職業=深海棲艦   作:オラクルMk-II

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おまんたせ 

活動報告にて今後のストーリーについての簡単なアンケートを取っています。期限などは設けていませんので、暇な方は参加して頂けると助かります。


29 私は片目が見えないんだ

 

 

 非番の日、というのは前は酷く退屈だった。だけれども、こうやってやれることが増えたのは良いことだな。夜中にガレージに(こも)り、妖精らと艤装を触っている折、そんなことをネ級は考える。

 

 時間の経過とは早く、ネ級とレ級が鎮守府に入ってもう3週間が経つ。過去の実績が助けるレ級はともかく、槍働きに加え、掃除や備品の整理と、地味な事でも周囲から点を稼いでいたネ級は、すっかり周りから敵視されるような事はなくなった。

 

 やっと気を使いすぎるような日々からも解放されるかな――分厚い整備書を眺めながらボルトナットを緩め、そんなことを考えていると。妖精らから声をかけられる。

 

「鈴谷しゃんは本当に勉強熱心なのれす。非番の日ぐらい、ねぼすけぐーぐーでも誰も文句言わないのに」

 

「ただでさえ煙たがれるようなカッコでしょ私。働いてるフリ働いてるフリ」

 

「フリ、なんて言葉で片付けられる行動じゃ無いのです。こんなの立派な自主トレなのです」

 

「まぁ、さ。少しずつでも、やれることを増やさないと。ね?」

 

 グリスを()しオイル交換が終わった装備を保管場所に戻す。続いて彼女は、妖精らが手書きで作ったぶ厚い本を手に取る。

 

「さて、と。で、なんだっけ? また新しいこと教えてくれるんだよね」

 

「そーなのです。鈴谷さんは、自分の艤装が改造で軽空母の装備に出来るのは知ってるのです?」

 

「一応ね。火力落ちるし、みんなに指示出すの苦手だからやるつもりは無いけど」

 

「オーケーなのです。んーんとー、だから、鈴谷さんには多少なり、空母の艤装の適正があることになるのです。今から出すのは、一部の空母の方が使う裏技なのです」

 

「裏技?」

 

 なんだろうかそれは。気になりつつ、小人達の指示に従った。

 

 艤装に使われている特殊な鋼材が使用されているという筆と、一般に市販されているような墨、そして廃棄予定の軽巡洋艦の装備を用意する。意味がわからない組み合わせだが、戦闘に役立つ技術を教えてくれるという。

 

 理由がわからないまま、ネ級は視認しづらい程の細目のワイヤーが繋がった武器を腕に巻き付ける。次に、糸と腕を捲き込むように、妖精の説明にそって魔方陣のような絵を描いた。

 

「これで……っ!?」

 

「ばっちぐー、なのです!」

 

 思わず驚くような変化が起こった。描いた模様が一瞬鈍く光り、自分の腕の中に武器が吸い込まれていったのだ。

 

 流石に少し動揺する。しかし特に異物感等はないし、変な違和感も無い。強いて言えば、気のせいかと言える程度に肘から先が重くなった気がするぐらいか。

 

「すごー! なにこれ?」

 

「軽空母艦娘の知恵なのれす。巻物みたいなものから何か召喚する艦娘を見たことないれす?」

 

「あぁ! あれってこうやって格納してたんだ。でも普通の武器でも出来るんだ?」

 

「なのです。でもでもふつーの艦娘しゃんはこうやって使いこなすのは難しいのです」

 

「そうなの?」

 

「格納した装備の半分の重量がそのままのし掛かっちゃうのです。ましてや腕なんかに入れたら取り回しがががが……。深海棲艦ぱわーが活かせる鈴谷しゃんの専売特許なのです」

 

「なるほど、ね」

 

 わざわざ自分のために知恵を使ってくれた妖精に。感謝しつつ、鈴谷は質問を投げる。

 

「……所でこれ、使うときはどうするの?」

 

「とってもカンタンなのれす。ちょっぴり、絵を描いた場所を傷つけるのれす」

 

 へぇ? そんな生返事を返しながらネ級は作業着からカッターナイフを取り出す。

 

 入れ墨のように印をつけた部分に、ゆっくりと刃を押し当てて、薄く血が滲む程度に傷をつけた。すると、ポンッ、と軽い音と共にその部分が煙に包まれる。もやが晴れたときには、手には糸で繋がれた主砲が握られていた。

