Common Unemployed and Zero Infinity -Flawless Paradox- 作:半裸ーメン
こちらは後編になりますので、前編をお読みでない方はご注意ください。
前編は前日に投稿しております。
皆がいる広間には、既に克行と優花を除くクラスメイト等(と愛子)が集まっていた。
その奥、ちょっとした段差にメルドが座っている。
何を考えているのか、彼の目は静かに閉じられている。
その為か、この場に誰一人として口を開く者はなく静寂に包まれており、克行等が歩く足音だけがカツカツと音を鳴らしている。
友達の姿が見えると、優花は足早にそちらへ行ってしまい、残る足音は騎士と克行のものだけとなった。
予想通り克行が最後の一人のようで、皆がそれぞれの武具を持っていた。
やがてメルドの元へ辿り着くと、騎士が報告する。
「団長、北上少年を連れてきました」
その言葉を聞いてやはり静かに
「来たか……ん?」
そこで克行の首から
克行が持ってきた懐中時計だ。
「ま~た懐かしいものを引っ張り出してきたなぁ……。坊主、そいつはどうしたんだ?」
するとメルドは顎に手を当てながら、まるで昔を懐かしむかのように穏やかな眼差しになる。
「すいません、勝手に持ってきてしまって」
「いやあ、別に構わないんだが……気に入ったのか?」
怪訝な顔をして克行を見るメルド。
メルドとしても、本人が希望するのならアーティファクトを融通するつもりであった。
実際にこれまでも何人かには、本人の希望に合わせたものを渡している。
しかしながら、克行が持っている懐中時計は
「いや、そういう訳ではないですが……何故か外せなくなってしまいまして」
「何? 外せなくなった、だと? どういうことだ?」
詳しい説明を求められた克行は、無言で首をメルドへと差し出した。
自分で確認しろという克行の意図を察して、メルドは克行の首にかけられたチェーンを手に掴んだ。
そして、一思いに首から勢い良く外す。
「!?」
だが次の瞬間には、鎖は克行の首に巻き付いている。メルド自身の手に握られたままの状態で、だ。
メルドは最初、半信半疑だったが、その光景を見て驚く。
鎖が外れる瞬間は確かに見た、しかし
「むぅ……どうやら本当らしいな」
過去にこんなことはなかった筈だが、と呟きながら難しい顔をして考え込むメルド。
そこで克行は、本題について尋ねる事にした。
「教えてください、メルドさん。これは一体どんなアーティファクトなんですか?」
「あぁ、それはただ〝決して狂うこと無く時を刻む〟だけのアーティファクトだぞ?」
――曰く、最初に発見された時は〝とある聖教徒〟の遺体が身に付けていた。
――曰く、ハイリヒ王国一番の錬成師でも、材質や構造、仕組みも分解することも叶わなかった。
――曰く、三〇〇年間、それは一瞬の狂いもなく恐ろしいほど正確に時を刻み続けている。
――曰く、〝時間を刻む〟以外に特筆することのない物である。
――曰く、それは名前を持たないアーティファクトである。
メルドの口から語られた事実に、場の空気が
わざわざ持ってきた癖に大したことのないものだった、とクラスメイトの大半が感じている。
それは克行と共に懐中時計を見つけた優花でさえ、落胆を隠せずに膝を折ってしまっていた。
檜山なんかは、下らねぇ、と仲間内で下品な笑いを浮かべていた。
皆の雰囲気が落ち込んでいく――――克行以外は。
確かに、観測する目的が皆目検討もつかない状況に、依然変わりがないのは確かだろう。しかし代わりに、新たな疑問が出てきた。
