職業=深海棲艦   作:オラクルMk-II

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おまんたせ ほのぼのと戦闘が半々だけど、いいかな?

三越ネ級がどこから見ても人外に見えなくて草生える。しかもあいつ重巡棲姫みたいに触手が脱着式なのか……




26 心の炎を燃やすとき

 

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 自分の装備に紐で繋げられた数機の瑞雲が、ジェットスキーのように海面を跳ねている様子を見る。妖精らは普段と変わらず、愛機のコクピットでのんびりしているのが確認できた。

 

 そこから更に奥に目をやって、少し後悔する。深海棲艦が同じ部隊で行動することに納得がいかないのか、事情を知っている秋月以外の艦娘はあからさまに殺気立っている。

 

 こちらに文句を言いたいのだろうが、一番はこんな作戦を企画したあの男だ。一体なに考えてるんだ? そんなように苛立(いらだ)っていると。自分と並走していたレ級から、こっそりとプライベートチャットが送られてきた。

 

《後ろ どうです?》

 

《ヤな感じ みんな怖い顔しちゃって》

 

《そうですか あまりジロジロ見ないほうが良いかもしれません なにか因縁つけられるかも》

 

《かもねぇ 気を付ける》

 

 作戦に連れ出されたはいいが、詳細はまだ伏せられたままだった。大方こちらが妙な事が出来ないように、という保険だとは予想がついたが、「アレだけやって」まだ信用が勝ち取れていないという事実がネ級を落ち込ませる。

 

「…………。」

 

「信じてもらえないことが、不服なのれす?」

 

「え? あぁ、うん……」

 

 天龍からのオーダーでゆったりとした速度で現在航行中である。手の重み程度にレバーを倒してぼうっとしていると、何かを察したらしい妖精に声をかけられた。

 

 「きっと大丈夫なのです」 必勝、と書かれた鉢巻きを頭に巻いている彼はそう続ける。

 

「鈴谷しゃんは頑張りやさんですから。それはきっと伝わってるはずなのです」

 

「そう、かな。」

 

「じゃなきゃ、そもそも軍が深海棲艦を保護なんてさせるわけないのです。例え後ろのすっとこどっこいがそう思っていなくても、きっと、前の瑞鳳さんや霞しゃんには響いているはずです」

 

「…………………。」

 

「貴女が道を(たが)えない限り、私達は鈴谷しゃんの味方なのれす。いつも酷い目に()ってるのに……報われないのは哀しすぎるのれす……」

 

 いつもはにへらと笑っている妖精たちの表情が曇る。しかし気丈に振る舞って返事をする気持ちになれず、鈴谷は黙ってしまった。それが一層妖精らを不安にさせる。

 

 重く気だるい空気に体まで(だる)くなってきた気がする。そんなとき。後方の天龍より無線が入る。

 

『おい、ネき……エスコート6。聞こえるか?』

 

「感度良好です。何かありましたか」

 

『良いか? これから護衛するのは通学船だ。解るか? 人間のガキどもが沢山乗ってんだ。間違って誤射でもやってみろ。遠慮なくぶっ殺すからな』

 

「通学船?」

 

『そうだ。離島に住んでるとかで、学校に定刻で往復する便がある。だから子供がわんさか乗ってる。命に代えても一人も犠牲者なんて出すんじゃねぇぞ、いいな?』

 

「……了解(ラジャ)

 

 通学に船……なるほどな。そういえばここは佐世保だったものな。東北に比べて島もそれなりにあったか。フェリー便が多いとかも聞き覚えがあるし、ならそういった人も居るか。

 

 生まれ育ちが北海道→東京近郊の鈴谷には、船で通学・通勤というのはどうにも想像しづらい。ただ、九州地方では割りとごく普通の事なのは、知識として知っているので無理矢理納得する。

 

 味方より背後からぶつけられる殺気に参りそうになること数分。目的地の中継基地が見えてきて、ほんのちょっぴり、ネ級は安心からため息をついた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 全く作戦を教えられていないネ級は、初めは港に船を迎えにいくとばかり思っていたが。予想は外れ、仕事は軍所有の海上補給基地からスタートした。

 

 なんでこんな変な場所で停まっている? と思ったが、ネ級は天龍他、艦娘や施設職員の話を盗み聞きしてそれとなく状況を整理する。

 

 1日に船が出るのは5回ほどらしい。バスや電車がルートを巡るように、島から本土までを一応復するらしいが、途中、護衛の艦娘の負担などを考えて中継地点で休憩や給油を済ませるという。

