非常にどうでもいいですが今回はずっと作者の作品を追い掛けてくれた方々へのファンサービス回だゾ()
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34 オレラ世界に立った一人だよォ
鎮守府のガレージは、今日は賑わっていた。この場所は大抵、整備工員と出入りの業者で面子が限られているが、ここ最近は自分らで艤装の整備を始めた数人の艦娘も、少しずつ見受けられるようになった。
フォークリフトに乗って運ばれてきた自分の艤装その他、諸々の発注した部品を見て天龍はため息をつく。本来こういったものは艦娘から提督に打診するものなので、艦娘のほうで勝手に発注したりすると何事かと怪しまれる。が、「なぜか」この頃どこか上の空な自分の上司は、自分の机から判子が持ち出された事にすら気付いていなかった。
「オーラーイ、オーラーイ。OKでーす」
「どーもー。すぐあけますか?」
「うっす。ちょっと中身見たいんで」
どうせ経費で落ちるのだ。そんな考えから天龍は勝手に上等品の搬入を打診していた。梱包を剥がすと、以前のものよりも高性能の砲と出力機が搭載された自分用の艤装が姿を見せる。
こんな時でもなければ、多少テンションアガんだけどな。そんな事を思いつつ、安全装置や配線など、これを動かすための準備を行う。そんな折、今日の作戦を終えた自分の部下たちが続々とガレージに入って来た。
「お疲れさまです。……艤装、届いたんですね」
「お疲れ。来たよやっと、着いたのはネ級のの次だ」
「何か手伝います? アタシ隊長より不器用っすけど」
「いーよ、今日は俺暇だし。それよか摩耶は自分の準備しな」
「っす。ども。あ、これ、整備長から差し入れらしいです。みんなで食べるようにって」
「お、マジか。ありがとな」
昔から肩を並べて働いていたからか、整備の人間が天龍に寄越してくれたのは甘味ではなく煎餅やスナック菓子といった塩っ気のあるお菓子だった。慣れない整備作業で疲れていた彼女は有り難く受け取る。
あの日、エスコート隊が海月姫に手痛いダメージを負ってから。どこか自分らの実力に
良くも悪くも、この鎮守府の艦娘は全体的に能力が高い傾向にある。そのため必要最低限の装備を背負って、最高の効率で戦果を出す……という考えに囚われている点があり。結果、確かに被害が出たときの金銭的な損失こそ少ないかもしれないが、日々、技術の進化と共に更新されていく装備を意欲的に使いこなす、という点に置いては見劣りする所がある。
その点を突かれたのが、ここ数日間での戦闘だった。
旧式の物に混じり、受領していた大型の装備を上手く乗りこなし、海月姫との戦闘では中枢棲姫製の最新装備と艦載機、更にはあまり使われていない魔法の格納技術まで駆使して暴れ回り、文字通り死ぬ気で血路を開いたネ級だったが。天龍ら、古参の者はそのやり方に秋月の事を思い出した。
決して練度は高くなく、それどころかハッキリ見劣りするレベルの実力。だが彼女は実費まで切って用意した装備に助けてもらう形で、その差を埋めてきた。当時は下駄を履いているだけだと馬鹿にするものまでいたが、あのような明確な格上を相手するにあたり、皆は考えを改める。
天龍は操られているときにじっくりとネ級を観察していて気づいた事があった。当然といえば当然の事だが。彼女が何か新しいこと、もしくは妙な装備を持ち出すと海月姫は狼狽えていた、という事だ。
新兵器、とは性能以外にも副産物がある。相対する敵を威圧したり、どんな物かと考える時間を作らせて行動を鈍らせたり、予想外のギミックがあれば強引に隙を作り出すこともできる。
装備に助けてもらう。自身よりも下の、簡単に倒せるような敵ばかり最近は相手したせいか。簡単なこと忘れてたな、俺は。天龍はその威力に頼ることに……天龍以外にも、過去の秋月のこと。そして状況に応じた武装の選択が上手いネ級を見て、実力以外にも艤装という点を見直す艦娘が増えた。
