一子と百代の勝負は結果だけで言えば一子の惨敗であった。
その後、一子は百代から出された課題、武道大会の優勝とその後の百代への勝負で一撃与えることを目標に直江がいる島津寮へしばらくの間住み込むにした。
ちなみに風間ファミリーにも師範代を諦めろと言われたこと、
次の大会で百代に出された課題については内緒にしているみたいだ。
修行の様子を少し除いたがルー師範代が一子の修業に付き合うようだ。
俺は一子の修業に関わるつもりもないし、百代の課題をクリアできるかは一子次第ということで武道大会まで様子を見ることにした。
一子の件は、今できることがないのでさしあたって俺自身の問題を片づけることにしよう。
現在、俺は決闘の真っ最中である。
なんでこんなことに…
原因は今から1時間前の出来事だった。
俺はいつもより遅く登校していた。
朝、日課の走り込みをやっている最中に竜兵と出会ってしまったからだ。
勝負しようだのまた廃工場に顔を出せだのうるさかった。
今週の土曜日に相手をしてすると言って何とか別れることが出来た。
その結果、俺はいつもより遅い登校をするはめになったのだ。
だが、それは悪いことばかりではなかった。
途中で風間ファミリーと会って一緒に登校することが出来た。
一子はその場にいなかったがそれ以外は百代も含めいつも通りの雰囲気だった。
風間が自転車でどこかに行って今日は学校に来ないことも含め本当にいつも通りのようだ。
「一子はどうした?」
「ワン子なら今月末に開かれる武道大会に向けてルー師範代に稽古をつけて貰うために先に学校行ってるよ。」
「ワン子のやる気はすごかったぞ。学校以外はすべて修行に当てるみたいだ。」
「なるほどな。武道大会、いい結果に終わるといいな。」
直江とクリスから一子の状況を聞いて
俺は何気なく百代に顔を向けると一瞬、悲しそうな顔をしたがすぐにいつも通りの表情になった。
「お、あそこに美少女発見!」
そう言って百代は近くの女子生徒にちょっかいを出しに行った。
「言動だけ見ると完全におっさんだな。」
「そうだが、モモ先輩のすごいところはあれでちゃんとナンパを成功させてるところだ。」
「話しかけられる女子もまんざらではない感じだしね。」
島津、師岡の言う通り、ちょっかいを出していた女子をお姫様抱っこしてどこかに連れて行った。
これから学校なんだが、それは大丈夫なのか?
「なんで、女のモモ先輩はナンパに成功して、男の俺様は成功しないんだ!」
「百代は目鼻立ちしっかりしてて、男勝りの性格でまるで王子様のような感じだが、島津、お前は…言動に問題があるんじゃないか?」
「言動だと?俺様は漢らしい言動しかとってねぇ。」
「うん。ガクトはそのままでいいと思う。」
「あー俺様の魅力が分かるいい女いなねぇかなー」
「ガクトさんはステキだと思いますよ。ねぇ、松風」
「…ん、ごめん聞いてなかったよ。」
「そのストラップの…松風はどういう立ち位置なんだよ。」
「オラはごく普通のどこにでもいる付喪神だぜ。」
「…」
松風で話をしている黛の顔を見たが真顔で松風を演じていた。
こいつ、こんなことして風間ファミリー以外からどう見られているのだろうか。
なんだか、少し心配になってきた。
学校に着くと黛以外は2-Fの教室に向かった。
ちなみに学校に着いたタイミングで百代が合流した。
先ほど連れ去った女子とは放課後にお茶をする約束をしたらしい。
「おい!林道!」
あと少しで教室に着くというところで後ろから声を掛けられた。
声のした方に顔を向けると男子生徒が立っていた。
「誰だ?」
「僕は2-Sの滝川だ。昨日のこと忘れたわけじゃないだろうな!」
「林道、昨日何かしたのか?」
明らかに滝川は俺に何か言いたげでしかも、怒っているように見えた。
それを見た直江が俺に問いかけてくる。
「昨日…?確かにそいつと会ったが怒られるようなことはしてない。」
「本当か?よく思い出してみろって。」
今度は島津が確認してくる。
「本当だ。そいつが不良に金を渡して何かよからぬことを企んでいたから不良を倒して計画を破断させただけだ。」
