やはり俺が346プロに所属するのはまちがっている。   作:巣羽流

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7話

まだまだ残暑が辛い九月中旬、昼休みに俺は我が大学のキャンパスを歩いていたのだが…

 

「比企谷君!比企谷君だ!」

 

「本物の比企谷八幡だ!サインください!」

 

これである。俺の周りには普段誰も寄らないのだが今日は違うらしい。

 

やはり八月が原因だろう。

 

八月中頃、俺の出演する映画が公開し、わずか三日で動員数100万人を突破した。客層は主に若い世代で兄妹の愛と切ないすれ違いに必ずあなたは涙する…らしい。

 

そんな大ヒットを受け俺の知名度はさらにはね上がった。それに伴い番宣を兼ねたバラエティー出演のオファーが殺到、スケジュール帳は予定でびっしりになった。

 

まじで勘弁してくれよ…。最近は筋トレもしてるんだけど俺。こんなに働いてたらそろそろまじでアイデンティティーが壊れる。

 

そんな事を常に考え不満が積もっり限界に達した結果、俺は盛大にやらかした。

 

番組前のアンケート。

 

これが俺の芸能生活を大きく変えてしまった。

 

いつもは猫を被って趣味は読書(嘘はついていない)とか書いていたのだがその日だけは俺の考えを正直に書いてしまったのだ。

 

将来の夢、専業主夫

座右の銘、押してだめならあきらめろ

 

最悪なことにこのアンケートはベテラン芸人七人としゃべくる番組で書いてしまったのだ。どうなったのかはご想像のとおり散々突っ込まれ根掘り葉掘り色々聞かれてしまった。

アンケートは勢いでやった。後悔しかしてない。

 

その番組がつい先日放送された。

イメージ通り過ぎる捻くれぼっち俳優として俺は世間に知れ渡ってしまった。

 

それでこの様である。

 

有名になった途端サイン攻めとかどこのスクールアイドルよ。もう家までランナウェイしたい。

 

なんとかサイン攻めから逃げ出し、大学でのベストプレイスへ避難した。ここで変装を戻して…よし。これならもう誰にも気づかれんだろ。これで安心して昼飯を食える。

 

大学でのベストプレイス。それは精密加工室がある研究棟の裏階段。裏階段はキャンパスの隅にあり朝に清掃員の人が利用するだけで他には誰も使わない。高校の頃と同じくそこから近くにあるテニスコートを眺めることが出来るのだが戸塚は別の大学へ進学したため天使の舞はもう見ることが出来ない。

 

戸塚…会いたいよ戸塚ぁ。あのエンジェルスマイルで俺の荒んだ心を癒してほしい。

 

「戸塚ぁ」

 

「なに気持ち悪い声出してるんですか」

 

「!?」

 

突然現れたベストプレイスに踏み入れる影…

ゆらりゆらりと近づいてくるその正体は!?

 

「こんにちは先輩!お久し振りです!」

 

一色さんでした。

 

「なんだお前か」

 

「なんですか?いきなりお前呼びとか私の旦那気取りですか私まだ結婚とか考えられないんでごめんなさい無理です」

 

またよく分からんがフラれたんですけど。高校時代からフラれすぎて世界一フラれた男の称号をもらえるまである。

 

「それでなにしに来たんだよ」

 

「今話題の男優さんにサインを貰いに来ました♪」

 

「おいお前までやめろ、やめてくださいお願いします」

 

「冗談ですよ」

 

気心許した身内にまでそんなことを言われたら俺の心に平穏は訪れない。俺は平穏がほしい…どこぞの爆破魔のように植物の心ような人生を…。

 

「で、本当に何の用だよ」

 

「先輩の様子を見に来たんですよ」

 

「は?俺の様子?」

 

「だって先輩夏休み仕事仕事で全然私たちに付き合ってくれなかったじゃないですか」

 

「まぁ…そうだな」

 

「私も先輩をりよ…お願いしたいこともあったんですよ?」

 

ちょっと一色さん?今利用とか言いかけたよね?

 

「そりゃ悪かったな」

 

「そうです。先輩が悪いんですからね」 

 

「ハイハイ分かったよ」

 

「むぅ…本当に悪かったと思ってますか?」

 

いちいちしぐさが本当にあざとい。なんなのそのやわらかそうなほっぺ。ぺこちゃんなの?ママの味なの?

 

「思ってる思ってる」

 

「なら今日の放課後は私に付き合ってください!」

 

「わり、仕事だわ」

 

「もぉ!早速それですか!」

 

ポカポカという効果音がでそうな拳で俺をたたく一色まじあざとい。

見た目は可愛らしいがたまに手首のスナップを効かせた神心会空手のような一撃がくるんだよな…。

 

「いてて、仕方ないだろ」

 

「まぁそうですけど…仕事ってどこでやるんですか?」

 

「今日は事務所だな」

 

収録が無いため台本の確認と筋トレが今日の予定だ。

 

「事務所…そうだ!先輩!」

 

良いことひらめいたって顔をするがこの顔をするときは大抵俺にとって録なことにならない。

このにやけ面まじデビル。エンジェルスマイル戸塚を見習え戸塚を。

 

「なんだよ…」

 

「先輩にお願いがあるんですけどぉ」

 

あざとく上目使いか…だがあまい俺には通用せんわ!