 

「ほぉ~う!? こりゃすごい!」

 

「あまり誰も使わない技術なのれす。敵ならとーぜん、意表なんか簡単に突けるのれす」

 

「便利だねこれ、まるで忍者か何かみたい」

 

 手数ってのは多いに超したことは無いものな……。毎度、大量に弾丸や軽量の武装を持ち込んで弾幕を張るような戦いをする自分には合いそうだな。そんなように考えていると、「ただ……」と、何かばつの悪そうな顔で妖精が呟く。

 

「?」

 

「1つだけ欠点があったのを忘れてたのれす……」

 

「なぁに?」

 

「糸を巻くと、先っちょが仕舞った場所に埋まっちゃうのです」

 

 ……なぬ? ネ級は握っていた物を机に置き、巻かさっていたものをほどいていく。なるほど、彼ら彼女の言う通り、ワイヤーの終わりの部分が腕に埋まっており、引っ張ると皮膚まで持ちがった。

 

「これは……っと……(いつ)ぅ……」

 

 無理矢理糸を引っ張るとそのまま抜けた。注射針でも刺さったような軽い痛みと、血こそ出なかったが痕が残る。

 

「ごめんなさい」

 

「あぁ、いや、別にさ。いいよ、こんぐらい」

 

「ふぇ?」

 

「いつもボカスカ敵に殴られてるモンネ、こんなの痛いの内に入んないよ。それよりさ、ありがと! いーこと教えてくれて!!」

 

「鈴谷しゃん……」

 

 悪いことをしたと思っているのか、泣き顔になっていた妖精を指で撫でているときだった。

 

 備品が積まれて狭いこの部屋の入り口の方から物音が聞こえて、ネ級は顔の向きを変える。誰かと思えば、何だか浮かない顔をしたレ級だった。

 

「レっちゃん? どうしたのこんな時間に」

 

「…………………」

 

 いつもは薄ら笑みを浮かべて穏やかな表情なのに、どういうわけか、今の彼女はムスッとしていた。見るからに機嫌が悪そうなレ級は、持っていたマグカップの1つをネ級の机に置くと、適当な場所に座る。もう1つを口に含みながら、彼女は筆を走らせて筆談を始める。

 

「ありがと。どうしたの、なんか機嫌が悪そうだけど。珍しい」

 

『さっき男性と間違われたんです』

 

「はい?」

 

 何が?? 頭の混乱したネ級へレ級は文字を書く速度を早める。

 

『いつも通り、暇を持て余して廊下で本を読んでいたんです。そうしたら出入りの業者の方に「キャー!!」って言われて』

 

「それで?」

 

『イケメン……あっ、女性の方!?って。失礼じゃないですか? いきなり廊下でそんなこと』

 

 ふふっ、と笑ってしまいそうになる。咄嗟に出掛けた鼻笑いをネ級は押し殺した。

 

 まぁなんと言うか。見ようと思えば確かに顔立ちは整っているから美男子に見えなくもない……か??? 私にはどう見ても女の子に見えるがね。そんなようにネ級は考える。

 

 作業を続けながら、レ級が持ってきたカフェオレを飲む。ぬるめの温度だったが、猫舌なネ級には丁度良く感じられた。

 

 置いていたラジオの音楽にたまに耳を傾けたり、読書中のレ級をチラ見したりなどとネ級は静かな時間を過ごす。そんな折、またもう一人、深夜の工厰に訪れる。物音に二人が顔をあげると、そこにいたのは秋月((防空棲姫))だった。

 

「あ……ここにいたんだ、ネ級。それにレ級も」

 

「こんばんわ。どうかしました?」

 

「………………。」

 

 別々のタイミングで二人は壁掛け時計に目をやる。時刻は午前1時を回っている。確か今日はこの人は警備ではなかったはず。よくもまぁ、こんな時間に会いに来たな? 多少違いはあれど、深夜の来客に深海棲艦らはそんなように不思議に思った。

 

 「ちょっと、お話がしたくて。」 神妙な面持ちで防空が言う。丁度、やることも一段落したネ級は、机の上で寝ていた妖精にハンカチを掛けて相手に身体を向ける。レ級はというと、雰囲気から自分には用がなさそうだと判断したのか、その場から立ち去った。

 

「なぁに、そんな改まって」

 

