やはり俺が346プロに所属するのはまちがっている。   作:巣羽流

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4話

俺のオフィスより二つ上の階にある一室の扉の前に俺は立っていた。

 

時計を確認すると13時ぴったしだ。

 

ノックをするとどうぞ、と低い男性の返事が聞こえてくる。さて…行くか。

 

「失礼します」

 

「比企谷君、来たか」

 

「部長、どういった用件で?」

 

この黒髪の中に白髪が多数生えている初老の男性は俺の直属の上司だ。俺が美城プロダクションに所属する際に色々と根回しを行った張本人だと言える。

 

「そんな事聞かなくても分かってるんだろ?」

 

「まぁ…」

 

「ほら、次の仕事だ」

 

一冊の冊子を手渡してきた。

 

俺にはマネージャーが付いていない。デビュー当初から知名度があった俺は既に仕事を取りに行かなくてもオファーが来る状態だった。

 

人手不足なのもあり比較的手間のかからない俺には専属のマネージャーを付けず部長が仕事を斡旋し、大まかなスケジュールを立てて俺に回してくる事になっている。

 

俺にマネージャーを付けようとする話もあったが部長が俺が人付き合いが苦手なことも人手不足と合わさりこの体制になったらしい。

 

「次は…ドラマですか?」

 

「ああ。ドラマと映画じゃ勝手が違うからな。勉強してこい」

 

「すごく嫌なんですけど」

 

金を払ってわざわざ見に来る映画と違い、テレビドラマならば気軽に見ることが出来る。そうなると老若男女問わずいろんな人に見られるわけで…また知名度が上がるわけで…

 

とにかく嫌だ。

 

「君に拒否権はないよ」

 

「…ですよね」

 

「頑張って」

 

「はい。失礼しました」

 

ドラマ…ドラマか…嫌だな。

 

扉を閉めると深い深いため息が無意識に胸の奥から出てきた。

 

ーーーーーーーーーー

 

ドラマは正義感の強い愚直な女性警官がドラッグや万引きなどの少年犯罪に立ち向かうというものだ。

 

俺の役はヒロイン兼主人公である女性警官の部下。

部下警官はやる気や覇気がほぼ無く、主人公が居なければサボってばかり。しかしながら頭は切れるため主人公に核心を突いたアドバイスをする重要な役どころだ。

 

覇気の無い部下は主人公に引っ張り回され共に事件を解決するといのが基本的なスタンスらしい。

 

犯罪者の次は警察かよ。真逆じゃねえか。

 

それにしてもまた、知らない人だらけの中で仕事か…憂鬱だ。

 

カフェスペースで比企谷スペシャル(ブラック)を啜りながら企画書を眺めていたがやはり憂鬱な溜め息が止まらない。

 

この主演女優、うちのアイドルらしいが年上だ。

 

年上の美人と一緒に撮影とか勘弁してもらいたい。声が上ずってしまうこと間違いなし。

そして現場でからかわれて番宣のバラエティーでも話のネタにされる。また全国ネットで醜態を晒されるのか。

 

あぁ…やっぱりやめたい。

 

「あなた比企谷君?」

 

なんだと振り替えるとそこにはおさげがよく似合う童顔の美少女が仁王立ちで佇んでいた。

 

童顔低身長であるのに出るとこ出てて見事なトランジスタグラマーだ。

 

ニュートン先生の万乳引力になんとか抗わなくては。

未成年との淫行は…etc

 

「…はい、そうですが」

 

「やっぱり!」

 

両手を合わせてなにやらはしゃぎ出す美少女。え?誰この人。

 

「えっと…アイドルの方ですか?」

 

「あたしは片桐早苗!今度ドラマで共演する予定よ!」

 

「片桐早苗さん…ってええ!?」

 

「あはは!ずいぶん驚いてくれるわね!」

 

うっそこの人が主人公?

ちょっと待ってれ俺が想像してた年上の女性とはイメージが違いすぎる。

 

「…?じっと見つめてきてどうしたの?」

 

「…本当に28?」

 

「レディに年齢の話をするんじゃないわよ」

 

「うっす」

 

この眼力、我が恩師平塚先生のようだ。アラサーで間違いないだろう。アラサー独身女はみんな眼力が強くなるのかしら。

 

「…」

 

それにしても未だに信じられない。どう考えても高校生だ。この人が制服を着ていてもなんら違和感など無いだろう。

 

まぁ確かに体の一部分は子供とは言いがたい訳だが…。

 

「ちょっと、比企谷君。どこ見てるのかな~?」

 

「っ!すみません!」

 

「なになに?お姉さんの色気に早速やられたわけ?」

 

「…すみません」

 

「あはは!赤くなっちゃってかわいいの!」

 

「くっ…」 

 

なにこの公開処刑。なんかしれっと俺の隣に座るしやたらとこっちじろじろ見てくるし良い香りだし俺の精神力がごりごり削られるんだけど。

 

落ち着け俺。もう社会人だろ?こんなときこそ冷静に会話をするんだ。

 

「そ、それで今日はどのようなご用でゅえ?」

 

