職業=深海棲艦   作:オラクルMk-II

21 / 37
現在のネ級の通り名……無法地帯の救急車


【挿絵表示】



21 夢中で格好付けてみたんです

 

 ネ級と北方棲姫はちょうど、船の前に立ち塞がって壁になるような位置取りをしていたが。実際は数秒も経過していなかったが、この戦艦棲姫と対峙(たいじ)して、どれほどの時間が経ったか……とネ級は思う。

 

 全身くまなく、ベタついた粘液に包まれたと錯覚するような。そんな不快な威圧感を、相対する敵は放っている。同時に、相手にしたことがない不気味さを出すこの女の行動に目が離せないと思うと、ネ級は槍を構えたまま下手に動けなくなってしまっていた。

 

 「つれないなぁ。」 先に沈黙を破ったのは、気の抜けた声を出した戦艦棲姫だ。

 

「嫌だな、せっかく美味しいもの食べるかって聞いただけでそんな。突っぱることは」

 

「……生憎(あいにく)、夜食は済ませたので」

 

「そういうことじゃぁナイ、人の好意は素直に受け取るものだ」

 

「ッ! 嫌な物をイヤと言って何が悪いってのさ」

 

 ゆっくりと摺り足で体を右に右にと動かす。意図としては、少しでも自分を船から離すための行動だった。

 

 絶対に、いつかこの空気が崩れて戦闘になる。いつだ。いつ「それ」が来る?

 

 敵が一人である補償なんてどこにも無いんだ―― そんな思いで、あらゆる方向へネ級が注意を向けていると。北方棲姫が予期せぬ行動を起こす。

 

「ヤだヤだ、フフフ、腹立たしい……力付くでも言うことを」

 

 そう、戦艦棲姫が言ったとき。

 

 音もなく飛行していた猫艦戦の1匹が相手に体当たりをしたように、ネ級からは見えた。そう思った時には、戦艦棲姫の左腕が丸ごと無くなっていた。ネ級は驚きながらすぐそばの北方に目を向ける。

 

 察するまでもなく。何か因縁でもあるのか、北方棲姫はネ級には見たことのない表情で怒りを露にしていた。

 

「ん? あぁ、腕が無くなったな」

 

「ずいぶん、余裕だね。ニセモノの量産品のクセに」

 

「あぁ、誰かと思ったら! 貴女、北方棲姫? 小さすぎて見えなかった。悪いね?」

 

 少しズレた返事を返しながら戦艦棲姫はおどけてみせる。腕が1本吹き飛ばされたというのに、痛みを感じていないのか? いつも話している南方棲姫やレ級なら絶対に見せないだろう様子に、ネ級は言い様のない不快感と寒気を感じたときだった。

 

 一度、彼女はまばたきをした。瞳に写った戦艦棲姫の腕が戻っている。

 

「!?」

 

 見間違いか? そんな馬鹿な…… ネ級が狼狽えていると。北方が吠える。

 

「ネ級構えて!!」

 

 咄嗟の判断が功を奏す。自分のできる限界の速度で、槍を眼前に構えて顔を守った。なんの前触れもなく突然やってきた激しい衝撃に、体が強張った。ネ級には感知できていなかったが、戦艦棲姫がこちらを撃ってきたのを北方は教えてくれたのだ。

 

 なし崩し的に戦闘が始まる。ただちにネ級は艤装を駆動させて己の身を船から遠ざける方向へと動かした。触手に固定していた副砲と機銃を撃ちつつ、彼女は槍を片手持ちに、空いた手にショットガンを握る。

 

「はははは! 嫌だな、痛い!」

 

「そういう風には、見えないよ!」

 

「人を見た目で判断するのか?」

 

「知らないよっ!」

 

 およそ状況にそぐわない態度が腹立たしいな。そんなように考えながら、爆発の煙で見えない場所からの声とネ級が会話している時だった。背中側から1匹、猫艦戦が飛んできて自分の肩の辺りで静止する。

 

 何だろうかと思ったとき。再度見ればスピーカーが搭載されていたそれから、北方棲姫の声が出力された。

 

『ネ級、無理して話合わせることなんて無いよ。どうせ通じないんだから』

 

「と、申されますと」

 

『南方は2番目って言ってたよね。こいつ、それだから。あらかじめ組まれたロジックで動いてるだけ。思考回路なんて無いに等しい。違ったとしても、作った奴の言いなりなだけなんだ。応対を返すだけで、会話なんて無駄だからね』

 

「姫級の2番目……中枢棲姫さまを攻撃した例の」

 

『その通り。遠慮なんていらない、人の姿をしただけの人形だよ、ありったけの攻撃を撃ち込んで!!』

 

「わかりました!」

 

 短い会話が終わる頃合いで爆風が晴れて、戦艦棲姫の姿がまた(あらわ)になる。煙が晴れた場所には、傷1つない女がにこにこと気持ちの悪い笑顔を浮かべて立っていた。

 

