Common Unemployed and Zero Infinity -Flawless Paradox-   作:半裸ーメン

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ありふれたTVアニメ放送記念で幕間の物語を投稿します。

ほんへとは違い、ギャグっぽいです。
普段ギャグは書かないから苦労しました。


7/8(月) 20:21……執筆開始


前々日譚~幕間~
【祝】「ありふれた職業で世界最強」TVアニメ放送開始記念!幕間「ある日の北上家」


 これは、克行が異世界(トータス)に召喚される少し前の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、ある晴れた日曜日の出来事だった。

 

 

 十時二十三分

 

 北上家のリビングではちょうど朝食の時間であった。

 

 今朝の朝食はシンプルにスクランブルエッグと食パンだけだった。それが気に入らないのか、北上家長女――紗弥華(さやか)は不機嫌さを隠そうともせず、テーブルに突っ伏して不満を垂れている。

 

「朝はパンじゃなくてご飯が良いのーっ!」

「はいはい、明日はご飯にするから。早く食べなさい」

 

 そんな紗弥華を軽くあしらったのは、この家の台所を預かる北上晴華(はるか)、紗弥華の母である。気の強いサッパリした性格で、北上家のヒエラルキーの頂点に君臨する御方である。炊事洗濯を一手に担い、料理の腕はご近所でも評判になる程で、紗弥華の自慢の母親だ。

 

「まぁまぁ、パンだって良いじゃないか」

 

 食後のコーヒーを片手に新聞を広げながら、紗弥華を宥めるのは北上友和(ともかず)、紗弥華の父だ。少しばかり気は弱いが、誰にでも優しく親切にする自慢の父親ではあるが、押しに弱い性格で晴華には頭が上がらない。

 

 両親は元々大手企業の子会社で一緒に働いていた。そして、友和からの猛アプローチに晴華が折れる形で付き合い始め、二年後にゴールインしたという経緯を持っている。

 

「それより紗弥華、今日出掛けるって言ってなかった?」

「ヴぇっ!? そ、そうだねぇ……」

「何だ紗弥華、変な声出して? まさか彼氏とかじゃあ……」

「ち、違うしっ! お父さん過保護すぎ!」

「か、過保護……ガーン!」

「何でも良いから、早く食べて支度しなさいな」

「はーい!」

「……僕は、紗弥華が心配なだけで……」

「お父さんも、いい加減コーヒー冷めちゃうわよ!」

 

 友和は娘の何気ない一言にショックを受けて放心状態になり、そんな夫に早く食器を空けろと催促する晴華を尻目に、紗弥華は朝食を行儀良く手早く胃へ収めていく。最後の一口を飲み込んだところで、タイミング良く母が淹れてくれたコーヒーを飲んだ。

 

「ご馳走さま!」

「はい、食器はそのままで良いからね」

 

 ありがとー! と良いながら、慌ただしく洗面台へ向かう紗弥華の背後から、あなたはいつまでそうしていじけているのよ! ひぃっ、母さんゴメンよ~! なんてやり取りが聞こえてくる。

 

 急いで歯を磨いて髪を整える。今日は()()()()との約束があるのだ、みっともない格好では顔を会わせられない。

 

「お父さーん、お母さーん、いってきまーす!」

「はーい、いってらっしゃーい!」

 

 玄関から父と母に挨拶をして、元気良く家のドアを開け放つと、太陽の日差しが眩しく照り輝いていた。

 

 本日は快晴、降水確率はゼロ%、絶好の天気と言えるだろう。

 

 紗弥華は張り切っていた。今日は他でもない兄―――克行との逢瀬(デート)なのだから、目一杯楽しまなくては、と。

 

 けれど、両親と兄の()()()()()()()ので、約束の相手が兄だということは言っていない。言えば、あまり良い顔はしないだろうし、何より兄と会うことを許してもらえないかもしれない。それだけではなく、今後も会わせないように、兄に対して何かを言うかもしれない。そんな想像が出来てしまい、両親には友達との約束と言って嘘をついてしまったことが、紗弥華の心に僅かばかりの影を落としていた。

 

 

 

 

 

「……紗弥華はもう行ったのかい? ()()()()()()()

「……えぇ、行ったわ。楽しそうに、ね」

 

 紗弥華が居なくなったリビングでは、友和と晴華が()()()()()()()()()()のことを話していた。

 

「お兄ちゃんのことになると()()()調()()()()()()、ってあの子気付いてないんでしょうね?」

「あれで隠せてると思ってるんだから、気付いてないだろうね」

 

