お主の展開は読めぬ!と言われて舞い上がっておりました。みんなもっと言って(顕示欲を出す屑)
今日はいい天気だな。
鉛色の空の日が続いていた最近のあとの快晴とあって、雲一つない青空にそう思う。ネ級は、砂浜の上で昼寝していたニ級の上に腰かけた。
島に来て、もう1ヶ月が経過しようとしている。何度かの2番目の撃退に合わせて、その都度、遭難しているような人や艦娘を両手で数えられる数ほど救助してきたが。さて、軍ではどのように自分は言われているのかな―― ネ級はぼんやりと頬杖をついて考えた。
とっていた行動に「優しさ」は無いのかと言われると、それは違うと彼女は答えるが。どちらかといえば、この救助活動は元を辿れば打算で始めた物だ。深海棲艦には「人助けをする変なネ級が居る」と噂が立っていたが、陸にも伝わっているといいな、等と思う。
「考え事、なのれす。鈴谷しゃん?」
「あぁ……うん。……ちょっと、ね」
「悩みごとなら、吐いて欲しいのです。簡単な相談ぐらいは出来るのです」「「任せろー!」」
「うん……ありがと。みんな」
膝の上に降りてきた妖精たちに目をやる。目を細めて、ネ級は話し始めた。
「陸には帰れるかなって。みんな待ってはくれてるけど」
「諦めることが一番駄目な事なのれす。大丈夫。鈴谷しゃんはきっと戻れるのれす」
「ふふふ……ありがとう」
「最近の鈴谷さんは、何か急ぎすぎてるように思うのです。海難救助だって、自分のやれる範囲でいいと思うのです」
「……うん。わかってるけど。でも、傷だらけで水に浮いてる人とか、見ちゃうとね……ほっとけないよねぇ………」
気の抜けた顔で虚空に視線を移す。どこにも注意を向けていない虚ろなネ級の目を、妖精たちが心配したときだった。
ざくざくと砂を踏みしめ、近付いてくる音を二つ背後から聞き。ニ級以外が振り向く。ネ級の後ろには、南方棲鬼とレ級が居た。
数週間生活を共にして知ったが、南方棲鬼は滅多な事では外に出ない。レ級は食事の支度があるときに呼びに来るが、南方の方は、敵か不審者が島に来たのを察知したときぐらいにしか屋敷から出てこない。敵の気配でも感づいたのか? とネ級は思った。
「またのんびりと
「日の光を浴びるのは良いですよ。南様もどうぞ」
「嫌よ。葉っぱ花じゃ無いのにアホらし」
バッサリと切り捨てられたが。慣れているので嫌な顔もせず、ネ級は続けた。
「北方様はどちらへ。姿は見えませんが」
「チビは機械整備よ。ほったらかしてた倉庫の物見て目を輝かしてたわ。あんなガラクタの何が良いんだか」
「へぇ。あ、あと南様が外に出るのも珍しいですね。何かありましたか」
「別に。理由もなく出てきて悪い? 引きこもってたら体が
「なるほど」
話の最中に、ネ級は無理矢理南方棲鬼に体を押し退けられる。隣に彼女が足を組んで座ると、下にいたニ級が「ギュッ!」と呻き声をあげたので、慌ててネ級はニ級から降りて地べたに座り直す。
なんとなく、座っていた南方棲鬼に視線が向く。特に何もないが、やっぱり美人な人だよな。そんな風に思っているときだった。相手から話しかけられる。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんなりと」
「……私としては、珍しく、すごぉく悩んだんだけど、お前に直接聞くことにしたわ。気になることがあったから」
「……? なんでしょう」
なんだか勿体ぶるな。何かあったのだろうか?
