職業=深海棲艦   作:オラクルMk-II

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呪術廻戦が面白いので初投稿です。今回張り切りすぎて1万3千文字もあるゾ


31 アイ·ヘイト·ユー

 

 

 

「いい気分しねーな。死体相手とはいえ味方とはよ」

 

「かなり趣味が悪いと見えるわね」

 

「私も大いにそう思います」

 

 眉間に深いシワを刻んだ顔で、天龍は操られている遺体の頭を吹き飛ばす。鳥海は胴を打ち抜き、ネ級は一番近くの者に繋がっていた糸を切断した。

 

 咄嗟の判断で全員はすぐに後退+陣形の組み直しを行い戦闘に入っていた。初め、こういったものに耐性のあることを自覚しているネ級は、他人の心配をしていたが、それも杞憂に終わる。やはり長年こんな仕事をしているせいなのか、約1名を除き、みないつも通りの戦闘をこなしている。

 

「無理すんな秋月。……嫌なんだろ?」

 

「!! い、いえそんなっ!」

 

「いい、とどめ刺すのはこっちでやる。お前はとにかく弾幕を張ってくれねぇか? 頼むぜ。」

 

「っ……了解」

 

 その1名、というのが防空棲姫だった。不意を突かれても全員無事だった事は安心したものの、この現状にネ級は苦い顔をする。

 

 言うまでもなく現状のこの編成で1番強い者が秋月だ。それに続いて腕前は天龍辺りが1番だろうが、武装の火力から摩耶、鳥海、そして自分となるだろう。それにもしもの事があれば彼女の正体がバレることも承知で本気を出してもらい、弁解は自分がやろうか等とネ級は考えていた……が、武器を構えつつも狼狽している様を見るにプラン変更が必要かと思う。

 

(一騎当千の能力があっても、ってやつか。)

 

 純粋に、こんな変な場面に出くわした事も無ければ、死体なんて見慣れてないのだろう。と、言うよりも。元々純粋な軍人が少ない艦娘ならこんな物は嫌悪して当然だし、そもそも軍人ですら顔を背けたくなるようなこの現状だ。いきなり吐いたりえづいたりしないだけ上等と言える。

 

 本人もやはり気にしたか、必死に応戦してはいるが明らかにその動きは精彩を欠く。いくら1番の腕利きとはいえ彼女にばかり任せては負担だ―――他の全員は察したか。表情は良くないが、天龍ら各々は積極的に死体を撃ち始める。

 

「数は多いみたいですが、そこまでとんでもなく強くは無さげですね」

 

「あぁ、狙いも間隔もテキトーだ。目ぇ瞑ってても避けれる」

 

「油断、禁物……です」

 

「おう。背中預けるぜ弥生」

 

 攻撃が激しくなってきたら散開して相手の照準を分散させ、攻勢がまちまちになるか1、2体が飛び出してきたらまた集まって集中攻撃。時間の経過とともに対処法がわかってきたエスコート隊の動きに無駄が無くなっていく。

 

 終わりこそ見えなかったが、驚異と言うには物足りない。そんなこの戦いの中で、ネ級に少しずつ芽生える感情があった。

 

 静かな。それでいて熱を持った怒りだった。

 

 沸々と内心で(ほむら)を燃やす。それは瞳に灯る赤い光となって出力されると、彼女の被っていた仮面の左目を赤く染めた。

 

 目の光が残像を描くような速度で動き続ける。ナイフを片手に、ひたすらネ級は死体に繋がった紐を切り続けた。文字通り糸が切れた遺体は海面に倒れる……しかしやってもやってもまた更に触手が遺体に打ち込まれるか、新手が発生するかで終わりが見えない。

 

 死体相手に「不殺」と言うのもおかしいが。ネ級はなるべく遺体に傷を付けたくなかった。彼女の性格上、人間心理として当然のことだったのだが、その行動を見ていた鳥海に声をかけられる。

 

「…………っ。」

 

「…………。優しいんですね、本当に貴女は」

 

「えっ」

 

 唐突な感想に面食らう。駆逐艦から放たれた弾を冷静にいなしながら、鳥海は続けた。

 

「秋月と同じだ、本当は嫌なんでしょう。無理矢理私達に合わせてるけど、あの死体に繋がった紐を切ってどうにかしようとしてる」

 

「……やっぱり、わかりますか……バレちゃったか。」

 

「マァ当然ですよね。嫌に決まってます、こんなこと……」

 

 鳥海が撃った砲弾が、血まみれの服を着ていた傀儡(くぐつ)の右手をもぎ取った。猛烈に不愉快だ。そんな感情がありありと見て取れる表情を、彼女はネ級に見せた。

 

『根上しゃ〜ん今戻っ……ど、どういう状況なのれす!?』

 

「説明は後!! とにかく相手の妨害を!!」

 

『『『了解!』』』『任せろーー!!』

 

 交戦中のエスコート隊へ、偵察に出ていた瑞雲と猫艦戦が戻ってくる。喋る時間すら惜しいネ級は声を荒げながら指示を出した。

 

