Common Unemployed and Zero Infinity -Flawless Paradox-   作:半裸ーメン

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長らくお待たせ致しました。

長期間の執筆で加筆と修正を繰り返したため、一貫性のない部分があるかもしれませんが、ご容赦ください。

また過去最高の二万四千字を記録したため、前後編に分割して投稿いたしますので、後編からお読みにならないようご注意ください。


さて、完全オリジナル回でございます。
遂に奴の影が見え始めます。

稚拙な作品ではありますが、お楽しみ頂ければ幸いです。


運命考察(前)

 ステータスの確認と報告を終えた一行は、騎士団の案内で王城のとある場所を目指していた。

 

 

「我がハイリヒ王国が誇る宝物庫、きっとお前らにピッタリの装備が見つかるぞ!」

 

 楽しみにしておけ!ガハハ!と快活に笑いながら先頭を行くメルド。

 

 一同は宝物庫と聞いて、どんなお宝があるのか気になるのか、心なしかソワソワしている。

 

 そんな生徒等を横目に、無言で最後尾を付いていく克行とハジメ。

 

 

「さっきは災難だったね、北上くん」

 

 沈黙を破ったのはハジメだった。

 

「それはお互い様だろ?

 というか、畑山先生が怒った後で皆過敏になっていただけだから、俺は大した事は無かったよ」

 

 

 

 ハジメは、克行が何を言っているのか、一瞬理解できなかった。

 

 ハジメの記憶が確かならば、檜山達はかなり()()()言葉を言っていた筈だ。誹謗中傷と言い換えても良い位の。

 それを、大した事は無かった?しかも克行は、()()()()()()()()。ハジメと克行に、友人と呼べるまでの親交はないが、それでも分かってしまった。それほどに、克行の言葉には芯があった。

 

 

 ――自分とは違いすぎる。

 

 克行の価値観に、ハジメは言い知れぬ悪寒を感じ取った。

 

「そ、そうなんだ……」

 

 何とか言葉を返したハジメだったが、声が震えないようにするので精一杯だった。

 

 しかしハジメの努力も虚しく、克行はハジメの声が震えていることに気が付いていた。特に指摘することではないので黙っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 以降、会話も無く歩いていると、えらく天井の高い場所に出た。正面には、一面に魔方陣が刻まれた()しかない。

 

 

「ここが、数々のアーティファクトを保管している宝物庫だ!」

 

 立ち止まってそう言ったメルドの声に、光輝達は唖然とした。

 

 何せ、ここは四方を壁で囲まれただけの空間だ。宝物庫、と言われてもピンと来ない。

 

「何言ってんだ、って顔でこっちを見るな。国の宝物庫だ、簡単に開けられるようになってる訳無いだろ?

 いいか、あそこに刻まれている魔方陣を起動すると、宝物庫への扉が開くんだ。それを知らない人間には開けられない仕組みになっている!当然、扉は頑丈だからな、壊すことも不可能だ!」

 

「何か秘密の部屋って感じだな!」

「秘密基地みたいで、ワクワクしちゃうね!」

「セキュリティもしっかりしているのね……」

 

 メルドの説明に、一同は思春期の心を(くすぐ)られ、再びソワソワし始めた。

 

 

 そこでメルドは、一行に付いて来ていたやたらと高級そうなローブを着た老人に目配せする。

 

 老人は頷き、厳かに魔法の詠唱を紡いでいく。

 

「我らが主の愛を拒む者よ、汝が前に道は無し。我らが主の寵愛を受けし者よ、汝が前に、主の威光を以て道を照らさん――〝天門〟」

 

 

 詠唱の完成と同時に、壁の魔方陣が光を放つ。あまりの眩しさに、思わず目を閉じる一同。

 

 数瞬の後に光は収まり、今度はゴゴゴゴゴ、と地響きが聞こえてきた。何事かと驚く一同の前に、明確な変化が起こった。

 

 魔方陣が刻まれた壁が、物々しい音を立てながら左右に割れていく。というよりも、開いていく。

 

 

 そして、音が止んだ頃には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両開きに開け放たれた、宝物庫の()があった。

 

 

 

 

 

 光輝達が壁だと思っていたのが、実は宝物庫の扉だったのだ。その事実に、光輝達はまたも唖然とした。

 

 彼らは、宝物庫への入り口として、床や壁の一部が変化するものかと勘違いしていた。まさか、あの大きな()が、()だったとは考えてもいなかったのだ。

 

