Common Unemployed and Zero Infinity -Flawless Paradox-   作:半裸ーメン

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今回は予定を変更してオリジナル回です。
詰め込んでも結局分割する羽目になりますので……。



一万字越えてないと短く感じる(感覚麻痺)



2019/08/03 サブタイトル、本文及び後書きを一部修正


斯く在れかし

 克行が〝境界魔法〟を手に入れたその日の訓練終了後、翌日の【オルクス大迷宮】への遠征が発表され、ハジメがその前途多難さに頭を抱えた。

 

 遠征が宣言された際に、メルドから一人で残るよう言われた克行は、ゾロゾロと出ていく生徒たちを尻目にメルドの前へと歩み出る。

 いや、正確には生徒たちは訓練場から騎士団員によって()()()()()()()()。明らかに人払いをしている様子を見て、これから言われることを克行は予想した。

 

 騎士団員も含めて自分と目の前の少年以外がいなくなり、静寂に支配された訓練場で五メートル程の間合いをとったメルドが口を開いた。

 

「すまんな、わざわざ残ってもらって」

 

「いえ」

 

 まず克行に労いの言葉をかけるメルドに対し、特に身構えることなく短い返事をする克行。

 

「で、話っていうのは……」

 

「まあ待て、そう急がんでもいいだろう。その前に、一つ聞いておきたいことがあるんだ」

 

 早速本題へと入ろうとする克行を片手を上げて制止したメルドは、人差し指を立ててニヤリと笑う。急ぐことはないとメルドは言ったが、太陽は既に落ちて辺りは薄暗い。しかも明日は【オルクス大迷宮】へ遠征に行くのだ。早めに身体を休めたい克行は、メルドの言に頷かずに目を細めた。

 

 しかし、その目は次の瞬間には見開かれる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───()()()()()()?」

 

「!?」

 

 その言葉と共にメルドの表情は一変、相手を射殺すように鋭い眼光になり、いつの間にか彼の手には愛用の大剣(バスタード・ソード)が握られていた。左足は前に、右足は引いて肩幅に開き少し半身になりながら、腕は下げ剣の切っ先が克行の喉へと真っ直ぐ向くように上げられ、正眼に隙がなく構えている。全身に余計な力は入っておらず、膝、肩、手首などの間接はリラックスした状態で、いつでもどんな状況にも対応できるように待機(スタンバイ)させている。正しく戦闘体勢を取っており、その構えからは戦闘経験に乏しい克行にさえ理解出来る程の技量が見て取れる。加えて、並の者ならば気絶してもおかしくない殺気を放っており、ハイリヒ王国騎士団長の肩書きに恥じぬ姿と言える。

 

「……どういう意味です?」

 

 メルドの質問といい、突然戦闘体勢に入った事といい、彼の意図が掴めず困惑する克行。

 

「言葉通りだ」

 

 それに対し、メルドの構えは微塵も揺るぎはしない。

 

「友の為に右腕を躊躇い無く捨てる判断。〝魔力操作〟を持っている事。……そして、俺の全開の殺気を受けても動じない胆力。どれを取っても、お前のような小僧には()()()()()

 

 魔人族の密偵(スパイ)か、魔物のごとき魑魅魍魎(モノノケ)か、或いは本当に無知な子供(被害者)か。敵か、味方か。その在り方(正体)を見定めようと、メルドが再び問答を投げ掛ける。

 

 

 

「もう一度問おう。貴様の〝信/真(マコト)〟は何処にある!」

 

 

 

「…………俺は」

 

 しかし、克行は回答に窮している。実際、彼は戦争はおろかまともな喧嘩さえもした事はない、本当に単なる小市民だ。

 

 しかし、克行は『己が何者であるか』という答え(真理)に戸惑っているだけあって、歴戦の猛者たるメルド・ロギンスの殺意を一身に浴び恐怖を感じながらも、同時に質問に対する苦悩を持ち合わせている。叩き付けられる殺意に怯えながら命乞いはせず、命題から逃げないという当たり前の感性を見失わない()()()()

 それこそが彼の異常性を示していた。

 

「……まぁいいさ、どちらにせよ……北上克行! 俺はここでお前を見極めなくてはいけないのだ!」

 

 それが最後通牒となり、メルドの構えに変化が起こる。

 