 あれだけ撃ち込んで無傷に近い。長くなることも考えないと…… ネ級が持久戦を想定していると、女が口を開く。

 

「性格が悪いな! いきなり撃ってきてひどいものだ、痛くて死にそうだ!」

 

 とてもそうには見えないけどね。 内心でネ級は、こんな状況でもなければ、気さくな人物に見えなくもない表情の相手に毒を吐いた。

 

 口と服を同族の血で濡らし、片腕が千切れても身動(みじろ)ぎひとつしない。そんな人物が「痛い」なんて言ったところで説得力などない。十中八九――人の心なんてまるで無い、アレは自分が艦娘の時に相手をしていたようなのと、本質は変わらないんだろうな。対象へと考えを煮詰めるほど、ネ級の表情は険しくなる。

 

 こちらとしても好都合だ。見も心もバケモノと解れば、罪悪感なんて無いもんネ。

 

 行動方針は固まった―― そう思い、ネ級は徹底的に攻めることを決めた。手始めに、彼女は槍の柄で銃身を支えながら、狙いを澄ましてショットガンの引き金を引く。

 

「……!」

 

「あっ」

 

 相手は避けようとしなかった。

 

 この角度と距離なら直撃が狙える そう思ったが、ネ級の憶測は外れる。

 

 何か、見えない壁のようなモノに放った散弾が全て弾かれた。パラパラと雨垂れみたいな音を連れ添って、超合金製の弾丸は海面へと没する。

 

「!」

 

「なんだ? もういいのか? ならば反撃だァ!!」

 

 来る――! 攻撃が来ることを丁寧にわざわざ教えた相手に対して、ネ級も行動を起こす。彼女は両手を交差させて体の前に持ってくると、そこから上半身全体を触手で包み込むようにして身を守る姿勢を作った。

 

 先程いなした時とは比較にならない。間違いなく、人生で一番と言える激しい衝撃に体を揺すぶられる。歯を食い縛って無理矢理意識を留めたが、同時に後悔した。回避を捨てて耐えるのは間違いなくミスだったな――激しく半身を揺すぶられた気持ち悪さから、胸元より上がってくる胃液を飲み込み、そう思う。

 

「へぇ!? 頭良いな! 脳みそのいっぱい詰まった戦い方ァ!!」

 

「っ!」

 

 触手で身を包んだまま、ネ級は中枢の砲で反撃する。体制のせいで前は見えないが、前方から響く女の笑い声がたまらなく不快だった。

 

 称賛しているのか、それとも煽りなのか。大きな声でのたまう敵は、矢鱈滅多らと乱射を始める。照準も録に定めず放たれる砲弾はネ級の体を掠める事もあれば、全く違う方に落ちる事もある。太い水柱や火薬の爆発を切り払いつつ、慌ててネ級は船との位置を見て距離を取る。

 

 非常にやりづらい。この強敵にそう思っていた。

 

 砲戦の基本が全く当てはまらない。敵の狙いが当てずっぽうすぎて予測が出来ない。回避した方が当たるような物が来たかと思えば、間髪入れずにこちらに狙い済ましたかのようなスナイプを見せてくる―― 滅茶苦茶な戦艦棲姫の動きに、ネ級は完全にペースを崩されてしまっていた。

 

 これではいけない。そう思っていたのは、ネ級だけではなかった。北方棲姫は艦載機を放つ。更に、ネ級の触手に取りついていた妖精らが、独断で瑞雲による出撃を敢行した。

 

「!」

 

「ひゃっほぅ、なのです!」「ものどもすすめー!」「てきかん、かくらん!!」

 

 北方が展開する艦載機を増やし、そこへたったの5機とはいえ加勢が入ったためか、ネ級に向けられていた弾幕が、にわかに薄くなった。

 

 短いながらもターンは回ってきた。そう思い、急いでネ級は火力を集中させて撃ってみることにする。

 

 しかし、やはり攻撃は届かなかった。主砲と両用砲を合わせてみたが、見えない壁に阻まれる。

 

「また弾かれた……? 攻撃が通らない?」

 

『ネ級、側面を狙って! そこが弱点のはず!』

 

「! 了解!」

 

 どこを狙うべきだ。思案に更ける前に、北方から無線が飛ぶ。指示を頼りに、彼女は敵の体の横を目指す。すぐに行動に移り、ネ級は艦載機を構いはじめて隙をさらした戦艦棲姫を撃った。

 

「横から……ここか! うぅりゃぁぁ!!」

 

 自分よりも深海棲艦に詳しいだろう北方の言うことは正しいに違いない。――指示について、彼女はそう思っていたのだが、北方の助言は間違っていたのか。尚も、完全に側面を捉えて放ったはずの攻撃が弾かれた。

 

「!?」

 

『うそ……』

 