 手練の味方は良くやってくれていた。……が、戦闘が長引くにつれてだんだんと押され始める。

 

 単純な物量に合わせて、敵には戦艦の艦娘も混じっていたし、何よりも辺りが真っ暗な時間帯が問題だった。サーチライトの光とレーダーだけが頼りの綱だが、相手は死体とはいえ艦娘。熱源感知は味方の反応と誤認しており、肉眼による観測だけでエスコート隊はどうにか誤射を抑える。

 

 しかし相手はどうか。敵味方お構いなく主砲も魚雷もぶっ放し、酷いものは後ろから撃たれて両足を失い、固定砲台になった遺体まであった。死を恐れず突撃を繰り返す尖兵に、行動に制限をかけられている天龍たちはジリ貧になる。

 

「逃げるべきでしょうッ! ……かね! 今のヤバかったァ……!」

 

「大賛成だぜ! お前らぁ!!」

 

「承知しました……!」

 

 ネ級の提案を飲んだ天龍の言葉に条件反射で意味を理解した部隊員は、打ち合わせでもしたように一斉に体の向きを変えるか引き撃ちをするかで後退を始める。この中では頑丈な方だったネ級と鳥海は、自分から殿の役を買って出た。

 

 時間が経てば立つほど攻撃は苛烈になっていく。ネ級は顔に向かって飛んできた弾を殴り飛ばし、鳥海と弥生に摩耶は体を捻って回避する。その時だった。

 

 唐突にまた水中から数本の触手が伸びてくる。また倒した死体に繋がるやつか。そう、天龍と防空棲姫が思う。

 

 しかしそんな決めつけは間違いだった。

 

「秋月!!」

 

「えっ――」

 

 「ここまで」の戦闘では時折出てくる触手は、電気コード程の細さの2、3本だった。それがどうだろうか。このとき出てきたのは――数百から数千は有りそうな数が束状に突き出てきた。

 

 それらは複数本が捻れてより合わさり、先端の尖った太い触手となると。防空棲姫の両手両足を貫き、更に体を縛り上げて身動きを封じた。余った触手は今度は天龍にも襲いかかる。

 

「がぁっ!? あぁっ……!」

 

「秋月!? クッソ!」

 

 すぐに愛刀を引き抜き、殺到してくる物を切り飛ばす。が、天龍が切払う速度よりも早く、伸びてきた触手は、彼女の艤装に穴を穿(うが)ち侵入してきた。

 

「しまッ……うぉっ!?」

 

 ビービーと喧しく警告のアラートが鳴る。絡まった配線コードのようにめちゃくちゃに入り込んできた触手は天龍の装備の制御を乗っ取ると、彼女の体を味方の方へと向けた。

 

 持っていた砲が無理矢理動いて弥生に照準を向ける。類稀な判断力でこの後に何が起こるかが分かった天龍は、それを手放すと刀で串刺しにして壊した。しかし今度は背負っていた艤装の砲が味方に向く。

 

「くそっ、弥生避けろ!!」

 

「!」

 

「装備がこのクソ糸に乗っ取られた! お前ら離れろぉ!!」

 

 秋月と天龍が同時に戦闘不能に陥ったと同時に、今まで元気に動き回っていた死体たちから紐が抜けていった。一斉攻撃が急に止み、意味がわからず残った4人は混乱する。しかしそんな暇もあるわけが無く、全員が意識を天龍へと向けた。

 

「秋月ぃ!! 隊長ォ!!」

 

「あぁコノヤロウ、止まれ! やめろってんだ!!」

 

「鳥海さん危険です、とにかく今は距離を取って!」

 

 刺し貫かれた場所から血を流して居る秋月を助けようと突っ込みかけた鳥海を、ネ級と摩耶は服を掴んで強引に止める。すると次は、何やら海面が盛り上がり、強い波と水飛沫が上がる。

 

 「ちきしょう、今度は何だってんだよぉ!!」 今回ばかりは満足に戦えていなかったとはいえ、一線級の実力の秋月に手練である天龍が一気に動けなくなり。更に何かが起こると見て、余裕の無かった摩耶の焦りも最高潮になる。彼女の怒声は、気を失っていた秋月以外の全員の心中を代弁した。

 

「「「「!!」」」」

 

 過酷な戦場に何度も立たされてきた経験が彼女たちを生かしたのか。何か不穏な気配を察知し、身動きのできる4人全員がその場から飛び退る。すると、捕まっていた天龍、秋月のいた辺りの水中から星空に向かって何発もの砲弾が湧いて出てきた。

 

「水中から攻撃……潜水艦!?」

 

「いや違う、戦艦か何かだろ!」

 

 天龍らに当たらないよう注意を払って弾をばらまいていたネ級に、摩耶は言う。何だ何だと警戒心を限界まで高めていたエスコート隊の前に。海面の下にいた存在は姿を表した。

 

「仕留められず、か。つまらんな……良い勘を持っている」

 