 そういえば、面と向かってじっくり話すような事は初めてに近いな。ネ級が思う。防空棲姫は、どうにも複雑な顔で会話の口火を切った。

 

「貴女は自分が好き? 愛して、いるの? その答えが聞きたい」

 

「……。まぁ、取り合えず座りなよ。そこに椅子あるし」

 

「……………うん」

 

「えらい哲学的なこと聞いてきたね。別にいーけど」

 

 変わった質問だな。特段驚くこともなく、鈴谷は少しだけ考えてから続ける。

 

「…………なんて、言おうかな……」

 

「………答えられないなら、」

 

「好きに決まってるじゃん。……私を信用して………。愛してくれる人がいるから、私は自分を愛してる……と、思いたい!」

 

 熊野。那智、浜波、蒼龍に、木曾と長門や満潮に提督。さっきまで居たレ級、南方棲姫……は違うか。それに、直海や父や中枢棲姫。自分を「愛してくれている」とはおこがましいだろうか。でも、好意を抱いてくれているのは間違いない筈だから……。そう思っての返事だった。防空は、自分の発言を遮り気味にネ級から放たれたその言葉に、顔を強張らせる。

 

「持論になっちゃうんだけど、聞いてもらえる?」

 

「えぇ。」

 

「自分を(かえり)みれない……好きになれない人が、他人を愛することはできないと思う。秋月さんはどうでしょうか」

 

 深く考えてなどいなかった。気心の知れた相手ではないが――少なくとも「敵」じゃない相手。だから、リラックスできる。そんな状態だからネ級の口からすんなりと出てきた……――と、言うことを。防空棲姫は読心能力でそれとなく把握した。

 

「あぁ……」

 

「?」

 

 目頭と鼻の辺りが痛くなる。本当に、本当にこの人は……私を敵だなんて欠片も思っていなかったんだな。対面の女が涙を(こら)えてそう思っているなど知らず、ネ級は唐突に顔を下げた防空を心配する。

 

 数秒ほどの間を挟む。秋月は言った。

 

「…………。自分のこと、か……大好き…………あなたのお陰で、好きになれたよ。……あなたと同じ。こんな私を好きでいてくれる人がきっと居るから、かな」

 

「……そっか。なら良かった。私の返事は満足できました?」

 

「大満足。ありがとう、じゃぁ、おやすみ」

 

 何かあったんだろうか。でも、解決したみたいだ。真顔のままだったが、どこか雰囲気が穏やかになった防空棲姫に鈴谷はそう思う。

 

 

 

 数分の会話を終えて防空は自分の寝室へと廊下を歩いていた時。先程部屋から出ていった筈のレ級とばったり出くわした。

 

「あっ……」

 

「……………」

 

 ネ級以上に面識の無い相手に。適当に会釈して立ち去ろうとした。が、歩き始めようとした彼女を、レ級はゆっくりとマグカップを持った手で塞ぐ。

 

「??」

 

 何だ? そう思った防空へ、レ級は物を持った肘に手帳を挟みながら、器用に字を綴って相手に見せた。

 

『話が長引くと思って用意したんです いらなかったですか』

 

「えっ」

 

『それともカフェオレは苦手でしたか それならこちらで処理します』

 

 ……………………。はああぁぁぁ。防空は心中で特大のため息を()いた。レ級の差し出してきた手に握られたコップを受け取り、口を開く。

 

「ありがとう。コップは後で洗って返しておくから」

 

「…………………。」

 

 不自然ではないだろうか。そう思いながら笑顔を作って言う。レ級は手を振ってから、工厰のほうへと歩いていった。

 

 自分の思っているほど。「敵」なんて者は、実際はそれほど居ないのかもしれないな。

 

 (ぬく)い飲み物の熱が、じんわりと身体中に浸透するような感覚を覚える。両目を涙で潤わせながら、防空棲姫は自分の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「内偵の手伝い、それを私に??」

 

「うん。お願い! 一人じゃあまり情報が集まらなくて……」

 

 深夜に言葉を交わしたときから(およ)そ半日後ぐらいの時分か。昼寝から目が覚めて庭の掃除をしていたネ級へ、防空棲姫は協力を願い出てきた。

 

 前までは淡泊というか、どこか距離を置かれていた気がしたのに。なんだろう、最近妙にフレンドリィだな? 自分の頭の中を目の前に居る女に覗かれていたことなど知る(よし)もなく。不思議に思いつつも、ネ級は返答する。