 

 停泊していた中型の船舶には燃料パイプが繋げられている。自分らが到着する前に居た艦娘達が、食事の片手間に天龍と何か話しているのが見えた。

 

「引き継ぎか何かかな。自分の出る幕は無さそうね」

 

「大人しくしているが吉なのです。後は今のうちに休憩しとくです?」

 

「そうしよっか」

 

 技術研究所とヲ級から貰ったこの艤装だが、艦娘と並んで行動するにあたって様々な改造や調整がされている。

 

 その中でも居住性の向上が目的なのか、車のダッシュボードのような収納が設けられている。ネ級は手元のスイッチでロックを解除してそれを開くと、中に入れていた携帯食糧を妖精に渡し、自分は水を飲むことにした。

 

「ふぅ。」

 

「作戦前に栄養補給というのは……なんだか新鮮なのれす」

 

「……言われてみれば。そうだね初めてかも」

 

 艦娘だったころはこんな暇な状態から始まる仕事なんて無かったものな。ふと、熊野や浜波の顔が浮かんだ。

 

 こちらをちらちら見ているどこかの鎮守府の艦娘を眺める。無害をアピールするために意図的にこちらがのんびりとした態度を取っていても、落ち着きが無いように見えた。

 

 それにしても何を話しているんだろうか。興味が湧いたネ級は妖精に指示を出してみた。

 

「……妖精さん、盗聴ってできる?」

 

「誰の、れす? てんりゅー?」

 

「ビンゴ」

 

 「任せろー!」「あいあいさ!」 リクエストをすると、彼らはネ級がつけていたインカムに何かの細工を始めた。ほどなくして天龍と、更に彼女に向き合っていた艦娘の声が耳に届き始める。

 

『本当に大丈夫なんだろうな。暴れ始めでもしたら手に負えんぞ』

 

『レ級については問題ねぇってよ。気味悪いぐらいに大人しいからな。それに違う鎮守府で何ヵ月か働いてたそうだ』

 

『じゃああっちのでかいのはどうなんだ? あんたのとこの提督、ネ級を船の護衛に付けて、レ級をここに置いてけって指示だがね、逆の方が良いんじゃないのか?』

 

『俺に言われても困るよ。一応、暴れてるとこは見たことない。それに部下が前にあいつに助けられてんだ』

 

『なに?』

 

『結構な数で囲まれたときがあってよ。あいつ、たった一人で包囲網に穴空けて俺らを援護しやがった。最初は目を疑ったよ』

 

『ほー。あんなボケたやつがな』

 

『ボケた? どういうことだよ』

 

『後ろ見てみろ。あの乗り物の上でのんびりお茶してるぞ』

 

 名も知らぬ艦娘がこちらを指差してきたのを見てネ級の心臓が跳ねる。慌てて飲み物をしまい、ずらした仮面をかけ直したが、ばっちりと天龍に見られてしまった。

 

『あぁー………その』

 

『ふふ……考えが変わった。なんだよ、可愛いところあるじゃないか。あいつ』

 

『まぁな。俺もそー思うよ』

 

 今の一連の行動を見た途端に語調が柔らかくなった二人に、ネ級は顔を赤くする。肩に居た妖精にも、その事をつつかれた。

 

「鈴谷しゃん顔がまっかっかなのれす」

 

「しーらないっ!」

 

 手元膝元に居た者らも笑い始める。こいつら……。等と思っている間にも天龍と艦娘の会話は続いていた。

 

 そんな中で、気になる話題で二人が話を締める。ネ級は耳に意識を集中する。

 

『お前らも気を付けろよ。ここ最近で結構な数が襲撃受けてるのは聞いてるだろ? ……こいつにも来るとしたら10件目だぜ。怪我人こそ数抑えちゃいるが、もう3隻沈められたってウワサもある』

 

『青マントのタ級だっけか。まあ心配すんなよ、それ見越してこっちはこんだけ数集めたんだからな、海育ちの助っ人((深海棲艦))も居る』

 

『そうかよ。まぁ、元気でな』

 

『お前もな、Гангут(ガングート)。じゃあな』

 

「…………青マント?」

 

「深海棲艦にも2つ名があるやばいのがいるってことです?」

 

「さあね。ちょっとレ級に聞いてみる?」

 