 初めに空気に晒されたのは、逆さまにしたピラミッド型の鉄の塊だった。重力を無視しているとしか思えない動きでそれは宙に浮き始めると、更にその下に居た……というよりも繋がっていた深海棲艦が口を開いてそう呟いた。

 

「おぉ……ぅ!?」

 

「んふふ……雑魚が驚いている♪」

 

 なんだこの個体は。見たことがないけど、間違いなく姫級、それも戦艦棲姫·空母棲姫とかみたいに複数個体居るようなのとは違う……どう見ても中枢棲姫さんらみたいなかなりヤバめのヤツ―――!! 頭上の鉄塊から青い光を放ち、不遜(ふそん)な態度で喋る白ドレス姿のこの女に、ネ級の頭の中ではけたたましく警報が鳴っていた。

 

 死体と天龍さんを操る触手はコイツの髪の毛だったのか。生き物のように空中で揺らめいている女の頭髪にネ級は目が向く。しかしそれ以上の分析の暇を、この敵はくれなかった。

 

「あははぁ♪」

 

 眼前1mと離れていない場所まで、前のタ級のような気持ちの悪い速度で近付いてきたかと思えば。その女は両手に嵌っていた巨大な鉄塊をネ級目掛けてひと思いに振り下ろしてくる。

 

「   」

 

 一瞬の判断力がネ級を助けた。彼女は逆に更に敵との距離を詰めると、勢いがつく前に、落ちて来るものに向けて両手を突き出して備える。

 

(な、なんちゅー馬鹿力ッ!!)

 

 両手を眼前に持ってきた上から触手を2本とも巻きつけて防御の姿勢を取った……が、そこからでも伝わってきた衝撃と攻撃の重さに。ネ級は膝を震わせながら必死に抵抗する。

 

「アッ」

 

「!!」

 

「はっハァぁ!!」

 

 女が楽しそうに笑い声を上げた瞬間。一気に込められる力が強まったのを感じたネ級は、耐えるのをやめて一気に艤装の出力を下げた。結果、叩き伏せられたように海中に没することでどうにか一時的に難を逃れる。

 

(つ、潰されるかと思った……)

 

 口に咥えたライトのスイッチを、歯で噛んでONすると。そのまま女の顔を照らしつつ、浅く沈んだ状態から、腕だけを海面から突き出して当てずっぽうに敵を撃った。元から当てることは考えていなかったが、果たして敵には笑いながら回避してやり過ごされる。

 

「おい大丈夫かよ!」

 

「な、なんとか」

 

 多少呆気に取られて数秒動きを止めたものの、すぐに援護を始めた鳥海らが助けに来る。軽く身動ぎして服の水を切り、ネ級も敵に砲を向けて撃つ……のだが、どうだろうか。この敵もまた、体の前で攻撃が遮られてダメージが通らない。

 

「なんだ?? バリア!?」

 

「諦めないで、いろんな方向から撃ってください!!」

 

「ちっ、簡単に言ってくれるぜ……鳥海、散開して回り込んで……」

 

 戦友にそう言いかけたとき。摩耶の目に、攻撃を続けながらも青ざめた表情の鳥海が写る。

 

「おいどうした、早く援護!!」

 

「深海……海月姫……!?」

 

「は……なんだって? クラゲ……?」

 

「前に大隊1つに大損害与えた個体よ! こんな装備と編成じゃ勝てっこない!!」

 

 鳥海の発言に、気を失っていた秋月以外の全員が顔を青くした。

 

 「嘘だろ……」 摩耶が一言呟く。深海海月姫。鳥海が言ったとおり、軍艦数隻と数百人の艦娘を相手に単艦で損害を与えた事もある―――半ば都市伝説と扱われるほどの戦闘力がある深海棲艦だった。前の戦艦棲姫よりも勝ち目がない敵に、一周回ってネ級は笑ってしまう。

 

「嬉しいなぁ……私も、有名になったんだァ……ふふ、はは、んひふ………」

 

 再度、女はまた予備動作もなく動いた。海月姫は今度は摩耶の前に立つ。

 

「早っ……」

 

「んーふ。死〜ね♪」

 

 ネ級には潜られて回避されたからか、敵は今度は横なぎに艤装を振り回す。

 

 避けられない。摩耶はそう思ったが、インパクトの直前にネ級と弥生の二人が間に無理矢理挟まる。そこから更に鳥海が砲撃を叩き込み、注意がそれた女の殴打の威力が少しだが和らいだ。

 

「がっあっ!?」「くっひ………うぅ!!」

 

「!? ??」

 

「ほぉう?」

 

 骨がきしむ音を、ネ級は聞く。弥生に至っては左腕の骨が折れた事を知覚したが、2人が無理矢理エアバッグ代わりになったおかげで摩耶は弾き飛ばされるだけで済む。

 

「うぅ゛っ!? 痛たた……」

 

「ネ級に弥生……お前ら……!」

 

「手をっ止めないでっ……摩耶さん……大事な、火力……!!」

 

「ちぃっ!!」

 