考え事混じりにボルトを締め直すと、天龍は出来上がったモノを机に乗せる。軽く起動してみたが問題はなく、正常に動いた。「良し」と小声で言うと、近くでネ級の装備を見ていた摩耶と鳥海の会話が聞こえる。
「しかしよ……あいつなんでこんな艤装に詳しいんだ?? 消耗品の交換も自分でやってあるし」
「いつも肩に乗ってる妖精さんから聞いてるみたいよ。私も備品の整理をしに来たときに見たし」
「面白い話か? 混ぜてくれよ」
「隊長」
やる事は一通り終わったので、天龍は柿の種を一袋つまみながら整備中の艦娘らに交じった。
「変わってるよなぁホント。艦娘でもそんな居ないよなぁ整備自分でやるやつ?」
「……別にマイナスになることでもないのにな。」
「? どうしましたいきなり」
「いいや。別に……」
米菓をボリボリ噛み砕いてその場から離れ、天龍は今度は3人の様子を遠巻きに見ていた初月の近くに寄り、口を開く。
「なぁ、初月」
「……何かな。天龍さん」
「俺は、さ。俺らの行動、なんか全部提督サンに操られてた気がしてならねぇよ」
「………………………。」
「平和ボケってのは怖ぇよな。自慢じゃないけどさ……俺はちょっと前まではけっこー自分は強かったと思うんだよ。前、横須賀のフィフスシエラって部隊に居て……周りの奴らも強くてよ。頑張って姫級とかも倒してきた」
「うん。戦歴、すごいんだっけ。何かで見たとき、僕はびっくりしたよ」
「でもこっちに来てから周りはザコばっかで。良い装備持つ必要もねぇからグレード下げて、武器もしょっぱいのにした。それでもそこそこ戦えてたから、まぁそれで良いんだとか思ってたらこれだ」
食べ終わった物をキチンとくずかごに入れて、尚も続ける。
「強かった奴を、ヌルい場所で飼い殺してから、強えキチガイどものオモチャに仕立て上げる。そんなシナリオの構成部品にされた気分だ」
「…………僕は、なんて答えるべきかな」
「……イヤ、わりぃな。暗い話に付き合わせちまった」
お互いにバツの悪い顔になって、天龍はまた摩耶たちに混ざろうとした。それを、初月が引き止める。
「また摩耶たちにちょっかいかけて……」
「天龍さん。」
「っとぉ。なんだよ」
どこに視線を合わせているのか……なんだか虚ろな様子で、初月は言う。
「例え真実がそれだったとしても……僕は、まぁ、悪くなかったと思ってるよ」
「?? またすげぇこと言うな」
「うん……だって。あの男がそう仕向けたから、今の姉さんとか、ネ級とか、木曾とか。そういう人たちと出会えたと、僕はそう思うから。」
「…………………巡り合わせ、ね。お前けっこうロマンチストなのな」
「そうかな?」
どこか影の指す顔にはにかみ笑顔を貼り付けて初月は答える。
『気になってたケド……ネ級のコレよ、普通と見た目違う気がすんだけど』
『砲身が切り詰めてあるんスよ。ほら、アタシのと並べたら』
『ほんとだ。なんだってこんな?』
『取り回しの問題ってやつだな。アイツは駆逐艦みたいな近い間合いで戦うことも多いし、そんなに射程距離なんて重視しないで、素早く振り回せるようにこんなにしてるんだと思う』
『いいわねこれ……真似しようかな……』
いつの間にかガレージはそれなりの人数の艦娘が集まっていた。離れた場所では、摩耶たちがネ級の装備を見て自分らの改造のアイデアに使えないかと盛り上がっている。
「……。いっちょ、足掻いてみるか。
「うん。」
袖を捲くりながら、今度こそ天龍は自分の部下たちの元へと歩いていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
着々と準備を整える日々を過ごすこと数日。ある日、どういうわけか天龍は深夜に提督に呼び出されて執務室に向かう。