「ふふっ、なんだ? 歓迎会の花火か?」

 

 ちょっかいをかけたことで、また敵の標的が自分に来る事を認識する。急いでネ級は武器に弾を込め直し、ジグザグに左右に体を振りながら後退する。何が楽しいのか、戦艦棲姫は背後の怪物と一緒にそれを追い掛け、見た目からは想像もつかないような機敏な動きを見せる。

 

 一体なんだろうかアレは? 艦娘のような艤装の防御? それとも別種の技術? 何にせよ正体がわからねば、掠り傷すら負わせれないらしい。面倒くさいったらありゃしないな。

 

 考え事混じりにリロードにショットガンを回し、引き金を引いた。弾が無くなったそれから散弾が発射されず舌打ちする、そんなとき。無線が入る。

 

『すぐに射線を空けろ! 狙い撃ちにする!』

 

「!」

 

 味方の艦娘からの声だった。弾切れの散弾銃を戦艦棲姫に投げつけ、ネ級は滑り込むような動きで、船上の味方の砲撃が通る場所を予想し横に()れる、そのときだった。

 

 敵に向けて注がれる猛烈な攻めの中で。複数発の砲弾が、戦艦棲姫の防御を突破するのが見えた。

 

 錯覚ではない、確かに、2、3発と少なくとも、弾があの透明な壁をすり抜けている。どういうことだろうか? 全神経を集中し、観察する。

 

「ッ、痛いな、変なところからバシバシと」

 

「………………」

 

 どういうことだ? 「どこ」を狙ったら攻撃は届く? 少し顔を動かして離れた場所にいた北方を見ると、彼女も似たような事を考えていたのか、怪訝な面持ちになっていた。

 

 必死に考えつつも手を止めない。縦横無尽に海を駆け回り、ネ級は敵の船への注意を逸らして自分の身へ向けつつ撃ちまくる。

 

 ネ級が必死に敵を船から遠い場所へと誘導した効果は、少しずつだが出始めていた。爆風による自爆を警戒しないで済むようになったため、艦娘達の援護射撃の頻度と間隔が上がる。

 

「…………。」

 

 先程までのこちらを煽るような表情が、戦艦棲姫の顔から消えた気がした。根拠として、いつのまにか、相手は喋らなくなっている。

 

「焦っちゃダメよ……ゆっくり、ゆっくり……」

 

 どんなバケモノだろうと、相手だって所詮は生き物だ。いつか必ずバテる。戦いようはある。今、自分が何をできるか、ネ級は方策を考えながら、多対一のこの状況で武器の引き金を引き続ける。

 

 時折、後方の船から放たれる支援をヒントとして見極める。多くは謎の障壁に阻まれても、横からや、曲射弾道で真上から降り注ぐ攻撃に対しては、戦艦棲姫は防御できずに体で受け止めている。

 

 攻勢を緩めて敵の分析に努めていたときだった。突然、足元から大きな水飛沫が上がり、ネ級の視界が遮られた。

 

「な……!?」

 

「はははぁ! よそ見ぃ!?」

 

 正体は1匹の駆逐イ級だった。飛び掛かってきたそれを、すぐに撃ち落とした……が、後ろに控えていた戦艦棲姫は、援護に来たに違いない味方ごとネ級を撃った。

 

 反射的な行動で無理な体勢を取っていたネ級は、まともに攻撃を受けてしまい大きく体勢を崩した。基地外染みた笑みを顔面に貼り付け、女は背後の怪物を指揮して追撃に砲を放つ。

 

「ぐぅっ、つぅ!?」

 

 正面から相対していれば何とか防げたかもしれない。しかし位置取りが最悪だった。

 

 強引に身を起こす。すると、ちょうどネ級の右側、死角から撃たれ、彼女は新調したばかりの顔の仮面を割られる。

 

 そしてもう1つ。直海から受け取った髪留めが吹き飛ばされて飛んでいく。

 

「!」

 

 こいつよくもッ! 少しでも暇があればそう叫んだか。が、ネ級が口を開く時間すらなく、追撃が来る。 

 

「どうした? 右が見えていないのか」

 

 考える暇がないッ――!

 

 顔を撃たれた反動で上体が仰け反る。その姿勢と反動を利用して後転すると、ネ級は牽制に副砲をばら蒔く。が、なおも攻撃は弾き返され、おまけに今の一撃で自分の弱点を把握されたか、戦艦棲姫は他にも沸いているらしいイ級をけしかけつつ、執拗に右方向に陣取って砲撃を続ける。

 

「ぅぅッ! このっ……」

 

「あはははっ! いつまで持つかな?」

 

 こいつ、調子にのって!! ネ級は、4匹目のイ級が突撃してきた時を見計らった。砲撃でいなすのをやめ、その身を槍で貫いて勢いを殺す。そしてそのイ級を盾にしながら、連装砲で反撃をした。

 

「そんなに右が好きなら、見舞ってやる!!」

 

 その時、ネ級にとっては不思議に思えることが起きた。

 

 破れかぶれに放った攻撃が、戦艦棲姫に直撃したのだ。

 

「…………?」

 

 初めて攻撃が貫通した。いったいなぜ? 側面から狙った訳じゃないのに……?