「こないだ家で変なものを拾ったの。寝付けなくて、廊下を歩いていたときにね」
「はぁ。落とし物か何かですか」
「…………本当に心当たりないみたいね。こういうも………」
南方が続けようとしたときだった。
突然、ネ級が近くに置いていたラジオから激しいノイズが鳴った。キイィィン――と耳に響く高音に、思わずその場にいた全員が耳を塞ぐ。
「いぃっ!? 何よ、ぶっ壊すわよソレ!」
「なんだろ、故障かな?」
どこの電波を拾ったのか、ハウリングのような酷い音を発信し始めた機械をぺちぺちと軽く叩く。
様子がおかしいな――。ネ級がそう思ったとき。雑音に紛れて、「人の声」が聞こえた気がした。
『メイ……デ……………繰り返……深………撃……………』
「!!」
なんだこれは。惚けていた気分からネ級は意識を切り替える。この時点で妖精たちは戦闘の準備を始めていた。
『救……します……深海棲……………攻撃を受け…………航……不能!……機関部より…………が……』
「まさか……救助の無線拾ったってこと? そんなことある? テキトーな周波数だったのに」
「現に事は起きてるのです」
妖精の言うことに「それもそうか」と返す。
さて。今日も出動か。そう思って立ち上がった時。南方棲鬼が少し声を荒げて言う。
「ちょっと、私の話が終わってないんだけれど」
「申し訳ありません。戻ってくるまで、御預けでお願いします」
「……チッ。早く戻れるのかしら」
「それは……自分は弱いですから。わかりかねますね」
「ふ~ん……レ級、付いてってやりなさい。ネ級とニ級ごときじゃ戦力不足でしょうし」
予想していなかった相手の言葉にネ級は驚いた。レ級のほうも、「自分が?」とでも言いたそうな顔になっている。
「人助け中毒の介護をしてやりなさい。ついでに監視をね。妙なことをするなら首チョンパで良いから」
「…………」
レ級は、ネ級のことをちらちらと伺いながら南方棲鬼に綺麗な敬礼をして見せる。
他人の手を煩わせる必要は無いのに。そう言おうとしたネ級の言葉は南方に遮られた。
「あの……」
「何も言わなくて良いわよ。帰ってきたら嫌になるまで拘束して無駄話に付き合ってもらうから」
「!」
「嫌だっていってもやるからね。うんざりするぐらい」
…………。なんだ。やろうとしている嫌がらせが可愛らしいな! ネ級はそう思った。
「南様」
「なによ」
「やっぱりツンデレですね」
「はぁ!?」
「うるさいわね、さっさと行きなさいよ!!」 怒鳴り声を背中で受け止めながら、ニヨニヨと笑顔を浮かべてネ級は海へと駆けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
周囲への警戒を強めながら海面を滑る。ネ級はニ級とレ級を連れて1列になり、電波の発信源を目指していた。
9機の瑞雲を操縦するそれぞれの妖精たちは、ネ級の半径数キロを飛び回りながら、周辺の様子を随時報告する。既に島を発って10分ほど経過しているが、目標の船は見えない。
「どの辺りに居るんだろう。結構遠いのかな」
『電波というのは遠くまで届くものなのれす。かなりの距離に……万が一、撃沈されていることも視野にいれるのれす』
「嫌なこと言うねぇ……」
事実だからしょうがないけどさ。ネ級は言いながら、後ろにいたレ級を見た。いつもと同じ、落ち着いた色調のエプロンを着けて家政婦みたいな格好をしている。
昔、島に来る前に深海棲艦たちから酷いリンチを受けたとは聞いたが、その後遺症で彼女は戦闘能力を著しく欠いているという。具体的には声が出せないことと、今日はじめて知ったが、艦載機が使えないという事だった。
砲撃、魚雷を放っての雷撃。そこに加えて、大量の艦載機に任せた
加えて、あの優しい
本来は、滑走路を模した板のような物が貼り付いているレ級の尾に。それを無理矢理引き剥がされでもしたのか、火傷のような傷跡を見つけてネ級が考えていると。レ級から紙を渡される。
