職業=深海棲艦   作:オラクルMk-II

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モンハン新作出ましたね。でもやる時間がないっす()


16 カプチーノ色の心

 

 

「ま~た無茶苦茶やったらしいわねアナタ。まさかそんな度胸があるとは思わなかった」

 

「あはは……どうも」

 

「アハハで済むの??? ……よくわからない性格ね。お前。」

 

 霞を艦隊に送り届けた後。追ってくる者などを警戒して、念を入れた回り道などの行動で夜中に帰ってきたネ級は、疲れていたのでそのままガレージで就寝に就いていたのだが。起きて早々、目の前に居た南方棲鬼から説教を食らうこととなった。

 

 話題はネ級の単独行動についてだった。話を聞くと、彼女も偵察機を飛ばして警戒していたらしく。一人で飛び出し、それどころか敵を助けて奔走する所まで見られていたらしい。

 

「なんであんなの助けたの? 放っておけば良いのに」

 

「…………。 寝覚め……悪いじゃないですか。目の前で死なれたら」

 

「要するに自己満足ってこと」

 

「ははは……そーなりますね」

 

 痛いところを突かれたな。そう思って苦笑いしながら返答したとき。髪を掻き乱しながら、ため息混じりに南方棲鬼が言う。

 

「昔ね、レ級がアナタと全く同じことをやって、言ったわ」

 

「え」

 

 考えていなかった相手の言葉に、ネ級は少し狼狽(うろた)えた。

 

「それなりに前のことだけどよく覚えてる……はぁ。性格が似てるのかしら。あのお人好しと……」

 

「えぇ……」

 

「えじゃないわよ、あの子もしょっちゅう座礁船なんかの人間を陸に送り返してたの。その度に艦娘に撃たれてボロボロになって……見るに耐えないからやめろって言ったけどね」

 

「へぇ……そんなことが」

 

 「元は人間だった」。そう言っていたのが現実味を帯びてきたな。この島の、なんだか気の抜けた優しすぎる表情をした彼女の顔が、話を聞いていたネ級の頭に浮かぶ。

 

 会話中だというのに、考え事で頭がぼんやりしているとき。勿論そんなネ級の状態など知らず、南方棲鬼は続けた。

 

「言っておくけど、別に止めないわよ。貴女の事なんてどうでもいいと私は思ってるから」

 

 フリか? 寝起きで回らない思考のせいか。変なことを考えたネ級が言う。

 

「ツンデレですか?」

 

「ツン……え? 何? 突然???」

 

「あ、なんでもないです。ごめんなさい」

 

 知らない言葉だ……。そう小声で漏らした彼女に、ネ級の体に引っ付いていた妖精たちが笑い始めた。だんまりを決め込む予定が、ネ級のとぼけに不意を突かれたらしい。

 

「ぶっふっ!」「くくく……!」「フフッ……」

 

「……ヨォし、貴様ら一匹ずつ潰して」

 

「ぴいっ!」

 

「ネ級、どういう意味か説明してくれる? 一体どういう言葉なの「ツンデレ」って」

 

「「相手の心配をする」って意味です」

 

「…………ふ~ん」

 

 嘘……じゃあないよね。本当でもないけど。

 

 はにかみながら流れるように言い訳を繋げる。納得していないようだが、南方棲鬼は取り合えずは引っ込んだ。

 

 体の向きを変え、屋敷に戻るために歩こう……とする前に。思い出したように、彼女は着ていたジャンパーから何かを取り出し、ネ級に手渡す。

 

「なんですか? これ」

 

「………そこ、行ってみなさい。アナタの助けになる奴が居るかもしれないから」

 

「???」

 

 渡された紙は地図になっていた。簡単な海図と方位、目印にする島や岩礁といったものが絵付きで描いてある。

 

「勘違いしないでよ。アナタが居なくなると、また二人で連中の相手をしなくちゃならなくなる。そうなると面倒だから」

 

「ありがとうございます」

 

「……ふん!」

 

 肩や腕のストレッチをしながら、南方棲鬼はガレージから出ていった。

 

「…………………」

 

 な~んだ。やっぱりツンデレじゃないか。嫌な顔をしているくせに、自分を心配してくれていた相手に。ネ級はそう思った。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 大事をとって、1日を休息に費やしてからネ級は出発した。

 

 霞を送った日と同じ装備で海面を蹴って行く。昨日に南方棲鬼に貰った紙と、曇り空とを交互に見ながら進む。背後には、付かず離れずの距離を保ちながらニ級が着いてきていた。

