職業=深海棲艦   作:オラクルMk-II

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久々の間隔早め投稿です(当社比
その代わりあまり推敲してないので誤字脱字がありそうですがご了承をば


32 自分も知らない本音を響かせて

 

 

 はっ、として目が覚める。かかっていた羽毛布団をふっとばし、防空棲姫は上体を起こして忙しなく周囲を見渡す。

 

 自分の寝かされていたベッド含め、家具類·壁紙などがなんだか全体的に白っぽいこの部屋は医務室か。手首に点滴が刺さっていたのを見てそう思う。すぐ近くにはレ級が椅子に座って本を読んでいた。

 

「「……………」」

 

 目と目があった2人に無言の間が続く。いきなり起き上がった病人にレ級はビクリと体を震わせたが、彼女は努めて落ち着いた様子で何か手帳に書いて防空に手渡した。

 

『少しお待ちください。喋れる者と交代します』

 

「……どうも」

 

 気遣いだろうか。小型のウォーターサーバの載った机をベッドに付けてから、女は部屋を開ける。一体何があったんだっけ……。寝惚けた眼で、タンクに浮かんでいた薄切りのレモンを眺めながら防空棲姫はぼんやりしていた。

 

 

 

 

「おはよ。よく眠れた?」

 

「さぁね……体の節々は痛むけど」

 

 数分後、防空棲姫の前に、仮面を付けずに素顔を晒しているネ級……と、もう一人、自分の知らない艦娘が現れる。長い黒髪をサイドテールにし、紫色の制服に身を包むその女を警戒して防空は目を細めた。

 

 怪我の心配をしちゃいるがアンタも大概ひどいな。ネ級という深海棲艦の特徴である触手が両方とも包帯まみれになっているのを、彼女に汚れたガーゼを交換されながら眺める。謎の艦娘はというと、部屋の換気でもするのか窓を開け、何かの液体の入った瓶に竹串が指してある妙なものを花瓶の隣に置く。

 

「……ネ級、誰? その艦娘は」

 

「そのネ級の友達。自己紹介遅れたな、名前は那智っていう。よろしく」

 

「ふ〜ん……」

 

「気張らなくていい。事情はもうヲリビーからもネ級からも聞いてる」

 

「そういうこと。一応木曾も知ってたみたい……あんにゃろう、私に黙ってたけど……」

 

「あっそ。」

 

 初め、初月から言われた事が衝撃過ぎたのか、それとも自分の中で様々なことがどうでも良くなってしまったのか。自分が深海棲艦であることを知っているなどと言われた所で何も感じない。

 

 そしてそんな事よりも。防空棲姫は自分が気絶したあと何があったのかをネ級に尋ねた。

 

「…………あのあと何があったの。死体をみんなが撃ち始めたぐらいから記憶が無い」

 

「海中から姫級が出てきた。深海海月姫って言うらしいんだけど……まぁ、全員負けて敗走したかな。まず最初に貴女が捕まって……色々あったけど、こっちの那智とかにも助けてもらって、防空さんは私が抱えて帰ってこれたよ」

 

「……負けたんだ。私。……深海海月姫に」

 

「あなただけじゃない。天龍さんも、摩耶さんも、みんな負けたよ。どうにか暴れて隙を見て逃げて来たの。命からがら、ってやつかな」

 

 負けた……のか。戦うこと以外に取り柄のない自分が――。その事について別段誰かに責められたわけでもないが、防空棲姫は涙を流した。目元を隠したくて、腕を顔の上に置く。そんな彼女をなんとも言えない表情で眺めつつ、ネ級は強引に話題を変える。

 

「リンゴとナシ、あと柿があるけどどれが好き?」

 

「別に……好きにすれば………」

 

「そっか。じゃ、私ナシ好きだからナシ剥くね」

 

 窓側に頭を向け、枕に顔を埋める防空棲姫に。包丁で器用に果物の皮を向きながら、ネ級は続ける。

 

「……別にさ、そんなに自分のこと責めなくていいんじゃないかな。そりゃあんなボコボコに負けたらツラいけど。みんな生きて帰ってきたんだし。命あっての物種ヨ。」

 

