Common Unemployed and Zero Infinity -Flawless Paradox- 作:半裸ーメン
サブタイトルは適当です。
「僕たちが一番乗りみたいだね」
図書館から程近い場所にある訓練場へ到着した二人だったが、訓練までまだ時間があり、ハジメの言う通り誰の姿も見えない。
普段よりも結構早く着いてしまったようなので、折角だし自主練習でもしようと支給された西洋剣を抜くハジメに倣い、克行も短剣を取り出す。
しかし、二人の背後から近付く影があった。
「てめぇらが一番な訳ねェだろォがよォ!」
「ガッ!?」
「ぐぅ!?」
突如、背中に衝撃を受けた克行とハジメは、つんのめりながらもたたらを踏んで何とか倒れずに済んだ。振り向いた先には予想通りに檜山、斉藤、近藤、中野の小悪党四人組が揃い踏みだった。
「こんなに早く来てさぁ……何張り切っちゃってるワケ?」
檜山が代表して口火を切った。
「て言うかさぁ、お前らみたいな無能は何やっても無能なんだからよぉ、訓練に出てくんじゃねーよ!」
「檜山酷すぎ! 本当の事だけど! ギャヒャヒャヒャ!」
「お前ら恥ずかしげもなくよく顔を出せるよな! あれか、皆に守って貰えるから大丈夫ってか?!」
「あー恥ずかし! どうしようもねぇ奴らだな!」
檜山に続いて口々に二人を罵る四人に、ハジメは苦虫を噛み潰したような顔になる。
(僕だって、守って欲しいだなんて思ってないッ!)
光輝や香織、メルドを始めとした人が克行とハジメを気に掛けているのは、あくまでも周りの人間が自主的に始めた事であり、多少の恩義は感じているが二人が頭を下げて頼んだ事などない。
けれど、それを止めてくれだなんて口が裂けても言えない。何故なら、その好意を否定することは
(だからって、それを理由に突っ掛かってこられるのは迷惑だ! でも、断ったら断ったでどうせ難癖をつけられるのは目に見えてる……どうしたらいいって言うんだよッ!?)
どちらにしても、いずれはこんな事態になっていただろう。ハジメは自分自身の運の無さに、呆れ返ってしまった。
「まぁ……どっちにしろ、お前らが調子に乗ってノコノコ出てきてくれて良かったぜ。見ろよ、俺たちの他には
そして、今のこの状況は非常にまずいと感じた。誰の目も届かないこの状況は、今まで生きてきた中で一番危険だと自覚した。
「マジかよ、檜山チョー優しいじゃん! こんな無能のために
「そうそう、俺らスゲェ優しいからよぉ、お前らのために
「やっちまおうぜ、大介? いい加減ウザッてぇしなぁ?」
他の三人も随分と乗り気だった。三人とも実に手前勝手な言い分だが、単純な数で見ても二対四、しかも相手は四人とも戦闘系天職に対し、こちらは非戦系天職に無職だ。まともな訓練になる筈がない。尤も、彼らの言う
ハジメはどうにかしてこの場をやり過ごす方法を考えるが、焦って思考が纏まらず何も思い付かない。一縷の望みを賭けて克行に視線を送るが、克行は気付いていないのか、その瞳は何も写さず虚空を見つめている。
全てを諦めて悟ったかのような克行の表情を見て、ハジメは更にパニック状態に陥ってしまい、苦し紛れにやんわりとお断りしてみることにした。
「じ、自分たちの事くらい自分たちでやるからさ? こんな無能なんか、放っておいてくれて大丈夫、だよ?」
「……は?」
だが、それは逆に火に油を注ぐ事になってしまった。
「オイオイオイオイオイオイオイオイ……。それはねぇんじゃねェか、南雲よぉ……」
「折角俺らが強くしてやるって言ってやってんのにさぁ、ちっとは空気ってモンを読めよなぁ……」
「それをよぉ、
斉藤、近藤、中野の三人が額に青筋を立てながら、ハジメを非難する。当然ハジメはそんな事を言われる筋合いは無いのだが、彼らにとってはそんなことは関係ない。
「何か勘違いしてるみてぇだからよぉ、教えてやるよ南雲……お前らに拒否権はねぇんだよッ!!」
そんな怒号と共に、檜山はハジメの脇腹を蹴り上げる。
「げぶっ」
残りの三人も同様に、克行を袋叩きにし始めた。思春期の子供が大きな力を持っているという解放感からか、彼らからは暴力を振るう事への抵抗感が微塵も感じられない。寧ろ特別な力や境遇である自分たちは選ばれた人間だという優越感で感覚が麻痺し、気に入らない奴をブッ飛ばしても良いんだと本気で考えていそうで怖い。
