Common Unemployed and Zero Infinity -Flawless Paradox-   作:半裸ーメン

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大変お待たせ致しました。

今回も長いので、分割して連続投稿します。
30分おきに残り二話を投稿しますので、読む順番をお間違いにならないようご注意願います。


後、ようやく章タイトルを正式に決定しました。


束の間の平穏

 克行ら〝神の使徒〟がハイリヒ王国からアーティファクトを賜った翌日から、早速戦闘訓練が始まった。

 

 生徒たちの一日のスケジュールは、地球に居た頃とは比べ物にならない程に忙しく動き回っている。

 

 

 本格的な訓練が始まり今日でまる二週間が経過、各々が必死に訓練をこなし漸く身体が付いてくるようになってきて、訓練風景も様になってきた頃。

 始めの三日間は、想像を遥かに越えた厳しさに誰もが愚痴を溢す程であった。

 流石の光輝もこれには堪らず苦しい声を上げており、クラス全員が毎晩ベッドで死んだようにして眠る。

 そして翌朝には、筋肉痛と疲労でベッドから一歩も動けなくなるといった事を繰り返していた。

 そんな地獄の日々を乗り越えて今、生徒たちはまだまだ粗削りながらも着実に強くなっていた。

 担任教師であり〝神の使徒〟で唯一の大人である愛子は、現在は天職〝作農師〟を生かした仕事に取り組んでおりこの場には居ないが、もしも見ていたら彼らの成長を嬉しく思いながらも、その力を戦争の為に使うのかと悲しみを感じて複雑な心境になるだろうか。

 

 意外なことに、この状況にいち早く適応したのは克行であった。

 初日は当然息も絶え絶えだったが、二日目には何でもないような顔で訓練をこなしていく。

 それに対して、騎士団員たちは感心し、光輝と龍太郎は対抗意識を燃やし、二人の様子に香織と雫は苦笑いと呆れ顔を見せた。

 ちなみに檜山は、克行の()()()()()が気に入らないのか、(しき)りに睨み付けていた。

 

 その間のハジメは実に痛々しいもので、どの訓練にも付いていく事が出来ずに醜態を晒していた。

 何もないところで転ぶのは当たり前、元々のステータスの低さも手伝って訓練は常に周回遅れ。

 ステータスも伸び悩み、おまけに魔法適性も皆無と来た。

 

 トータスにおいて〝魔法〟とは、かつて神エヒトが使っていたとされるものの劣化版と言えるものなのだが、神エヒトを信仰する人々にとっては〝エヒト様からの贈り物〟であり神聖なものであるとされる。

 人間は誰しも〝魔力〟を持っており、その〝魔力〟を〝魔法陣〟に()()()()()ことで〝魔法〟が発動するというプロセスを踏む。

 〝魔法陣〟とは、魔法を発動させるための情報が円形に記述されたものであり、ここに魔力吸収の記述がなければ魔法は発動しない。

 何故ならば、()()()()()()()()()()()()()()からである。

 ここで、魔法適性が関わってくる。

 〝魔法陣〟には魔法の規模、属性といった詳細が必要なのだが、例えば〝火属性〟の魔法適性がある場合には、〝火属性〟という情報を省略することが出来るようになるのだ。

 適性が多ければ多い程、省略可能な箇所が多くなり、結果として〝魔法陣〟そのものが小さくなる。

 二種類の〝魔法陣〟があり、一つは紙に書かれたもの、二つ目は鉱物などに刻まれたもの。

 前者は一度限りの使い捨てであり、発動する魔法の質が悪くコストパフォーマンスが悪いが、何種類も持ち運ぶことが可能であり色々な場面で役に立つ。

 後者は非常に嵩張(かさば)り持ち運びに適していない上、刻まれた魔法しか使用できないという欠点はあるが、強力な魔法を魔力のある限り無制限に使用できるという利点がある。

 魔法適性を何も持たない場合、つまりハジメは、魔法を発動させる為に必要な魔法陣が、およそ直径二メートル程の大きさになってしまうのだ。

 他の生徒が、大体十センチ以下の大きさの魔法陣で発動できることを考えると、とても不便である。

 

 頼みの〝錬成〟さえも思うようにいかず、すっかり周囲から〝役立たず〟やら〝落ちこぼれ〟、しまいには〝無能〟と陰口を叩かれるようになってしまっていた。

 元来の性格から、そもそもハジメは〝誰かを傷付ける〟という事が苦手だった。

 だからこそ〝錬成師〟という非戦闘系の天職を授かったのかもしれないが、そんな彼を戦争に駆り出すことは無謀であると、誰の目から見ても明らかだった。

 