(……この懐中時計は、
三〇〇年という長い間、寸分違わず針が進むというのは、地球の現代社会において必ずしも不可能とは言えないのかもしれない。
近代から現代にかけて、特に科学技術の発展というものは凄まじい。それは人があっという間に地球という星の外、つまり宇宙へと足を伸ばしている事からも窺える。
人間という種が築き上げてきた知識は、決して侮ってはいけないものだ。
そこで問題になるのが〝動力源〟である。
どれだけ精巧に創られていようとも、それが時計であるのならば、電力といった動力が供給されなければ正確に針を進めるどころか動くことすら
トータスの文明レベルは克行達の世界と比べると著しく低く、地球で言うところの中世初期、言い換えれば現代よりも一〇〇〇年以上も古い時代と同じくらいの文明ということになる。
電気というものは発見されておらず、全てを人力で行っていた時代に、三〇〇年も絶えずエネルギーを供給し続ける事は出来ないだろう。
しかしトータスには、地球にはない唯一優っている点が存在する。
それが、魔法をはじめとした〝神秘〟の存在である。
地球の歴史とは、神秘の掃討だ。
古代の人々は津波や地震、嵐や落雷といった災害、果ては雨や快晴といった天候も含めた自然現象を〝神〟と見立てた、と言われている。
人間は知性を有する地球上でただ一つの種族であるからこそ、理解できないものを嫌悪し恐怖を感じる生物だ。
故に、理解を越えた現象や存在――即ち〝神秘〟と出会ったとき、人はそれらに
現代では単なる〝現象〟として知られている天候や災害だが、当然古い時代には理解の及ばない〝神秘〟とされていた。
だから、人間が考えた〝神〟という
だが、それらの〝神秘〟は時代と共に暴かれていった。
人間の知識という泉が広がり、その成り立ちを研究し、仕組みを理解し、存在を暴くことで、〝神秘〟はただの〝現象〟へと成り下がっていく。
そうして、〝科学〟が〝神秘〟を駆逐していった上に現代は成り立っているのだ。
ところが、現代にあって今尚駆逐されずに残り続けている〝神秘〟は、意外な事に数多く存在している。
日本で言えば妖怪や、海外で言えば妖精といったオカルトチックなものは、現代の人々の間でも真しやかに囁かれていて、そういったものにも〝神秘〟は宿るものだ。
それらの多くは、人間が怖いもの見たさで噂したりするような信憑性に欠けるものではあるが、根強く残っているのだ。
〝科学〟では駆逐できない〝神秘〟が存在する、つまり〝神秘〟は大別して二つに分類することが出来るということである。
一つは、自然現象等のように原因とその結果――因果関係があり、
もう一つは、原因が存在せず最初から
どちらも「理解できないもの」という共通点があるが、前者は
最初から〝神秘〟を宿しているもの。
後から〝神秘〟を宿したもの。
先天性か。
後天性か。
その違いが〝科学〟によって駆逐され〝神秘〟を失うか、駆逐されずに〝神秘〟を宿し続けるかを別けるのだ。
トータスの魔法とは、最初から〝神秘〟を宿して生まれたものであろう。
その証拠に、民衆の多くが認知している――秘匿されていないにも関わらず力を失っていない。
懐中時計の動力源としては一番可能性があるが、克行の考えではおそらく違う。
優花には元の世界の物ではないだろうと言ったが、実際のところは
(発見されたのが三〇〇年前、というので確信した……。
少なくとも三〇〇年以上前に創られたにしては、この懐中時計は
その上目立った傷もなく、材質一つ分からないだって?
