フランドール・スカーレット(仮)に憑依したけどアイドルになったから歌うことにする 作:金木桂
「こんばんわ〜」
「「こ、こんばんわ……」」
話しかけられると思わなかったので、思わず動揺して幸子とハモってしまう。
女の人はゆっくりと湯船をかき分けながらこちらへと来る。
良く見ればすごい美人さんだった。くすんだ緑色の髪はしっとりと水分を含んで垂れ下がっていて、肌は高級な陶磁器みたいに白くて滑らかで。目の下にあるホクロはお湯によって上気した肌と相まって凄い色っぽい。アダルティな魅力っていうのはきっとこういうのを言うんだろう。
観察していると女の人は口を開く。
「貴方たち……新しく出来たアイドル部門の子?」
「は、はい。そうですけど……」
「じゃあもしかして、プロデューサーは下野さんだったりするかしら?」
「ええ。私も……幸子も担当は下野Pだよね?」
「勿論ですよ!カワイイボクをどこまで輝かせられるのかプロデューサーさんのこの先は楽しみですね!」
「うん?うん」
思ったけどプロデューサーというのは基本何人のアイドルを担当するんだろう。
お姉様の場合は完全にプロデューサー1人だけど、どうにも会社の方針によってイマイチ違うらしいし。武内は少なくとも4人は担当してるしなぁ……まあ今度聞いてみようかな。
「それで、貴方は誰なの?」
「ふふふ、自己紹介がまだでした。高垣楓です、今はモデルをしてます」
「モデルさんですか〜。ボクは輿水幸子です。世界一カワイイ女子小学生兼世界一カワイイアイドルをやっています!」
「でも駆け出しじゃん」
「これからトップアイドルになるから良いんですよー!」
口ではトップアイドルと言ってても実際になれるのは何年後か……でも幸子はバイタリティーあるし案外二年くらいしたら分からないかも。
「そっちの貴方は……?」
「私はただのフラン。フランドール・スカーレットよ」
「幸子ちゃんとフランちゃんね、宜しくお願いします」
そう言ってふっと笑った。おっとりとしながらも何処か掴みどころのない雰囲気を持った人だなあ。
「ところでプロデューサーさんの事を気にされていたようですけど、お知り合いですか?」
「ふふっ。下野プロデューサーはアイドル部門に移籍する前は私のプロデューサーだったの」
「じゃあプロデューサーさんって前までモデル部門にいたんだ!」
「正直意外です……。プロデューサーさんのことは嫌いでも苦手でもないんですけど、ただちょっぴりプロデューサーって…………」
楓と幸子と私、何となく同じ事を考えている気がする。
「せーのっ、で言わない?」
「なるほど、ボクは良いですよ」
「私も整いました」
「おーけー。じゃあ行くよ。せーのっ!」
「「「胡散臭い!」」」
満場一致だった。うん、無二無三で下野Pが悪い。
イェーイ!とお風呂場でハイタッチを交わすと、口々に「プロデューサーさんの笑顔っていつも飄々としてるんですよね」とか「雰囲気自体がもう信用性ないもん」とか勝手なことを言い始めてみる。ちなみに2つ目が私の発言である、実際そうだし。
楓もそれに乗って口を開く。
「それに下野プロデューサー、当日に突然「異動することになったので楓さんは明日から別の担当プロデューサーに付いてもらいます。大丈夫です、ちゃんと仕事に関しては俺が引き継いでおきましたから」とか言い出すんですよ?酷いですよ……今まで一緒にやってきたじゃないですか……」
「そ、それは……」
……弁護のしようがない。幸子でも下野Pをフォローする言葉が上手く出ないみたいだ。
にしても胡散臭い上に人の心が欠片も分からないのかな下野Pは。もうちょっとこう、それならそれで相応しい態度があるでしょ。
楓は心を決めましたとばかりにキレイな形の胸を張った。
「だから私……近い内にモデルやめようと思います」
───何か初対面で突然凄い発言をブッこまれた気がするんだけど。ちょっと対応に困る……。
「えーーーっと、その後どうするの?」
「アイドルになろうかなぁと」
「でもそんな簡単にはなれないじゃないんですか?オーディションはこの前終わったばかりですよ」
幸子は少し不思議そうに首を傾げた。
そう言えば幸子は346プロのアイドルオーディションを受けてここにいるんだったっけ。なら初めにそう思うのも無理はないのかも。