「気休めなんて……いらない……」

 

「ち〜が〜う。そんなんじゃない本音も本音のホントで言ってる。もしかして自分が弱いだなんて思ってないよね?」

 

「弱くないならなんな」

 

「防空棲姫は強いよ充分すぎるぐらい。あれはさ、巡り合わせが悪かっただけでしょ」

 

 自分の発言に被せて話す相手に苛立ちを隠せず、思わず防空棲姫はまた起き上がって怒鳴り声を上げそうになった。のを、ネ級はその行動を読んでいたように、開き始めた彼女の口に剥いた(なし)を突っ込んだ。

 

「ふふっ、相変わらず強引だな……」

 

「ストーップ。この話もう終わり、良い? あなた3日も寝てたんだよ。点滴だけだったから、お腹空いてるでしょ? これ食べな」

 

「…………。」

 

 後ろで笑っていた那智と、無理矢理に話を折ったネ級を睨む。しかし怒る気力もなくなって、防空は大人しく爪楊枝の刺さったそれを食べ始めた。

 

「……………………。」

 

「……味うっす。あんまり()れてないのかな?」

 

「どうだか、安物なんじゃないのか?」

 

「木曾が病院まで持ってきたやつならすっごい美味しかったのにな」

 

「ばっか、ありゃ贈答用の高級品だぞ。そんじょそこらのスーパーで買えるようなモンじゃない」

 

 マジで? マジで。 などと中身の無い会話を繰り広げる2名をぼんやりと眺める。前に居た木曾と同様、この艦娘ともネ級はきっと友達同士なんだろうな……。うつむき加減でいると、防空の脳裏には今まで嘘の関係を構築していた妹達の顔が浮かんだ。

 

「私のこと……みんな知ってるんでしょう? 教えて……ネ級……」

 

 ふと、そんな言葉がぽろりと口から滑る。すると、ひと呼吸置いてから、ぎこちない笑顔でネ級は話す。

 

「えぇと、確認するけど貴女の……正体の事について、だよね?」

 

「うん」

 

「あ〜……んとね。那智、ごめん」

 

「おう。説明か」

 

 少し離れて壁に寄りかかっていた那智が近くに来る。彼女は手帳の1ページを開いて、それを防空の布団の上に置いた。

 

「詳しいことは後で話すがな。私がここに来てるのは、まぁ、アンタ絡みの事なんだ」

 

「!?」

 

「驚いてるとこ申し訳無いがその事は後だ。最近、ここでアンケートを取った。知ってたのは五分五分ってところかな。それが多いか少ないかはあなたの感じ方次第といった具合だろ」

 

 手帳の見開きを見ると、この鎮守府に居る艦娘の名前がリストアップされていた。そのところどころに星のマークが付けてあるが、それが恐らくは自分の事に感づいていた者かと察する。

 

「知らないやつは本当に知らないし、薄々勘付いてたのは揺すったらすぐ教えてくれたから、(あぶ)り出すのはそう難しくなかったよ。……こう言って信じてくれるかはわからないけど、みんな貴女を気遣ってた」

 

「なんでさ。深海棲艦を」

 

「1つはコイツ((ネ級))やらヲリビーやらの存在だろうな。人の言葉が話せて、別に害になるわけでもない。さも当然のように仕事をこなす連中が現れたから、まぁ問題を起こさなければほっとこうとでも思ったんじゃないのか」

 

「1つは、ってことは他にもあるの」

 

「貴女が良い人だからってのがデカいんじゃ無いかな」

 

「……フフっ。さぁ、どうなんだろうね」

 

「……みんな心配してくれてるぞ。それに知ってた人らはみんな揃って私に釘指してきたんだ……「どうか彼女が深海棲艦かも知れないってことは、他の子にも本人にも内緒にしてくれないか」って。」

 

「!?」

 

 「それをバラしてる那智は最低だね」「自覚してるから言うな」 話している内容のせいなのか。2人の表情がどことなく寂しそうに見える。しかしなかなかどうして、なんで自分の事を察していながらみんなは黙っていたり、そればかりか庇ってくれているのかがわからなくて。防空棲姫は頭の中が無になった。