 紗弥華が両親に隠していた秘密は、両親からすれば丸分かりであることを、紗弥華は知らない。二人の顔は辛そうに、そしてほんの少し寂しそうな、複雑な感情を浮かべていた。

 

 友和と晴華(両親)と息子――つまり、克行との関係は少しばかり拗れてしまっており、現在はほとんど絶縁状態と言ってしまって良いだろう。関わりと言えば、毎月の仕送りくらいのものだ。二人が知る由もないことだが、克行はこの仕送りに一切手をつけていない。

 

 互いに嫌い合っている訳ではない、少なくとも両親は息子のことを憎からず想っている。しかし、今は距離を置いた方がいいと二人の間で話し合い、克行もそんな空気を察したのか、高校進学を期に独り暮らしを始めると言うことで、この家を出ていった。

 

 そんな歪な関係の家族になってしまったが、紗弥華だけは違った。家族の中で唯一紗弥華だけが、みんなとの繋がりを持っている。それは克行との関係も例外ではない。

 

「母さん……」

「あなた……」

 

 情けない話だが、二人は紗弥華こそが、家族を元の形に戻してくれるのではないか、と一方的な期待をしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五時四十分

 

 時は少し遡り、場所は克行が住むアパート。

 

 早朝のこんな時間にも関わらず、克行は誰かからの電話に叩き起こされていた。

 

「……急ですね。代わりは、……はい。そうですか……。分かりました、出ますよ。……分かりましたって、仕方無いことですし。……まぁ、大丈夫ですよ。来週にでも、……えぇ。では」

 

 通話が終わり、携帯をベッドへ投げるようにして置く。深い溜め息を吐きながら、頭の中で今後の予定を考える。

 

「……考えたって、どうしようもないか」

 

 克行は諦めたようにまた深く溜め息を吐いて、現在時刻を見る。今日の予定を頭に浮かべながら、もう一眠りするか、と小さく欠伸をした。こんな朝早くに電話で叩き起こされたのだ、当然眠気が残っているのだろう。

 

「……あ。その前に、一応連絡しておくか」

 

 そう呟いて、ベッドへ放り投げた携帯を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十一時一分

 

 左手に巻いてある腕時計で時間を確認する紗弥華。現在時刻は午前十一時を回っていた。約束の時間は十一時のため、もうインターフォンを鳴らしても良いだろう。

 

 念のため、最後に手鏡をバッグから取り出して身だしなみを確認する。鏡に写ったその姿は、誰が見ても〝美少女〟と言って差し支えないだろう。

 

「よしっ」

 

 小さく拳を握り気合いを入れる様子は、通行人の目には実に可愛らしく見える。

 

 いざ、と口をキュッと一文字に結び、覚悟を決めてインターフォンを押す。……インターフォン押すだけなのに。ピンポーン、っと間の抜けた呼び出し音が鳴り響き、僅かに残響を残す。今さら緊張してきたのか、心臓が早鐘を打ち始め、手汗が気になりだす。

 

 十秒か、三十秒か、それとも一分か……。暫く待っているように感じるが、一向に玄関の扉は開かず、中から聞き慣れた兄の声も聞こえては来ない。

 

「……あれ? 寝てるのかな?」

 

 流石に遅いと思った紗弥華は、もしかしたら時間を間違えたのか? ともう一度腕時計を見るが、針はやはり約束の時間を指し示している。

 

 これまでの経験から、兄が寝坊したとは考えにくい。もしや兄の身に何かあったのでは、と急に悪い想像が頭の中を駆け巡る。父親に対し、過保護だと突き放したのは何処の誰だったか。

 

 恐る恐るバッグからアパートの合鍵を取り出した。実は、克行から合鍵をもらっていたのだ。鍵を渡した理由は、家族だから。別段(やま)しいことなど無いので、勝手に入られてもいいか、くらいの軽い気持ちで克行は紗弥華に鍵を渡した。いくら妹とはいえ、否、妹だからこそ年頃の少女に自分の部屋の合鍵を渡すなど、一部の人間からすればデリカシーに欠けると言わざるを得ないだろう。うらやまけしからん。

 

「……ごめん! 兄さんっ!」

 

 意を決して、合鍵を用いて解錠し部屋へ乗り込む紗弥華。許可されているのにわざわざ謝るあたり、本当に良い子なのだろう。

 

「っ、これは……!」

 

 紗弥華が、突入した克行の部屋で見たものとは……!