 会話に出てきた固有名詞に引っ掛かったネ級は、先程やったようにまたスマートフォンでレ級に話を振った。

 

《れっちゃんちょっといい? 「青マント」って知ってる?》

 

《? 聞き覚えがないです なんでしょう?》

 

《そういうあだ名のタ級が居るみたい 島暮らしの時に居た2番目とかで心当たりとかない?》

 

《申し訳ないです わからないですね。》

 

《そっか ありがと!》

 

 青マント、ね。覚えておこうか。タッチパネルを叩いて燃料や潤滑油の残量などを確認していると、引き継ぎを終えた天龍がこちらにやって来る。そしてようやく彼女は作戦の説明を始めた。

 

「そろそろ出るから簡単に説明するぞ。隊は2つに分ける。1個はここの防衛、もう1つは船の護衛だ。レ級はここに残れ。何かわかんねーことあったらそっちの那珂に聞け。いいな?」

 

「…………。」

 

「ネ級、お前はついてこい。仕事は単純だ、ずっと船と並走して壁になれ。もし敵が来たら俺らが飛び出して追っ払うから、「ソレ」((艤装))盾にして船を守れ。いいな?」

 

「承知しました。」

 

 盗み聞きした通り、だな。天龍に敬礼し、ネ級はそう思う。

 

 給油を済ませた船が発進する。追従するように、レスキュー隊を乗せた船と艦娘達が動き始める。ネ級はレ級に手を振りながら、今一度気を引き締めた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

『Bポイント通過、異常なーし』

 

『敵反応は無し。警戒を続けます。オーバー』

 

 たかが民間の船1つ。それを守るための物々しい護衛6人+救助隊の無線が飛び交う。

 

 九州勤めの艦娘はいつもこんな感じか、大変なんだな。左右レバーを互い違いに倒して艤装を旋回させながら、まるで他人事のように思う。

 

 なるべく早く人を運ぶため、昔よりも早い航路、速い船を使っているとのことだが、到着まで安全面から1時間はかかるという。忙しなく周囲を見渡す中で、出航から15分が経過することをネ級は液晶を見て確認した。

 

「何もなければいいのにね」

 

「警戒は続けるのれす。万一姫・鬼なんて出てきたら……」

 

「怖いこと言わないでったら」

 

 暇なことは良いことだ。そんなように妖精と会話している時だった。並走していた民間船から子供たちの声が届いてくる。

 

 「でっけー!」「かっこいー!」 小学生ぐらいの子らのそんな言葉が結構な頻度で聞こえてきて。複雑な心境にネ級は渋い表情をしながら苦笑いをする。私があまりそういう反応は貰うべきじゃ無いんだけどな……。少し迷ってから、彼女は仕方なく手を動かした。

 

 加減速レバーには引き金等のスイッチが沢山取り付けてあるが、とあるボタンを素早く2回押す。モニタに「巡航モード」と出たのを確認すると、ネ級は操縦幹を横に倒した。

 

 操作に従って艤装が動く。乗り物の右腕にあたる部分が大きなピースサインを作って船へと向ける。それにあわせてネ級はレバーから手を離し、子供たちに向けてひらひらと手のひらを振った。

 

「これでいい……かな?」

 

 わっ、と小さな歓声があがる。しかし楽しげな子供たちとは正反対の様子で船の奥の方で目を細くしてこちらを睨んでいる大人たちや、腕を組んで強い視線を飛ばしてくる救助隊員に背筋が寒くなる。

 

「ガラじゃないんだけどなぁこういうの」

 

「好きにしていいと思うのです。現にてんりゅーたちも何も言ってこないし」

 

「そうかな。ご機嫌取りでやったのにさぁ、これじゃまるで逆効果だよ」

 

 友人のレ級も遥か後方に置かれることになり、現時点では唯一心置きなく喋る事のできる妖精らが、尚も鈴谷の事を持ち上げて機嫌を取る。気を使われている事は勿論気づいていたネ級は、ため息をつきながら、無駄話混じりに前進を続ける。

 

 毎日の登下校がいつもこんな調子で、不安を溜めていたりしないのだろうか―― そんな思いからやった行動から更に数10分。航行中の艦隊に1つの不穏な事象が訪れた。

 

 唐突に海域全体に深い霧が立ち込めたのである。山の天気のように急激な気候の変化に、それを気にしてか部隊内のあちこちからの隊員の(ささや)く声を、ネ級は聞く。

 

