元号が切り替わった瞬間から、一分経つ毎に各作品に最新話を投稿しました。
(まだ二分しか経ってないけど)これで三作品全てに投稿し終えました。
先に投稿した2作品は、どちらも原作:落第騎士の英雄譚でやってるものです。良ければご覧ください。
「これは、世界がひっくり返りますな」
目の前で、平然とよう告げるのは、ディスおじさん。黄土色っぽい金髪に口髭を生やした、翠眼のナイスミドル。
シンが寝た後に論文を渡し、おばあちゃんと一緒に読んでいたおじさんは、丁度おばあちゃんに説明した辺りまで読んで紙の束を置いた。
「昼間も聞いたけど、こうして理論建ててきっちりと書かれていると、これが真実としか思えないねぇ。流石に頭が痛いよ」
「えぇ。これが立証されれば、付与の歴史は大きく進むでしょうな」
既に僕の手で立証されてしまっているんだけど、いつ切り出そう。
「逆だよ。付与魔法だけが、他に遅れを取ってるんだ」
確かに、おばあちゃんの言うとおりだ。他の魔法は様々な理論が論文として発表されているが、付与魔法だけはほとんど存在しない。遅れを取っているのは、極めて正しい。
「さてヴィト。アンタ言ったね、続きがあると。論文よりも分かりやすいだろうから、説明をしておくれ」
きた。いつ切り出そうか悩んでいたが、おばあちゃんから振ってくれた。
「うん、分かった」
僕の論文を読んで、この定義が極めて真実に近いことは二人共分かっただろう。だから、
「だからここからは、その定義を立証する」
取り出しますは、とある魔道具。尤も単純な杖の形をしたそれは、一つだけ付与が施されている。その魔道具をディスおじさんに渡し、起動するように促した。
「これは…魔力障壁か?キレイに付与されているが、これの何処が立証だと言うのかね?」
ディスおじさんの周りには、透明な障壁が分厚く展開されており、大抵の魔法ではビクともしないほど頑丈なそれになっている。
「そんな……まさか、いや本当にこれで付与ができてるってのかい!?」
「メ、メリダ殿?どうしましたか」
おばあちゃんは気付いたみたいだね。
ディスおじさんから魔道具を返してもらい、机に置く。
―――さぁ、始めよう。
イメージするのは、付与されたモノを浮かび上がらせること。イメージし、杖に魔力を行き渡らせる。
すると、
「これは、付与を浮き上がらせているのかっ。だが、これはいったい……」
非常識な光景を見せてしまったが、それ以上に付与されたモノが、
「これが、僕の定義を立証する付与。文字が、人にとって最も存在を想像しやすく、確定が簡単であることは、
そこには、棒人間が両手を突き出し、その周囲がドーム状に覆われている、簡素な絵。
「『魔力障壁』という概念を想像しながら施した絵による付与は、今ディスおじさんがやったように、正常に作動した」
そして、この付与において最も重要なことは
「そしてこの付与は、制限文字数のうち、
道具によって、付与できる文字数が決められている。それは、魔力との親和性によって変化するらしく、魔物の素材の方が通常の動物より文字数が増える。これまでの付与魔法では、文字数が少ないと一個しか付与できないなんてザラだ。
だが、この付与には、そんなことは関係ない。
「制限文字数を、イコール最大付与可能数に変換してしまう定義。難しいけど、流石に危険すぎるからね。ディスおじさんに判断をしてもらいたかったんだ」
__________
「メリダ殿に、あの付与は可能ですかな?」
「イメージは難しいが、不可能じゃないさね」
「メリダ殿でも難しいのですか」
「アタシでもっていうけどね。ヴィトの言うように文字ってのは対象をイメージしやすい。でも絵や図形が持つ意味ってのは、本人の解釈によっていくらでも変化しちまうもんさ。つまり、僅かでもイメージが弱ければ、想像した概念が確定できず、物体への定着も不安定になっちまうんさね」
驚きのあまり、しばらく思考停止していた二人は、一晩待ってほしいと言って、ヴィトに寝るよう言った。流石に夜も遅いのだ。
「途中からじゃが、随分と奇天烈なことをやってのけたのぉ、ヴィトは」
「おや、見てたのかい?」
「マーリン殿、場所を借りてますぞ」
「かまわんぞい」
入ってきたのは、六十は超えているだろう年の男性。マーリン=ウォルフォード。ヴィトがマーリン爺ちゃんと慕う存在で、シン=ウォルフォードの祖父をしている。
「シンだって大概さね。どこの世界に八歳でイノシシを狩る子供がいるってんだい」
「この家におるじゃろ?」
「ひっぱたくよ」
「叩いてから言わないでほしいんじゃがな…」
「はっはっはっ!お二人は相変わらずですなぁ」
コントのようなやり取りをする二人を見て、ディセウムが笑う。昔からこの二人は変わっていないと思うと、ディセウムもまた、メリダに叩かれた。
