げるカリーナに、トリーは「まあまあ」と宥める
「いいじゃないか、カリン。リーシャももう大きいんだ、それに久々にここに来たんだはしゃぎたくもなるよ」
「でも」
「心配なのは分かるけど、あんまり神経質だと体にさわるよ?もし君が倒れでもしたらリーシャもそれに僕も悲しいよ」
「…ごめんなさい。そうね、あの子も10を越したんだもの、心配するほど危ないことにはならないわよね」
「パパ!ママ!早く」
頂上に着いたのか丘の上から少女の呼ぶ声が聞こえてくる
彼女の名前はリーシャ・シャロン。トリーとカリーナの娘である彼女は両親が着くと、ここに来るのが本当に嬉しかったのか、はじけるような笑顔を浮かべ元気いっぱいに両親を呼ぶ
父譲りの黒い髪をぴょんぴょんと元気に揺らし、全身でこちらに早く来るよう促すリーシャに二人は顔を見合わせ苦笑しつつもその目は温かく娘を見ていた
ここはプルムス地方の西にある小さな田舎のロミ村
産まれた時からここで生活を続ける人は少なくない。村全体が家族のようなここでこの先もずっとずっと過ごしていくカリーナ・シャロンは当たりの様にそう思っていた
彼女の知る世界はとても狭かったことにこの時は気づくこともなかった
拙い文章ですが、よろしくお願いします