「あはははは!声上ずってるよ!」

 

…穴があったら入りたい。

 

てか何もう。そういうのはですね、気付いても言わないのがマナーだろうが。なんで俺に恥ずかしい思いを上書きさせるのこの人。

 

「…それで何の用ですか」

 

「いやね?同じ事務所に共演者が居るって聞いたから挨拶しようかなって」

 

「それはどうも」

 

笑いすぎで涙出てるじゃん。どんだけ受けたんだよくそ。もぉやだ八幡お家帰る。今日はもう帰るもん。

 

「もぉ、拗ねないでよ。笑いすぎたのは謝るからさ」

 

「…別に拗ねてないです」

 

「じゃあもう一回自己紹介のやり直しね?あたしは片桐早苗。ここのアイドル部門に所属しているアイドルよ。ちなみに前職は警察官。よろしく!」

 

本物の警察だった人がドラマで警察を演じるのか。この活発な性格もありたしかに完璧な配役だな。

 

「俺は比企谷八幡、19歳です。前職とかは無くて今は普通に大学に通いながらここで働いてます」

 

「えぇ!?19歳!?わっか!菜々ちゃん聞いた?19歳だって!羨ましいわね!」

 

「なんでここで菜々に振るんですか!菜々は17歳のJKなんですよ!?」

 

たまたま近くに居た安部さんへまさかの流れ弾。二人は中が良いのだろうか。きっと飲み仲間とかそんな感じかな。

 

なんか安部さん俺の事睨んでるんだけど。これは俺悪くないよな?

 

「菜々ちゃん、アイスコーヒーよろしく」

 

「かしこまりました」

 

ムスっとした顔で厨房に戻る安部さん、とても○○歳とは思えない可愛さだ。

 

片桐さんといいここのアイドルは年齢が本当に分からない。

 

「…」

 

なにやら早苗さんがこっちを見つめてくるんですが。そんな熱烈な視線を贈られたら勘違いして告白して振られちゃう。

 

「どうかしました?」

 

「いやね、比企谷君さ、今回の配役ぴったりだよね」

 

「そうですか?」

 

「うん。冊子で内容を確認したけどイメージ通りよ」

 

「それだったら片桐さんもかなりイメージ通りですよ」

 

「確かにね!まるであたし達の為のドラマよね!」

 

「片桐さんは役作りとか少し楽そうですよね」

 

「そうね!あたしなんてそのままのあたしでオッケーよ!」

 

「…俺は体鍛えなきゃならないんですが」 

 

「ずいぶんと嫌そうね」

 

「嫌に決まってるじゃないですか」

 

頭脳派とはいえ一応警察官。アクションシーンもそこそこあるという事なので体を作らなくてはならない。部長から渡されたスケジュールにも撮影開始までの間に筋トレの時間が多く存在していた。

 

このドラマで一番嫌な所だな…何故俳優なのに鍛えなきゃならんのよ。てか俺がマッチョになってどこに需要があるですかね。

 

「なら体作り、お姉さんが手伝ってあげるわ」

 

「え?」

 

「どれどれ…」

 

「ちょっ!」

 

近い近い髪サラサラ良い匂い近い!

 

なに俺の腕揉み揉みしてんですか?そう言うボディタッチをされるとこちらとしては意識せざる得ないんですよ?わかってます?

 

って腹と足触るのも止めて!

 

「なにするんでしゅか!」

 

「なるほどなるほど」

 

「なるほどって」

 

「流石若いだけあって下地はそこそこあるわね」

 

「何の話ですか!?」

 

「明日からがんばろうね!」

 

「ちょ、何勝手に「比企谷さん…?」

 

「た、高森さん!?」 

 

後ろを振り替えるとそこには見慣れぬ紙袋を持っている高森さんが頬を赤く染め立っていた。

 

これはもしや勘違いしていらっしゃるのでは?

 

「早苗さんと何してるんですか…?」

 

「いやこれは「あーあ!見られちゃったか~」

 

片桐さんは悪戯な笑みを浮かべ肩を組んできた。

 

だから近いんですよあなたは!当たってるって!

 

「実はあたし達はこーゆー関係だったの」

 

「え?え?そうだったんですか?」

 

「うふふ、まーねー」

 

「えっと…おめでとうございます?」

 

高森さんはまだ脳が追い付いていないようだ。目がぐるぐるしてて可愛い。

 

「はぁ…もう良いでしょう?」

 

「うーん…お姉さんはもう少しやりたかったかな」

 

「これ以上は俺の精神も削られるんでやめてください」

 

「はいはい」

 

「えっと…どういうことですか?」

 

「高森さんが思ってるような事はない」

 

「あたしが比企谷君のボディチェックをしてただけよ」

 

「ボディチェック?」

 

「実はね…」

 

ドラマ共演の事から説明を始める片桐さん。

 

その間俺は暇なのでとりあえず安部さんに高森さんの為のレモンティーを注文しておくか…。

 

「安部さん、レモンティーとコーヒーを一つ下さい。コーヒーは砂糖とガムシロ5つ入れで」

 