このところ機械油と親しむような時間をの使い方をしていたから、書類と関わるのは久々に感じるな。そんな事を思いつつ、扉を開く。
「うぃ〜す。明日の仕事で……す…か」
彼女の視界に、見慣れない3人の艦娘が入った。予想外の光景に思わず口ごもる。
「天龍、いきなりで申し訳ないな。今日から補充人員として来てもらった艦娘になる。施設の案内等、頼む。君たち、挨拶だ。」
綺麗な銀髪とスタイルの良さが目を引く者。長い黒髪に着物姿といった艦娘に、短めの茶髪とスーツとセーラー服を合わせたような服装の小柄なヤツ。そんな3人が、それぞれ口を開いた。
「呉から来ました。駆逐艦·浜風です。よろしくおねがいします」
「特別に一時、こちらの所属になります。祥鳳です」
「自分は若葉。どーぞお手柔らかに」
駆逐艦が2人に、軽空母1、ねぇ……? 眼前に立つ3名に、内心でだが天龍は特大のため息を吐いた。
言うまでもなく現時点でこの鎮守府は危機に直面している。数で当たれば当たるほどこちらが不利になる敵がいると言う事で、天龍はあの深海海月姫には少数精鋭で当たるべきとは考えていた。が、当然だが敵は一人ではない。周りを固める一般級が複数いるだろう事は既に予測している。
憎き海月の野郎には防空棲姫とその義妹で腕が立つ照月、補助にネ級か霞あたりでも当てておけば万全としても、それに茶々をかけてきそうな他の敵には、戦艦や空母の艦娘といった火力を集められる人員が欲しかった……のに、この提督と来たら……。今しがた渡された書類と3名とを交互に見る。
「あー、その……どうも。今来たばっかか。3人とも」
「はい。天龍教官は、輝かしい戦果を挙げたお方だとお伺いしています。ご指導ご鞭撻、お願いします」
「よろしくお願いします」
「横に同じく」
真面目な挨拶をした2人と、どこかおふざけが見える1人を流し目で見る。まず、突っ込みどころが多すぎるが何から言ったものか。天龍はこめかみを抑えながら発言した。
「もうちょっと、その……戦艦の子とかは寄越してくれないのか上は」
「ごめんな。俺の権限じゃ、この程度だ」
…………。ウダツの上がらないってぇのは、こういう人間を指すんだろうな。このタイミングでこんな適当な増援。抵抗する気があるのか、俺らを見殺しにする気なのかわかんねぇよこれじゃあ……。
心底呆れた様子で、天龍は何度目かわからないが内心溜息を吐いた。若葉、と名乗ったものはニヤニヤしていたが、他2人は軽く見られたのを不服に思ったか、少し機嫌が悪そうだ。
「……そっか。悪ぃ、聞かなかったことに――――」
そう、天龍が話を切り上げようとした時だった。1つ、気になる「音」を彼女の耳が拾う。
コツン、コツン、コツン――と。なんだか自分の足元をよく確認し、踏み締めているような。革靴か何かが地面を叩く足音だ。真夜中の廊下によく反響して聞こえてくる。
なんだ、この時間だ、廊下をウロチョロしてるやつなんて居ないはずだが。そこまで考えたところで、執務室の扉がバンと乱暴に開かれた。
「「「「「ッ……!?」」」」」
きっと真面目な性格なんだろう。浜風、と名乗った艦娘が「ノックもなしに入るのは失礼だ」とか、そんなような事を言いかける。が、入ってきた「女」に。その場にいた全員が息を呑んで驚愕した。
「……? チッ……………フン、あのボケたネ級が居るって聞いたんだけど……何なのかしら、この見るからにザコ同然の艦娘どもは」
自分も知るネ級やレ級と同じ、真っ白な長い髪。下着姿の上から丈の短いジャンパーを羽織り、下はジーンズ姿と随分ラフな格好の女だったが、問題はそんな事ではなかった。
どこからどう見ても。この威圧感、不機嫌そうな表情にある赤い目に、じわじわと体から放出されている妙なオーラ。天龍も数回交戦したことのある姫級の深海棲艦のそれだった。
執務室に気怠げに入ってきたのは、あのネ級達と一緒に捕虜になった深海棲艦。南方棲鬼だった。