 では、天職〝なし〟の克行はと言うと、彼も彼で中々の逆境に居た。

 ステータス自体は決して高くはないものの、そつなく何でもこなせる器量の高さを持っている。

 しかし、ステータスの伸びはハジメ以上に悪かったのだ。

 最初に説明があった通り、天職とはその者の才能を端的に表すものだ。

 それが無いということは、特筆した才能を持っていないということに等しい。

 ステータスの成長の仕方は、天職が〝剣士〟ならば筋力、体力、敏捷が伸びやすくなるといった風に、天職によって変わると言われている。

 事実、天職を持っている者と持っていない者では、ステータスの成長率に著しい差が出てしまうものだ。

 そんな克行の現在のステータスは、以下の通りである。

 

ステータス:

=========================================

北上克行 17歳 男 レベル:1

天職:なし

筋力:10

体力:21

耐性:70

敏捷:10

魔力:22

魔耐:53

技能:境界術適性・結界術適性・精神耐性・全属性耐性・言語理解

=========================================

 

 体力と魔力、そして魔耐が多少上がったものの、それ以外はトータスに召喚された頃と変わりがない。

 更に、レベルに関しては上がってすらいない。

 つまり、成長が見られないということである。

 

 これにはメルドを含む騎士団や、王国の人間たちも苦笑を隠せなかった。

 訓練にも真剣に取り組み態度も真面目で好感が持てるだけに、天職を持たないことを惜しむ声が大きい。

 だが同時に、天職を持たない〝無能〟の分際で出過ぎた真似をするな、もう一人の〝無能〟と一緒に隅っこにでも固まっていろ、などの心無い発言が宮殿内の至る所で聞こえてくる。

 そんな発言に、クラスメイトたちや騎士団の面々は憤りを感じてはいるが、当の本人は全く気にする素振りすら見せていなかった。

 それが却って、周囲の感情に燻りを与えてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この二週間で、克行とハジメの距離感は存外に縮まっていた。

 というのも、二人とも一部からは無能と蔑まれている事から来る仲間意識……ではなく、お互いに休憩時間を利用してトータスについての勉強をしているからであった。

 

 きっかけは克行が始めたことだった。

 ハイリヒ王国の王都には王立図書館という立派なものがあり、そこにある蔵書を用いてこの世界について勉強を始めた。

 やがてハジメも、ろくに伸びないステータスや戦闘では役に立たないだろうから、せめて知識を詰め込もうというネガティブな理由で図書館へ足を運んだ。

 そこで克行と出会い、二人で勉強することに決まったのだった。

 

 本日も勉強会は開かれており、ハジメと克行は向かい合ってテーブルに座ってそれぞれ本を読んでいる。

 ハジメは「北大陸魔物大図鑑」というタイトルそのままのものを、克行の手には「人の歩み~エヒト様の御導き~」と背表紙に書かれた一応は歴史に関する本を持っている。中身はハッキリ言って小学生の絵日記と同レベルであった。ほとんどがエヒト様が地上にいた頃の話であり、それも抽象的な表現ばかりだ。

 他の書物も内容は多岐に渡るが、聖教教会の主観的な価値観に則したものばかりで、他種族や他国に関しては神敵である以上の事は書かれていない。総じて客観的に物事を見るという事が欠けているため、情報収集には向いていないと言わざるを得ない。

 基本的にお互いの間に会話はなく、情報交換をするとき以外は口を開かない。

 黙々と読み進める二人。

 ページを(めく)る音だけが聞こえ、辺り一帯は静寂に支配されているような錯覚を覚える。

 正しく図書館、といった感じの雰囲気。

 

 すると、不意にハジメが深い溜め息を吐いて読んでいた本を放り投げた。

 ハジメの後ろにいた偶然通りかかった司書の目の端が、キラリと光り憤怒の形相へと変わっていく。

 書物を雑に扱う輩が許せないのだろう。

 しかし、ハジメが放り投げた本はテーブルに落ちて鈍い音を立てることは無かった。

 寸での所で、克行の手によってキャッチされていたからだ。

 ハジメの背後の司書の表情が元に戻っていくが、克行の方へ鋭い眼光が飛んでくる。

 恐らく次はない、そこの糞餓鬼によく言い聞かせておけ、的なニュアンスを感じた克行は、軽く頭を下げて了承の意を示す。

 

「どうかしたのかい? ()()()()

「……別に、どうしたって訳じゃないよ()()()()

 