 

「どんな場所だろうね。話的に、多分深海棲艦が居るんだろうけど」

 

「行くだけ行ってみるしかないのです。多分、罠ではないのです」

 

 「おっ?」 ネ級は、珍しく南方棲鬼の肩を持った妖精に聞いた。

 

「なぁにぃ妖精さん。やっとあの人の事、信用するようになったの?」

 

「理詰めで考えればわかるのです。鈴谷さんをやっつけたいなら、そもそも島に住んでいる時点で寝首を()こうとするはずなのです」

 

「な~んだ、つまんないの」

 

「鈴谷さんは逆に信用しすぎなのです……そのうち痛い目にあってもおかしくないのです」「「「心配なのれす」」」

 

「私のコミュニティは無条件に人を信じることから始まるからね!!」

 

「無防備が過ぎるのです」「「「のーがーど!」」」

 

 定期的に索敵し、何も居ないことを確認しては雑談で暇を潰して、と繰り返す。そろそろ近くまで来ているはずだけど……。周囲を見渡し、ネ級は波の少ない海上にぽつんと佇む人工島を見付ける。

 

 あれか! 大きなクレーンが見える外観がメモと一致している点に、目的地だと確信を持ったネ級は、艤装の出力を上げて更に近づいた。

 

 屋敷暮らしで、深海棲艦というのは意外にも普通の場所に居を構えている事を知ったから、あまり驚きはしなかったが。外観を見たところ、よくある海底資源なんかを掘る基地か何かに見える。

 

 船を出し入れするのに使うと思われる水門の前まで辿り着く。すると、その出入り口を囲むように設置してあったスピーカーから女の声が流れてきた。

 

『そこのお前。入れて欲しければ合言葉を言え』

 

「え~と、なになに……「うみがめ」」

 

『…………許可が降りた。通れ』

 

「どうも」

 

 いよいよ、って感じ?

 

 紙に書いてあった合言葉を、聞こえやすいように声を張って言う。応対の後、ゆっくりと錆びたシャッターが上がっていく。今の自分の体だと、南方棲鬼の紹介だと言えば多分大丈夫だろうが。この先にある光景を想像して緊張しながら、ネ級は門を潜った。

 

 

 

 

 屋敷と同じく、軍の設備はほったらかし……そんなように想像していたネ級は、意外にもきちんと整備の行き届いた軍港に驚いていた。コンテナ置き場のコンテナ、港にありがちなガントリークレーン、その他、大型の作業機械が多数並んでいるが、どれも錆ひとつ無いぐらいに手入れがなされている。

 

 あまり人の気配が感じられないが、どこから上陸しようか、と周囲を忙しなく見渡して微速で水面をうろついていると。波打ち際で何かの作業をしていた深海棲艦に声をかけられた。

 

「あ! お~い、お客さんってアナタ~?」

 

「先程門を通った者なら私です」

 

「へぇ! 何してんの? ここから上がってきなよ」

 

「どーも。では、失礼」

 

 今じゃすっかり驚かなくなっちゃったな。ごく自然と話しかけてきた深海棲艦の言葉に従って、ネ級は港のアスファルトに足を乗せた。すぐ後にニ級も上陸する。

 

 真っ白な頭髪に、赤い瞳を持つ。服は薄手のワンピースみたいなものに、首に(いか)つい形状の首輪を着けていて、長靴を履いている。ただ、何よりもこの人物の一番の特徴は極端に背が低く、見ようによっては小・中学生ほどに見えるところか。

 

 身体的特徴から見て、確か北方棲姫とかい(ほっぽう(ほくほう?)せいき)う深海棲艦だったはずだよな。目の前の小柄な人物を見て考えていると。彼女は続けた。

 

「ごよーけんは何でしょう。お客様は久し振りだなぁ」

 

「えっと、これを見せるようにと言われているのですが」

 

「?」

 

 ネ級が南方棲鬼から渡されていた紙は2つあった。そのうち、「この場所の深海棲艦に渡せ」と言われていた封筒を、北方棲姫に差し出す。封を切って中身を読んだ彼女は、うんうんと2回相槌(あいづち)を打ってから口を開いた。

 

「南方棲鬼からのしょーかいなんだね。わかりました。ついてきて」

 

「は~い」

 