そんなの、この世界で創られたんじゃなく、
トータスで創られた物ならば、材質くらいは分かる筈なのだ。
他にも神代に創られたというアーティファクトが、こんなにも巨大な宝物庫で保管されているというのに、どんな素材で出来ているのかさえ解明できなかった。
それこそが、ここではない
懐中時計が創られたと思われる
しかし、懐中時計の動力が〝科学〟によるものであろうが〝神秘〟によるものであろうが、この世界で三〇〇年間時計の針を動かし続けた、というには無理があるだろう。
よってこの懐中時計は必然、
克行は、左手にすっぽりと収まっている懐中時計を見る。
(どう見ても、持ち運ぶって大きさじゃない……。
時計としての機構の他に、エンジンだとかバッテリーみたいに、
そして当然の帰結として、
そうなると、その動力機関は
金属機器というものは定期的にメンテナンスを行う必要があり、それを怠ると経年劣化や金属疲労等で部分的に
詳しいメンテナンスが出来る人間が居ないにも関わらず、事実として懐中時計は三〇〇年以上に渡り、規則正しく針を進めることが出来ていたのは、一体何故なのか。
その理由として考えられるのは、懐中時計に使われている材質だ。
この世界には存在しない特殊な金属なのだから、もしかしたら
克行は、懐中時計を発見した時の様子を思い返す。
あの時、周りは埃まみれの中で
そして、材質と同時に出てきた最後の疑問。
(……三〇〇年、時計の針が動くための
自分の想像に対し、あり得ないと心のどこかで否定する克行だが、本当に
状況的な判断材料は揃っているが、自分が知らない未知の技術による機関の可能性や、自分の考えを信じるには少し根拠が足りないと感じた克行は、動力機関のことは一先ず保留とした。
この懐中時計の見えなかった点の多くを、メルドからの情報によって推し測ることが出来たことこそが成果であり、動力部に関しては今すぐでなくとも追々調べていけば問題ない。
この場において最も肝心なことは、
(メルドさんの話には
そして、観測対象に選ばれた人間に
しかし、懐中時計が〝観測〟して集められたデータ、それを欲しがる
また、メルドの話からもう一つ分かったことがあった。
(この懐中時計には動力機関や観測機能の他にも、まだ秘された
けれど、王国はこのアーティファクトについて、
王国が調べていたのは正確に時間を刻むことだけであり、そもそもの形状から戦争での利用はできないと判断したのか、研究を担当した人間がサボったのかは知らないが、それ以外のことは何一つ解明出来ていなかった。
とは言っても、克行も自身が観測されていなければ気が付くことはなかっただろうとも思っていた。
「……やはり前例は無いか」
付いてきていた宮廷魔法師の老人や騎士団員の面々に聞き取りを行ったが、「懐中時計が外れなくなる」というのは過去になく、メルドは対処について困っていた。
懐中時計を克行に渡してしまうことは容易いだろうが、戦闘には向かないアーティファクトを渡しても良いのか、こんな大したことのないアーティファクトを本当に欲しているのだろうか、という疑問を抱いていた。
加えて、本人の意思をこそ尊重したいとメルドは思っている。
本人が懐中時計を受け取ることを了承すれば、特に何も問題はないのだが、克行が受け取りを拒否した場合に
単純に外そうとしても鎖が変形してしまう上に、利用価値がほとんどないとはいえアーティファクトだ、無闇に破壊することは王国からも聖教教会からも反対されるだろう。
暫くの間、うんうんむぅむぅと唸っていたメルドだったが、やがて顔を上げて克行へ一つの問いを投げ掛けた。
「……坊主、お前はそのアーティファクトを
問い掛けたメルドの表情から、心の底から克行のことを案じていると、
それに対し、克行は少し考える素振りを見せる。
懐中時計に対しては正直気味の悪さを感じているのは事実だが、正体不明のまま放置することに抵抗を覚えているのも、また事実。
何よりも、
「正直に言わせてもらえば、必要かどうかなんて分かりません……」
「…………」
「けれど、これを見つけたことに何か意味があるのだとしたら……俺は、それを受け入れましょう」
「……よし、ならばこのアーティファクトは北上 克行、お前に預けるとしよう!」
―――ここに
―――これより先は、自動輪の導くままに。
―――時計の針が、一つ進んだ。
余談だが、懐中時計の動力部について状況証拠から、永久的にエネルギーを無限に生み出す――
即ち〝永久機関〟ではないか、という考えが克行の頭を
【ほんへ補足】
※興味のない方は読み飛ばし推奨
◆見覚えのある時計
今は昔、メルドが研究実験に付き合った事もあるため見覚えがあった。
◆決して狂うことなく時を刻むアーティファクト
それだけ、だと王国は考えている。
◆〝とある聖教徒〟の遺体
ほんへでの出番はなしだが、実は〝神〟の血を引く末裔であり〝とある神代魔法〟に特別適正を持つ。
遺体は教会により回収された後に、跡形もなく消えたという不可解な事が起こったと言われている。
◆名前を持たないアーティファクト
設定上で名前はあるが、ほんへ内で明かすかどうかは未定。
基本的には〝懐中時計〟と呼ばれる。
◆冷めた空気
期待値が大きかった分だけ落胆も大きかった。
◆新たな疑問
ここから逆算して懐中時計について推し測っていく。
◆三〇〇年狂わない時計
現代でも難しいと思う。しかもデジタルや電波時計ではなく懐中時計では尚更。
◆〝現代科学〟の発展
全ては
◆謎(笑)の動力源
一体、何式心装永久機関なんだ……?