『酷い濃霧だ。全員距離を詰めろ、視認できる距離まで近付いて安否確認できるようにな』

 

『あいさァ。しかしすげぇな……天気予報にこんなのあったっけか?』

 

『偵察機、増やしますか?』

 

『頼む。瑞鳳気を付けろよ。お前は大切な「目」だからな』

 

 随時飛び交う無線を飲み込む。旗艦の天龍に従って、少し前までは自分から離れた場所にいた摩耶と鳥海が視認できる距離まで後退してきた。

 

「霧か……さっきまで晴れてたのに」

 

『熱源反応! 隊長、どうしますか?』

 

「!」

 

 独り言を呟いた次に、鳥海が発した言葉がネ級に電気を流す。船を囲んでいたエスコート隊に一気に緊張が奔った。

 

『どこにいる?』

 

『座標送ります。でもなんでいきなりこんな』

 

『ここか。近くに島がなかったか? 待ち伏せって訳かよ……でも早く見つかって良かったぜ、俺とヘリオス2((防空棲姫))で突っ込む。エスコート4((瑞鳳))、援護しろ』

 

『はーい!』

 

『ネ級、絶対に船から離れるなよ。摩耶、鳥海、火力あるお前らがそいつを守ってやれ、良いな!』

 

『あいよ!』『了解!』「わかりました」

 

 敵の情報、自分だけ送られてこないなんて事にならないだろうか。ネ級はそう思っていたが、杞憂だった。流石に緊急事態のため、反応があった場所の情報が送られ、液晶に映し出される。

 

 強力な深海棲艦が味方に紛れているとはいえ、たった3人で行くのか? と思ったがデータを見て少し安心する。敵部隊の内訳は駆逐艦が3匹、軽巡洋艦が2匹。馴れた者なら1人でも相手になれるような軽い編成だ。

 

 ただ、保険をかけて心配するに越したことはないよな。そんなように思って、ネ級は船に接触しそうな程に艤装を近付けて並走させると。天龍が先を行った後に、摩耶から声をかけられた。

 

『エスコート6。聞こえるか?』

 

「はい」

 

『その場所、維持してろよ。お前は動かなくていい。ハエが(たか)ってきたらアタシと鳥海で撃ち落とす。自衛、あと盾になるのが役割だ。わかってるよな?』

 

「何度も言われましたから。大丈夫です」

 

『そーかい。聞き分けがいいのはいいな』

 

 フン、と鼻をならして機械を切る音が聞こえて、ネ級はため息をつく。もしもの戦闘に備えて、外していたシートベルトを締める。田代から貰っていたグローブを両手に()めたその時だった。

 

 敵の反応などなかった場所から、何発かの砲弾が飛んできて。(たぐ)(まれ)な動体視力でどうにか反応できたネ級は、全力で艤装を並行移動させ、体当たり的に船への着弾を防いだ。

 

 いち早くネ級の考えを読み取った妖精たちは発艦許可を取らずに離水する。ついで、北方棲姫経由で鹵獲されていた深海棲艦の飛行機も飛び立って行く。

 

「長距離砲撃!? 一体どこから……」

 

「鈴谷しゃん避けて! 次は右から来るのです!」

 

 霧で視界が遮られるなか、早速何かを見つけたらしい。猫艦戦に乗っていた妖精が叫ぶ。背後の船を気にしつつ、回避行動を取った。すぐにこの異常事態に対応するために摩耶と鳥海を探したが、霧のせいか、それとももう交戦中なのか、近くに姿がない。

 

(こ、こんな早くに取り残されてしまった……!)

 

 自分一人で船を守らなければいけないのか。ネ級は白い闇の中へ牽制に機銃を乱射しつつ、格納されていたマニュアルに書かれていたパスコードを操作に打ち込んだ。

 

『解除コード認証ーー優先目標を確認。防御姿勢に移行します』

 

 ガチャガチャと機械が動く音が響く。折り畳まれて収納されていた防弾板が展開され、それは乗り物の全面部分を守るような形状になった。

 

「やるだけやるしか、か。妖精さん、どこから飛んできたか細かいことはわかる?」

 

「不意を突かれてしまって……でも、大まかな方向なら」

 

「ありがと! ナビしてくれる?」

 

「あいあいさ!」「「「がってん!」」」

 

 運が良いのか悪いのか。この霧が船を隠してくれているうちに全部倒しきらないと。触手に固定していた副砲の安全装置を切り、私物としてずっと使っているサブマシンガンを小脇に抱える。

