一色いろははテキだらけ   作:sanmasfii

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一色いろははテキだらけ(1)

学園生活を送るものは誰であれ、いずれかのスクールカーストに属する。

私、一色いろはもまた、例外ではない。

入学当初、私は当たり前のように最上位カーストに所属した。キラキラした話題を好み、最も可愛い女子が属するカースト。誰もがそこに属する者を憧れと、一種の諦めを持って見つめる。私はその最上位カーストの中でも中心的な存在だったし、そこになんの違和感も感じていなかった。

 

少し状況が変わってきたのは、文化祭が終わった頃からだった。

理由は、一言で言うと他の女子の嫉妬を買いすぎたことだろう。クラス内の男子の人気があまりにも私に集まりすぎたのだ。もちろん、私もそう言う状況には早くから気づいていたから、「私、葉山先輩を狙ってるんです〜」というアピールを広く行うことによって、余計な男子のアタックを回避しようと努めてきた。しかし、男子ウケするキャラと私の容姿、そして葉山先輩の攻略が難航しているということが明らかになるにつれて、私にアタックする男子が増えてきて、それが最上位カーストの他の女子の不評を買った。

しかし、そういう状況に至っても、私は男子へのあざとい態度を改める気は無かった。女の子であれば、誰しもかわいいと言われるのが好きに決まっている。そして、男子の思考回路は中学時代から全く進歩しておらず、少しこちらが仕掛けてみれば、思う通りに男子の感情を操ることがでたから、それが愉快な私は自分のキャラを今更改めようなどとは思わなかった。

 

そしてその頃から、女子から私への陰口が囁かれ始めた。

 

「あのぶりっ子キャラ、マジないわ〜」

「わかる〜。でも男子ってマジああ言うのに弱いよね〜」

「てか、同中の子に聞いたんだけど、一色さんって中学の頃からあんな感じだったらしいよ〜。なーんか教師にも色目使ってぶりっ子して、内申盛ってもらったんじゃないかって噂になってたらしいよ」

「えー、キモ。生まれ持ってのビッチじゃんか〜。総武高って結構ムズイのに、なんで一色みたいなのがいるのか謎が解けたわ〜」

 

自分の所属する最上位カーストの仲間内で密かにこのような会話が交わされていたことを私は知っていた。根も葉もない噂を取り上げて、拡大解釈して炎上させる。まさに火のないところに煙を立たせる手法は流石女子力の高い集団というだけある。

 

タチの悪いのは、陰口を聞こえるか聞こえないか微妙な距離で行う一方で、表面上の付き合いは継続することだ。男子からの人気がある私を一方的にハブれば、自分たちの男子からの評判に差し支える。表面上は今まで通り仲良くしながらも、裏では攻撃する。そんな状況に置かれた私は、だんだんと居心地の悪さを増していった。

 

もっとも、その時点では私はあまり気にしてはいなかった。なぜなら同じような状況は中学時代からずっと経験してきたことだからだ。女子の友情なんていうものはその程度のものだ、ということを私は正しく認識していた。作った笑顔を見せ、相手の心情を推しはかりながら付き合う。私にとっての友人関係というものは、それが普通だ。

どんな状況でも、一定の利益を与えてくれるなら、彼女たちと表面的な付き合いができていればいい。ただ、安全のために所属する軸足を少し他のグループにも移行させておけばいいだけの話。クラス委員を務めている派手ではないけど優秀な子や、図書委員を務める物静かだが優しい子の所属する上位第二位カーストの子たちと少しずつ関係を構築しながら、私はそう考えていた。

 

(やっぱり、高校でもこうなっちゃったなぁ。ま、いいや)

 

男子の熱視線は相変わらずこちらに向けられているし、クラス内での立ち位置が悪くなることはない。

 

そう思っていた。あの時までは。

 

 

「いろはさあ、あたし達、いろはを生徒会長選挙に立候補させといたから」

「え?」

それは突然だった。昼休み、いつものように表面的な仲良し会話をしていると、影で私を殊更敵視している女子がいきなり言った。

「あ、あたしも推薦人なったよ〜。いろは、人望あるし、リーダーシップ?もあるじゃん!」

「分かる〜。先輩にも顔が効くっていうか」

私が困惑している間にトントン拍子で彼女たちは会話を繋げた。

「えっ、ちょっと。な、なにそれ私聞いてな…」

「いやいや、いけるっしょ。いろはなら」

「それある!」

「あれ推薦人30人もいるじゃん?あたし、一年のみんなに頼んだんだよ〜。『一色いろはさんの推薦人になって下さい〜』って」

あ、これは私への明確な攻撃だ。遅ればせながら私はようやく気づいた。

「は?いきなり生徒会長とか。まだ一年なのに勝手にそんなことされても迷惑なんだけど」

抗議の意思を込めて、グループの和を乱すことを覚悟で私は強く反抗する。

しかし、それに冷ややかな声が次々と浴びせられた。

「ねえ、いろはさあ。せっかくあたしたちがいろはを推してるのにさあ、なんか不満なの?」

「ね〜。せっかく推薦人集めてたのにさ」

「そうだよ。友情大事にしようよ」

「人の善意はありがたく受け取るもんだよ〜?」

 

ダメだ、これは敵わない。私の発言力はカースト内でもそれなりにある方だが、ここまで大人数に根回しされた上で、いきなり議論を先行されると太刀打ちすることはできない。なにより、彼女たちの計画に気づかず、推薦人集めの段階でストップをかけられなかった時点で、勝負は初めからついていたのだ。

 

(悔しいけど、ここは下手に出たほうがいいかな…)

 

「…嫌じゃないんだけどお、他の人の方がいいっていうかあ」

「そんなことないよ〜。いろは、人望あるしいけるってマジで。てか」

主犯格の女子がニヤリと笑って続ける。

「期限までに立候補したのいろはだけだから、もうほぼ確定っていうか」

「えっ…」

思わず息を飲む私を偽りの笑顔が囲む。今まで、女子の中で自分の置かれた状況を楽観視し過ぎていたことに心の中で舌打ちをする。

彼女たちの狙いは何だったのだろう。私を全校生徒の目の前に引っ張り出して不信任投票で落選させ、大恥をかかせること?それとも、生徒会の仕事に集中させれば、男子に色目を効かせることができなくなって、恋愛に有利だからだろうか。

どんな狙いがあるにせよ、ここまで積極的な攻撃を仕掛けてくることは全くの予想外だった。

 

「おめでとー」

「いろは、おめでとう」

悪意の祝福の声が浴びせかけられる中で、私はじっとりと背中に汗をかくのを感じた。

 

(どうしよう…)

 

 

 

続く

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