やはり俺が346プロに所属するのはまちがっている。 作:巣羽流
あれこれ忙しくしているうちに過ぎていくもの。それが人生なんだ。
どっかの偉人がそんなことを言ってたと思う。
最近はそれを改めて実感させられる。
「高森さんおつかれ」
「お疲れ様です!そちらの方は…女優の方ですか?」
「いや、俺の大学の後輩だよ」
「へぇ!私高森藍子っていいます!」
「一色いろはです。先輩がいつもお世話になってます」
「こちらこそ比企谷さんにはいつも助けられてます」
なにこの娘俺の保護者なの?
「私もご一緒して良いですか?」
「あー、一色いいか?」
「はい!是非是非!」
「だってよ」
「ありがとうございます!」
高森さんは席に座ると安部さんに注文を済ませる。
その間一色はと言うとにこにこしながらじっと高森さんを見つめている。
あの目は品定めをする目ですね。こいつ相変わらずだな。
「一色さんどうかしました?」
「高森さんが目の前に居るのが信じられなくて…あっ!私あの映画見ました!」
「そうなんですか」
「はい!とっても感動しちゃいました!」
「えへへ、ありがとうございます」
「先輩とも仲良くしてくださってるみたいでありがとうございます」
「仲良くだなんて…比企谷さんは頼りになりますからいつも助けてもらってるんです」
「そうですか…でも聞くところによるとお兄ちゃんと呼ばさせらてるみたいだと…」
ちょっと一色さん。なにいきなり聞いてくれちゃってんの?
「いえ!あれは私が悪ふざけでやってるんです!」
「そうなんですか」
そうなんです!だからその屑を見る目を今すぐやめてください!
「あっ…でも外で頭を撫でるのは恥ずかしくて慣れないですね…」
「へぇ…外で頭を」
「撮影の演技だからね」
仕方ないからね?仕事だからね?だから一色さん。
屑を見る目はやめてください。
「ふーん」
「…なんだよ?」
「べっつに?」
一色はなにやら少しご機嫌斜めになってしまった。
成人済み男性がJK触れたことを非難でもしてるのか。
あれは仕事だからね?やましいことないよ?…ないよ?
とりあえずこの会話の流れを変えねば。
「そう言えば一色、俺には映画の感想なんて言ってなかったよね?」
「映画の感想ですか?」
一色は下手くそな話題変換だと目で語ってる。今はそんなこと気にしてる場合じゃないので勿論受け流す。
一瞬間をおいた後いつもの猫なで声に戻る一色。流石だな。
「だって先輩忙しくて全然会えてなかったじゃないですか」
「それもそうか」
「先輩。言っておきますけど私先輩の出たテレビ全部見てますかね?」
「は?なんで?俺何出るとか教えてないよね?」
「なんでって冷たいですねぇ。私たちの仲じゃないですかぁ」
「どんな仲だよ」
身内に仕事をしてるところを見られるのはやはり恥ずかしいものがある。
「ちなみにあのお二人も全部チェックしてますよ」
「お前ら俺の事大好きかよ…」
「ちょっと何いってるか分からないです」
「真顔になんなよ…冗談だろうが」
「ふふふ」
「どうした?」
「お二人とも仲が良いんですね」
「仲が良いと言うか腐れ縁だよ」
「もーなんですかそれー?」
「はいはいあざといあざとい」
「もー!酷いです」
「そうですよ比企谷さん」
「「え?」」
「慕ってくれる後輩にそんな風な態度取っちゃダメですよ?」
「そ、そうだな」
「先輩先輩」
ちょいちょいと手をこまねくので顔を一色に寄せる。
「ん?なんだ?」
「高森さんってもしかして…」
「ああ、養殖のお前と違って天然だ。しかも純度高め」
「やっぱりですか…て養殖ってなんですか!」
「耳元で叫ぶな」
「そうやって先輩は昔から」
「はいはい、わるかった」
「まったく…」
高森さんは俺たちのやり取りを見たあと手を上げてたずねてきた。
「お二人は昔からの知り合いなんですか?」
「昔からって言うか…高校生の時ですね」
「へー!比企谷さんの高校生の頃のお話聞きたいです」
「良いですよ」
「おいまて、お前なに喋るつもりだ」
「例えば私の事利用して大勢の生徒の晒し者にしたこととかー、私の事唆して泣かせたとかですかね」
「比企谷さんそんなことしてたんですか」
おっと流石の高森さんも俺にじと目ですね。美少女のそういう視線、良いと思います!