楓は青い鳥が飛んでいるのを偶然見かけたみたいに若干目を見開いて。
「……アイドル部門にはこの話は行ってないんですね。実は今、346プロが別部門に所属しているタレントの中から希望者を募ってアイドルにする動きがあるので、私も乗っちゃおうかなって」
「なるほど」
346プロはまだ殆どアイドルを抱えていないのもあるけど、それ以上に。既に各分野で知名度のあるタレントをアイドルに転向させることで話題沸騰を狙ったものなのかもしれない。
加えて346プロに所属してるタレントなら歌、ビジュアル、ダンス、その少なくともどれか1つは元より断然平均から上のスペックを持ってるはずだし大成する可能性だって率直な話オーディションで素人を引っ張ってくるよりも大分高い気もする。全部素人の憶測だけど。
「じゃあ楓は私たちと同じアイドルになるんだね!」
「その時は後輩として……よろしくお願いしますね」
「ボクに任せて下さい!ボクの指導ならすぐに普通以上のカワイイを身に着けられますよ!」
「幸子はプロデューサーじゃないでしょ」
楓はふふっと楽しげに微笑む。
「取り敢えず、まずは下野プロデューサーに苦言を入れなきゃいけませんね……」
「じゃあ今から行く?」
「それは……心の準備がちょっと」
「楓さん!今行かないとずっと行かないままになっちゃいますよ?」
幸子は楓の手を握りながら、「行くなら今しかないですよ?チャンスは意外に無いものなんです。自分から行動しようと決心する機会なんてあまり多いもんじゃないですよ?まあカワイイボクは別ですけど」
「一言多いよ小林」
「幸子です!って間違えました!?これ余計に駄目な感じになっちゃってるんですけど!?」
最後の置き言葉はまあ良いとして、言ってることはその通りだった。本当に幸子かお前。こんの〜という感じで新雪が積もったような頬を引っ張ると「やめぇてくでゃしゃい〜」と舌足らずな子どもみたいに私の頬を握り返してきた。力は調整してくれているみたいで全く痛くないけど。
楓はお湯をパシャンと顔に掛けると、徐に立ち上がった。
「……心の整理がつきました。私一人では無理ですが……お二人と一緒なら立ち向かえそうです」
「その意気です楓さん!プロデューサーさんに一泡吹かせてあげましょう!」
アレ、何なのこの皆で直談判しに行ってやるぜ!みたいな雰囲気。フランちゃん何も分からない。
「ホラホラ、行きますよ楓さん!フランちゃんもゆっく湯船に浸かってないで動きますよ」
「へいへい〜」
「何ですかその返事……もっとアイドルらしくシャンとしてくださいよ」
「私、怠惰姫って肩書きでステージ立とうと思うの」
「止めといたほうが懸命だとボクは思いますけど……」
「まあ、だよね」
怠惰姫ってちょっと言葉自体もアングラっぽいしね。大企業のアイドルにつける属性としては色物過ぎるか。まあロリババア吸血鬼っていうのと比較したらどんぐりの背比べみたいなもんだけどさ。
「ともかくプロデューサーさんのところに行きますよ!」
何故か一番盛り上がっている幸子に連れられ、ゴシックドレスに着替えて人気の少ないオフィスを駆け足で移動する。因みに346プロはクリーンなので事務員などは殆ど残業がないらしい。アイドルもそうであって欲しいなあ、とか星に願ってみる。その辺は完全にプロデューサーの努力次第なので下野Pには是非是非骨を折って頑張って欲しい。
ともかく、人が少ない廊下はとても走りやすければ目的地まで時間も大してかからなかった。
本部ビルにあるプロジェクトルームの一室、その扉の前でコソコソと私達は立ち止まる。幸子は冷たい扉にピトリと右耳を当てた。
「どう?下野Pいそう?」
「流石大手ですね……たった扉一枚しかないのに全く中の音が聞こえませんよ」
「流石の防音設備……」
思わず感心してしまう。こういうトコにお金をかけるのが大企業って感じだ。
「ほんの少し扉を開けてみては如何ですか?」
「そうだね、幸子開けて開けて」
「まあ良いですけど……」
幸子は何か含みのありそうな言い方をしながらも何も言わず、宝石を鑑定するみたいにゆっくりとドアノブを開くと、中から声が聴こえてきた。男の声で、二人。
片方は下野Pだ。何時もの胡散臭い雰囲気を引っ込め、珍しく肩を上下に動かしている。
……これは一体なんなのだろう?