 

「ちっ……味な真似を」

 

『ネ級、気を抜かないで!』

 

「!!」

 

 北方の声で考え事を重視しかけた思考のリソースを戦闘へと割き直し、考える。

 

 そして1つ。彼女の中で「仮説」が生まれた。

 

 この敵、相手の体から見て右側が無防備なのか……? そんなに考えごとを混じりに再度敵を見ると。今しがた攻撃を当てた場所、右の腹部の辺りの傷がまだ塞がっていないのが確認できる。

 

 体の右側と左で治るスピードが違うのか?―――― そう思ったときだった。

 

「!?」

 

 対空砲の弾丸・連装砲の砲弾が、武器から出てこなかった。代わりに、ガチャガチャと機械が中で作動する音だけが耳につく。

 

 最悪だ。ネ級はそう思った。全ての弾が尽きたのだ。

 

 体に蓄積した疲労から、ネ級は周囲への注意を怠ってしまう。彼女は足元から突き出ていた小さな岩に気づかず、蹴躓いて転倒する。

 

「しまっ――」

 

『何やってるです鈴谷しゃん!!』

 

 頭の中が真っ白になる。妖精からの叫びが耳に入らない。

 

 防御が間に合わない。死ぬ――

 

 生理的な反応か。ネ級は一呼吸も暇がないこの最中、目をつぶってしまった。しかし、体を消し飛ばすような一撃に悶えることはなかった。

 

 ゆっくりと瞳の焦点を先程まで戦艦棲姫の居た方向に合わせる。

 

「ここは、通さない」

 

「ッ!」

 

 船で援護に徹していた筈の艦娘。恐らくは助けた部隊の旗艦、武蔵が自分の体を盾にして立ち塞がっていた。

 

「武蔵さんっ!!」

 

「ふふふ……しっかりしろよ……疲れてるのはみんな同じだ…………」

 

「何してるんですか!? 私なんてほっといて援護を……」

 

「何。ちょっとした伝言があってね」

 

 ネ級にとどめをさせなかったことが不服なのか。二人の会話に、戦艦棲姫は不機嫌そうな顔と声で割って入る。

 

「おまえ、頑丈な体だな。そこは誉める。にしても随分と調子良さそうだ……傷口から星空が見えるが」

 

「誰が……死にそうだって……?」

 

 まともに受けた砲撃で割れた眼鏡の位置を、指でかけ直す素振りをしながら。武蔵は、手元で何かの機械を操作する。彼女が背負っていた、傷だらけの大型の戦艦の艤装が動作を始めた。

 

 ネ級の知り得る中では最大の威力を持つ主砲が火を噴く。空気が震え、耳が聞こえなくなるほどの音を連れ添って、大径の砲弾が戦艦棲姫目掛けて飛んでいった。

 

 わざわざこちらに防御に入った意図はわからない。だけど、この至近距離でこの口径の武装を真正面から受けたんだ。まさか弾かれるわけが、等とネ級は思った。が、そのまさかが的中する。煙が晴れた場所に立つのは、暗いせいではっきりとは表情が読めないが、無傷に近い状態で額に青筋を浮かべて怒りを露にしている戦艦棲姫だ。

 

「ふざけているのか? 効かないんだよ何度やってもな」

 

「ふふふ……そのわりには冷や汗かいてやがる」

 

「なんで余裕だ? その傷だ、化膿(かのう)でもすればすぐに死ぬ」

 

「最近、寒かったからな……暖を取りたかったんだ……ありがとう…………」

 

「!! ぬるいだと、そう言いたいのか? そうか、望み通りに暖めてやる」

 

 何が目的か、満身創痍でなおも立って相手を煽る武蔵の背後で。血だらけの腕を強く縛って無理矢理血の流れをせき止めると、ネ級はその包帯で、握る力の無くなった右手と槍をしっかりと結んで離れないように固定する。

 

「すぐに楽になる。動くな」

 

 早くこの人を連れて回避を。ネ級がそう思ったとき、武蔵は呻き声を漏らしながら片膝をついて動かなくなってしまう。

 

「!? 武蔵さん早く回避を!!」

 

「いや、そんなことはどうでもいい……後を…………頼む……」

 

 立て膝の体勢から力無く倒れかかってくる武蔵をネ級は支える。視線を前に戻せば、戦艦棲姫の砲の口は真っ赤に輝き、すぐにでも発射が始まるような雰囲気を出している。

 

「良いから早く逃げないと! このままじゃ……!!」

 