「いや、言い方が悪いだけだから」
「大丈夫ですよ。変なことは喋りませんから」
俺にしか聞こえない小声で囁く一色。こいつがそう言うなら大丈夫だろう。ちゃっかりウィンクする辺りやはりあざとい。
「まず私たちが最初に出会ったのはーーー」
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「その時の先輩ったら酷いんだよ!」
「確かにそれはちょっと…」
「藍子ちゃんもそう思うよねー」
あれから約一時間、気が付けばほとんど俺に対する不平不満を言う愚痴大会(ほぼ一色の愚痴)になっていた。
愚痴を本人の目の前で言うなよ。繊細な心を持つ俺は挫けちゃうよ?
「先輩も反省してください」
「はいはい」
「はいは一回!」
「はーい」
「何なんですかそれは!」
こいつやっぱりおかんなの?ままはすなの?
「本当にお二人は仲が良いですね」
「そうでもないだろ。ただの腐れ縁」
「そうですね。腐れ縁ですね」
母性を感じさせる微笑みを浮かべる高森さん。そういう顔をされるとなんというかくすぐったい。
ふと思ったけど年下に母性を感じる俺ってやばい。そのうち小学生相手にもバブミを感じておぎゃるかも。
いやさすがにないか…ないよな?
「そろそろ私は戻りますね?」
「ああ。お疲れさん。がんばって」
「お話しできて楽しかったよ!またね藍子ちゃん!」
「はい。私も楽しかったです。また会いましょう」
にこりと微笑み高森さんは席を外した。
「藍子ちゃん良い娘でしたね」
「だろ。圧倒的純粋さだよな」
「ああいう娘に限ってそうじゃないかもですよー、なんて事流石に言えませんね。私もあれは天然だと思います」
「ああ。そういやお前猫被ってなかったけど」
「天然の娘に対しては素の方が楽なんですよ」
使い分けを覚えたか。一色も少しずつだがアップグレードさてくよな。
「そろそろ俺もトレーニングの時間だ。いくぞ」
「はーい」
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「あぁ…今日も体が痛え」
「お疲れさまです」
トレーニングを終え俺たちは現在帰路についている。
「先輩普段からあんなにトレーニングしてるんですね」
「いや、今日は特に厳しかっただけで普段はもう少しましだよ」
片桐さんは一色を見るなり俺に隅に置けないだの良いとこ見せなきゃだの言って普段よりも随分と張り切ったメニューに切り替えられていた。その間本人は一色と何やら談笑してるしほんと絶許。
「でも確かに先輩逞しくなりましたよね」
「あれだけ鍛えれば流石にな」
「ちょっと腕さわらせてくださいよー」
「嫌だ」
「ケチですね」
「お前は俺なんぞよりもっと筋肉あるやつの腕いつでも触れるだろうが」
「そうですけど…まったく先輩は分かってませんね」
「なにが分かってないんですかね」
「何でもないですー」
一色がなにを考えているのか、男の俺にはわからない。
女には分からない男のロマンがあるように男には分からない女のロマンがあるのだろうか。
「そう言えば先輩、言い忘れてたんですけど今度からなんの番組に出演したか教えてくださいね」
「は?なんでだよ」
「最近出演する番組が増えてるのでチェック漏れするかもじゃないですか。その予防です」
「見ないって選択肢は無いのかよ」
「無いですね」
「無いのかよ」
俺としてはいじられること多いし気恥ずかしいんだけど。
「あの二人、普段は平気にしてますけど最近先輩が遠くに行ってしまったって気にしてるんです」
「俺が遠くに?そんなこたないだろ」
「私からしたら学校で会いますからそんなこと感じませんけどね。あの二人はテレビを見ることでしか会えないとなると画面の向こう側の人って感覚に陥っちゃうんですよ」
なるほど。テレビで見てた俳優さんが共演すると身近に感じる事の逆って事か。俺からしたらそんなことなくても彼女たちにとってはそうではないのかもしれない。
「…分かったよ。どうせ隠してもあまり意味無いらしいしな。今度から伝えるよ」
「分かったなら良いんです」
そこまで言われて断るほど俺も人格が終わっちゃいない。
高校生までの俺なら絶対に知らせなかっただろうけど。
「じゃあ私はこっちなので」
「送らなくて良いのか?」
「ここまでで大丈夫ですよ!」
「そうか。じゃ、またな」
「はーい」
一色の姿が見えなくなるまで見送り俺も自宅への帰路へつく。さて…三日後からドラマの撮影も始まるし今のうちにゆっくり家で休むか。
帰りがけコンビニでビールとチータラを買って俺は自宅へ帰っていった。