 なんだ、昔資料で読んだより精神年齢が高そうだぞ。幼い見た目に似合わず、馴れた様子で案内をする北方棲姫に、ネ級は違和感を抱いた。

 

 どこに連れていかれるんだろうか。悪いことは無いだろうけど、等と考えて歩いていると。今度はまた別の姫級深海棲艦と遭遇した。

 

 体の面積よりもありそうな量の白髪を足元まで伸ばし。下着姿で、それでいて手と足に黒いカバーを身に付け、かなり底の厚いサンダルに似た靴を履いている。こちらは確か泊地棲姫(はくちせいき)?だったか。

 

「おはよーございます。泊地さん」

 

「うん? 北方か……その後ろのはなんだ?」

 

「お客様です。装備を見繕(みつくろ)いに来たそーです」

 

「ふ~ん……ん?」

 

 髪の毛で影のかかっている目を細くして、泊地棲姫はネ級をじっと見つめた。

 

「ネ級……え、ネ級??? おかしいな……なんでネ級が???」

 

「? この人はどう見てもネ級ですが?」

 

「製造にバグがあったからネ級の生産は中止された筈だぞ。レ級並みに制御が難しいのに、のくせして耐久以外はパッとしない能力だってな」

 

 なんだなんだ。雲行きが怪しくなってきたぞ。表情が曇った泊地棲姫に、ネ級の背筋に冷や汗が流れ始める。

 

 自分を見つめる深海棲艦の、次に口から出てきた言葉に。ニ級を除いた、ネ級と妖精一行の頭に電流が流れた。

 

 

「……………! ふふふ、北方、違うぞ。こいつはネ級じゃない」

 

 

「「「!!??」」」

 

 そんなまさか、バレた!? 驚きすぎて体が動かない。全身を汗で濡らすほどにネ級が狼狽する。いち早く危機を察知して、妖精らはこっそりと武装の安全装置を外す、そんなときだった。泊地棲姫は、長手袋を()めた両手でネ級の頬をつまんだり引っ張ったりしながら続ける。

 

「1対の触手、首を覆う外皮、確かにネ級そっくりだ。が、見たところ全身生身の体で機械が入ってない。おまけに右目があるし、顔が甲殻で覆われていない。こいつは……」

 

 全身を撫で回されたり、閉じていた右(まぶた)を指でこじ開けられたりした。弁解の余地なんて無い。この深海棲艦は何か頭も良さそうな風だ。艦娘……人間だったことがばれたら……。白い顔をどんどん蒼くしているネ級に、相手はこう言った。

 

「誰かが手違いで建造したネ級のエラー品だな」

 

「…………え?」

 

「おおかた、処分するのも忍びなくて海にほっぽったんだろ。そうしたら運良く今の今まで生き残れたってところか」

 

「あ、なるほど。だから服も触手もちょっと見た目が違うんだ。なんか変だなぁって思ったら」

 

 勝手に話が進んでいく。どうやら自分はレ級が教えてくれた「工場」なる場所で作られたネ級の不良品と思われたらしい。敵と認定されるよりは遥かにマシだと、内心でほっとする。

 

 北方棲姫の持っていた手紙に目を通し。改めて、といった様子で、泊地棲姫は口を開いた。

 

「なるほど、こいつの非力な武装を作り直せと。南方棲鬼はそう言いたいのか。力任せが好きなアイツらしいな」

 

「ですね。それに珍しいよ、大人しいネ級なんて。始めて見たかも」

 

「だな。興味も沸いてきた……よ~し、久し振りに手間と時間のかかるものでも作るかな」

 

 会話に混ざらないと置いていかれそうだな。話を広げていく泊地と北方にそう思ったネ級は、多少強引に首を突っ込むと、泊地が応対する。

 

「……あのぅ、手紙にはなんと?」

 

「あぁ、悪いな。えぇと? 南方棲鬼になんでここに来いとの理由は言われてないのか?」

 

「何も。ただ、私に助力してくれる方が居ると、ここに向かえと言われたので来ました」

 

「後ろのニ級はなんだ? 部下か?」

 

「そんな大層なものじゃないんです。気が付いたら着いてくるようになっちゃって。でも、いつも助けてくれるんです」

 

「へぇ……北方、面白いなコイツ」

 

 ニヤリ、と泊地棲姫は笑った。

 

「ようこそ我らが工房へ。歓迎するよ。今日はここに泊まっていくんだな」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 大雑把に言うと、手紙にはネ級用の艤装の製作依頼について書いてあった。

