フランドール・スカーレット(仮)に憑依したけどアイドルになったから歌うことにする   作:金木桂

7 / 8
前半が下野P、後半がフランちゃんの話になります。
視点ややこしいかもしれないですけど許して。


アイドルとモデルと女子高生(?)

 346プロ本社ビル、夜の帳が降りきり月明かりに照らされたデスクの上。

 下野拓弥はまるで髪の毛が鉛になってしまったかのように項垂れていた。

 普段は爽やかな笑み(と思っているのは本人だけだが)を浮かべている眉間には皺が寄っている。

 

「……はぁ」

 

 文字を追っていた眼をほぐしながら、溜息をこぼす。

 デスクの上に広げられたノートパソコンの画面に映っているのはまとめサイトの記事だ。

 書かれている内容は346プロに関するもので、中身はいい加減な事実無根の炎上記事。それがつらつらと面白おかしく、悪意たっぷりと含まれている。

 今現在、下野の頭を悩ませている要因だった。

 

「……どうしようかな〜」

 

 ポツリ、現実逃避気味に出てきた言葉は誰もいないオフィスに響く。

 346プロには数々の部門がある。

 勿論アイドル部門も新参ながらその末端に名前が連なっており、なので例外無く火の粉は降り掛かっていた。

 

 ───大の老舗企業であるウチがセクハラ、パワハラ、枕営業。加えて使いもんにならなくなったら風俗に転身させる、なんてしてるわけ無いじゃんか!

 クソっ!と心の中で歌手部門部長(吉井)を殴りつつ、この炎上の影響を考えてみる。

 実際、炎上とはいえソースは不確実なものだ。ネットサイトにインフルエンサーのSNSに三流雑誌、どれも信用に足らない。賢いネットユーザーならこんなの何時ものガセ情報と片付けて真夏の羽虫を追い払うみたいに無視するだろうが、しかし要点はそこじゃない。

 

 問題は企業イメージが損なわれる事だ。

 芸能事務所というのは所属している人間をCMやイベントやテレビ番組など、各方面に売り込むのが主な業務である。

 それが、最近346プロさん世間ではあまり良い噂ないしね〜、とクライアントから断られ他プロダクションに仕事を奪われたら大なり小なり悪影響が及ぶ。

 まだ火種が生まれて2週間程度。

 とはいえ或る程度ツテがある他の部門ならまだしも、これから売り込み予定である新興のアイドル部門ではそれはまさしく死活問題になる可能性も否定できない。

 

 下野はスマホを手にすると、電話帳からある人物を選択してタップする。

 どちらにせよ、話さなくてはならない事があった。

 

「……もしもし。今から話がしたいのですが……ええ。場所はそこで」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 下野という男は何かしら重要な話をするときいつもの場所というのを決めている。

 それも1つではない。

 この点マメで、人によってそのいつもの場所というのを変えていた。

 下野が今向かっているのも数ある場所の一つである。

 

 346プロからタクシーで10分ほど移動すると、下野は雑多ビルが森のように立ち並んだ一角に入り、それからとあるビルの1階部分にある店のアンティーク調に彫り込まれた木製ドアをゆっくり押した。カランカランと鳴る鐘の音が静寂な空間に響くさまに昭和チックな雰囲気を下野は感じながらも中にいた男の元へと歩く。

 

「武内さん、態々お忙しい所ありがとうございます」

「いえ。問題ありません」

 

 武内は特に何も頼まずカウンター席で座っていたらしく、一杯くらい先に飲んでてくれよと思いながらも下野は笑みを浮かべながら肩を並べる。

 

「すみません、僕はギムレットで」

「畏まりました。……そちらのお客様は?」

「……私も同じものを、1つ」

「畏まりました」

 