 

「別にいいけど……いいの?」

 

「やった――って、え? 何が?」

 

「私なんか信用できるの? どっちかって言うと立場が艦娘よりなのに。貴女は海の人((2番目に近い))なんでしょう?」

 

 夢に侵入してから、防空棲姫の中にネ級(鈴谷)への疑念など綺麗さっぱり消えていたが。実のところ、ネ級の方はといえば、彼女は防空棲姫の事がそれほど好きとは言えなかった。そんな心境が返答に現れる。

 

 というのも彼女は始め、ネ級へ「人間と敵対している」というニュアンスを含めたような事を言っていた。それが、鈴谷の無意識に引っ掛かりを与えていたことが大きかった。

 

「…………………っ」

 

「それにあまり言いたかないけどさ。ヲリビーとか、他に連絡取れる人、居たりしない? そういう人の方が適任だと思う。」

 

 自分の苦手な女に。遠回しに、「自分は辞退させてもらう」と伝えた。

 

 深夜の相談についてもそうだったが。予想外の返事が返ってくる。

 

「……助けて、ほしいの」

 

「!!」

 

 最初にあったときや、戦闘中の余裕そうな彼女とは似ても似つかない。防空棲姫は泣きそうな顔に、弱々しい声を添えて続けた。

 

「前世って……貴女は信じる?」

 

「……………まぁたセンチな。そうだね~私は信じるかな」

 

「あはは、そっか……どっかで会ったことがある気がするんだ。あの二人は……」

 

「離島棲姫に、港湾棲姫だったっけ。デジャビュってやつ?」

 

「そう、かも、しれない……泊地から頼まれてこんなことしてるけど……二人の写真を見たとき、ズキーンて頭が痛くなって……映像みたいなのが脳裏に流れて」

 

「それが確かめたくて二人に会いたいんですか?」

 

「それもある。でも、私はあの二人を助けなきゃいけない……そんな気がするの」

 

 前世、かい。ネ級は数ヵ月前、自分がまだ人間だった頃を思い出す。

 

 潤んでいた防空棲姫の瞳から涙が溢れて頬を伝う。それをネ級はいつも常備しているハンカチで拭い。口を開いた。

 

「自分で言うのは自画自賛みたいでなんだか嫌だね」

 

「へ??」

 

「私お人好しで(とお)ってるからさ……そんな顔見せられたら断れないじゃんか」

 

 口許を(ほころ)ばせながら言う。返答に満足したのか、防空棲姫はパッと表情を明るくした。

 

「ありがとう……ありがとう……! ダメだな私……この間の作戦だって、昨日にしたって貴女に助けてもらって」

 

「……? どうしたの最近。なんだか躁鬱(そううつ)みたいな」

 

「ううん、なんでもない……人の優しさって、暖かいんだなって……」

 

「???」

 

 本当に大丈夫かこの子は? そう思っていると、防空棲姫から今度は質問が飛んできた。

 

「ねぇ、ネ級。どうして貴女と話すと心が安らぐのかな……貴女の優しさは、どこから来てるんだろ?」

 

「ふぁ~……また答えにくそうな事聞いてきましたな」

 

「ふふ、ごめん……」

 

「まぁ良いけどさ」

 

 持っていたジョウロでその辺りの草花に水をやりつつ、ネ級は何の気なしに答える。

 

「打算で動いてるだけだよ。誉められたもんなんかじゃない。人に優しくすれば、いつか返ってくるって思ってるだけ」

 

「………………そっか」

 

「後はその……何だろうね。」

 

 ちょっと困るような質問してきたんだ、逆に困らせてやるか!

 

 ネ級のいたずら心に火が入る。仮面を外して前髪をずらし、彼女は防空棲姫と顔を合わせてじっと視線を飛ばす。

 

「私の目を見て」

 

「…………!」

 

「前に怪我して右目はもう見えてません。…………私はそれから右の目で過去を見て、左の目で今を見ていた……つもりです」

 

 神妙な面持ちを装って相手にふっかけると。互い違いの色の瞳に、多少、というのを飛び越え、「かなり」防空棲姫は動揺しているようにネ級には見えた。

 

「なんの……話なのさ」

 

「聞きたかったんでしょう。私の昔のことが」

 

「…………うん」

 

「ふふふ。じゃ、続けようか」

 