クエッションマークを3人揃って浮かべていると、
「……どうしても駄目なんでしょうか?」
「くどいよ下野くん、世の中というのを舐めてもらっちゃ困る。まだ未熟な君に十全たる理解を求めるのは私としても厳しいと思ってるが、それでも決定事項というのは容易には覆らないのだよ」
「しかし契約上、所属はアイドル部となっているんですよ」
「分かってるだろう?賛同したのさ、上も」
普通の話し合い、という訳ではなさそうなのは分かる。ただ趣旨が見えない。
「……何だか割り込めない空気ですね」
困ったように呟きつつも、幸子は扉の向こうへと耳を更に傾ける。自分のいる部署のタダごとじゃない様子は理解出来ているようだ。
ただこの場には一人部外者がいる。楓だ。戸惑ったように一歩扉から後退っている。凡そ日を改めようかしら、なんて考えてるのだと思うけど脱モデルしてアイドルになると豪語してるんだから妙に気を使う必要なんてないのにと思ってしまう。寧ろこれから所属するんだし共有知としていても良いと思う。
「ほら、楓もちゃんと聞いときなって。もしかしたら大事なことかもしれないわよ」
「でもまだ私はモデルですし……」
「どうせアイドルになるんだから関係ないって!」
手を捕まえると楓は諦めたように扉の前で立ち竦んだ。ちょっぴり居心地悪そうとはいえ仕方の無いことである。だからまあ、うん、諦めて?そもそも私達、楓の用事でここまで着いてきてるんだから。
隙間から覗いていると、下野Pは更に追い詰められたように指をカタカタと震わせながら。
「でも今西部長の許可はどうなんですか!?いや、それ以前の話ですよこれは!人事部を通してるんでしょうね!?」
「全く……若いって良いねぇ。羨ましいくらいにエネルギッシュだね下野くんは。どうだい?その敏腕っぷりをウチで振るうってのは?」
「話を逸らさないでください吉井部長!」
……人事部?
思わず幸子と顔を見合わせる。どうにも私達にも無関係って話では無さそうだ、それどころか最悪……。
嫌な予感を振り払うかのように頭を振ってる間にも吉井部長と呼ばれた壮年の男は話を続ける。
「良いじゃないか、キミたちは確かにアイドルを一人失うだろうが別にプロジェクトとして定員が決まってる訳じゃないだろう?それどころか根幹であるプロジェクトだって未定っていう話じゃあないか。アイドル業界の盛り上がりに乗じて取り敢えず後追いでアイドル部を創設してみたはいいが指針が無いのだろう?アイドルは既に複数人スカウトしているとも噂に聞いている、なら問題ないじゃないんかな下野くん」
「……それは、違います」
「はて?何か他にあったかな」
「……フランさんをアイドルにすると俺は約束したんですよ」
……ふえっ!?私!?