 バーのマスターはそのまま背を向けて作り始める。

 下野は少し呆れたように横目で見ながら「武内さん、指摘するのも気が引けるんですがもう少し主体性を持ちましょうよ?また僕のオーダーと被せてきましたよね?」

「すみません……お酒には詳しくないもので」

「アイドルプロデューサーと言えど一応芸能界の人間なんですから少しは興味持ちましょうよ」

 

 先輩とは言え、思わず忠言してしまう。

 武内が仕事熱心で生真面目なのは知ってるが、どうにもそう言った娯楽方面には些か疎い。

 

(多分酒好きのアイドルの担当にならない限りは無理だろうな〜、例えば楓さんみたいな)

 

 もし担当になったら確実に隔週ペースで酒に付き合わされ、嫌でも酒に詳しくなるだろう。

 確信、もとい下野の経験談だった。

 いやしかし今日はこんなこと(プライベート)で呼び出した訳ではない。

 

「すみません。話が逸れてしまいました」

 

 酒も入ってないのに何をやってるんだ僕は。

 下野は不躾な発言をしたなぁと思ってコホンと一息つく。

 

「武内さんは今の346プロのネットでの評判、知ってますか?」

「……ええ。承知してます」

「マズいですよね、コレ」

「はい。良くないです」

 

 語調だけは軽いが割と深刻な下野の言葉に武内はいつもの仏頂面のまま頷いた。

 

「ですが根本的な解決策を出すのも難しいです。雑誌やまとめサイトなどは直接対応出来ても、個人のSNSやブログは厳しいです」

「分かってます。その上で武内さんにアイドルデビューへの影響を聞きたいんです」

「影響、ですか」

 

 武内は考えるように少し眉を顰めた。

 そんなの、聞くまでもなく知っているに決まっている。分かりきったことだ。

 だけど武内さんにしか分からないこともあるかもしれない、と下野は一縷の望みを抱きながら依然渋い顔で姿勢良く座る武内を見遣る。

 

「……恐らく、私も下野さんの考えている事と同じだと思われます。既に影響は小さいながらも出ていますし」

「影響……というと、武内さんの担当しているデビュー済みのアイドルグループですか」

「はい。この一週間で先の案件を何個かキャンセルされています、確かに憂慮すべき問題ではあります」

「もうそんなにですか……」

「ですが、すぐに収束するでしょう。新人のアイドル方がデビューするまでには騒ぎは収まると私は思います」

 

 楽観的だ、とは下野は思わなかった。

 そもそも新人アイドルがデビューするのに何ヶ月掛かるか。良く見積もって今から4ヶ月とか5ヶ月後とか、まだ少し先の話だろう。

 火種が大きくならなければ特段気にするほどでは無いのも事実だった。

 

「そうですか……今西部長はなんと?」

「私と同じ見解です。リスク統括部もこの件には動いているそうですので」

「大事に発展することにはならない、と」

「その通りです」

 

 下野はマスターから渡されたカクテルを受け取りながら、軽やかな笑みを浮かべる一方で絡まったイヤホンコードみたいにモヤモヤとした気分を拭えないことに一抹の不安を感じていた。

 タイミングが良すぎる。

 あと2週間ちょっとで漸く採用通知を送った新人アイドルが出揃うこの状況で、この炎上騒動。

 会社や部門を傾けるほどではないにしても、新人アイドルのデビューを妨げる可能性が低いにしても、指向性のある嫌がらせにしか思えない。意図的な工作であるような気さえしてしまう。

 

 しかし誰がそれを行ったかと言われれば下野は首を傾げざるを得なかった。

 面白半分ででっち上げて流布されているの可能性も大いにあるが、ただ雑誌では内通者がいるとかなんとかおおっぴらに書かれていた。流石に三流とはいえ嘘を吐くほど馬鹿ではないだろう。

 つまり。

 その密告した人間が犯人な訳だが……、と下野はグラスに口をつけると武内が徐に口を開く。

 