 乗ってきたな。口撃開始だ。ネ級は笑いながら口を開く。このとき、いつも彼女の肩に座っていた妖精の一人からは意図を察されたのか、白い目で見られていたが、気にしない事にした。

 

「テロか何か、結局なんだったのか解らずじまいだけど……まだ右目が見えてた頃に、目の前で沢山人が殺されていくのを見た。辺り一面焼け野原で、建物の焼ける嫌な匂いが充満していて……その時に、私は女の子を一人だけ助けてあげる事ができた」

 

「…………!!」

 

「でも、その子だけだった。その子の親を、母親を、私は見殺しにしてしまった。あろうことか、その子の目の前で」

 

 後ろ髪を縛るのに使っていた髪留めを外して眺める。チリリ、と、てんとう虫の形の鈴がなる。

 

「覚めない夢でも見てるみたいだった」

 

 いつの間にか、冗談でやってるということを忘れる。うつむき加減で、睨みつけるような表情で花壇の方を見ながら、静かにネ級は続けた。

 

「………………。」

 

「なんだかこの世のことが酷く曖昧(あいまい)に感じられたよ。ひょっとしたらこの地獄みたいな光景は夢なんじゃないか? 立ち塞がってきた奴らをなぎ倒して女の子を抱えて逃げた。そんな中でも、私はそんなこと考えてた」

 

「その……それ、で…………?」

 

「何も考えずに走った、かな。安全なところへ……そんな場所があるかもわからなければ、保証もないのに探して逃げた。夢なら覚めて欲しかった――――」

 

 段々と様子がおかしくなっていく鈴谷を見かねて妖精が声をかける……のに少し被せるように、彼女は防空へ顔を向けて呟いた。

 

「でも醒めちゃってた。そんな白昼夢みたいなボッとしたボケた思考は」

 

「……………うん。」

 

「右の目が見えなくなって……いつの間にかに覚めてしまってた。逃げた先で野宿して、次の日にとなりで女の子が寝てたから。あぁ、これは現実なんだ……って」

 

 深呼吸をひとつ。挟んでから、息を整えてネ級は言う。

 

「私が助けた……助けて「しまった」命だから。この子は守らなければいけない。そう思った」

 

「…………………」

 

「でもそうはならなかったんだよ。私の方こそ……助けてもらった。私は深海棲艦だから。陸で人目についたらいけない、そう言って海に逃してくれた友達がたくさん居た。今、その子はその連中に預けてる。」

 

「信用、してるんだね。その人たちのこと」

 

「さぁね。でも大丈夫なはず。って自分を納得させてる。」

 

 形容しがたい、笑顔なのだが……どことなく影を感じる表情で、彼女は防空に続けた。

 

「私は色んな人の手助けをした……はず。それ以上に、私自身は今まで数え切れない人等から助けてもらって生きてきた。だから……」

 

 植え込みのカスミソウに混じっていた、雑草のタンポポの花を抜き。ネ級は言った。

 

「そんな気持ちのただの自己満足で、勝手な罪滅ぼし。どれだけ悔やんだって過去なんてどうにもできない。だから今を生きる人の手助けを精一杯勝手にやってる。それだけのくだらないこと。」

 

「くだらなくなんてない!!」

 

 びくり、とネ級と妖精らは体を震わせた。いきなり声を張り上げて反論した防空棲姫は、泣きながら喋り始める。

 

「自分を卑下(ひげ)しすぎなんだよ……立派だよ……凄いことなんだよ……貴女のやっていることはッ!!」

 

「いや、そんな」

 

「もし本当に貴女のやってきた事らが真実だったとして! それを聞いて! なお貴女をコケにするような奴がいたなら、私がそんなやつら蹴散らして回ってやる!!」

 

 ま、まずい。何か変なスイッチが入ったぞ! 言っていたこととは裏腹に、実はそこまで悲観的になっていた訳でも無い鈴谷は焦る。付き人の妖精たちもまた、突然熱を帯び出した防空棲姫を見て冷や汗を流した。

 

「変な質問のせいで……嫌なことっ……思い、ださせて……!!」

 

「い、いや別に?」

 

「サイテーだ、私は…………!!」

 

 前に覗き見た夢の中の世界を防空は思い出す。自分なんかが口に出すのもおこがましいと思える死線をくぐり抜けてきた彼女だ、絶対に冗談じゃない、全部事実だし、妙な詮索(せんさく)をしてほじくり出した自分が恥ずかしい――――等と深刻に思われている事などもちろん知らず。ネ級は大慌てで彼女をなだめる。