 想像していたのと大分違う光景に、ただただ驚くばかりの一同。愛子なんかは、驚きのあまり腰を抜かしてしまっている。

 

 克行も光と音に面食らっており、ハジメはひっくり返っていた。

 

 ……改めて見る()は、玉座の間の物よりもさらに大きい。縦は十メートル、横は二十メートル近いだろうか。光輝達では、見上げる程に巨大である。

 

 ただ、あちらは壮麗であったのに対し、こちらに意匠は無く、ひたすらに堅牢さのみを感じさせる。

 

 

「おいおい、何をそんなにビビってるんだ?シャキッとせんか!これじゃ、先が思いやられるぞっ!」

 

 

 一同が扉の事を知らなかったとはいざ知らず、メルドは光輝の尻を叩いて、宝物庫へと向かっていく。

 

 ゾロゾロと宝物庫へ入っていく一行の中、克行だけが立ち止まっていることに気が付いたハジメが、克行を呼ぶ。

 

 

「北上くん?早くしないと、皆行っちゃうよ?」

「……………………」

 

 

 しかし、克行からの返事が無い。ハジメは(いぶか)しんで、克行に近付く。

 

 

 克行は、一心に扉に視線を注いでいた。そんなに注視する事などあるのだろうか、とハジメは頭を捻る。

 

 ともあれ、急いで戻らなければ。もしかしたらアーティファクトを支給されなくなるかもしれない、とハジメは焦った。自分は珍しくもない非戦系の天職なのだから、あり得ない話ではない。

 

「北上くん!」

「…………ぁあ、どうしたの?」

 

 ハジメにしては荒げた声を上げると、ようやくハジメに気付いた様子の克行。二、三メートルまで接近しても気付かないとは、どれだけ集中して扉を見ていたのだろうか。

 

「皆はもう宝物庫に入っちゃったけど、何してたの?」

「……うん、何だか自分でも訳が分からないけれど、この扉に()()()()()()()()を感じたんだ」

「何か?」

「何と言うか……上手く言葉に出来ないけど……」

 

 口に出せないもどかしさに、苦笑する克行。彼の中でも、定まっていない気持ちなのだろう。

 

 

 

 が、ハジメにとっては関係無い。

 

 ガッと、克行の腕を掴むハジメ。

 

「えっ」

「よく分かんないけど、とりあえず!早く!行くよ!」

「えぇ~!?」

 

 克行を掴んだ状態で、そのまま走り始めるハジメ。克行は頭が追い付かずに、抵抗もせずハジメに引っ張られて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 克行が宝物庫の扉を眺めていた理由、それは―――

 

 

 何にも(なび)かず、何をも通さず、(すべ)てに逆らう様に(そび)え立つ扉に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()になっていたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とかメルド達に追い付く事が出来たハジメと克行。ハジメは一安心と息を溢し、克行は乱れた呼吸を整えるのに四苦八苦している。

 

 その間に一行はメルド等の案内の元、様々な武器や防具、装備のアーティファクトを、騎士達の説明や実体験を交えながら見ていった。

 

 

 宝物庫の内部は、地球で言えば美術館に近い構造になっていた。質素だが高級感を損なわない内装の数々に、(おごそ)かな雰囲気に包まれている。

 

 ショーケースに入れられたアーティファクトは、いずれも輝いており、その一帯だけ華やいでいる。生徒等の現在の服装を鑑みると、少しばかり場違いな気がしてならない。

 

 

 道中、魔方陣が何重にも描かれた壁が、いくつも点在していた。

 

「何か気味が悪いねぇ~、あそこ」

「ちょっと鈴、変なこと言わないでよ……」

 

 クラスのムードメーカーである谷口鈴が意味深な事を言い、メガネっ娘の中村恵里が(いさ)める。

 

「ん、あぁアレか。曰く付きだったり、使用者にも暴走の危険があったりと、取扱いが難しいアーティファクトが封印されている場所だ」

 

 アーティファクトの中には、周囲の環境を一変させる等の危険なものも存在する。そう言った、有事以外での使用を禁じられた、かと言って廃棄する事も難しいアーティファクトには、厳重な封印魔法を施して保管している旨を、メルドは説明した。

 

「何で一ヶ所にまとめておかないのかな?ほら、その方が管理もしやすいし」

 

 香織が疑問を口にすると、メルドを含む騎士団員達は、苦い顔をした。

 