 

 ガチャン! と、唐突に大きな音が、ドアがあった方から聞こえて3人の視線が入り口に向く。何かと思えば、今度は霞が来た。また知らない艦娘だ、と防空は思う。

 

「怪我人が起きたって聞いたけどあんたら出てこなかったのは何? そいつと長話でもしてたわけ??」

 

「今しがた言いたい事はだいたい終わりました。どうしました?」

 

「どうしましたじゃないわよ用事終わったらさっさと出てきなさいよ。アンタが無駄に仕事請け負ってたせいでね、抜けてる間に埋め合わせするこっちは忙しいのよ」

 

「あぁ、すみません」

 

「那智もなんか言ってやんなさいよ、お人好しにも程があるわよその深海棲艦」

 

「私は放任主義でして。霞さんもご存知でしょう?」

 

「…………はぁ。そうだったわ、全く……」

 

 なんだなんだ、台風みたいな女だな。いきなり入って来てかき回してくる艦娘に少し引いていると。クイッと顔をこちらに向けてきた霞に、防空棲姫はドキッとした。

 

「……何ですか」

 

「失礼だけど、部屋の外で盗み聞きさせてもらったわ」

 

「「「……!?」」」

 

「情けない深海棲艦。ここにいる誰よりも強いくせに、だらしないわね」

 

 アンタ今しがた来たカンジしといて外に居たのかよ!? そんな事を言いかけたネ級と那智に、純粋にここまでの暴言で腹が立っていた防空棲姫を放って霞は続ける。

 

「この狭いところで暴れまわろうだなんて考えない事ね、このクズ。全治1ヶ月の大怪我……それがアンタの治癒力と薬で縮まったらしいけど、完治は最短で5日はかかる。言ってることわかるかしら?」

 

「何が言いたい」

 

「あっきれた……ネ級に世話されながら寝てろってんのよ。はっきり言わなきゃわかんないわけ??」

 

 いい加減止めたほうが良さげだな。そう思ったネ級は立ち上がると、自分よりも背の低い上官の両肩に手を置いて(なだ)める。

 

「ストップ、です。霞さん。流石に口が強すぎますよ」

 

「アンタは甘やかしすぎよ、こういうね、自分の能力にうぬぼれたクズにはこれぐらい強く当たんのが当然なんだから」

 

「いえ、流石にそれがあってたとしてもクズ呼ばわりはちょっと」

 

「なによ。じゃあ代わりにアンタのことクズって呼ぶわよ」

 

「それで霞さんの気が晴れるならどうぞ。」

 

「かぁ……!? ん……い、いいわ、なんだか頭痛くなってきた……」

 

 口撃の矛先を向けられてなお、ニッカリと笑みを浮かべたネ級に、顔を引きつらせながら霞は大きくため息を吐いた。

 

「と·に·か·く! 傷が治るまではそこで寝てろって事。わかったら梨でも食べて安静にしてなさいな。全く…………」

 

 吐き捨てるようにそう言うと、霞はずかずか歩いて部屋から出ていった。荒々しい動作とは裏腹に、入って来たときとは正反対に静かに戸を締めたのを見て、真面目な人だな、などとネ級と那智は言う。

 

 一体何だったんだあの口の悪い女は。イライラしながら防空棲姫は口を開いた。

 

「あの暴言厨は何なの? なんかだんだん腹立ってきた」

 

「私が前に助けてから接点ができた知人、でしょうか。私なんて歯が立たない方ですが」

 

「ちなみに私の元先生だ。今の軍でも駆逐艦なら上から数える手練だろうな」

 

「……そんなに強いの」

 

「今、駆逐艦の霞を名乗っている方ではナンバー2だとか」

 

 ふ〜ん……。それを聞いて、つまらなさそうに防空棲姫は深呼吸をして自分を落ち着かせる。

 