反射的に思わず身構えそうになったが、天龍は必死に臨戦態勢を整えたい本能をねじ伏せて平静を装う。というのも、そもそもこんなところにノコノコやってくる時点で何かの仕事で来ている相手であろうし、敵ではないという情報は彼女も知っていたからだった。
あの海月とか言うやつとはまた違った空気感だ。油断したらゲロが出るぜ……。顔を青ざめさせていた彼女を見て、何故か少し笑顔を見せる南方棲鬼に。一体何なんだと独りごちる。
「へぇ……?」
「……な、なんですか」
「ふぅん〜??」
「?」
「お前と、お前。私を前に変な事をしようとはしなかった。度胸があるんだなァ……♪」
だから、何の話だよ……。天龍と、その後ろにいた若葉を指差す南方棲鬼に、冷や汗をかきながら天龍は愚痴を言いたくなる。見れば、なるほど、確かに他の者はあからさまに警戒している様子だったが、若葉だけは自分と同じく無理して平常心を取り繕っている。
天龍は昔、何度も鬼·姫級を撃破した現場に立ち会ったことはある。が、いくらなんでもこんな至近距離で、こんな危険な生き物と面と向かったことは初めてだった。一応、ネ級やレ級から話は聞いているので、妙な真似をしなければ害はないことは知識としてある。だが脳内の警報は鳴り止まないし、背筋を流れる冷や汗も止まらなかった。
「な、南方棲鬼……どうしてここに?」 どうやら予定に無い来客だったらしい。沈黙する6人の中で、初めに口を開いたのは提督だった。
「そりゃそうよ。だって連絡なんてして無いもの」
「こ、困るんだよ、アポイントメントぐらいは……」
「フフフ……何をワケのわからないことのたまってんかしら、この馬鹿チン」
「ッ!」
面と向かって罵倒を始めた女に、思わず男は何も言えなくなる。呆れたような顔だったのを、余裕さと
「助けに来てやった。男、お前じゃなく、ネ級とレ級の事だ。私は勝手に動く事にする。じゃあ、ごきげんよう」
無駄にキレのある動きで体の向きを変えると、そのまま南方棲鬼はひらひらと手を振りながら部屋から出ていく。
「…………………。」
最初にここに来た頃のネ級なんかは、どこかぎこちない行動が目立った。慣れない環境だからか、それとも周囲の艦娘からの視線を気にしていたのか、少なくとも天龍にはそう見えたものだ。
が、コイツはどうだ。調子に乗ったような態度を最後まで崩さず、平気でこちらに背中を向けてどこかに行きやがった。よっぽど自分のことに自身があるらしいな、と彼女は思う。
転勤してきた者との挨拶が目的だったのに、すっかり話題と注目を掻っ攫っていた乱入者に。明日からまた面倒なことになりそうだ、と、オロオロする3人とは真逆の、眠そうにあくびをしていた若葉を見て。天龍は軽い頭痛を覚えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目が覚めてすぐ、布団をふっ飛ばして鈴谷はソファから上体を起こす。
友人らから身を案じられて長めに寝かせてもらったが、なんだかやけに体が軽い。1日どころか数日かけて休みを貰ったみたいだ……休息って大事だな。などと考えつつ、身支度を整える。
「…………???」
ここで一つ、彼女は妙なことに気付いた。誰かが着替えでもさせてくれたのか、どういうわけか寝る前の自分と今の服装が違うのである。不審に思って確認すると、上着どころか靴から下着代わりの水着まで全部違う。鈴谷の脳内に大量の?が発生した。
次に、思考を切り替えて何気なしに自分の携帯電話を開く。カレンダーの日付が目に入った。4日が経過していて、今の時刻は昼の1時半程だった。
寝た日から4日が経過して、昼の1時ぐらいだった。
「!?」
肌着を見るのに着崩した上着を着直して寝ていた場所から飛び出す。