 

「そんなね、あんまり言いたかない辛い事なんて誰彼構わず、大小は有るもんだろうしさ、ましてや私のはそんな……」

 

「………………る。からっ……!!」

 

「……? なんて」

 

「貴女は私が死なせない………!! 絶対に守り抜いて見せるから…………!!」

 

 先ほどと同じか。それ以上にも聞こえた大きな声での宣言に、ネ級+その他大勢が上体をそれとなく仰け反らせる。

 

 流石にちょっとやりすぎたか…………? ほんの出来心でやった行動が、対面する女を強烈に焚きつかせる結果になったことに。ネ級は後悔していた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 鈴谷としては印象的だった防空棲姫との問答から数日が経過する。

 

 別段、これといって特別と言えるほど親しいわけでも無かったが、あれ程の熱量で頼まれると、流石に無碍(むげ)にする理由もなく。それとなく、不審がられない程度にネ級は内偵を開始していた。

 

 この鎮守府に来て1月は経っている……が、逆に言えばそれしか経過していない期間しか居ないネ級は、腕前こそ評価されているが部隊では新人も良い所である。加えてルーティンワークで特定の場所の掃除や花の手入れなどで時間を取られていたため、実はあまり詳しくはこの建物の内情を知らないでいたのだが、彼女は逆にこれを活用する。

 

 出入りの業者への対応や、掃除·管理できる備品の数を増やしたい。そんな口実で、それとなく周囲の艦娘から建物の間取りや部屋割、どこに何が置いてあるか、等を細かく聞いてリスト化していく……というのが、ここ数日間でのネ級の仕事になっていた。

 

「どうも。日用品はここに詰め込めばいいんですね」

 

「そ。あとは当番の子が勝手に持ってくから適当に積んどいて〜」

 

「わざわざ時間を割いてお答えいただき、ありがとうございます。」

 

「いーよ〜暇だし。ほんと真面目だねぇ〜お前さんはね〜」

 

 質問に答え終わると、あくびをしながら手を振って去っていく艦娘に。仮面の下で目を細めながら、ネ級は今までの聞き込みから出来上がったデータを眺める。

 

 これといって特徴なんてない。強いて言えば、倉庫みたいな部屋が多くて、自分が元いた場所よりはでかい鎮守府……なんてのは来たときからわかりきってた事実なんだよなぁ……。手帳の文字の羅列にがっくりと肩を落とす。

 

 防空棲姫は鎮守府外に目を向け、周辺の町や海などにアンテナを張っている。ならば自分は、逆にこの鎮守府の中に二人が囚われている可能性は無いのか? とあえてこの場所に探りを入れていた……が、結果は著しくないというのが現状だった。

 

 廊下のソファに座ってため息を吐いていると。建物内の調査を頼んでいた妖精の一人が瑞雲に乗って戻ってきた。それに気付いた彼女が手を伸ばすと、腕を滑走路にして着地した飛行機からパイロットが降りる。

 

「はぁ……怪しいやつのへそくりでもなんでも見つからないもんかね」

 

「今日のてーさつかんりょー、なのです」

 

「おかえり。何かあった?」

 

「工廠と武器庫に探りを入れたのれす……れす……」

 

「………そっか。ありがと、ゆっくりお休み」

 

「ふあぁ……お言葉に甘えるのれす……ぬふぅ…………」

 

 何も見つからなかった、と。ニュアンスから察したネ級は、徹夜して作業してくれた彼を自分の触手に乗り物ごと格納する。

 

 日々の仕事と並行してやってるとはいえ、1週間も続けて全くと言っていいほど何も出て来ないとなると、いよいよ不安になる。こっちも防空棲姫のやり方に乗っかったほうが良いのか? 自分のやり方に疑問を持って悩み始めていた時だった。

 

 今度は窓のカーテンを伝って、別の妖精が戻ってくる。着けヒゲの特徴的な彼は、どこか落ち着かない様子だった。

 

「あわわわわ……と、とんでもない物を見てしまったのです……」

 

「…………!! まさか何かあった?」

 

「そそ、そ……それがっ……」

 

「わしが変わりに話すのれふ。鈴谷しゃん」

 

