やはり俺が346プロに所属するのはまちがっている。 作:巣羽流
比企谷八幡。
職業俳優。
俺が俳優になったのは大学に入学してすぐだ。
帰宅途中の公園でたまたま撮影をしていた映画の監督が俺を発見。
そのままスカウトしたのがきっかけだった。
役柄がヒロインの兄で普段は平凡に暮らしているが、ふとしたときにどこか闇を抱えてる顔をする、裏のある人物というものだった。
どうやらこの目は監督のイメージ通りだったらしくお声がかかったと言うわけだ。
この話を聞いたとき俺はもちろん断った。
この俺が多くの人間の目に晒されるなんてありえない。
考えただけで鳥肌がたつ。
なんなら見られたストレスで病気になるまである。
しかしながらこの監督、業界では頑固者として有名であり俺に三顧の礼よろしく13回ほど付きまとってきた。
おっさんにストーカーされるとか堪ったものではない。
大学に来たときなど必死懇願するおっさんと逃げる俺と言う恐ろしい様を周りに見られ白い目をされたものだ。
いい加減うんざりしてきたころ、映画に出てほしいとスカウトされた事が小町にばれて猛プッシュをされてしまったそれが決め手となり、一回だけと言うことで出演を了承してしまった。
ここで折れたのが運のつき。
この映画なんと大ヒットした。どこか影のある兄を演じた俺は5分もないほどの出演時間だったのに、なぜか大反響。あの無名は誰だとマスコミは大々的に放送したのだ。
正直油断した…。
超絶有名な男優が主人公、今勢いのある若手アイドルがヒロインをしてたんだから仮にヒットしても俺に注目が集まるとは思わなかったわ。てか主演の二人より話題を集めちまうとかなんなの?もしかして俺人気者の才能あった?
こうなってしまったら俺が祭り上げられるまで速かった。
またしても小町の猛プッシュと、監督の手によりあれよあれよと言う間にこの美城プロダクションの俳優部門に入ることとなった。
「比企谷さん?聞いてますか?」
「ん?すみません。なんでしたっけ」
そうだった…今試写会の途中だった。
一作目の大ヒットによって即続編である映画の撮影が行われた。その主要メンバーには当然俺もいるわけで俺はここにいる。
こんなに大勢の前に立つ事が辛すぎてついつい現実から目を背けてしまっていた。
ほんと何この拷問。マスコミはフラッシュ焚きすぎなんだよ。こんなに光を浴びたら俺は溶けるぞマジで。
「もう…しっかりしてよねお兄ちゃん」
「わるかったって清子」
俺の事をお兄ちゃんと呼んで良いのは小町だけだ!…って思ってたんだがこんな美少女に何度もお兄ちゃんと呼ばれると…良い。うん良いな。
「それで何を喋れば良いんでしたっけ?」
『今回の比企谷さんの役である清志はどのような鍵を握ってるのでしょうか』
司会のお姉さんの台本通りの質問。
やっべ。まったく聞いてなかったわ。
俺は一作目が終わり美城プロダクションに所属してから即続編を撮った為、演技以外のスキルが著しく足りてない。対人関係は撮影の時に一癖も二癖もある俳優たちによって嫌でも鍛えられたが、まだまだこういった多くの人の前で話すのは馴れない。
落ち着け俺。
台本の通りに読めば大丈夫だ。大丈夫なはずだ…。
「今回の私の役は」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「つかれた…」
事務所のデスクに力なくもたれる。
あぁ…頬が冷たくて気持ちい。
地獄の様な試写会をなんとか終え、遅刻の謝罪を各所にし終わった俺はもう全身の力が抜けてヤバイ。
てかあの主演の男優のアドリブ多すぎなんですが。思わず噛んだじゃねえか。俺があたふたしてるの見てにやにやして性格が本当によろしい人だよほんと。
「お疲れ様です」
「そっちもおつかれさん」
同じ遅刻人の高森さんも俺と一緒に謝罪に回ったが流石現役高校生。事務所に帰ってきても少し疲れた程度みたいだ。
俺はもうダメだ…はやく家に帰りたい…。
「比企谷さん今日はもう終わりですか?」