幸子から驚いたような視線を向けられ、小声で「まさかもう何かやっちゃったんですか……!?」と聞かれたけど驚き桃の木山椒の木で固まった私の唇は開かず首をブンブンと振るのみである。
「そう、フラン。フランドール・スカーレットだよ下野くん。アレは天与の資を持つ天使だよ、それ以外に形容し難い。出来るはずもない。容姿もいい、将来性もある。何より歌唱力がズバ抜けて素晴らしいんだ、ああ、いや。そんなのは言わずもがなだろうけどね。あの場にいたキミも重々承知だろう?」
「……ええ」
下野Pはギリッと歯を噛み締めた……ように見えた。
「別に新人アイドルの初レッスンに興味があった訳じゃないんだよ、だから本当に偶々だった。偶然なんだよ。気まぐれに大浴場に入ろうとして、見つけてしまったんだ天の卵を」
「……それでビデオカメラで撮影していたんですよね、その光景を」
「ああ、そうだよ。私はこれでもスカウトマンとしてだって現役だからね、カメラを持ってたのは当然さ。と言っても最近はめっきりピンとくる子に合えなかったのが実情だけどもね」
「隠し撮りをしていたことについての弁明は?」
「隠し撮り?いやいや、それこそ詭弁ってもんだよ下野くん。あの子は歌手になるべき素質を持っている。勘違いしてほしくはないんだが、アイドルになる事を否定する訳じゃないんだ。大成するだろう、私はあの子の素質を買っている」
「ならアイドルにさせて下さい。それがフランちゃんの望みであり」
「いいやそうじゃない、違うんだ。違うんだよ下野くん」
まるで小さい子供を諭すように。
しかし傍から見れば馬鹿を内心嘲りながら言い聞かせるように、吉井部長は語る。
「アイドルでも成功するだろう。確実に並より上へは行けるだろう。だが歌手になったら確実にそれ以上の大成を見込める。346のバックアップさえあれば一躍トップクラスに上がれると私は考えている。───これは美城という企業の利益を慮った上での判断でもあるんだよ、分かるかね」
「それ、は……」
「分かっているだろう?理解しているのだろう?優秀なキミのことだ。その酷く辛い唐辛子のような激情さえ飲み込んでしまえばどちらがよりリスクリターンが優れていて結果が成せるものなのかを判断付かない訳がない。そうなんだよ、企業判断としてリターンが確実に見込める選択肢を取るのは極めて普通だと思うがね」
……話が大体読めてきた。
つまり、あの吉井部長は私を引き抜いたのだろう。決定事項だのなんだのっていうのもあるけど、何より下野Pの焦りようはタダ事じゃない。
「……思い出しました。あの方、確か歌手部門の部長さんです」
「なるほど、だから何だかプロデューサーさんに偉そうに言ってきてる訳ですね」
率直にムカっと来ましたよ、と幸子は言う。
同感である。人の神経を逆撫でるような言葉遣いには何度も嫌に気分にさせられた。下野Pだって同じだったはず、それでも抑えているのは一様に面子を気にしてだろう。特にアイドル部というのは出来たてで、未だ社内でも力は持っていない。そんな中他部署との関係悪化などしたくないはずだ。
そんな気持ちを露も知らないのか、知っていて煽っているのか。吉井部長は息をついた。
「……まあ、理解出来ないキミを私は理解出来ているつもりだ。だから切り口を論理的に転換しようじゃないか。そうだね───キミはフランドール・スカーレットをトップアイドルに出来るのかい?歌手としてなら才能のみで立てる雲海遍くステージに、キミはアイドルとして足りないファクターを見事補ってそこに立たせることができる自信と可能性があるのかい?」
「俺……は、フランちゃんをトップアイドルに……」
「ナンセンスだ、落第点だな下野くん。口だけなら誰でも言える。誰でも突ける。誰でも動かせる。故に机上の展望には興味が無いのだ、申し訳無いがこれは可能性の話じゃないんだよ。蓋然性の話さ。実績を何も無いアイドル部にいるような子じゃないんだ彼女は、分かるかね?」
「じゃあ実績があれば良いんだよね?」
堪え切れなかった。
私は膝を突いて盗み聞きしてたの止め、半開きだった扉を完全に開け放って部屋に入る。
「フランちゃん……!?」
「下野Pがこのままじゃ折れそうで心配だからね」
ホント、普段みたいにのらりくらりとしてるならともかく、こんな必死になるなんて。らしくない、らしく無さすぎるよ下野P。