《私の心配はご無用です。鉄火場は慣れていますから》
「わかりました。得意なこと、とかは有りますか?」
《特にございません。しかし、どのような障害があれ、貴女の命令は成し遂げるつもりです。》
にこり、とレ級は笑う。すぐに表情を変えて、島に置いていた艦娘用の戦艦の武装に、彼女は砲弾を詰めていく。落ち着き払った相手の様子に、ネ級の思っていた先程の心配は全て吹き飛んだ。
何を考えているんだ自分は。後ろにいるのは姫級に近いとまで言われるレ級だ。味方にして心強くないはずがないよな――。少し強気に、自分を納得させたとき。妖精から無線が入った。
『見つけたのです。このまま直進、程なく観測できるはずなのです』
「ありがとぅ! いつも助かるよ~!」
『酷い有り様なのです。急ぐのを提案するのです』『けむりもくもく~』『爆発だぁ!』
妖精たちの声をイヤホン越しに聞いて。一抹の不安を抱きながら、ネ級は速度を上げた。
応対を終えて間もなく、件の船が見えてくる。
「ウソでしょ……」 目標物を前にして、ネ級の口からは思わずそんな声が出た。
「客船……って!? どうしてこんなところに……!」
意味がわからない、と思った。ここ周辺は悪名高い危険地帯で、海に関係する職業の者なら知らないなんて有り得ないと断言できる場所だ。密漁船か、艦娘を雇う金と航路代をけちった馬鹿な輸送船業者か何かだとネ級は勝手に決め付けていたが、航行していたのは立派な客船だ。
妖精の報告通り、船体はかなりの被害を受けている。所々の外装パネルが剥がれ、何かの機械油が
「なんて有り様……」
《まだ艦娘達は来ていない。二手に別れましょう。私は反対側に回って敵を引き付けます》
「うん。私は二級と手前側ね?」
《お願いします。なるべく敵の注意は逸らしますが、限界もあると思われます。その時は》
「わかってる。無理なものはしょうがないから……無事でね、気を付けて。終わったら合流ね」
「…………!!」
即席の作戦会議を済ませると、レ級は最大速で船をぐるりと回り込むような航跡を描いて進んでいった。会話を理解したのか、それとも習性なのか。ニ級は彼女を追わず、まだネ級にくっついている。
「……ッ、やるさ。やってやる……!」
ちらりと嫌な物が見える。深海棲艦の艦載機と、戦艦級と思われる人型の個体だ。持ってきていた武器を構えて、ネ級は自分を無理矢理勇気づける意味で呟いた。
あれが沈むところなんて見たいわけが無かった。憶測に過ぎないが何十、何百という子どもを含めた人間が死ぬのと同義なのだから―― 頭に沸いた思考をまとめて考え直すなんてプロセスはぶっ飛ばして、彼女の体は自動的に動いていた。
とにもかくにも、と、まずは先制・奇襲攻撃から始める。うまくいけば一気に勢いで敵を倒せる行動だけに、ネ級は全神経を集中して突撃した。
「あぁたれぇぇぇ!!」
「÷』▼ 《「゛」●―|!?」
一匹倒せりゃそれでいいんだ、そんな気持ちで砲の引き金を引く。思惑通り、うまい具合に直撃をとった戦艦ル級が一体、首から上を無くして爆散するのが見える。
しかし、喜べる戦果は得られなかった。最悪一体、とは考えていたが、本当にたった一体しか仕留められなかったからだ。
『とんでもない重い編成なのです! 右も左も戦艦・空母・戦艦!』『分析かんりょー! ル級もタ級もヲ級も5ひき~!!』
「うわうわうわ……ヤになっちゃう。キモいのがワラワラと……!!」
味方の報告に、思わずゾッとする。こちらはたったの3人で、レ級だけが敵と対等な身体能力がある。今しがた倒した者と、レ級の分だけ引いても格上の数が単純に13匹も居ると状況を理解し直すと、改めて戦慄した。
「瑞雲は全部船の上を固めて。客船の守りを強くしなきゃ」
『え、でも鈴谷さんは』
「大丈夫大丈夫、お腹に穴開いても生きてたんだから」