「……昔はそうしていたんだが、ある事故があってな」

「事故、ですか?」

「あぁ、何でも相性の悪いアーティファクト同士が反発し合って、宝物庫が半壊する被害が出たらしい。当時、私はまだ騎士団に入りたての新米騎士だったからな、詳しい事は聞かされていないが……そりゃあ酷い有り様だったそうだ」

 

 それ以来、いくつかに分けて保管している。そう締め括ったメルド。その時の事を思い出しているのか、険しい顔になっている。

 

「そうだったんですか……」

「アーティファクトにも、相性があるんですね」

 

 質問が悪かったかと、香織は申し訳無さそうに顔を伏せた。そんな香織を気遣ってか、光輝が話を変える為に別の質問をする。

 

「ほとんどのアーティファクトには無いんだがな、極一部には、アーティファクトそのものの意思、のようなものがあると言われている。

 それが原因となっているが、本当のところは分からないってのが真実だ」

 

 現代では再現出来ないのが、アーティファクトだ。わからない事の方が多いのは、仕方の無い事かもしれない。

 

 アーティファクトに対しての理解が深まった一同。これで、自分達が扱うものは、簡単に()の命を奪えるのだと自覚して欲しいと、メルドは願う。

 

 

「言い忘れたが、あの封印の魔方陣には触るなよ?正規の手順以外だと、反撃(カウンター)の魔法が飛んでくるからな!」

 

 決して触れないと、生徒達は誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、一通りの説明は終わったが、目ぼしいものは見つかったか?」

 

 宝物庫を三十分程で駆け足で見て回り、気になったアーティファクトがあったか呼び掛けるメルド。

 

 基本的には、転職に合ったアーティファクトを王国側が見繕う。だが、本人がいたく希望すれば、それも与えるつもりだ。

 

「それぞれに見合ったアーティファクトをこちらで準備する。呼ばれた者はこっちへ来てくれ!それまでは、各自好きに見て貰って構わないが、注意した通り封印には触るなよ!」

 

 はぁ~い、と間延びした返事をする生徒達。すると、早速メルドからお呼びが掛かったのは、光輝だった。

 

「光輝、まずはお前からだ!」

「はいっ」

 

 短く返事して騎士達の後ろを光輝が付いていくのを見て、克行はそれを順当だな、と思った。

 

 イシュタルは、()()()()()()()()()()()といった区別をしていた。聖教教会からすれば、勇者以外はおまけなのだ。何事も光輝を優先するのは当然と言える。

 

 次点で、香織や雫、龍太郎を筆頭に、光輝に近しくステータスも非凡な者が優遇されるだろう。

 

(逆を言えば、南雲くんは錬成師……アーティファクトを貰えるか分からない。ましてや俺なんか無職だし、余り物を貰えるだけでも有り難いか)

 

 この分では自分が最後だな、と克行は見切りをつけて、早々にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 克行は一人、アーティファクトを眺めながら歩く。

 

 刀剣の類いや重厚な鎧兜と言った戦闘向けの物もあれば、見ただけでは用途の分からない物や複雑な形状をしている物まで、大小様々なアーティファクトが保管されている。

 

「これだけ沢山の種類があるけど、王国はすべてを把握しているのかな?」

 

 ついつい独り言を話すが、克行の周りに人の気配はない。ここのところ、大人数で行動することが多かったので、一人になりたかった克行にとっては、今回の単独行動は嬉しかった。

 

 

 が、そんな至福の時間は唐突に終わりを告げる。

 

 

「こんなところで奇遇ね、北上」

 

 

 誰かに呼び止められた克行。振り返ると、見覚えのあるクラスメイトが立っていた。

 

「どうかしたの? 園部さん」

 

 彼女は園部優花。克行が好んでよく行く洋食店ウィステリアのマスター夫妻の娘である。

 

 実家の手伝いをしている優花は、店に来る克行と時々話したりしている。

 克行がウィステリアに通い始めの頃、近所に住んでいる常連の老人達が、「あの若造、優花ちゃんを狙ってやがるのか!?」と、克行を目の敵にしていた。

 

 それを受けて、優花も変に克行を意識してしまっていたが、直接話してみた結果、誤解だった事が分かり、それ以来世間話をするようになった。克行は常連客との誤解も解き、現在は良好な関係を築いている。

 

 