「フランさんはどうですか?」

「順調ですよ。プライベートでも地道な基礎トレーニングで体力を付けようとしてるらしくて、トレーナーがオーバーワークを懸念する程ですよ」

「そうですか。それなら良いんですが」

「ただ、一つ問題があります」

「問題、ですか……」

「今日武内さんを呼び出したのも実はフランの件なんです」

 

 注文した癖に全くグラスを持とうともしない武内にどうぞ、と勧めながら下野は考える。

 吉井が簡単に諦めるのが想像出来ないのだ。

 どうにもこの展開、自分だけではなく吉井も想像していたフシすらある。

 こんな業界だ、腹芸の一つや二つは必要不可欠なのは重々承知である。しかし、かと言って吉井が意味の無いコケ脅しであんなことを宣わるようにも思えないのも本当だ。何かしらの確信があっての云為と解釈した方が理解が容易い。

 元々腹の読めない胡散臭い男が相手な以上油断は出来ない、と下野はグイッとグラスを飲み干した。

 

「実は歌手部門の吉井部長がフランに目を付けているんですよ。フランの歌唱力、武内さんも知っていますよね」

「ええ。聞かせていただきました。素晴らしい才能だと思います」

「吉井部長も聞いたらしいんですよ。その上でフランを無理矢理歌手部門に転属させようとしているんです」

「それは……」

 

 武内の眉間が更に深くなった。

 

「2週間後、フランが吉井部長の前で小ライブを行うことになっています。それでアイドルとしての可能性を見せつけられたらその話をナシにするって感じなんですが……」

「しかし吉井部長の言葉を鵜呑みにすることは出来ない、と」

「お察しのとおりです」

 

 流石下野より芸能界が長いのもあって武内は直ぐに推察した。

 いや、それだけじゃないだろう。

 吉井部長の敏腕ぶりは社内でそこそこ有名であるのと同時に、そのぬらりひょんみたいな言動で他部門からは煙たがられてるのである。下野だって本音を言えば関わりたくない男だ。

 しかし、誰とでも礼儀を逸しずに接する武内さんですらそういうイメージなのかぁ、と下野はグラスをテーブルに置く。

 

「それで、武内さんにも力添えをお願いしたいのですが……」

「分かりました。私に出来る限りならお手伝いします」

「……ありがとうございます」

 

 直ぐに了承した武内に、下野は僅かながらの罪悪感を背に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は久しぶりにレッスンのオフ日だった。

 いつも通りにトレーナールームへ向かうと「オーバーワーク気味だから休めと昨日言ったろう?」とトレーナーに言われ、かといってそのまま帰る気にもなれなかったから取り敢えず346プロ本社にあるカフェに来たんだけど……。

 

「わあ!もしかして噂の新しいアイドルですか!」

「ええ。貴方は……ウェイターかしら?」

「はい!安部菜々といいます!17歳です!」

 

 なんか面倒くさそうなのに捕まった。なんて思ってしまう私は悪くないのだ。

 

「……って噂?何のことかしら?」

「ご自身ではご存知無いんですか?アイドル部に滅茶苦茶可愛くてエキゾチックな女の子が入ったって社内はもちきりなんですよ!」

「346プロで?」

「はい!」

 

 こんな芸能人の巣窟で私みたいなただの女子小学生が入ったくらいでそんな事になるのかなぁ……?

 微かな疑問を胸に秘めつつ、私は安部菜々と名乗った女の人を見上げる。

 女子高生というのは本当らしく、顔はまだ成長しきってない風に見える。の割にはメイド服から見えるプロポーションは豊からしく、出るところは出て引っ込むところはスレンダーに見える。

 それだけじゃない。

 肌はとても綺麗だし、爪の先も常に気にしてるのか汚れや溝一つない。髪も整っていて、表情はさっきからずっと太陽みたいに明るい。

 うん、ただのウェイターにはとてもじゃないけど見えないや。

 アイドルになったら間違いなく売れると思う、分からないけど。

 

「もしかして貴方、芸能人志望?」

「ええ!?なんで分かったんですか?」

「容姿とか凄い気にしてるでしょ?だから何となくそうかな〜って思ったの」

「凄いですね古畑任三郎(ふるはたにんざぶろう)みたいです!」

「ふるはた……?」

「……あっ!な、ナンデモナイデスヨー?」

 

 よく分からないけど、話の流れ的には探偵か何かだろうか?