 

 文に目をやっている時、横に居た泊地棲姫から説明を受けたが。この港は放棄された軍基地を再利用した、深海棲艦のための艤装の整備工場だという。

 

 右を見ても左を見ても空母・戦艦といった2番目がウロウロしているアウトエリアの性質上、武装の火力不足を見抜いた南方棲鬼がネ級を気にして行くように指示したんだろう。泊地の話を聞いて、ますますネ級は彼女に頭が上がらない気持ちになった。

 

「はるばる長旅ご苦労。安心しろ、無法者((2番目))ごとき容易(たやす)く粉砕できるのを作ってやるよ」

 

「ははは……ありがとうございます。泊地棲姫様」

 

「様なんてつけるなよくすぐったい。呼び捨てでいい」

 

「いえ、これからお世話になるわけですから。礼儀は、と」

 

「そうか? ……お前やっぱり変わってるな。変な服着てるし。装備は艦娘のやつだし」

 

 コンテナかと思えば、実際は中は改造とDIYで製作所になっていた場所で。ネ級の持ってきた艤装を万力に挟めて、目盛り付きの道具で何か計測している泊地棲姫に言われる。

 

「お前ほど穏やかなのは冗談抜きで初めてだな。話してて暇しないよ」

 

「そうなんですか?」

 

「南方棲鬼の所に世話係のレ級が居るらしいな。私は話だけ知ってるんだ、ただ実際会ったことが無くてね。お前さんみたいなのが居て結構驚いてるよ」

 

「私から見て、泊地様も充分優しいお方に見えるのですが」

 

「あはは! 誉めても何も出さんぞ。……さては南方め、あんた、アイツから殺すぞだのなんだの言われなかったか?」

 

「どうしてわかるんですか……」

 

「ふふ……昔から気性が荒いからな。アイツは」

 

 旧友、といった間柄なのだろうか。会話しつつ考えていると、扉を開けて誰か入ってきた。目の前の人物と同じ、完全な人型を取る姿からして、また鬼か姫級の深海棲艦か。

 

姉様(あねさま)、準備が整いました」

 

「来たか。水鬼、挨拶してやれ」

 

「あぁ、こちらが客人ですか」

 

 泊地の事を姉と呼ぶ、彼女と同じくらいに長い、よく手入れされた黒髪と、頭から生えた大きな牛のような角が目を引く人物は。泊地の言いつけに従って、ネ級のほうを向いた。

 

「初めまして、陸では泊地水鬼(はくちすいき)と呼ばれているそうで。以後お見知りおきを」

 

「重巡ネ級です。今日はよろしくお願い致します」

 

「さて。姉様、この人物の身体検査は?」

 

「いやまだだ」

 

「まだ? 不用心が過ぎるのでは? 艦娘の武装を持っていると聞きましたが」

 

「何か理由があるんだろ。南方が警戒しないヤツだぞ? 問題ないと思うがね」

 

「はぁ……じゃあ私がやります」

 

 話を聞くに、南方棲鬼と泊地棲姫は気のおけない間柄なんだろうな、と思う。考えていたネ級に水鬼が体に触れながら話し掛けてきた。

 

「身に付けてるものは脱いでください。そして下着姿になって。変なもの持ってないか見させて貰いますからね」

 

「お構い無く」

 

 同性(?)なので特に抵抗もなく。ネ級は履いていた靴を除いて水着だけになる。

 

「体は何もなし。服も……人間の服? また珍しい。浮き輪、包帯、手袋……ポーチ? 中身は何が?」

 

「小銭です」

 

「コゼニ?」

 

「陸地で使われるお金です」

 

 島で南方棲鬼とレ級から聞いたが、普通に人間社会に溶け込もうとしている深海棲艦も居るらしいし。喋っても問題ないだろう―― そんな考えで話したところ。ネ級は、対面していた相手にがっしりと両手で肩を掴まれた。

 

「!」

 

「陸の……?」

 

 3秒ほどのインターバルを挟んでから、水鬼は叫んだ。

 

「お金えええええぇぇぇぇぇ!?」

 

 唐突に近くで金切り声みたいなものを出されたので、耳がキーンとする。何やら興奮し始めた水鬼と話す。少し視線をずらすと、姉の方は口角を吊り上げてニヤニヤしていた。

 

「何で!? 何故!? ホワイ!? そんな珍しい物ォ!」

 

