Common Unemployed and Zero Infinity -Flawless Paradox- 作:半裸ーメン
当小説の雰囲気にそぐわないと筆者が判断した場合には修正致しますので、ご了承ください。
光が収まったと同時に、克行はどうにも奇妙な
閉じていた眼を慣らすようにゆっくりと開けると、周りには教室内にいたクラスメイトたちが困惑した表情でキョロキョロしている。
そこに紗弥華の姿がないことに一安心する克行。あの不可解な現象に巻き込まれないように突き飛ばしてしまったことには少し罪悪感がある。といってもあの場面ではあの方法以外に思い付かなかったので許してほしい。
生徒の中には社会科教師である
畑山愛子(二五歳)、身長は一五〇センチ程と小柄で童顔。生徒思いで何事にも全力で取り組む愛くるしさと何故か空回ってしまう残念さで、生徒たちから人気の高い教師である。
克行は学校で〝複雑な家庭事情〟を抱えた生徒として見られており、教師からは腫れ物扱いをされていた。確かに両親とは軽い絶縁状態であるのは事実が、そんな中で愛子だけは熱心に克行の世話を焼いていた。
その容姿と態度から妹の紗弥華と何かと被ってしまい、克行はどうにも愛子に対して苦手意識を拭えないでいた。
更に周囲を観察すると自分たちよりも低い位置に三十人程だろうか、
どうやら自分たちは台座のような場所に立っていることに気が付いた。見たことのない素材で出来ているようで、強いて言えば大理石に近いと言えるかもしれない。
続いて、この空間全体を見渡す。天井はドームとなっておりとても高く、それを支える柱には何かの彫刻が彫られている。広い空間でありながら
そこでようやく、今まで気が付かなかったのが不思議なほどに巨大な壁画が描かれていることに気が付いた。
中心には後光を背負い長い金髪を
背景や周囲には豊かな自然があり、それらを包み込むかのように両の手を広げている様は、まさに〝神様〟と称するに相応しいと見る者に感じさせる。
しかし克行は、それらの美しさには目もくれずに一人の人物に注視した。
他よりも一層
(……嫌な感じだ、あの人)
だが彼の視線からまるでこちらを値踏みするようなものを感じ、克行は今までにないストレスを自覚していた。精神を
克行は初見で人を嫌うことがほとんどない。それは〝自分の理解が及ばない人間も当然いて、他人を理解することは難しい〟と考えているためだ。
だからこそ紗弥華や愛子といった、他人を理解しようと踏み込んでくる人間を苦手としており、他人に考えを押し付けてきたり、理解したつもりになって我が物顔で踏み込んでくる人間には忌避感や嫌悪感を示す。
前者はあくまでも〝他人を理解するための努力〟をしているだけで、その努力そのものは悪ではないため拒絶はしない。だが後者は〝無遠慮に他人の尊厳を踏みにじる〟行為であり、克行にとっては明確に悪足り得るため嫌悪を抱くのだ。
克行の中であの老人は〝
その点で言えば、光輝は微妙なところだ。彼は
そのため克行の中で光輝は苦手ではあるが、かといって嫌いというほどではないという曖昧な立ち位置となっている。
そんな老人と克行は刹那、目が合った。しかし老人は言外に失望したと言いたげな眼に変わり、すぐに視線を外す。
そして生徒たちがある程度状況を把握出来た頃合いを見計らい、手に持つ
「ようこそ、トータスへ。勇者様、
そう言って、老人―――イシュタルは
その後イシュタルから事情説明の申し出を受けた一行は場所を移し、現在大広間らしき場所へと集められていた。最初の大聖堂程ではないが、ここも十分な装飾が施されている。
派手すぎず地味にならず、嫌みたらしくないくらいに抑えられた調度品の数々。これを選んだ人間は素晴らしいセンスだと言える。
十メートルを越える大きさのテーブルが複数設置されていて、光輝、香織、雫、龍太郎らのグループや愛子から何となくクラスカーストの順番で座っていく。上座下座の概念があるかは分からないが、類似するマナーに
ちなみに克行とハジメは当たり前のように最後尾に並んで座っている。ハジメは居心地が悪そうにしているが、克行は全体を見渡せるこの位置を気に入っていた。
ここに来るまでの間、誰も騒ぐことはなかった。未だ状況が呑み込めていないのもあるが、何より光輝の言葉に依る部分が大きかった。光輝には一種のカリスマがあり、ほとんどの人はその言葉を受け入れる。
克行としても周りが騒がなかったのは有り難かった。というのも、この場所に来てから妙な違和感だったりイシュタルと名乗る老人から感じる不快感だったりと、少なくないストレスが急激に現在進行形で襲ってきており、そのせいで身体に変調を
それも次第に慣れてきて体調は整いつつあるが、ついさっきまで頭痛と嘔吐感に苛まれて歩くことすら辛かったのだ。周囲が騒がしかったらこうはいかなかっただろう。
しかしそれを知る者は誰もいない。克行は体調不良を隠すためにポーカーフェイスをしていたからだ。満足に現状すら把握できていない中で迂闊に弱みは見せられないと判断した結果、顔色すらも鉄面皮の下に隠し通していた。恐らく隣を歩いていたハジメさえも気付いてはいないだろう。
そうして一同が席についてから、給仕の者たちが飲み物を出してきた。給仕たち全員が女性で、しかもメイド服を着用している。
つまり日本人ならば誰もが憧れるメイドさん、しかも生メイドさんである。加えて全員が頭に〝美〟が付く少女で構成されており、男の
隣のハジメを含め、克行と一部を除く男子たちがソワソワとしていた。
同時に女子の視線は絶対零度と化していた。
飲み物を用意してくれたメイドさんを凝視しかけたハジメの背筋に突如として寒気が走り辺りを見回すと、とても良い笑顔の香織がハジメを見ていた。
気のせいだろうか?