 ま、いいや。

 

「私はただのフラン、フランドール・スカーレットよ。宜しくね」

「はい!宜しくお願いします!ってそうでした、仕事しないとですね。空いてる席にご自由にどうぞ!」

「分かったわ」

 

 忙しく接客に戻る菜々を尻目に空いてる席を探す。

 午後三時というのもあるのか中々に人が多いね、空席は見つからないな〜。

 とか思ってるとこちらへ向かって手招きしている見覚えのある女の人が見える。

 会うのは一週間ぶりくらいかもしれないね。

 

「フランちゃん、こっちこっち」

「あ、楓。今日はオフなの?」

「はい。家で過ごしていても良かったんですけどお麩(・・)を食べていても落ち着かなくて、オフ(・・)だけに。ふふっ」

「お麩?」

 

 ……もしかして、ダジャレ?

 何というか意外だなぁ。もっと大人っぽい趣味があるのかと思ったんだけど。

 よいしょ、と私の背丈からすれば少し高めの椅子に座るとメニュー表を取ってみる。

 

「フランちゃんはここに来るのは初めて?」

「うん、そうよ。どんなのがあるの?」

「オススメはサンドイッチかしら。……三度(・・)食べてもいっち(・・・)番美味しいのよ。……ふふふっ」

「すみませ〜ん、注文良いですか〜?」

 

 無視して菜々を呼ぶことにした。

 楓のギャグに対応出来るコミュニケーション能力は私には無いのである。そういうのは下野Pの仕事なのだ。

 私の声を聞いた菜々が小走りでこちらへとやって来た。

 

「は〜い!フランちゃん、お待たせしました〜!ご注文は何にしますか?」

「サンドイッチセットにするわ」

「畏まりました〜!あ、楓さんはコーヒーのお代わり要ります?」

「じゃあお願いしようかしら」

 

 分かりました〜!と笑顔を溌剌と元気に去って行った。

 それを見送っていると、「丁度良いから、一度聞きたいことがあったの」と楓は手を両膝に乗せた。

 

「フランちゃんって何でアイドルになったの?」

「なんでって?」

 

 突然の漠然とした質問に、思わずノータイムで聞き返してしまう。

 何でかと言えばスカウトされたからだけど……多分それは楓の質問の答えとは違う気がする。

 

「だってフランちゃん、達観してるように見えるから。元々はあんまりそういうのに興味無かったんじゃない?」

「達観、かあ……」

 

 思い当たる節は、ある。

 鉛筆と消しゴムのように、私という存在は生まれた時から理知と隣り合わせだった。すべてを悟っていた訳でも無いけれど、幼い時からそれなりに大人の事情も分かったし幼児向けアニメとかは一度も見たことは無い。その時間は全て自分がフランドール・スカーレットとなった意味について、またはその皮を被ってしまったフランではない自分探しに費やされたのだ。

 とにかく、生まれながら得た智慧から生じたこの一歩後ろに退いた姿勢を達観と表すのは間違っていないかもしれない。

 

 思えば自分がアイドルになった理由を深く考えたことは無い気がする。

 何故私は輝きたいと思ったのだろう?

 私である以前に"フランドール"である私にとって、アイドルとは何なのだろう?

 海面に顔を出そうとバシャバシャと藻掻くみたいに考えて、それでも結局は何年も前から懐に抱く私自身の命題に回帰する。

 

 

 ───そもそも、私とは誰なのだろう?

