やはり俺が346プロに所属するのはまちがっている。 作:巣羽流
勢いで書いたのでどこまでやれるかはわかりません。
「はぁっはぁっ」
ネオンが光る大通りの脇道を、大粒の雨が降り注ぐなか事前に確認したルートを奔走している。
息が苦しい。いったいどれ程走ったんだろうか。すこし休みたい。しかし近くから聞こえるけたたましいサイレンの音がそれを許さなかった。
よし…あそこを曲がれば目的地だ…
「お兄ちゃん…」
やっとの思いで目的地に着くとそこには悲しい目でこちらを見据える少女が立っていた。
高校の制服に身を纏った美少女。背中くらいまで伸ばした髪を纏めポニーテールにしていた。
「なんでここが…」
「分かるよ…だって…私はあなたの妹だから」
「そうか…そうだな…お前には分かるか」
「そうそう。どれだけ一緒にいたと思ってるの?お兄ちゃんのことなら何でもお見通しなんだからね?」
ポイント高い!と笑うその姿にどこか懐かしく感じる。
「…ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ」
「自首して」
「…」
「お母さんとお父さんが居なくなって私たちの…ううん。私のためにやってくれたって分かってる…でも!」
気がつけば少女の目からは大量の涙が溢れてやまない。
「自首はしない」
「…」
少女は黙って下を向いてしまった。
「急いでる。じゃあな」
「待て!動くな!」
「っ!」
彼女の隣を抜けて行こうと歩き出すとこの路地の四方八方から拳銃をもったスーツの男たちが姿を表した。俺の秘密の隠し道からも警察の制服を着た男たちが出てきたな。
もうどう足掻いても逃げられそうに無い。
「お前の仕業か…」
少女は涙をただただ流しながら俺を見据える。
「まったく…さすが我が妹だ…ここまで追い詰められちゃあもうどこにも逃げられねえよ」
「お兄ちゃん…」
「お前は本当に強くなったんだな…俺は余計なお節介をしていたのかもしれない…」
「私も一緒に頑張るからさ!やり直そう?」
その目からやはり涙は止まらず藁にもすがる、そんな感情が見ているだけで感じ取れた。
本当にこいつはすごいやつだと改めて思わされる。
「いや…俺はもう後戻りは出来ないんだ」
そうして俺は懐からとあるものを取りだす。ひどく無骨で黒々としたそれを自らの頭へ当てた。
「何をしてる!?バカな真似はよせ!」
警察のやつらは慌てて俺との距離を詰めに来る。
少女は驚きに目を見開きただただ震えていた。
まったく何て顔してるだよ…。
そんな少女へ微笑みを向ける。
「元気で暮らせよ…愛してる」
「お兄ちゃん!やめて!」
少女の叫びと共に雨で湿気た空にひどく乾いた音が鳴り響き俺は全身の力を全て抜いて倒れた。
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アブラゼミがやかましく鳴く、蒸し暑い夏の午後を夏仕様の通気性抜群なスーツを纏いネクタイをきちっと締めていた。
俺、比企谷八幡の現状は都内の私大に通う大学二年生なのだがなぜスーツを着ているのか。それはこれから仕事に向かうからだ。
くそぉ…高校生の時の俺にこんな姿見せたら家に引きこもっちまうよ。
…すでに引きこもってたな。
それにしても暑い…。スーツっていっても高校の制服とさほど変わらんだろうに。高校生の頃に比べていささか暑さへの耐性がなくなった気がする。
「ふう…着いた」
都内のビルの中で一際目立つ建物がある。その見た目はまるでシンデレラの城のような、豪華であると共に気品を感じる。そんな建物の中へと足を踏み入れた。建物のなかも圧巻の豪華さである。シャンデリアもある豪華な内装に加え、うちのアイドルのポスターが大量に張ってあった。
「おはようございます。比企谷さん」
「おはようございます」
受付の美人なお姉さんに挨拶をし社員証を首から下げる。
皆さんお察しと思うが俺がしている仕事というのはアルバイトではない。この俺、比企谷八幡は美城プロダクションに所属している社員なのだ。社会に出た俺はどんなに美人相手だろうともう噛むことなどない。
へへ…俺も学生でありながら社畜になっちまったか…。
