Common Unemployed and Zero Infinity -Flawless Paradox-   作:半裸ーメン

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注意

自己解釈と筆者の妄想・ご都合主義が多く含まれております。
肌に合わないと感じた時点で読むことを中断、ブラウザバックして以降読むのを控えてくださいますよう、お願いします。
また基本的に解説は本家に丸投げしていますので、場合によっては知らない言葉や原理が登場することもあります。知りたい場合は個人で調べていただけると幸いです。
元ネタを知らなくとも楽しめるよう留意しますが、わかりづらい点などがあればご指摘いただけると幸いです。
全体的な構想はありますが、細かい部分の詰めが甘いと思われます。筆者自身が納得できる形までブラッシュアップを図る所存ですので、更新頻度は遅いと予想されますが時間のある方は気長にお待ちいただけると幸いです。
また都度設定を修正する場合がございます。その場合は投稿済みの話であっても修正すべき箇所は修正する予定ですのでご容赦ください。
今後の展開は考えております故、ご要望に沿うことは出来かねます。ご容赦願います。
完結を目指しますが、行き詰まった場合には予告なしに非公開にする場合がございます。ご理解ください。

長々と予防線を貼りましたが、お楽しみいただけたら幸いと思います。



2019/5/29 13:56 一部誤字を修正


第一章 オルクス大迷宮 ~己の足で這い上がる者共/Imaginator~
ありふれたプロローグ(前日譚)


 月曜日、それは一週間の始まりを告げる日。休み明けでなまった身体に鞭を打ちながら、逃げ切れなかった現実と向き合う日。そんな誰しもが大小差はあれど憂鬱な気分になる日。

 

 今だ閑静な住宅街に一人の少年が歩いていた。赤みがかった黒髪を整えて少し切れ長の目はよく開かれ穏やかな視線をしている。至って平凡で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()少年は高校らしき制服に身を包み、どこか浮かない表情をしている。

 

 少年の名前は北上克行(きたがみよしのり)

 

 これから会う人のことで少し億劫になり歩みが遅い――わけではなく、単純に克行の趣味が散歩なだけ。現在の時刻は六時三〇分過ぎ、そろそろ朝の準備で忙しくなる時間帯ということもあってどの家もにわかに活気立ってきた。

 

 ()()()()()()()に並々ならぬ価値を見出だしている克行にとっては、誰かにとっては何気ない日常の一コマこそが大事な瞬間であり、人の営みを感じることの出来るこの時間が好きだった。憂鬱な気分を紛らわすために周囲の喧騒に耳を傾けながら、普段よりもゆっくりと歩を進める。

 

 そうして歩くこと十数分。住宅街の一角に公園が見えてきた。あれが目的地だ。再び憂鬱感を感じながらも意を決して公園へ踏み入る。見回すこともなく目的の人物は見つかった、というかよく目立っていた。

 

 そこにはベンチに座り黒いブックカバーをかけた本を読む、制服を着た一人の少女がいた。

 

 黒くしなやかな髪を肩の辺りまで伸ばし、二重の瞳は群青色をしている。色白だが化粧が濃い感じはなくナチュラルメイクすらしていないことから、これが〝健康的な白さ〟なのかと一目で理解できる。ふっくらと柔らかそうな唇、艶かしい首筋から鎖骨のライン、服の上からでも分かる歳相応とは言い難い豊満さ(〝どこ〟とは言わないが)、それに反して少し幼さを残した表情、どこを切り取ってもまるで一枚の絵画のように感じられる可憐さ。とどのつまり、どう見ても掛け値なしに美少女であった。

 

 そんな彼女を見て克行は若干めんどくさそうに溜め息をついて近付く。接近する存在に気付き少女が顔を上げ誰かを認識した瞬間、花が開いたような飛びきりの笑顔を浮かべた。

 

「兄さん!」

 

 ―――そう、彼女は克行の実の妹で名前は北上紗弥華(きたがみさやか)という。克行とは似ても似つかぬが、歴とした血縁関係がある。

 

「ちょっと落ち着け」

 

「んんっ……おはよう、兄さん」

 

「ああ、おはよう、紗弥華」

 

 ここで少し、北上克行という男の身の上話をしておこう。

 