 

 

 普遍論争に頭を悩せていたのが顔に出たのか、楓は気を使ったように口を開いた。

 

「……難しいかしら?」

「いや……アイドルのステージを観て、私もステージで輝きたいと思った……からだと思う。ちょっと自信無くなったけど」

 

 実際のところどうなのだろうか。

 この意志は果たして本当に私のものなのだろうか、なんて言い出したらキリが無いのは十全に解っているはずだけど……。

 

「私はそれで良いと思うわ」

「……え?」

「アイドル像って人それぞれじゃない。私、どんな理由であれアイドルはアイドルだと思う。ファンがいて、プロデューサーがいればアイドルは成立すると思うの」

 

 まるで小さい子供に諭すように、静かに言葉は紡がれた。

 楓は曖昧模糊で、何一つ自分のことすら理解できていない私を肯定した。楓は優しいのだ。いや、楓だけじゃなく。私の周りにいる人はみんなお人好しなのだ。

 それでも底無しの沼からプクプクと浮き立つヘドロのように湧いた不安は、心の中で確かな存在感を持って膨らむ。

 自分のことすら満足に理解できてないただの少女が、多くの人を楽しませるなんて出来るんだろうか?

 

「フランちゃんはどうして───」

 

 憂愁な面持ちをした楓は、多分何か言おうとしたのだろう。だけど口を開いた瞬間に横から「はーい!」と別の声が入ってきた。

 

「お待たせしました!コーヒーのお代わりにサンドイッチセットです!……って何かありましたか?」

「───ううん、世間話をしていただけだわ。ね、楓」

 

 吹っ切れない、納得出来ない。

 そんな顔色を浮かべてた楓だったけど、次の瞬間には桜も揺らぐような笑みを浮かべた。

 

「……そうですね。コーヒー、ありがとうございます菜々さん」

「いえいえ!ってそれよりも楓さん!」

「何でしょうか?」

「菜々は17歳ですよ!年下なんですからさん付けなんかしないで下さいよ!」

 

 それもそうだ。

 楓は少なくとも20才は優に越えてるだろうから、菜々は断然年下になるはずだよね。

 

「……?」

「ど、どうして不思議そうに首を傾げてるんですか……?菜々は17歳デスヨー?」

「何でカタコト……アレ?」

「……な、何ですかフランちゃん?」

 

 ちょっと気になったので菜々を手招きしてみる。奈々は警戒心を顕にした猫みたいに恐る恐る、こちらへと足を踏み出した。

 ……まだ高校生なのにフローラルの香水なんて付けて、このご時世の学生はマセてるんだなぁ。

 私は顔を当たらないように菜々のメイド服に近づける。

 

「スンスン……女子高生なのにシャーペンの芯の香りがしない」

 

 シャーペンの芯、即ち黒鉛である。

 私の言葉に、何故か菜々はある日突然実妹がアイドル宣言をブチかました時みたいに酷く慌てふためいている。

 ………………これは、怪しい。

 

「犬並みの嗅覚!?え、いや、違うんです!菜々はシャーペン派ではなく鉛筆派……ってそれも黒鉛でした!?間違えました今のは!違うんです!寧ろ今時の菜々みたいなJKとなると友達もみんな万年筆派でして───」

「───菜々、もしかしてだけど今日学校サボったでしょ?」

「つまりシャーペンの芯なんてものは───へっ?」

「シャーペンの芯のニオイなんて冗談だわ、分かるわけないじゃないそんなの。でも、マヌケは見つかったみたいね?」

 

 一度言ってみたかったセリフである。えへん。

 何となく最初から怪しいとは感じてたのだ。

 午後三時からこんな大企業の社内カフェで働いてるなんて、普通の高校生ならまだ授業が終わってないだろうに、おかしな話である。

 したがって高校をサボってアルバイトしてるということは確定的に明らかなのだ。

 核心を付かれたからか、誤魔化すように菜々は両手をワタワタとさせる。

 