 突然の呼び掛けにも微動だにしない克行を見て、優花はつまらなそうだ。

 

「別に、ちょっと友達とはぐれちゃってさ。そっちは?」

「一人で散歩中。どうせ呼ばれるのは最後ら辺だろうし」

「相変わらず趣味が散歩?」

「良いじゃないか、散歩」

 

 いつも通りの世間話。トータスに来てから初めてのまともな普通の会話に、優花は心が落ち着く感覚を覚えた。

 

 ここまでバタバタとしていて見ない振りをしてきたが、限界が近かったのかもしれない。

 

 ――戦争。

 ――命のやり取り。

 ――押し付けられる期待。

 

 ――――元の世界に帰れるのか。

 

 十代の少年少女には重すぎるプレッシャーの数々に、知らず心が悲鳴を上げていたらしい。

 常と変わらない克行を見て、知らず知らずのうちに芽生え始めている恐怖心を()()()()()()()()

 

 だが同時に、年不相応に落ち着き払っている克行を見て、精神が平坦になっていくように、静けさを取り戻していく。

 

「北上さ、普段とホントに変わんないわね。ちょっと安心したわ」

「そうかな?これでも結構手一杯だよ」

「ううん、そうやって言えるのがいつも通りってことよ」

 

 一度自覚してしまえば目を背けることは出来ず、問題を先送りにするしかない。

 けれど、変わらずそこにいる克行のお陰か、いつもの自分というものを再確認できた。

 どうやら異世界の空気に酔ってしまっていたらしい。

 

「園部さんは、さっきよりも血色が良くなったね」

 

 そんな優花の心情の変化を感じ取ったのか、克行は薄く笑みを浮かべる。

 

 克行の様子に気付き、見抜かれていたことが面白くないのか、唇を尖らせながらも優花は礼を言う。

 

「……ありがと」

「何の事かな」

 

 少々気障ったらしく惚ける克行に、優花の機嫌は更に下がっていく。

 

「何か北上って、学生っぽくないよね」

「……それは老けてるって意味?」

「いや、そういう訳じゃ無いんだけど……。話してる感じがうちの店に来るお爺ちゃん達と似てるんだよね~。年上の大人と話してるって感じ?落ち着くと言うか、安心感があると言うか……」

 

 思わぬ反撃にも、克行の表情は変わらず平静(ニュートラル)を保っている。そういう所だ、と優花は思った。

 

「まぁ、園部さんがそう思うのならそうなんだろうね」

「何?ちょっと馬鹿にしてない?」

 

 してないしてない、なんて返しながら宝物庫を散策する克行に付いてくる優花。皆の所まで克行に付いていくつもりらしい。

 

 折角の一人の時間だが、迷子のクラスメイトを放っておく事も出来ないので、渋々だが克行は戻ろうとした。

 

 と、その時――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――チク、タク、チク、タク、チク、タク……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――不意に、視線を感じた。

 

 

 全身の肌が粟立つような感覚に襲われた克行は、冷や汗と手足の震えが止まらなくなる。

 心臓が激しく脈を打ち、隣にいる優花にすら聞こえるのではないかというほどに大きな鼓動を刻んでいる。

 脳が酸素を求めて、肩で息をする程に呼吸が荒くなるが、息苦しさばかりが増すばかり。

 

「どうかしたの?顔色凄く悪いけど……」

 

 突然顔が青くなった克行を、優花が心配する。

 克行はこんなにも気味の悪い視線を感じているが、隣にいる優花は何も感じていないのか、先と変わらぬ様子で克行を心配している。

 

(あぁ……そうか、この視線は()()()()()()()()()()()()

 

 そこで、克行は視線が己のみに注がれている事に気が付いた。どうやら、克行だけに興味があるらしい。

 

「……視線を、感じる」

「えっ、視線?私は何も感じないけれど……」

「この視線は、俺にしか興味がないみたいだから、園部さんには分からないかもしれない」

 

 困惑する優花に、克行は未だ自分を捉えて離さない視線について説明する。

 

「トータスに来てから、沢山の視線に晒されてきた。

 これまでは、無条件に信用する目だった。

 けれど、これは違う。全く違う。

 まるで液体を垂らしたリトマス試験紙が何色になるのか、試験薬を投与したラットがどうなるのか、その過程と結果を見定めようとするような、そんな目だ。

 この視線の主は、根っからの科学者気質だ」

 

 深呼吸して、乱れた呼吸を整える。それから、優花に向き直って克行は告げる。

 