 簡単に状況説明を終えたら、少々滅茶苦茶な行動で霞が嫌われ役を演じ、場をかき乱して病人に余計な事は考えさせないようにする――そんな仲良し3人の作戦に、実はうまく乗せられていたのだが。もちろん防空棲姫は気が付かなかった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 療養中の防空棲姫の部屋をあとにして。ネ級と那智は、木曾と霞、そして天龍に初月の4人が待つ艤装の保管庫に向かう。

 

「…………」

 

 万感の思い、って言うのは今の自分みたいのを指すのかな。寝て起きたら陸にいた、という状況だった1ヶ月と少し前だが、それに近しい目まぐるしい動きを見せたここ2、3日をネ級は思う。

 

 初めは彼女がここの提督のおかしな動きとその正体に感づいた辺りからだった。実はネ級はこれは一人では手に負えないと早々に悟り、木曾と、知人の中では頭が回るところに期待して那智に助けを頼んでいた。これがおよそ1週間ほど前の事で、あの海月姫に出くわしたのが4、3日前になる。

 

 全くの偶然で、運が味方をしてくれた結果だが、ネ級の人選はほぼ完璧と言えた。

 

 那智は彼女の抱えていた爆弾のような話題を真顔で呑み込み協力してくれたし、また何の巡り合わせか、以前助けた霞はなんと那智に海戦の手解(てほど)きをした教官だったのだ。「借りを返しに来ただけ」とは霞は言っていたが、たったそれだけのために、那智から相談を受けて強引に助っ人として合流した彼女は、エスコート隊が受けた任務の危険性を察知して無理矢理3人で突撃してきたのだという。

 

 ここでネ級は改めて、那智と木曾の2人の頼もしさを知ったがもう一つ。自分の助けた霞という女の恐ろしさも知る。実はあの急な援軍は完全な独断出撃で、更には嘘の報告で控えの味方とエスコート隊の回収部隊を用意していたらしい。そんな事をしてただで済むのか? と思ったが、この()の凄まじさはここからだった。

 

 ネ級も薄々は勘付いていたが、先に依頼を受けた部隊はまず間違いなく全滅していると検討を付けると。霞はまず、エスコート隊が全滅した際の「損失」や「費用」などに目を付けた。

 

 軍きっての貴重な生きた深海棲艦の、それも言う事を聞いてくれる重巡ネ級。様々な作戦で手堅く信頼を得、目まぐるしく編成の変わるエスコート隊を当然のように制御する現場指揮官の天龍に、あまり性能の良くはない装備の駆逐艦でありながら非凡な戦果を叩き出す弥生。そして、激戦地から奇跡の生還を果たし((表向きはそうなっている))、目覚ましい活躍をしている秋月。エスコート隊の中ではこの4人が死亡した際の損害が大きいことを独断で助けに行った理由として説いたという。

 

 那智から聞いた話だが、特に彼女はネ級と秋月の事について念入りに言ったらしい。

 

 今2人が死ねば軍には損失だけが残る。ネ級の生態はどうか、協力的なのだから細胞などのサンプルも取り放題、人手不足の艦娘に混じって仕事もするし、良くも悪くも人権的にあやふやな存在のため金銭的なコストも低い。しかしそれに見合わない働きぶりで部隊ではウェイトが大きい人材となっている。

 

 秋月の方は、生きていたということで鬱状態一歩手前の者の士気を上げ、その抜きん出た戦闘能力で皆の盾となり、矛になっている。特にこの艦娘が死ぬと、精神的に持ち治っていた同型の駆逐艦の姉妹らの落ち込んでいた優秀なパフォーマンスがまたガタ落ちする危険性も孕む――これだけの爆弾が炸裂し、抜けた場合の埋め合わせはどうするつもりだ?? 大雑把に霞はそんなようなことを言ったという。

 

 前に上官に向かって「うるせぇ」と遠回しに言った自分が言えたことではないかもしれないけど。すごい人だな。純粋に鈴谷はそう思った。

 

 予想に過ぎないが、きっと霞さんは多くのお偉い様に囲まれてごちゃごちゃ言われただろう。だが今、3人が普通に過ごしているのを見るに、それを真正面からねじ伏せて自分の事を正当化したのだろうか。そう考えると彼女は腕っぷしの他に口まで上手いということになるが、とんでもない人を味方につけたな、と思う。