 

 精度こそ低く、直撃になることこそ無かったが遠距離からの砲撃が止まない。任務の都合上あまり派手に動くことも出来ず、悶々としながら角度をつけた艤装のシールドで攻撃を弾いていた時。

 

 ふと、敵反応を知らせる警報器が鳴る。また増援かと舌打ちして迎撃体制を取るが、現れた深海棲艦たちにネ級は変な表情になった。

 

「……? 撃ってこない?」

 

 上空から待機していた妖精らからも混乱の声があがる。多数の駆逐艦、軽巡洋艦が突っ込んできたが、攻撃してくる様子がないのである。理性のある個体か? と思うが、しかしそれでは背後から飛んでくる攻撃に合わせて突貫してきた理由がつかない。

 

 不思議に思いつつ、駆逐艦を数匹倒す。気になったネ級は、そのうちの1匹を乗り物の腕で捕まえて眺めた。

 

「なんだ……非武装で突っ込んできてる?」

 

『い、いみわからんのです! こやつら無防備なのです!』『『まるはだか!』』

 

 手の中で暴れる駆逐艦を連装砲で撃つ。不可解なことに、体当たり的に突撃してきたばかりか、この個体は武器らしいものを持っていなかった。

 

 そして更にネ級の思考を乱す出来事が起こる。駆逐イ級を撃ったとき。銀色の粒子状の何かが周囲に散乱した。

 

「……!? な、なに、粉……?」

 

 新雪が風に舞うように、霧の中で日光を反射する銀色の粒が大量に拡散される。明らかに血液や機械の部品ではないし、これは何だとネ級たちの混乱は加速した。

 

 それに合わせて、先程より姿を消した重巡洋艦の艦娘二人と連絡がつかず、いよいよキナ臭い状況になってきたとネ級は眉間にシワを寄せる。

 

「摩耶さん、鳥海さん? ダメだ、返事が来ない……」

 

『シールド損傷70%。被弾部位をパージします』

 

「……っぐ、きっつぅ……これもまだ続くかな……?」

 

 治ったばかりにムチ打つようで悪いけど、砲撃戦仕様から盾に積み替えたこの子で来て良かったって所か。断続的に続く攻撃を防ぎつつ、船への砲撃はシャットアウトできていたことに一先ず安堵する。

 

(前……ちょっと見辛いかな)

 

 田代から保険に受け取った仮面も、こう気の抜けない状況になると流石に邪魔に感じられて。やむ無くネ級は横にずらして顔を晒した。

 

(後ろで不安になっているだろう子供たちの精神衛生的にも、不審者みたいに思われないようにするにも、こうしていたほうがいっか。)

 

 視界が開けたことで死角が減る。先程は捌き損ねた攻撃も防ぎながら、なるべくネ級は楽観的に考えた。

 

「天龍さんたち、まだ来ない?」

 

「それが、なぜか通信障害があるのです。妙なノイズが酷すぎて無線ががが!」

 

「ノイズ? もしかしてECM((電波妨害装置))??」

 

「まさか、流石にそんなものを深海棲艦が使うわけが……」

 

 防御に専念しつつ、妖精らと喋っていると。唐突に背後から来た攻撃にネ級は艤装ごと揺すぶられる。考える間もなく、敵だろうとは思ったが、まさか遠くから撃ってきていたやつか?と旋回の速度を上げる。

 

 間髪入れずにまた違う方向から撃たれる。なぜかすぐ近くの船に当ててくる様子がないが、自分が狙われる分には好都合だと前向きに解釈した。

 

 しかし小回りに難のある装備だけに、回避に失敗しては損傷し、と繰り返す。このままでは(らち)があかない。そう思ったネ級は置いていた連装砲を手に取る。

 

「これじゃ後ろが見えないな……!」

 

 旋回性能の問題から何度も後ろに陣取られることに業を煮やしたネ級は、シートベルトを外して体の拘束を解く。その瞬間だった。

 

 警報装置の耳をつんざくような音が体に飛び込んでくる。顔をしかめながら警告表示を読む。何が書いてあったかを理解して、全身の血の気が引いた。

 

 いつの間に近付かれたのか。1体の深海棲艦がネ級の座っていたシートの真後ろに来ていた。

 

「トロイんじゃないの君ぃ?」

 

 相手が持っていた物を見て、全力でネ級は身をよじる。敵はアーミーナイフを両手で持ち、体重をかけて自分の脳天めがけて振り下ろす体勢に入っていた。

 