いや意味分かんない意味分かんないなんでなんでなんで? なんで4日も経ってんの?? そして誰も起こしに来なかったの??? 次から次へと疑問は湧いてくる。が、まず初めにクソ真面目な彼女が思ったのは、「こんな大遅刻をかましてどんな大目玉を食らうだろうか」という心配だった。
取り敢えず1日のスケジュールと仕事を貰う為に全速力で執務室へと急ぐ。廊下を駆け抜けていると、鈴谷は親友と出くわした。那智だ。
「那智ぃ!!」
「うぉっなんだ」
運動靴のソールが削れるような勢いで急ブレーキをかけて止まる。続けて口を開いた……が、会話の口火を切ったのは那智が先だった。
「! 目が赤い……鈴谷か!? お帰り!!」
「???」
「どうした? 変な顔して」
「………ごめん、いろいろわかんない。どゆこと?」
元気いっぱい、と言うよりかはダウナー気味な態度が常な友人が、自分を見た途端目を輝かせて話すのに強烈な違和感を感じる。そこに合わせて言っていることの意味もわからず、鈴谷は呆けながら質問した。
「んん……あぁ、多重人格……ってのは知覚してるのとそうじゃない人格があるっていうしな。なるほど」
「? ちょっとまって、多重人格?? 何の話???」
「…………悪いな、私も頭の中整理するわ……オッケィ、じゃ、話す。長くなるけど良いか?」
「そりゃ、まぁ」
大きくわざとらしい深呼吸をしてから、那智は口を開いた。
食堂で那智と木曽の二人に挟まれた状態で、鈴谷は真顔でハンバーガーを
聞けばここ数日間。ちょうど
「…………どんなヤツだった。アイツは」
「性格悪かったなぁ」
「面白いヤツだったよ」
「ふ〜ん……」
何気なくこぼしたら、木曾と那智の返しが被る。鈴谷的には2人のそれぞれらしい反応だった。
さっきまで話していたのでここは譲ろうとでも考えたのか、那智は木曾に会話の主導権を譲る。意図を察した彼女は鈴谷に続けた。
「その、今から言うこと怒ったりすんなよ……お前の悪いところと良いところをまるままひっくり返したようなカンジ」
「そーなの?」
「ヒトに対するイタズラ心とイジワルが7割、残ったところに親切と慈愛と博愛精神って具合?」
「わかるぞその配分。私もそう思うから」
もはや止める事も面倒なので放っておくが、那智が触手を抱き枕か何かのように手で弄っているのを白い目で見ながら、鈴谷は木曾の言う事に耳を傾ける。
「でも悪いやつじゃない……の……かな? 多分。別に変なことしてくるわけでもなかったし」
「へぇ」
「あ、あとすごい甘党だったから絶対コイツ鈴谷じゃないってのは確信した。お前あんまり和菓子とかケーキとか食べないじゃん?」
「甘党……あぁ確かに……うん」
ハチミツとアイスが乗ったフレンチトースト。
まぁなんにせよ―――木曾はそう言って続けた。
「戻ってきてくれて……良かった。前よりビミョーに顔色良くなってるし」
「なぁに、愛の告白?」
「いやちげーよ! 何じゃそら……なんかこう、ホッとすんだよ。すっげぇ久々に友達と話した時みたいな。って言うか現在進行系で俺ぁ癒やされてる」
「そんなに? あんまり私って他人から好かれる人間じゃ無いと思うんだけど」
「うっそだぁ! そりゃ過小評価しすぎだよおまぇ!」
2人仲良く談笑を続けていると、今まで静観していた那智が思い出したように口を開く……のだが。鈴谷の目を離した間に、この女は触手をテーブルに乗せてその上に頭を乗せてぐったりリラックスしていた。
「ちょっといいか。そう言えばさ、お前寝てる間にまたココ人増えたよ」
「またぁ? ……………なにしてんの」
「いやぁさ、柔らかいなぁって思って」
「あのね、それ枕とかじゃ無くて私の体なワケ。重いんだけど」
「俺もいいか」
「引っ叩かれたいの木曾」
「因みに来たやつがなかなか曲者でな。1人、若葉って奴が、元天龍の部下だったとか」
「若葉……って駆逐艦だっけ。へぇ、隊長さんの教え子なんだ」