 隙の無い正眼から完全に左半身になり、腰を落とした前傾姿勢(チャージ準備)に。自然体で下げていた腕を交差(クロス)させ、両刃剣の裏刃(ショートエッジ)を右肩で担ぐように添えた。膝のバネ(弾性エネルギー)を極限まで溜めて、一直線に狙うは頭部。

 骨と筋肉が軋みを上げて、解放の時を今か今かと急かしてくる音が、克行の耳朶(じだ)に触れた。

 絶倒の決意の滲み出る体勢を取るメルドの殺意は、克行の肌に突き刺さって鳥肌が立つ。

 

 正に一触即発。

 空気が痛く感じるなど初めての経験だ。

 余りにも息苦しいのに、指一本動かすことが死に繋がると直感する。

 普段は兄貴風を吹かせる男の、戦闘者としての一面は高すぎる壁だった。

 

 一秒か、十秒か、はたまた一分か。

 雲に隠れていた月が顔を出し二人が照らし出された───刹那。

 

 

「うおおおぉぉぉおお!」

 

 

「っ!」

 

 

 メルドが雄叫びと共に疾駆を開始する。

 全身のバネを利用した瞬発力は、足元の石畳を捲り上げる程の衝撃を生み、地を蹴る反動で加速。巨体に似合わぬ速度での突進を実現、五メートルの距離を一息で殺し切る。

 離すことなく目を向けていた克行には、メルドの肉体が一瞬膨張したようにも錯覚した。

 

 そこにあるのは、()だ。

 踏み込む衝撃(インパクト)の絶妙な瞬間(タイミング)。初速から最速の疾走を叶える足捌き。構えを一切乱さぬ上に速力も殺さぬ体捌き。

 どれもが恐ろしく極まった練度まで高められた、一見すると簡単そうに見えて真似ようとしても()()()()()()()()理解に届かない、正しく絶技と呼べる代物だ。

 

(速っ、見えな……!)

 

 武器を持ち始めてたった二週間の素人の目では、見切る所か捉えることすら不可能。残像さえ掴むことは出来ない。

 

 何の動作(アクション)も起こせず棒立ちの克行へと肉薄するメルド。

 肩に担いだ大剣を左手を軸にして跳ね上げ、遠心力に自重と割断の意思を乗せて風切り音を鳴らしながら振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、メルドが放った断刀の刃は克行の()()()()()

 

 盛大な破砕音と共に大剣が抉った石畳の破片が四方へと飛び散る中、暫しの沈黙に包まれる。

 互いの視線は外れることなく互いを視認し続ける。一方は見定めるような、もう一方は何処までも個人ではなく()()()()()()()ような視線。

 

 実のところ、メルドに殺すつもりは無かった。

 人は絶体絶命に陥った時にこそ、その本質を(さら)け出すものだ。幾つもの戦場を潜り抜けたメルドには、それが実感としてあった。

 命を奪い合う際、背負った使命や覚悟と言った理論武装が凡て無意味と化し、剥き出しの精神でぶつかり合う。

 どれだけ信仰に篤くともそれだけで戦える程、人の心は強く出来ていない。家族、民草、愛する人、仲間、そういった絆が有ればこそ人は武器を持ち立ち上がり命を燃やす事が出来るのだと信じている。

 逆に信仰だけで命を擲つ輩は恐ろしい。そういう輩は信用に値しない。何故なら、信仰の為ならば全てを容易く切り捨てるからだ。それは人の持つべき精神ではなく、()()()といった存在が持つものだろう。

 何でも良い、守りたいと思えるものを見つけろ。これはメルドが、部下に常々言い聞かせている事だ。

 

 本質を見極める、それが今回の行為に及んだ理由だ。

 王室や教会には許可を得ていない、完全に独断で強行したのは、絶対に反対されるからだ。

 無職とは言え紛いなりにも神の使徒様だ、おいそれと刃を向ける事は憚られるだろう。

 故に、()()()を考えて全幅の信頼を寄せる腹心の騎士数名を除いて人払いをさせた。

 

 だが、収穫は無し。克行の本質には届かず、取っ掛かり一つ掴めやしない。

 だからこれは、最後の悪足掻き。

 

 

「……何故、避けようとしなかった?」

 

 

 形振り構わず逃げたり、死にたくないと足掻く行動が無いのはおかしい。お前ならば生き残る為の最善(せいかい)を選べたのではないか、と暗に訊いているのだ。

 

 

「……()()()()()()()()()()だけです」

「……どういう、意味だ?」

 

 