 あまりの激痛に泣きながら引き撃ちを始める弥生に、舌打ち混じりに摩耶はとにかく動きまくる。ネ級も戦意を喪失しかけている鳥海にどうにか励ましの言葉をかけながら援護に回避にと縦横無尽に海原を駆ける。

 

 「殴るのは駄目か。じゃあこうしようか?」 ふと、海月姫がそんな事を、わざとらしく、こちらに聞こえるような声量で言った。すると、髪の毛が刺さった艤装で身動きのできない天龍が砲撃を始めさせられる。

 

「!! ちぃっ! みんな避けろォ!!」

 

「っ! このッ!」

 

 どうにかして海月姫を補足しようとネ級は躍起になる。しかし射線は天龍か秋月かに阻まれて満足に狙いが付けられず、時折どうにかねじ込んだ砲撃も、相変わらず前の戦艦棲姫を想起させる透明な何かに防がれて通らない。

 

「ネ級! 構うな、俺ごと撃て!!」

 

「ダメだッ、その髪の毛さえ撃てば……うわっ!?」

 

 レーザーサイトで彼女の艤装に取り付いている海月姫の髪を狙う。しかし、攻守自在に滅茶苦茶に動き回る有機的な敵の艤装に阻まれ、これも狙いが定まらない。

 

「ふざけんなよ、てめぇにそんな腕があんのか!? 早く撃て!」

 

「できるわけが無いでしょう!? ぐうゥッ!」

 

 大量に伸びる触手の1つに武器を貫かれる。砕けた電装品と暴発した火薬に顔が歪む。

 

 背後に居た海月姫はというと、完全にエスコート隊4人を舐めた態度ででも見ているのか。浮いていた艤装と思われる鉄塊を着水させ、頬杖をついてそれによりかかり薄笑いを浮かべている。

 

「舐め……やがって……!」

 

 一発、狙いを定めた砲撃をネ級は女へ叩き込む。透明な壁で効きはしなかったが、身代わりにしている秋月と天龍を避け、針の穴を通すような狙撃をしてきた相手に海月姫は多少驚いたような顔をする。しかしそれだけで、またすぐに顔を笑顔で歪めた。

 

 操り人形の天龍の砲撃がネ級の顔面に当たる。砕け散った仮面に眉間にシワを寄せながら、たまらず彼女は後退した。

 

「うぅっぐっ……!」

 

 どれだけ必死になっても攻撃が通らないせいで段々と全員の戦意が削ぎ落とされていく。生傷が増えるばかりで動きが鈍り、それで更に傷が増えて……パフォーマンスの落ちた者に攻撃が当たり……負の連鎖が続く。

 

「クッソォ!! クソがあ!!」

 

「お前らもネ級に任せて早く逃げろ!! 俺に構うんじゃねえ、鎮守府にこのことを!!」

 

 ニタニタと薄気味悪く笑っている女に視線を飛ばす。しかしこのままでは全滅する。それだけはなんとしても防がないといけない―――怒りと悔しさで凄まじい形相をしながら、ネ級が退却の構えをとったときだった。

 

『鈴谷しゃあぁん!! 後ろぉぉ避けてぇっ!!』

 

「!?」

 

 上空から、効かないながらも、しつこく攻撃して援護してくれていた妖精の叫び声が耳に入る。咄嗟に身をひねったネ級の脇腹の辺りを弾が掠めていった。

 

 なんだ? またゾンビから出てきた攻撃? はじめはそう思ったが。腕に固定していた液晶機器の画面を覗いて、ネ級は顔を蒼くした。

 

 さっきまでは海月姫しか写していなかった敵反応が、およそ10個ほど増えている。

 

「おっとぉ。ここを通すわけにはいかないな」

 

 背後に並んでいた深海棲艦たちのうち、旗艦らしき軽巡ツ級がそう呟く。

 

「はっ、ははっひひ……じょ、ジョーダンだろ???」

 

 絶望。後退を初めかけた他のメンバーの声に、振り向いたネ級の脳裏にその2文字が過ぎった。敵の攻勢を捌くのに手一杯で完全に周囲の索敵を怠った結果、退路は敵の増援に阻まれる。

 

 ………………。もう覚悟を決めるしかない、よね。混戦の最中、いつの間にか摩耶たちから離れていたネ級は、インカムのスイッチを押した。

 

「……私一人でどうにか姫級の相手をします。摩耶さん、弥生さん、鳥海さん。3人で血路を開いて、貴女方だけでも逃げてください」

 

『は……? 何を』

 

「もう考えてる時間ない! 早く逃げなきゃ全滅するヨ!」

 

『……わかった』

 

 この際、敬語使ったりなんて考える暇すら惜しい。天龍と、海月姫の座る艤装からの砲撃を交わしつつ、無理矢理反撃をねじ込みながら叫ぶ。すると、無線の先の摩耶は弱々しい声でこう言った。

 

『ひとつ……いいかな。約束してくれ』

 

「………………。」

 

『死なないでくれよ……お前のこと、最近やっとわかってきたんだから。あと、隊長と秋月のこと……できるなら助けて……くれるか?』

 

「…………頑張ります。今はそれだけ」

 