「今は軍じゃなくて、民間の企業に雇われて仕事するフリーランスだそうだ。ココの提督が人出不足だからって雇ったんだと」
「ふ〜ん。来たのって1人だけなの?」
「いやあともう3人。その中にもう1人ヤバいのが……い……て……!」
机の上で居眠りスタイルを崩さず話していた那智が、どういうわけか口を止める。よく見ると、なんだか視線が自分の後ろに向いているのに気づき、鈴谷は振り返った。
「見 つ け た」
「 」
少しの間、思考が完全に停止した。なんで南さまがここに?? 居ないはずの自分の
「ふふ、ンフ、ふふふふふ…………♪」
「 」
「無防備だなァ……相変わらず無防備。このまま頭を力任せに潰せるぐらい注意がなってない」
猫か蛇を思わせる縦に割けた瞳孔で見詰められる。何も無ければただ色白美人な人なのだが、こんな近くの、しかも何故か今まで見たことが無いぐらいテンションが高い今の南方棲鬼はハッキリ言って怖かった。
「ど、どうしてここに??」
「レ級が世話になってると聞いて来た。あとついでにお前を可愛がってやる算段もある。あとは、そうだな……道行く艦娘共がみな私を見て震えるのは観察して面白いな……」
「け、怪我は大丈夫なんですか? あの、結構体に古傷とかありますけど……」
「誰に向かって言ってるのかしら……私の砲撃は……本物よ……」
いや返事になってなくない!? 回らない頭のまま鈴谷は言う。
「海月姫の話は聞いていますか。こんなところにいたら、もしかしたらアレに相対することだって……」
「あの程度の女、私が息の根を止める……それだけのコト。」
「……………なんか良い事でもあったんですか。すごく機嫌が良いように見えますが……」
「さぁ、どうでしょうね……ンフフフ♪」
勿体ぶるようなはぐらかすような返しをし、南方棲鬼はジャンパーから取り出した携帯食料を齧りながらどこかに去っていった。本当に何があったのか。前のどこか影を感じるような雰囲気から一転、全身から自身が満ちているような態度に、鈴谷は妙に思う。
今の彼女の変なプレッシャーのせいか、椅子に行儀良く座り直していた那智が口を開く。
「台風みたいな人だったな。でもお前の友達なんだろ?」
「友達……友達? 友達、かなぁ……それより上司とか先輩みたいな」
「そうなの? 俺レ級からお前ら2人仲良しだって聞いたけど」
「うぅわ……それはむしろ
思わぬ再会のせいで眠気が吹き飛ぶ。尚もダラダラと鈴谷が友人らの無駄話に付き合っていると、3人の対面に座って食事を取る者が居た。天龍と、鈴谷の知らない茶髪にスーツみたいな格好の艦娘だ。
「おはようさん、災難だったなお姫様に絡まれて」
「どうも……すみません。何日も寝てたみたいで」
「いや気にしなくて良い。疲れてたんだろ? 別に誰も何もいわねーよ。それよかホラ、挨拶しろ若葉」
天龍に促され、薄ら笑いを浮かべて微動だにしていなかった艦娘は、のんびりとパックのジュースの封を切りながら口を開いた。
「若葉だ。お互いに仲良くしよう、な?」
「どーも」
「……お前もうちょっとこう、無いのか。自己紹介的なよぉ」
「自分は天龍さんが困ってるらしいと聞いて雇われただけです。何個か作戦終わったら帰りますから。仲良くしたいのは山々ですが、ココの皆様とはそう長い付き合いにはなりませんし」
「…………。ここ来た時の挨拶で俺のこと知ってたくせにしらばっくれて初対面のフリしてたの忘れねーかんな?」
「おや手厳しい」
……事情は知らないが、気心の知れた間柄らしいな。ムスッとしていた天龍に涼しい顔をしていた若葉という女を見る。しかしまぁ、彼女の部下だったというならかなり腕が立つ人間だろうか、などと考えていると。大きなため息を一つしてから、天龍が話しかけてきた。
「そういやさ、ちょっとお願い聞いてくれる? 今度
「あれ?」
「いつも乗ってる乗り物があんだろ。俺の艤装はお世辞にもいい性能じゃねーからな、今回ばかりは面で押せる火力が欲しいんだ。だめか?」