 克行は高校進学を期に、徒歩十分程度の近場のアパートで一人暮らしをしている。その理由は両親と折り合いが悪いため、一度距離を置こうとしたためである。

 しかし、二つ下の妹である紗弥華は克行と同じ高校へ進学するほど克行に懐いている。

 こうして登校時に待ち合わせたり、放課後に一緒に帰ったり休日に一緒に出掛けたりするのは、紗弥華からお願いされたことだ。それを断るのは簡単だが、好意を示す相手を無下にするのは()()()()()()()()()()()()()()と考えている克行は、()()()()()()()()()()()()()()()ため何とも座りの悪い感覚を覚えているのだが、突っぱねるわけにもいかずどっち付かずな態度を取ってしまい、今の関係に落ち着いてしまった。

 

「お前、今日日直だったろ?早く行くぞ」

 

「あっ、ちょっと待ってよぉ!」

 

 自分を置いてさっさと学校へ向かおうとする克行を追い、急いで読んでいた本を鞄にしまい立ち上がる紗弥華。

 

 

 

 こうして、何気無い一日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 二人が待ち合わせていた公園は、実家と克行が一人暮らししているアパートとのほぼ中間にある。しかしこの公園はアパートから見ると、高校とは正反対の方向なので通常よりも時間がかかる。と言っても二十分弱で高校に着くためそこまで急ぐ理由はないのだが、克行は散歩を兼ねているためゆっくりとした歩調で歩く。互いの間には少なくない言葉があった。

 

「こないだ友達と買い物行ったんだけどいいお店見つけてさ~……」

「先週出された課題が終わらないって友達に泣き付かれて~……」

「部活の練習がキツくて~……」

 

 などと紗弥華の舌はよく回るなんて考えながら、「ああ」「そうだな」「大変だな」と適当な相打ちを返す。

 

「……って、ちゃんと聞いてるの?兄さん?」

 

 紗弥華のジト目が克行に刺さる。

 

「勿論、しっかり聞いているとも。可愛い妹の話だ、聞かない筈がないだろう?」

 

「……はぁ」

 

 相も変わらず適当なことを言う克行に紗弥華は溜め息を付きながら、逆に克行に問いを投げる。

 

「じゃあ兄さんは週末何してたの?」

 

「え~……そうだな」

 

 克行は少し考えて情報を整理しながら語り始めた。

 

「土曜日はバイトの帰りにウィステリアに行ってコーヒーを飲んだね」

 

「バイトってあの本屋さんだっけ?よく潰れないよね~」

 

「客はほとんどいないけどな、俺のバイト先が潰れるとか冗談でもやめてくれ」

 

「ゴメンゴメン」

 

 妹のあざと可愛い謝罪をスルー。

 余談だが、克行がアルバイトしている「三田村書店」の歴史は古く、五十年続く古書店だ。親子代々店主を務めており、現在の店主三田村幸雄(みたむらゆきお)は三代目にあたる。現代の電子書籍に押されて古書店ということもあり、克行の言う通り日に一人か二人くらいしか客が来ない。にもかかわらずいつになっても潰れる気配がないのは、近隣住民の間で七不思議と言われている。

 

 実はこの三田村幸雄、御年七三歳になるのだが凄まじくエネルギッシュな人で、現代の流行を敏感に察知し参考書やライトノベル、果ては薄い本(ソリッドブック)などの様々なジャンルを取り揃えた通信販売を行っている。それだけに留まらず大手企業の株主であったり、カードショップ経営、建築系、etcetc……数多くのビジネスに手を出し成功を収めるパワフルなおじいちゃんなのだ!

 ちなみに克行が借りているアパートの大家が三田村幸雄その人であり、何故か初見で克行を気に入り本屋のアルバイトを勧められてアルバイトを始めたという経緯が存在する。

 

 

 閑話休題。

 

「ウィステリアって洋食屋さんでしょ?」

 

「まあな。でも彼処のコーヒーは香りも味もこの辺りじゃあ断トツなんだ。今度一緒に行くか?」

 

「行ってみたいかも!あ、当然兄さんの奢りで、ね?」

 

 コテンと首を傾げ上目遣いでお願いしてくる紗弥華。何とも計算し尽くした首の角度と庇護欲を感じてしまう微笑み、あざとい。

 

「仕方がないな…奢ってやろうじゃないか」

 

 これには克行も渋々了承の意を示す。可愛い妹の頼みを聞いただけで、決してあざとさに屈したわけではないことを強調したい。

 