「まぁ焦るなよ……もっと引き付けるんだ、こいつの注意を……」

 

 ……??? 一体なんだ、この人は何を言っている?? それに無理だ、この疲れた体で人を一人支えて避ける時間が…… そこまでネ級が考えたとき。

 

 突然、戦艦棲姫の足元の水中から一発の砲弾が水飛沫を上げて「湧いて」きた。予想外の事態に、女の砲撃の射線が大きくブレる。

 

「何だとォ!?」

 

 ネ級、北方、妖精、そして敵の戦艦棲姫も何が起こったのか理解できなかった。そこへ、脱力したまま武蔵は吠える。

 

「今だ、行けぇぇェ!!」

 

 何者かが戦艦棲姫の胸元へと躍り出た。

 

 武蔵の叫びに呼応するように勢いよく海から飛び出したのは、ネ級には、援護に徹すると言っていた筈のレ級だった。

 

 敵にそんなに近付いて何をする気だ ネ級と北方が同じことを思ったとき。彼女は意外な隠し弾を披露する。

 

 レ級は自分の尻尾に両手を突っ込み、何かを取り出す――それは、1本の刀だった。

 

 刀身を引き抜き、鞘を相手に投げ付ける。そのまま反撃する暇を与えず、彼女は飛び上がっていた体勢から逆袈裟斬りを戦艦棲姫に叩き付けた。

 

「ッ―――――!!」

 

「があぁっあっ!? おまえぇぇ!!」

 

 非常に鮮やかに。レ級は女の右腕から左肩にかけて、戦艦棲姫の体に深々と傷を負わせた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 会心の一撃が入り、戦艦棲姫の右腕が飛ぶ一部始終を見ていたネ級は、思わず呆けてしまった。普段から穏やかな様子を見せるレ級が、ここまでの賭けの攻勢に出るとは思わなかったからだ。

 

 この緊迫した状況でそんな風でいると。彼女は側にいた武蔵から軽く肩を叩かれる。そして先程言っていた「伝言」と作戦を預かる。

 

「?」

 

「栄養剤だ。無いよりマシだろ、それ飲んで元気出せ。ほら、レ級がガンバってるうちに早く」

 

「あ、ありがとう……」

 

「飲みながらでも良いから聞け。いいかネ級……あのレ級と2体1の図式を作るんだ。絶対にタイマンなんて考えるな、質でこちらが劣るぶん、数を揃えるんだ……片方が動けないぐらいケガしても諦めるな」

 

 受け取った物の薬効が身に染みる。気のせいだったかもしれないが、ドリンクと助言の効果は確かにネ級の活力になった。

 

 武蔵は続ける。

 

「あれだけの図体のヤツが、あの激しい動きだ、必ずもうじきガタが来る。見つけた弱点を突き続けろ、絶対に勝てる……そっちの邪魔にならないように、他の敵の露払いは私と仲間がやる」

 

「そのお怪我で、ですか」

 

「私は戦艦だ。駆逐艦のちょっとやそっと、今の自分でも何とかなるさ」

 

 『私もいるからね! ちょっかいなんてかけさせるもんか』 会話の最中に、北方の声が割って入ってきた。

 

「と、そういえばこっちにもお姫さまが居たな。残念なことに、私の装備は完全に砲戦特化で近距離戦なんて参加できそうもないし、弾ももうほとんどないんだ。こんな手伝いしかできなくて悪いな……さっきも言ったが、元気なのはお前さんだけだ」

 

 話しかけてきた時とは違い、少し強めの力でネ級の背中を叩き。武蔵は言う。

 

「さ、行けよ。そして生き残るんだ。そうすれば、まぁ、アンタにいい弁護士を付けるよ……支援は任せろ。魚一匹そっちには行かせない」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 話をしている間にも二人は移動を続けているらしいな、とネ級は思う。ほんの少しで、レ級は戦艦棲姫を船から更に離れた沖へと追いやっていた。

 

 早く合流しないと。いくら不意打ちが決まったって、あの人(レ級)は怪我をしている。長くは持たない…… 全速力で海を駆ける。ほどなくして、激しく金属音を響かせて超接近戦を展開する二者が視界に入る。

 

 が、安心はできなかった。ネ級は、少し来るのが遅かった。

 

 「のろい動きでよくも……」槍を構えて近付くネ級の耳に、戦艦棲姫の声が届く。

 

 レ級と合流に成功した瞬間だった。力任せな敵の圧に押されていた彼女は、戦艦棲姫に得物を素手で砕かれた。

 

「!?」

 

「不意を突くだけの能無しが……!」

 

 粉々に刀身を粉砕された得物を、気前よくすぐに捨てる。レ級は戸手格闘に持ち込もうとした。しかし身体能力に部がある敵に先手をとられ、彼女はそのまま船とは反対方向へと蹴り飛ばされて海面を転がっていった。

 

「墜ちろォォ!!」

 