 

 色々と考え込んでいると、目当ての場所に着く。開け放しになっていた戸をくぐり、2人は中に入った。

 

「待ったか?」

 

「いや、みんな今来たとこ」

 

 ソファに腰掛けて水を飲んでいた木曾に那智が尋ねるとそんな返事が帰ってくる。ネ級がドアを閉めるのを眺めつつ、全員が集まったことを確認し。テーブルに置いていたノートパソコンを操作していた天龍が口を開く。

 

「全員来たよな。じゃ、作戦会議と行こうぜ」

 

 その場に居た各々が静かに頷いた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

提督と研究員? 盗撮音声2

 

 

『あ、あ。ヨシモト、報告の時間だ』

 

『離島棲姫·港湾棲姫共に健康状態もメンタル面でも良好です。どうやら昨日の献立だったたこ焼きがお気に召したようです』

 

『たこ焼き、ねぇ。まさかそんな庶民的な物を言ってくるとは思わなかったがな』

 

『ははは。話を戻しますが、腕と脚は第13研究所が5000万円ほどで買い取りました。』

 

『5000万? 随分羽振りが良いな』

 

『ちょうど研究資料が欲しかったそうですよ。それも姫級の物という事でそりゃもう、引くぐらい喜んでいましたが』

 

『なるほどな……いっそネ級とレ級も引き渡そうか』

 

『ご冗談を。その2名は名目上は艦娘でしょうに』

 

 

 

提督と研究員? 盗撮音声5

 

 

『ヤマガタ、まずいことになった。聞こえてるか?』

 

『例の深海海月姫とか言いましたか。面倒な事になりましたね』

 

『全くだ……ネ級……いや、中枢棲姫め、余計なことを……!!』

 

『エスコート隊を差し出すのは失敗だったかもしれませんね。なによりあのネ級はこちらの予想よりも遥かに手練。あのような個体との繋がりもありますし……しかし私は疑問でした。あの部隊が抜けてしまっては、流石に業務に支障が出るのでは?』

 

『わかってたさ。海月姫と青マントの要求が段々と重くなって来てやがったんだ……あの戦闘狂どもめ。新人を差し出しても歯応えがないなどとのたまいやがって』

 

『歯応え……ですか。では別の鎮守府を炊きつけるのはいかがです? こう、連中に頼んで海で怪現象でも起こすんです。自然と軍の調査部隊が派遣されるのでは?』

 

『……なるほど。よし、ツ級に連絡しておくか』

 

 

 

提督と海月姫 内通疑惑?

 

 

『お、おい! 話が違うじゃないか! 私は確かに言われた通りの情報を……』

 

『情報? 笑わせるなぁ……。雑魚も雑魚ばかり、殺し合いにもまるで興が乗らん獲物ばかり寄越して。張り合いも楽しみもない』

 

『っ……少しぐらいは自重してくれと言ったはずだ。高練度の艦娘を、ましてや生贄まがいの単艦突撃なんてそう簡単に命令できるわけが―――』

 

『お前の事情など知った事じゃないなぁ。それに、だよ。私のかわいいタ級が、お前の子飼いのネ級とやらに殺されたと聞く。もう無理だねぇ……交渉は決裂さ……』

 

『うっ!? そ、それは』

 

『飼っている犬の強さすら把握していないとはねぇ……まぁ良いんだぁ……私はねぇ……君の所を襲いに行くつもりだよ。そしてとびきりの殺し合いを楽しむつもりだから……まぁ、覚悟は決めておいたほうが良いねぇ……』

 

『………………………』

 

『あぁそうそう。前言撤回だ、あのネ級とその周りはそこそこ楽しかったよ……あと、君と他の人間は逃げるといい……戦えないカスに用はないのさ……んふふふ♪』

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 パソコンの外付けドライブから出てきたCDを、天龍は一思いに拳で叩き割る。ネ級が妖精に頼んでいた提督の盗撮音声記録だったが、溢れ出てくるこの男の恐るべき正体と秘密に。部屋の全員は怒りと呆れの混ざった感情を抱いた。

 