「俺は視線の主を確かめてくるから、園部さんは先に戻ってて」

 

 まだ手足は震え、心臓ははち切れんばかりに動いているが、しっかりとした足取りで歩く克行。

 

「戻っててって……」

 

 そもそも優花は、友達とはぐれたから克行に同行していた。それに加え、尋常ではない様子の克行を置いていくことにも抵抗があった。

 

 だからこそ、

 

「そんな状態のあんたを放っておける訳ないでしょ……」

 

 なし崩し的に、優花は克行に付いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰も……居ないわね」

 

 視線の方向へとやって来た克行と優花だったが、それらしき人影は見つけることが出来なかった。

 優花が注意深く物陰を見ていくが、埃が溜まっていることから、人が通っていないのは明らかだった。

 

 二人がいる辺りは、骨董品や装飾品のように細々したアーティファクトが乱雑に置かれている場所であった。

 どれもこれもが埃を被っており、長いこと手入れがされていない事が伺える。

 

「北上、どう?」

「まだ視線は外れてないけど、近いよ」

 

 克行の感覚だけを頼りに捜索していたが、人らしき影は一向に姿を現さない。

 

 

 

 その時、克行の背後でキラリと光るものがあった。

 

 瞬間、背中から身体を射貫くかのような視線を感じ、克行は背中に氷柱を入れられたような感覚を覚えた。

 

 前方にいる優花はやはり感じていないようで、周りをキョロキョロと見回している。

 

 視線の主を確かめるべく、克行はゆっくりと振り返る。

 相手を刺激しないように、極めてゆったりとしたスピードで身体を回転させていく。

 

 

 少しずつ視界に背後の様子が入ってきた。

 

 小さな箱やよく分からない形をしたものが、所狭しと並べられている。

 恐らくは、使い道がなかったり用途不明であったりと、あまり価値の無いアーティファクトをまとめて保管しているのだろう。

 埃を被っているところを見ると、年単位で動かしていないようだ。

 

 ようやく身体が半回転し頭は後方を向いたとき、一瞬光の反射か何かで光ったように見えた。

 

 その場所を克行は注視した瞬間、遂に目が合った。

 

「こいつ……いや、()()か……!」

 

「ちょっと北上、誰かいたの?」

 

 視線の主を見つけた克行に、優花が問う。

 克行は、あまりに意外すぎる結果に声を出せずに、ふらふらと()()に近付いていく。

 

「ちょ、ちょっと北上!?」

 

 自分の問いかけに答えずに歩いていく克行の後ろを、優花が慌てて追いかける。

 

 

()()だ……」

 

「えっ?」

 

 

 克行の言葉を、咄嗟に飲み込めなかった優花は、気の抜けた返事をしてしまう。

 

 克行が立ち止まった場所には、何に使うのか分からないような小物ばかりが散乱している。

 もしかしたら、この中に人間一人を隠すようなアーティファクトがあるのかもしれないが、少なくとも優花には人が隠れられるような所には見えなかった。

 

()()だよ、()()が視線の正体だったんだ……」

 

 克行がある場所を指で指した。

 

 優花は釣られてその場所を見るが、何度見ても人の姿は認められない。

 また、克行の言葉にも引っ掛かる事があった。

 「人」の事を指す場合、一般的には「こいつ」とか「あいつ」と言った呼び方をする。

 

 しかし克行は、「()()」と呼んだ。

 そういった呼び方は「物」を指すのが一般的で、「人」を指す言葉としては不適切だ。

 

 

 とどのつまり、()()()()なのだ。

 

 克行を見ている()()を探していた筈なのに、関係無い筈の()を見つけている。

 

 全く以て納得のいかない優花は、つい感情的になってしまい克行に突っ掛かる。

 

「あのねぇ……私達は……」

 

 

 

 その瞬間、視界の隅に違和感を覚えて、優花の言葉が止まった。

 

 克行が指差した所……その場所に、明らかにおかしな部分があった。

 何故今まで気が付かなかったのか不思議なくらい、不自然な箇所が見える。

 

 

「気が付いたみたいだね」

 

 

 

 克行が指差した場所には、多くのガラクタに埋もれて一つのものが鎮座していた。

 

 

 ()()はまるで新品のように輝いていて、鉄だろうか、本体の表面には少しの傷すら付いていない。また、周囲とは異なり()()()()()()()()()()のだ。

 