『危険すぎるのです!』
「いいから早く。沈んだりするところが見たいっての?」
『ううう……危なくなったら言うのですよ?』
「わかってるって……!? おっと。ほら、さっさと行った」
鼻先ぎりぎりを掠めて飛んでいった砲弾にひやりとしつつ、妖精らに指示を出す。弾幕を絶やさず形成しながら、ネ級はどうにか敵の砲撃の濃い部分を避けて位置取る。
秘策は取っておこうと思っても、こう敵が多いとな。ネ級は温存する予定だった武装の封印を解く。
「エヌ・ユニット」
泊地棲姫から教わった言葉を呟いた。すると、何かの機械の作動音と共に、腹部にちくりと針でも刺さったような痛みを感じる。
妙な感覚を覚えたと同時に、触手に固定していた艤装の装甲の継ぎ目から赤い光が放出され始めた。準備完了、と言うことだろうか。考えつつ、ネ級は敵に狙いを定めてみた。
「射線に……入った、ここっ!!」
機械を通って加熱・高圧力をかけられた血が、火花を
ズウゥゥン……。地響きのような、耳の奥に残る重い音が発される。
弾頭に当たる自分の血が体に当たった敵は綺麗に蒸発してしまった。
「…………!!?」
初めて使う武器だったので、どのような効果が期待できるのか。そんな事を考えていたネ級の心配は弾けてなくなった。威力不足どころか間違いなく必殺の一撃と呼べる物が撃てるこれに薄ら寒いものを感じる。
す、すごい威力だ……これならどうにかなるだろうか? すかさず第二射を御見舞いしてやろうと構え直した。が、その行動はできないで終わる。
突然、猛烈な立ち
「グァ!」
「ありがと。ゴメンね?」
服の裾を引っ張って助けてくれたニ級に礼を言いつつ、額を抑えて回避行動を続ける。
今の感覚は何だったのだろうか。そう思ったとき、ネ級の目は自然と砲の口に向いた。たった今発射したばかりの艤装からは、ぽたぽたと赤い液体が滴り落ちている。
「そういうことか……通常砲弾に」
ネ級の声を拾った装備が再度ガシャガシャと音をたてる。すると赤熱したように内部機構が赤みを帯びていた機械の光が納まり、垂れていた血も止まった。
体調不良の原因はなんとなくだが彼女は突き止めていた。単純に貧血なのでは、という予想だ。
「困ったな……たった一発でこれか」
乱射は厳禁だな。最悪、窒息して死ぬ可能性まであるか―― ネ級は副砲を乱射しながら考える。自分が本当に追い詰められるまでは、普通の武器で応戦するべきか。そんなように思考の取捨選択をした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
敵の数が多いと言えど、そこまで時間はかからないか。そう思っていたネ級だったが、甘めに作った予想は外れ、戦いは次第に持久戦へと移行する。
戦いが始まった時間を正確に把握していたわけではないが、確実に一時間ほどは経っているな。ゆっくりと考える時間さえあれば、ネ級はそう思っただろうか。時刻は午後4時を回った辺りだった。
晴れていた空は知らずに曇り始め、そこから加速度的に雲の量が増えて。現時点で、彼女らはゲリラ豪雨に打たれている。
濡れた服が体に纏わり付いて不快感を煽る。幾ら防水とは言え、長く雨にうたれれば多少は水が染み込む。重く、冷たくなった服はゆっくりと、だが確実にネ級から体温を奪っていた。
「ル級……倒したッ!!」
『もうダメなのれすぅ!』『やられちゃう!』
『3番機と7番機がやられたぁ!』
『せんきょうほーこく! 空母は3、戦艦が7!』
「頑張ってくれてありがと。ほら、やすんでなって」
「かたじけねぇ~」「ばたん、きゅ~」
蒼龍が寄越してくれた妖精たちは、みな精鋭のエースパイロットだ。お世辞にも性能が良いとは言えない器用貧乏な機体で、長く戦ってくれているところにそれは出ている。が、流石に押され始め、少しずつ撃墜される機体が出始めた。なるべく穏やかな顔を作って、ネ級は落下傘で降りてきた妖精を捕まえて触手の口に放る。