『あぁ…………一緒に生きて帰るぞ。絶対だかんな……!!』

 

 ピッ。ネ級は押していたスイッチから手を話す。砲戦の音に混じり、無機質な機械音が響く……そしてなぜか敵からの攻撃が止んだ。

 

 困惑している天龍をよそに、海月姫が口を開く。

 

「お前が一人で私を止める? 健気なことだ……」

 

「………………。」

 

 どうやら完全に舐めてかかっているらしいとみたネ級は、海月姫に背を向け、離れた場所で上がっている砲撃の光とレーダーの画面とを交互に見る。

 

「無視とはひどいな。別れの挨拶は済ませたか? あぁ、あと最後の晩餐は――」

 

 女が言い終わらない内に。ネ級は振り向きざまに、グレネードランチャーの引き金を引いた。

 

 もくもくと煙が上がる。やはり効いてはいないようだったが続けて何発も放つ。弾が切れたそれを放り投げ。静かに、彼女は敵に向けて言う。

 

「嫌いだ……」

 

「ん」

 

「人の命を手のひらで弄ぶ……そんなヤロウが私は嫌いだ!!」

 

 使っていなかった槍と予備の主砲をそれぞれ触手の口を噛ませた。そのまま全ての砲を海月姫へ向け、ネ級は進み始める。

 

「これは面白い! 深海棲艦が人の心配とは……ふっ、ふふふ? 別に、ご自由、に?」

 

 両腕を顔と胸の辺りに持ってくる。そして前が見えるよう、目元を残して体に触手を巻きつけると、ネ級は猛然と海月姫目掛けて突撃を敢行した。

 

「ううぅぅぅァァああああああ!!」

 

「!? ばっ、馬鹿、なにやってんだ!」

 

「無駄な真似を……」

 

 回避の動作をかなぐり捨てた動きを見せる相手へ、当然海月姫は天龍と自分の砲撃2種をぶつけた。しかし多少の被弾をものともせず、どんどんネ級は相対距離を詰めていく。

 

「ネ級なにやってんだ避けろ!! 死んじまう!!」

 

「うるさいな、黙っていろ」

 

「もごぁッ!? 」

 

 触手の表皮を血で濡らすネ級に天龍は叫ぶ。そんな彼女を、海月姫は束ねた髪を猿轡(さるぐつわ)のように噛ませて無理矢理黙らせた。

 

 海月姫は一発、副砲の乱射に混ぜて、主砲を発射した。

 

「終わったな。楽しかったぞ裏切り者。」

 

 轟沈、かな。この時の海月姫はそう思ったが――それは少しだけ短慮だった。

 

 繰り返すが、ネ級は両手両触手で見を包んではいたが、目元は避けていた――彼女は、自分に1つだけ違う威力の弾丸が放たれた事を見切り、寸前でそれを避けた。

 

「何?」

 

 そして自分にはどうせ届かないと無視していた妖精らの爆弾が降り注いで来る。一瞬とはいえ爆風で視界が遮られ、天龍を操作するのが遅れる。ネ級がその隙を見逃さない訳がなかった。

 

「お待ちどぉッ!! 天龍さんッ」

 

「んー! ……んー!」

 

 天龍の目と鼻の先まで近づいた時を見計らってネ級は防御体制を解く。自分の触手をうまく使って相手の背負物に絡ませて無力化し、どうにか第一の障害は突破する。

 

「ふふ、ふふふふ! 面白い、面白いぞ(さか)しい小娘……」

 

「!!」

 

 強引に味方に抱き着いて同士討ちを封じたものの、やはり予想した通りか、ネ級目掛けて無数の髪の毛が向かってくる。

 

 原理はわからないけど……アレに刺されると装備の制御が乗っ取られる。なら! ネ級は天龍に付きまとっていた女の髪を掴むと、それを引き千切ろうと力を込める中で、頼れる味方に向けて叫んだ。

 

「みんなぁ!! どうにかしてぇ!!」

 

『『『任せろぉ!!』』』

 

 ネ級の叫びに応えて。上空から数十機の瑞雲と猫艦戦が編隊を組んで降下する。

 

 彼女の心からのSOSに、妖精らは彼女でも予想がつかなかった方法で対処してくれた。航空機に命綱をつけて何人かがぶら下がり、彼らは手に持った工具を振り回して、襲ってきた物だけではあったが、無理矢理触手を無力化したのだ。

 

「……なんだと?」

 

 無茶苦茶なやり方で助けてくれた妖精たちに。ヒュウ、と思わず口笛を吹いた。そんな中、ネ級が艤装に大量に繋がった髪をどうにか悪戦苦闘しながら切っていたその時だった。

 

 天龍に絡まっていたものが、どこからともなく発射されてきた砲弾で断たれた。唐突に拘束が解け、もがきまくっていた2人はバランスを崩して海面に倒れる。

 

「ぅおわっ!? なんだっ!?」

 

「!!」

 

 チャンスがやっと訪れた。そう思ったネ級は、とっておいた自分の切り札を惜しみなく使うことにする。

 