「いや、絶対それじゃん!」
俺が事実を言うと師岡がツッコミをかましてきた。
やっていたのが親不孝通りという俺の生活圏だったのが運の尽きだった。
「だが、林道は確かに正しいことをやったと思うぞ。」
「滝川君って、Sクラスの中でも順位下位だったよね。もしかしてそれでそんなことしようとしたんじゃない?」
直江が滝川の順位について指摘をした。
SクラスS落ちというものがあり、順位が下がったりしてSクラスに別の誰かが入った場合、強制的にSクラスを出なければいないのだ。
この制度のせいでSクラスの大半がクラスメートを敵、競争相手と考えている。
そのため、成績下位のものの中には他の奴を蹴落とそうと策を練るものもいるらしい。
「うるさい!林道が邪魔をしなければうまくいったんだ。」
この反応を見るに直江の言っている通り滝川は他の奴を陥れるつもりだったらしい。
「他の奴を陥れる暇があるなら努力をなぜしない?」
「努力なんて嫌というほどやった!それでも…変わらなかったんだ!」
皆、努力をして必死に高みを目指そうとする。
故にSクラスか…
「だが、それでも自分は誰かを陥れるのは間違っていると思うぞ。」
「それでもこうするしか方法はないんだ!」
クリスの発言により怒りを露わにする。
時に正論は相手の怒りを買うのだ。
「僕の計画を無駄にした林道!お前に勝負を挑む。受けないとは言わないよな?」
ついにはこの滝川という生徒、俺に勝負を挑んできた。
以前、この学園では決闘という先生立ち合いの試合が認められていると聞いた。
恐らく、それだろうが正直、受けないという選択もありだと考えている。
こんな逆恨みに無理に付き合うことはないんだ。
「勿論、受けるに決まってんだろーが。」
「…島津?」
なぜか、勝負について島津が返事をした。
そういえば、SクラスとFクラスは仲が悪かったっけ。
それでこの挑戦的な勝負の申し出に勝手に答えたのか。
何ともはた迷惑な…。
「はー、まぁいいだろう。その勝負受けよう。」
溜息を一度はいて俺からも勝負の申し出を受ける旨を伝える。
「で?その勝負はいつ行うんだ?」
「勿論、今からだ。」
「今から…?」
こうして、俺はSクラスの滝川と決闘を行うことになった。
立ち合いは小島先生がやってくれている。
というか、今は1限目の時間なのだが2-Fを含め、皆窓からこちらを見ている。
授業時間なのにこの学園大丈夫か?
「ふん、怖気づいたか?」
模造品の槍を構えた滝川が尋ねてくる。
ちなみに俺は何も武器を持たず素手である。
「不良を倒した俺がお前程度で怖気づくと思うか?」
「それもそうだな。」
「それでは両者、準備できたな。」
「「はい。」」
「では、尋常に始め!」
小島先生の試合開始の合図で滝川は俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。
一般的に槍と素手では剣術三倍段という言葉がある通り、圧倒的に槍の方が有利である。
だが、滝川の最初の攻撃を避けて俺は問題なく勝てると確信した。
昨日倒した不良よりは強いことは認めるが動きに無駄があり、簡単に避けることが出来る。
滝川はさらに攻撃を続けてくる。
それを避け、槍の刃の部分近くを掴んだ。
「くそ、離せ!」
俺から槍を放させようと滝川は槍を動かそうと力を加える。
「分かった。」
それを見て俺は槍から手を放し、一気に滝川と距離を詰める。
滝川はいきなり放されたことにより、態勢を崩す。
距離を詰めた俺は滝川の腹を蹴り、衝撃で後ろにふっ飛ばした。
ふっ飛ばされた滝川は倒れたので、俺は再度距離を詰め、起き上がる前に槍を持っている腕を踏んだ。
「こんな状態だ。俺の勝ちでいいな?」
「くそっ!」
「そこまで。勝者、林道」
小島先生の声でこの決闘は俺の勝ちで終わった。
その瞬間、2-Fの奴らが声を上げて騒ぎだした。
逆に2-Sは不快そうな雰囲気を醸し出していた。
そんな中、軍服の女が俺を睨みつけているように感じた。