 周りの物は埃まみれで何年も人の手が入っていないのに対し、()()はまるでついさっき磨かれたかのような光沢があった。

 

 

 壊れ物を扱うように、克行が()()をそっと左手で掴む。

 

 

 

 

 

 

 ()()は、(てのひら)程の大きさもある古ぼけた()()()()だった。

 

 

 

 時計としてはかなり大きなサイズで、手にした瞬間にズッシリとした重さが感じられる。

 チクタクチクタクと規則正しい鼓動を響かせながら針を進める懐中時計は、実に古めかしい感じを匂わせている。

 

 だが、触れたことで実感するのは、ただの骨董品ではないということだった。

 

 どのような材質で造られているか表面に傷はなく、継ぎ目のない外装は高級感を漂わせる。

 それだけでなく、どことなく最先端の技術で動いているようにも思えるような、そんな出来映えだった。

 

 造られてから古いが、その技術力は現代が追い付かないほどのものでもある。

 そう克行は直感した。

 

 

 

「それが、そうなのかしら……?」

 

 優花は、この時計が視線の正体であると、未だに信じられなかった。

 

「……正直、一目見たときは半信半疑だった。

 けれど、手にした今でも、この時計から頭の中まで見透かそうとする視線を感じる。

 やっぱり、これが視線の主みたいだ」

 

 手に取ったことで、ようやく確信を持つに至った克行だったが、どうしても優花は信じられないらしい。

 

「だって、ねぇ? 何だか高価そうだけど、只の時計にしか見えないわよ?」

 

「……そうだね、()()()()()()()()

 

「……どういうことか、説明してもらえるかしら?」

 

 若干の苛立ちを見せる優花に、克行は至極真面目な顔で答える。

 

「見掛けは本当に()()時計なんだ。

 でも、この異世界で、一目見て〝あぁ、只の時計だな〟なんて()()()()()()()()()()()()

 

「この世界にだって時計くらいあるでしょう?」

 

「逆に聞こうか、園部さんはこの世界に来てから()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「!」

 

 克行の言いたいことが理解できたのか、優花は青ざめた顔になった。

 

 

 このトータスにも、時間の考え方自体はあるだろう。しかし、それが地球と全く同じとは限らない。何せ異世界なのだから。

 

 克行は幾度か、この世界で()()()()()()()は目にしていたが、どれもが1から12までの数字が円形に並んでいて長針と短針がついているものとは異なる様式だった。

 

 「もしかして、あれは時計じゃないか?」というものばかりで、これは時計だ、今は何時だ、なんて確信は持てず時間も読めないようなものだったのだ。

 

 

「もしかしたら、これは……!」

 

 元の世界に帰るための手がかりなのではないか、と優花はそこに希望を見たような表情になる。

 

「……いや、()()とは限らない」

 

 しかし、克行は希望的観測を否定した。優花はその言葉に、むっとした顔に変わる。

 

「……どうしてそう思うの?」

「簡単さ、どう見たって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 形こそはそれらしいが、何を素材にしているのか、どういう仕組みになっているのか、そして()()()()()()()()()()()()。それらが分からなければ、ハッキリと断言することは出来ないだろう。

 

宝物庫(ここ)にあるってことはアーティファクト(貴重品)ってことだ、何か特別なものなんだろう。

 それこそが、元の世界にあったものではない証拠でもある、と思う」

 

 

 グリグリとこめかみ辺りを親指で押し始めた優花は、「よしっ」と小さく息を吐き、克行へと直る。

 

「で? 結局その時計はどうするのよ? メルドさんにでも見せて説明する?

 『時計が視線を送ってきました』って?」

 

 優花は、この状況を一旦飲み込む事にしたらしい。懐中時計をどうするのかを、克行に尋ねてきた。

 当事者はあくまでも克行なので、克行に一存する腹積もりのようだ。

 

 言葉選びが克行を若干小馬鹿にしているように聞こえるのは、気のせいという事にしておく。

 

「そうだね……」

 

 一方の克行は特に気にした風もなく、懐中時計の処分について考えていた。

 

 どんな能力のアーティファクトなのか、まずはそれを判明させなければならない。

 

 逆に言えば、それさえ分かれば何故克行を観察していたのかがはっきりするだろう。

 

 何よりも、

 

「ずっと視られ続けるのは避けたいしね」

 

 