「N·ユニットォ!!」

 

 渾身の一撃を叩き込んで距離を取る。という事を彼女は優先した。

 

 背中から倒れた姿勢のまま全身の武装を全て展開し、猛烈な弾幕を形成する。血のレーザーの攻撃に、一瞬だけだったがたまらず怯んだ相手を見て。ネ級は急いで天龍を触手で巻き取り、敵との距離を離す。

 

「天龍さん!」

 

「大声あげなくても聞こえるよ。俺は大丈夫だ……けど今のは?」

 

 たった数秒の会話だったが2人は隙を見せた。それを見逃さず海月姫はすぐにまた襲い掛かる――のを妨害するように、後方から太い2本の光線が放たれる。またもや何者かに助けられたことを察したネ級は、天龍を抱えて更に敵との距離を離した。

 

「今のってまさか……」

 

 女二人、見覚えのあるレーザーの光に顔を見合わせたあと、顔を後ろに向ける。

 

 

「なんてシケた顔してんのよ。ネ級? 「あの時」はもっとかっこよく見えたものだけど」

 

 

 前に自分も使った大型艤装がそこにいた。一体誰が乗ってきたんだ? シートのある場所に立ち膝の状態でいた人物に、ネ級は目を剥いた。

 

「グロいだけのデカブツだと思ったけど、なかなか使えるじゃない。気に入ったわ」

 

 自身に満ち溢れた吊り目がちな表情と、サイドテールにした銀色の頭髪。かっちりと制服を着こなし、高性能な最新鋭の武装で身を固めているその女は、呆けていたネ級と天龍へ向けて口を開く。

 

「苦戦してるらしいから、助けに来たわ。全く、見てらんないったら。」

 

『すぅずやっ。私と木曾も居るぜ。ザコは任せろ』

 

 自分らを助けてくれたのは那智と木曾――それに、数ヶ月前、鈴谷が手当した後に艦隊まで送り届けた、駆逐艦の霞だった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「スマン遅れた。みんな大丈夫か」

 

「那智おせぇぞ! 見ろ、結構ヤバい雰囲気だぜ……!」

 

「ボサッとしない! 死にたいの!?」

 

「へいへい……ったく人使いの荒い隊長だぜ」

 

 4基の武器コンテナから大量のマイクロミサイルを発射しながら、2人の横を霞がすり抜けて行く。次いで、軽口を叩きながら、那智、木曾と続いた。

 

 全く持ってなんでこんなに良すぎるタイミングで親友らが現れたのかは意味がわからなかったが。まだ戦闘中なのに、ネ級は心の底から安堵(あんど)する。しかしそこは素早く切り替えて、友人2人へ通信した。

 

「お助けありがと。木曾、後ろに居た敵は?」

 

『ツ級とかル級のことか? さっき撃退したぜ。ただ何匹か逃しちまったがな。3人ほど怪我してた艦娘は逃した。後ろで控えてる味方と合流してるはずだ』

 

「……!! っ、ありがとう!」

 

『気にすんな。それよりコイツどーにかすんぞ、あとその隊長さんはどっか安全なとこ下げてあげな!』

 

「うん!!」

 

 信頼の置ける3人にひとまず海月姫の相手を任せる。凪いでいた海域中心部から離れ、海流が渦を巻いている外側に退避しつつ、鈴谷は友人らに1つ忠告をしてから無線を切る。

 

「那智、木曾、あいつの髪の毛に気をつけて。刺さったら装備が乗っ取られるから!」

 

『あいよ、任せな!』『りょ〜か〜い!』

 

 ふうぅぅぅう、と。霞たちが戦っている、時たま火薬で明るくなる場所をため息混じりに見つつ、ネ級は適当な速度で周囲をゆるく流す。自分の胸の中で同じく深呼吸をし、一息ついていた天龍へ、彼女は声をかけた。

 

「どうにか……生き残ったってワケか。あがいてみるもんだな」

 

「天龍さん動けますか?」

 

「ちと、厳しいかもな。さっき変なもんぶっ刺さったせいで艤装が動かねぇ。が、多少援護射撃するぐらいならヘーキみてぇだ」

 

「そうですか……なら、霞さんの乗ってきたアレに乗せてもらって」

 

「霞……お前の艤装に乗ってきたやつか。悪いな、先に逃げてるぜ」

 

 片手で上司を抱えつつ、器用に触手と右手で武器の弾を交換していると。続けて天龍が口を開く。

 

「お前はどーすんだ? 適当に戦ってから逃げるのか?」

 

「ぼ……秋月を助けに行きます。」

 

「…………。わかった。無理はすんなよ。何か算段はあるのか?」

 

「さっき天龍さんに近づいた時にわかったことがあるんです。あの女(海月姫)のバリアだけど……たぶん展開できる距離に制限があります」

 

「制限?」

 

「はい。ギリギリまで近づいた時に、一発だけ妖精さんの爆撃が通ってたのを見ました。恐らくですがある一定の距離よりさらに近づけば、フィールドの内側に潜り込んで無防備なあいつを叩けると見てます。」