「そういえば兄さん、自分でもコーヒー淹れなかったっけ?」

 

「ウィステリアのコーヒーより美味しいものは淹れられないさ。どうにかしてあの味を再現したくて通ってるんだけど……なかなか難しくてな。独学じゃあ限界なのかもしれない」

 

「そうなんだ。じゃあマスターさんにレシピを教えてくださいってお願いしてみたら?」

 

「それはちょっと失礼じゃないか?」

 

「そういうものかな?」

 

「分からないが、コーヒー抜きにしてあの店の雰囲気は気に入ってるからな。出禁とかは避けたい、だからマスターの娘さんにコッソリ聞いてみようかなって思ってる」

 

「へぇ、お店の手伝いでもやってるの?」

 

「いや、実は同じクラスなんだよ」

 

 兄妹仲睦まじく歩く姿は、高校まで続いた。

 

 

 

 

 

 校門前に到着した二人。現在時刻は七時十八分。少し早過ぎたかな、と克行は思った。

 

「それじゃあ、日直頑張れよ」

 

「うん、付き合ってくれてありがとね、兄さん」

 

 紗弥華に言葉を掛けて自分の教室へ向かおうとする克行。

 

「じゃあ、また」

 

 少し名残惜しそうな表情を浮かべた妹を背に、兄は振り返ることなく―――

 

「じゃあな」

 

―――捨て台詞のように別れを告げて去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紗弥華と別れ、一人教室へと向かう。早い時間のためすれ違うのは部活の朝練に参加しているか、何かしら用事がある生徒か教師のみだった。

 知り合いの生徒と教師に挨拶をしながら歩くと、教室に辿り着く。教室の中には生徒は誰もいなかった。当然である。

 誰かを待つわけでもなし、手早く自分の机に鞄を置いてすぐに教室を出る。向かう場所は図書室だ。

 

 この学校の図書室は早朝でも開放されている。図書委員の一人が教師に許可を貰い、朝から鍵を開けているのだ。だが、それを知るのは教師陣と極僅かな生徒のみ。全生徒に向けて大々的に発表している訳ではなく、また早朝から登校してる生徒も少なく、更にその中で朝っぱらから図書室に行く人間は限られた一部の物好きだけ。そしてその物好きは〝早朝の図書室〟という、ある種の静謐な空間に多数の人が訪れることを嫌がるために周囲に広めず、その結果〝早朝の図書室〟は限られた人間のみが訪れる静かな場所が保たれていた。

 

 克行が見つけたのは偶然で、朝の学校を散歩している時に発見し、それ以降今回のように妹の付き添いで早くに着いた時は図書室に足を運んでいる。

 

 そっと扉を開けて入室すると、見知った顔があったので挨拶した。

 

「おはよう中村、今日も早いな」

 

「おはよう北上くん」

 

 彼女は中村恵里、割りと早朝の図書室で遭遇する数少ない人で克行のクラスメイトでもある。

 

 お互いに少しばかり()()()()()()()を持っているせいか、朝早くから登校していることが多く何かと顔を合わせる機会があった。

 また()()()()()()()()()()()()()を察しているのか互いの事情には踏み込まないため、奇妙なシンパシーを感じていた。

 

 そのため挨拶が終われば言葉を交わすこともなく、それぞれ思い思いに過ごしていく。

 

 克行は新たに仕入れた文庫本を開き、そのまま口を開くことなく始業二十分前となり図書室を後にした。

 

 

 戻ってきた教室には半数ほどの生徒がいて、騒がしくしていた。仲の良い者同士のグループで週末の出来事などを話している。

 このグループは区切りが非常に曖昧で複数の集団に属す人間もいる。そして最大の特徴は、グループごとの順位のようなものが存在すること。

 クラスや学校単位でカーストを形成しており、その位置付けは暗黙の了解の上に成り立っている酷く不確か。上位の集団、またはそれに属する者に対して、下位の集団、またはそれに属する者は基本的に従うという性質があり、学校の雰囲気や上位カーストの方針によっては下位カーストやカーストに属さない人間を標的としたいじめの温床となることもある。

 この学校ではそのような過激なことはないが、陰で行われる陰湿なものは大なり小なり存在する。多感な思春期の少年少女が多く集まる学校というコミュニティでは、それらすべてを根絶することは難しい。

 