「ッぁ………………!?」

 

「はははは! ボロ雑巾みたいに転がってった!」

 

 一連の流れを見てネ級の頭は怒りの感情1色に染まった。が、吹き飛んだ友人を、気遣って助けにいくようなことを。あえてネ級はしなかった。

 

 彼女が死に物狂いで作った、「負けることで相手を調子づかせる」という行為を無駄にしないためだ。

 

 ほんのコンマ数秒、ネ級の姿を確認した時から、唐突にレ級の動きが鈍ったのを彼女は見逃さなかった。全速力でネ級は女の背後に回り込む。

 

「ははは、ザコの分際で調子に」

 

「うぅりゃああぁぁぁぁぁ!!」

 

 笑えるほどの無防備を晒した敵に飛びかかる。ネ級は敵の従える大きな怪物の背中から槍を突き刺して貫通させると、尚も物を押し込んで女の背中を斬った。

 

[―――――――――――――!!]

 

「お゛ぉ゛ぁぁぁァ!?」

 

「もう、一丁!!」

 

 ほんのちょっぴりだが全力を出せるまで回復した体力で、怪物の背中を足蹴にして槍を引き抜く。そこからネ級は、血を吹き出して倒れる怪物の肩まで登ると、そこから飛び降りて海面に降りるまでの合間に、触手から取り出した魚雷・爆雷をありったけ撒いたあと、妖精に指示を出した。

 

「今!! 着火ぁ!!」

 

『『『あいさぁー!』』』

 

 このタイミングを見計らっていたとばかりに生き残りのパイロットが戦艦棲姫の元へと殺到する。自由落下する標的に機銃を撃ち込み、誘爆させるという神業を、妖精たちは涼しい顔で成し遂げた。

 

 猛烈な炎の中に消えた敵に。ネ級は口笛を吹いて妖精たちに感謝をのべる。

 

「一丁、上がりぃ! ほーう、よく燃えてるじゃん♪ みんなありがと!」

 

『背中に回り込んだときから鈴谷さんのやることは読めたのです。動きが単調なのです』

 

「ふふーんわかってないな。それも策のう…ち……」

 

 海面に広がっていた火が少し弱まった時だった。何かを感じたネ級は、その場から()退()さり、火の手が上がる場所から距離を取る。

 

 彼女の勘は当たった。まだ健在だった戦艦棲姫は、連れの怪物ともどもボロボロになりながら攻撃を仕掛けてきた。手前に着弾した弾が上げた飛沫に目を細めながら、ネ級は槍を構える。

 

 「なんて頑丈なの……」 口からそんなようなことが漏れる。が、しかし、よくみれば元気なのは戦艦棲姫本体のみだった。後ろの怪物は、口の中で火薬を炸裂させられたダメージからか、頭部を焼失して倒れている。

 

「こ ろ し て や る」

 

 目に見えない動きで相手は飛び掛かってきた。

 

「!?」

 

 経験と勘、そして深海棲艦特有の身体能力が鈴谷を助けた。反射で振った槍で女の腕を弾き、難を逃れる。

 

 しかし息つく間もなく、どうにか視認出来るか、というような異常な速度で敵は殴りかかってくる。

 

「私の顔に、顔に……よくもォ……ゴミクズの分際で……」

 

「………………!」

 

「よくも傷なんぞ負わせてェ!」

 

 着々と筋肉が悲鳴を上げ始める頃合いだったが。このときのネ級の心は、自分でも以外に思うほど、雑念が抜けてリラックスしているような状態になっていた。

 

 『己を律せぬ者に 勝利はない』 いい言葉だよ。レ級……。戦闘が始まる数分前に彼女から受け取った書き置きを思い出す。言葉を心中で輪唱すれば、熱を帯びていた思考回路が冷めてクリアになる。

 

 冷静に相手の動きを見極めろ。北方とレ級が死に物狂いで探し当て、自分も行動から得た情報を無駄にはできない。奴は自分と同じ。体の右側に爆弾があるらしい。執拗にそちらを攻めれば、絶対に隙を見せて打開策も出来るはずだ―― 武蔵の言ったそんな一縷(いちる)の望みに全てを賭けて、ネ級は槍を握る手の力を強める。

 

 突破口は……右だ!!