 

 普段通りに片付けが行き届いた小綺麗な克行の部屋だった。

 

 いつも見る兄の部屋に、逆に驚いた紗弥華。アパートは良くある1DKで、料理を趣味にしているだけあってダイニングキッチン回りには多種多様な調理器具が整頓されており、清潔にしていることが窺える。トイレとバスルームはセパレートタイプで、洗面台には紗弥華のために置かれたドライヤーや歯ブラシ、歯磨き粉といったものがある。一番奥の部屋が寝室となっており、いつ見ても綺麗であるが殺風景で寂しい感じがある。

 

 全体的に物が少ない印象を受ける克行の家だが、水回りがまだ湿っぽさを感じるところを見ると、最後に使用したのはそんなに前ではないであろう。だとすれば、妹である自分との約束を差し置いて、一体どこへ行ってしまったのだろうか。

 

「……っそうだ、携帯!」

 

 そこでようやく、兄に連絡してみれば良いのだと思い付き我に帰るあたりに、自分が相当焦っていたのを自覚した。

 

「あ、あれ?」

 

 しかし、取り出した携帯電話の画面は真っ暗のままで、電源ボタンを押しても反応しない。まさか壊れてしまったのではないか、と顔を青くする紗弥華であったが、思い当たる節があったのか、あっ、と小さく溢す。

 

「……昨日から充電するの、忘れてたぁ~!?」

 

 そう、昨夜紗弥華は友達との長電話をしていた。お互いに眠くなってきたのでお開きとなったが、そのまま携帯電話を充電するのを忘れ、投げ出しっぱなしで床についたのだった。長時間の通話で減っていたバッテリーは、紗弥華が明日を楽しみにしながら熟睡している間に、完全に切れてしまっていた。

 

「どどっ、どっどどうしよう……!?」

 

 パニック状態になってしまった紗弥華は、家から出て鍵を閉めてから、壊れたラジオ染みた不思議な呻き声を上げ続けた。

 

 

 

 その声は、十五分後に偶然通りかかった雫が紗弥華に声を掛けるまで聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十二時二十九分

 

 紗弥華と偶然近くを通りかかった雫は、克行の家からは少し離れたカフェで一息ついていた。

 

「少しは落ち着いたかしら、紗弥華ちゃん?」

「はいぃ……。ご迷惑をお掛けしました、雫先輩」

 

 雫は少し疲れた顔をしていて、紗弥華は申し訳なさそうに肩を落としている。

 

 雫が紗弥華から詳しい事情を聞き出すことが出来たのは、あれから実に一時間以上も経過してからだった。最初に声を掛けた時、紗弥華の目には雫が救いの女神に見えたらしい。支離滅裂な言動に雫は混乱し、一度落ち着かせる必要を感じて近場のカフェまで連行、もとい任意同行してきた。

 

 それからも色々と大変で、店の中で紗弥華が大声で泣き出すわ、周りからは変な目で見られるわで、居たたまれなくなった雫は、早々に紗弥華を連れて逃げるように別の店へ入っていくのだった。

 

 紗弥華とは、同じ剣道部に所属する後輩で、良く面倒を見ている。性格は明るく人懐っこい、それでいて直向きで真面目なところもあり、好感を持てる。

 

 雫にとって何よりも重要なのは、自分を〝お義姉様〟などと呼ぶことも、盲目的に慕ってくる訳でもないことだ。雫には、彼女に憧れる〝義妹たち(ソウル・シスターズ)〟が大勢いる。色々と過剰なので困っているのだが、自分を慕ってくれているだけに無下には扱えない、そんな雫の悩みの種だ。

 

 しかし、紗弥華は決して雫のことをそのような特別扱いをしない。等身大の雫を見てくれる、等身大の紗弥華自身を見せてくれるところが、雫の癒しとなっていた。一部の〝義妹(ソウル・シスター)〟からは反感を買っているようだが、雫から癒しを奪おうとするのなら例え誰だろうと容赦しない、とOHANASHIしたので、紗弥華に何かされる心配はないだろう。

 

(それにしても、この子がこんなにもお兄ちゃん娘だったなんて……。正直意外だったわ)

 

 兄の克行のことを話すときは、普段の品行方正な紗弥華からは想像できないくらいの熱量で、捲し立てるようなマシンガントークをしていた。そのせいで、事情を聞くのに余計な時間が掛かったのだが。

 

(この借りは、北上くんのマドレーヌで手を打ってあげましょう……ふふふ)

 

「どうかしましたか?」

「いいえ、何でもないわ……ふふふ」

「そ、そうですか……」

 

 今回、紗弥華の面倒を見たお礼は、克行から頂こうと考える雫。決して彼が作るお菓子目当てではない、お礼の代わりに渡してくるのなら受け取ってあげましょう、と自分に言い聞かせながら黒い笑みが溢れていた。紗弥華は少し背筋が伸びた。

 