「いっ、がっ……!」

 

「アッハッ、ハハハハ! なんだよ、撃ち返してみろよ!」

 

 頭蓋骨を叩き割られる最悪の事態は回避したものの、左腕に深々とナイフが突き刺さる。すぐに相手を蹴り飛ばして距離を離すものの、そいつは涼しい顔で笑い声をあげて霧の中へと消えていった。

 

 震える手ですぐに刃物を引き抜くが、骨まで達する傷に満足に腕が動かなくなる。激しい痛みと焦りにネ級の額からは汗が止まらなくなった。

 

「なんだぁ、これで護衛が剥がれたと思ったらまだいたか。しかも深海棲艦だ」

 

「………!!」

 

 あっ……ぶない。大量の砲弾と爆弾を、妖精の操縦する猫艦戦が捨て身で弾き、残りはネ級自らが腕を振って逸らした事で船への直撃は回避する。そして濃霧の奥から、わざわざ再度接近してきて姿を晒した女に。その服装を見て、ネ級は表情を強張らせた。

 

「う~ん……」「落とされたぁ!」「ばたん きゅー……」

 

「みんな……! ごめん……こいつ!」

 

「ま、間違いないのれす!」

 

 鈍く黄色に光る眼球。先端に砲の付いた尾が何本もある。セーラー服のような上着に、下半身は水着のような格好で、最後にそいつは「蒼い外套」を羽織っていた。

 

 本能的な物で何となく察知した。間違いない。こいつが「青マント」か。鈴谷は瞬きせずに相手の行動を注視する。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「おいおい避けるなよぉ……お舟に穴が開いちまうぞぉ……?」

 

「……っ!」

 

 私は一体なにやってるんだ……! 1発、船を掠めた攻撃に、全身に鳥肌がたつ。

 

 先程背後から撃ってきた時とは変わって、レスキュー隊の船を無視して的確に民間の船ばかりを狙い撃ちする敵に、沸々と怒りが湧いてくる。悔しいことに、相手の言うとおりか。そう思った彼女は回避をやめ防御姿勢を取り直した。

 

「楽しい……楽しいな。こんなでかいのが居たか、それも活きもイイ!」

 

「があっ!? くっ……!」

 

「ははっ、いいねぇ! トロい癖によく動くじゃないか!」

 

 右に左、時折体を逆に傾かせてのフェイント。自在の体捌きで翻弄するタ級に必死に照準を合わせる。しかし致命傷になるような直撃は全て避けられ、ネ級は自分の力量で当てられる気がしなかった。

 

 速い、そして何よりも場慣れしているのか? 瑞雲に足した猫艦戦など、合計15機程の機体が、妖精たちの操縦で的確に機銃や爆弾をばら蒔くものの、その軌道すら読んで避ける。戦艦級の深海棲艦とは思えない女の身のこなしに、薄ら寒いものを感じた。

 

 そして何よりもネ級が不快に思ったのは、この敵が本気ではないのが理解できた事だった。貼り付けたような笑顔が取れる様子がなく、これだけの波状攻撃を仕掛けても息1つ乱していないのである。

 

 落ち着け、倒す必要はない。島まで送り届けるのが仕事なんだ、それに天龍たちが戻ってくる時間さえ稼げれば―― 必死に考えを巡らせる、その時。

 

 反撃に撃ってきたタ級の攻撃を、ネ級は艤装の腕で跳ね返した。そしてその「行き先」を目で追う。

 

「しまっ――――!!」

 

 弾いた弾道の先には航行中の船が居た。

 

「ほほ~♪ 大当りだぁ……」

 

「じょ、冗談じゃないやい!」

 

 なんてことだ。心中で一言、そう思った。弾き損ねた弾が1発船に当たったのである。おまけに誰か一人、海に落ちるのも見えた。

 

 何に変えても助けなければ――あんなのが居るときに放ってみろ、一体何をされる!? ネ級は妖精らに無茶ぶりを振る。

 

「妖精さん運転代わって!」

 

「ひゃい!?」

 

「早く!!」

 

「は、はいなのです!」「「「あいあいさ!」」」

 

 ネ級が妖精に指示を出しているのを聞いたパイロット達が高所から降りてくる。意図を察した彼らは、刺し違える覚悟でタ級の邪魔を始めた。

 