◆〝神秘〟の解釈
様々な世界観が入り雑じる説明になったが、概ね合っているだろう。
「神秘よ、絶叫しろ――科学は
◆
今作では神秘を持つ理解の及ばないものを、理解可能な存在にまで引き摺り落とすための手段として採用。
元ネタはkkk。
◆〝科学〟が〝神秘〟を駆逐する歴史
そうして現代社会は、現在の科学技術を中心とする安定した社会へと成長/退化していった。
◆駆逐されぬ〝神秘〟
実際にいるかどうか分からないが、神や妖怪、妖精などの〝上位種〟〝幻想種〟といった類いは、存在の
ただし、そういった存在は〝神秘〟の色濃い時代にしか世界の表側にはいられず、〝科学〟による駆逐が進み〝神秘〟が薄くなった現代には、その殆どが世界の裏側へ行ってしまった。
◆トータスの魔法
先天的に〝神秘〟を有するもので、一般的に認知・普及されても力を失わない。
◆懐中時計は別世界で創られた
トータスには存在しない材質で作られていた事から推察した。
◆別世界とは
どんな世界なのかは不明(棒読み)だが、精密な時計を作製するだけの技術を持っている。
◆魔法は学問
どこかで聞いた言葉。
◆実は動力炉内蔵式
どこから供給されているかを考えれば推論くらい立てられる。
◆メンテナンスはフヨウラ!
特殊な刻鋼金属で出来ているため、余程の事がなければ破壊不能。
当然、分解や
◆
名前だけで、実物は出てこない。ツカイタカッタダケー
◆動力炉の核心に迫る克行
状況的には動力炉から無限のエネルギー供給を受けている事は確定的に明らか。
でもまだ確信には至っていない。
◆懐中時計が観測する目的
今のところは不明、ということにしておく。
◆王国の雑な調査
戦争では(そのままでは)使い物にならないので残当。
■■到達資格者が現れなかったことも大きい。
◆前例のない外れない鎖
当然、過去に同じような事例はないため取り外す方法が不明。
最悪の場合は破壊してでも外すつもりのメルドだが、それも困難を窮めるだろう。
◆真摯に向き合うメルド
今作はメルドを良い大人として描いていく。
◆全てを受け入れる克行の哲学の片鱗
正体不明の時計というマイナス、メルドから感じた〝人の暖かさ〟というプラス。
それら全てを受け入れた上で自らの結論を出した結果、懐中時計は克行の手に。
◆最後のポエム
拗らせ科学オタクが話しているイメージ。
何故だが書いていたので、そのまま残すことに。
◆完全な余談
入れなくて良かったのではないか?と不安。
ポエムで終わらせた方が良いと判断した場合は修正する予定。
一ヶ月以上もお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
次もお待たせしてしまうとは思いますので、気長にお待ちください。
次回は技能を増やして、ついでに主人公の人生観について触れていく予定となります。