 

「うぅりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「!?」

 

 最初の一撃こそ、見切れなかった相手の動きも。回数を重ねて「慣れ」たネ級は、相手の防御の隙を突いて攻勢に出る。両手でしっかりと握りしめた槍の穂先を、寸分の狂いもない精度で敵の右の眼球に深々と突き刺した。

 

「がああァァァッ!? 貴様っ、お前ぇッ、格下の分際でぇぇぇェェェ!!」

 

 顔の、それも脆い部分に直撃した攻撃に、女は傷口を押さえて滅茶苦茶に暴れ始める。ネ級は握っていた槍を相手に掴まれ、その馬鹿力でもって、体ごと投げ飛ばされた。

 

「踊り食いの予定はやめだ、血祭りにする」

 

 面倒な目の前の敵は後回しに、まずは身動きのとれない大きな的から減らすという算段か。戦艦棲姫はネ級から注意を外し、後ろで伸びていた怪物の武装を剥ぎ取り、照準を遠くの船へと向けた。

 

「皆殺しだァァァ!!」

 

「止まれェ!!」

 

 勿論、それをさせるネ級ではなかった。ブーツの爪先を戦艦棲姫の首に突き刺して思いきり蹴り上げる。

 

 「お゛ぼぁ!」 血が喉に詰まり妙な声を出した女の撃った弾は夜空の星に向かって飛んでいく。しかし、尚も女は諦めず、上を向いたまま再度船へと砲を向ける。

 

「死ねぇ!!」

 

「まだまだァ!」

 

 照準を向けようとした相手の腕を掴み、ネ級は強引に射線を自分の肩に移す。撃ち抜かれた体から、叩き割られた水風船のように血が噴き出した。

 

「がっぁ……!」

 

「ひゃああぁぁぁ!!」

 

 最早戦いは無茶苦茶な方向へと進んでいた。弾がなくなり、両者はお互いに腕を振り回して殴り合うような状態にもつれ込む。

 

 ネ級は真っ赤に染まった腕を、体ごと振ることで得物を敵に降り下ろして叩きつける。が、それは戦艦棲姫の左腕に弾かれ、大きく体勢を崩した。

 

「ははっハァ!」

 

 汗と血でぐちゃぐちゃの顔を狂気に染め上げて、女はネ級の顔目掛けて殴りかかってきた。

 

「その顔に風穴空けてやらァ!!」

 

 考えるな。体を動かせ―― ネ級は寸での所で回避に成功する。避けられることなどこれっぽっちも予測していなかった相手はというと、思わず狼狽してしまい、大きな隙を見せることとなる。

 

「かわ……しただと……!?」

 

「!!」

 

 反撃の時間が回ってきたことを見逃す鈴谷ではなかった。

 

 弾かれて、武器を大きく振り上げたような構えになったことを咄嗟に利用する。ネ級は緩んでいた包帯を解き、槍を握っていた掌の力を抜いた。重力に引かれて落下するそれを、背中に回した左手で後ろ手に掴む。そこから横凪ぎに戦艦棲姫の胴を切りつけて、傷口にかかとを向けて蹴飛ばした。

 

「あああぁぁォォぁ!?」

 

 左手に槍を持ち直す。極度の疲労と出血が原因なのか、ちかちかと視界が点滅を繰り返すのを気にせず、ネ級はふらつきながら敵に向けて走る。すると、一人の妖精が肩に取り付き、叫び声をあげた。

 

「無茶なのです! 貴女が先に死んじゃうのです!!」

 

「まだ……だ……!」

 

「鈴谷さん!!」

 

 大きく振りかぶった槍の穂先を、戦艦棲姫の頭に叩き付けた。

 

 これで終わりだ―― そう思った彼女は、物を握っていた力を抜く。

 

「やっ……!」

 

 しかし。鈴谷の最後の力を振り絞った攻撃の効果は、敵を打ち倒す程ではないようだった。

 

 戦艦棲姫は、まだ健在だった。予期せぬ反撃にネ級の動きが止まる。

 

「何を「やった」んだ? えぇ?」

 

 これだけやっても……まだ無理なのか……? 朦朧とする意識の中で、彼女はそう思った。

 

 体の半分を吹き飛ばされて、まだ再生中の戦艦棲姫は。自分の左手の指を5本、物を掴むような形にしてネ級に服の上から突き刺し、彼女の体を持ち上げる。

 

「がっ…ごはッ…」

 

 不意打ちと疲労が重なって急激に全身の力が抜ける。結果、全体重が患部に集中し、突き刺さる女の指は内蔵まで達した。

 

 怒りで目を血走らせたまま、戦艦棲姫は刺した指を時計回りに回して肉を抉った。体感したことがない激痛と不快感、それに、溜まりに溜まったダメージと疲労が遂に限界を迎えて爆発する。ネ級は血の混じった胃液を吐き、とうとう手のひらの力を抜いてしまった。

 

「ゲホッ…ごッ………」

 

「どうした? 喋ることも出来ないか、えぇ? おい?」

 

 勝ち誇った顔で戦艦棲姫はネ級の首を掴み体を持ち上げる。そこへ、沸いていた駆逐艦を殲滅し終えた武蔵、北方、傷の応急処置を自力で終えたレ級が到着する。

 

「ネ級!」

 

「ははッ! ばーか、味方を盾にされて手も出ないか!? カスもカスばかり、ザコの集まり――――」

 

 砲を向ける武蔵へ、戦艦棲姫はネ級の体を向ける。

 

