Common Unemployed and Zero Infinity -Flawless Paradox- 作:半裸ーメン
タイトルから今回の内容を匂わせる……このさりげなさよ。
え、丸わかり?またまた~
そして、まさかの一万五千字越え……。何度も書き直しております。
あっ、今回は一部独自設定、独自解釈が含まれるかと思います。ご了承ください。
2019/05/26 01:06 後書きを一部修正
どうにも胃がグルグルする感覚が消えない、と克行は腹の辺りを手でさすった。
光輝による戦争参加の表明から一夜明け、講堂のような場所に集められた一行。本日からこの世界についての座学と戦闘訓練が始められる運びとなっている。今日もハジメとはお隣さんである。
未だに先日のことで感情を燻らせている克行は、その後にあったことを思い返していた。
克行が感情の荒波に揉まれている頃、イシュタルに動きがあった。
いくらこの世界の人間より数倍高いスペックを持っていたとしても、元は平穏な生活に入り浸っていた戦争の〝せ〟の字も知らない高校生。戦う術を身に付ける必要があるのは当然のことだった。
しかし、それは聖教教会も折り込み済み。聖教教会総本山である【神山】の麓に位置する【ハイリヒ王国】の騎士団と訓練を通して経験を積ませる算段だった。
【ハイリヒ王国】は聖教教会の唯一神であり創造神たる〝エヒト様〟の眷族であるシャルム・バーンなる人物が建国した歴史ある国であり、聖教教会と密接な関係にある。
だがそれは明日からの話で、今日はこの後はハイリヒ王国へ入りパーティーを催すという。
「本日は皆様もお疲れでしょう。是非とも英気を養っていただきたい」
とはイシュタルの言。
この時、ハジメから声を掛けられて克行はハッとした。
そのために勇者一行は意匠の凝った巨大な門をくぐり、これから【神山】を下る。
総本山ということもあり、聖教教会は【神山】の頂上に居を構えている。これだけの高度でありながら、生命活動に支障が出ていないことに驚きを覚えた。
眼下には雲海が広がり、雲の切れ目からちらほらと町並みらしきものが伺える。そして上には青く澄んだ大空が広がっており、何とも幻想的な景色に一同は目を奪われた。
そのままイシュタルの案内に従って歩いていると、大聖堂で見たものと同じような台座があった。何やら幾何学模様が描かれており、教室で見た魔方陣を思い出す。
そこに乗せられた一行。
「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」
イシュタルの呟きと共に足元の魔方陣が輝き出し、台座ごと斜めに下っていく。まるでロープウェイのようだと皆がはしゃぎだし、雲海に突入すると更にうるさくなった。
先程イシュタルが〝詠唱〟したことで〝魔法〟を起動したのだと、克行は何となくそんな気がした。少なくとも科学的な原理ではないだろう。
やがて雲海を抜けた先には、大きな城と城下町が見えてきた。あれがハイリヒ王国なのだろうか。
(文明レベルは地球よりも低そうだけど、建物は何で出来ているんだ?)