 なんの事はない。話を聞いてきて見えたのは、ここの提督はどうやったのかは知らないが好戦的な深海棲艦と内通しており。その伝手で手に入れた姫級2体の深海棲艦の体細胞サンプルなどで金稼ぎをやっていたのである。……もっともあのような話も通じなさそうな危険な女(海月姫)と通じているものの、全く御せていない有り様に、6人は「人を見る目が無いな」と内心で失笑していたが。

 

 ディスクを壊した天龍はというと。ネ級からは別段激しく怒り狂っているようには見えなかった。上司のろくでもなさに気付けなかった自分へやるせなさ、呆れ、不甲斐なさでも感じているのか。少し悲しそうな、そんな顔をしている。

 

「大丈夫、ですか?」

 

「……まぁ、ちったぁ落ち着いたかナ」

 

「…………。こないだの青マントは、どうやら彼女の部下だったみたいですね」

 

「だな。」

 

「ごめんなさい」

 

「……はぁ?」

 

 唐突に謝罪してきたネ級へ、天龍他、その場にいた全員は少々間抜けな顔を見せる。

 

「私があれを撃沈しなければ……この女を炊きつける結果には――」

 

 そこまでネ級が言った時だった。天龍はにっかりと笑顔を見せながら、彼女の肩を叩いたあと、強めに揺する。

 

「ばーかっ! お前は何も悪かねーよ…………カッコ良かったよ。遠目で見てたけどあの時のお前は」

 

「!!」

 

「前も言ったっけ。自分の仕事に自身持っていーヨお前は。少なくとも俺らはそう思ってる、ワリィのはこんな得体の知れない連中とつるんでたこのクズ((提督))だって。な?」

 

「…………っ、ありがとうございます!」

 

 ネ級が気崩れた作業着の襟を直していると、初月と霞が口を開く。前者はにやにやしながら、後者は呆れ帰った様子で言う。

 

「……今改めて思うけど。やっぱりネ級さんはいい人だ。」

 

「えっ」

 

「どうだか。天然もここまでボケてるとなると先行きが不安だけど……ったく、海で会ったときはもっとクレバーな奴かと思ったのに」

 

「えぇと。霞教官が前に助けてもらったのがこの人だったんだっけ」

 

「そうよ。コイツに会って手当してもらったっていうのが私の自慢話だったってのに。こんなのだったなんて興醒めね」

 

 口では散々な言いぶりだったが。当の霞は、数カ月前に包帯が巻かれていた部分の傷跡を撫でながら優しい顔になっている。ネ級は恐縮してしまっていたが、他の者は彼女が遠回しに「害はない人物」と評しているのを何となくだが察して笑った。

 

 そんな雑談で場の空気が和んだ辺りで、話題も切り替わる。程よく緊張感のある雰囲気を漂わせながら、天龍と那智、初月らが話す。

 

「提督よォ。金に目が眩んだのかね。残念だよ、俺は……」

 

「そうかな。僕は薄々思ってたけどね。何か悪いことしてるんじゃないかって」

 

「というと」

 

「このところ妙に羽振りが良かったもの。車も高いの買って、ヲリビーさんみたいにブランド品持ってきたりとか」

 

「ほー。うちの佐伯とは大違いだな」

 

「俺知ってるぜ。第7横須賀の提督ってアレだろ、サビた白の15シルビア乗ってる人だよな?」

 

「そうそう……質素倹約とか純朴って言葉が似合う人だよ」

 

 なんだか懐かしそうに那智が言う。それを見ていた木曾の目が潤んでいるようにネ級は見えた。

 

「海月姫の襲撃か。忙しくなるぞこりゃ」

 

「さ、て、と。こりゃ準備が必要か、久々に本格的なヤツ」

 

「具体的にはどうする?」

 

「もう四の五の言ってられる状況じゃねぇ。秋月のこと知ってる奴らをかき集めて、迎撃の準備だ。まず手始めに艤装の改造かな」

 

 そう言うと、天龍は自分の名前が書かれた工具箱を手に取り、ある一点に視線を集中させる。

 