「ッ!」

 

「お前……」

 

 反論できる者は居なかった。みな、相手の言う通り、ネ級を盾にされて敵に打つ手が無くなる。

 

「なめてかかったのは悪かったな、それは私のミスだ、今度から気を付けるとしよう」

 

「ぅ……ぅ…………」

 

「よく頑張るなネ級、誉めてやる。感謝の印にお前を真っ先に殺すことにした」

 

 戦艦棲姫は、治った右手に大口径砲を構え、ネ級の顔に当てる。

 

 

 せっかく、みんなが頑張って傷を負わせたのに。自分はダメなやつだ。こんなところで真っ先に死んで―― 段々と平衡感覚も失い、痛みすら感じなくなりつつあるネ級は、こちらを見ている武蔵やレ級たちにそう思った。

 

 

 

 

 

 天はまだネ級を見捨てることは無かった。

 

 どこか、離れた場所から赤い光を放つ砲弾が飛んでくる。それは戦艦棲姫の透明なバリアを潜り抜け、両腕をもぎ取るように肩部を側面から貫通した。

 

「え……?」

 

 また、何が起きたかが戦艦棲姫にはわからなかった。彼女は猛烈な吐き気と痛みに襲われ、更に運動エネルギーに体を持っていかれて、ネ級を放って海面に転がる。

 

 ネ級の知っている声が、海上に響いた。少し低い、落ち着いた女の声だ。それを聞いて、北方とレ級が表情を変える。

 

「少し遅れた。許さないなんて言わせないわよ」

 

 ネ級は、絶対にここには来ない。そう思っていた南方棲鬼だった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「……ぁ…み…………き……………ね………………」

 

「あんまり喋るな。そんな怪我じゃ内蔵がはみ出るぞ」

 

「……ぁ………と……………」

 

「口を開くなといったでしょ。わかってる、それぐらい」

 

 傷口の血の流れを止めるため、ネ級を、なれない手付きで南方棲鬼が包帯を巻いていくとき。彼女に向けて、同じく全身が傷だらけで血に濡れていた武蔵が口を開いた。

 

「………あ」「喋る必要がない」

 

 が、すぐに南方からそれを止めるように指示される。

 

「大事なのは、私がこの状況を把握すること……お前はこいつとレ級の味方、アイツは敵。だから私はあの戦艦棲姫を殺しに来た。以上」

 

 血濡れのネ級を、鍵爪状の手でそっと寝かせて、南方棲鬼は戦艦棲姫の方を向く。いきなり現れ、そしてネ級達と同じく、艦娘側に加勢してくれる南方に疑問を持ちつつも、武蔵は言われた通りに口を閉じた。

 

 傷の再生は始まっていたが、呼吸の乱れている戦艦棲姫に、眉間に(しわ)を寄せながら南方は呟いた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

「お前か、私の世話係に傷を付けたのは。借りは高くつくけど」

 

「ふふ、はは! 誰が来たかと思えば南方棲鬼じゃないか! 知ってるぞ、人一人殺せない臆病者じゃないか!」

 

 早くも再生の終わった左腕で指を指しながら戦艦棲姫は続ける。

 

「おまけに背中を撃たれて傷を負ったんだよなぁ……聞いて呆れる、鬼なんて呼ばれてるのに弱い奴だってな!」

 

「ふふふふ…………」

 

「……? 何を笑って」

 

 煽りを続ける戦艦棲姫の所へ、南方棲姫は走り始めた。

 

「! 無駄なんだよ、撃ち抜いて殺してやる!」

 

 戦艦棲姫は両手で武器を構え、狙いを定めて引き金を引いた。しかし、南方棲姫は涼しい顔で回避すると、段々と走る速度を上げていく。

 

「避けたか、でもそんなまぐれで……」

 

「…………」

 

 続けて女は攻撃をする。だが1発も南方を捉えることは無かった。

 

「こんなっ」

 

 距離を取ろう―― 戦艦棲姫がそう思って行動するには遅すぎた。

 

「捕 ま え た」

 

 両手をしっかりと握られて、戦艦棲姫は逃げ道を塞がれる。そして南方棲姫は、掴んだ相手の腕を力任せに握り潰した。

 

「あぁぉあ!?」

 

「なんだ、この程度なのか。姫級が聞いて呆れる」

 

 青色の肉片をその辺りに撒き、南方棲鬼は武装の照準を至近距離の敵に向ける。

 

「お前みたいな偽物じゃ無理だ。私の砲撃は本物よ?」

 

「や、やめっ」

 

アデュー♪(さようなら)

 

 周囲が眩い赤い光に包まれる。

 

 合計20程の砲口から放たれた弾が全身に殺到するエネルギーにより。消し炭すら残らず、戦艦棲姫は蒸発したのだった。

 

 

 

 

 

 




次話から新章です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。