 

「断る」

 

「先輩にお願いがあるんですけどぉ」

 

「嫌だ」

 

「先輩にお願いがあるんですけどぉ」

 

ふぇぇぇ、ループに入っちゃったよぉ。

目が笑ってないし怖いよぉ。

 

「…なんだよ」

 

「私!先輩の事務所見学してみたいです!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ここが先輩の事務所ですか」

 

ほぇ…と、素で間抜けな声を出し関心する一色。

 

あの後一色にどうしてもとせがまれたので断られるを願い部長に連絡してみたところ、快く見学を許された。

普通に一般人向けの見学会とかもあるらしく機密書類が保管されている部屋以外は概ね入室可能だそうだ。

絶対にダメだと思ったのに…。

 

「テレビとかで知ってはいましたけど凄いですね」

 

「だろ。正直未だにここに入るのは違和感がある」

 

「確かに先輩にこの建物は似合わないですよね」

 

逆に俺に似合う建物ってなによ。またずれ荘みたいなぼろアパートか?

 

「うっせ。さっさと行くぞ」

 

建物の中に入って広がる内装にまた感嘆の声を漏らす一色を急かし俺のオフィスに着くと台本の確認をはじめる。

こいつに構ってたら日が暮れるからな。さっさと仕事をせねば。

 

「ここが先輩のオフィスですか」

 

「ああ」

 

「案外普通の事務所と変わらないんですね」

 

「そうだな」

 

「あっ!これ先輩が出てた映画のパンフレットですね!」

 

「それな」

 

「…先輩」

 

「あ?」

 

「さっきから空返事ばっかりじゃないですか」

 

「仕事中なんだから仕方ねえだろ」

 

「そうですけどぉ…私は退屈です」

 

「知らん」

 

「あっ!そうだ!この事務所ってカフェとかあったり凄いんですよね?」

 

「ああ。らしいな」

 

「へぇ…見てみたいなぁ」

 

「他の人に迷惑かけるなよー」

 

「案内してくださいよ~」

 

「や、仕事中だし」

 

それにこいつと二人で居るところを知り合いに見られたら気まずい。

 

「終わるまで待ちますから~」

 

「…」

 

「私だけじゃ不安ですしお願いしますよ先輩」

 

「分かったよ…案内してやるから仕事終わるまで大人しく待ってろ…」

 

見学させると決まったときにこうなることはある程度予想してた。流石に一色を一人で歩き回らせるわけにもいかないしな。

 

「ほんとですか!了解です!」

 

とりあえず一色に適当な小説を与え台本の読み込みを進める。片桐さんと共演するドラマの台本の確定版が先日送られて来た。内容を読む限り役作りをする必要は無さそうだ。基本的にいつもの俺で平気だろう。

まあそれを見越してのキャスティングだろうけど。

 

黙々と読み進めひとしきり読み終わると時計は午後四時を刺していた。

 

「待たせたな一色」

 

「終わりました?」

 

「ああ」

 

「やっとですか!じゃあ行きましょう!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「本当にここ凄いですね」

 

「だろ」

 

一通り見学会パンフレット通りの案内を終え、いつものカフェで休憩をしている。

案内をしている時の一色はまたもや感嘆の声を漏らし凄い凄いと興奮していたがこの広い事務所を一回りしたとなるとやはり疲れてしまったようだ。

 

「私ここに住めますよ」

 

「仮眠室もシャワーもあるしな」

 

「エステルームとか毎日いきます!」

 

随分事務所が気に入ったみたいだが俺はそう思わない。

住めるという事は仕事が忙しくて帰れないときに泊まり込み可な職場であると言える。

 

そんなことを考えると恐怖で震えるわ。特にプロデューサーの人たちはまじでヤバイくらい働いてると思う。うちの会社有給消化率どれくらいなのかしら。

 

「そろそろ注文するか」

 

「そうですね」

 

「すみませーん」

 

「はーい!比企谷くん…とそちらの方ははじめましてですね」

 

「はい。俺の一個下の後輩です」

 

「一色いろはです!先輩がいつもお世話になってます!」

 

「ウサミン星から歌って踊れる声優アイドルになるたにやって来ました!安部菜々!17歳です!」

 

「へぇ、高校生なんだ。私より年下なんだね」

 

「そうです!菜々はJKですからね!」

 

「よくここでバイトしてるの?」

 

「はい。空いてる時間はよくここでお手伝いしてます!」

 

「学校も行ってレッスンにバイトもするなんて…菜々ちゃんって偉いんだね」

 

「ソ、ソンナコトナイデスヨ」

 

「この勤勉さを先輩も少しは見習ったほうが良いですよ」

 

「ソウダナ」

 

「もー!なんで棒読みなんですかぁ?」

 

ぷんぷんと擬音が付きそうな怒りかたをする一色を安部さんは愕然とした目で見ている。一色のあざとさにドン引きでもしたのか?