全く抵抗できずに痛め付けられる二人に対して、四人の顔は相も変わらぬ下品な笑いを隠さず、目の上のたんこぶだった存在をタコ殴りにしている爽快感で口の端が釣り上がっている。
「さぁ、楽しい楽しい〝特訓〟の時間だぜ?」
その時、ようやく何人かの生徒が訓練場へやって来るのが見えた。まだ訓練まで時間はあるが、早めに来て準備するのだろう。
「……ちっ」
檜山は小さく舌打ちをして、ハジメを蹴飛ばす。最初に蹴られたのと同じ場所に偶然蹴りが入り、あまりの痛みに悲鳴を上げるハジメ。
「あが……っぐぇ!?」
「情けねぇ声出してんじゃねぇよ」
しかし、檜山がハジメの喉を踏み抜いた事で無理矢理声が出せないようにすることで中断させた。騒がれて周りに知られるのを嫌ったのか、前方に見える物陰を指差しながら斉藤らに指示を出す。
「お前らもそこでいつまでも遊んでねぇで、あっちにそいつ連れてけって」
「おっけ~」
「オラッ、こっちだよ!」
「ボールみてーに蹴って行きゃいんじゃね?」
檜山の言いたいことが伝わって、三人は克行もハジメと同じ方向へ突き飛ばす。踏ん張りきれず地面に倒れ込んでしまった克行に、「メンドクセェなぁ」とぼやきながら近藤が物を扱うように蹴って転がしていく。
その光景を見て、ハジメは戦慄した。
確かにこの四人――特に檜山には嫌われていたが、ここまでされるような事を何かしただろうか、と。
このままでは二人ともなぶり殺されてしまう、どうにかしなくてはと思うものの、自分にはどうすることも出来ないという現実に嫌気が差す。
(神様、仏様、エヒト様! 誰でもいい、誰か来て! この状況を何とかしてくれッ!)
殴られ引き摺られながら、ハジメは信じてもいない神に祈った。通りすがりの通行人でも誰でもいいから気付いてくれ、と。そして、こんな時でも他力本願で、何も出来ない自分の無力さを嘆いた。
そんな美味しい話などある筈もない。現実は非情であった。ハジメの祈りはどこへも届かずに、抵抗空しく二人は物陰へと連れ込まれてしまった。下がろうにも後ろには壁しかなく、しかも向こうの広場への通り道を四人に塞がれていて逃げ場がない。
「ほら立てよ、
「ゴホッ、ゴホッ……」
「…………」
檜山に急かされてよろよろと立ち上がるハジメだが、足元が覚束無ずフラついている。ハジメの左手に座り込む克行は聞いていないのか、さっきから痛みにくぐもった声を漏らすだけで、立ち上がろうともせず微動だにしない。
「……けっ、つまんねぇなコイツ。呻き声しか出さねぇ」
「まだ南雲の方がサンドバッグとしては優秀だったか、ギャハハ!」
「てかさぁ、やる気あんのかよ? 俺らがこんなにやってやってんのによォ?」
立ち上がったハジメの背中を近藤の剣の鞘が強打し、ハジメが前のめりに再び倒れ伏す。顔が痛みに歪むハジメだったが、目の前の光景を見てその顔が驚愕に変わる。
「寝てる暇なんかねぇぞ? ここに焼擊を望む――〝火球〟」
なんと中野がハジメに向かって魔法を使用したのだ。簡単な詠唱で放たれる
まさか魔法を使ってくるとは思ってなかったハジメは、一瞬反応が遅れてしまって躱す事が出来ない。
(万事休す……! こんな
目前まで迫った火球の熱量を肌で感じて、死期を悟り強く目を閉じるハジメ。
その時、横合いからの衝撃を受けてハジメの身体は右へ転がった。そのお蔭で、ハジメを焼く筈だった火球は的を外れて、ハジメの左腕を僅かに焦がす程度で済んだ。
当のハジメはと言うと、地面を転がったことにすら気付いておらず、「中々魔法が来ないな~あれか、死に際で全部がスローモーションに感じるあれか」「そういえば走馬灯って見なかったな~」等と考えていた。
「てめぇ……正気か?!」
斉藤が誰かに対して大声を上げた所で、ようやくハジメは目を開けて周囲の状況に気が付いた。
(…………。あれ……死ん、でない?)
まずは自分の生存を確認して安堵、そして同時に
(絶対に助からなかった筈だ……。完全に反応できていなかったのに、どうして……?)
そこで、
(っそうだ! 確か、左から
ハジメの頭の中が
(なんで僕は今、
最悪の想像が外れていてくれと願いながら、ハジメは恐る恐る左を向く。
「何考えてんだ!?