「これは丁度良かった、フランだね?」
「貴方は初対面の人にも名前で話しかけるタイプの人間?」
「あはは、これは失礼。私は歌手部門の部長、吉井嘉一というものだ」
目の前で見るとにこやかな、しかし裏の意図を含んだ笑みに見える。こういう胡散臭い人間しかいないのか芸能界は。
「まあいいや。それよりさっき実績が伴えばって言ってたよね?」
「ああ、言ったとも。その通りだ、その上で何かあるのかい?」
「下野P、本格的にアイドル全員が出揃って顔合わせするのはいつになる予定なの?」
下野Pはこの状況をイマイチ理解できていないといった様相ながら「……まあ、ざっと地方からの子も考慮して三週間後だろうね」
「へー。なら大体それまでにある程度アイドルとして形に出来れば歌手部門の部長としても文句ないってことになるよね?」
そう。
詰まるところアイドルとして大成出来る見込みがあればこの部長は何にも口出しして来ないのだ。
吉井部長は企業としての最善手を考えている。同額投資したらとちらがより多いリターンを齎すかといった思考回路を第一に据える、言ってしまえば合理的な人間なのだろう。
吉井部長は悠然と態度の大きいヤンキーみたいに足を組む。
「文句と称されるのは心外だね。しかしまあ、間違ってない。現実的でもないがね」
「現実的じゃない、なんてそんなの分からないじゃない」
「うん。まあそうだね。つまり、挑戦かい?」
「挑戦?」
「だってそうじゃないか。聞いていたのだろう?キミは来月付けで歌手部門に所属することになる。それを撤回したいならば私を納得させるようなライブをすればまあ、場合によっては考えなくもない」
「うーん、煮え切らない言葉だけど。いいわ、受ける」
「胆力があるね、うん。益々来月が楽しみだよ」
じゃあ私は仕事があるから詳細は後々にね、と吉井部長は幸子や楓の横をすり抜けてニコニコと気持ち悪い笑みを浮かべて廊下へと消えてしまった。下野Pは面倒事を抱えてしまったみたいに溜息を一度吐く。
「結局こうなっちゃったかあ……」
「まるで予期していたかのような言い草ね?」
「まあね」
吉井部長が消えたのを確認して一段落したのか、下野Pは外した仮面を再び付け直したみたいに能面に戻る。何となく予感はあったけど、やはりあれすら策略の一つだったらしい。全くもって、そのまま仮面被り続けていれば良いのに。
「少し感情的になれば行けるかなぁっと思ったんだけど、徒労だったみたいだね、いやあ失敗失敗。……やっぱ無理。無理だねコレ。軽く流そうと思ったけどホント無理。落ち込んだ。一応俺の取れる最後の手段だったんだけどね。はあ……」
「あれですら素じゃないのね。やっぱり油断ならないわコイツ」
「フランちゃん?詐欺師みたいな扱いをされると流石に俺でも傷付くよ?」
実際似たようなもんじゃん。部長相手に腹芸してる時点で相当な道化師だよプロデューサーは。
「それよりこれってどういうことなんですか!?ちゃんと教えてくださいよプロデューサーさん!」
「あれ、幸子ちゃんまで居たの」
「プロデューサーさん、お久しぶりです」
「うん久しぶりだね楓さん、───楓さん!?」
一気にアイドル(未デビュー)とモデル(廃業予定)が加わって場がカオスになったんだけど。
楓さんは少し控えめに幸子の少し後ろに立つと、
「プロデューサーさん……。実は私、モデル辞めてアイドルになろうと思います……けど今はフランちゃんのことを第一に考えて下さいね」
「突然横から銃を突きつけられて玉入ってないよ?と言われた人間の気持ちになってる今」
「いや今はそういうの本当に良いですから」
ジョークなんて言う余裕すらある下野Pを幸子はジト目で心底呆れたように見つめている。それに気づいた下野Pはコホン、と誤魔化すように咳払いをすると口を開く。
「楓さんへの話は追々絶対に確実に執り行うとして、先ずはフランちゃんのことだね」
「そうですよ!フランちゃんが歌手部門に異動しなきゃならないってどういうことですか!?」
「いや〜まあ、ね?聞いたなら分かってると思うけど不可抗力なんだよね基本的に。歌手部門の部長の、アイツ吉井っていうんだけどどうにもフランちゃんの歌唱力に惹かれちゃったらしくてさ。色々と手を回して人事部まで説得しちゃったっぽいんだよ、ありゃマトモな手段じゃないと思うけどね。出来れば俺だけの問題で収めたかったんだけど……」