 

「JDですらあんなに可愛い喋り方なんて…今時のJKはいったいどんなしゃべり方をするの…?」

 

おっと、とんでもない勘違いをしてますね。

一色のあざい喋り方が今時のデフォなわけない。こんなやつが大勢居たら世の男子学生は皆黒歴史持ちになってしまう。

 

「ひきがやくんのこうはいさん、とってもかわいいですねぇ」

 

「安部さん安部さん。JKはそんなアホっぽく喋らないですよ」

 

「えっそうなんですか?」

 

「一色はすこし特殊なんです」

 

「な、なるほど。でも可愛いのは事実だし…」

 

ぶつぶつと何やら悩み始めた安部さん。放っておくといけない方向に進みそうな気配がぷんぷんするぞ。

 

「あの~、お二人で何を話してるですか?」

 

「注文をしてたんだ」

 

「その通りです!」

 

「へー」

 

「俺はいつもので。一色はどうする?」

 

「えっとじゃあ…私も先輩のと同じで」

 

「一色さん、コーヒーは砂糖とクリープ一つで大丈夫ですか?」

 

「はい」

 

「俺は八個づつでお願いします」

 

「かしこまりました!比企谷スペシャルブラックとパンケーキセットですね!」

 

相変わらず俺の要望はガン無視なんですね。一色の前で年齢ネタでいじめてやろうか。

 

「この事務所はカフェの店員までアイドル…本当に凄いですね」 

 

「確かにそう考えると異常だよな」

 

どこの世界にウェイトレスして所属アイドルを雇う事務所があるのだろう。

 

「そういえば先輩ってアイドルの人とも仲が良いんですね」

 

「いや、そんなことないぞ」

 

「安部菜々ちゃんとも親しげだったし」

 

「それは俺がこのカフェに入り浸ってるからだ」

 

「本当ですか?」

 

「本当だよ。比企谷スペシャルという言葉出来るくらい来てる」

 

最近は菜々オカンのせいでブラックしか飲んでないけどな。さっき安部さんも言ってたが比企谷スペシャルはコーヒーが普通ならただのパンケーキとコーヒーのセットなんだよなぁ。

 

「比企谷君酷いですよー。菜々は友達だと思ってたのに!」

 

パンケーキを持ってきた安部さんはぷんぷんと先程の一色を真似た様子で戻ってくる。○○歳とは思えない可愛さだがやはりきついものはきつい。

 

「友達って…そんなに俺たち接点ないじゃないですか」

 

「何言ってるんですか!もう私たちは飲み友達ですよ!」

 

「飲み友達?」

 

キョトンとした顔の一色と顔面蒼白の安部さん。

またこの人は迂闊すぎるんだよな。このあわあわと慌ててる所が可愛いとそのうち自爆芸で売れそうな気がするが。

 

「あれだ。俺が来たときに休憩時間だと一緒にコーヒー飲んだりすんだよ」

 

「そうです!それです!」

 

「それって飲み友達って言うんですか?」

 

「あー!そういえば比企谷君は菜々よりも仲の良いアイドル要るじゃないですか!」

 

「ちょ!」

 

「やっぱり居るんですね!誰ですか!」

 

何この人俺を餌にして話題逸らそうとしてるの?俺フォローしようとしたのに酷くない?

 

「高森藍子ちゃんですよ」

 

「やっぱりそうですか。共演すると仲良くなるんですね」

 

「この前なんて比企谷君の事お兄ちゃんって呼んでましたからね」

 

「へぇ…」

 

一色がゴミを見るような目をこちらに向ける。おいこらそんな目で見るなよ癖になるだろうが。

 

「先輩なにキモいこと考えてるんですか」

 

何こいつ俺の思考読めるの?俺の身の回りには読心術を習得してるやつが多すぎるんだが。

 

「ちょっと安部さん」

 

「あっ!あっちで注文とらなきゃ!じゃあごゆっくりどうぞ!」

 

くそ!逃げやがった!一色をこうした張本人の癖に!これだから汚い大人は嫌なんだ!

 

「さて…色々聞かせて貰いたいですね」

 

「いやあれは高森さんが悪ふざけしただげだし」

 

「本当ですかー?」

 

「ああ」

 

「怪しいですね…これは根掘り葉掘り話を聞かせてもらわなくちゃ」

 

「えぇ…」

 

本当に疚しいことなんて無いのに信用してもらえない。俺ってそんな事するキャラじゃないんだけど。

 

「比企谷さん」

 

背後から俺の名を呼ぶ少女の声。それは俺がこの事務所で最も聞きなれたゆるふわ声。

 

飛んで火に入る夏の虫。そんな言葉が頭を過る。

 

「お疲れ様です」

 

振り替えるとそこには人気急上昇アイドルの高森藍子が微笑んでいた。

 

 

 

 

 

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