 懐中時計をメルドの元へ持っていくという方針を決めた克行は、左手で持ったまま皆の場所へと踵を返す。

 

 優花もその後に続いて歩いて行く。

 

 が、突然その足が止まった。

 

 

「ちょっとあんた……何よ、()()……」

 

「……それって、なんの事だい?」

 

 優花が恐る恐るといった風に克行へ尋ねるが、克行はいまいち質問の意図が分からないのか、返すように質問する。

 

 しかし、優花は何かに怯えるかのように両手で身体を抱えたまま、克行から一歩引いた。

 

「一体何だって言うんだ?」

「北上、あんた……気付いていないの?」

「だから、一体何の事かと聞いているんだ」

 

 焦れったくなってきたのか、言葉尻が少し強くなる克行。

 

 優花が、震える手で克行を指差す。

 正確に表現するならば、克行の顔、否首の辺りを指し示している。

 

 良く分からないが首がどうしたというのだ、と克行が自らの首に右手を這わせると、何かひんやりと冷たく細い感触があった。

 同時に、シャラリと金属が擦れるような音がある。

 

 

「あんた、いつの間にその時計を()()()()()()()()()()?」

 

 

 克行はハッとなりよく触ってみれば、この感触はチェーンであると分かった。

 知らぬ間に懐中時計にはチェーンがついており、それは克行の首にかけられていた。

 

「何だこれはっ!? いつからかかっていたんだ!?」

 

 チェーンがかけられた本人の克行にすら、チェーンがいつかけられたのか全く分からなかった。

 

 しかし実際に、懐中時計から伸びているチェーンは克行の首にかかっている。

 

「そもそも、この時計には最初からチェーンなど付いていなかった。

 付いていたなら、手に取った時に分かるはず……しかし、事実としてチェーンは存在して、俺の首にかかっている」

 

 動揺しているのか、冷静なのか、どっちとも取れる口調で事柄を並べ立てていく克行。

 

「私の位置からじゃ、チェーンが付いていたのかどうか見えなかったわ……でも」

 

 有り得ない出来事に呆然とする優花。

 

「けれど、この鎖が付いていたとしても、俺は左手で()()()()()()()()()なんだ……」

 

「私は……あんたが右手でチェーンを首にかけたところも、首より上に上げるような動きも()()()()()っ!」

 

 若干ヒステリックな声を上げる優花とは対照的に、克行は慌てる様子もなく淡々と考えを巡らす。

 

 そして、()()()()()()()()()()()に気が付いた。

 

(……俺を観測対象としているのなら、より近くで観察するために()()()()()()()()のが最も効率が良い)

 

(同時に、身に付けることで()()()()()()()()()()()()()()。視てないのではなく、()()()()()()()()()()……俺の心音や体温等から何かを測っているのだ)

 

 観察対象の本人が肌身離さず持っていれば、その分精度の高い情報を得ることが可能となる。

 

 しかし当然、それは本人が了承している場合に限る。嫌がる相手に持たせる事は難しい。

 

(だからこそ、こうして首に鎖を巻き付けて持ち歩くことを強制する機能があっても不思議ではない、が……)

 

 いくら考えようとも、全ては推論に過ぎないのだ。

 

 そして、観察する目的に関しては、輪郭すらも掴めないでいる。

 

「ともあれ、首から外さなければ……」

 

 これ以上の勝手は許したくない克行は、首に巻かれたチェーンを右手で外そうとする。

 

 僅かに金属同士が擦れ合う音と共に、あっさりとチェーンは首から外れた。

 

 右手に持ったまま外されたチェーンを見て、優花は深く息を吐いた。

 

 しかし、次の瞬間には、優花は再び吐いた息を飲み込んだ。

 

「ヒィッ!?」

 

「なっ、これは……!」

 

 驚きの余り優花の喉が変な呼吸をした。

 

 

 

 一度外した筈の、懐中時計のチェーンが、克行の首から()()()()()()()()()()

 

 

「外した、筈だっ……! 実際に首からは外れた、筈なのに……」

 

「ど、どういうことなの!」

 

「鎖が変形して、()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 克行が外したと思っていたチェーンは、実は外れていなかったのだ。

 外した瞬間にも、()()()()()()()()()()

 

 克行は再度チェーンを外そうと試みるが、何度やっても気が付けば首に巻かれているという堂々巡りが起きる。

 

 

「何が起こっているのか、訳が分からないわ……!」

 

 