克行は科学技術が発展していなさそうなのに、どうやってあれだけ大きな建物を建築したのか興味を持った。
やがて一行を乗せたロープウェイは、王城の一角に到着した。天から降りてきた神の使徒――といった構図となっていて、街の人々は在りもしない幻想に心打たれているのだろうか。少しばかり歓声が聞こえてきた。
これでは教会関係者を神聖視してしまうのも無理はない、と思わず克行は鼻を鳴らす。自分の目で見てもいないことを疑いもせずに従う、というのが克行の
それではまるで
そんなモヤモヤとした気持ちを抱えたままの克行を伴って、一行はハイリヒ国王の元へと案内されていった。
教会にも劣らず
克行達が何者なのか事情を聞かされているようだが、こんな子供に、一体どうすれば世界を任せられるのか克行には皆目検討がつかなかった。ハジメは居心地が悪いのか、克行の後ろをこそこそと着いてきた。
部屋の入り口の脇に控えている近衛兵が、イシュタル等の来訪を声高らかに告げる。イシュタルは勝手知ったるとばかりに開かれた扉を我が物顔で通っていく。光輝等と一部を除いた生徒達は恐る恐るといった感じで部屋へと入っていった。
入った部屋の中にはレッドカーペットらしきものがあり、その先には贅を凝らした大きな椅子――玉座だろうか――が置かれている。その前に覇気を持つ初老の厳つい男性が
その横には華やかに着飾った王妃らしき美しい女性がおり、姉弟らしき二人が控えている。姉は光輝達と同じくらい、弟の方はやや幼く二桁に届いているかどうかといった年齢で、二人とも金髪に碧眼と外国の王族らしい容姿を持っている。
更にレッドカーペットの両側に別れて、騎士甲冑の偉丈夫や軍服を着た強面の男達は左側に、文官やら研究員のような者等が右側に、国の重役らしき人物達がズラリと並んで控えていた。彼らの持つ迫力に、一行は気圧された。
戸惑う一同を置いて、一人玉座へと進むイシュタルに玉座を囲う者等は軽く頭を下げる。そして玉座へと歩を進めたイシュタルがおもむろに手を差し出すと、
(決まりだな……)
克行は自分の予想が当たっていたことに歯噛みした。
この事から、ハイリヒ王国よりも聖教教会の方が上位であることの証左と言える。
(国の成り立ちを聞いた時点で予想はしていたけれど、本当だったなんて……この分だと、宗教戦争の可能性も高いじゃあないか)
人は争う生き物であり、その理由は〝自分と違う〟からである。戦争が起こるきっかけも案外些細なものだったりするのだ。その中でも宗教が絡んだ理由で起こった戦争を宗教戦争といい、これがとてつもなく厄介なのだ。
信仰する神は個人の自由であるが、それが絶対だと信じてしまうと他人の声が届かなくなってしまい、信仰する正義とそれと異なるものを悪と思い込むようになる。そうなってしまえば、後は泥沼である。
現代社会でも多くの紛争が起こっている。その内のいくつかは宗教観の違いから引き起こされたといえば、その根深さは推し量れるだろう。
仮にこのトータスで起こっている戦争が宗教がらみの場合、異教徒を根絶やしにするまで止まらないかもしれない。そうなれば、人の醜さを生徒等は目の当たりにしてしまい、立ち直れないかもしれないと、克行は最悪の想定をした。
無意識のうちに、
その後の自己紹介はつつがなく行われた。国王エリヒド・S・B・ハイリヒ、王妃ルルアリア、第一王子ランデル、第一王女リリアーナ。王族に続き騎士団長や宰相、軍部統括、研究主任、第一宮廷魔法師、使用人筆頭等々、様々な人等が紹介されていく。肩書きを聞いたらやはり重鎮ばかりだった。
ランデル王子がしきりに香織を見ていたが、これまた
その後は勇者ご一行を労うための晩餐会が開かれた。これでもかと言わんばかりに飾られた、まさしく豪華絢爛なホールで振る舞われたのは、贅沢の限りを尽くした豪勢な料理の数々。
基本的に地球の料理と変わらず美味であったが、一部の料理の見た目が食欲を削ぐような色合いのソースがかかっていたりした。克行が特に躊躇せず食べてみると、頬が落ちるほど美味しかった。