 克行はカーストに属さない珍しい方に分類される。だからこそ特定の集団に入っている訳ではないので、逆を言えば誰とでも関わることが可能。だからといって積極的に関わることはしないが。

 周囲の人間と当たり障りの無い話をする程度の関係でいいと考えている彼の交遊関係は広く浅い。

 克行も周りの人と雑談をしていると、始業時間間際に教室のドアが開き一人の生徒が入ってきた――途端に教室内が静まり返り、克行は「またか…」と内心溜め息をついた。

 

 原因は先程入ってきた少年――南雲ハジメである。

 

 まず絡んだのは檜山大介(ひやまだいすけ)斎藤良樹(さいとうよしき)近藤礼一(こんどうれいいち)中野信治(なかのしんじ)の四人組。毎日飽きもせず南雲を嘲笑する、カースト上位に位置する者らだ。ハジメは苦笑いしながら嵐が過ぎるのを耐えている。

 

 

 南雲ハジメという人間はオタクと呼ばれる存在であり、カースト最底辺でもある。両親の影響でサブカルチャーにハマり、座右の銘は〝趣味の合間に人生〟というだけあり趣味のために様々なものを犠牲にしている自覚がある。

 しかし見た目は最低限整えており不潔感などなく、積極性はないが会話も行い受け答えもしっかりしている、いわゆるコミュ障でもない。

 そんなハジメが一方的に絡まれる理由は、たった今話し掛けている彼女にある。

 

 白崎香織(しらさきかおり)。容姿端麗とは彼女のことだと言うほどに容姿に恵まれており、なおかつ性格も温厚で優しさと思いやりを持ち常に笑顔を振り撒いている。学校では〝二大女神〟として多くの生徒たちから崇拝(?)されており、香織に話しかけられた瞬間ハジメに対してクラス中が殺気立った。すぐ後ろの惨状に気が付かず、ハジメが顔を青くしている様子を見て嬉しそうにはにかむ彼女はかなりの天然が入っているのかもしれない。

 香織がオタクであるハジメにやたらと構う――クラスの人達はそれが認められないらしい。何故南雲なんだ、南雲なら俺でも私でも、といった具合に。実際、たまにどこからか「なんで南雲なんかに…」というニュアンスのぼやきが聞こえてくることがある。

 

 克行には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。否定したところでそう考える人がいるのは覆しようがないのだから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その後、香織の幼馴染みである〝二大女神〟のもう一人である八重樫雫(やえがししずく)()()()()()()()()()を持つ天之河光輝(あまのがわこうき)、それと如何にも脳筋といった恰幅の良い坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)といった最上位カーストの面々がハジメの周りに集まり、それぞれ謝罪や苦言を述べていく。そして光輝の発言に反応した香織の言葉を、光輝が曲解し雫が呆れるという最早見慣れたいつもの光景が繰り広げられ、克行は若干の既視感を感じた。

 

 この間、最初にハジメに絡んでいた檜山以下三人はハジメへの嫌悪感を露にしながらも、何もアクションは起こしていない。カーストに属する者はより上位のカーストには逆らわない。そんな暗黙のルールの中でハジメ()には大きく、光輝達()には下手に出る様が実に小悪党染みている。

 

 やがて始業チャイムが鳴り教師が入ってきたことで、()()()()()()()()()()()()()()は一応の終息を見せた。ハジメは針のむしろから解放された安堵からか、はたまた日頃の疲労からか直ぐ様寝息を立て始めた。それを見て香織は微笑を浮かべ、男子は殺気を、女子は侮蔑の目をハジメに向けた。

 

 

 

 授業開始直前から異様な空気を漂わせる教室の中で、克行は授業を聞き流しながら別のことを考えていた。

 

 正直に言えば克行は先程のやり取りや現在の雰囲気については特に不快感とかは感じていない。想起しているのは()()()()()()()()()()である。

 

 克行から見ても香織がハジメに好意を寄せているのはわかる。わからないのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 人が価値あるものを優先すること、そして価値とは個人の認識から作られるものであることは知っている。が、それでもハジメに向けるその感情が筋違いであることを理解するべきだろう。

 

 そして周囲が反発するのは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 香織は自身が他者に与える影響の大きさを一度省みるべきである。そうすれば今のように衆人環視の中で無闇に話し掛けて、ハジメに居心地の悪さを感じさせずにすむ。

 