「……で、話を要約すると。今日一緒に出掛ける約束をしていたお兄さんが、家に行ってもいなかった、と」

「はい、そうです……」

「連絡を取ろうにも携帯の充電が切れてしまって出来ない、と」

「しょ、しょうでしゅ……」

 

 雫が客観的に状況をまとめていくと、自分のポンコツ振りが恥ずかしいのか涙目でしょんぼりしていく紗弥華。その様子を見て無類の可愛い物好きの雫が、ソワソワし始めている。撫でてみたいのか、手が上がったり下がったり開いたり閉じたりと忙しなく動く。

 

「んんっ……。で、北上くんが行きそうな場所に心当たりはない?」

 

 軽く咳払いして自分を律し、紗弥華に質問する雫。

 

「そうですねぇ……。バイト先の古本屋、は今日はバイト無いって言ってましたし……。ウィステリア、は今日お休みらしいですし……」

 

 ウィステリアのマスター夫妻は、今日は出掛ける予定があるらしく珍しく臨時休業で店を閉めていた。その事を克行から聞いていた紗弥華は、候補から外した。

 

「私の携帯で北上くんに連絡してみましょうか。携帯番号分かるかしら?」

「ごめんなさい……」

「いいわよ、このくらい」

 

 行き先が分からず、またもシュンとしてしまう紗弥華に、本当に可愛いわこの娘、と何やら目付きが怪しくなってきた雫が、紗弥華から聞いた番号に電話を掛けてみる。

 

 プルルル、プルルル。

 

 一回、二回とコール音だけが響く。そして幾度かのコールの後、留守番電話になってしまう。

 

「ダメね、繋がらないわ」

「うぅ、兄さ~ん……」

 

 最後の希望が破れ、紗弥華の顔はこの世の終わりだと言わんばかりに悲しみに暮れていた。そんな彼女を放ってはおけず、世話焼きスキルが発動した雫が提案をする。

 

「とりあえず、そのバイト先に行ってみましょうか。何か知っているかもしれないし、ね」

「じずぐぜんばいぃ~」

「ほら、泣かないの! 一度乗り掛かった船だもの、最後まで付き合うわよ」

 

 紗弥華は、貴女が神かと涙を流しながら感激に(むせ)び泣く。若干引きながら雫は紗弥華をあやした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十三時十二分

 

「珍しい組み合わせだな、どうかしたか?」

 

 バイト先に克行はいた。バイト中の姿で。

 

「……いたわね。普通に」

「……いましたね。普通に」

 

 雫と紗弥華は、何だか肩透かしを食らったような気分になり、身体から力が抜けてしまった。

 

「ねぇ、兄さん。今日は……」

「今日はごめんな、紗弥華。急に一人来れなくなったらしくてな……。メール送ってはいるけど、ちゃんと謝れて良かったよ」

「……え」

 

 紗弥華が何故約束を破ったのか聞こうとしたとき、克行から先にその理由が説明された。

 

「あれ? 届いてないのか?」

 

 紗弥華の反応から、こちらの事情を知らないのかと思った克行は、メッセージが届いていないのかと聞く。

 

「……ごめんなさい、北上くん。一から説明してもらえるかしら?」

「構わないぞ」

 

 紗弥華が固まってしまったので、仕方なく雫から説明を求める。

 

「朝早くに幸雄(ゆきお)さん……店長から電話があったんだ。今日のバイトが一人熱があって来れないって事で、代わりが俺しかいなくて頼むから出てくれって。紗弥華と出掛けるのは来週でも大丈夫だし、俺しか出れないんだから仕方無いってんで急遽バイトになったんだ。すぐに紗弥華にメールで伝えたんだが……」

 

 その話を聞いて、雫は頭を抱え、紗弥華は自分の早とちりやら何やらで恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして蹲っていた。

 

「……何かあったのか?」

 

 その様子を不審に思い、雫に尋ねる克行。

 

「……彼女ね、携帯の充電が切れているのをすっかり忘れてたんですって」

「……じゃあ、俺からのメールも?」

「見てないんじゃないかしら?」

「……Oh My God」

 

 あまりのうっかりに、思わず英語が出てしまった克行。雫も同様で「まぁ、こんなことだろうと思ってたけどね……」と、人生で一番と言えるくらい深い溜め息を溢した。

 

「……穴があったら入りたい」

 

 一方の紗弥華は、自分の惨めっぷりに辟易して蹲るどころか、体育座りの体勢になってしまっていた。相当恥ずかしいのだろう、顔を膝に埋めているが、耳まで赤くなっているのが見えてしまっている。その姿に雫がまたもハァハァし始めて、克行の目が変質者を見るものへと変わっていく。

 

「おい、店なんだから座り込むな。みっともないぞ?」

「……帰る。兄さん、邪魔、やだ」

 

 ついには幼児退行を起こしてしまい、いよいよ危なくなってきた紗弥華。フラフラとした足取りで店を出ようとするが、本棚にぶつかってしまいしゃがんでプルプルと痛みに震えていた。

 

「そこまで恥ずかしいのか……」

(やだ、私の紗弥華ちゃん可愛すぎっ……!?)