王宮内での衣食住の保証と、戦闘訓練の教官となる現役騎士や宮廷付きの魔法師達との対面が行われた。今後お世話になるので、親睦を深めようとの計らいなのかもしれない。
その間もランデル王子は香織へアタックを仕掛けていたが、都度勘違いして割り込んでくる光輝。そんな光輝にランデル王子が突っ掛かるも、暖簾に腕押しとばかりの光輝の態度に、ランデル王子は一人相撲をしているようで疲れていった。
そんな様子を尻目に、克行は我関せずの態度でトータスの料理に
それが終われば光輝達は各々の部屋へと案内された。一人に一部屋宛ががわれたのはいいのだが、
と言うのが、昨日までの話。今朝起きてみれば昨日のムカムカは消えておらず、むしろぶり返している気さえする。
そして、場面は冒頭へと戻る。
集められた生徒達の前に、文字通り騎士といった
男の名はメルド・ロギンス。ハイリヒ王国が誇る騎士団、その長たる人物である。昨夜の晩餐会で克行とも会話したが、
締めるところは締め、弛めるところは弛めるといった柔軟に対応してくれる人で、克行は、この人は信用できると感じた。
実際、既にメルドは砕けた口調で話しており、彼なりに勇者様達と腹を割って行こうと気を回してくれている。それくらいの気概がなければ、一国の騎士団をまとめ上げることなど出来ないのだろう。
しかし、騎士団長に新兵の訓練などを任せて国防は大丈夫なのかというと、それは問題ないらしい。王国としても、神の御使いである光輝達に対して半端な事は出来ないので、騎士団長自らが教育役を買って出てくれたという経緯がある。尤も、「面倒な事務仕事を副長に押し付けられた」とメルドは供述しているが。
「さて、全員配り終わったな?これはステータスプレートと言って、現在の自分の客観的なステータスを表示してくれるものだ」
一行に配られた十二×七センチ四方の銀色のプレートについて、メルドから説明が入る。このトータスでは身分証としての役割もあるため、「これがあれば迷子になっても平気だから、失くすなよ~?」と茶化すメルド。
克行は物珍しげに、ステータスプレートと呼ばれたものを眺める。指で表面をなぞったり、時折爪先でコツコツと叩く。材質や加工技術については何も解らなかった。克行は別にその筋の知識があるわけでもないので、当然解るわけもない。
唯一解ったことといえば、プレートの一面に薄く魔方陣が描かれていることだけだ。
ここでメルドからステータスプレートの使用方法について説明された。どうやら先程見つけた魔方陣の描かれた側面に血を一滴垂らすことで使用者を登録し、「ステータスオープン」と唱えることでその者のステータスが表示されるそうだ。指から血を出すための針は、プレートと共に配布済みだ。
「あぁ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトってやつだ」
どうやら王国もその全貌は把握できていないようだ。
アーティファクトとは、神々やその眷族等が未だ地上にいた頃――神代に造られた、現代では再現不可能な力を持つ魔法の道具である。通常、アーティファクトと言えば国宝級のものなのだが、このステータスプレートはもう一つの複製するアーティファクトのお陰で増産ラインが整っているので、身分証として一般市民にも普及しているのだとか。
そこで、ふとした疑問を覚えた克行はメルドに質問する。
「メルドさん、質問なんですけど」
「おう、何だ?坊主」
「神代にはエヒト様も地上にいらっしゃったんですか?」
「あぁ、そうらしい。古代の文献やら壁画やらでは、そう言った記述があるそうだ」
ふむ、と顎に手を当て考え込む克行。
「じゃあ、昔地上にいた神々は
「確か、〝
「そうですか……」
納得がいかないのか、考え続ける克行にメルドは慌てて付け加える。
「ただ、今もエヒト様は我々を見守っていて下さっているのは、本当だぞ?」
「分かりました、ありがとうございます」
これで克行の質問は終わった。
克行は〝天上〟とは何処なのかを考えていた。言葉通り〝天の上〟、つまり
それならば、人間族の危機にあって救いの手が〝異世界から勇者の召喚〟というのは、どうにも腑に落ちない。何なら自らで人々を救えば、それで済む話ではないか。