血の主砲は温存した。だけど、それは酷い判断ミスだったな―― ネ級は考える。
相手も恐らくは生物だろうから、流石に疲労したりはするだろう。しかし数に任せて暴れればそれでいいあちらに対し、自分は回避・反撃・船に向く注意を引いたり……と余計な行動が多い分、当たり前だが疲れる。戦闘が長引くほど、それは顕著に自身の体に表れることに、焦りを覚える。
何よりも最大の誤算は、ネ級が予定の時間を見誤った事だった。始めこそ、「隙を見てトッテオキを撃てば終わりだ」等と考えていたが、想像以上に消耗が大きすぎるのだ。敵の攻撃をいなすだけで目眩を覚えそうなこんなときに、大量の血を失う行動など取れば、何が起こるか、なんて答えは明白だ。
「くっそ……ォ……!」
頭がクラクラして視界がボヤけてくる。船を守るどころか自分の身の安全すら確保するのが難しくなってきた。
肩や腿に敵の攻撃が掠る。擦り傷程度なら考えなくてもいいと思っていたが、積もるように増えていく擦過傷の痛みと出血が蝕むようにネ級の能力を削ぎ落とす。
力を込めて何度か攻撃を弾いた両腕も、大量のアザと傷で、ただ黙っているだけで痛みを覚える始末だ。全身くまなく傷を負って、時間稼ぎも満足にできるだろうかと彼女の心に影が射した。
「………………!!」
一度、攻撃の手を緩める。このままじゃ、遅かれ早かれやられるだけ。少し頭を冷やせよ自分―― そんな気持ちで、回避に専念しながら大きく深呼吸をした。
少しは焦る気持ちも引っ込んだか、等と思う。間を置いてから、再び激しい撃ち合いの最中。ふと、ネ級は那智の事を思い出した。
今でも体に鞭を打って駆使する技術は、同期の中では一番最初に招集され、早い段階から海戦に慣れていた彼女から教わった物が大半だ。今はそばに居ない友人に心から感謝する気持ちだった。
あの人から教わった事が出来ていなければ――今の自分は間違いなく死んでいただろうな。那智の十八番だった間合いを保ったままのインターバル射撃で、ネ級は必死に敵に対応する。
追い掛けてくる相手に体の前面を向けて、ひたすら後退する。この単純な引き撃ちが、今のネ級を支える戦い方になっていた。
敵の攻撃は回避しやすく、自分の攻撃は当たりやすい、と、時々後ろに注意を向けなければならない以外。これといって欠点のないこの戦法を、那智はよくやっていたのを思い出す。そんなときだった。
『艦……援護……! もう少……………だ…!!』
「?」
船からの無線を拾ったのか? 妖精が勝手に色々と調整を施してくれるイヤホンだが、聞きなれない人物の声に、ネ級はバックする速度を思いきり引き上げて敵との距離を取ってから船に目をやる。
今までの戦いからすれば超持久戦と言えるこれの間も船は進んでいたらしく、いつの間にか、周囲は島の点在する海域に差し掛かっていた。そしてよく目を凝らすと、船上から砲弾・銃弾が敵やその艦載機に向けて放たれているのが見える。
なんだ、艦娘が乗っているのか? 注意が完全にネ級やレ級に向いていた深海棲艦たちは、不意打ちを受けて大小様々なダメージを負う。大きな隙を生かさない手はない。慌ててネ級は武器の火力を集中させ、足を止めたタ級を一体仕留める。
「どうなってるのかな?」
『甲板に包帯ぐるぐるの艦娘が居るのです。固定砲台状態なのです』
「なるほど……こっちには撃ってこないみたいだね。じゃ、いっか。」
スコープ付きの砲を両手で構えて、狙いを澄ましてヲ級の頭を狙う。今の今まで混戦状態で、サイトを覗くことすらままならなかったが、チャンスを物にして上手く狙撃する事に成功する。
妖精らと会話しながら、頭から煙を噴出して倒れたヲ級を見ていた時だった。さっきとは更に別の、自分の知る人物の声が無線で届く。
『生きてますかー!』 この状況からすると、どこかすっとぼけた明るい声だった。今も自分の使う砲の調整をいつもやってくれていた、北方棲姫の声だ。