 

「……呆れた。やっぱすげぇわお前は……まぁいいや。後は頼む。俺は逃げるけどよ。精一杯の援護はするよ」

 

「お願いします。」

 

 もう一度、大きく深呼吸をする。ネ級は今度は霞に向けて機械の電源を入れた。

 

「霞さんいいですか? ちょっとお願いがあります」

 

『何よ、どっかのクズのせいで今忙しいんだけど』

 

「天龍さんをそれに乗せて逃げてくれませんか。敵の足止めは私とそこの2人でなんとかします」

 

『…………作戦はあるのよね?』

 

「もちろん……成功する確証は無いですが」

 

『ふん……いいわ、聞いてあげる。これで貸しは無しよ。深海棲艦』

 

 会話が終わったぐらいで、一際大きな火柱が上がるのが見えた。同じ頃合いに、反転してこちらを迎えに来る霞が確認できた。

 

 リロードが完了したネ級は、傷口を包帯で縛り上げる。再度の突撃の準備を済ませる彼女へ。天龍は言う。

 

「…………。秋月を……いや、防空棲姫っつったか。たすけてやれ、な?」

 

「! 知ってたんですね。彼女のこと。」

 

「ったりめーだ。あんな異常な駆逐艦がいるかよ……でもそんなことは後だ。鎮守府帰れば話なんざいくらでもできる。だから、よ。」

 

 ネ級の口に何かがねじ込まれる。一瞬困惑したが、何かと思えばチョコレートバー型のお菓子だった。一呼吸おいてから、天龍は呟く。

 

「甘いもの食べたら元気出るだろ? ……今夜は6人揃って帰るぞ。命令だ、いいな?」

 

「…………。 イエス·マム!」

 

 そっと海面に上司を下ろす。減速しながら迎えに来た霞とすれ違い、ネ級は友人達のもとへと急いだ。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 主砲、副砲、豆鉄砲のマシンガン。全部合わせて弾は50発ぐらい、無駄撃ちはできない……。敵の居る場所に向かう道すがら、ネ級は残り少ない体力で静かに集中力を高める。

 

 1度は逃げたが、自分の攻撃が届く範囲にまた海月姫を見据える。時間稼ぎに徹してくれていた友人に彼女は無線を投げた。

 

『無傷ってマジかよ……魚雷10発ぶつけてコレか』

 

『遠·中距離じゃ分が悪いってところか。さてどうする』

 

「2人とも、ちょっといい? 今しがた考えた事があるから、私の援護に回ってくれない?」

 

『お、やっと来たか。別に良いけど。どんな作戦だ?』

 

「私が突っ込む。2人はただひたすら後ろから弾幕。オッケぃ?」

 

『『了解((あいよォ))!』』

 

 知り合いってやっぱり楽でいいや――滅茶苦茶な指示にも嫌な声を出さずに即答してくれた2人に心から感謝する。両手で主砲を構えてネ級は速度を上げ、肩に乗っていた妖精に指示を出し敵の懐へ飛び込んだ。

 

「妖精さん、艤装の出力上げといて」

 

「はぇ!? これ以上上げたら動いてる途中で分解するのれす!」

 

「いいからっ!」

 

「うぅ、うう! どうなっても知らないのですよ!?」

 

 槍を片手でプロペラのように回しつつ、散発的に弾をばら撒いてただひたすら敵に近づく。その途中、妖精が操作して完全に全ての安全装置が外れた装備から警告アナウンスが鳴る。

 

《安全装置が解除されました。強制冷却まであと300秒》

 

「ありがと、これで心置きなくッ!」

 

 艤装の出力を更にもう1段階引き上げた。今日霞が乗ってきたものか、それを上回る強烈な加速に思わず背中側に仰け反りそうになる。それを恵まれたフィジカルで無理矢理克服し、ただただ前を目指す。

 

 また無駄に何をする気だ? とでも言いたげだった海月姫の目を見た。一発、サブマシンガンの弾を女の顔に当てる。

 

 カァン、と軽い金属音が聞こえた。つまらなさそうな顔だった女の頬に弾丸が当たって跳ね返るのを確かに捉える。

 

「なんだこのホコリは?」

 

「!!」

 

 大当たり、攻撃が当たるならやりようはあるっぽい。でも今は……あの人を連れて帰ることだけ考えろ。がんじがらめにされて気絶している防空棲姫を見る。

 

 色々無茶やってきたけど。もう本当に、何かできるとしたらチャンスは1度ぐらいだろうな。接近することをやめ、今度は攻撃の回避に専念しながらネ級は高速で左右に切り返しつつ、様子を伺う。

 

「逃げてばかりか。雑魚?」

 

「じゃあっ、もっと、撃ってみなよ!!」

 

「ほぉう?」

 

 ネ級の挑発に乗り、雨あられと弾がやってくる。どうにか最小限の被弾で済ませ、反撃に移ろうとしたときだった。

 