 仕事を引き受けた妖精が複数人がかりでペダルやレバーを動かすのを見てから、鈴谷は艤装伝いに海面すれすれまで近づく。

 

 この生き物の腕のような場所まで来ると、その手のひらに収まりながら、ネ級は妖精らへ叫んだ。

 

「今! 右に動かして!」

 

「「がってん!」」

 

 見えた、ここだ―― ネ級は全身に海水を被りながらも、瞬き1つせずにその瞳に人影を捉える。

 

 割れ物を扱うように優しく、それでいてしっかりとした力で落水していた子供を捕まえる。泣きじゃくっていた彼を、ネ級はそっと撫でながら落ち着かせた。

 

「大丈夫だった? 痛いところは無い?」

 

「ゔぅぅ、うぅぅ……」

 

「よしよし……よくガンバッた……!」

 

 良かった、まだ生きてたぁ……。

 

 死人でも出たらどうなったか。冷や汗を拭ったが、ネ級の事を敵は待ってはくれなかった。

 

『すずやざんっ!! 避けてぇ!!』

 

「!!」

 

 タ級の妨害を行っていた妖精からの叫び声を無線機が拾う。直後、背後から猛烈な弾幕が濁流のように押し寄せてきた。

 

 ダメだ、避けるな。避けたらこの子に当たるッ――――

 

「ぐうっ……ぅぅ!?」

 

 無茶だとわかっていても、やらずにはいられなかった。何かの破片にしがみついていた男の子の体をしっかりと抱き締めて、敵の攻撃を全て自分の体と装備で受け止める。

 

「うぅ、ううえぇぇ……!」

 

「泣かないで……ほら、大丈夫、だからね……お姉ちゃんが居るから……!」

 

「うぅ、ぅぅ…………」

 

「よしよし、いーこいーこ。偉いね、もう少しの辛抱だからッ!」

 

 男の子の体を触手で巻き抱える。急いで操縦席まで戻ると、操舵を妖精と交代した。

 

 拘束装置を外したせいで、何度も艤装から振り落とされそうになる。ネ級は両足で踏ん張り、触手の口をレバーや手すりに噛み付かせてなんとか席に留まった。

 

 焦る気持ちを抑えながら、しかし痛みに震える手でネ級は機械を操作する。自動操縦のプログラムを入れると、彼女はレバーを両方とも目一杯引っ張りブレーキをかけ、速度が落ちたのを見計らって飛び降りた。

 

 定点防衛の設定が入っていた鬼級艤装は、ロケットや対空・対艦等の各種砲弾をルーチンに従ってばら蒔きつつ、船の前に立ち塞がってその図体を活かして壁となる。どうにか彼(彼女?)の助力で敵に対応する者の頭数を増やせたネ級は、一目散に先に行った船を追い掛けた。

 

 小さく煙を吹いている船の後ろに、並走して盾になっていた救助船を目視する。そのデッキから梯子を伸ばしていたレスキュー隊員の方へと急いだ。

 

「早く! こっちだ!」

 

「君、しっかり掴まってて!」

 

 なんとか寸でのところで縄梯子の先端を引っ掴み、それを手繰(たぐ)って船に乗り込む。振り向いて後ろを見れば、艤装が自動操縦で応戦してくれている。

 

 が、さすがに1匹の味方だけでは無理があったか。例のタ級ではないが、一体の敵がこちらに接近してくるのが見えた。

 

「っ、こんなときにっ!」

 

 再度両手で男の子をやんわりと抱き締める。ネ級は舌打ちしながら、触手を1本向け、迎撃しようとすると。

 

 救助隊の船から、砲撃の音が聞こえた。なんだと?と思った次には、正確な射撃によって放たれた弾が自分のすぐ近くにいたホ級の顔面を捉え、その体を吹き飛ばした。

 

「な、なんかよくわからないけど……!」

 

 何が起きたかわからなかかったが、船の上に上がる。救助隊員に助けた子供を預けながら、今のは何かと聞こうと隊員らに話そうとする。が、口は動かなかった。

 

 視界の隅、デッキのぎりぎりまで体を寄せて、立ち膝をつき艦娘用の武器を構えていた女が居た。

 

 砲口から白煙が出ているのを見て、今しがた援護してくれたのは彼女かとネ級ははっとする。こちらの表情を伺うように、彼女は呟いた。

 

「天龍さんの読み、当たった。弥生(やよい)、伏せてて良かった」

 

「!」

 