返事をする前に、数十機の球状の飛行体が飛来してくる。北方の扱う、猫艦戦と呼称される高性能な生体飛行機だ。
「姫様、どうしてこちらへ?」
『心配になったから来てみたの。私の
「遅いなんてとんでもない! グッドタイミングです!」
『そーお? まぁいいや。早くやっつけちゃお、アナタ怪我も酷いみたいだし』
「了解です」
最大の敵だったヲ級の艦載機が北方の機体に拐われていく。上からの攻撃を気にしなくて良くなったネ級は、残った元気で敵の一掃に努めた。意図を組んだ瑞雲の編隊も加わり、猛烈な弾幕を仕返しとばかり深海棲艦に見舞う。
数分前までの孤軍奮闘が嘘のように、敵の数が1つまた1つと消えていく。唐突に増えた援軍の効果は抜群と言えた。
「すごいな……流石。敵いそうもないや」
あっという間に一掃された深海棲艦の群れに。ネ級はそんな感想が口から漏れる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
これでやっと一息つけるな。そう思い、武器を持った手を遊ばせた時。離れた場所で行動していたレ級と、ひたすら敵の撹乱をやっていたニ級が戻ってくる。自分を含めて、動き回っていた者はみな一様にボロボロになっていた。
よく頑張ったね~お前ね~……などと言いながらニ級の頭を撫でていると、『これからどうしましょうか』とレ級が伝えてくる。ネ級は口を開いた。
「……どうしようか。本当に」
『後先考えずにこんなことを!?』
「いや、これだけ泥仕合にもつれ込めば、きっと助けも来るかって想定だったんだけどさ……妖精さんは?」
「もう接敵して一時間は優に越えているのです。幾ら危険地帯とは言え、こんなに救助隊が遅れるのは……」
「だよねぇ、やっぱりおかしいよね。取り合えず、私は姫様と合流して相談するつもり」
「……………」
納得していないような顔をしていたが、ネ級の言葉にレ級は頷く。後方から支援で爆撃と空中戦をやってくれた北方棲姫の姿も、船からそう遠くない場所まで近付いている。
だがしかし、どうしたものかな……。武器を肩にかけ直して臨戦態勢を解いたときだった。無線機が知らない女の声を拾った。
『そこの深海棲艦、直ちに投降しろ』
『抵抗するならば、容赦なく撃ち抜く!!』
艦娘の声だろうか、と思った次には、声の人物は今度は拡声器で怒鳴り始める。ネ級は思わずレ級と顔を見合わせた。
「「…………」」
言葉こそ交わさなかったが。お互いに言いたいことをなんとなく察する。二人は両手を上げてバンザイをした。
船の上を見る。メガホンを持った戦艦の艦娘と思われる両脇を、空母の艦娘がこちらに向けて弓を引き絞っていた。しかし、そのうち一人は、血の滲んだギプスで吊った手で無理に弓を引いている。
「なにさ……向こうもボロボロじゃん」
「…………」
降伏勧告を叫ぶ艦娘の仲間と思われる彼女らの様子に、ネ級は呟く。全員こちらと同じく、もしくはそれ以上に酷い怪我をしている。とてもこんな大きな船を守るに足りる戦力には見えなかった。
手をあげっぱなしのまま数分経過する。相手の様子を伺っていると、北方棲姫が追い付いた。
「ごきげんよ……何してるの?」
「船に艦娘が居るようです。刺激しないように手を上げていました」
「どうすればいーの?」
「姫様が良ければ。同じようにしていただければ」
「う~ん。ネ級が言うなら、いいよ」
ゆっくり、例えると道路清掃車のような速度で進んでいた艤装を停止させて。北方棲姫は滑走路のような形状の部分に立つ。袖を捲って着崩していた作業着をしっかりと直してから、彼女は両手を頭の後ろで組んだ。
さてさて。一体どうなることでしょーか。
船から一人の艦娘が降りてくるのを見ながら。ネ級は他人事のように自分等の今後を予想した。
そう遠くないうちにすぐに更新の予定です。