香織の背後に般若がゆらゆらと揺らめいているように見える。
ハジメは目を擦りながら「疲れてるんだ……はははっそうだ、疲れてるんだな……」なんて言って青い顔をそらす。もうメイドさんなどには関心の欠片も残っていなかった。
(白崎さんと南雲くん、こんな状況なのにいつも通りだなぁ……)
隣の克行は呑気に出された飲み物を飲みながら、笑う香織と震えるハジメを眺めていた。香織の笑顔を見たときに『笑顔は威嚇の意味を持つ』ということを思い出したが、香織とは何の関係もない。ないったらない。誰も藪をつついて蛇を出したくはないのだ。
普段であれば信用できない相手から出されたものを口に入れるなどしないが、身体の変調から完全に復帰していない上に酷く汗を流しているために、このタイミングでの水分補給は必要不可欠だと判断した。
幸いこちらは
それとは別に気になることが克行にはあった。
確かに自分たちの常識(と言って良いかは微妙だが)と照らし合わせると、メイドとは美女や美少女であることが鉄板である。王道とも言って良い。
が、
(これってもしかして〝ハニートラップ〟って奴なのかな……?)
克行はこれがある種の〝ハニートラップ〟ではないかと考えていた。古典的ではあるが現代でも用いられている至極単純な諜報活動の手法の一つで、異性との情緒的な関係から相手を懐柔または脅迫して情報を得ることを意味する。
何故イケメンではないのかと言えば、それはこの集団において影響力のある人物が誰なのか、という疑問への答えによって説明が可能となる。
イシュタルはそれとなく自分たちを観察していたことを、克行は確信している。そしてイシュタルはこの集団のリーダー的存在を見抜いている。
それは無論、天之河光輝である。
彼の言葉でクラスメイトたちは落ち着いていたことから、一目瞭然ではあるだろう。
彼に近付けるために美少女ばかりのメイド隊に給仕させているのだろう。これで光輝がメイドの内誰かを気に入ったりして、
事実クラスの男子のほとんどが鼻の下を伸ばしている。そうではない者らは恋人がいたり、気になる異性がいるなどの理由から必死に堪えているようにも見える。
例外としては、メイドに対して全くの無関心を貫いている克行だけだろう。
克行が
その事を理解しているのか、克行にだけイシュタルは面白くなさそうな視線を送る。克行としてもまともに取り合うつもりはないので、あまり眼を合わせないようにしていた。
ちなみに光輝ではなく愛子や香織、雫あたりがリーダーだったのなら、給仕はメイドではなくイケメン執事が行っていたのだろうかとどうでもいい妄想が克行の頭を一瞬よぎった。
閑話休題
全員に飲み物が行き渡ったところで、イシュタルから現状の説明が始まった。
要約すればこういうことだ。
この
大陸の南側を支配する人間族は一人一人は三種族の中でも最弱だが、数の多さでは他種族を圧倒的に凌駕している。
大陸の北側を支配する魔人族は個体数こそ少ないものの、個人の力が非常に高い。まるで人間族とは真逆にデザインされたような種族である。
亜人族とはその名の通り〝人の亜種〟として差別されており、東の大樹海にひっそりと隠れ住んでいる。身体能力こそ高いが亜人族は魔力を持たないため、他の二種族と比べると立場が弱く迫害の対象となっている。
この内、人間族と魔人族の間では数百年にわたる戦争状態が続いている。これまでは量の人間族と質の魔人族と正反対の特色が働き戦力は拮抗、最近は互いに大きな衝突もなく膠着状態となっていた。
しかしある時から、その均衡は崩れていくこととなった。
その理由は、魔人族による魔物の使役である。
ここで魔物について説明しておこう。
正確には判明していないが、一説には野生動物が大気中の魔力を取り込むことで変質した存在だと言われている。そのためかあらゆる生物の中で魔物のみが《魔力操作》という技能と固有魔法を持っており、凶暴でとても危険な生物だ。
そんな魔物を使役出来るものはほとんどおらず、出来たとしても一、二匹が限界と言われていた。今回、魔人族はその常識を打ち破り多数の魔物を使役することに成功している。
優っていた〝数〟という利点が潰されたも同然の人間族は、今まさに滅亡の危機に瀕しているという訳だ。
そんな人間族を見守る守護神で、聖教協会の唯一神で、この世界の創造神である〝エヒト様〟なる御方は慈悲深く、滅び行く人間族のためにこの世界よりも上位の異世界から救済者足り得る存在、勇者を〝神の使徒〟として召喚するに至った。
これが今回の経緯である。