ナチュラルに部長のことを呼び捨てにしてるけど良いのかなこのプロデューサー。
下野Pは私の方にゆっくり向き直る。
「フランちゃん、どうにも三週間で吉井を納得させるくらいのライブをしなきゃならないことになりそうなんだけど、行けるかな?」
「……もしかしなくても下野P。最初から落としどころがこうなること予測してたよね?」
「ん?どうしてそう思うの?」
「だって明らかにレッスンが厳しいんだもの。確かに私も幸子も体力はそこまで無いけど、倒れるまでやるなんてハードだわ。まるで追い込みレッスンよアレ」
「う〜ん、本当にその通りなんだけど良く分かるね」
と言われても。
寧ろこっちとしてはよくも理由も言わず疲労困憊のまま踊らせてくれたなと言ったところで。
「え、ちょっと待ってください。じゃあボクは巻き込まれ損なのでは……」
「まあまあ幸子ちゃん、その分幸子ちゃんのアイドルとしてのカワイさも成長してるからさ」
「なるほど!ボクのカワイさが磨かれるのでしたら納得……って騙されませんよ!?」
「惜しい」
「惜しくないです!」
口を鋭くして抗議する幸子を軽く流しながら下野Pは一息ついて。
「それで、申し訳ないながら俺の力及ばずこうなっちゃった訳なんだ。ついては、これから三週間は今まで通り厳しいレッスンになるよ、付いていける?」
……まあ、愚問だよね。
「やるに決まってじゃん、その為にここにいるんだよ私?」
「そっか。なら問題無し!今日は解散!」
「プロデューサーさん……私は?」
「あ、楓さんは残ってて下さい。ついでにどういう事か説明して下さい。という事で小学生組は夜も更ける前に帰った帰った」
追いやられるように私と幸子は下野Pに押され、プロジェクトルームを閉め出される。お膳立ては一応しといたからあとは頑張って欲しいと思うフランちゃんなのである。
「ん〜。取り敢えず下野Pは楓にうんと言われてほしいよね、割と本気で」
「少しは煙に巻かれる私達の気持ちも理解してくれれば良いんですけど」
「それすら煙に巻きそうだからね、口巧いし」
「天職は詐欺師なんじゃないんですかねプロデューサーさんは」
遠い目で無駄に長い廊下の先を見つつ幸子は呟く。
それにしても人っ子一人も歩いてないんだよねこの廊下、アイドル部門の人間がまだそこまで多くないっていうのもあるかもしれない。
「まあいいや、帰ろうか」
「そうですね。……あの、本当にフランちゃんの家にお邪魔しちゃって良いんですか」
そう言えばそんな話してたね、色々あってすっかり忘れてた。
私はしーっ、と口に人差し指を当てながら。
「……今日、家に誰もいないから、ね?」
「紛らわしい言い回し禁止です!マスコミにスクープされたらどうするんですか!?」
「その時は下野Pにブン投げれば何とかしてくれるよ、多分」
「適当すぎません!?」
「事実無根だしへーきへーき、世の中無いことを証明するのは吸血鬼難しいのよ?」
「何なんですかその鬼難しいみたいな言い方……いや確かにそうなんですけど。いえ、それ以前にもっとフランちゃんはアイドルとしての自覚を持ったほうが良いと思うんです!」
え、何か私怒られてるのこれ?
それから家に帰るまでの道中、幸子にずっとアイドルとしての心得を教えられることになる。
残弾無いので未完になります……お疲れ様でした。
反響あって熱意が湧いたら続く……かもしれない。
一先ずはnot to be continuedってことで、またss書いて投稿する日までさようなら。
【4/26 追記】
何か日間に乗ってました…ありがとうございます!デレステのこないだのイベント頑張った甲斐があったよ飛鳥……(一万位圏外)。
反響が想像以上に凄いし、設定も残ってたしプロットも少し残ってたので続話書いてます。そんな訳で未完から短編に変えました。
文体思い出しながら書いてますのでお待ち下さい。もう一個書いてる短編との兼ね合いでGW終わるくらいまでには上げられればなと思います。
…アイマスのコンテンツ触ってからまだ半年も経ってないからアイマス関連の知識を融通してくれるアドバイザーが欲しい切実に。
良ければツイッターフォローしなくてもいいのでそういう時プロデューサー方の助言くださるとありがたいです…。