 返答は明確で、そして難解だった。

 (あたか)も、生存を否定するような言葉を吐き捨てたきり、口を開こうとしない克行。

 

 

 

 その態度を不審に思い──目の前に()()()()が出来ていることに気が付いた。

 

 

 

 僅かに光を反射する障子紙のように薄いそれこそは、遠目だが昼間に見た境界魔法──〝断空〟のベールだった。

 

「まさかっ、無詠唱での魔法発動……!?」

 

 驚愕に目を見開くメルド。

 魔法の無詠唱発動そのものは、〝魔力操作〟があれば不可能なことではない。

 難しいのは、〝魔法発動の為の想像骨子(イメージ)の強度〟にある。

 通常の魔法は、魔法陣と詠唱で想像骨子(イメージ)の補強を行い発動させている。どれだけ熟練した魔法師であろうと、無詠唱では想像骨子(イメージ)に綻びが生まれてしまう為、最低でも魔法名だけは癖で唱えてしまうものなのだ。

 それを、この少年は()()()()()()使()で無詠唱発動を可能とする想像骨子(イメージ)強度を手に入れたということか。

 

(何と馬鹿げた話だっ! それ以上に馬鹿げているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!)

 

 メルドならば一歩で踏み潰せる距離。焦った表情から、見切っていたとは思えない。

 殺意の暴風(かぜ)に煽られながら斬死の足音だけが聞こえ、見えぬ死線が確実に歩を進めている事しか分からない。

 そんな状況において尚、何だ簡単な事じゃないかと揺らがず、言葉さえ要らずと想像骨子(イメージ)を固める冷静さに、誰一人にも認識させずに魔力を紡ぐ繊細さ。

 

 ()()()()()()()()逡巡もなく最善(せいかい)を選択する常軌を逸した精神強度(ココロのつよさ)に、気色の悪い吐き気が込み上げたメルド。

 

「でも、貴方の言う通り……俺は俺が何者なのか分からない。()()()()()()()()を無力化してでも死にたくなかった、()()()()()()()()って言うんですかね……?

 自分の為ならば、誰かを傷付けることも厭わない……最低な人間だってことしか分からないんだ……」

 

「気付いて、いたのか……」

 

 訓練場の暗がりから動揺する息遣いが聞こえる。

 この場に残した騎士達はメルドに匹敵する猛者であり、気配の殺し方も卓越している。

 にも拘らず、看破されていた事に今日何度目かの驚嘆に息を呑んだ。

 

 また、格上数人を殺傷すると事も無げに言い放つ克行に、嘗められていると感じ取った騎士が抗議しようと姿を現そうとするも、メルドが目で制する。

 克行の表情から、侮りや傲りを不思議と感じない。

 

 これ以上は不毛だ、そう判断したメルドは場を収める為に口を開く。()()()()()()には達している。

 

「まぁ、何だ……。試すような真似して悪かった!」

 

 突然、頭を下げ始めたメルドに、呆気に取られる克行。

 

「今回の事は、俺の独断だ。甘んじて謗りを受けよう。非難も浴びよう。首をくれてやる訳には行かんが、大抵の事は叶えてやる。

 分かってくれとは言わんし言えんが、一つだけ言わせてくれ──()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 貴様には逆上する権利があり、理不尽に怒る権利もある。どんな無茶でも聞いてやろう。

 だが、この身命は護国の為にあり、命だけは許して欲しい。

 納得できずとも構わない。恥知らずで結構。王国騎士団長として、それだけは譲れないのだから。

 そして、お前が敵ではないという確証が得られたのだ。味方とも言い切れないのが難点だが、高望みはすまい。

 

「どうして、そう言い切れるんですか……?」

 

「根拠など無い。お前の眼や言動には邪なものが無い、そう感じた()()()()()()()()。それじゃあ、不服か?」

 

 数多の戦場を駆け抜けてきたからこそ、直感に助けられた場面は数知れず。戦士の勘は言わば第六感、野生染みた本能とも呼べるもの。信じていなければ、ここまで生き残ってはいない。

 

 面白くなさそうな顔をしてむくれている克行を見て、一先ずは収めてくれたと解釈する。

 そういう年相応の表情も出来るのか、と何だか新鮮に映った。

 

 

「では、本日はここまで! 明日は早い、確り休め。休息も仕事だ!」

 

 そう締め括って、たった今思い出したような顔で手を叩いたメルドは、急に神妙な顔付きになった。

 