専業主夫になろうと思っていたのだがなぜかこうなってしまった…。ちなみに職質の際は必ず大学生だと言うことにしている。まだ大学生なのに社畜になりたくない俺の唯一の抵抗である。
余談だが職質は月に二回のペースでされる。
俺のなにがいけないのか…皆目検討つきません。
分からないってことは俺には何一つ非がないということだ。つまり社会が悪い。
本館から少し離れたところにあるオフィスビルのとあるフロアに向かうと、俺のデスク近くに髪をポニーテールにしてふわっとした雰囲気の少女が立っていた。
「あっ!比企谷さん。おはようございます」
「おはよう。はやいな高森さん」
「はい!今日は頑張った映画の試写会ですからね。ついつい早く来ちゃいました」
本当に仕事の事を楽しそうに話すな。非常に羨ましいですねほんと。
「相変わらずすごいやる気だな」
「そんな、すごくなんて無いです」
「ってこんな時間か。わるい、すぐ準備するから下の車で待っててくれ」
少しだけ談笑したつもりだったんだがもう10分も経ってる。
高森さんはスタンド使いか…マフィアのボス的ななにかだろう。
急いで台本をまとめ社用車がある地下へ向かうと高森さんはすでに車の後部座席に座っていた。
「わるい。お待たせ」
「いえいえ。こちらこそよろしくお願いします」
「はいよ」
俺は運転席に座ると急いで車を出す。
きゅるきゅるきゅるとタイヤがスピンした音が聞こえた気がする。
急発進をするのは実は好きだ。
立ち上がりが早いのは、ラリー用のクロスミッションを組んでいるからだ。あれなら美城のタイトなヘアピンに2速ギアがピッタリ合うだろうな。
やっぱりこう言うときは走り家の台詞が一番気持ちいいぜ…
「いつも急発進ですよね…それ以外は普通なのに」
「わるいな。癖になっちまって」
「もう…気を付けてくださいね?」
頬を膨らませぷりぷり怒っているようだが全然怖くない。むしろ可愛い。これがアイドルか…我がラブリーエンジェル小町にもひけをとらないぞ。
そんな美少女と談笑しながら俺は目的地に向かっていった。
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「やばいっ!走って高森さん!」
「は、はい!」
俺たちは盛大に映画の試写会に遅刻した。
渋滞におもっきし捕まった結果だ。
「「おまたせしました!」」
会場に到着したのは10分遅れ。
かなりアウトだろう。
「やっと来たか!司会に伝えに行け!」
俺たちの到着を確認し、スタッフさんがいそいそと動き回る。
本当に申し訳ない。ぼっちが他人に迷惑をかけるなんて…ぼっち失格だ俺は!
『皆さん!今、到着されました!拍手でお迎えください!今回の主演女優!清水清子役の高森藍子さんです!』
ステージの司会の女性がマイクで会場に伝えると高森さんはステージに出ていった。
出た瞬間の拍手はすさまじくフラッシュもおびただしいほど降り注いでいた。
「ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて申し訳なさそうに微笑む彼女を多くの観客があたたかく拍手で迎え入れる。
彼女は売れっ子アイドルと呼ばれる部類に居る。この前出したシングルはオリコンに名を連ねバラエティーなんかでも一週間に何度も目にする人の方が多いだろう。
そんな彼女が立つのはきらびやかなステージ。多くの観客の賛辞を受けその期待に答えるように手を振る。
誰しもそういったものに憧れる。例えばアイドルや俳優なんかもそうだ。なにかに打ち込んだこともないやつは大抵俳優としてあのステージに登ってみたいと妄想するものだ。
それだけあのステージは、あの場所は非日常の中にある。多くの人の羨望の先にあるのだ。
俺も以前はそうだった。
今はまったくそう思わないけどな。
あの場所に居るとどれだけしんどいか知ってる。
居続けるのにどれだけ努力し続けなきゃいけないか知ってる。
なぜかって?そりゃ…
『続いてはもう一人遅刻人、清水清子の兄である清水清志役!比企谷八幡さんです!』
俺はもうあの上に立つ側の人間だからな。
俺は比企谷八幡、19歳。
職業は大学生、そして俳優だ。