百代との勝負から約一週間がたった。
今日は俺が川神学園に初めて登校する日だ。
時期でいえば、ゴールデンウィークが明けてから一週間がたったころだった。
家や最低限生活に必要なものを買ったりしていたため、通うまでに一週間も掛かってしまった。
俺は編入初日なので大分早く学園に着くように家を出ていた。
厳密にいえば、のんびり行こうと早朝といえる時間に家を出た。
橋を渡っていると聞いたことのある声が耳に入ったきた。
声のする方に目をやるとタイヤを引きながら走る一子がいた。
せっかくだ。
声をかけるとしよう。
「ユーオウマイシン!ユーオウマイシン!」
「一子、ずいぶん古典的なやり方で修行しているな。」
「あ、林道君。おはよう。これで体力を付けてるの。」
「確かにただ走るより負荷をかけた方が効果は出るだろうな。」
「林道君は今日、転入だったかしら?」
「そうだ。どうもお前と同じクラスらしい。」
「本当!うちのクラスなんだね。」
話では一子と同じクラスの2-Fと聞いていた。
問題児が多いクラスとも聞いている。
後者については一子に聞くのではなく、自分の目で確認することにしよう。
「ねぇ、林道君。」
「どうした?一子。」
「良ければ少し稽古をつけてくれない?私、お姉さまのように強くなりたいの。」
稽古か。
正直、少しぐらいなら構わない。
だが、ここは確認をしなければならないことがある。
「今からいくつか質問を行う。それの解答で稽古をつけるか決めたい。」
「何の為の質問なの?」
「お前の人となりを確認する質問だ。」
「よく分からないけど分かったわ?」
それは恐らく分かってないのではないか。
まぁいい、始めるとしよう。
「お前は何の為に強くなりたい?」
「強くなってお姉さまを支えたい。そのために川神院の師範代になりたいの。」
「強くなることに必要なことはなんだと思う?」
「もちろん、修行よ。」
「修行して壁にぶつかったときはどうする?」
「それは……乗り越えるわ。」
「ふむ。では少し質問の感じを変えるぞ。お前の目の前に死にそうな人がいるとする。だが、そいつを助けると他の人間が何十人も死ぬ。お前は目の前の人間を助けるか?」
「…分からないわ。だけどきっと助けると思う。」
「最後にお前は悪人…いや、お前の家族や大切な人を殺した奴を殺せるか?」
「殺さないと思うけど、本当にそんなことになったら分からないわ…」
「…なるほどな。よし、稽古を行おう。」
「えーと、さっきの質問は何か関係あったの?」
「俺にとってはあったが、お前は気にしなくていい。」
さっきの質問は一子を俺の弟子にしてもいいかを確認するものだ。
もちろん川神流の一子を無理に弟子にするつもりはないが、稽古をつけるのなら一応確認したかった。
見込みがありそうなら川神院に断りを入れてから弟子になるか勧誘するつもりだ。
「で、稽古というが具体的に何をすればいい?」
「あたしと手合わせして、悪いところがあれば指摘してほしいの。」
「分かった。」
俺と一子は共に構えをとった。
正直、手合わせといっても俺から攻撃をする気はない。
あくまで一子の動きを見ることに集中する。
一子が俺に突撃を行い、そのまま攻撃に移る。
当たり前だが、百代よりスピードもパワーも劣っている。
一子の攻撃をいなし続けてしばらくしたら攻撃がやんだ。
「どうだった?」
「体の基礎は出来ている。だが、動きが少し単調になりかけている。もっと応用を利かせることを考えることを進める。」
「でも、あたし頭を使うの苦手なのよね。」
「まぁ、それは実践で少しずつ身につければいい。」
後一つ言いたいことがあるがそれを言うのは俺の役割ではないと判断し、指摘を終えることにした。
「現状、俺から言えるのは悪いがこのぐらいだ。大したこと言えなくて悪いな。」
「ううん。修行に付き合ってくれただけで満足よ。良ければこれからも付き合ってくれると嬉しいわ。」
「俺ができる範囲でなら構わない。」
一子の修行に付き合うことは俺の修行にもなるだろう。
それに質問の答えを聞いてこいつは俺の弟子にして林道流を教えても良いと思えた。
それだけでこいつの修行を見ることは俺にとって価値があることなのだ。
まぁ、こいつの日常を見てみないと本当に教えてもいいか分からないが。
「そろそろ学園に向かった方がいい。俺は先に行くからな。」
修行の為、動きやすい格好をしていた一子を置いて俺は川神学園に向かった。
学園に着いて俺は簡易的な手続きを行い、2-Fの教室の前に立っていた。
担任である小島先生から呼ばれるまで待機しているのだ。
よくある、転校生を紹介する儀式みたいなものだ。
「林道、入れ」
小島先生に呼ばれたので俺は扉を開けて教室に入る。
いたって普通に悪目立ちしないように。
俺が入って教室が少しざわめいた。
「林道、自己紹介だ。」
「はい。林道 春風だ。今日からよろしく頼む。」
自分では当たりざわりのない自己紹介をしたと考えている。
もっと何か話すべきだったのだろうか。
周りの反応を見るべくクラスの人間を一通り見ていたら一子と目が合い、笑いかけてきた。
他の奴に目をやると俺に興味をもっていそうな奴、無関心な奴に観察するように見てくる奴もいる。
そのなかで俺は一つ気になることがあった。
何故、青い髪の女は俺に明確な殺気を飛ばしてくるのかだ。
「林道お前は一番後ろの席だ。」
「分かりました。」
俺は指定された席に座りそのまま一時限目の授業を受けた。
もちろん、何故殺気を向けられているかは分からないままだった。