「む、昔は陸に居ましたから」

 

「ひゃあぁ!?」

 

 要領を得ない様子の相手に、ネ級は証拠として、彼女が握っていた財布を持って中身を机に撒いた。水鬼の顔は紅くなっていたのが一周して蒼くなり、最後に白くなる。お堅い人物かと思ったが、表情豊かな人なんだな、と思った。

 

「嘘でしょう……? なんでこんなにたくさん……欲しがっても手に入んなかったのに……」

 

「あの……」

 

「は、はは……もうダメだわ……しばらく立ち直れない……」

 

「欲しいならあげますよ。別に。もう当分使わないし」

 

「…………………え?」

 

 一旦は肩から離された手が光みたいな速度でニュッと飛び出す。速すぎて見えなかった水鬼の行動にネ級は変な声が出た。

 

「本当に本当に本当に本当に!? こんな大事な物ォ!?」

 

「え、えぇ。別に珍しいものでも……」

 

「いやったぁぁ!!」

 

 ネ級がそう言うと。机にばらまいてあったうち、その中では一番綺麗だった五百円硬貨をしっかりと握り締めて水鬼は意味のわからない動きをしながら狂喜乱舞し始める。

 

 相手が喜んでいる理由がわからなくて混乱しているとき、姉の泊地が薄笑いを浮かべながら隣に並んでくる。妹の彼女が暴れている理由を教えてくれた。

 

「陸で暮らしていた、ねぇ。コイツに好かれる要素満点だね」

 

「何かあったんですか?」

 

「ヲリビー……軍に取り入ったヲ級の話は聞いてるか? アイツに憧れてるんだってさ。いつか陸に家を建てるのが夢だ、って。」

 

「なるほど。だから陸の物に目がないわけだ」

 

「そう言うこと」

 

 大事な物……例えるなら高価な割れ物を扱うような動作で彼女は硬貨をドレスに仕舞うと。少し狂気を孕んだような笑顔でネ級に向き直る。ネ級はまた変な声が出た。

 

「全力でおもてなし致します。こんなしょっぱい装備、1日でバラバラにして……」

 

「ははは……一応、大事な物なので大切にお願いしますね」

 

「はぁ。こんな装備が? ……その辺で拾ったような貧弱な……」

 

 こちらの利になる事をしてくれるのは嬉しいが、流石に親友から譲ってもらった物をこきおろされるのは、多少腹が立つな。先程からの様子を見るに、少し性格に難があると見た水鬼に、ネ級が心の中でそっと苛立ちを覚えていると。

 

 持ち物にけちを付けられて腹が立っていたのは自分だけではなかったのか。見つからないように、ネ級の中に隠れていた妖精らが、ミニサイズの金槌や工具などを持って躍り出てきた。

 

「ちっきしょー! 人が大人しくしてればー!」「であえー! であえー!」「やろう、ぶっころしてやる!」

 

「あ、ちょっと!」

 

「「!!」」

 

 事前の打ち合わせではずっと隠れているはずだったのが、なかなかの勢いで怒鳴りながら飛び出してきた妖精らを、ネ級は慌てて制止させる。暴れる小人らに、この生き物は何かと泊地と水鬼両者は妙な表情になったのが見える。

 

「鈴谷さんの苦労も知らずにー!」「「「ずにー!!」」」

 

「ひゃあがまんできねぇ爆撃だ!」「「全機発艦!!」」

 

「タンマぁ、それは駄目だってェ!!」

 

 水鬼に殴りかかるどころか、瑞雲で攻撃しようとし始めたので、大慌てで無理矢理機体を掴んで止めさせる。

 

 どう思われただろうか。暴れる妖精らを無理矢理触手の中に押し込みながら周りに視線をやると。水鬼は硬直した後、また興味と狂気の入り交じった表情に戻り、その後ろではやはり泊地が薄く笑っていた。

 

 目で捉えられない早さで水鬼は妖精を二人捕まえ、きらきらした目で舐めるように眺め、誉め、何やら色々喋り始める。

 

「妖精!? フェアリィ!? 始めて見た!!」

 

「「「ぴぃっ!?」」」

 

「この工具、装備、艦載機、凄まじい精度! どんな技術を!? 私に是非! 是非! 是非ぃ!」

 

「ふぇぇぇぇん!」「助けてぇ!」

 