 一同が同じ場所を見れば。前の戦闘で破損してから放置されている、彼女や鈴谷の艤装があった。

 

「今ここにいる奴らだと霞サンと那智、木曾。この3人は別にいいよな、そこそこいいモノ持ってんだし」

 

「自慢じゃないけど、まぁ、そうね」

 

「教官に同じく」

 

「俺も賛成」

 

「初月はどうだ? 何か不安とかあるか」

 

「今の所はないよ。最近あまり忙しくもなかったから、変に壊れたものとかも無いし」

 

「なるほどな……やっぱ問題は俺とネ級だよな……」

 

「すみません……」

 

「いいんだよ。メチャクチャにぶっ壊したのは俺だって同じだ。それに、敵にやられた俺と違ってお前は仲間助けるために壊したんだし。むしろ誇れよ」

 

 コツン、と軽く自分の鉄くずを蹴りながら天龍は言う。手帳に何か書きつつ、彼女は続ける。

 

「俺とお前のは新品発注しとくか。予備のがあるったってまたぶっ壊されて再出撃って事も有りそうだし」

 

「そうだね。僕もそう思う」

 

「あとはあの髪の毛対策か。私と木曾で捌いてたがあれはなかなかキツかった」

 

「一応こっちの魚雷やら砲弾とかの火薬で焼き切れはするんだよな。非効率だけど」

 

「焼き切る、ねぇ? 全員ナイフか何か持ってたほうが確実じゃないか?」

 

「ナイフって。どーすんのよ、今から格闘訓練の習熟でもやるわけ?」

 

「保険だよ保険。万が一刺されたときにすぐ抜けれる手段が欲しいしな。俺もやったが刀とかになると、デカすぎて取り回しがよ」

 

 ここの提督と海月姫の会話上では、この鎮守府の艦娘は皆殺しになる事になっていたが。もちろん指を加えて見ているだけになるつもりも無い天龍らはどうすべきかと議論する。そんな中で、廃材置き場から何か修繕に使える部品でも無いかとネ級が鉄くずを漁っていたときだった。

 

 ここ数日、働き詰めでネ級は目の下に深く隈が入っていたが。那智や木曾なんかも同じようなことをしていた手前、他人に指摘するのは気が引けたが、流石にかなりの疲労の色が親友の顔に出ているのを見て心配する。

 

「…………ネ級、いいか」

 

「? どしたの那智」

 

「後は私らに任せて寝たらどうだ? クマ凄いぞ」

 

「えっ、いや、でも」

 

 グッ、と。ネ級は服の肩を霞に掴まれた。

 

「いいから寝てきなさいアンタ。そんな顔見てるとこっちも具合悪くなんのよ」

 

「そうですか?」

 

「あのねぇ……友達なんでしょ。そういうのの言う事は、素直に聞いとくものよ。」

 

「……わかりました。」

 

 いつもの霞らしくない。優しい声色で、諭すように言われてしまって言葉に詰まる。仕方なく、ネ級は大人しく自分の寝床へと戻る事にした。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「……久し振りだね」

 

「んぇ、どうしたの。なんかいつになく私への態度が優しいけど」

 

「別に。怒る気分でもないし」

 

 さて、あのあと大人しく友人らの言うとおりに眠りに就いた鈴谷だったが。この日は久し振りにネ級と対面する夢を見る日となった。

 

 今日の夢の舞台は映画館だった。スクリーンにはコメディ映画が流れており、まばらに客がいる席のあちこちでは笑いが上がっている。慣れた様子で、なぜか手に持っていたポップコーンを食べながら鈴谷は隣のネ級と話す。

 

「な、なんか適応してない鈴谷??」

 

「別に。4回目ともなればこーなるってだけ」

 

「へ、へぇ?」

 

「ふふっ、結構面白いじゃんこの映画」

 

 どうせ夢だからと鈴谷は足を組んで前の座席にかかとを乗せ、恐ろしくマナー違反な態度で映画鑑賞に臨む。ネ級はというと、最初の頃とはあまりにもかけ離れた、大胆かつどっしりとしやがるこの体の持ち主に顔を引つらせた。

 