「紗弥華は君のじゃない」

「!? ……んっ、人の心を読まないでくれるかしら?」

「俺の言ったことを否定してくれ」

 

 ……雫もアブなくなってきたのかもしれない。

 

 克行は紗弥華を慰めるつもりは特段なかった。今回は完全に紗弥華の落ち度だからだ。けれど、このまま帰すのは心配な上、帰れるかどうかも怪しい。

 

 そこで克行は、紗弥華を呼び止めた。

 

「紗弥華、待って。……俺、もうすぐバイトあがるからさ、ちょっと早いけど一緒に飯でもどうだ?」

「……ご飯?」

「あぁ。ちゃんとした埋め合わせは今度するけど、ひとまずはって事で」

「……行く! 兄さんとご飯、行きたい!」

 

 途端に機嫌が最高潮まで回復した紗弥華は、ご飯っご飯っ、と小躍りしそうなほどに舞い上がっていた。克行と雫は顔を見合わせて、くすっと可笑しそうに少し吹き出した。

 

「じゃあ、私は行くわ」

 

 もう大丈夫と判断し、雫は帰ろうとする。後は兄妹水入らずで過ごしてもらいたいという、雫の粋な計らいでもあった。

 

「もう行くのか?」

「えぇ。お邪魔みたいだし……。それより、北上くん?」

「うん?」

「私、今度マドレーヌが食べたい気分なのよね……。具体的には木曜日くらいに、ね?」

「……なるほど。仰せのままに、お嬢様?」

「よろしい。期待、しているわ」

 

 しっかりと要望を伝えて立ち去ろうとした雫に、克行が声を掛けた。

 

「八重樫さん。上がりの時間まで後三十分くらいあってさ。……悪いんだけど、紗弥華のこと見てて貰えるかな?」

「……別に予定がある訳じゃないけど、流石に――」

「あ~何だか無性にカスタードパイを作りたい気分だなぁ。マドレーヌと一緒に作ろうかなぁ?」

「――引き受けましょう。紗弥華ちゃんの為だもの、協力は惜しまないわ」

「……そうか、助かる」

 

 ダメ元で言ってみた克行だったが、まさか雫が即決するとは思ってもみなかった。というか、凄まじい手のひら返しに若干引いてしまった。もしかして、克行自身も知らぬ間に餌付けしてしまっているのだろうか、と心配になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束通り紗弥華の面倒を見てくれた雫は、流石にそこまでは付き合えず、それに紗弥華に悪いとの事で、克行のバイトが終わるとすぐに帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 克行と紗弥華のその後を(つまび)らかに語るのは、あまりに()()というもの。

 

 

 紗弥華の胸の裡に、思い出となるだけで良いのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、北上家の一日が終わっていった。




7/9(火) 3:11……執筆完了
マニアワナカッタ……。

と、言うことで「ありふれた職業で世界最強」TVアニメ放送開始おめでとうございます!
白米良様におかれましては素敵な原作を、たかやKi様におかれましては原作のイメージ通り、いやそれ以上に素晴らしいキャラクターを、本当にありがとうございます!
私も「ありふれ」の二次小説を執筆させて頂いている者の端くれとして、これからも「ありふれ」原作の布教に一層精進して参ります。

ありふれ第一話、見ました!まさか一話目で当小説の進行度を越えられるとは思いませんでした(笑)
っていうか、蹴り兎思ってたよりも可愛くなかったで候う。

え、媚びすぎ? そんなー(´・ω・`)
まぁ、謝辞はこの辺にしておきます。


さて、間に合わなかった言い訳ですが、そもそも前々から考えていたわけではなく、「ありふれアニメ放送開始と同時に記念の話を投稿しよう」と思い付きで始めたものですので、全く間に合いませんでした。
お話は考えながら書いたので、整合性とか辻褄とか考えておりません。ほんへと矛盾するところがあれば修正しますが、ほんへに関わらないのであれば放置する可能性大です。

最後も何ですかね、この適当さ……。
完全に書くこともないし、面倒くさくなって濁して終わりにしてます。

後に完全版を執筆するかもしれませんが、あんまり期待しないでください。
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