 ……距離感が縮まったと言ったが、それは一方的なものかもしれない。

 この二週間で変わったことが、もう一つあった。

 それが「克行に対するハジメの呼び方」である。

 かつては「北上くん」と名字で呼んでいたが、互いに無能扱いされていることや勉強会で時間を共にする中で、妙なシンパシーを感じていた。

 そしてある日、思い切って克行に名前で呼んで良いかと尋ねたところ、あっさりとOKが出た。

 ハジメ本人としては結構な勇気を出したのだが、あまりの呆気なさに拍子抜けしてしまい、肩透かしを喰らった気分であった。

 逆に、克行にも名前で呼ばれるのかと思っていたハジメだったが、むしろそこからが本番だった。

 克行は、一向にハジメの事を名前では呼ばなかった。

 てっきり()()()()()()だと思っていたハジメは、こちらから「名前で呼んで欲しい」と頼むのも何かが違うと思い、もやもやした気持ちを抱える事になった。

 ちなみに、呼び方が変わっている事に目敏く気が付いたクラスメイトの一部では、何故か克行に対して嫉妬する者がいたり、「克×ハジだろjk」「ハジ×克ヘタレ責めktkr!」といった感じで、分かる人にしか分からない言葉でカップリングを議論する腐った婦女子が沸いたりしたらしいが、本当かどうか真相は定かではない。

 明確にしない方が、ハジメの精神衛生上は良いだろう。

 

 

 閑話休題

 

 

「そんなこと言って、最近は特に溜め息が多いと思うよ」

 

 克行の言う通り、最近のハジメは事ある毎に溜め息を吐いては、遠い目になって窓の外を眺める事が多くなった。

 目の前でそう何度も溜め息を吐かれると、いくら克行でも気にならざるを得ないので、今のようにどうかしたのかと尋ねても、当のハジメは何でもないの一点張りであり、克行としては対処に困るのだった。

 放り投げた本をキャッチ出来たのだって、今回はやけに溜め息が深いと感じて偶然チラッとハジメを盗み見たから反応できただけだ。

 あの司書に睨まれずに済んだのは、運が良かっただけなのだ。

 

 放り投げた本の事など既に頭にないのか、ハジメの目は窓の外にある青空へ向いている。

 彼の意識は、ここではない何処かへとアストラル旅行を満喫しているようだ。

 現時点で異世界トリップしているのに、また意識がトリップするとはこれ如何に。

 

「旅に出たい……」

 

 上の空だったハジメがボソッと呟いた言葉には、克行の想像以上に含蓄があると感じた。

 

 日々の訓練やどうしても慣れない環境に、周りの人間や――本人が思っている以上に、ハジメの心労は溜まっているらしい。

 

「そうだね……何処に行きたい?」

 

 その言葉を、克行は否定しなかった。

 思わず漏れ出た呟きに反応が返ってきた事に驚いたのか、ハジメの肩が跳ねた。

 

「……もしかして、口に出てた?」

「あぁ、しっかりと聞こえる程度にはね」

 

 ハジメが恥ずかしそうに頬を掻く。

 どうやら本当に無意識に口にしていたらしい。

 

「……否定、しないんだね」

「何を?」

「今の事だよ。……僕は今『逃げたい』って気持ちから、無自覚に言ったんだ」

 

 伸び悩むステータスや、自身の唯一の武器である錬成も巧くいかない。

 それを揶揄されて無能と罵られる事。

 戦争、即ち命のやり取りの強制。

 つい二週間前までは平和な国で呑気に学生をやっていたハジメが、現状に不安や恐怖を覚えるのも無理はない。

 加えて、ハジメは他の者よりも苦しい状況であると言えるだろう。

 

 だが、苦しい状況であるのは克行も同じ事なのだ。

 彼は天職を持たない身でありながら、懸命な姿を多くの者が評価している。

 その点だけで言えば、ハジメよりも良いと言えるかもしれない。

 けれど、ステータスや技能に関してはハジメを下回る。

 天職を持たないが故に、他の天職持ちと同じだけの訓練を積もうがステータスは向上せず、頼みの唯一無二の(ユニーク)技能である〝境界魔法〟も、前例がなく魔法陣も詠唱さえも分からない状態。いくつかの〝結界魔法〟は身に付けたものの、それも本職の〝結界師〟には及ばない。