(
(地上に居られなくなったから〝天上へ昇った〟のか、〝天上へ昇った〟から地上に居られなくなったか……)
(……いや、ここからはただの推論でしかないな)
そこで考察を打ち切る克行。これ以上は判断材料が少なすぎるし、〝鶏が先か、卵が先か〟の話になる。それならば、自分のステータスを確認した方が建設的だろう。
見れば、既に幾人かはステータスプレートに血を垂らしていた。隣のハジメやクラスの大多数は自分の指に針を指すことが怖いのか、少し顔色が悪くなっている。
「不安かい、南雲くん?」
「うん、ちょびっとだけね……。そういう北上くんは大丈夫そうだけど」
「まぁ、指すこと自体は嫌なんだけど……必要なら仕方がないと割り切るしかないよね」
なんて言って笑う克行。
「そういうものかなぁ?」
ハジメは納得してないようだ。
「多分、きっと、おそらく、メイビー?」
「何故疑問系!?」
「ははっ、良いツッコミをしてくれる。それよりほら、少しは気分が紛れたかな?」
「あっうん……何か、ありがとね」
「これくらいならお安い御用だ」
ハジメの不安を見抜いた上で茶化していたのだと気付き、何だか気恥ずかしくなるハジメ。
「誰かと話すだけでも、ちょっとは気が晴れるものだよ」
何故か得意気な克行に、半分はからかわれていたのではないかと思う。今度は僕がからかってやろう、と息を巻くハジメであった。
さて、いよいよハジメもクラスメイト等もほとんどがステータスを開示したのを見届けて、克行も実際にやってみることにした。
魔方陣のある面を上にしてプレートを目の前に置く。そして、
この男、ハジメには嫌だと言っておきながら、迷ってはいなかった。ステータスプレートを起動するために
克行が他人とズレているのは、〝好き〟とか〝嫌い〟といった事を、
そのまま人差し指――から溢れてきた血をプレートへと擦り付ける。深く刺しすぎたのか、想像以上に血が出ている。その様子を特に気にする訳でもなく、克行は変わらない表情でその言葉を口にした。
「……ステータス、オープン」
すると、一瞬プレートの魔方陣が光ったような気がして、克行のステータスが現れる。
と、ここでメルドから声が掛かったため、克行はステータスの確認を後回しにした。
「全員見れたな?では、これよりステータスの説明に入るぞ」
まずは〝レベル〟。上限は100だが、そこまで行った人はいない。
ステータスはこれは日々の鍛練、魔法や魔法具などの使用で上昇する。また魔力が高い者は他のステータスも自然と高くなるそうだが、詳しいメカニズムは判明していないらしい。仮説では、魔力によって身体能力を補助しているのでは、とのこと。
敵を倒せば
ふむふむ、克行はステータスプレートを見て、自分のレベルは1だと確認した。ステータスは平均が判らないので、高いのか低いのか判断できない。
次に〝天職〟。これは所謂〝才能〟であり、末尾の〝技能〟と連動しているそうで、その天職の領分なら無類の才能を発揮する。天職には、戦闘系天職と非戦闘系天職の二つがある。天職持ちは非常に稀少で、非戦闘系ならば百人に一人、戦闘系ならば千人に一人で、ものによっては万人に一人と言う割合の天職も存在するらしい。
そして〝技能〟だが、これは才能であるため後天的に増えることはほとんどないらしい。例外として、〝派生技能〟と呼ばれるものはある。持っている技能から派生したものだが、修得するには限界――〝壁を越える〟ことは不可欠であり、容易ではない。
この後、ハイリヒ王国の宝物庫を大解放して克行達に見合うアーティファクトを大盤振る舞いする予定だそうだ。
ここで、克行は自分のステータスプレートを見て「はて?」と首を傾げた。その理由は、このステータスを見れば一目瞭然であろう。
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北上克行 17歳 男 レベル:1
天職:なし
筋力:10
体力:20
耐性:70
敏捷:10
魔力:20
魔耐:50