「で、あの付与の定義をどうするさね」
「ヴィトの付与で、完全に彼の定義は立証されたようじゃしのぉ」
「
そう、厳格な王としての表情で述べるディセウムの言葉に、メリダはあくまでヴィトのことを想う。
「まだヴィトは子どもだよ。成人までまだ七年ある。発表は成人してからでも良いだろう?」
「それでも良いとは思っておりますがな……」
「歯切れが悪いのぉ。研究発表は通常、高等学院を卒業してからじゃろう?成人直後ですら早いのに、何を迷っておる」
メリダとマーリンは、ヴィトが成人してからという考えを持っていた。
これには、幼いうちから大人の世界に混ざる必要はないという考えがあるし、彼らなりにヴィトを慮ってのことである。
だが、ディセウムもまたヴィトのことは可愛い甥っ子のように思っているのだ。だからこそ、
「ヴィトくんが、
彼の意思を尊重したいとも思ってしまう。その考えに、今度こそ二人は閉口した。
そのまま夜は更け、結局話し合いの末、ヴィトがどうしたいかによって決めることになった。
__________
「で、僕がどうしたいかによって決めることにしたってこと?」
「そうだよ。場合によれば、ヴィトに博士号を付けることも検討するって、ディセウムが言っていたさね」
子どもの僕にそれができるってことは、ディスおじさんってやっぱり
「ディスおじさんって、やっぱりかなり偉い人だよね?」
「おや、言ってなかったかな?」
「うん。でも、おじさんがどんなに偉い人でも、この態度は変えられないかな…。慣れちゃったし」
多分、国王様とかその辺りだと思う。けど、親戚の気の良いおじさんとしか思えない相手だから、公の場では切り替えるかもしれないけど、普段の態度は変えられそうにない。そう言うと、おじさんは大仰に笑った。まだ朝早いから、シン寝てるよ?起きちゃうよ?
「これからもその態度を通してくれると嬉しいよ、ヴィトくん!改めて、ディセウム=フォン=アールスハイド。『アールスハイド王国』の国王をしている」
「やっぱり王様だったんだ。じゃあ、いつも一緒に来てるジーク兄さんとクリス姉さんは護衛?」
「その通りだ。詳しくは、また話す機会がある時にしようか」
今は、僕の論文をどうするかって方が重要なんだ…。自分で書いたものの分、その重要性はよく分かる。付与魔法によって作られた魔道具が、地球で言うところの家電製品から日用品と生活の中に根付いている現状、その発展は喜ばしいことだ。新しい見解ができた今、それを放置するのは、一国の王としては愚策なのだろう。
僕自身、研究発表会には興味があった。自分で魔道具を作ったり、様々なことを研究したりするのは、僕の今一番やりたいことだから。
でも、
「良いよ。研究発表会に出たい」
「分かった。ならば早速」
「でも、一つだけ」
「何かな?」
一つだけ、嫌なことがある。それは、
「ボーウェンの名前は、名乗りたくないんだ」
それは、甘えだから。おばあちゃんの孫だという脚光を浴びて、注目されて、『さすが導師様の孫だ』と褒め称えられて。
「ボーウェンの名で注目を集めるのは、僕自身の力じゃない」
僕は、例え子どもの戯言と叩かれようが一向に構わない。
僕が何より嫌なのは
「僕だけの力で書き上げた論文を、
だから、僕はボーウェンを名乗らない。確かに環境に助けられた。シンという、僕自身という特異点がいた。僕たちの家は魔道具研究にうってつけの材料だってある。だけど、
「研究したのは……立証したのは、僕だから」
これだけは譲らない。
その、僕の意思を聞いた三人は、納得したように何度も頷いた。
「確かにそうだね。疑問を抱いたのも、研究したのも、立証までしたのも全部、
「流石はヴィトじゃのぉ。導師メリダの孫と言えば、絶対に注目を浴びると言うに、要らんとは」
「そういうことなら、一般選考から受ける必要があるぞ、ヴィトくん」
一般選考というと、そのままの意味かな?本職の研究者以外の、一般人からの応募で受けて、そこで通らなければ研究発表会には出られない感じだろうか。
――――――面白い。
「もしディスおじさんが『私が推薦人になろう』とか言ったら、研究を破り捨てようと思った。
良いよ。一般から受ける。それまでに正式に論文を完成させて、研究会で度肝を抜いてやるっ」
「ははっ!悩んだが、言わなくて良かったよ。では、一般選考は来年度だ。選考に通ったら、直接知らせに行こう。楽しみにしているよ」
あと半年。その間に、歴史を進める材料を集めよう。
研究会については、独自設定ですので、近いうちにまた出てきます。気長にお待ちください。
今回は、前回の補足と今後に繋げるための話みたいな。ネタが思いつかなかったんや。