 彼女の眼前に、海月姫は血を流してぐったりとした防空棲姫を盾として持ってくる。粘ついた気持ちの悪い顔をした女を、ネ級は睨んだ。

 

「これで撃てないだろう?」

 

「……さぁ」

 

 腕に嵌めていた副砲と、両手で構えた主砲を防空棲姫にむけて。

 

「どうだろうね?」

 

 なんの躊躇もなく。負傷していた彼女に集中砲火を叩き込んだ。

 

「!?」

 

「やりぃ!」

 

 申し訳ないとは思ったがこれが1番手っ取り早い。ネ級は彼女の打たれ強さに賭け、わざと火力を集中させて海月姫の髪を焼き切った。落ちてきた防空棲姫の体をしっかりと抱きかかえて、火花を散らし始めた艤装に鞭打ち、全速力で後ろに下がる。

 

「ふふ、ふふふ。ここまで私を驚かしてくれたのは久しぶりだ。面白いなぁ……」

 

「っ、キツイかな……」

 

 両手で抱えた防空棲姫を触手で抱え直し、空いた利き腕に武器を持つ。

 

 2、3度指を動かす。が、ネ級の持った武器から弾が出なかったのを見て。海月姫は笑いながら触手と砲撃を見舞った。

 

「今後こそ終わりか? 早かったな」

 

「…………っ」

 

 破れかぶれで連装砲を相手めがけて投げつけた。しかし、涼しい顔で海月姫はそれを指で弾き返す。

 

 

 ニヤリ、とネ級は笑った。すかさず彼女は左手でその場の空気でも握るような動作をとると、勢いよく腕全体を後ろに振る。

 

 

 瞬間、女が吹っ飛ばした連装砲から砲弾が発射された。

 

「なっ…………!?」

 

 仕掛けはごく単純な物だった。あらかじめ引き金に細いワイヤーを掛けておき、それを、砲口が敵に向いたときを見計らってタイミングよく引っ張っただけだ。

 

 わざとらしく指を震わせ、弾切れを演出したブラフは効果てきめんだった。完璧な不意打ちが決まり、さすがに致命傷とまではいかずとも、傷を負わせることには成功する。大きな隙を見せた敵に、これ幸いとネ級は役目を終えた糸を腕から引きちぎり、満身創痍の防空棲姫を抱き抱えて全速力で海域から離脱を図る。

 

 そう簡単に逃がすと思うか? 海月姫の目はそう言いたげだった――はたして、大量の触手が殺到してくる。が、那智と木曾の2人がありったけの砲弾で弾幕を張り、追撃を阻止した。

 

「!」

 

「させるかよ!」「あばよクソ女ぁ!」

 

 死にもの狂いの親友の妨害に、ダメ押し……もとい追撃を封じるための味付けとして、ネ級は出力を上げた連装砲から、自分が出せるギリギリの量の血を発射する。

 

 最大船速で逃げる途中に思わず意識が飛びかけた。そんなネ級の事を、那智が大声で怒鳴りつけて無理矢理覚醒させると、その手を繫いで引っ張る。

 

「ケツまくって逃げるぞ! 鈴谷、手!」

 

「ッ、掴んだ……!」

 

「うッし!!」

 

 爆風が晴れる前に立て続けにありったけの火力を集中する。弾切れをいとわず滅茶苦茶に砲も魚雷も撃ちまくり、3人は海月姫に背中を向けて逃走した。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ――!! ふううぅぅぅ!」

 

 どうにか、間に合ったか。

 

 敵の射程距離の外まで全速力で逃げ切った頃合いで、強引なリミッターカットで限界を迎えた艤装が煙を上げ始める。同時に急激に航行速度が落ちてきたことで、ネ級は自分の装備が完全に破損したことに気が付いた。冷却が追いつかず、赤熱した装甲板からは湯気まで出ている。

 

「………………はぁ。」

 

 脈は、ある。呼吸も落ち着いている。然るべき処置を施せば死にはしない。自分の両手の中で寝息をたてている防空棲姫に、彼女は安堵から大きなため息を吐く。

 

「スゥぅ……ふううぅぅ。フゥ。」

 

「オーバーヒートかよ……久々に見た。無茶するな、相変わらず」

 

「ふふ……那智こそ。よくやるよ。もう」

 

「そりゃ私は横須賀のエースだからな。褒めてもいいんだぞ?」

 

 やっぱり……キツイときは頼もしく見えるな、この人は。少し焦げた顔で得意気に笑う友人に、力なく笑ってみせる。

 

 歩いて帰るか……。動悸の激しくなっていた自分の体を深呼吸で無理矢理落ち着かせる。2人から味方の増援が控えている場所を聞くと、ネ級は鎮守府への……エスコート隊が待ってくれている場所まで歩みを進めた。

 

 

 

 




いよいよ今章も佳境です。目まぐるしく状況が切り替わる戦闘シーンは書いてて楽しいけどすっごい疲れる(標準語)

以下から好きな食べ物をお選びください。多少今後の展開に影響します。

  • すき焼き
  • 焼き肉
  • たこ焼き
  • 手巻き寿司
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