技能:境界術適性・結界術適性・精神耐性・全属性耐性・言語理解
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そう、克行の天職は〝なし〟。
つまり、端的に表現すれば〝無職〟であった。
まさかの事態に微動だにしない克行だが、メルドの説明はまだ続いている。
最後に〝ステータス〟の平均について。レベル1の平均は
「しかしお前達は恐らくその数倍から数十倍は高いだろうがな。まったく、羨ましい限りだ!」
再びステータスに目を通す克行。確かに一部は平均よりも高いが、平均と同じ項目が二つもあるのは如何なものなのか。
「あ、ステータスは隠さず報告するように。それぞれに合うアーティファクトを選らばにゃならんし、今後の訓練の参考にもするんでな」
まぁステータスは訓練で伸ばせば良し、天職が無くとも技能はいくつかあるので何とかなるだろう、と克行は前向きに考えた。
(逆に
自らの平々凡々なステータスならば
(天職なしは流石に不味いのかもしれないなぁ……)
メルドに報告する際に、外野がうるさそうだなぁ、と一人ごちる克行。
と、歓声が聞こえたので、そちらへ意識を向けた。光輝がメルドへステータスの報告を行っていたようだ。
光輝のステータスは全てが100、しかも技能の数も二桁を越えているという、レベル1としては
何よりも目を引くのは、やはり天職だろう。
なんと、天之河光輝の天職は〝勇者〟である。
周囲は光輝を持て囃し、光輝も頭を掻いて照れ笑いを浮かべている。光輝のはにかんだ表情に女子はノックアウトされ、男子は恨みを募らせていた。
ハイスペックが光輝だけかと言うと、そうではない。
光輝に続いて龍太郎、雫、香織の主要メンバーを皮切りに、続々とステータスを報告していく。流石に光輝ほどではないが、他の面々も十分にチート染みていた。加えて、彼らには大きな伸び代が残っているという意味でも、末恐ろしい。
そんな空気の中、克行は光輝の天職について素朴な疑問を抱いた。
(他の人間は〝剣士〟〝治癒術師〟〝拳士〟〝結界師〟〝闇術師〟だとか、人目で分かる天職だった……)
(けれど、天之河くんの天職〝勇者〟って
〝勇者〟の意味するところがハッキリしないなぁ、何て克行は呑気に考えている。
と、隣にハジメが居ないことに克行が気付いた時、檜山の声が響いた。その近くにはハジメもおり、克行は何となくこの後の展開が読めた。
檜山が明らかに嬉しそうに吐いた言葉から察するに、ハジメの天職は〝錬成師〟という非戦系のものだった。主に鍛冶職に多く見られる天職であり、それで戦えるのかと言って取り巻き三人と一緒に騒ぎ立てている。
加えて言えば、ステータスもレベル1平均のオール10と言うこともあり、周囲の人間も巻き込んで更に囃し立てていく。
仮にも香織に
克行は非戦系であることが、そこまで悪いことではないと思っている。自分のように
物を作る錬成師にとっては、知識こそが武器になる。トータスよりも科学文明の発達した地球の知識は、他にはない武器となるだろう。
戦争とは〝戦う者〟だけ居れば良いという訳ではない。それらを〝支える者〟――後方支援を主とする
尤も、そんなことを一介の高校生に理解しろという方が無茶であり、現段階で理解している克行の方が異常なのは明白だ。
檜山等四人によるハジメ虐めに、いよいよ香織が我慢の限界を迎える直前、愛子先生が先にウガーッと爆発した。
小さな身体の全身を使い怒りを表現する愛子に、一同は毒気を抜かれて騒動は沈静化した。その後、ハジメを元気付けるために自分のステータスを見せた結果、止めを刺してしまい香織が慌てるというハプニングもあったが、一先ずは落ち着いた。
そして、克行で最後となった。
「あの……」
「よし、坊主で最後だな!」
ハジメの件はいきなりの事で驚いてしまったが、もうあんなことは無いだろうとメルドは気を取り直し表情を取り繕う。
克行からステータスプレートを受け取ったメルドは、次はどんな奴かと心を踊らせ――開いた口が塞がらなくなってしまった。
「団長?」