そこには、
その姿に、
「あ、頭おかしいんじゃねぇか、お前!」
近藤は気分が悪くなる感覚を覚え、
「……そんな、そこまでやるつもりじゃ……」
中野は自分のやったことに今更ながら罪悪感を感じ、
「っ、オエェェ……」
斉藤はあまりの気味の悪さに吐き気を催している。
ハジメは理解した―――迫り来る火球を前にして動けなかった自分を、
檜山は恐怖した―――克行の瞳は、
同時に檜山は、強烈な感情を抱いた。
―――数人で囲んで暴力を振りかざした挙げ句に、人間相手に魔法まで使って片腕を灼いて使い物にならなくした。
―――にも関わらず、そんな相手でさえ
―――
「……っざ……ん、な……」
しかし、その感情は
「……っざっけんなァ!!」
己の
「……
ポツリと、克行が言葉を溢す。
「……前例がない、魔法陣がない。だから〝境界術適性〟は、〝境界魔法〟は使えない」
誰に話している訳ではなく、熱に浮かされたように独り言を呟く。
「何ボソボソ喋ってんだ、聞こえねぇよ!」
それも気に入らない檜山は、更に頭に血が上り叫び散らす。
「もういい死ねっ……ここに風擊を望むッ!――〝ふう……っ!?」
遂に限界を迎えたのか、明確な
克行の目は、相変わらず檜山を
既に
それは即ち、
そんな想像をした瞬間、檜山の意識は千切れ飛んで無意識に
「――〝風球〟ッ!!」
ゴバァ、と空気を削るような大きな音を立てて
「克行くんっ!」
無様に転げ回ってでも良い、何とか避けてくれと願うハジメだったが、その願いに反して克行は
―――〝魔法〟とは何だ。
〝魔法陣〟という
―――〝魔法陣〟とは何だ。
〝魔力〟を
―――〝魔力〟とは何だ。
人間の体内に存在する
最初に説明を受けた時から、克行には
人は何故
〝魔力操作〟とは本来、魔物が標準的に備えている技能であり、〝魔力操作〟を持つ事は
話は変わるが、高い魔法適性を持つ魔人族は、人間族よりも遥かに短い詠唱と小さな魔法陣で魔法を発動できる。これは全て「魔法適性が高い」事に起因する。適性があれば、
つまるところ、それは「〝魔力操作〟さえあれば、適性のある魔法を
詠唱は術者自身の
そう、
しかし、克行はそうは思わない。
彼はこう思う。人体に基本として備えられている魔力を操作できない、というのは実に奇妙な話だと。
そこで最初の疑問に立ち返る、人は何故〝魔力操作〟が出来ないのか。
原因は恐らく、「魔物と同じ存在に堕ちる事への恐怖から来る〝自己暗示〟」だろう。
自己暗示とは、読んで字の如く〝己自身にかける暗示〟のことであり、所謂〝思い込み〟とも言う。
思い込みというものは恐ろしいもので、時に肉体にまで影響を及ぼすと言われている。
そう、「自分は魔物ではないのだから、〝魔力操作〟など出来ない」と無意識レベルで強く思い込むことによって、人間族も魔人族も亜人族も、全員が
人間のように自我を持つ生き物であれば、誰もが獣畜生に堕ちることに抵抗を覚えるのは
檜山が放った風球は着実に克行との距離を縮めており、その距離は目算で一メートル程度にまで近付いていた。
だが、やはりと言うか克行の顔に焦りといった感情は見受けられない。眼前に迫る魔法の事など、頭に入っていない。
自分自身に掛けられた自己暗示の蓋を開くため、深く無意識を解剖していき、嵌められた錠を抉じ開ける―――否。
「……抉じ開ける必要はない。
口の中で小さく呟く。その声は、吹き荒れる風切り音によって掻き消され、誰の耳にも届かず消えていく。
「……魔力とは、身体の一部である」
克行自身が作り出した幻の錠が、
この瞬間、克行は〝魔力操作〟を会得したことを
そして、即座に結界魔法を展開しようとして―――脳裏を掠めた
何を言っているのか克行自身も理解していないが、
「望まぬものを想起せよ、空断つ祈りを此処に――〝
【ほんへの補足】
※興味のない方は読み飛ばし推奨
◆檜山たちの自己中心的発言
出来るだけ理不尽なことを言わせるように頑張った。
◆守られることへの抵抗
ハジメの中では余計なお世話だと思っている。
◆暴行風景
原作では詳しい描写がなかったが、原作以上に悲惨にしてみた。
◆克行の諦め顔
ハジメからはそう見えた。本当は違う。
◆他力本願のハジメ
こんな状況どうにか出来るわけないじゃん、と神頼みしたが、誰かに頼ってばかりの自分を自覚して、自己嫌悪を感じている。
◆思いもよらない魔法での攻撃
普通は魔法で攻撃までしてくるとは思わないよね。
◆右腕をあっさりと捨てる
ハジメが助かるというプラスのためなら、腕一本を失うマイナスくらい当たり前(白目)
◆檜山の自尊心
実際は〝無能に見下されるのが我慢ならない〟のではなく、〝相手にされない〟ことへの反発。ようは承認欲求。
◆魔法や魔力操作について
独自解釈のオンパレード。
◆魔力操作の会得
禁忌だろうが必要だから会得した。
◆知らない詠唱
詳しくは次回。
30後に続きを投稿いたします。
稚拙な作品ですが、これからもお楽しみいただければ幸いです。