 喜怒哀楽が激しいじゃ済まないな。こりゃ、もはや変人の域に入ってる。失礼な感想を抱きつつ、ネ級は泣き出した妖精を見ていられなくなって止めようとしたが。口を開くと、泊地に止められた。

 

「あ、あの……」

 

「無駄だよ。妹は好奇心旺盛でね、妙なものを見たら理解できるまで離さんタチだ」

 

「えぇ? ……大切な友達なんです。あまり乱暴はされてほしくないのですが」

 

「あぁ、そういうのは大丈夫、物を壊したりするようなヤツじゃない。じっくりねっとり撫で回されはするだろうがね」

 

「それも困るんだけど……」

 

 号泣しながら助けを請い、首をぶんぶん振って抵抗する小人二人を見る。身柄を離す様子のない水鬼に、ネ級は大きなため息をついた。

 

 

 

 

 やっと興奮が収まった水鬼から施設の案内を受けて、ネ級は別のコンテナに移る。移動の際、他の深海棲艦ともすれ違うが、そのほとんどが重巡以上の人型の高位個体ばかりだった。

 

 慣れとはすごいな、と思う。一週間ほど姫級と過ごしたせいなのか、周りを強力な深海棲艦に囲まれても、前ほどの恐怖心は沸かなかったからだ。……それでも、本能的な恐怖は、やはり多少は感じたが。

 

「さ、着きました。どうぞ」

 

「失礼します」

 

 水鬼の誘導でコンテナ部屋の中に入る。

 

 なんだこれ。中に鎮座していた物体にそんな感想を持った。

 

 「キモい」とはネ級は面倒事を避けて口には出さなかったが。室内の半分ほどを占める、異様な物体に視線を持っていかれる。何かの心臓のように有機的な、それでいて所々に機械が刺さっている外観のそれは、見た目らしく、臓器のように脈打って動いている。粘液で濡れてなどはいなかったが、人によっては生理的に嫌悪感を抱きそうなナニカである。

 

「なんですかこれ? 何かの心臓?」

 

「身体検査の機械ですよォ。すごい精度なんです」

 

「へ、へぇ?」

 

 ま~た何か嫌な予感がするけど……。ネ級の予想は当たってしまう。水鬼は特に抵抗もなく扉のような部分を開けると、中に入るように促してくる。

 

「さ、どうぞ! 中に入ってください」

 

「ん!? こ、この中ですか?」

 

「さぁさどうぞ、遠慮せずに!」

 

 そういう問題じゃないんだけど!? 反対意見を言う暇さえ貰えずにネ級は機械の中に押し込められた。

 

「うわぁ!? ちょっとぉ!!」

 

「あでぃおーす!」

 

 水鬼にドアを閉められ、電灯などは無かった中は真っ暗になる。心細いなどと言う表現に収まらない感情に、思わずネ級は妖精らに話しかけた。

 

「ひぃっ!? ぬっ、ヌメヌメするぅ……妖精さん大丈夫?」

 

「うぇぇぇん!」「怖かったぁぁぁ!」「ひーん!」

 

 あぁ。ダメそうだこれは。

 

 無臭だが、湿気の凄い中の様子に更に不安になる。触手の中に居た妖精たちは、さっきの水鬼によっぽど堪えたようで、ネ級の話に応じてはくれなかった。

 

 それから数秒もしないうちに、この妙な機械が動き始める。暗闇で見えないが、段々と壁が迫ってきているのを知覚し、ネ級は顔を蒼くして叫ぶ。

 

「おぉおぉ!? これ本当に大丈夫なの!?」

 

 柔らかいが、何かの液で濡れている壁に体を包まれる。段々と圧迫が強くなるが、少し苦しいぐらいに感じたとき。唐突に動きが止まり、迫ってきた壁が元の場所に戻った。

 

「お、おわった……?」

 

 なんだろう。体感したことがない恐怖だった……。ガチャガチャと外から物音がして、扉が開く。出口でニマニマしていた水鬼に引きながら、ネ級は身震いしつつ機械から出た。

 

 本当に大丈夫か。体に機械でも埋め込まれるんじゃないだろうな。

 

 パソコンに似た機械のキーボードを凄い早さで叩き、何かの作業に入る水鬼の様子を伺いながら。ネ級はここを指定した南方棲鬼に悪口が言いたくなった。

 

 

 

 

 




劇中世界の北方棲姫は登場時の公式絵よりも微妙に頭身が高いのです。正月・オーケストラの時の容姿に近いですね。

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