「かしこまりました!レモンティーとブラックコーヒーですね」

 

反論する間も無く安部さんは厨房へ戻っていった。

 

ちょっと待って。俺砂糖入れてって言ったよね?あれ以来まじで安部さんは俺に激甘コーヒーを淹れてくれない。

ほんと世の中は苦いよ。

 

「と言うわけで今度から一緒に体を鍛えるってわけ!その前に体を確認をしてたのよ!」

 

「そう言うことだったんですね」

 

ひとしきり説明も終わったようだ。

てか一緒に体を鍛えるのは確定なんですね。俺承諾もしてないんだけど。やっぱり世の中は苦い

 

「ドラマのお仕事、頑張ってください!」

 

「最近は藍子ちゃんも頑張ってるしあたしも負けてられないからね!」

 

…うん。こういうアイドル同士の会話って良いな。可愛い女の子が話しているのを見てるだけで癒される。俺の所属してる部署は色物俳優が集まる所だから華やかさは正直ない。

 

てかやっぱ俺も色物なんだよな…まぁ別に良いけどね。

 

「そういえば藍子ちゃん。その袋何?」

 

「あっ!そうでした!比企谷さん!」

 

「ん?」

 

「誕生日おめでとうございます!」

 

「え?」

 

誕生日?誰の?俺の?

 

スマホを確認すると日付が8月8日を指していた。

 

「…忘れてた」

 

「やっぱり、比企谷さんはそうだと思いました」

 

「それでその紙袋は比企谷君へのプレゼントってわけね」

 

「はい!どうぞ」

 

「あ、ありがとう」

 

誕生日を家族以外に祝われるのは…なんかこう、むず痒い。

高校の時から祝われる事はあったが中々なれないものだ。

 

「ね、ね!開けてみてよ」

 

「あー、高森さん、開けてみて良いか?」

 

「はい!どうぞ」

 

「これは…帽子?」

 

黒色キャップ帽で何か分からないロゴがワンポイントで付いている。派手すぎず地味すぎない絶妙なデザインだ。

 

「はい!比企谷さん変装の帽子被らないから持ってないのかなって思って」

 

「かっこいい帽子じゃない!被ってみなさいよ」

 

「…どうですか?」

 

「かっこいいです!」

 

「似合ってるわよ」

 

高森さんは嬉しそうに、片桐さんはにやにやとしながら感想を述べる。

何と言うか本当に、居たたまれないというかむず痒い。

 

にやにやしてる片桐さんと暖かい目で遠くから見てる安部さんがもうね、止めてくださいほんと。

 

「高森さん、ありがとな」

 

「はい。気に入ってもらえてよかったです」

 

高森さんの微笑み、眩しすぎる。

 

目の前の女の子可愛すぎ大問題です。

緊急集合!…ボッチなので集合かけても誰も集まらないか。

 

「良いな…青春て感じで」

 

「青春て…俺もう成人したんですよ?」

 

「二十歳なんてまだまだ青春真っ只中よ!」

 

「そんなもんですか…」

 

8年でそんなに変わるのか…この先の老いが少し恐ろしくなって来た…。今度安部さんにそこんところ詳しく聞いてみよう。

 

「誕生日、あたしも何か…っ!そうだ!比企谷君!」

 

「なんですか?」

 

「今夜予定ある?」

 

「家で休む予定です」

 

「なら今夜開けといてね!」

 

ちょっと…俺の予定無視されたんだけど。個人的に休むのを立派な予定だと思うんですよね。

 

「何するんですか…?」

 

「大人の誕生日と言えばこれに決まってるじゃない」

 

クイッと口の前で手を動かす。

 

あっ、これはもしやあれか。

 

「いいなー。私も行きたいです」

 

「あと5年後ねー」

 

「俺も行きたかったです」

 

「あんたは来るのよ」

 

ですよねー。

 

酒とかまともに飲んだことないぞ…。

 

「実は今夜あたしのドラマ主演決定祝いで飲み会の予定だったのよ!比企谷君も参加ね!」

 

「…分かりました」

 

「よし!じゃああたしはそろそろ仕事に戻るわね!仕事終わったら迎えにいくから!」

 

「了解です」

 

「じゃまたねー」

 

片桐さんはコーヒーのお金を置いていくとひらひらと手を振りながらエレベーターに向かっていった。

なんていうか…嵐の様な人だったな。

 

「俺もそろそろオフィスに戻るけど高森さんはどうする?」

 

「私も戻ります」

 

「そうか。じゃあ行こうぜ」

 

「はい」

 

会計を済ませ二人でエレベーターに乗り込み別々の階のボタンを押す。

 

「じゃあ比企谷さん、楽しんできてくださいね」

 

「はいよ。またな」

 

高森さんと別れ自分のデスクに向き合うとまだ確認していないバラエティー番組の台本が数冊ころがっていた。

 

取り合えず5時までに全部の仕事終わらせるか…。

 

今日は何時に帰れるんだろう。まさか日を跨がないよね?

若干の不安が残るなかパソコンに向き合って仕事を再開した。

 

 

 

 

 

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