 ハジメは察してもらうのを待つだけでなく、自らの口で要求するべきである。忍耐力があることは一つの美徳ではあるが、〝過ぎたるは猶及ばざるが如し〟という言葉の通り。

 

 一見すると渦中の二人に非はないように思えるが、克行はこの二人こそ原因の大半を担っているとさえ思う。

 

 無論両名だけでなく、周囲にも問題がある。

 

 先に挙げたこともそうだが、雫と光輝(幼馴染み達)も応援するなり止めるなりの方法が余りにも杜撰だ。もっと波風を立たせないようにすることも出来るだろう。

 

 しかし克行はそれを指摘するつもりなどなかった。克行がもたらす変化など微々たるもので現状を改善することなど夢のまた夢であるし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 関係が深すぎると()()()()()が大きくなり、いずれ痛い目を見ることになる。

 当たり前に他者の心情を汲み取りながらも己の信条を崩さない克行。

 

 傍観者という最も質の悪い輩であることを自覚しながら。

 

 そんな益体のないことを考えていると、時間は瞬く間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。

 

 午前の授業を乗り切って、これから午後への活力を養うため昼食をとるための休憩時間。このクラスの人間の大半は弁当を持参しているが、一部は昼食という戦果をあげるために購買という名の戦場へと赴いている。

 

 かく言う克行は弁当持参派、しかも一人暮らしということもあり手作り弁当である。時間はあってもお金のない高校生の克行にとって、料理は半分趣味と化している。

 

 昨日の残り物らしき煮物に卵焼き、ウインナー、バランスを考えて添えられたミニトマトや簡単なサラダなど、実に彩りの良い弁当となっている。

 

 食事は一人で静かにしたい克行は弁当を持って席を立つ。教室では人数がいて静かとは言いがたく、弁当のおかずを狙う不埒者が度々出没するため、落ち着いて食事出来ないのだ。

 

 と、その前にお手洗いへ向かい用を足す。そこへ――

 

 

「あっ、兄さん!」

 

 教室へ戻ろうとした克行に声を掛けたのは妹の紗弥華だった。

 

「紗弥華?どうしたの?」

 

 はて、事前の約束もなしに妹が自分を訪ねてくるのは珍しい。普段、昼休憩に用がある場合は基本的に自分が出向くことが多いからだ。

 

「うん、今日の朝に言い忘れたんだけどお昼一緒に食べない?もちろん、兄さんが良かったらなんだけど……」

 

 紗弥華の言葉尻が弱くなっていく。どうやら昼食のお誘いらしいが、突然のために断られるかもしれないと不安がっているようだ。

 

 普通の兄妹ならここで快く了承する場面なのかもしれないが、生憎とこの兄妹は少し普通ではない。実際克行はこの誘いに対して、若干の難色を示していた。

 

「今からか?ちょっと急だね…」

 

「っ、そうだよね……」

 

 紗弥華は顔を少し歪め俯く。その様子に空気が重くなり、クラス内から克行を非難するような視線が向けられ始めた。

 

 実際、克行に紗弥華の誘いを断る理由はない。どうしても外せない用事などない。特に用事もないのなら妹の頼みくらい聞いてあげるべきなのだろうと分かっているが、同時に()()()()()()()()()()を躊躇してしまった。だから即答することを避けたのだ。

 

 しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう、と克行は結論を出す。この男、変なところにこだわる癖に変なところで物分かりが良い。

 

「分かったよ、降参だ。今日は一緒に食べようか」

 

 手のひらを返したように承諾する。紗弥華の表情が一気にパァッと明るくなった。

 

「っ!うんっ、ありがとう兄さん!」

 

 それだけで教室はおろか、廊下の雰囲気すらも和らいでいく。

 

 

 実は紗弥華は学校内で〝癒しの天使〟として有名なのだ。

 身長は一五〇cmと十五歳の平均身長よりも低く、垢抜けた感じの童顔は綺麗さというよりも愛らしさをこそ強調している。〝二大女神〟とは異なり庇護欲を沸かせる小動物感があり、それでいて天之河光輝のような近しい男は凡夫たる克行()のみということもあって親近感があり、学年問わず高い人気を誇っている。

 

 先程向けられた視線には、「我らが天使ちゃんの笑顔を何曇らせてんだワレおぉん!?」といった意味合いが含まれていた(もちろん可愛い女子に言い寄られてることに対しての嫉妬の感情も多分に含まれる)。