 正しく八方塞がりと呼ぶに相応しい状況に追い込まれている。

 そんな彼の前で、非戦系であろうと天職持ちである自分が弱音を吐いた事を、ハジメ自身情けなく感じているのだ。

 そして、それを()()()()()()事もまたハジメの心にチクチクとした棘を残していた。

 克行の立場で考えれば、今の無遠慮な発言に対して怒ってもおかしくはない。

 しかし、克行は怒るどころか否定もしなかったのだ。

 それをハジメが疑問に思うのは、当然だった。

 

「辛くない訳じゃない。

 しかしね、それとこれとは話が別だよ。

 少なくとも、南雲くんの考えを()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 克行の答えは、今のハジメにはあまりしっくりとは来ないものだった。

 だが、克行は質問をさせる暇は与えずに言葉を繋げる。

 

「で、南雲くんは何処へ行きたいのかな? やっぱり亜人族の国?」

「何故それをッ?!」

「兎人族、だっけ? あのページをあれだけ露骨に眺めてたら、誰にだって分かる」

 

 暫し、そんな下らない話で盛り上がる二人だったが、声が大きくなりすぎた結果、鬼気迫る表情の司書に睨まれて二人一緒にごめんなさいするのだった。

 

 

「あぁ、そろそろ訓練の時間だね」

「っと、もうそんな時間か……」

 

 克行が(おもむろ)に懐から取り出した()()()()で時間を確認すると、訓練開始まで(地球時間で)二十分足らずといった時間だ。

 それを聞いたハジメは、また見世物にされるのか、と思いゲンナリとした顔になる。

 

 ここ数日の訓練では、ほぼ必ず檜山たち小悪党四人組(ハジメ命名)に絡まれていた。

 何かにつけて騒ぎ立てて、ハジメを衆目の的にして楽しんでいる。

 克行が一緒にいる時はまとめて絡まれる事が多く、特訓と称して一方的に魔法を浴びせるなどの行為を行っている。

 彼らのやり口は実に陰湿で、決してメルドや騎士団員、光輝のパーティが見ている所では大人しくしているが、誰かが注意を引いたりしている間に外から見えないように囲んでは、そういった行動を繰り返している。

 ほとんどのクラスメイト――特に光輝は()()()()()()のような行為を許せない質なので、見掛ければ止めに入ってくれる。

 メルドら王国騎士団も、教会上層部よりそのような事は止めさせるよう命令が下っているので、見つけ次第収めるようにしている。

 尤も団長のメルドは上からの指示の理由が、有り体に言えば〝無能に関わらせる必要はない〟といった内容であることに、表には出さないが不満を募らせていた。

 

 だが、ここでは檜山らの小賢しさが一枚上手だった。

 当然だが誰もが常に二人を見ていられる訳ではない。

 光輝たちには光輝たちの訓練があり、メルドたちも生徒全員の面倒を見なければならず、ハジメと克行に付きっ切りでいられる訳ではない。

 檜山らはクラスの男子数名と結託し、誰かが光輝やメルドを足止めしている内に、手早く事を運ぶようになったのだ。

 更には、ハジメと克行には目立つような傷を残さず、短い時間のみで解放するため、端から見ると何事も無かったかのように見えるのだ。

 勿論、一部の人間は気が付いているものの、本人らの自己申告もなく現場も押さえられないとなれば、檜山らを糾弾することは出来ず、悔しい思いをしていた。

 

 この日は、いつもよりも早く勉強会をお開きにして訓練場へ向かった二人。

 

 ――――それが、これから起こる出来事の切っ掛け(トリガー)になってしまうことを知らずに。

 

 

 

 

 




【ほんへの補足】
※興味のない方は読み飛ばし推奨


◆ステータスの独自設定
伸び方は天職によって得意なことが違うので、前衛なら体力や筋力や敏捷が、後衛なら魔力とかが伸びやすいと思う。

◆克行のステータス
本人が望まないためにほとんど上昇していない。

◆ハジメとの距離感
同じ境遇だからとかではなく、単純に人柄を見て。友人くらいには思っている。

◆勉強会
一人よりも二人の方が当然ペースは倍。だが、まともな本がない。

◆克行に嫉妬する人
私だって名前で呼ばれたことないのに……、と恨めしい視線を送っているらしい。隣の苦労人の胃が心配。

◆どこでも元気な婦女子
カサカサしてきた

◆ハジメの心労
なかなか上がらないステータスや、周りの心ない言葉に嫌気が差している。

◆否定も肯定もしない克行
ありのままを認めることが重要だと考えているので、何事も否定はせず肯定もしないスタンス。

◆原作より小狡い小悪党四人組
ハジメだけではなく克行も目の敵にしているので、より狡猾に知恵を絞っている。


この後に残り二話を投稿いたします。
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