百代と一子の試合当日
5月末で梅雨に入る前だということもあって天気は快晴、絶好の試合日和だ。
今、俺は百代のサポーターとして試合前の百代と共に川神院の建物の中にいた。
サポーターといっても川神姉妹の試合を見るだけだし、俺のサポートなど必要ないだろう。
気を使って一子が試合を行う川神院の屋外に到着したようだ。
一緒に来たのは直江だな。
時計を見て、あと少しで試合時間なのを確認する。
「百代、そろそろ時間だ。」
「・・・分かった。」
もうそろそろ時間なのを百代に教える。
いつもの鷹揚とした百代はそこにはいなかった。
その眼は真剣そのままだった。
試合会場に到着すると気合十分の一子とそのサポーターである直江がいた。
他には川神学園の学長でもある川神院総代と川神学園の教師であり、川神院師範代のルー師範代。
その二人が試合に立ち会っている段階でこの試合が正式なものであることは明確だった。
「林道君!?どうしているの?」
一子が驚いて俺に訪ねてきた。
直江も驚いている様子だった。
「俺は百代のサポーターとしてここにいる。」
「姉さんが林道をサポーターにするなんて・・・」
「サポーターといっても俺はこの試合を見に来ただけだ。気にするな。」
「二人とも準備万端みたいだネ?」
時間となり、ルー師範代が確認を取ってきた。
「はい。」
「・・・ああ。はじめてくれ。」
二人ともその確認に答えた。
「眼光が半端ない。正直俺は怖い・・・大丈夫かワン子。」
「こ、怖くないわ・・・」
直江、一子ともに百代の雰囲気に恐怖しているようだ。
今の百代は俺と初めて戦ったときより真剣だ。
恐怖して当然である。
「ううん・・・やっぱ怖い、嘘は駄目ね。
でも、ビビッてたまるもんか!
気持ちで負けてどうするのっ!!」
一子は百代をにらみつけた。
自分の中の恐怖に打ち勝ったようだ。
「姉妹の真剣勝負というのも部門の定めよのぅ。
ではこれより勝負を始める!」
二人とも武器を持たずに向かあう中、
川神総代が試合の開始を宣言した。
「西方 川神 百代!」
「応」
「東方 川神 一子!」
「はい!」
「いざ、尋常に勝負!!!」
「いきます!!!」
「来い!!!」
勝負の合図が終わり、まずは一子から仕掛ける。
まっすぐに突撃し、拳を打ち込んでいく。
その拳の弾幕を
「・・・×」
百代は一歩も動かずに避けていた。
次に一子は蹴りを百代に繰り出す。
「・・・これも×」
百代はこれを軽く避け、逆に蹴りを一子にぶつけた。
大きなダメージを受けた一子は体制を立て直し、次はフェイントを混ぜながら攻撃を試みる。
しかし、それも百代に止められる。
「・・・動き×」
その後、一子は奥義を連続して出すがそれをすべて百代は回避していく。
「素手では話にならんな。薙刀を使え、ワン子。」
百代は一子に薙刀を使うように指示した。
この試合の意味を理解している俺はその言葉で顔を少しゆがめた。
そんなことに気がつくはずもなく一子は薙刀を構える。
薙刀による乱舞も百代は軽々と避ける。
「川神流大車輪!!!」
一子が大車輪という技を使い始めた。
おそらく、大技で一矢報いるつもりなのだろう。
だが、その大技も百代に避けられ一子は強烈な反撃を受けた。
「それまで!!!
勝者、百代!!!」
ここで川神院総代が試合終了を告げた。
試合は百代の勝利で幕を閉じた。
いや、まだ終わっていないか。
むしろ、ここからが本番だな。
「これは・・・勝負だったのか?」
直江がそうつぶやいた。
疑問に思うのも無理もない。
百代も総代も師範代も表情を暗くしていたからだ。
それもそのはずこれはただの勝負ではなかったのだ。
息を整えた一子は百代にもう一度勝負することを望んだ。
百代はそれを一子の状態を見て無理と判断し、却下した。
そして百代から一子に伝えられたことは2つ
1つは賛辞
一子が強くなったことへの純粋なる賛辞だった。
そして2つ目は・・・
一子に武道の才能がないということだった。
このまま武道を極めようとしても川神院の師範代にはなれないということだった。
百代だけではない。
川神院総代も同意見だった。
結果、言い渡されたのは別の道を探してはという提案だった。
「ちょっと待ってくれ!!
部外者で悪いが感じた事を発言させてもらう!
余りに・・・余りに一方的すぎる物言いじゃないか!?」
それに意を唱えたのが直江だった。
百代としても一子にこれから敵わない夢を追ってほしくないと思っている。
だが、一子もいきなり才能がないと言われて納得できるわけがなかった。
「大和・・・私だって辛いんだぞ・・・
でも、ない夢を追わせたくないんだ。」
「姉さん・・・」
「・・・本当!一方的な物言い過ぎる!!」
「ワン子・・・」
「アタシいきなり才能ないなんて言われても納得できないわ!!」
正直、百代の意見も理解できる。
もちろん諦めたくないという一子の気持ちもだ。
このままでは平行線だ。
「百代!一子の気持ちも汲んであげよウ。」
両者譲らない状況で声を上げたのはルー師範代だった。
ルー師範代は一子にもう一度機会を与えようと提案したのだ。
これに百代は"納得"が必要だと言って了承した。
その結果、一子に出された条件は2つ
1つ目は6月末に開かれる川神院主催のアマチュアの武道大会で優勝
2つ目は優勝者の権利として与えられる百代との勝負で1撃当てる
そして、それが出来なかったら川神院の師範代の道を諦めること。
一子は大会までの約1ヶ月、川神院を出て甘えを捨てるといって出ていった。
なんでも最初に武器を使わなかったのを甘えと判断したらしい。
「俺は、ワン子を応援したいと思います。」
直江が百代たちにそう宣言した。
「・・・お前ならそういうと思ったよ。」
「林道・・・なんでさっきまで黙ってたんだ!」
俺がいきなり声を掛けたら直江は怒りを露わにした。
「直江、俺は林道流を使うものとして別の流派である川神流に口を出すようなことはしない。」
「それでも・・・」
「それに俺はこうなるのをある程度予想していたしな。」
「!?」
「さて、本題だ。百代とルー師範代そして、川神院総代に話がある。」
「ほう、このタイミングで話とな?」
「もし、一子が川神流師範代を諦める結果になった場合、一子を俺の弟子にならないかと誘うつもりだ。」
俺が言った言葉はこの場にいたもの全員をこおらせた。