「いいですよ」
「返事が早いなオイ。まぁ良いけどよ……そっか、ありがとさん!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
周囲の取り計らいのおかげでネ級はしばらく非番の日にされていると木曾から聞き、鈴谷は一日中ぼうっと過ごしていたが。特に事件とかがあったわけでもないのに、今日は濃い1日だったなと思う。
強引に無理矢理乗り込んできたらしい南方棲鬼は、ニタニタしながらそのへんをうろついては度々周囲の艦娘を恐怖させているらしい。天龍についていた若葉は、過去にたった1人で戦艦クラスを複数相手取って、余裕の態度で撃退·帰還してきた事もあるような手練だという。「ただの噂か都市伝説でしょ」などと本人は言っていたが、纏う雰囲気がベテランのそれで、鈴谷はこれは恐らく事実かと考える。
後になって更にもう2人、配属になった艦娘と言うのにもあったが、別に悪気はないが鈴谷には「薄い」人間だった。駆逐艦の浜風、軽空母の祥鳳と名乗る2人は、雰囲気や過去の戦歴を見て力量はなんとなく自分と同じぐらいだろうか、と見当を付けたが。前述2人のインパクトが強くてどうも霞んでいた。
考え事混じりに、寝過ぎでスッキリした頭で夜の鎮守府内を当てもなくウロウロする、そんなとき。
「ちょいちょい、ネ級さんや」
「?」
あのあとまたばったり遭遇した南方棲鬼に叩かれて痛む肩をさすりながら、自分のソファまで戻る道で。背後から追いかけてきた那智に声を掛けられる。変な話し方だったので、間違いなくふざけているのはわかった。
「なに、こんな時間に?」
「久々にゲームでもやらないか。3人で」
「……はぁ!? こんなときに??」
「こんなときにこそ、だろ。デカい仕事の前なら緊張ほぐさないと。変に肩肘張ってちゃ碌な事にならないからな」
「………………………。」
本当にこの人、ふらふらしてるようで鋭いこと言うよナ。鈴谷としても、別に友人と遊ぶ事は嫌いでは無いし、那智の言う事も理解し。渋々承諾することにした。
数分経って、那智が借りている部屋に木曾も来る。こんな事まで見越していてわざわざ持ち込んだのか、那智はベッドの近くのテーブルに、液晶テレビと据え置きのゲーム機を繋いで待っていた。
「ふあぁ、あ……こんな時間からゲームってか。お前らしい」
「あれ、木曾って夜弱い感じか」
「いいや、あくびしただけ。で、俺は別に良いけどよ。何すんの? 格ゲーとかか?」
「女神転生III。」
「「RPGやんのこの時間からぁ!?」」
「そ。最近HDリマスターが出てな?」
てっきり単発の試合で終わるような格闘ゲームか、カジュアルレースゲームだろうかと思っていた二人は那智のチョイスに目を剥く。RPGなんてジャンルの、どう考えても1時間で終わるようなゲームでは無いし、ストーリーを楽しむとなると数時間はかかる。
「まぁまぁ、地下道ぐらいまでそこそこ話進めてるし。とりあえず池袋目指そうぜ? イソラ焼こうぜイソラ」
「うわ、レベルたっか。てか何、那智ってこの鎮守府でゲームやってたんだ……」
「まぁな」
「ば、馬鹿だコイツ……」
「なんだと」
これまた事前に準備していたとでも言うのか。那智の作っていたデータは、物語を進めるには過剰なほどキャラクターのレベルが上がっており、道中の敵も快適に薙ぎ倒せる強さになっている。自然な流れでコントローラーを渡されて、ネ級は操作を始めた。
携帯以外のゲームなんて本格的に触るの何年ぶりだろうか。テレビ画面の主人公が口から炎を吐いて敵を一掃するのを、ネ級はのんびりと眺めていた。
鈴谷、木曾、那智の3人の仲良しこよし具合がいまいちわかりにくいとの指摘があったので、じゃあこれならどうだ! とばかりに友達っぽい描写を詰め込めるだけ詰め込んだらこうなりました(白目