 ゆっくりと立ち上がってオレンジ色の雨合羽のフードをめくり、女が顔を出す。髪を青紫色に染めた彼女は自分を弥生と言ったが、見たところ駆逐艦の艦娘らしかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「隊長、奇襲、警戒してた。だから、何人か、この船で待つように言ってた」

 

「そうか……流石ですね。あの人は」

 

「そんなことはいい、です……早く敵を引き付けよう」

 

「わかりました。あの、海に落ちたのはこの子だけでしたか? 他にもいるなら早くしないと」

 

「私は見てない、です」

 

「そうですか、ありがとうございます!」

 

 奇襲による被害を抑えるために乱射で弾を減らしたネ級は、弥生から予備の弾薬を受け取る。

 

 乗り物生物クンに妖精たち。彼ら彼女らが必死に応戦しているのが、霧の中からの爆発の光や音でよくわかる。早く戻らないと。ネ級の中で焦りが大きくなる。

 

「ふぅーっ、ふぅーーーっ!」

 

 タ級の不意打ちで食らったナイフ傷の出血を強引に止めるために。ネ級は息を止めて、患部が鬱血(うっけつ)するような力で包帯を締める。見かねた弥生が心配の声をかけた。

 

「そ、そんなことしたら」

 

「いい、んだ。ちゃっちゃとやっつければ済む話なんだから」

 

 予想した通り、傷はかなり深く。応急とはいえ止血したにも関わらず、じんわりと出血が続く。腕全体の痺れに渋い顔をしつつ、ネ級は更に力の入らない手と持ってきていた槍とを縛り付けて固定した。

 

「私が単独で引き付けます。全開フルスロットルで離れてください」

 

「えっ? わ、私も一緒に……1人じゃ……」

 

最初(ハナ)から盾になるのが役目です。こんなときだし、誰かが踏ん張らないとみんな死んじゃうよ! ……それにやってみなきゃわからないって」

 

 それに貴女達が居てくれた方がみんな安心するでしょ? ネ級の言葉に、弥生は反論を封じられる。

 

 渋々この深海棲艦の言うことを飲み。弥生は、悪あがきの代わりにこんな事を呟いた。

 

「……っ、あの敵、完全に撃沈して。じゃなきゃあなたが連れてきたあの子も、レスキューさんも安心できないから」

 

「…………。私を信じて。」

 

 一際大きく、海上で爆発が起きる。いよいよ足止めに専念してくれている友人たちも限界か。そう思ったネ級は覚悟を決めて船から降りた。

 

 ほんの気持ち、霧が薄くなる。船に付きっきりの護衛が居たことから、今度は逆に囮になるべく、ネ級はぐんぐん船から離れる。

 

 果たして先程まで戦っていた場所まで戻ると、満身創痍に近い状態の艤装が見えた。たったあれだけの時間でコレか。ネ級は舌打ちする。

 

「お前の相手は……」

 

 へらへらと、個人的に気に食わない顔をしていた敵へ砲身を合わせた。

 

「私だ!!」

 

 続けて、破損した銃のバレルを投げつけて意識をズラす。少し驚いていた相手に、お構い無しに大量の火薬を送り付けた。

 

 普通ならこれで終わる事だが。武器のマガジン交換をしながら、ネ級は爆風が晴れるのを待つ。

 

 やはり、ただ者ではないのだろう。予想通りのへらへら笑顔でダメージを抑えていたタ級は、表情を崩さずに(のたま)い始めた。

 

「運が()いなぁ、今日は上物に会えたんだぁ♪ タイクツな日々に色がついていく……」

 

「いーえ、良くなんてないね」

 

「うーん?」

 

 不服そうな顔をした女へ、明確な敵意を剥き出しにしながら鈴谷は言う。

 

「とても、それはそれは不運な日にしたげるよ。あんたみたいなキチガイ、私がやっつけてやる!!」

 

「なんだぁ、怖いこといっちゃってまぁ……」

 

 ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべ、文字通り目を輝かせてタ級がゆっくりと歩いてくる。ネ級は血の滲む腕を根性で持ち上げ、空いた片手に砲を持った。

 

 正眼に構えた切っ先と、銃身をまっすぐに敵の体に合わせる。

 

「狙えよこっちを……! 相手になってやる!」

 

 鈴谷は触手の副砲も起動し、敵を迎え撃った。

 

 

 

 

 




相変わらず酷い目にあう鈴谷さんやいかに
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