動かないメルドを心配した騎士団員に声を掛けられて、メルドはハッと我に帰った。おほんと軽く咳払いをして、「大丈夫だ」と団員に返した。そして、克行と目を合わせて言葉を告げる。
「あ~その、なんだ。お前は〝天職なし〟……つまるところ、〝無職〟だな。ある意味では珍しい……〝神の使徒〟としては、だが」
メルドの歯切れの悪い言葉に、またも檜山が反応した。
「ちぃっと見せてくださいよ!」
と言って、メルドの手からステータスプレートを引ったくる。
「あ、おいっ!」
メルドが慌てて静止するも既に遅く、斎藤、近藤、中野らと
「うわっ、ホントに〝無職〟じゃん!こんなんで戦えんのかよ~?」
「逆に〝無職〟とかスゴくねぇ?俺なら恥ずかしくて元の世界に帰ってるよ!」
「でもでも~、南雲よりかステータス高いじゃん!〝無職〟よりもステータス低いとか、南雲ヤバすぎ!」
「肉壁くらいにはなってくれるか!ギャハハ!」
先程ので懲りていないのか、心無い言葉を放つ四人に、周りは険悪な雰囲気が流れ始める。
愛子や香織は顔を真っ赤にしている。香織は再びハジメを馬鹿にした事にだが。雫は「さっきの愛ちゃんの言葉じゃ足りなかったようね……」と手首を解し始めた。光輝も龍太郎も面白くなさそうだ。
相変わらず空回りしている檜山達は、周りの空気に気が付くこと無く更に油を注いでいく。
実は檜山は、克行を目の敵にしている。ハジメの影に隠れてはいるが、克行も香織(や雫を含めたいろんな人)と仲良さげに話している。内容は簡単な世間話なのだが、あんな目立たない奴が香織と話していることが許せないのだ。
「てかさぁ、こんなみっともないステータスよく見せられるよな?」
「だよな!何でコイツと南雲が選ばれたんだか分かんねえよ!」
「ホントだよなぁ?こっちが恥ずかしいぜ!」
「ステータス微妙に高いとか、生意気じゃね?」
クラスメイト等も愛子の言葉に感じるものがあったのか、檜山等を非難するような目で見ている。
「おいっ、いい加減に――」
好き放題言っている四人に、痺れを切らした光輝が苦言を呈するその瞬間……
「別にいいよ、天之河くん」
いつの間にか檜山の手からステータスプレートを奪い返した克行が、光輝に待ったを掛けた。
「あっ、えっ?」
気付かぬ間にステータスプレートが奪われていたことに、呆然とする檜山。他の面々も、克行がいつ取ったのか分からず、困惑している。
何てことはない、
何気無く風景に溶け込むことで、
克行の一連の動作を確認出来ていたのは、騎士団長として卓越した能力を持つメルドと、
「お前、どうやって……」
檜山が言葉を絞り出したが、克行は相手にする気が無いようで、一瞥もくれずに光輝へ向き直る。
「何か言われることは分かっていたし、〝
「北上……」
「北上くん……グスッ」
思っていたより前向きな克行に、一同は剣呑な雰囲気を引っ込めた。光輝は不完全燃焼ではあるが引き下がり、愛子は人一倍嬉しそうに涙まで浮かべている。
反面、近藤、斎藤、中野の三人は、ばつの悪そうな顔で頭を掻いた。ただ、檜山だけが忌々しいとでも言うかのような形相で舌打ちをしていた。
ただ一人、メルドだけは言い様の無い気分に陥っていた。
(あれだけの達観した精神……騎士団、いや、このハイリヒ王国でも片手で足りるかどうか……)
先程の克行の言葉から感じた、揺らがぬ精神。それに通ずるものを持つ人物を、
そしてそれは、いずれもが長年王国を支えてきた、
それなのに、『年端もいかない少年が、当たり前に現実を受け止めている』という異質さ。
そう、克行の少年とは思えない程に
他の誰もが気付いていない。騎士団長に足る実力と経験を持つメルドだからこそ、気が付くことが出来たのだ。
それ故に〝天職〟を持っていないことが
だが、実際は〝無職〟という、何の変哲もないありふれた人間なのだと、頭を振って雑念を払う。今はこの場を収めるのが先決だ。
「おい坊主、お前の技能に〝境界術適性〟ってのがあるだろ?それなんだが、どうやら前例の無い技能らしい」
「俺たちも知らないもんだから難しいかもしれないが、上手くいけば……