「そうだな。後は帰るだけだ」
そう答えると高森さんはぱっと明るい笑顔になった。
あれ?これはもしや…
「よかったら一緒にお散歩いきませんか?」
やっぱりか。普通に散歩するだけなら良いんだが高森さんとすると軽く二時間は歩くことになる。
30分ほどの道を歩いてるはずなんだけどなぜか二時間もかかるんだよな。正直つかれたからすぐ帰りたい。
「…」
俺が返事に迷ってると高森さんはみるみる不安そうで申し訳なさそうな顔になっていく。
…はぁ。その顔はずるい。
「分かった。行こう」
「はい!」
不安な顔は一瞬で吹き飛びいつもの優しい微笑みが戻ってくる。一色よ…これが天然のアザとさだ。
「いつものところで良いか?」
「はい!」
高森さんと仕事後の散歩は回数を覚えきれないほどの頻度で行っている。なのである程度歩いてて気持ちいプロダクション周辺のコースは頭に入っていた。
俺達は眼鏡や帽子など最低限の変装をし夕日が照らす茜色の公園に向けて歩き始めた。
「比企谷さん、比企谷さん」
「ん?どうした?」
「映画、好評でしたね」
「そうだな」
映画の出来は完璧と言って遜色ないものだ。脚本は文句なし、俺を含めた俳優も全員が実力の全てを出した。実際今日の試写会で映画を観た人の中には涙を流す人も居たほどだ。
「またヒットすると良いな」
「はい!そうしたら続編もまた一緒に撮れるかも知れないですよね」
「いや、続編出ても俺死んでるから出番ないだろ」
「はっ…たしかにそうかもしれないですね」
にこにこしたりはっと驚いたり表情がころころ変わるな。
やはり美少女は何をしてても良いものだ。かわいい。
「続編をやることになったら頑張れよ」
「頑張りますけどやっぱり比企谷さんが居ないのは寂しいですね…」
「俺はやっと仕事から解放された事で逆に清々しいけどな」
「私は…やっぱり寂しいです」
「まぁ…なんだ。番宣とかでまだ共演する機会あるし、なんなら事務所でいつでも会おうと思えば会えるし大丈夫だろ」
「そうですね…そうですよね!」
しょぼん顔が一転ふわふわとした微笑みに変わる。
「じゃ俺もあと少し頑張るかな」
「頑張りましょう!」
高森さんはそういうと前に飛び出し両手でガッツポーズをする。
「あっ」
「っ!」
後ろ向きなっていて足元を見ていなかった高森さんが何かにつまずき転びそうなる。
女の子特有の柔らかさを伴う彼女の背中を抱き寄せるように支え、寸の所で転ぶのを防ぐことができた。
「大丈夫かっ?」
「あ、はい…ありがとうございます」
危ねぇ。後ろから怪我でもしたら大変だ。
「あの…もう離してもらっても大丈夫です」
「あっ!すまん」
体を支えるために背中を抱き寄せたままだった。
決して女の子の体の感触を長い間味わいたいとかそんな不純な気持ちはない。
…ホントダヨ?
てか高森さん顔真っ赤にして俯いてるし。
いつものほんわかした空気と少し違ってなんか年相応の可愛らしさを感じる。
「…怒ってます?」
「お、怒ってませんよ!ただすこしびっくりしただけで」
「セクハラで訴えない?」
「訴えません」
あっぶね!週刊誌にセクハラで取り上げられところだった。
最近の芸能界は未成年に対する交際とかで問題が多いから異性との距離感には気を付けなければ。
てか異性との距離感なんて分からねえよ。なんなら人間との距離感も分からないまである。
「良かった」
「お兄ちゃんに助けてもらえて嬉しかったよ?」
頬を赤らめながらイタズラっぽく微笑みを向けてくる。
八幡にクリティカルヒット。八幡は妹がほしくなった。
っぶねー。持ってかれかけたわ。
てか可愛すぎませんかね?こんな妹いたら千葉の兄妹としてあるべき姿になってしまうところだった。
俺の妹がやはり小町で良かった。
「いきなりは驚くだろ」
「助けてくれたお返しです」
「たく…さっさと行くぞ」
「まってよお兄ちゃん」
「お兄ちゃんはやめろって」
「お兄ちゃん♪」
「勘弁してくれよ」
結局お兄ちゃん呼びは二時間に及ぶ散歩終了まで継続されてた。