「……そうだ、克行。〝魔力操作〟は()()使()()()

 

「教会に目を付けられるから、ですか……」

 

「そうだ。更に言えば、希少技能(レアスキル)持ちは狙われやすい」

 

 強力な技能を持つ者は、何処からも狙われる危険性が伴う。洗脳やら脅迫、或いは痛みによる隷属といった卑劣な手段でも、支配できれば大きな力となる。

 元より多用する気は毛頭無いが、一応の了承はしておく。

 

 満足げに頷き返し、最後には快活な笑い声と共に訓練場を去って行ったメルドの背中が見えなくなるまで、克行は立ち尽くしていた。

 いつの間にやら忍んでいた騎士達も居なくなっている。

 

 

「……ふぅぅ……」

 

 長いようで短かった問答(死合)が終わり、克行は深く息を吐く。

 足元の地面の陥没が目に入る。メルドの大剣によって出来た破壊の爪痕だ。左肩を数センチ外側を大剣の軌跡がなぞったのを、大気が引き裂かれる音で感受した時は肝を冷やした。

 やはり安直な回避を避けたのは正しかったと、粉々に粉砕された石畳が証明している。

 

 ……思い返す。メルドから投げ掛けられた命題。

 

 

 ───己とは何ぞや

 

 

 自分とは〝斯く在れかし(こうである)〟と定義する事は決して難しくはないだろう。

 だが、〝斯く在れかし(己を定義する)〟とは()()()()()()()()行為でもある。

 

 それは自身への願いであり──呪詛でもあるのだから。

 

 メルドを含めた数人の騎士、誰もが自分より強き者なのは明白でありながらも打倒を決心したのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけに他ならない。

 

 それこそが、克行の〝斯く在れかし〟──切なる祈り(呪い)

 

 何かを堪えるような憂いに満ちた表情で、何とも言えない感傷に浸りながら、克行は逃げるように自室への帰路についた。




【ほんへの補足】
※興味のない方は読み飛ばし推奨


◆メルドの問い
ほんへの通り、年齢に似合わぬ精神強度から「本当に単なる餓鬼なのか?」と疑問を感じた結果、軽く脅してみようという(筆者の)思い付き。最低でも敵であるかを見極めようとした。
尚、藪をつついたら蛇どころか八岐大蛇(やまたのおろち)が出てきた模様。

◆研鑽された技巧
王国騎士団の団長なのだから当然。ヴァルゼライド閣下なら出来たぞ?

◆メルドの持論
縋る寄る辺としては認めてはいるが、盲目的な信仰は信用に値しない。味方でさえも容易く切り捨ててしまえるから。

◆万が一 とは
主人公が敵だった場合。刺し違えても倒す覚悟。

◆無詠唱での魔法発動
理論上は可能だが、熟練者でもイメージを補強する為に癖で魔法名だけは発音する事がほとんど。ソースは魔王様の正妻(予定)。

◆突然の謝罪は騎士団長の特権
独断に対する糾弾は覚悟していた。その必要があると感じたから独断専行した。でも、この身は祖国の守護の為に生きて死ぬと決めているので命は許せと仰っている。

◆戦場で培われた第六感
つまるところ、後天的な超直感みたいなもの。

希少技能(レアスキル)
何となく命名。バグウサギもこれに該当。

◆正解を無意識に即断できる精神構造
歯車だけが友達の拗らせボッチ(オルフィレウス)曰く、正解しか選べない、或いは、諦めや怠惰という欠点(マイナス)を持たない欠陥品。
即ち、由来の無い生来の超越者。

◆〝斯く在れかし〟
「世界=自分が何であるかという命題に解を示し、実行に移せる精神」が■■と呼ばれる。
己を明確に定義するとは、〝斯く在れかし〟という自分への祈り(呪い)である。右を向くか、左を向くか。どちらを選びどちらを切り捨てるか。
断っておくが、別世界の魔王とは何の関係もないので悪しからず。

◆堪えるような、表現できない感傷
矛盾を受け入れる為に一般的な倫理観に基づけば悪と断じられる概念さえも実行できてしまう自分に、疎外感を感じていた。



何となく思い付いて突っ込んだら八千字まで行ってしまわれた。
どの程度の文量が読みやすいのか、今一掴み切れないのでアンケしてみようかと考えております。


次回、「秩序と混沌の二律背反」
今度こそ「月下の語らい」ですぅ……。
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