 

 克行としてはその事自体は把握しているが、妹が可愛くて鼻が高いなど考えることはない。何故なら、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だが、この教室に妹を入れるのは人並みに抵抗感を感じる克行。教室内は天使(紗弥華)の降臨に伴い、軽く浮き足立っている。もしも紗弥華が教室に足を踏み入れた瞬間、騒ぎになって昼食どころの話では無くなってしまう予感があった。

 

 唯一紗弥華に気が付いていないのは、先程まで睡魔に囚われていて起き抜けで寝惚けているハジメくらいのものである。どうやら珍しく教室で昼食を摂るつもりらしい。といっても十秒チャージで済ませるようだが。

 

 ハジメと交友のある克行は、ハジメが周囲に流されない人間だと知っているからこそ、そんなハジメに感謝した。

 

(南雲くん、君はどうかそのままでいてくれ……)

 

「ちょっと待ってて、すぐ弁当持ってくるから」

 

「うんっ!」

 

 廊下で待つよう紗弥華に伝えた克行は、手早く弁当を回収しようと自分の机へ戻る。

 

 が、そこでそれまでの空気をぶち壊すかのように我がクラスが誇る〝二大女神〟が一人、香織姫が動いた。

 

 ハジメの昼食に苦言を呈したと思えば自らの弁当を分けてあげるとの爆弾発言。これにはたまらず光輝が動く。そこへ香織の天然カウンターが炸裂、もう一人の女神を含めたいつもの面子も巻き込んであっという間に教室はカオスと化した。

 

 その光景を野次馬する者に邪魔をされなかなか自分の席まで辿り着かない克行は、やっとの思いで弁当を手にする。そのまま教室から退避しようと再び人波へ漕ぎ出した。

 

「ちょっ、ちょっと通し、てくれ!」

 

 少し語気を強めながら何とか通してもらうことに成功し教室の入り口まで戻ってきた。そこに心配する声が掛かる。

 

「大丈夫、兄さん?何か凄いことになってるみたいだけど……」

 

 どうやら紗弥華が廊下から様子を見に来たようだ。戻るのが遅くなってしまい、心配させてしまったらしい。

 

「あぁ、何とかな…」

 

「相変わらず凄いね、白崎先輩は。流石〝二大女神〟様」

 

「毎朝同じようなやり取りを見せ付けられるこっちの身にもなって欲しいとは思うけどな」

 

 お互い苦笑しながら顔を見合わせる。

 

「ま、それはどうしようもない。時間も限られてるし、行こうか」

 

「うん、そうだ……」

 

 克行が教室から出ようとした瞬間、教室の中にいる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(っ!?これはっ…!?)

 

 ゲームやマンガなどのサブカルチャーでよく見るいわゆる魔方陣というものだろうか、次第に光が強くなってきている。

 突如感じた謎の感覚に背筋の悪寒が止まらない克行は、既に取り返しのつかない予感に冷や汗が吹き出している。

 

 

 

 

 

 そして光が極限まで高まる――その刹那に。

 

 

 

 

 

 とんっ、と紗弥華を押す手。

 

 

「――――えっ?」

 

 

 突然突き放され呆然とする紗弥華の目に、薄く笑う克行が映った。

 

 遂に光は臨界を迎え、紗弥華の目の前から克行はいなくなった。

 

 

 

 この日。

 

 

 とある高校の一クラスから生徒が消えるという、〝集団神隠し〟と世間に騒がれる事件が起こった。

 

 教室の状況から抵抗の跡もないことから、超常的なものによるとする見方や自分達の意思による集団失踪とする見方もある。

 

 どちらにせよ、白昼の学校で堂々と起こったこの事件の解決は困難を窮めたという。




初手から一万字越えとは…何とも。自分からハードルを上げていくスタイル、嫌いです。

ちなみに小説タイトルは日本語に訳すと分かります。Google先生に訳してもらっただけなので、簡単だと思います。

所々分かりづらい部分がありますが、主人公の平凡さを醸し出すための演出であります。
設定を事前に練ったんですが、オリ主君の性格やらが右往左往しまして台詞や行動に一貫性がないと感じる場合がありますねぇ…。

自分の妄想を言葉にするのは中々大変で、文才不足にボキャ貧といった理由で辛いです。次話も構想はまだ筆者の頭の中にしかなく、これから文字に興すので時間をいただきます。
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