「そ、そうなんです〜!今日はその、アレです!だるる〜んって気分だったのでつい学校サボっちゃって〜」

「駄目よ菜々」

「えっ?」

「学校をサボるなんて両親に申し訳ないじゃない?それに授業は菜々がいなくても勝手に進んじゃうのよ?付いて行けるの?お友達にもきっと心配を掛けちゃうわ、それは良くない事だと思うの」

 

 我ながら内心でいつも学校面倒くさいなぁと思ってる人間の言葉じゃない。

 だけども私だって毎日欠かさず通ってるわけだからこれくらい言っても許されて良いんじゃないだろうか、と自己弁護してみる。

 

「うう……仕方ないとは言え、一回り以上小さい子に説教されてしまいました……」

「ブフッ……!」

「笑わないで下さいよぉ……!」

 

 楓が堪らないとばかりに何故か噴き出して、菜々は何かボソボソと小声で呟いたり器用に怒ったりしている。

 というか何でそんなに菜々は涙ぐんでるんだろう。

 そんなに罪悪感残るなら素直に学校に行けばいいのに。

 

「アレ、楓と菜々って仲良いんだね」

「ぐすん……はい。楓さんはここに良く来ますから」

「確かに……暇があれば来てるかしら」

「ほえ〜。常連さんなんだ楓」

 

 何というか、意外と言えば意外とかも。

 ミステリアスな雰囲気を纏ってるからこういう大衆的なところは来なそうなイメージあるし……でも最初に会ったのは大衆浴場だったね。思って見れば庶民派だ。

 

「比べて菜々はカフェでバイトしてるの凄い似合ってるね。天職?」

「違いますよ!!私の本職はアイドルですよ!?」

「え?高校生じゃなくて?」

「も、勿論高校生やりながらですけれど!」

 

 なんだ、ちょっとビックリしちゃった。

 でもアイドル?

 ……もしかしてアイドルを目指しているとか?

 

「言われてみれば……」

「な、なんですかフランちゃん……?」

「楓、菜々ってアイドル適正高そうじゃない?可愛いし、元気だし、それに女子高生だし」

「そうね……フフフッ……!」

「褒めてるのか馬鹿にしてるのかどっちかにしてもらえませんか!?」

「え?私は褒めてるわよ?」

「ごめんなさい……面白くって……フフフ……!」

「楓さん!?」

 

 楓は堪らないとばかりにクスクスと肩を上下に震わせた。

 何だろう、面白い会話なんてしてなかったつもりだけれど……意外に笑い上戸?

 菜々は「あっ」と声を上げると頭を下げた。

 

「すいません、お客様に呼ばれたのでこの続きは今度しましょう!」

「うぃ、頑張って」

「フフフ……フフフフ……!」

 

 特に楓さんは覚えてて下さいね!、と捨て台詞を言ってフリルを揺らしながら別の席へと行ってしまった。

 

「ふー……一年分くらい笑ったわ」

「何が面白かったの?」

 

 コーヒーを軽く傾けると「んー、ナイショよ」と微笑んだ。

 気になるなー。楓のツボ。

 まあもっと仲良くなったらその時に教えてもらおう。

 

 そんな決意を胸にサンドイッチを口に運んだ。

 

 




ウサミンの自爆芸をグレイズしていく自機キャラ系フランちゃん。
次も新しいキャラが出てきます(まだ書けてないけど)
忙しくなるので6月中旬までに上げられなかったらごめんなさい、その辺の文句は感想ではなくメッセージかTwitterでお願いします。



余談、原作との相違点。

 ウサミン星人である安部菜々さん(17)は地下アイドルをしながらコネと生活費を得るために346プロのカフェでバイトしてます。まだ346プロのアイドルでは無いです。
 アイマスに明るい方なら分かると思いますけど楓さんがクスクス笑っていたのはその事を知っていたから。
 リアルアンジャッシュ見せられたら誰でもこうなる、多分。

 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。