「やぁやぁ、まだ終わらない?」
真後ろで作業を続けている青年に声をかける。
まだ横には山積みの資料。あれは二十二時すぎまでかかるだろうなぁ
「全然っすよ、まだ時間掛かりそうです」
「そっかそっか。私はもう終わったよ」
「そうですかー、お疲れ様です」
社会人になってからは、私という一人称が定着してしまった。昔は“僕”とか使ってたなぁ。
というか、手伝った方が良さそうだなぁ。どうせ家に帰っても寝るだけだし、この後輩くんを呑みに連れて行こう。
「じゃ、仕事手伝うからさ、呑み行こうよ。私奢っちゃうよ?」
「は?いやいや、いいっすよ。先輩帰らなくていいんすか?」
「いーのいーの。結婚もまだだしねー。君とはまだ呑み行ったこと無いでしょ?付き合ってよ」
我ながら、中性的な顔をしている私は、初見では女性に間違われることが多い。コンプレックスだが、そんな顔の人がお願いしたらどうなるか。
「………噂じゃ先輩って
「誰だそんなこと言ったの。今度酔い潰してやるっ」
「そんな事言うから、余計に言われるんだと思いますよー」
「ハッ!?」
すっごい嫌そうな顔された。待って。私が強いんじゃない。皆が弱いんだよ。
せめて笊と言え笊と。水滴程度は残るぞ。
なんて事を言いながらも、彼は手を止める様子はない。
「まぁ、良いっすよ。俺も家に帰っても、貯まったDVD消化くらいしかやることありませんし。呑み行きましょうか」
「こうして仕事手伝ってもらえるし?」
「ですです」
書類の山から半分ほど奪い取り、顔を見合わせてニヤリと笑う。
それからは仕事に没頭し、終わったのは二十時を少し回ったところだった。
「ありがとうございました」
「いやいや。君の仕事って丁寧だからさ、残ってた仕事もやりやすかったよ」
丁寧な分、時間かかるんだろうなー。もう少し適度に抜く事を覚えれば、残業しないで済むと思うぞ、青年よ。
「じゃ、呑み行きましょうか」
「おや、乗り気だねぇ。さっきまで嫌そうな顔だったのに」
「存分にゴチになりまーす」
「ははっ言うねぇ」
そんな事を話しながら、不意に空を見上げた。そこには、ネオンによって大半が見えなくなってこそいるが、星空がある。
「星って、良いよね」
「先輩、遂に枠なのに呑まずに酔いましたか」
「酔い潰すぞ」
「その顔じゃ怖くないっす」
「うん、知ってた……」
身長は高いのだが、如何せん線が細いので、威圧感とは無縁である。
そんな風に、ちょっと悲しんでいると、後輩くんがフォローしてきた。
「でも確かに、星って良いですね。俺たちが地球にいるってことも、なんか不思議です」
うん。凄くいい。ネオンで見えなくてもちゃんとそこにあって、この地球も星の一つ。
その星の一つの、この場所に、こうして生きているということが、生活しているということが、不思議に思えた。
「おい!危ない逃げろ!」
そんな声が聞こえ、
「ちょっ!後輩くんっ!?」
突然押し飛ばされたのを最後に……。
そこから先の記憶がない。
__________
ある街道を一人の女が歩いている。
年の頃は、六十に手が届くかどうかといった所か、魔法使いが着るローブに身を包んでいるところを見ると魔法使いと思われる。その女性が空を見上げて呟く。
「これは、一雨来そうだねえ」
今にも降り出しそうな空模様は、自然と女性の歩を急がせる。それから間もなく、予想通りに雨が降り出した。
「やっぱり降り出したかい。この先の森で、雨宿りでもしようかね」
言いながら、先程よりも更に急ぎいだ。
「あのじいさんめ…。
何の用か知らないけど、いきなり呼び出されたからロクな準備もせずに…っ!」
自身を呼び出した存在に悪態を付きながら森に入ると、そこで広がる光景に言葉を失った。
「これは……魔物にやられたのかねえ」
彼女が見たのは、魔物に襲われたと思われる馬車の一団。多くの積み荷が散乱していることから、行商人の一団だろうか。メチャクチャに破壊され、原型を留めている物も
「なんと惨いことを……」
生存は絶望的。馬車にある襲われた跡から、恐らく大型の魔物だ。熟練の騎士でも、一人では絶望しかねない相手。
「せめて、弔いくらいはしようかね」
自分にできることは無い。だが、死者をこれ以上冷たい雨に濡らしておくこともできないので、彼女は遺体や馬車の残骸を集め始めた。
その時
「ぁーぁうっ、ふぎゃぁ…」
そんな、赤子の声。
「んなっ!どこにいるんだいっ!」
瓦礫を掻き分け、必死に声がした方を探す。すると、馬車の残骸の中から、布に包まれた怪我一つない赤ん坊が。抱き上げて少しすると、安心したのか寝息を立て始める。
「この子の親が、命懸けで守ったんだろうねぇ」
魔物に襲われていながら、怪我一つ無いのがその証拠だ。だが、周囲を探しても身元を特定できるものは一つも無かった。
「この子を育てろとでも、言うつもりかい?」
雨の降る空を眺め、誰かに語りかけるように呟いた彼女は、何かを決意した。
「これもきっと、天命なのかね……」
まさかじいさんに呼ばれた途中で、赤ん坊を拾うことになるとはと、ある種の運命を感じた彼女は、今一度赤ん坊を抱きしめ、もう目と鼻の先の目的地に向かった。
目的地に着き、自分と同じことをした爺さんの姿に、苦笑するまで、あと僅か。
次回からは、幼少期編に入ります。
拙作オリ主は、幼少期に色々とやるので、原作までかなりゆっくり進む予定です。
オリ主、原作主人公と呑みに行こうとしたら、二人して事故る。
基本的にシンと同じ道を辿ってるオリ主。