宮廷魔法師からの報告によれば、過去に〝境界術適性〟という技能を持っていた記録はなく、また〝境界魔法〟なんて魔法も確認されていない。
つまりは〝
克行はゆっくりと頷いた。メルドの激励を聞いても、無感動に凪いだままの瞳に見られ、メルドは思わず鳥肌が立つ。
(あぁ、ちくしょう。勿体ねぇ、なんて思っちまった)
メルドは天を仰ぎながら、どうにも
【本編の補足】※興味のない方は飛ばしてください
◆克行のムカムカ
彼自身、〝自分〟と〝他人〟を明確に区別したがるので、大衆の一人に埋もれていくことを嫌う。
◆晩餐会
特に何事もなく終了、克行くんは重鎮等とも普通に話しました。
◆宗教戦争について
筆者が必死こいてそれっぽくまとめました。多方面から苦情が来そうで怖い。
◆克行とクラスメイト
あなた達とは違うんです、とばかりに頑なに自分を輪にいれない。理由はあるが、今は秘密。
◆信用できるメルドさん
彼は作中では珍しく、当初からハジメ達を気にかけていました。そんな〝自分達を子供として接する〟態度が克行くんは気に入りました。
◆〝神代〟についての疑問
何となく気になったので、独自設定を追加。
現在は地上に降りるには〝器〟となる肉体が必要なエヒトだが、昔は普通に地上にいた。そこで信仰を集め力を蓄えた結果、地上にいられなくなり〝神界〟に退避。それを当時の人々は〝天上へ昇った〟と表現した。口伝でしか伝わっておらず、正確なことは何も分かっていない。
◆ハジメへの気遣い
心配していた訳ではないが、からかっていた訳でもない。ただ、場の空気が悪かったので自分の気をまぎらわすためにやった。
◆克行のステータス
基本的には耐久ガン振り。技能の詳細は後ほど説明回を設ける予定。
そしてまさかの〝天職〟なし。理由としては、求めるものがあまりにも平凡すぎて、〝天職〟なんて才能を拒絶しているから。
意見反論受け付けますが、この設定を変える気はございません。(鉄の意思)
◆技能の数々
無職にしては多いと思った(こなみかん)。天職が存在しない為、全てが克行の精神から派生したもので、〝境界術適性〟〝精神耐性〟はオリジナル(多分)。魔法も詠唱も考えてあるから、見とけよ見とけよ~(黒歴史先輩)
◆ステータスに対する独特の価値観
克行の精神構造に起因する。プラスが大きすぎることを恐れている。
◆天職〝勇者〟
アフターで光輝自身が思ったこと。
他の人なら「勇者→スゲー」となる。
克行はそうはならず「勇者→何が出来るの?」となる。
◆戦争に対しての理解
言われてみれば分かる、後方支援の大切さ。でも高校生くらいじゃそこまで深く考えない。それを当たり前に理解しいる克行がおかしい、という話。
◆檜山の嫉妬
克行は誰とでも話す。光輝とも、龍太郎とも、雫とも、香織とも、鈴とも、恵里とも、遠藤とも、ハジメとも、清水とも。ほとんどのクラスメイトと話す。話す内容は浅い世間話程度だが、香織と談笑していたことが檜山は気に入らない様子。克行が自然体でいたのもムカつく。
なら光輝も、とはならないのが檜山クオリティ。明らかに自分よりも強い者とは事を荒立てない姿勢。現代社会に当てはめると、大抵の人が小悪党と化すだろう。
◆風景に溶け込む
異世界召喚なんて非日常に巻き込まれたせいで、日常に対して感覚が麻痺している一同。そのせいで一時的に無意識に日常的なものを認識し辛くなっていたところに、日常的な風景に紛れ込んだ克行を認識できなかった。
半分こじつけなのは内緒。
◆方々に散りばめられた異常性
克行くんの異常な精神性が、断片的に出てきた。毎回こんなことするの辛いので、早めにネタバラシする予定。
無職というマイナス、技能というプラス、明らかに釣り合いが取れていないが……?
◆メルドの感じた感覚
実は勘違いという。晩年の人間が至る人生に対する達観したブレない精神性だと勘違いした。
それも決して外れている訳ではないが、あくまで一面に過ぎず、その裏にある
設定が行き当たりばったりです。
書き直す可能性が高いです。(原作リスペクト)
次回は、いよいよ克行が刻鋼人機になる……前振りがあります。