 何か見つけたらしいが、よほど凄まじい「何か」だったらしい。要領を得ない彼の代わりに、鎧武者姿の妖精が口を開いた。

 

「近くに誰もいないれふ……?」

 

「えぇ……今は大丈夫そうね。心配ならこっち来る?」

 

 盗み聞きされたくないのなら耳元に来れば? と提案した。が、後からわらわらと合流してきた彼らは、聞かれる心配が無いなら問題ないと、そのままネ級の手のひらの上で話を始めた。

 

「簡潔にいうのれふ。2体の深海棲艦を発見したのれふ」

 

「うっそぉ!? マジぃ??」

 

 思いの(ほか)早く見つかったな!? 妖精たちの抜け目ない仕事ぶりに舌を巻きながら。ネ級は小人の群れに尋ねる。

 

「どーゆーところで見つかったわけ? 秘密基地? 研究所? それとも牢屋みたいな」

 

「全部正解なのれふ。場所はここ、なのれふ」

 

「どこよここ……って」

 

 えっ―――。 思わず生返事が漏れる。

 

 妖精たちが見せてきた写真付きのメモ書きに示された場所は、いま、自分がいる場所。すなわちこの鎮守府の「地下」だった。

 

「なーるほど、どうりで秋月が見つけられなかったわけか。灯台下暗しとはよくいったもんだね」

 

「なんだか不自然に荷物がぎゅうぎゅう詰めの倉庫部屋があったのです。こっそり荷札を見たらどれも賞味期限どころか3、4年も置きっぱなしの食品類! 腐った物ばかりで雑に蓋された場所に入り口があったのです」

 

「うぅわぁ、荷崩れしたらやばい香りがしそうねその部屋。」

 

 冗談混じりに、しかし顔は真剣な様子でネ級は続ける。

 

「二人の他に何か見つかった? こう、コナン君の敵組織みたいな奴らがいた!とか」

 

「黒づくめは居なかったですがビンゴだったのです。ホラ、二人の姿が」

 

 時間がない中での隠し撮りのためか、画質が荒い写真を数枚見させられる。しかしなるほど、どういうわけか資料と服装が違うが、目標の港湾棲姫と離島棲姫の姿が確認できた。

 

「なんで二人ともパーカー姿……ってあれ、離島棲姫のほうは片足がない? もともとかな?」

 

「拷問されたのです!」

 

「まさか。だってほら、別に辛そうにしてるようには見えないけどなぁ?」

 

 渡されたうちの1枚をひらひらと小人たちに晒す。そこに写る離島棲姫は、松葉杖を立て掛けたテーブル席に座り、あくびをしながら読書をしていた。そもそも痛めつけられているのならこんな余裕そうに暇を満喫しているものか? との鈴谷のもっともな疑問に「それもそうか」と妖精らは納得する。

 

 が、まだ何かあったらしい。納得のいっていなさそうだった顔の妖精が、更にもう一枚の写真を差し出して言う。

 

「でもこんな物みられたのです? ごーもんされてたのです。」

 

「どれどれ……はっ―――??」

 

 思わず息を呑む。渡されたものは港湾棲姫の写真だったが。写っていた彼女の様子に、ネ級は言葉を失った。

 

「え……なに、これは」

 

「見てのとーり、なのです。鈴谷しゃん、貴女が艦娘の免許持ちじゃ無かったらもしかしたらこうなってたのかも……」

 

「怖いこと言わないでったら……はー、にしても何かねこれ。いったいどういう状況さ」

 

 理解できない……というよりかは、「したくない」というような情景が激写されたフィルムに。少し考えてから、ネ級は妖精たちに1言、約束を作ることにした。

 

「……妖精さん、ちょっとお願い。この写真、誰にもバレないように燃やしといて」

 

「??? せっかくのしょーこを処分なのれす???」

 

「とーぜん。こんなの見たら防空さん暴れだすよ?」

 

「………まぁ確かに。なのです」

 

「場所はわかったんだし。ちょっと準備もしなきゃね」

 

 指に力を入れる。ひと思いにネ級は持っていた物を何等分にも破り捨て、破片を妖精たちが拾う。

 

 

 隠し撮りされたのは。眠そうな顔でぼうっとしている港湾棲姫が、手術台のような場所で、左腕を肘先から切断されている、という光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハイファイな夢。(悪夢)

余談ですが最初から最後までネ級はふざけて質問に答えていました。
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