 乾いた喉を水で潤す。深呼吸を1つ。鈴谷はネ級へ、真面目な話題を切り出した。

 

「最近さ。疲れが取れないんだよね」

 

「寝てないからでしょ。バカみたいに仕事しすぎだもの、それこそ那智とか木曾とか来てくれてるんだから任せりゃいいのに」

 

「そ~なんだけどさ……なんか、頼りっきりってのが落ち着いてられなくて」

 

「ふ〜ん。貴女らしいっちゃらしいけどね」

 

 最近テレビを賑わせる流行りのタレントの顔が画面に映る。すっとぼけた態度でバカをやる彼の顔を見つつ……笑える場面だが顔を綻ばせず、鈴谷は続ける。

 

「勝てるかな。私は、あの海月姫に」

 

「難しいだろうね。見ていた限り防戦一方だったし、かといってこっちから大部隊なんぞ持ってったらまるごと乗っ取られる危険性もある」

 

「だから精鋭1人、戦うにも多くてもアイツの相手は3人が限界ってとこだよね」

 

 どこまでもこちらを舐めてかかってるのが見え見えな、憎たらしい笑顔を思い出す。水の入ったカップを潰しながら、鈴谷は心を落ち着かせた。

 

 ふと、彼女は思い出したことがあって、「そういえば」と会話を切り出す。

 

「もし、何かあった時。貴女って私の体を使えるの?」

 

「!? どうしたの今日本当に?」

 

「答えてよ。その、もしも私が死んだりして――貴女にこの体の「主導権が渡る」みたいな事って発生するわけ?」

 

 こうして夢の中では会える同居人だが、鈴谷は、ずっとこの人物は自分のもう一つの人格か何かなのではと考えていた。この際なので聞いてみることにする。

 

「死んだときにどうなるかはわからないかな。貴女と同じくぶっ飛ぶかもしれないし、今度は私が表に出るかもしれない」

 

「そっ、か。」

 

「でも多分できるよ。貴女が「やって」って言うなら私が体を動かすってのは」

 

「本当? じゃ、やってくれるんだ」

 

 目を輝かせる鈴谷へネ級は尋ねる。

 

「にしてもどうしたの急に。私に身体を明け渡すだなんて。不安じゃないわけ?」

 

「……別に。なんか嫌な奴には思えないから」

 

「変なの。最初の頃あんなに警戒しといて」

 

「だって、さ。」

 

 組んでいた足を戻し、隣の者にしっかりと向き直ってから鈴谷は言う。

 

「冷静に考えたら貴女別に変なこと言ってきてないし。言う事は、だいたいこっちの助けになってるし。だからいざってとき、私が動けないときにはいいかなって」

 

「…………………。」

 

「あとはそう。さっき言ったけど、最近疲れて……る……から……」

 

 まぶたが嫌に重く感じ、それと同時に鈴谷に睡魔が襲ってくる。だがいつものような急激なものとは違う。自分自身の疲労によって起こされる眠気だと察して、鈴谷は必死に言葉を絞り出した。

 

「ちょっとでいい、から……防空とか……那智……けて…………げ……て」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 どうやら落ちたらしく、鈴谷は気持ち良さそうに寝息を立てて動かなくなってしまった。

 

 「全くもう……」 大きくため息を吐く。深く座席に身体を預けて無防備に寝る鈴谷へ、薄手の毛布をかけ、ネ級は立ち上がってシアターの出口に向かう。

 

「約束なんてしたからには。やりますかね、悪いこと(いいこと)

 

 いつになく真面目な面持ちで。彼女は観音開きのドアを開いた。

 

 

 

 

 

 




佐世保の彼は銭ゲバゲス提督でした。ちなみに彼らは金稼ぎの元手を得る代わりに、見返りとしてバトルジャンキーな青マントや海月姫には、それなりの練度の艦娘を生贄として差し出していたりしました。もっともネ級と那智らの抵抗でそれらも無に帰しましたがね!()

以下から好きな食べ物をお選びください。多少今後の展開に影響します。

  • すき焼き
  • 焼き肉
  • たこ焼き
  • 手巻き寿司
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