話し終えたイシュタルは歓喜に震えるかの如く恍惚とした表情であり、克行は再び気分が悪くなった。ハジメもあまり良い顔はしていない。良い歳こいたじじいのア○顔とか誰得
事のあらましを最後まで口を挟まずに聞いた一同だったが、その中から只一人の大人である愛子が猛烈な抗議をし始めた。
戦争とは〝殺し殺される〟可能性があるということで、そんなことを生徒にはやらせられない。家族が心配するから早く元いた世界へ帰らせろ、誘拐犯!といった内容だった。
『家族が心配する』の部分で克行をチラリと見たのは、気のせいとしておこう。……実の両親が心配してくれていると確信が持てないでいる自分は、きっと親不孝者なのは事実だが。
だがイシュタルによれば、それは不可能らしい。というのも、克行たちを召喚したのはあくまでも〝エヒト様〟であって、我々には異世界へ干渉するような力はないとのことだった。
生徒たちは堪らず、今まで溜まっていた不満が爆発した。そうして騒ぎ出した様子を見ながら、イシュタルら教会側の人間は心底不思議そうな顔をしていた。
と、ここでリーダーたる光輝が声を上げる。
『イシュタルさんに文句を言ってもどうしようもない』
『この世界の人たちを放ってはおけない』
『俺達には力があるから大丈夫だ』
『俺が世界も皆も救ってみせる』
とどめに輝く笑顔と歯をキラッとさせて。
彼のカリスマはその威光を遺憾なく発揮し、生徒達は活気を取り戻し興奮状態になった。光輝に続き、龍太郎、雫、香織達クラスの中心メンバーも続々と参戦を決意する。
それによって場は一気に白熱し、皆が希望を見つけたかのように明るい顔で賛同していった。愛子先生だけは最後まで反対したが、光輝が作ったこの流れは最早止められない。
イシュタルは満足そうな表情をして、世界を救った暁にはエヒト様が願いを叶えてくださるかもしれないと光輝へ伝えた。
ハジメは苦い顔をしてイシュタルを見ている。何か思うところがあるようだ。
周囲が盛り上がっている中、克行は完全な無表情で一連の流れを見ていた。
今の克行の思考を一言で表すならばこうだ。
『何だ、この茶番は?』
さっきまでの身体の不調などどうでもいいとばかりに、沸き上がる感情の波を必死に抑える。あまりにも複数の大きすぎる感情が同時に溢れた結果、逆に無表情になっているのだ。
その中でも、一番大きな感情は〝怒り〟だった。
神を盲信する狂信者、浅慮で動く愚者共、そして何よりこのような
滅びを回避するために勇者を召喚した―――何だそれは。救われるためならば、赤の他人に結末を譲っても良いというのか。お前達には、今まで人々の未来のために戦ってきたという誇りはないのか。
世界も皆も俺が救う―――何だそれは。お前には世界すべてを背負う気概が有るとでも言うつもりか。〝救う〟だなどと綺麗事しか見ようとしない奴が、何かを為せると思っているのか。
何だそれは、何だそれは、何だそれは―――何なのだ?
こんなどこの馬の骨とも判らぬ餓鬼を、〝神の使徒〟だからというだけで世界を救うと信じ込む。それほどまでに〝神エヒト〟とやらを盲目的に信仰しているのか?〝神の御意志〟やら〝神託〟とやらには絶対服従するのか?それほどまでに、自らの意志はないのか?
ただただ周囲に同調して騒ぎ立て自らは何一つとして動かない。声だけは大きくいざとなったら別の人間に全ての責任を擦り付けのうのうと生きる衆愚。そんな輩に、一体何が為せるというのだ?
何よりも克行が気に入らないのは、
イシュタルは生徒達を、正確に言えば光輝を観察し彼が関心を示すワードを探っていた。人間族が滅亡の危機であるという話の部分で、光輝が反応していたのをイシュタルは見逃さなかった。そこからは光輝を取り込もうと、魔神族が如何に卑劣かを露骨なまでに語って聞かせていた。
つまり、光輝の意志さえもイシュタルによって植え付けられた先入観から導かれたものなのだ。光輝自身は自分の考えだと思っているかもしれないが、紛れもなくイシュタルによって誘導された結果であった。それに賛同した生徒達は言わずもがなである。
そのイシュタル自身も〝神エヒト〟の言葉に従うだけの人形と変わらず、そこに自由意思は皆無だと克行は考えている。
誰も彼も自分自身の言葉を持っていないことに、
今回は八千字程度で抑えられました。
何故か主人公が光の奴隷化しているけれど、気にしない。
設定練ってるときは一度甘粕と化したけど戻ってこれたし平気平気(白目)
太字とか傍点とか使いどころさんが分からない、油断すると鬱陶しいくらいいろんなところで使ってしまう。