 克行も優花も、目の前で起きている現象を理解できないでいた。

 

 克行は黙して熟考し、優花は口に手を当てて微動だにしない。

 

 

 と、そこに誰かの呼び声が響き渡る。

 

「お、いたいた……君は一体何をしていた? 好きに見ても構わないとは言ったが、呼ばれたらすぐに来るようにとも伝えた筈だが?」

 

 どうやら、克行にアーティファクトを渡す番になったらしく、騎士の一人が探しに来たようだ。

 

 克行の名前を叫んでも暫く返事がなくあちこち探し回ったのだろうか、騎士は疲れたような声色で非難する。

 

(訳の分からない事がいくつも起こったが、一先ず今は後回しだな……)

 

「分かりました、すぐ行きます」

 

 物分かりの良い返事をして騎士の方へ向かう克行に、優花はギョッとした。

 

 まさか、時計型のアーティファクトを首から下げた状態のまま行こうというのか。

 先程までの謎の解明を優先していた姿と、現在の謎の解明を先送りにしようとする姿。

 そんな克行の()()に優花は一言言いたくなったが、自分も帰り道が分からない身。

 今克行を迎えに来た騎士に聞けば分かるだろうが、この歳になって迷子というのも気恥ずかしいものがあるため、何も言わずに克行の後ろを歩いていく事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【ほんへの補足】
※興味のない方は読み飛ばし推奨


◆異物感
克行の精神性が自分とは決定的に異なると感じたハジメ。

◆宝物庫
原作では詳しい描写はされてないので、独自設定の盛り合わせ。

◆宝物庫への道を開く魔法
〝天門〟オリジナル、詠唱は思い付きで。
呪文を唱えた老人には名前を付けたが、途中で名無しの森に迷い込み名前を忘れてしまった。

◆宝物庫の扉
専用の解錠魔法が必要。それは武骨で、堅牢で、ただの石壁だった。
克行が感じたものは、己の自我(エゴ)に関わること。

◆アーティファクトが支給されない可能性
決して低くはないと予想。エヒト自身も光輝以外は必要なかったので、非戦系に渡すのは好ましくないだろう。

◆美術館染みた内装
イメージできたのがそれだった。

◆封印の魔方陣
危険なアーティファクトを隔離して保管している。
正しく解錠しなければ、カウンター魔法が放たれて廃人になってしまう。

◆アーティファクトの意思
きっとそんなものがあっても不思議じゃない。

◆メルドの杞憂
魔人族も人とほとんど変わらないことを知っているからこそ、光輝らに人を容易く殺せてしまうことを知って欲しかった。

◆アーティファクトの本人希望
原作でも雫は刀を所望していたため、本人の意向はある程度汲んでくれると考えた。

◆使徒の優先度
エヒトは光輝だけを召喚するつもりだったが、加減を誤りクラス全員を召喚してしまったので、何事も光輝から能力の高い順で優先するのは当たり前。

◆様々なアーティファクト
アーティファクトとは一般的に非常に希少だが、天下のハイリヒ王国なのでたくさんのアーティファクトを保有している。

◆園部優花
克行とはウィステリアで会話する友達未満の関係。
最初こそギクシャクしていたが、克行が持つ年不相応の落ち着いた雰囲気が常連客に近く、自然体でいられるので現在の関係は良好。
しかし、彼女はヒロインではない(無言の腹パン)。

◆生徒たちへの重圧
原作ではハジメが奈落へ落ちた事で漸く自覚した事だが、今作では優花だけ普段と変わらない克行と接することで現時点で自覚。
だが原作よりも早い段階で自覚したため、感じる重圧は原作と比較すると軽い。

◆気障な克行
誰だコイツ

◆北上克行年齢詐称説
高校生にしては達観しすぎているきらいがあるので、そこを指摘されたが本人は全く堪えていなかった。

◆謎(笑)の懐中時計
克行に視線を送る謎(笑)の懐中時計。アーティファクトではあるが、その実態は全くの別物。
埃を自動的に掃除する能力……ではない。

◆はずせない鎖/チェーン
表現が安定しない懐中時計の鎖。
最初はなかったが、気が付けば生えていた。メビウスの輪と同じ形状になっていて、表裏の区別がないため外したように見えても外れていないという現象が引き起こされる。
完全にこじつけ

◆克行を探していた騎士
彼にも名前はない、今回限りのモブ。



明日の10時に後編を投稿予定です。
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